花より団子より愉悦2
数十分後。
「意外と疲れたな」
俺は電柱に寄りかかり、チョコバナナを食らいながら呟く。
屋台でジャンケンをしたのは久しぶりだが、高校生になった今でもけっこう楽しめるし、童心に帰るのは悪くないと思う。
「あんた、体力無いわね」
隣でコンクリートの壁に寄りかかっているアンナは嫌味っぽく言う。
そんなアンナは右手にクレープ、左手に割り箸に刺さっているチョコバナナ、リンゴ飴、綿飴を器用に携えている。
よく片手で3本も器用に持てるな。
また、前々から思っていた。こいつは生粋の甘党。
どれも幸せそうに食べるのは、アンナの良い所なんだろう。
ちなみに、今はアンナと2人で行動している。
これは初めに俺たち5人が大通りにある屋台を一往復した後に、各々食べたい物を買っていると、いつの間にか別れてしまったからである。
しかし、基本的に1人で行動するようにはなってはいないようなので、高校生でもあるし特に心配ないだろう。
チェーン店もならぶ商店街風の道。街灯には様々な装飾が施されていて、祭りの雰囲気がある。
蛍光灯ではなく、提灯の灯りが如何にも夏のお祭り感を演出していて懐かしさを感じるし、香ばしい焼きそばやタコ焼きなどのソースの香りが食欲を唆る。
屋台で買うのは多少割高だと思っているが、こればかりは我慢できずに買ってしまうのは、人の性というものだ。
ちなみに、目の前には何やらタコ焼きの店に行列ができていて、これもまた屋台あるあるなのかと思う。
よく知らないが、元プロ銀だがーがいるたこ焼き店らしく、数年前に比べて今年は人がかなり多いようだ。
そのせいもあり、慣れない人混みで体力を削られる。
「最近ずっと引き篭もってたからな。筋力も落ちてっかも」
「ねぇ、一つ聞いていい?」
「おぅ、なんだよ」
祭り気分だと言うのに、アンナは真面目な顔つきになる。
「あんた、愛生さんが事故になった時に側にいたのよね」
「……そうだ」
あまりの直球な聞き方に、俺は一瞬食べる手を止める。
「なんで助けられなかったの?あんたがいるのに、そんな事が起こったの?」
怒りというよりは不思議そうにアンナは言う。
「そんな別に大した人間じゃないだろ、俺は」
「じゃあ、何もなかったって言うの?あんたがグループでまともに返信しなかったのは理由があるんでしょ?」
アンナは真剣に問う。
こういう、人の心をずけずけと聞くのはアンナの良い所というべきなのか。
俺と同じで友達が少ないから、悪い面として働いているのは間違いない。
嫌いではないけれど、どうにも直球すぎて言い淀んでしまう。
「愛生と喧嘩じゃないけど、ちょっとあってな。あいつが走っていったのを俺が止めなかったせいって言われたら俺のせいだ」
できるだけ平静を保って説明しても、俺の言葉には力が入らない。
「あんた、何したのよ。まさかいかがわしいこと……」
「はは、おもしれー冗談だ」
「そうよね。あんたみたいなチキンには無理よね」
「おいコラ、今度何かあったら助けてやんねーぞ」
アンナは安心したように深呼吸すると、綿飴を一口頬張る。
「言えないならいいわよ。見た感じだと、仲直りはできてるのよね?」
「え?あーーそれが…………よく分からないんだ」
「分からない?」
俺の言い方が気になったのか、アンナは怪訝そうな顔をする。
「事故の後、愛生の様子が何か変なんだ、いつも変っちゃ変だけど。なんだか、普通を取り繕ってるみたいな違和感」
「そうは感じないけれど」
「雰囲気っつうのかな。どこか冷たいような気がして。今日だって、浴衣とか着て来なかったのは何か違ってるつーか。まぁ何事も無ければいいんだけど」
俺は女心なんて分からないし、分からなくていいと思ってる。
その時の気まぐれって場合もあり、変に考える必要はない。
俺は心配事を吐けるだけ吐いた後、チョコバナナを再び食らう。
「ふーん、それはそうと……さ」
アンナは言いにくそうに顔を俯かせる。
「どした?」
アンナは大きく深呼吸をすると、意を決したような顔をしているが、か細い声で言う。
「私の浴衣はどう?」
「はい?」
「だから!私の浴衣だけ!まだ何も感想貰ってない!!」
なぜこのタイミングで!?
アンナの怒りと恥ずかしさの両立した物言いに、俺はあっけらかんとしてしまう。
「あぁ、うん。よく似合ってると思うぞ」
そう、とだけアンナは言い、口角を上げる。
やはり褒められられてないせいで、感覚がバグっているんだな。
「お前も変だな」
「うっさいわね、黙りなさい」
「感想を求められたのはこっちなんだが」
密かな笑みを浮かべるアンナに、多少の理不尽さを覚えた。
俺がため息混じりに道ゆく人を見ていると、望月さんを発見し目が合う。
すると、彼女はやっと見つけたと言わんばかりの表情をして、こちらに駆け足で向かってきた。
「アンナたん、瞬記くん。金魚すくいで勝負しようよ」
「金魚すくいっすか」
「あれ?やる気ない?」
「金かけてやる価値が見出せないっすね。基本花より団子なんで」
金魚すくいで金魚をすくっても、飼わなければほぼ遊びに使って終わり。
今の俺には愛生のプレゼント等を買った影響で、あまり金がない。
だから、無駄遣いはできないから気乗りしない。
「生徒会室に置くんだよ!何か絵になりそうな生物があったらいいと思ってたんだよね。ちなみに私たちはやったけど、ひなが1匹で愛生さんが2匹。私は1匹もすくえなかったーー」
「私そんなに自身ないですけど、やってみます!」
「まぁ置くならいいっすよ。いっちょやりますか」
そういうことならと、俺は残ったバナナを頬張り、重い腰を上げる。
望月さんに連れられて近くの金魚すくいの屋台までいくと、金魚のポリ袋を持つ会長と愛生がいた。
「二人ともやるのか?」
会長は金魚の飼い方を調べていたようで、スマホを片手にしている。
「みんなやってるんでやりますよ。すみません、一回分お願いします」
店主から代金と引き換えにポイを受け取ると、
「しゅんちゃんはこういうの上手いんですよ〜」
と愛生は期待を煽ってくる。
「どうだろ、できる人の真似するだけなんだよな」
そんなやる気のない言葉とは裏腹に、本音では多少の自信はある。
以前やった時は小学3年生で、動画を見てイメージしたから初見で3匹だった。
金魚すくいの平均は調べによると1、2匹で、平均以上の結果なら自信もつく。
「すみません、私もやります。クレープとか持っててもらっていいですか?」
割り箸で食べていた物はいつの間にか完食していたようで、望月さんに荷物を手渡し、アンナも店主からポイを受け取ると、浴衣の袖を捲る。
「浴衣姿でアンナたんの腕捲り、エロいな〜」
「集中してるので、ヤジはやめて下さい」
相変わらず望月さんのセクハラは止まらない。
しかしながら、確かに浴衣という露出が少ない服装で、見えない部分が見えるようになれば、妙に煽情的に感じる。
「チッ――」
刹那、愛生が舌打ちをしているように聞こえ、俺は愛生に向き直る。
「ん?どうしたの〜?」
「いや……なんでもない」
胸騒ぎ、と言うほどでもない。
しかし、ほんの一瞬だけ、愛生が別人のようで、違和感には思っていたはずなのに、
俺は、気付かないフリをしてしまった。
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