部活と悪友
ある日、地球に向かってくる光り輝く隕石が発見され、地球に隕石が落ちる、とTwitterで話題となった。その日のトレンド1位は
「人生で最後にしたいこと」
そのニュースは大体的に取り上げてられたが、結局は隕石が地球に落ちて隕石が地球に落下して人類滅亡!なんてことにはならなかった。
しかし、一部の人類は新たな進化を遂げた。驚異的な再生細胞を持ち、不死身に近い身体に進化したのだ。
専門家の解析の結果、身体の傷は瞬時に治り、事故で即死した人間が生き返るなど、人間とはかけ離れた生命体になってしまった。
これはあの隕石から飛来した未知の物質とされている。
この現象を説明する1番有力な説としては、「超微小の宇宙人が人の身体に住み着いてるのではないか?」と言われている。
確か、YouTubeで「宇宙人がいるなら人間には目視できない超超小さい生命体」と言っていた気がするので、強ち間違いではないのかもしれないと俺は思う。
しかし、世間では不死身と言われていても、検査で陽性だっただけで実際に死んだことなんてない。俺なんて傷の治りは少し早まったかもしれない程度で前となんら変わりない。
遊び半分で「死んでみよう!」と思うなんてサイコパスだ。
問題は人類全員がこの体質になったわけでなく、10代前半の若者が多かったことだ。宇宙人からしたら、成長期の身体には再生細胞からしたら都合が良かったのかもしれない。
ここで日本政府はこの不死身現象を障害と認め、子どもたちのための学校を設立した。
この時は、いつもネットで叩かれてた総理大臣が称賛された。
「マジナイス」
「ちゃんと仕事してんじゃん」
「税金の正しい使い道」
そのおかげで俺たちはこうして保護され、新しい環境で教育を受けている。
間違った道に進まないために。
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「ほれ、チェック」
俺はキングにチェックを仕掛ける。
6月18日。太陽がオレンジ色に沈む放課後の部室。窓の外からは運動部のウォーミングアップの掛け声がする。
そんな運動部に励む生徒の姿を横目に俺と樹は部室でチェスをしていた。
長机が2つ程度しか置けない小さな部屋。隅にある様々な大きさの段ボールの中には、本や学校の資料、ボードゲームなどがある。
それがこの文芸部の部室だった。
「うーーん」
樹が顔を顰める。
もう勝負はついてはいるのだが、諦めるつもりはないようだ。
俺は腕を組み、
「もう勝負はついてるって。トーク番組で滑りまくる芸人くらい見苦しいぞ」
と勝ちを確信する。
ちなみに、俺たちは部活なんて元々する気はなかった。
しかし、この高校では部活が義務づけられている。そのため、1番楽そうなこの文芸部で暇つぶしのため部室の備品を拝借してチェスをしていた。
「うーーん、、、、、、詰んだーー!!!持ってけこの野郎!」
ついに負けを認めた樹は、両手を上に伸ばして背もたれにもたれる。
「はい、5000円いただき〜!」
机に置いてある5000円札を俺は悪顔で握りしめて、無造作にポケットに入れる。イケメンが悔しがる姿は何度見てもいいぜ、くははは。
「強すぎんだよ〜」
「お前が弱いんだよー、てか俺にゲームで勝てると思うな」
俺はゲームにおいて手を抜かない。チクショーーと樹は毎回悔しがる。
こいつは本郷樹。高身長でスラっとした身体に茶髪のイケメン。俺とは中学からの同級生で、悪友のような存在である。今もこうして金をかけて部室でチェスをしている。
最初はジュース一本と安価だったのだが、日に日に加速して今では5000円まで跳ね上がっている。
これが学校にバレるのは良くないことだが、学校から支給された金額が意外にも多く、俺たちは持て余していた。
文芸部はこの新設された学校では部活をしない生徒が入部するやる気ないやつらの集まりだ。
だが、時間を潰すにしても、部室にある普通のゲームはだいたい網羅してしまった。
だから、普通にゲームをしてはつまらないためこうして金をかけた賭けゲームをしている。
俺たちは娯楽に飢えていた。
「義務教育でチェス習ってただろ!チートだ!チーターだ!」
食ってかかる樹に俺は思わず微笑してしまう。
仕方ねぇなぁ。俺は立ち上がり、部室の備品の箱からトランプを取り出す。
「じゃあ、神経衰弱でもやるか?」
「お前の独壇場じゃねぇか!!」
樹は机を叩き激しくツッコむ。
俺が記憶力勝負で負けるハズがないのを知っているからだ。ボロ儲けしても良かったのにな〜。
