〜 再会 Ⅲ 〜
第五話です。
目の前には敵がいた。俺の行先を阻む、ただ1人の敵がいた。力は俺ほうが明らかに強かった。何度も何度も殺した。それなのにまだ敵は立ちはだかっている。俺は彼を殺したくはない。俺が殺したいのは彼の後ろにいるもの達だ。俺は全てを殺さねばならない。破壊し、作り直さねばならいない。それなのに、彼は俺の邪魔をする。どれほどの月日がたっただろうか。ついにその時は来た。俺は彼をしりぞけた。しかし、俺も地に伏せていた。そうして俺たちは眠りについた。
× × ×
「やべぇめっちゃ寝た気がする。ここどこだ?」
混乱していた。俺はさっきまで楽しい日常を過ごしていた。なのになんだ。とても悲しい時を過ごしていたような気もする。俺じゃない記憶が微かにだが存在している。俺は俺であるが、俺でないものでもあると認識している。これは、なんなんだ。俺は誰だ?
「お目覚めになられたのですね!龍神様」
豪華なベッドに横になりぼーっと天井を眺めながら考え込んでいると横から姫が話しかけてきた。姫は少し控えめなドレスを身に纏っているのに、高貴な人間であるのが一眼で窺える。だからと言って雰囲気が怖いわけでもなく、どことなく優しさを感じる見た目の美少女で、思わず目が釘付けになる。そうしていると姫と目があい、恥ずかしくなって少し視線を外して周りを見回すと、ベットのそばには王と数人のメイドさん、そして騎士たちが控えていた。深呼吸をして一度自分について考える。
「俺は、龍神。ヤト・クーシェン・ドラグニス」
さっき聞いた名前を思い出す。口に出すととてもしっくりときた。魂がこの名をよんでいた。それが本来の自分の名前であると信じられた。
「俺はヤト。光の王、星龍ヤトだ。でも、イマイチ思い出せないんだよなぁ。今何が起きてるんだ?俺は一体どうなっているんだ?」
自分で言うのもなんだが、俺は頭のいいほうではない。それでも理解出来ることはあった。ここは今まで生きてきた世界では無い。明らかに違う。そして、俺は悠大では無い。いや、悠大として生きてきた記憶はあるが、ここにいる俺はヤトだった。ふと、誰かの言葉を思い出す。
「お前は過去を変えなくてはいけない。やり直しだ。もう一度お前の世界を受け入れるときだ」
いつ誰に言われたのだろうか。だが、この言葉は忘れてはいけない、今の俺の指針であるように感じる。
「龍神様。私共人族は今未曾有の危機に陥っております。」
一人で考え混んでいると、姫が話しを始める。
「人族は過去、繁栄しました。今ではこの世界を統べるに足る種であると自信を持っているほどに。それも龍神様の加護あってのことです。感謝してもしきれません。しかし、龍神様が退けてくださった魔物には生き残りがいました。」
そうか、俺は過去人間を助けるために悪い魔物と戦っていたのか。
「それらがまた力をつけ始め、今では魔王なるものが侵略戦争を仕掛けてきています。」
魔王!魔王か!そうか、ここには魔王もいるのか。
「魔王もいるなら勇者もいるのか?」
「はい、その通りでございます!昨年勇者の称号をもつ少女が発見されました。まだ実践には出していませんが、訓練では非常に優秀な成績をだしております」
魔王に勇者。それも女勇者か!俺もその勇者を支えながら旅をしたりするのかな。そう考えると、小さい子供の頃のようなワクワクがわきあがってくる。また、姫とこの世界の話をする事に、段々とこの世界に身体と魂が馴染んでいく感覚がある。異世界に転生した悠大は、最強の龍神と呼ばれる星龍ヤトとして大冒険をすることになるんだな!とたのしくなってきた。もうわかんないことは考えない。過ごしてればかってに分かってくるだろう。
「なるほどな。じゃあ俺はその勇者にあわないといけないんだな」
「はい。その通りでございます。さすが龍神様でいらっしゃいます。そのご慧眼感服致します」
「まぁな」
可愛い姫に褒められてどやってしまわない男などいるのだろうか。いやいない。俺も例に漏れずドヤ顔をさらしていた。
