表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/53

死の代償


〈私、あなたのことが好きなの!〉

 

〈いきなりそんなこと言われても。俺はお前のこと友達としか見てない〉

 

〈可愛くなったのも全部あなたのため!だから……〉

 

〈おまえ、まさか昔から〉

 

〈そうだよ!……ばか〉

 

〈ごめんな、俺は…………好きだよ〉

 

〈言葉だけじゃわかんない!行動で見せよ………………〉

 

 そしてベッドに入った2人は愛を育むのだった。





 ……………………なんだこの茶番は?


 俺が今見ているアニメは、

 【恋愛リクエスト〜運命の紅い糸〜】という最近有名なアニメ。


 物語は基本純愛ラブコメとして進んでいき、作画も綺麗でテンポよく伏線を回収していくのは良かった。


 しかし、この定番過ぎるラブコメ展開は意味が分からない。

 恋をしたら何でもありかよ、とツッコミを入れたくなるほどに都合が良過ぎる。


 これなら、School 〇aysを何周もした方が有意義だ。


 カーテンを閉め切った暗い寮の自室で、ボサボサの髪と目にクマを張り付かせながら、俺はアニメを評価する。

 

8月13日。


 臨海・林間学校から1週間がたった。


 世間はお盆で帰省ラッシュらしく、実家に帰らない俺は寮でだらだらと時間を浪費している。

 

 高校の宿題はほとんどなく、ゲームやアニメ以外に、毎週無料の漫画とネット小説を漁るくらいしかやることがない。


 確かに、中学校の時の鬼のような宿題に比べたら嬉しい限りだが、逆にすることもない。


 自由すぎるって、なんて不自由なんだろう。



 そんなことを考えながら、俺は椅子から立ち上がり、ベッドに勢いよく腰掛け、泥のように横になる。


 カーテンからは朝の日差しが差し込んでいて、部屋の細かな埃が宙を舞っているのを視認する。

 

 最後に部屋の掃除をしたのは確か、1週間以上前だったな。

 

 ゴミ箱に目をやると、カップ麺やコンビニ弁当のプラスチックごみで一杯で、我ながら食生活が乱れたなと思う。

 

 愛生がここに来ないとこうなるのかと、自分の駄目さ加減がよく分かる。

 

「もう朝なのか……」

 

 あれから、あまり寝れていない。


 眠るために目を閉じると、事故現場が鮮明に描かれ、横たわる愛生がこちらを見る。


 血塗れの姿は、事故の凄惨さを物語っていて、見るに耐えない。


 そんな愛生がゆっくりと起き上がると、両手で俺の首を掴み、呟く。


 【どうして……どうして引き止めてくれなかったの?】


「ああぁああああ!!!!!」


 何をしても愛生の眼差しがフラッシュバックして否応なく現実に引き戻される。


 目にはクマができているのに、睡魔より恐ろしい悪夢が眠りを阻害する。


 PTSD、心的外傷後ストレス障害。


 それは、事故現場に居合わせた人間が発症する精神的な病気。

 症状は動悸、呼吸困難、めまい、首や肩のこり、震え、不眠などの身体症状が現れる。


 動悸が治るのを待ってから、俺は冷静に深呼吸する。


「流石に、睡眠薬でも買いに行くか」


 どんな病気も睡眠を取れば大体解決する、というのが俺の持論だ。

 しかし、眠れなければ話にならないし、俺は今でも鮮明に事故現場を覚えてしまっている。


 完全記憶を持つ人間は、その個性ゆえにコミュニケーション障害を持つ事が多い。俺はその中ではだいぶまともな方だと思う。


「だけど、こんなの……あんまりだろ」


 記憶してしまうが故に、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もフラッシュバックする。

 

 そんなまともとは言い難い状況に、ここ数日頭を悩ませていた。


 まだ食欲があるのは不幸中の幸いとも言えるが、食料もなくなりかけているので、買い出しに行かなければならない。


 

 そう。あれから、愛生は俺の寮に来ていない。



 

 すると突如、誰かの来訪を告げるインターホンが鳴り響く。

 

 ここの寮のインターホンは音量が大きすぎて、軽い騒音だ。

 

