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花より団子より愉悦1


8月26日、17時。

 

 3回の乗り換え、2時間近く電車に揺られると、地元に帰れる。


 電車は夕方近くのこの時間だと1時間に2本程度。


 駅の周りにはショッピングモールなどの多少華やかさはあるが、少し駅から離れると雑草まみれの土地や遊具を撤去された公園という、田舎以上都会未満のきっと何処にでもあるありふれた町。


 俺は特別好きというわけでもないが、嫌いというわけでもない。


 仮に都会に暮らしたとしても、結局行く場所は固定されるだろうし、最低限スーパーや薬局が家の周りにあればなんとかなるからだ。


 しかしながら、さすがに花火大会の今日は人が多く、珍しく賑やかで活気付いている。


 正直、こんなに時間がかかる場所をわざわざ選ばなくったっていいとも思ったのだが、話が進んでいたので否定することもできなかった。


 駅前から見える歩行者天国の一般道路には、浴衣姿の若者や私服の爺さんや婆さんと、まさに老若男女を問わない。


 今はまだ人は多くないものの、数時間もすれば倍くらいの人になると考えると少し憂鬱だ。


 俺が駅前で待っていると、後ろの改札から雪崩れのように人が出てくる。


 なぜかカップルが多いように感じるのは、俺が意識して見ているだけなのだろうか。


 別に羨ましいとは思わない。そういったカップルの男の方は、髪の毛を整えてしっかりと浴衣を着こなしている。


 それと違って俺はどうだ?


 地元というのもあって、てきとうな夏っぽい私服で済ませているし、何より荷物が多めに入るようなショルダーバッグ。


 モテようとしていない典型的な根暗高校生と言って差し支えない。


 だがいいんだ。性欲の奴隷に成り下がるくらいなら、俺は自由に生きてやる。

 

 もしもモテることが生きていく上で必要なら、義務教育で教えてくれ。

 それがないなら、世間が悪い。


 それでも、まぁなんだ。最低限の匂いや清潔感は意識して来たし、謎のローマ字が書いてあるTシャツでもないし、会長たちと並んで歩くだけなら問題ないはず、たぶん。

 

 スマホで時間を確認すると、彼女らの到着時間を一分過ぎている。


 そろそろ来る時間だな。

 

「やっほー瞬記くん。早いね〜」

 

 声をかけられ、顔を向けると華やかな女子たち、いや、浴衣姿だと女性と言ったほうが適切な三人の美女たちがいた。

 

 望月さんと隣に会長、その後ろにはアンナ。臨海学校でも感じていたが、生徒会の顔面偏差値の高さには時々舌を巻く。

 

「なんだ、時透は浴衣を着てないのか」


「地元の祭りなんで、意識すらしてませんでしたよ。それより、お2人ともよく似合ってますね」

 

 会長は白の浴衣で、可愛らしい印象。髪は纏められていて、綺麗な簪がよく目立つ。


「そうでしょう、そうでしょう!もっと褒めたまえ〜!」

 望月さんは黒を主体とした花柄が綺麗な浴衣で、これはこれで似合ってる。


「アンナ、お前は、どうした?」

 先ほどから黙っているアンナは顔を俯かせて会長達の後ろに隠れている。アンナは紺色の紫陽花が綺麗な浴衣で、何故か恥ずかしそうにしている。

 

 今回ばかりは、海の時のようにネタ枠ではないのは一目でわかるのだが。


「あーー太って見えちゃうって言ってるんだよね。全然そんなことないのに。このデカパイのせいか〜?」

 

「ちょッ、やめてください!着付けが緩みますから!」

 

 望月さんは相変わらずアンナの胸を鷲掴みにする。

 この光景も見慣れてきたな。


「良いではないか〜」


「本当に……いい加減にしてください!」


「ごふッッ――――」

 アンナも我慢の限界だったようで、望月さんの脇腹に無意識だろうが肘で一撃を加えた。


 アンナの力強さは俺もよく知っているが、クリティカルヒットした望月さんは悶絶してしゃがみ込む。


「すみません!大丈夫ですか!?」


「今のは、れいが悪いな」


「だ……大丈夫……むしろ……もっとしていいよ」

 

 この人…………とんでもねぇ変態だ。

 本当になんでこの人が副会長なんだ?


 現実から逃避するように目を背けると、こちらに走って来る愛生を発見する。

 

「あれ、愛生ですね」

 

「遅れてごめんなさい〜」

 息を上げる愛生は、申し訳なさそうに頭を下げる。


「まだ時間じゃないから大丈夫だぞ」

 と会長。


「愛生さん浴衣じゃないんですね」

 アンナは愛生の服を見て、驚いた表情をする。


 愛生は初めて見るゆったりとした白いトップスに、脚のラインがぴっちりと分かる黒の長いボトム。

 

 その格好は運動でもするのか、と問いたくなるほどだ。


 しかし、顔がいい人は何を着ても似合う理論で、持ち前の可愛さを引き立たせている。


「あぁ〜、うん。ちょっといろいろあってね〜」


 愛生は自身の髪を摘んで、誤魔化すように言う。


 こういうイベント事は率先して着飾るタイプで、俺にコメントを求めてくると思っていた。


 何か変化があったのか?まぁ俺に女心なんて分かるわけないし、どうということはないか。


 「早くいこうよ!私お腹へった!」


 望月さんは早々に復活し、元気そうに歩き出す。

 

 ちなみに、樹の野郎は大物YouTuberのコラボとか言ってたから今日は来れないらしい。

 

 こうして、側から見るとハーレムのような状態で花火大会を楽しむことになった。

久しぶりに投稿しました。忘れられていないと嬉しいです。


ぜひ、面白いと少しでも感じていただけたら、ブックマークや評価、いいねや感想等お願いします。


誤字報告も随時募集しています。


今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] なぜ愛生が浴衣ではないのかきになりますねー
2024/02/26 14:00 きびだんご
[一言] 望月さんがまじでいいキャラしててほんと好きです✨ ドM女子たまらん(*´﹃`*)
[良い点] 可愛い着物をまとった3人の中に私服の愛生…絶対何かありますねw これからが楽しみになる書き方でとても良かったです! [気になる点] 「俺は駅前で待っていると、後ろの改札から雪崩れのように人…
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