表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/53

車のナンバープレートを計算して10にするゲームって、子供ならみんなやるよね?


俺は退屈が好きだ。

 ダラダラと時間を浪費し、無意味の中に意味を生み出そうとする。

 

 例えば、子供の頃に色のついた床のタイルだけ踏んで歩くとか、自動車のナンバープレートを計算して10にするとか、全く意味のないことに一喜一憂する。

 

 そんなたわいも無い暇つぶしは退屈だが、もう手に入らないと思うと、どうにも愛おしく感じてしまう。




 会長に言われた通り、放課後に生徒会の前まできた俺はそんなことを思いながら、深くため息をする。


 これから何か仕事をさせられるのかと思うと、足取りが重くなる。月曜日出社の会社員はこんな気分なのだろうか。


 俺は生徒会のドアをノックする。

「入っていいぞ」

声に促されるまま、自然とドアノブに手を掛けて扉を開ける。

「失礼します」

「来てくれてありがとう。時透君」

 俺は改めて生徒会室を見渡す。


 入って左手には本棚があり、よく見ると過去の資料が保管されている。真ん中には2つの長机といくつかのパイプ椅子。


 右手には大きなホワイトボードとその隣の窓側にショーケースのような収納棚の上にティーセットやポットが置いてある。

 

「会長だけですか?」

 

「そうだ。副会長の望月は野暮用でな。権正が来たら話をするつもりだ。どうだ?今度は茶でも出すぞ」

 会長はティーセットを指差して、淡々と告げる。

 

「じゃあ貰います」

 俺は1番手前の椅子に座り、会長が茶を淹れ始める。


 会長が紅茶を淹れる姿は一つ一つが丁寧で、大和撫子のような雰囲気を醸し出す。

 

 なんだろう、このちょっとした沈黙が少し気まずい。改めて考えても、俺は会長のことを何にも知らない。何か話題を模索するが、共通点が少なすぎる。

 

 俺は脳内をフルに回転させて最適解を導き出す。

「いきなりですけど失礼な質問いいですか?」

 

「なんだ?」

 

「会長の男嫌いって他は誰が知ってるんですか?」

 会長の手が一瞬止まったように見えた。やはり言わせるのは避けた方が良かったのかもしれない。


 だが、これは俺が知っておくべきことだろうし、最優先することだから素直に知っておきたい。

 

「この学校では、君以外に保健室の先生と副会長の望月くらいだな」

 会長の声音に変化はない。

 

「そうなんですね。会長に何かあればその2人を呼ぶようにします」

 

「助かるよ。そうだ、砂糖はいるかい?」

 

「大丈夫です。ありがとうございます」

 俺は席を立ち、会長が淹れた紅茶を持って戻る。

 

 俺はいつも珈琲を飲むから紅茶はあまり飲む機会がない。

 紅茶が嫌いというわけではないのだが、眠気覚ましにカフェインを摂取するなら、圧倒的に珈琲の方が効率がいいからだ。


 そんな紅茶への評価を考えながら、時間をかけてゆっくりと紅茶を口へ運ぶ。

「!!!!」

 口に入れた瞬間、声を出してしまいそうなほどの衝撃。身体に上品な香りが突き抜け、リラックス感に包まれる。

 

 珈琲のやる気を出させるカフェインに比べて、この紅茶は安らぎをもたらしてくれる。


 紅茶って、こんなに美味かったのか…。

 

「じゃあ私からも質問をしていいか?」

 

「なんですか?」

 

「君はなぜ子役を辞めたんだ?」

 紅茶の感動を消し飛ばすように、俺は紅茶を飲む手を思わず止めてしまう。

 

「人が怖くなったんですよ」

 

「人が?」と会長は疑問に満ちた顔をする。

 

「物覚えが良かったんで、子役の時は大人たちからはチヤホヤされましたよ。でも一度間違えただけで、手のひらを返される時もあるって知って怖くなりました」

 

 これは親にだって言わなかった俺の本音。会長は自分の弱い部分を包み隠さず話してくれた。それなら、俺も嘘をつくわけにはいかない。

 

 ずっと心の中に秘めていた人に対するどうしようもない恐怖心。人気者が一度でも間違えると、破滅することのリスク。


 結局、俺は自分が大好きなだけの利己主義的な小心者だ。

 

「きっかけはある俳優の不倫謝罪会見でした。そういえば会長と名字が同じですよ」

 

 あの俳優と会長は目元が似ているような気がする。名字も会長の神宮寺と同じだ。

 

「そうだ。神宮寺迅は私の父だ」

 

「え、ほんとですか!?!?」

 流石の事実に俺は目を見開く。会長があの人の娘…。

 容姿からも説得力しかなく、俺はそれから言葉を失ってしまう。

 

「父さんのことで人生が変わったって……私たちちょっと似てるね…」

 俺は普段の会長の口調と違っていることに違和感を覚える。

 

「それってどういう……」


 

俺が言いかけた瞬間、言葉を遮るように生徒会室のドアが開く。


「げぇ、、やっぱり居る……」

 開口一番、俺に失礼な言葉を吐け捨てたのは、教室では隣の席のアンナ。


 そして、アンナの後ろからもう1人生徒会室に足を踏み入れる人物がいた。

 

「愛生?なんでここに?」

 