「うるせぇーーな。誰だよ、こんな時間に」

 俺は気怠げにドアに向かうと、何も考えずにドアを開ける。

 

「しゅんちゃん、おはよ〜!」


「あ……愛生……?お前、なんでここに?」

 

 目の前にいるのは、病院にいるはずの愛生。目立った傷や怪我の包帯などもない、至って健全な姿があった。

 

 そんな以前と変わらない状況に、俺はまた変な夢を見ているのではないかと錯覚しそうになる。


「とりあえず入っていいかな?ちょっと重くて〜」

 俺が硬直していると、愛生は苦笑いして、手にしている買い物袋を持ち上げる。

 

 手には袋一杯の食材等が詰め込まれていて、きっと料理をするために来たんだと分かる。


「お…おう。てか、俺が持つよ」

 

 戸惑いを隠せてはいないが、愛生を部屋に招くと、俺は愛生の袋を持って冷蔵庫に向かう。

 

 中身を上から確認すると、野菜が大半を占めているように見えるが、袋の下の方には肉や魚の影がある。


「こんなに買ったのかよ」

 

「しゅんちゃんの食生活がダメダメになってるが想像できちゃったからね〜。予想通りだよ〜」

 

 愛生はゴミ箱を一瞥した後、冷蔵庫を開けると、予想が確信に変わったようで、何故か笑みを浮かべる。


 俺は愛生の隣に袋を置くと、愛生は慣れた手つきで食材を入れていく。

 

「連絡入れたはずだけど、やっぱり見てなかったんだ〜」


「え?そうなのか?あーー本当だ」

 机に放置してあるスマホを確認すると、グループのメッセージや愛生のメッセージが未読だったことに気づく。


 あれから、スマホを確認することすら出来なかったので、充電の切れかかったスマホでメッセージを確認する。


 生徒会のみんなが、愛生を心配していることや今日退院するという連絡、また、愛生からは俺の寮に来るという連絡が来ていた。


 そういうことかと、俺はやっと現状を確認ができたことに安堵する。


「しゃんちゃんからの返信がないから心配になっちゃったよ〜。今から簡単に何か作るね〜」

 

 愛生は変わった様子もなく、袖を捲る。

 

「いやいやいや、俺のほうこそ……心配……したぞ」

 俺の口から出る言葉には力が出てこない。


 だってそうだろう。


 自分のことばかり考えてしまって、結局連絡さえとっていなかったのだから。


 そんな俺に、愛生を心配していたなんて、本当に口にしていいものなのか躊躇われた。


「私はもう大丈夫だよ〜1週間近くも検査ばっかりでさ〜。何にも異常なんてないのに〜」


「そうか……なら良かった」


「それよりもしゅんちゃんの方が大丈夫じゃないでしょ〜!目のクマ凄いよ」


「こんなの大した事ない」


 愛生が俺の顔を指摘すると、前と同じようにエプロンを身につけ、キッチンでフライパンを取り出して冷蔵庫から出した卵を割る。


 邪魔をするのも悪いので、俺は椅子に腰掛けてメッセージ内容を詳しく確認する。

 

 それによると、事故の後に救急車が来る時には出血が止まっていたらしく、運ばれる時には傷は痕跡すら残らずに治療していたようだった。


 そして、ソウスの事故ということもあり、1週間は念のため検査する予定だったのだが、愛生の強い希望で早まったそうだ。


「ねぇ〜聞いてるの〜?」


「え?なんだっけ?」


「だから〜再来週の花火大会〜。生徒会のみんなで行こうって話〜確認してみなよ〜」

 

 メッセージを下にスクロールすると、再来週の花火大会のURLが貼り付けてあり、既に話がだいぶ進んでいるようだった。

 場所は俺と愛生と樹の地元。近くが海の花火大会だ。


 子供のころには家族で屋台に行っていたが、両親が離婚してからは樹とノリで1回行っただけで、ここ2年は行ってない。



「言い出しっぺは副会長さんだけど、絶対に私たちに気を遣ってるよね〜」


「そう言うなよ。ありがてぇな」


「会長さんは結構興味あるみたいだよ〜」


「会長、人混みとか苦手だと思ってた。こういうのでもテンション上がるんだな」

 

