球技大会の待ち時間ってやること無くて暇(1/2)
6月26日
球技大会当日。
気持ちの良い日差しに、汗を乾かしてくれる風。グラウンドの芝生は生徒会で手入れした甲斐あって、均一に刈られている。
俺もその芝刈りを手伝ったからか、目の前の見晴らしが心なしか気持ちが良い。
生徒会の業務で休日出勤した後も、この1週間に色々あった。雑用が多くて悪態をつくこともあったが、全ての準備を順調に終え、こうして今日を迎えている。
今年の球技大会は、体育館でバレーとバスケ、グラウンドでドッヂボールをする。天気が悪ければドッヂボールは延期だったがその心配はないようだ。
そんなスポーツ日和、俺はグラウンド隅の日陰のベンチでドッヂボールの試合を、始めは気持ち良く観戦していた。
そう、始めは。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
「くっ!!いってぇーー!」
グラウンドでボールを投げる男子達からは、穏やかな雰囲気をぶち壊すような声を上げていて、スポーツマンシップのカケラも感じられない。
下品極まりない言動は、この学校の特色なのかもしれない。
「お前、指大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、もう治りかけてる」
数秒前まで痛がっていた奴は怪我が再生しているのだろう。何事もなかったかのように試合を続行する。
最近、行き過ぎたジョークをよく耳にする気がする。
偉い人の話を聞いたり、道徳の授業を受けていたりしても、人の本性は変わらないのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺は自分の出番まで暇を潰している。
ちなみに俺はバレーボールにだけ出場する。
基本的にバスケとドッヂは制限時間があるため順調に進んでいくが、バレーは点数制である。ゆえに、時間が延びることが多く、出番まで暇なのだ。
俺の番はまだまだ先。久しぶりの1人の時間、今は満喫するに限る。
「こんな所でクラス応援もしないで何してるのよ」
俺が穏やかにしていると毒を含んだ声が呼びかかる。
クラスの委員長だからか、背後にいたのはアンナだった。
「なんだよ、いい気分だったのn………ーーーっ!!!」
平穏を脅かしたことに不満を言おうとした瞬間、俺は息を呑んだ。
アンナの体操着姿は、何処ぞのなんちゃってコスプレより格段に煽情的で、身体のラインをくっきりと表していた。
男の理性を破壊する双丘を示すような体操服は狙っていても難しい。
「何じっくりと見てるよのよ!変態!!」
そんな自分のビジュアルをわかっているのか、俺が言葉を失っていると、身体を守るように両手で隠しきれない身体を覆う。
「乾燥機にかけちゃったのよ〜。一体どうして…こんなことに……」
恥ずかしそうに身体を丸めるアンナ。俺は目を逸らしつつアンナに応じる。
「話しかけたのはそっちだろ」
「仕方ないじゃない!洗濯機回すの忘れてて昨日急だったのよ!」
半泣きのアンナは顔を赤くして自分の行いに後悔する。
まぁ俺にとってそんなこと知ったことではない。
「それで、なにしに来たんだよ」
俺がいつもの調子で話すと、アンナは少しは落ち着いたのか普段の調子を取り戻す。
「こんな所でクラスの応援しないで、何してるのよ」
「応援って言ったってあそこは邪魔になるだろ。それに女子しかいない場所に入っていけるほど、俺はメンタル五○悟じゃねーよ」
グランドで俺たちのクラスを応援しているのは、ほとんどが女子だ。その中に1人で突撃できるほど、俺のメンタルは強くない。
「メンタル…五○悟……?なにそれ?」
「悪い、今のなし」
そうだった。アンナには漫画やアニメのネタが通じないんだったな。今度、漫画を貸してやってもいいかもしれない。
俺が真剣に布教活動の計画を練っていると、アンナが俺に言いにくそうに問いかける。
「……なんで、愛生さんと付き合わないの?」
「なんだよ。藪から棒に」
「やぶから…ぼう…?」
「いきなりってことだよ」
「あ、あぁーー知ってたわよ!あんなに言われなくても分かってたわ!そんなことより!」
アンナは動揺したものの、話を切り替えようと強調する。
「どうして愛生さんと付き合わないの?」
また恋愛のことか、と俺は呆れてしまう。
「別におまえには関係ないだろ」
「関係あるわよ!」
いつにも増して、アンナは感情的で真っ直ぐに聞いてくる。
「タイプじゃないからとか、理由を知りたいの!だって、……それなら…私はどうすれば……」
「最後なんだって?」
「うるさい!」
「あんたが中学の時に言ったんじゃない!溜め込むくらいなら吐き出せって!生徒会の仕事してる時、どうしても気にしちゃうのよ!」
たしかに以前そんなとこを言った。あの時のアンナは見ていられなかったというのもある。
転入生で、しかも目立つ金髪の少女が真面目さを教室で奮っていたら、当然のように衝突が起こった。その時、見るに見かねて俺がそんなこと言ったんだったな。
「だから……責任……取りなさいよ」
「あーーわかったよ」
俺はアンナに口外しないことを条件に話した。
約束を守るという点では、アンナは樹の次くらいには信頼している。
俺の友達が少ないというのもあるが、今はそんなことどうでもいい。
母と父の離婚、そして母が愛生の父へしたこと。
「……くだらない」
「は?」
「くだらないって言ったの!」
くだらない?俺がこんなに悩んでいることがか?