「もし、お身体に問題がないようでしたら、今ちょうど彼女は訓練場におりますのでお会いになられますか?」
おっと、ドヤ顔を晒してる場合じゃないな。女勇者にも会えるみたいだし、どんな子なのかすごく気になるからさっさと会いに行くかな。
「おう。早速だけど会いに行こうか」
「かしこまりました。それではこちらへ」
姫と王に連れられて部屋を出ようとした時、大事なことを忘れていることに気づいた。まず最初に聞くべきだったことなのに何故忘れてしまっていたのだろうか。
「いや、まってくれ」
姫たちは立ち止まり驚いている。
「どうかされましたかな?やはりご気分が優れませんか?」
王が心配そうに聞いてくる。
「雨音はどうした?どこにいるんだ」
あの時俺が意識を失うまで雨音はそばにいたのに、今はいない。どこか別の部屋で休んでいるのだろうか?いや、あの時も拘束されていたわけだし、今も良くない扱いをうけているはずだ。まずは雨音を救わなくてはいけない。
「雨音はどこにいる!」
軽く怒気を含ませながら王に詰め寄る。王は冷や汗を垂らしながらも真っ直ぐと俺の目を見て話し始める。
「雨音とはどなたのことでしょう」
王は本当に分からないという顔で問いかけてきた。隣にいる姫は不安そうにこちらを見てくる。
「さっき一緒にいたあの子だ。吸血鬼の。あいつは俺の友達なんだ。ずっと一緒に過ごしてきた大切な友達だ」
「そのアマネという方は本当にあの吸血鬼種のものなのでしょうか?あれは龍神様が退けてくださった魔物のひとつでこざいます」
「なに?でも俺は雨音と一緒に過ごしてきたんだ」
「お言葉ですが龍神様。本当にそのアマネという方はあの魔物なのでしょうか?吸血鬼種には魔眼持ちが多いと聞きます。あのものも魔眼の力を使って、龍神様にそのように認識させている可能性があります」
今度は横で見ていた姫が問うてくる。
「魔眼…」
そうだよな。こんなファンタジーな世界なんだから魔眼だとか魔法とかで惑わしてくるやつもいるのかもしれない。
「龍神様のご友人のアマネ様は本当にあの様なお姿の魔物なのでしょうか」
改めて問われると違う、と思う。俺もツノが生えてるし雨音の姿が変わってしまっている可能性は大いに有り得る。大いに有り得るが意味は分からないよな。どっからどう見ても少女だったし。2人一緒に転生したことに疑問を感じなかったしあいつがいると思ったところに行ったら本当にいたけど、それは本当に俺の直感であの場所に導かれたのだろうか?なにかの魔法をうけて誘導されたということはないか?
「先にも述べました通り、今は魔王が率いて魔物が進行して来ています。あの魔物も魔王の命によって送り込まれた刺客ということは考えられませんか?それにドラゴンは魔物の領域側に住んでいるものも多くおりますので、あの時のドラゴンももしかしたら魔王の手先やも知れません」
確かにそう考えることも出来る。ここの伝説では世界を救う物は龍神だけなんだ。それと一緒に別のものがタイミング良く落ちてきて俺と出会い、転生した友人という設定までついてくることは本当にあるか?いや、どうにも怪しいように感じてくる。
「なるほどな。その可能性はものすごくある、と思えてくるな」
やっぱりおかしい気がする。そういえば俺はあいつに名前を呼ばれただろうか?
「兎に角、もう一度雨音、いやあの魔物に会いたい。本当に雨音なのか雨音を騙る偽物なのかこの目でちゃんと確認したい。あいつは今どこにいるんだ?」
王達は少し考えるような素振りをしつつも、案内をしてくれるつもりのようだ。
「こちらでございます」
こうして俺は雨音らしき魔物と改めて対峙しにいく。もし偽物だったならば、俺は絶対に容赦しない。
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次回から段々と物語が動き始めると思うので楽しみにしていて下さい。
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