 トークを遡ると、望月さんや会長のメッセージが多く、積極的に話を進めている事が窺える。


「確かにそうだよね。でも、しゅんちゃんを独占するのは、私だよ」


 フライパンに調味液を流している音で、愛生の言葉は遮られる。


「そのためなら、何だってできるよ」

 

「え?なんて?」

 

 聞き取れなかったので、俺は愛生の方に向くと、酷く冷たい横顔が見える。

 

 学校でのゆるふわな雰囲気を一切感じない、まるで人が変わったようだった。


「愛生?お前……」

 唐突に訪れた寒気が、俺の言葉を凍らせる。


「ん?どうしたの?」

 愛生は振り向くと、その表情は普段と変わりないようで、キョトンとした顔をする。


 なんだ、勘違いだったか。最近、睡眠不足で俺がおかしくなってるんだな。


「その、なんだ。体調が変なら、帰って寝ろよな」


「大丈夫だよ〜心配性だな〜。私は事故にあっても生きてるんだから、もし体調が悪くなっても心配ないよ〜」


「うーーん。でもそこまでする必要ねぇよ」

 

「だって……好きな人、しかも幼馴染のために尽くしたいっていうのは、ここまでする理由にはならないの?」

 

 愛生は恥ずかしげもなく言い、笑みを浮かべる。


 その言葉を聞いて、俺は何も言い返す事ができなかった。


 先程の不安を拭うような微笑みに妙な説得力があるし、何よりも俺自身の言動が矛盾しているのもある。


 だから、この時は気づかなかった。愛生の髪が以前にも増して色褪せていることに。

 

 それも仕方ないことだ。

 

 こんな美少女の幼馴染が不死身なのをいいことに、死ぬ気で俺にアプローチしてくれるのだから。

 

 この日、俺は久しぶりに愛生の料理を食べ、やっと眠ることができた。



 ※※※※※※※※※※※

 

 

寮に戻った愛生は虚な目をして荷物を置いた。

 

窓から差し込む夕陽が、目を焼くような感覚さえ覚える。

 

「しゅんちゃんはきっと……会長さんのことが好き…」

 

 身を引くべきだと理性が言っている。


 しかし、本能が、自身の意思がそれを否定したいと叫んでいる。

 好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでどうしようもない。

 

 好きを証明できるなら誰かを殺してもいい。だってそうでしょう?

 

 推理ドラマに出てくる殺人犯の犯行動機は恋人が死んだからというのが多い。


 家族が殺されたから、友人が死んだから、そういう愛情に近い感情を人は誰しもが肯定的に捉える。


 愛してるんだからしょうがないよね。


 

 だって、愛は全てを肯定してくれるんだから。

 

 しかも、そう考えると人間は欠陥品だ。


 人が人を殺してはいけないというなら、関節が逆方向に曲がらないみたいにすればよかったのに。


 それができないのなら神様が悪い。

 

 瞬記から誕生日プレゼントで貰ったナイフシャープナーで、包丁を研ぐ音が愛生には心地よい。

 

「えへへ、この音好き〜」

 

 まるで石が悲鳴を上げているような音に、愛生はうっとりとした表情をする。

 

 力を入れ過ぎているせいで、キュリキュリと聞き慣れない音が鳴り、人によっては不協和音かもしれない。

 

 もうどうでもいい。好きな人以外は、何もかも消えてなくなってしまえばいい。


「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!」


 深嬢愛生のストッパーである理性は、既に消失していた。

 

お読みいただきありがとうございます。


よろしければ感想や評価、ブックマークやいいねお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どんどん愛生がおかしくなっていく!
[良い点] 愛生が狂ってしまった。。。 好き連呼の部分とか、どれだけ狂ってるのかがすごい伝わってくる、ゾワッとしてしまった
[良い点] 同じ言葉を連呼することにより、その状況のヤバさがものすごく伝わってきました。 やばいレベルの鬱にいよいよなってきたなwと思いながらな楽しんで読むことができましたw [気になる点] 誤字があ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