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おやばと  作者: はーこ
1/18

*1* やさしい子守り歌

 ぱらん、ぱらん。


 聞きなれない、でも心地いい音だ。

 自然と気だるいまぶたが持ち上がる。


「はぁっ、はぁっ……」


 近いところで小刻みにくり返される息が、じっとりと濡れて、静けさに溶けてゆく。

 この体重すべてを支える腕は、儚いくらいに細くて、それなのに力強くて。


「もうちょっとで、村に着きますから、ね……!」


 じぶんをおぶっているのは、ひと回りも小柄な少女のようだった。

 大丈夫、歩けるからと声を発したくても、声帯は一向にふるえない。

 指先も爪先も、ぜんぶが重くて、動かせない。まるで石像にでもなったかのよう。


 荒い呼吸に合わせ、さり、さり。ゆら、ゆらり。


 草をふみしめる音と身体を揺らされる感覚に、いけないとわかってはいるけれど、ひどく落ち着いてしまう。

 ぼやけた意識にちらりと映った景色は、水墨画の世界。とても淡くて、曖昧だ。

 目の前ですべる青みがかった髪だけが、さらりと、色鮮やか。


 ぱらん、ぱらんと、あの音はいまも頭上で奏でられている。子守り歌のように、やさしいおと。

 さむかった。だからこそ、華奢な腕が熱いくらいに感じる。

 はなれたくなくて、もたれかかるうなじで、もう一度まぶたを閉じた。


「……あった、かい」


 ぽつりとこぼれた男の声。たぶん、じぶんのもの。

 それもいきなり襲ってきた、怖いくらいの安心感と眠気にかすれて、あの子に届くことはきっとないんだろうな。


 ぱらん、ぱらん。


 真っ暗に染まる世界で、その音だけがいつまでも、いつまでも、反響していた。

ご覧いただきありがとうございます。

いつか遠くなってしまう時代。子供の頃の思い出をなぞるように描いた作品です。


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にぎやかな仲間たちが登場します。

どうぞ、ごゆるりとお付き合いくださいませ。


みなさんの心にも、向日葵が咲きますように。

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