深夜テンションだと何言うかわからない
愛生の誕生会でケーキを食べ終え、近くの温泉に行って帰ったら夜も更けてきた(飲酒した先生は留守番)
それからは男女で分かれて、就寝までは部屋で自由時間。
今日泊まるバンガローは5人部屋で、男女2棟に分かれたため、男2人だけで5人部屋は無駄に広く感じる。
ちなみに、俺はバンガローに泊まるのは初めてで、シャワーや風呂はないし、備え付けのトイレや布団もない。
あるのはカーペットと座布団、電球や冷蔵庫の家電だけ。
想像以上に何もなく殺風景だ。
これが林間学校の醍醐味なのかもしれないが、贅沢をいうならエアコンなどが完備されてるコテージとかがよかった。
そんな場所だから特にすることもないので、樹が今日撮った写真や動画を編集して、1つの動画にしているのを眺めていた。
流石YouTuberとでも言うべきなのか、編集をする手は止まることがなく、カットや挿入する素材を次々と積み上げ、スマホ1つで動画を作っていた。
そんな時、ときおり女子たちの部屋からは楽しそうな笑い声が度々聞こえてきて、無性に気になったりする。
そして、23時前で予定通り就寝。
俺たちは座布団を枕の代わりにして、眠った。
「眠れん」
暗闇の部屋で、俺が隣の樹に語るように言うも反応はない。完全に寝てしまったようだ。
俺は普段ならゲームに勤しんでいる時間で、しかも行きの車で寝たせいか、全く寝れる気がしない。
スマホで時間を確認すると、深夜0時を回っている。
…………トイレにでも行くか
俺は身体を起こして、スマホの明かりをつけて外に出る。
乾いた風が頬を撫で、夏なのにむせ返るほどの暑さはない。さすが山。
共有トイレまでは歩いて約1分。
俺はあまり苦に感じないのだが、そこまでは電柱の数が少なく想像より灯りがなく暗い。だから、肝試しが苦手な奴がいたら1人でトイレにも行けないだろう。
俺は大して怖がらないぞ。ホラゲーやホラー映画の方が怖い。
演出や音楽が恐怖を植え付けるホラー作品だけは、全部記憶に残るから本当に無理なんだよ。あんな物、世の中からなくなれ。
そんなことを考えながら、足元を警戒して暗闇を歩く。
外にいると、鈴虫やコオロギの綺麗な鳴き声がはっきりと聞こえ、多少恐怖心を和らげてくれる。
こんな時、蛍とかがいれば幻想的なんだよなぁ。
俺はふと、スマホの灯りを遠くまで照らすようにして縦る。
すると、薄らと人影があr…………
………………………………え
誰かいるんだけど。
一瞬だったが、俺には十分。
誰かいた。
しかし、シルエットだけでは分からず、長い髪のワンピースを着ていることは分かった。
「……誰ですか?」
俺がおそるおそる確認すると、影はまっすぐこちらに向かってくる。
え。マジでやめてくれ。これマジなやつ??