「えへへ〜来ちゃった〜」

 愛生は俺に悪戯っぽく笑いかけてきた。愛生が生徒会に入ってるわけがないし、まさか…

 

「君は、深嬢さんだったかな」

 会長は名前を思い出す素振りを見せず、自然と名前を確認する。

 

「会長さん、私の名前知ってるんですか!?」

 

「全校生徒の顔と名前は覚えているぞ」

 

「嬉しいです〜!ありがとうございます〜」

 愛生は自分の髪を摘みながらはにかむ。会長の顔を知っているとはいえ、教室とは違う生徒会室で普段通りを振る舞える愛生は真のコミュ力強者だと感じる。

 

「深嬢さんは私と同じクラスで生徒会を手伝いたいって言ってくれたので、とりあえず連れてきました」

 説明をするアンナの表情は読めない。

 

「アンナちゃんは大変そうだし、しゅんちゃんも手伝いをするって聞いて、私も何か出来ないかなって思いました〜!お節介でしたか?」

 

「いや、助かるよ。ありがとう深嬢さん。よろしく頼む」


 拒否する理由もないのだろう。会長は愛生を快く受け入れた。こうして、顔だけ見ればハーレムラブコメが始まりそうなメンバーが揃った。







 

「今回話し合いたいのは、来週の球技大会についてだ」


 来週にはクラス対抗の球技大会がある。種目はバレーボール、ドッヂボール、バスケットボールの3種目。

 そういえば、数日前にクラスの体育委員がクラスで出場するメンバーを決めていたな。

 

「私たち生徒会は道具を揃えたり、くじ引きを作ったりと、いわば、裏方の仕事をすることになっている」

 

「そんな仕事、体育委員にやらせてればじゃないですか」

 と俺は思ったことをそのまま口にしてしまう。


「体育委員にはクラスをまとめて球技大会を盛り上げて欲しい。だから仕事はできる限り生徒会が受け持つことにしたんだ。新しい学校で不慣れなことも多いからな。面倒事は生徒会がやればいい」

 会長は自然な流れとばかりの説明をする。


 この人、なんちゅうお人好し、、、

 

「面倒な仕事をあえて引き受けるなんて…」


 やることは、マーカーコーン、ビブス、ボールの確認、時間の調整、トーナメント表作成、くじ引きの作成その他もろもろ、、、、

 放課後だけで終わるのか…この量、、、、。


 

「ということで明日は休日なんだが、学校に来て作業をして欲しいんだ。頼めるか?」

 …………………………休みに、仕事だと!?!?!?


 「私はいいですよ。生徒会書記ですから」

 アンナは当然とばかりの返答。

 

「私は……」

 愛生は溜め込むように言い淀んでチラリと俺を見る。

 

「しゅんちゃんも行くなら行きます」

 と仕方ないとばかりに肯定する。

 

 明日は俺とのデートと張り切っていたから行かないと言うかと思った。

 

 俺は空気に流されない男…………

 

 俺は3人から冷ややかな目線を感じて、その考えを否定する。

 

「……………………(超面倒だけど)わかりました」

 最後の歯磨き粉を出し切るように俺は了承した。


 そうして、生徒会の手伝いとして俺は休日に労働をすることになった。


※※※※※※※※

 

 日が落ちかけ、辺りが暗くなり始めて空気が冷える。あれから、雑用をこなしていたらこんな時間になっていた。生徒会が多忙だと言うのは本当だった。

 

「なぁ」

「ん〜?」

 

「よかったのか?明日デートするって言ってたけど、無くしちまって」

 

 俺と愛生は帰りが同じなため一緒に下校している。

 

「確かに残念だけど、休日にしゅんちゃんと一緒にいれるならいいよ〜」

 

「なんかごめんな」

 

「うぅん、私こそごめん……」

 

「なんで愛生が謝るんだよ?」

 愛生足を止めていきなり頭を下げる。

 

「お昼休みにしゅんちゃんに変なことしちゃったでしょ。私どうかしてた。本当にごめん。2度としません」

 

 こんなに真剣な愛生は久しぶりな気がする。


 いつもクラスの中心にいて基本笑顔をみていることが多いせいか、普段とのギャップに俺は動揺してしまう。

 

「忘れてたし、あんまし気にしてねーよ。もうしないって言うなら、それでこの話は終わり」

 

 これは嘘だ。俺が忘れるわけがない。


 気にしないようにしているだけで、愛生の顔を直視する度に、あの光景を思い出してしまう。だからこの話題はとっとと終わらせるに限る。

 

「ありがとう。優しいね、しゅんちゃんは」

 

「俺ほど優しい人間はいねーぞ〜」

 これも……半分は嘘だ。

最後まで読んでいただき、伊藤誠にありがとうございます!


これからも書いていくためにも評価やブックマーク、いいねや感想などよろしくお願いいたします!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 白いボートの人……
[良い点] 例えがとても上手いと感じました。 ナンバープレートを足して10にするゲームは自分はしたことありませんが、色のついた床のタイルだけ踏んで歩くのはしたことがあったし、今でもたまにしちゃってるの…
[良い点] 眠い時のカフェイン摂取にはZONEかモンスターしかないね!!コーヒーは飲みすぎてカフェイン慣れした笑 [一言] 一人一人のキャラがきちんと立ってて好きです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