その後、俺たちがだべっていると樹のスマホが光る。樹はメッセージを見ると、軽くガッツポーズをした。
「おっしゃーー!!なぁ!今週隣の女子校と合コンするんだけど、くるか〜?」
樹はやたらとテンションの高い。こういうのは好きなのだろう。
「いや、俺はそういうのいいや」
「つれねーなーー!瞬記はノリ良いのにこういうことはしねーよなー。彼女欲しいとか思わんの?」
「彼女…恋人…かーー」
俺は少し考える。
「彼女や彼氏が欲しいなんて、自分を認めてくれる存在が欲しいだけだ。それか性欲」
「ひねくれてんなぁw」
「俺は自分のことを認めてるし、恋愛なんてめんどくさいだけだよ」
「今回の女子はみんな可愛い子だぞ、俺の息子がそう言ってる」
「お前のチ○コはダウジングマシーンかよ」
「ふーんじゃあ強要はしねーけどよ〜…」
樹はスマホでメッセージの返信をした後、俺を見てニヤつきながら
「まぁお前には深嬢がいるもんなぁ〜」
その人物の名前を言われ、俺は一瞬固まる。
「……そんなんじゃねぇよ…あいつは」
俺は言葉を濁し、樹がそれ以上追求することはなかった。
**********
樹とだべっていると辺りが暗くなり始める。
「ふぁぁ〜〜」
昨日、スマッシュシスターズYを遅くまでプレイしたせいか身体が重い。俺は大きな欠伸をしてしまう。
あのゲームは負けたら勝つために対戦したくなるし、勝ってもまた対戦したくなる魔性のゲーム。気づいたら2時間経っている時もザラにある。
「昼も寝てたのにまだ眠いのかよ」
「少ししか寝てねーよ」
「お前にとって授業4つ分は少しなのかよ。委員長に嫌味言われてもしらねーぞーー」
「いつも通り言われたよ。学校に何しに来てるの!とか。一回死ねとか。その後の小テストで満点とったら黙ったんだよな」
うわえげつねぇ、と樹は若干引く。
俺は寮に帰ってから深夜はアニメとゲーム。昼には寝るという完全昼夜逆転生活を送っていた。
「お前の頭だと授業なんて退屈なだけか。一発で覚えられるんだもんな。マジで俺もほしいわ〜瞬間記憶だっけ?」
「いいもんじゃないぞ、忘れられないって」
俺は瞬記記憶能力ーーー通称カメラアイという発達障害を持っている。カメラアイは物事を瞬時に記憶でき、その記憶を保持できる。この障害は一見便利に聞こえるが、忘れることができないというのは良いことばかりではない。
人は忘れることで前に進めるのだから。
「4は四捨五入したらゼロだぞ。」
「なんだよその四捨五入したらゼロ理論w」
樹は思わず苦笑する。
実際にテストで赤点なんてとったことがないのだから誰も文句は言えないだろう。
俺たちが部室で時間を潰していると下校のチャイムが鳴る。
「早く帰らなくていいのか?深じょ…彼女が待ってるぞ」
「愛生は彼女じゃねーよ」
「夕飯作りに男子寮まで忍び込むんだろ?同棲してるカップルかよw」
「やめろっていってるんだけどな」
愛されてるねぇ〜と樹は含んだ笑みを溢す。
「あんな美少女に好きって言われたら、普通好きになるだろ」
「愛生とはお前より長い付き合いの幼馴染なんだよ。そんな目で見てねぇ」
「おっ!神宮寺先輩じゃん!生徒会長!マジで美人だよなー!」
樹は話を遮り、校門を向いて唐突にいう。
こいつ、話の途中だっていうのに…
俺は樹に上の空で相槌を打つ。
樹の目線の先には、生徒の下校を見守る1人の女子生徒がいた。
神宮寺雛菊先輩――俺たちの一つ上の学年で、この高校の生徒会長。腰までの長い黒髪にスラっとしたモデル体型。
全校集会での堂々とした演説から分かっているのは、お堅い、真面目そう、美少女といったところだ。
学年が違うためほとんど関わりなんてないから、知っているのはその程度だ。
他には佇まいからもその厳格さが滲み出るような、ザ・生徒会長といった印象。
会長は今日も校門で生徒の下校を見守っている。
会長を見ていると、昔のあの子に似ているような気がするんだよな。
「会長ってあの時の…?見たことあるんだよなぁ〜」
「お前が覚えてないなんて珍しいな」
「いや、確認するのって面倒じゃん。しかも違ったら気まずい」
「コミュ障www」
「俺はそんな自分が嫌いじゃない」
「どうでもいいけど、他の女のことばかり考えてたら深嬢に殺されるぞ」
「俺たちが死ぬことはないだろ、、、だって俺たち不死身なんだし」
死ななければ怖いものなんてない。
誰だってきっとそう思う。
それが勘違いだとも知らずに。
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