恋をしない理由(2/2)
「同じだもん!」
愛生の告白を断り続けているが、俺だって好きでやっているわけでない。
でも、別れる可能性が高いのに付き合うのはなんか違う。
俺は愛生を気にしないようにして、弁当を食べ進める。
「しゅんちゃんはああいう会長みたいな人がタイプなの?」
「なんかアンナにも聞かれたな、好きなタイプ」
なんで女子はそういうことをよく聞くのだろうか。
ないものはないんだから答えようもない。俺は話題を逸らすことに注力する。
「アンナって…………名前呼びまで……あの子も確か生徒会だし……」
愛生はボソボソと呟く。逸らし方が不味かっただろうか。
愛生がこういう状態になると決まって悪いことが起こる。
「ど、どうしたんだよ」
「泥棒猫が2匹もいるなんて…よりタチが悪い……、私が甘かった……」
またも不穏なことを呟く愛生に俺は危機感を抱き、弁当の最後に残していた唐揚げを白飯と一緒に口の中にかけこむ。
昼食を取り終えた俺は部室を後にしようと弁当のゴミをまとめていると
「私の魅力がわからないなら……わからせてあげる…」
と愛生は胸のボタンを2つ外して、胸元を露わにしてきた。
「おいっ、ちょッッ……なにやってんだよ!」
ここ学校だぞ、と言いかけるが愛生は本気の目をしている。
色っぽい顔をする愛生は煽情的だ。昔から知ってる俺から見ても、たぶんどんな男でも悩殺できると本能的に感じる。
これは冗談が通じないマジなパターンだ。その時の愛生は数倍の能力を出す。
俺が愛生と腕相撲をした時は、いくら力をかけても壁と戦っていると錯覚するほどに愛生の力は強かった。
側から見たら手を握り合ってるように見えるし、スキンシップを狙っていたのだろうが、俺からしたら屈辱でしかなかった。
また、のめり込むととことん続けるタイプで、子供のころに目にクマをつけながら攻略本なしでポ○モンの金ネ○キをクリアしていた。
つまり、本気になった愛生を止められることはない。
ちなみに、さっき割り箸を片手で粉々にしたのは、その一部だろう。
「しゅんちゃんはさ……私のこと好き?」
艶かしい笑みをしながら愛生は俺に聞きながら長机の淵を辿って距離をつめてくる。
こんな時に冗談を言うと何が起こるか分からない。リアルにパンドラの箱を開けるのはこういう感覚なのだろうか。
ともかく、俺は素直に自分の胸の内を言うしかない。
「……好きか嫌いかなら好きだぞ……ただ恋愛感情はない」
愛生のことはたしかに好きだし、大事な幼馴染だと思っている。だが、恋愛は絶対にしないと心に決めている。
(恋は人を盲目にする)
昔の偉人たちはそんなことを言っていたらしい。まさに的を得ていると思う。
だから、人が恋をすることを、世間ではさもいいことようにされてるのに対して、俺は意味がわからない。
恋は甘い蜜であり毒だ。その蜜の味を知ってしまったら人はダメになるんだ。
または、自分の性欲を正当化するための大義名分に過ぎない。
イケメンの誰々と付き合っているというアクセサリー扱いならまだ理解できる。
そんな打算的に生きることは間違っていないし、狡猾さは褒められることではないが、責められるべきではないと思う。
でも、愛生はクラスでも人気もある美少女だ。そんな愛生と俺とじゃ釣り合いが取れない。
「ふーーん、じゃあ恋愛感情は後からでもいいんじゃない?」
愛生は艶っぽい顔ををして椅子に座っている俺に迫ってくる。
「ちょッ、近すぎるって」
あまりにも愛生が近づくので、俺は愛生から離れるように椅子を壁際寄せる。
それでも愛生は俺との距離を詰めてくるので、俺は壁に押し退けられるように追い詰められてしまう。
「他の女に取られるくらいなら、今まさに既成事実作っちゃったら、しゅんちゃんも分かりやすいよね〜。だってしゅんちゃんだって、男の子だもん」
ゴクリと自分が唾を飲む音が聞こえた。俺は今、何を考えて……
いや、ダメだ…愛生のペースに呑まれるな。こいつはただの幼馴染で、昔からの付き合いで、目のやり場に困る美少女で、、、
そんなことを考えていると、愛生は俺の耳元に顔近づけ囁いてくる。
「私を好きにしていいんだよ〜。大丈夫〜安心して。コンドームあるし大丈夫な日だから〜」
「はっ?ちょっ……何言って」
何も大丈夫じゃねーだろ!!?!?
愛生はそれ以上話すことはないとばかりに、机の上にある俺の手を上から押さえつけ、無言の圧をかけてくる。
こんな物置部屋のような部室でそんなことできるわけがない。しかし、唇が触れそうになる程近く、愛生の匂いが俺の思考を鈍らせる。
愛生が狙ってしているのか無自覚なのかはわからない。
ただ、
このままだとなんか……マジで……ヤバい……
あれ?こいつの髪の毛って……こんなに色薄かったっけ?
キスをしてしまうまでに顔を近づける愛生に俺は……
その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「ほ、ほら、次の授業始まるぞ!」
チャイムと同時に愛生は我に返ったように目が輝きを取り戻す。
俺は焦りながら逃げるように愛生から距離を取る。
「服とか整えてから教室来いよ!」
愛生が大胆に攻めてきたのはこれが初めてで、流石に俺も困惑していた。
以前はこんなことなかったのにな。
こうして俺は部室を後にした。
※※※※※※※※※※※※
「私何して……」
冷静になった愛生は自分のやったことを思い出す。感情が昂ってついつい瞬記との既成事実を作ろうとしていた。
普段、そういうことを考えることはもちろんある、というか考えていない時の方が少ない。
何度も告白して断られているから、そっちの方が都合が良いとまで思う。だが、実行しようとしたことなんてない。
なぜなら、もしかしたら瞬記に嫌われるかもしれないからだ。
「なんで私、あんなことしちゃったんだろ…」
愛生は自分の感情を整理できない。今まではこんなことしなかったのに……
たしかに他の女が瞬記の周りに存在することに動揺はした。だが、そう考えたらまるで頭のストッパーが外れたような気分になって、危機感や焦燥感が自分を満たしてきた。
愛生は自分のシャツのボタンを閉めて、ため息を溢す。
「調子悪いのかな、いつでもリフレッシュできるようにしとかなきゃ…」
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最近はモチベーションが低めであまり執筆が進んでいませんが、善処します!