夢オチってマジでしょーもない
息苦しい、と思った。
上手く寝返りが打てず、拘束されるような圧迫感があり、身体が思うように動かない。
誰かが俺にのしかかっているのだ。
「寝てるなら悪戯しちゃうよ?」
そいつは湿った吐息と共に、そんなことを言う。
誰だ?こんなことをする奴は。
あぁ、きっと愛生だ、ふざけるのも大概にしろ。
俺は薙ぎ払うように身を斜めにするが、密着してバランスを取るように阻まれ、仰向けの体勢からどうしようもなくなる。
「何だよ……って会長!?!?」
目の前にいたのは、一糸纏わぬ姿の会長だった。
特殊な光線で局部は見えなくなっているが、顔が妙に熱っぽい。
煽情的な眼差しは俺を真っ直ぐに捉え、会長の瞳に反射する自身の動揺っぷりが分かる。
思考をめぐらそうとするもキスをせがむ顔は可愛らしく、甘い誘惑に耐えきれないからか力が入らない。
いや、違う。俺は力を入れてないのだ。
頭では恋だの愛だのを否定している俺でも、本能には従順にならざるをえない。それはさながらプログラムされた機械となんら変わりない。
人間は欲には勝てない。腹が減れば飯を食うし、眠くなれば眠る。そんな当たり前のことなのに、なんで俺は頑なに拒みたいのだろうか…………
その理由は……分かっているつもりだ。
何かを堪えていた俺の力が抜けると、会長は俺の唇を奪ってくる。
力強く貪るような接吻は、脳を刺激して判断力を鈍らせる。
唯一分かるのは、快楽で満たされているというだけ。
会長の男性恐怖症とは思えない行動に違和感を覚える間もなく、俺は不思議と高揚してしまう。
そして会長は俺の下半身に手を伸ばし始め――――
「おい、もうそろそろ着くぞ。起きろって」
「んぇ?…あぁ……あれ?樹か」
「汗すごいけどどうした?」
「あーーーそうだな」
着ているシャツは首元から肩にかけて湿っていて、気持ち悪く肌を撫でる。
車内は冷房が効いているので、自分のかいた汗の量に少しビビる。
隣の座席の樹に起こされて本当に良かった。もしも、この状況で夢○したら死にたくなっていただろう。
「大丈夫ですか、時透くん。車酔いしましたか?」
「いえ、大したことないです。ロリ先生の運転上手いんで」
この10人乗りのワゴン車の運転手はロリ先生で、ミラー越しに俺を見る。
その時俺の目に映ったのは、外見は幼女にしか見えない人が大型の車を運転しているという奇妙な絵面で、以前職質されたことがあると言っていたのは間違いないのだと思う。
整備されていない道路のせいで、車内は小刻みに揺れている。
気分転換のために窓の外を見ると、緑に埋め尽くされた田園と山の緑が茂っている。
そんなザ・自然という場所に俺たちは来ていた。
「ジョーカーで流して、キング3枚はみんな出せないよね。流して、これであがり」
「ひな強いな〜私もあがり!」
「7渡しであがりです〜」
「ま、また、大貧民……」
後ろの座席を見ると、会長、望月さん、愛生、アンナが和気藹々とトランプで大富豪をしていた。
愛生以外の私服姿は新鮮で、全員の容姿も相まって、何かの撮影みたいだ。
その微笑ましい光景は、まさに修学旅行に行くバスでの戯れ。
「アンナたんは〜なんで毎回5枚以上残ってるの〜?わざと〜?」
望月さんはアンナを煽る。
「たん付けはやめてください!わざとじゃないですよ!何でか出せないんですよ!」
「アンナちゃん、大丈夫だよ。私が教えてあげるから……」
「愛生さん…!そんな可哀想な人を見る目をしないで下さい!」
アンナのポンコツっぷりは、ゲームにおいても健在みたいだ。
会長は座席にあるトランプを纏めていると、俺の視線に気づく。
「なんだ?君たちも混ざるか?」
「いえ、今はいいです」
「俺はやりたいです!」
「じゃあ、本郷を含めて5人だな。一度みんな平民にしよう」
会長はトランプを手際よくシャッフルし、5人分配る。
「時透どうした?私の顔に何かついてるか?」
「いや、何でもないです……」
会長に迫られるなんて変な夢を見たせいか、会長に視線がいってしまい、妙に意識してしまう。
厳密に言うとあの日、球技大会からだ。その日から、会長を目で追うことが多くなった気がする。
これはあれだ。
決して、恋心などではない。
いきなり理由もなくキスをされて気にならない方がおかしいし、何より男が苦手な会長が俺とキスをするなんてあり得ないし、何を考えているのか分からないから気になるのであって、恋愛的な意味での気になるとか意識しているということではない。
俺はスマホを取り出して、今日の日付を確認する。
今日は8月6日。俺たち7人は海に向かっている。
何故こうなったのかは、2週間前に遡る。
※※※※※※※※※※※※※※※
会長とキスをした一件から数週間、特に何が起こったわけもなく、日常は過ぎていった。
7月中旬の期末テスト、そして終業式を経て、昼過ぎの早い下校後に、俺たち生徒会役員は生徒会室に呼び出された。
