球技大会の待ち時間ってやること無くて暇(2/2)
可憐な容姿の生徒会副会長は、歩く下ネタ製造機だ。
この人が会長の右腕的な立場で、しかも、会長が男性恐怖症だということを知っている数少ない人物。
会長の秘密を知っているわけだから、友達ではあるのだろう。以前、体育館の壇上で会長と並んで立っていることを見たことはあるが、もっと大人しい人だと思っていた。
人は見た目によらないという言葉は、こういう時に使われるんだろうな。
下ネタを熱弁する残念美人先輩は、満足したのか話題を戻す。
「私が言うのもあれだが、生徒会は美人が多いと言われているからな。――そうか!まさか、、、私狙いーーッ」
望月さんは自身の肩を触り、守りの体勢を取る。
「えっ、そうなの…」
アンナは寂しそうな眼差しを俺に向けてくる。人の言うことを素直に聞きすぎだろ。
「それだけは絶対ないです」
俺は望月さんの妄言を怖気付くことなく否定する。望月さんは先輩という立場であるけど、この人への気づかいはどうでもよく感じている。
綺麗な人だと思った初見の感想を返してほしい。
「まぁいいや。これからもよろしく!じゃあ私は次の試合あるからいくねー」
そう言い残すと、望月さんは俺たちに笑みを向けながらグラウンドの方に走っていった。
クラスの友達だろうか、先程の奇人のような振る舞いは何処へやら、側からみればただの明るい女子高生である。
あんな風に普通にしていれば、ただの美人なのに……
「嵐みたいな人だな」
「仕事はできる人なんだけどね。メリハリがありすぎて、初めに会った時は二重人格かと思ったわ」
俺がポツリと感想を言うと、アンナは呆れ半分で応じる。
「へーー」
さっきまでの俺とアンナの重苦しい話題を置き去りにして、気まずい雰囲気だけが残った。
もしかしたら、望月さんはこの空気を壊すために来てくれたのかもしれないな。走り去っていく望月さんの顔はどこか安心したような感じだった。
俺はあれ以上話を続けたくなかったし、ちょうど良かった。
「さっきの話の続きだけど」
「俺そろそろ時間だから体育館いくわ」
「ちょっと!待ちなさいよ!」
俺がベンチから立ち上がって、この場から逃げようとすると、アンナは俺を追いかけるようについてくる。
「まだ話は終わってな――ッ!」
話を始めようとするアンナは自分の靴紐を引っ掛け、足がもつれて前のめりになってバランスを崩した。
「あぶなっ」
俺は思わずアンナの身体を支えるため横から肩を掴む――はずだった。
「―――――ッ」
なんとか倒れるアンナを支えることはできた。もし俺がいなければ身体から地面にダイビングしていただろう。
ただ、左手はアンナの左肩を支えているが、右手はアンナを抱えるため上半身を触っているので、シフォンケーキのような柔らかな感触があった。
お互い、状況の把握に脳の処理が追いつかず時間がかかる。
アンナからすれば、バランスを崩して転びそうな時に身体を支えてもらった。しかし、男子に胸を触られている。
「あ――ン」
アンナはか細く喘ぐ。俺の握力が強すぎたのかもしれない。
お互いの体温が交わり思考が鈍くなる。
かろうじて分かるのは、右手の沈むような感触と激しく脈打つ心臓の鼓動。
心拍数が上がっているのは俺なのか、それともアンナなのかは分からない。
人肌に触れたのは、何年ぶりだろう。
あぁ――人ってこんなに温かいのか
その間―――僅か3秒。
静止した時を動かしたのはアンナだった。
「いつまで触ってるのよ!」
「すまん!」
アンナは望月さんに触られた時よりも乱暴に俺の手を振り解き、頬を赤らめる。
「男の人には触らせたことなかったのに……」
顔を赤くしたアンナは、そう言い残して靴紐を結び直さずに走り去ってしまった。
俺は正しいことをしたと思う。
目の前で転びそうな人がいたら肩を貸すのは当たり前だし、見過ごしたら気分が悪い。
俺は出来ることを見過ごしてしまうと後悔する。
あの時助けていたら、あの時手を貸してしれば。
そんな「〜たら〜れば」を記憶力のせいで一生背負わされる。
だから感謝の言葉はいらない。
俺の都合で俺が勝手に助けただけだから。
けれど、アンナのあの反応はさすがに心苦しい。
俺は罪悪感を覚えつつ、右手には柔らかい感触が残っていた。
ここまでお読みいただいて本当にありがとうございます!
ラッキースケベはライトノベルにあるあるだと思いますが、実際文章にすると難しいと思いました。感想いただけると嬉しいです!
これからも継続して執筆していくので、ブックマークや評価、いいねや批評などぜひぜひお願いします!!