〜 再会 Ⅳ 〜
第六話です。
「ここでございます」
王と姫の2人に連れられてきたのは薄暗い王城の地下だった。地下牢のようでもあるが、なにかの儀式や研究をする施設のようにも思える。周りを見回していると廊下の先にハゲローブが立っているのが見えた。
「あそこにいるのか?」
「はい、左様でございます」
姫に問いかけながら真っ直ぐそこに向かって歩いていく。
「これはこれは龍神様。どうされましたか?」
ハゲローブがこっちに駆け寄ってきて、仰々しく話しかけてきた。ずっとハゲローブって言い続けるのも可愛そうな気がするな。
「雨音の、あの魔物の様子を見に来たんだ。そういえばあんたの名前はなんて言うんだ?」
「これは大変失礼致しました。私はこの国の宰相を務めております、ヤンガラ・ゴズヴェルノと申します」
「ヤンガラさんね」
「そんな恐れ多い!さんなど付けなくて結構でございます。ヤンガラと呼んで頂けますと大変嬉しく存じます」
「そうか、わかったよヤンガラ。よろしくな」
「はい!はい!よろしくお願い致します龍神様」
握手を促すとちょっとびっくりするぐらいの勢いで飛びついてきた。禿げたおっさんにそんな熱烈に握られてもなぁと苦笑いしてしまう。
「そういえば、姫と王様の名前もきいてなかったな」
「え?先程寝室にてご挨拶させて頂いたのですが…」
姫がものすごくショボーンとした顔になってしまった。こ、これはやっちまったな。
「まじかごめん。ぼーっとしてて聞いてなかったみたいだ…」
「い、いえこちらこそ大変申し訳ありません。お目覚めしてすぐお声がけしたこちらの問題でございます。それでは改めて、このような場所で恐縮ですが、私はこの聖ローンブラン王国の第一王姫、エリーゼ・アイン・ニコラウスでございます」
ドレスの端をつまんでとても美しいお辞儀をしながら自己紹介をする姫の姿は、薄暗いこの場所でも輝いて見える。
「私は国王のネクサス・フォン・ニコラウスでございます」
王が姫に続いて深く腰をおり挨拶をする。王が頭を下げるのを見ることはなかなかないはずなので自分の立場を感じ、少し嬉しくなる。
「エリーゼにネクサス、でいいんだよな?」
「はい、そのようにお呼びください」
「わかった。改めてよろしく」
名前の確認も無事済んだし、そろそろ目的の魔物に会うことにしよう。
「それで、あの魔物はどこだ?」
「あの雑種でしたらそこにころがっています」
「え?あれ、か?」
そこにはボロきれのような、辛うじて身を包んでいると言えるボロボロの服を着た吸血鬼が地面に転がっていた。
「はい。龍神様がお倒れになられた時に好機とみたのか龍神様に襲いかかろうとしましたので取り押さえました。命を奪おうとしたのですが、生命力の異常に強い吸血鬼種ですので倒しきることは叶わず、今こうして縛って転がしているのでございます」
「う、うぐぅ」
俺の命を狙ったのだとしたらこいつは偽物でほぼ断定することになりそうだ。
「おい、吸血鬼。お前は何者だ?なぜここに来た」
「う、ぐ…はぁはぁ」
「答えろ!」
「……」
「お前は雨音なのか?答えろ!こたえてくれ!!」
「………」
「こいつは本当に雨音じゃなくてただの魔物だったのか…」
正直ガッカリしている。雨音だったら必ず俺の声に答えてくれる。こんなふうにそっぽを向いて俺を無視なんてしない。それでもまだ、信じたくなってしまう。
「ここの鍵を開けてくれ。中に入る」
入口のそばにいた騎士に開けてもらい中に入る。後ろからヤンガラ、エリーゼ、ネクサスも入ってくる。さらにその後ろから1人だけメイドさんも入ってきていた。
「雨音…」
転がる吸血鬼に近づき手を触れようとした時、吸血鬼の目がキラリと光ったようにみえた。
「その眼を見てはなりませんぞ!!やはりこやつは魔眼持ちでございます!!」
王に言われて慌てて目をそらす。俺は酷く悲しかった。偽物の可能性は正直とても高かった。それでも俺は雨音ともう一度会えることを期待していた。また一緒に楽しく過ごせると信じていた。それなのに。
「うがっ!!!」
転がる吸血鬼のお腹を思い切り蹴りあげる。
「俺を騙したな!許さねぇぞ!!くそがァァァ!!!」
宙に浮かび上がった吸血鬼をそのまま殴りつける。殴りつけた場所から肉片が飛び散った。だが、すぐさま何事も無かったかのような綺麗な白い肌にもどっていく。それが許せなかった。何度も何度も殴りつける。その度に血と肉片が部屋中に飛び散る。何分間そうしていただろうか。どれだけ殴りつけても吸血鬼は死ななかった。
「戻ろう。こいつの後始末はヤンガラに任せるよ」
「はっ。確かに承りました」
そう言い残して俺は地下を後にする。雨音は居ない。俺はここで1人になってしまった。それでも俺には使命がある。必ず悪を滅し、平和な世界を作ってみせる。そうしていつか。そう、いつか本当に雨音が転生してきた時に、一緒に楽しく過ごせる世界を作るんだ。絶対に。
×××
わしは額から垂れる汗を拭う。あれが龍神の怒りなのか。あまりの凄まじさに眺めることしかできなかった。
「だがあの力が我々のものになったのだな。これは素晴らしい一歩だ。あの力を使って魔物を駆逐し、人種による完璧な統治を完成させるのだ!」
魔物の次は他の国だ。こっちには神がいるからな。逆らえる国などあるものか。
「ヤンガラ様。此奴はどのように処分いたしますか?」
近くに控えていた騎士が雑種を剣で突き刺しながら問うてきた。
「好きに遊べ」
近くに控えていた他の騎士やメイドがわらわらと雑種に群がっていく。悲鳴と笑い声が地下に響きわたる。
「わしはあがる。あとは好きに処理せよ」
我々の牛耳る新たな世界を妄想しながら、上階への階段を登っていく。
お読みくださりありがとうございます。
次回は雨音視点のお話です。
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