異世界転生あるあるをするトラック運転手は不憫
8月7日。
案の定、ロリ先生は二日酔いで運転が出来なかった。
だから、先生が回復するまでは、肝試しに使えそうなルートを散策するという名目で、全員で暇つぶしに山を散策した。
そして、先生が復活して山を出たのは午後。気づいたら夕方になっていた。
俺たちは学校で車を降りると、各々真っ直ぐに帰宅。
みんな疲れていたため、この後どこか行くなんて空気にはならなかった。
俺は帰る方向が同じの愛生と、いつもの学校から駅までの道を歩き、普段の下校と同じ電車に乗った。
夏休みのおかげか電車の席は空いていて、俺たちは隣り合って腰掛ける。
そして、俺は目を閉じて、深い眠りに入らないように今日の出来事を思い出す。
そういえば、今日は会長の調子が少しおかしかった。
散策の時、チラチラとこちらを見ているような気がしたし、妙に視線を感じた。
そして、俺から目を合わせると急に視線を逸らしたりする。
昨夜の深夜テンションの言動のせいだろうか?それとも、俺が気にし過ぎていただけか?
考え事をしていると、電車はいつの間にか目的地まで着いていて、体感時間は短く感じる。
改札を出てると駅のロータリー。しばらく歩けば愛しの我が家。
慣れないことをしたから、今夜は泥のように眠る自信がある。
会長のことはいいとして、問題は……
「なぁ、大丈夫か?」
「…………」
隣を歩く愛生に声をかけるも反応はない。
「気分が良くないなら言ってくれよ」
今日の愛生は明らかに口数が少なすぎるし、気分が悪そうに顔を俯かせている。
みんなが心配して声をかけるも、無言で頷くか「大丈夫」と言うだけ。
初めは眠いだけかと思っていたが、俺と2人の時もこの調子なのは変だ。
「じゃあさ…」
愛生は口を開くと、憔悴しきった目で俺に向く。
「しゅんちゃんは会長さんのことが好きなの?」
「………………何言ってんだよ」
「そんなに驚いた顔して。やっぱりそうなんだね」
特に何も口にしてはいないが、顔には出ていたようで、愛生は納得がいったとばかりに小さく冷笑する。
「私はしゅんちゃんのこと好きだよ。大好きなの。理由なんてない。好きだから好きなの」
「でも、俺は愛生とは付き合えない」
「私とはって、他にいるみたいな言い方だね」
愛生は嘲るように言う。
「分かってるよ。でもどうしようもないの」
〈分かってる〉というのは、愛生の家族のことや俺の両親のことを含めて指す。
愛生はきっと俺の感情を全て分かっている。その上で、それでも好きなんだと言う。
「たまーに、聞かれるの。しゅんちゃんのことを何でそんなに好きなのって。好きだからじゃ足りないの?しゅんちゃんの全てが好きだからじゃ足りないの?どうやって愛を示したらいいの?プレゼントのお金が高い物ならいいの?きっとそんな物じゃないはずだよね!」
愛生の焦るような言い方に、俺は聞くことしかできない。
きっと愛生は俺と会長の関係に薄々気がついているのだろう。ここでとぼける程、俺は鈍感ではない。
だが、俺自身だって自分がどうしたいのか分からないのも事実で、言い訳も何もしようがない。
「ごめん……私、めんどくさいね。あっちから帰るよ」
愛生はそう言い残すと、遠回りの道となる交差点に向けて駆けていった。
今にも泣き出しそうな女の子を1人で帰すのは普通の物語の主人公ならしない。
肩を掴んで「ちょ、まてよ!」とか気の利いたことを言うかもしれない。
だが、しかし、
俺に止める資格があるのか?
いつもいつも愛生はこんな俺のことが好きだと言う。
でもそれに応えることはできないと、自分の心や欲望に蓋をしてきた。
でも、今はどうだろう。
なんで会長の名前を出されてあんなに動揺したのだろうか。
俺は会長のことが好きなのか。
でもそんなの今更だ。
付き合えないだの、恋は馬鹿だと言っておいて、キスのたった一回で認識を変えられるなんて馬鹿げている。
俺は敵だったキャラクターが改心して味方になる展開が嫌いだ。
過去の言動は消えないし、都合の良い解釈で幸せそうにしてるのは意味がわからない。
そんな手のひら返しをするなら、手首が捻じ切れてしまえ。
だから俺も同じだ。
例え俺が会長のことを好だったとしても、やり直しが効かない限り、それを許容することはできない。
ここで俺は、愛生を追わない方がいいんだ。
会長と愛生、どちらかを選ぶなんてことは想像するのも烏滸がましいし、俺はそんな立場にいない。
愛生が走っていくのを正面から見れなかった俺は、目の端でしか見れなかった。
あぁ、でもそうか。
愛生から見て、俺は会長のことが好きなんだ……
瞬間、車のクラクションがけたたましく鳴り響く。
目を向けた先ではトラックと走っていった愛生が衝突している。
鈍い音と共に愛生の身体は吹っ飛ばされ宙を舞う。
「え……」
愛生はそのまま派手な音と共に、後頭部をガードレールに当て、そのまま派手に頭をコンクリートに打ちつける。
ぐしゃりと、何が潰れて壊れるような鈍い音。
遠目から見ても、愛生の頭からは割れたように血が溢れ
出し、どう見ても即死。
事故?死んでる?あんな傷……治るのか?
時間と共に愛生の頭からは、赤い液体が生々しく流れ出す。
周囲の人が慌てて愛生に近づこうとするも、既に肉塊となった身体に触る者はいない。
トラックの運転手は慌てて救急車のためか電話をしている。
愛生の身体はうつ伏せで、顔はこちらを向いているが、その眼差しに光はない。
その暗い瞳が、俺に「お前のせいだ」と告げている感覚さえある。
「俺が……止めていたら良かったのか?」
俺は愛生に近づくことなく、この事故の現場を呆然と見ていることしかできなかった。
やっとグロシーンを書くことができました。
これからも規約に反しない程度にグロさを追求していきたいです。
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