「なんだ時透か。どうしたこんな夜更けに」
影から現れたのは、ラフな格好をした会長だった。
「はぁーー。なんだ会長ですか。なんでこんな所にいるんですか」
服装はゆるっとした白のワンピースで、いつもの雰囲気やシルエットとまるで違っている。
だから分からなかったのか。あーーよかった。
「星が見えるかと思ってな。時透は手洗いか?」
「それもありますけど、なんか寝付けなくて」
会長はそうか、というと空を見上げる。
「星、好きなんですか?」
「綺麗なものが見れるなら、見ておくに越したことはない」
「そんなものですか」
俺も空を見上げると、プラネタリウムのように星がハッキリと見え、その美しさに息を呑む。
星座の知識は夏の大三角形で止まっているから、機会があれば調べてもいいかもしれないな。
空を見る会長の目は、星を反射したようにキラキラと輝いていて、天体観測を楽しんでいる。
やっぱり会長は綺麗だ。
そんな時、俺の視線に気づいた会長は口火を切る。
「どうした?」
「あーーえっと、いや、なんか、びっくりしましたよ、愛生の誕生日ケーキ。そんなに仲良くなってたんですね」
会長を見ていたなんて言えるはずもなく、俺は誤魔化すために話題を逸らす。
「まぁ、歓迎会も兼ねているがな。君が深嬢のプレゼントを持っている方が意外だったぞ」
「幼馴染なんで普通ですよ」
「ふーん、それならさ」
会長は近づてきて、俺に触れそうな距離まで近づき含んだようにいう。
「私の誕生日は今月末だから」
「はい?」
「楽しみにしてるね」
暗さもありギリギリ表情は窺えないが、からかうような声音だ。
「いやいやいや、なんでそうなるんですか」
「私たち、昔会ってたわけだし。幼馴染と言っても差し支えないじゃない?」
「そんなのカウントに入らないですよ」
「じゃあキスのお礼ってことで」
会長は自らの口に手をあてて冗談混じりにいう。
今の会長、深夜テンションってやつだろ。
ぐいぐい押すような会長の言動に、思わず息が詰まる。
「…………それ引き合いに出すのは、意味わかりません」
「それもそうだな、すまんな。でも、今の君の反応は面白かった」
会長は小さく笑う。
「からかうなら先行きますね」
「まぁ気が向いたらでいいからな。じゃあおやすみ」
「はい、おやすみなさい」
会長はこの場を後にすると、俺はトイレに行ってから自分の小屋に戻った。
会長との夜の秘密の会話は、少しだけ胸が高鳴るような高揚感があった。
冷静に考えて、会長って俺のこと好きだろ。男嫌いなのに俺にはキスまでして、プレゼントを欲しがるってほぼ確定じゃね?
いやでも、好きって言われたわけじゃねーしな。
俺から何かする気は一切ない。そんな馬鹿なことはしない。
でももし馬鹿になれるなら……
暗闇の部屋でそんなことを悶々と考えると、時間がいくらあっても足りなかった。
「なんで会長さんとしゅんちゃんがあんな風に……」
2人が後にした場所には、木の影に隠れ、顔に絶望を張り付かせた愛生の姿があった。
※※※※※※※※※※※※
夜の山は肌寒く、愛生は暗闇の中手探りでバッグからタオルを出そうとした。しかし、寝ぼけていたせいで自分のバッグを漁っていたつもりが、雛菊のバッグだった。
間違いに気づいた愛生がスマホの明かりを頼りに整理していたら、一枚のカードが出てきた。
それは昔、瞬記が持っていたテレホンカード。
見間違えるはずがない。
なんで会長さんがこれを持っているの?
愛生の脳裏に澱んだ感情が交錯し精神を汚す。
あれだけ楽しい誕生会にしてくれたのに、雛菊と瞬記の関係を疑ってしまう。
思えば、最近の2人の距離感が怪しかった。瞬記は会長さんを目で追っていたし、2人の時に何かあったに違いない。
考えないようにしても止められない。だって好きだから。
狂おしいほどに好きなのに、それを伝えているのに瞬記は答えてくれない。
カードを凝視していると、悪い方へと思考が偏る。
そういえば、会長はどこへ行った?部屋を見渡しても、ロリ先生、玲奈、アンナだけで、会長がいない。
バッグを漁った形跡を隠蔽して、半ば飛び出すように部屋を出た愛生は、暗闇を駆け抜ける。
すると、話し声が聞こえ、思わず木の影に隠れた。
そこで聞こえたのは、雛菊と瞬記の会話。
何となく分かったのは、会長が瞬記を好いていることや瞬記も満更では無さそうということ。
そして、キスという言葉も聞こえた気がした。
あのテレフォンカード……キス……
不安が形を帯び始め、頭が痛くなる。
他の女に盗られる?会長さんだったらしゅんちゃんを幸せにしてくれるから預ける?
そんな負けヒロインみたいになるくらいなら死んだ方がまし。
………………あいつさえいなければ
「ダメだ、また変なこと考えちゃう」
瞬記はもちろん大好きだし、会長たちだって好き。生徒会のみんなのことが大好きなのに、どうして、、、、、、
どうしてこんなに苛々しているんだろう。
同時に相対する感情に振り回され、愛生は呼吸を荒くする。
「またリフレッシュしなきゃ…………でも今は」
耐えられない、本能と自制心が衝突して頭がおかしくなりそう。
もし……もしも何かあって……おかしくなれてしまえたなら……
私はどれだけ楽になれるだろう。
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