「あんたは結局誰が好きなのよ!自分の心は?恋愛否定する俺カッコいいとか考えてるなら、ほんとに気持ち悪いからやめなさいよ!」
俺は何も言い返せない。
たしかにその通りだ。ぐうの音もでない。
普通の人ならそう思うだろう。前に進むため、過去を自分の中で消化して、新しいエネルギー源にする。
嫌な過去もいい思い出も、全てが栄養になって自分自身を構成する。
それは間違いなく正しいことであり、俺は間違っている。普通なら、これをやってて良かったな、と大人になって感じることが多いのと同じではないかと思う。
でも俺はあえて言いたい。
「誰もがそうあれると思うな」
「え…?」
「お前にこれだけは言いたくなかった」
「なに、言ってるの?」
俺が言い返したことがないからか、アンナは半歩後ずさる。
「俺には障がいがあるんだよ。」
俺はアンナに話してしまった。そのつもりはなかったのに。
瞬間記憶能力。
俺は過去を消化できない。栄養にできない。だから成長ができない。
「……少ない勉強量でテストが高得点なのはそれだけなんだ」
あぁ、カッコ悪いな俺。
自分は障がいを持っているから仕方ない。どうしようもないよねって寄り添って貰いたいんだ。自分の醜穢さに反吐が出る。
過去が怖い、人が怖い。忘れられない。
アンナに的確に心の弱い部分を言われて、ついつい言い過ぎてしまった。
「あんた……」
アンナは何か言いかける。嘲笑か侮蔑か、くるなら来やがれ。
こんな俺たちの重い雰囲気を変えたのは、意外な人物だった。
「アンナたん、やっほーー!やっぱ良い胸してるね〜」
「ちょ!!?!?!?」
俺たちが神妙な面持ちをしていると、アンナの背後から1人の銀髪の女子が脇に両手を通してアンナの胸を揉みしだき始めた。
「ーーーッ!!!やめて下さい!!望月さん!!」
アンナが手を振り解くと、後ろには女子のジャージを着たボーイッシュ風の人物が満足気に指先をワナワナと震わせている。
「私の手でさえもはみ出るとは…もう一回揉んでいい?」
「いいわけないじゃないですか!さすがに怒りますよ!」
俺が唖然としていると、エロ親父のような発言をする人物は俺とアンナの間に割って入ってくる。
「君が瞬記くんだね、私は生徒会副会長の望月玲美だ。よろしく」
軽い自己紹介と挨拶をする女子は、先輩の望月副会長らしい。
光を反射しそうな艶のある銀髪は短めで、青白い吊り目が印象的な人。身長は女子の中では高めなのか、俺と同じくらいある。
「どうも、時透瞬記です」
俺が挨拶を返すと、満足したのかアンナの方に振り向く。
「で、本当に触ったらダメか?そんな服着てるのに」
「ダメに決まっているじゃないですか!」
「いいじゃないか、瞬記くんも見たいだろ?」
「見たいか見たくないかといえば、見たいですね」
俺は先程のアンナとの話を無かったことにするため、先輩の話に乗ることにした。
ちなみに、さっきは望月さんがアンナの胸を鷲掴みしていたが、触っていなくても見ているだけでその弾力が分かるほどにエロい光景だった。
「ばか!忘れなさい!」
「そうはいかないんだよな。さっき言ったろ。俺は記憶力は良いんだって」
「君、なかなか良いセンスしてるじゃないか。その言い回しは良い感じにキモくて良いね!」
「それほどでもないですよ。事実なので」
望月さんは話のわかる人だ。
「あっ!そうだ」
アンナを獲物として見ていたはずが、急に思い出したように望月さんは俺に振り返える。
「瞬記くんは誰が目当てなんだい?」
「へ?」
「だって生徒会に入ったんだろぅ?王道の会長とこひなちゃんか?この爆乳のアンナたんか?それとも人気のある愛生さんか?」
ニヤつきながら望月さんは俺に聞いてくる。まるで、修学旅行の夜のようなノリで。
「いや、そういう恋愛的なことは考えてないっすね」
「は?生徒会に入ったのに下心とかないの?」
「会長に言われて手伝いしてるだけですよ」
俺がキッパリと答えると、望月さんは少し固まったのち、ため息をつく。
「なんだ。君には失望したよ」
「はい??」
「いいか!女子高生の身体に合法的に触れられるのは男子高校生だけだ!大人になって女子高生に手を出すのは犯罪。援交やらパパ活やら周囲から言われるからな!つまり、男子高生はオ○ニーせずに女子高生を抱くべきなんだ!」
あーーわかった。この人、残念美人だ。
(続く)
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