生徒会室は大掃除をしたからか、前に比べて煌びやかに見える気がする。
ちなみに、役員の振り分けは会長をはじめ、副会長の望月さん、書記のアンナ、会計が俺、庶務が愛生となっている。
生徒会の業務は色々と面倒だったが、5人で分担すれば噂ほど忙しいということもなかった。
会長の言っていた通り、単純に人手不足だったようで、俺と愛生の2人が入ったことによってだいぶ業務体制は改善したといえる。
「みんなに集まってもらったのは他でもない、臨海・林間合同学校の下見についてだ」
「下見なんてなんでするんですか?」
「いい質問だ。時透」
会長は不敵な笑みをして続ける。
「私たち生徒会は仕事しかしてないだろ?何か親睦会のようなことをしたくてな。だから、君達の歓迎会も兼ねて何かしようと思ったんだ。そこで、学校に下見の件を申請したところ、見事勝ち取ったというわけだ」
と会長は誇ったように握り拳を掲げる。
「よく先生たちが許可を出しましたね〜」
愛生は意外そうにして、
「私たち普段からちゃんとしてるからね」
と望月さんはいう。
そんなノリと思いつきで許可を貰えるものか、と思ったが、たしかに生徒会の貢献度は他のどの委員会よりも高い。
また、話によると臨海学校と林間学校は、遠足のような催しとして案が出ていたらしい。
臨海学校などは児童の健康増進等を目的とする集団活動である。その健康という側面は、俺たちに合っているらしい。
というのも、球技大会では冗談めいた暴言が多かったことから、精神的な健康という一面を成長させるということなのだそう。
「以上が今回の経緯だ」
それにかこつけて許可をもぎ取るという発想と行動力は尊敬はするが、真似したいとは思わないな。
「一年生は覚えておくといい。権力というのは無理を通すためにあるんだ。感謝や善意といった目に見えない賄賂は実に効果的だ」
「言ってることが詐欺師なんすよ」
「じゃあ、旅行気分ってことででいいんですか?」
アンナは首を傾げる。
「そうだ。ただ今回は一泊だけだから、昼頃に海に行って、夜は山付近でバーベキューの予定だ」
「つまり、臨海学校と林間学校のいいとこどりなんですね〜」
「端的にいうと、深嬢の言う通りだ」
一通り話が終わると、愛生は首を斜めにして言う。
「しゅんちゃんは男の子1人ですけど、そこの所は問題ないんですか〜?」
「それは俺も思いました。男1人だと肩身が狭いんで友達呼んでもいいですか?たぶん、男手もあった方がいいと思いますし」
「ふむ、いいが、あまり大人数誘うなよ。一応生徒会役員の歓迎会なんだから」
合コンのようになるのは俺自身困るし、それはいい。
しかも、会長の場合は男が多くなるのはキツイものがあるだろう。
「大丈夫ですよ、会長。こいつ友達少ないですから」
アンナは俺に指を差して鼻で笑う。
「その通りなんだが、、、お前にだけは言われたくはねぇ」
俺は対峙するようにアンナに言い返す。
愛生や会長、望月さんは人望が厚いし、クラスの中心人物というのは、ここ1ヶ月でよく分かった。
しかし、アンナだけ人望は普通以下。だからコイツにどうこう言われる筋合いはない。
「それどうゆうことよ!」
「はいはい、イチャイチャ突き合うのは夜だけにしてよ。話が停滞気圧になっちゃうよ」
「「イチャイチャなんてしてません!!」」
望月さんの下ネタにツッコむのもいい加減疲れた。
そのせいか、俺たちの口喧嘩はこんな数秒で強制終了させられる。
「で、日にちはいつになるの?ひなのことだから、もう色々計画してるんでしょ?」
「8月6日と7日の2日間で予定していて、6日の朝に集合、海に行ってから山で一泊して、7日の夕方に解散だ。みんな用はあるか?お盆には重なってないはずだが」
「8月6日ですか……」
俺の予定は特にない。しかし……
俺はチラリと愛生の方に目をやると、愛生と目が合ってしまい、すぐ目線を逸らす。
「私は特に予定ないので大丈夫ですよ〜」
俺の考えを理解したとばかりに、愛生は笑みを浮かべ参加を表明する。
「私も大丈夫です」とアンナ。
「いけるよ」と望月さんも。
この人たち暇なのか?そんなあっさり決めるのかよ。
俺にとって、最悪の場合、女性陣4人と俺だけの可能性もある。
生徒会の仕事の付き合いならまだしも、遊びというのは話題が限りなく少ない。事実、以前の喫茶店での俺は、ほとんど空気だった。
いい男は聞き上手という話を聞いたことがあるが、あまりにも寂しい。
「予定は問題ないですけど、誘った友人が来れないようなら考え直します」
と一度は悩んだものの、この心配は俺の杞憂だった。
この話の後、樹と連絡を取ったら、二つ返事で了承を得た。
元々フットワークは軽い奴だったのだが、それ以外にも「美女たちを上手く撮る練習にもなる」とか言っていた。
こういうわけで、生徒会+αの親睦会が行われることになった。
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