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日記:リユウ絶好調

『7月5日


今日の僕は絶好調だ。

やる事なす事上手くいく。


便利屋を営んでいる僕のもとに今日3件の依頼が舞い込んで来た。

普段は一日一件くれば良い方だが、この時からいつもとは違う予感はしていた。


一件目の依頼は、大きなお屋敷の庭の草むしりだ。

依頼人はそこに住むおばあさんでおっとりした感じの優しそうな人だった。


さっそく庭の草むしりを開始したが、思っていた以上に庭は広く、僕のいる隅の方から向かい側の緑豊かな木々を眺めると、まるでブロッコリーが並んでるように小さく、それを見るだけでうんざりした。


2時間ほど経ってようやく十分の一の雑草をむしり終わった。


正直僕は焦っていた。

このままでは終わるのが真夜中になってしまう。他にも2件依頼がある為、やむを得ず僕はおばあさんにまた明日来る事を約束して、草むしりを後回しにした。


2件目の依頼はポスター貼りだった。

依頼人は赤っ鼻をしたピエロで、近々おこなわれるサーカスの宣伝ポスターを百枚とそれを貼付けるノリを渡された。

ポスターの端には、運営が困難になったサーカス団を資金援助をしてくれるオーナー募集とも書かれていた。


ピエロに赤っ鼻を付けてもらい、さっそく僕は町を歩き廻り、壁という壁にポスターを貼っていった。

お店の看板の横や広場の柱、路地裏の誰も見ないんじゃないかと思うような所にもあえて貼ったみた。


お昼の2時を回り、ようやく全て貼り終えた。

ずっしり重かったノリも軽くなり、今日初の依頼達成に僕は晴れやかな気持ちでピエロの所へ向かった。


サーカスのテントの中に入ると団員たちがショーの練習をしていた。

ジャグリングや綱渡り、空中ブランコなどの練習をしていて、その幻想的な雰囲気に僕は少し得をした気分になった。


練習の傍らで団長と思わしき人物が、数人の団員とあのピエロとで何やら重苦しい話しをしていた。

どうやら資金を援助してくれるオーナーが現れなければ今回の講演を最後にサーカスをたたまなくてはならないらしい。


重苦しい空気の中、僕はピエロに赤っ鼻とノリを返して依頼完了の報告をした。

報酬の500ゴルクを受け取り、僕は居心地の悪いこの場所から逃げるようにテントを後にした。


3件目の依頼は土猫狩りだった。

土猫というのは土の中に生息する猫で、草や昆虫を食べて暮らしている。

場所によっては無害な奴だが、それが農作物を育てる畑ともなると話しは別だ。

依頼人は町の農業区を管理しているポッチャリ系なヒゲおやじだった。

話しによるといつの頃からか現れた一匹の土猫に畑を荒らされて困っているという。


さっそく僕は畑にぽっかり空いた穴を調べてみた。

だけどカビ臭いニオイと寝息のような音が聞こえてくるだけでその姿を確認する事は出来なかった。

ヒゲおやじがホースを持ってきてくれて、僕は穴に向かって水を噴射してみた。

すると驚いた土猫が別の穴からピョンと飛び出てきた。

出て来た土猫を見て、僕はヒゲおやじたちが手を焼いていた理由が分かった。

その土猫は通常の土猫の5倍ほど大きく僕の腰ぐらいあり、猫と呼ぶにはあまりにも迫力があった。


僕は動揺はしていたものの依頼達成の為、すかさず土猫を捕らえようと駆け出した。

しかし土猫はその巨漢の割にすばしっこく、しばらく走り回った後、穴の中にヒョイっと戻ってしまった。

再度水を穴に噴射して土猫を追い出したが結果は同じだった。

穴から出して、おいかけっこして、穴に戻るの繰り返し。

そうこうしてる内に1時間経ってしまった。


僕は何か策は無いかと考えているとある事に気が付いた。

土猫は入った穴と出てくる穴がパターン化していた。

どうやら8つほどある穴は全てが繋がっている訳ではなく、2つ・3つ・3つに分かれて繋がっているらしい。

だから入った穴を確認すれば、出てくる穴も分かった。


僕はある事を閃き一度サーカスのテントに戻った。

さっきのピエロから使っていたノリを貰い、再度土猫狩りにトライした。


土猫が入った穴は分かっていた。

2分の1の確率で土猫が出る穴も分かっていた。

僕はホースを手に取り穴に水を噴射した。


土猫が出てくると狙い通り動きが鈍くなっていた。

出てくると予想した穴の周りにたっぷりとノリを落としておいたのだ。

ノリで足を取られた土猫は動きづらそうにヨタヨタと歩き、僕はすかさず縄を首にかけた。


土猫は思っていたほど抵抗はしなかった。

その土を掘り起こす爪で、その鋭く尖った牙で、僕に反撃をしようと思えば出来るのに、まるで危害を加える事を知らないみたいに、ただ怯えていた。


ヒゲおやじに依頼達成を報告すると土猫を駆除するように言われたが、どうしてかそんな気にはなれなかった。

僕はヒゲおやじを説得して土猫を引き取る事にし、報酬の800ゴルクを受け取ってその場を立ち去った。


首に縄を付けられた土猫は大人しく、僕の横を二足歩行で歩いていた。

真っ直ぐ立った土猫は僕の肩ぐらいあり、少し恐ろしかった。

歩いていた事にはもちろん驚いたが、更に驚く事に時折言葉を発し、今後の安否を気にしていたようだった。

ヒゲおやじたちには隠していたようだが、この土猫はやはり普通とは違うらしい。


僕は土猫と話し、森に帰るよう言ってみた。

だけど、森では他の土猫たちにイジメられるらしく、帰りたがらなかった。


しばらく歩いてると土猫のお腹がグゥ〜と鳴った。

僕はその音を聞いて、またしてもある事を閃いた。

僕は土猫を連れて再びあの一件目の依頼があった屋敷に向かった。


土猫はもの凄い勢いで雑草を食べ始めた。

まるでガラス窓を拭くように、右から左、左から右へ、草の根も残さず見事に平らげ、土猫は満足したようにパンパンに膨れ上がったお腹を空に向け、ゲップをした。


綺麗になった庭を見て、依頼人のおばあさんも満足そうな笑みを浮かべていた。

おばあさんは土猫の事が気に入ったらしく、屋敷で預かりたいと言ってきてくれた。

土猫は最初思わぬ誘いに少し動揺していたが、【ロッタ】という名前を与えられてすぐに上機嫌になった。

土猫に居場所が出来て、僕も嬉しかった。


僕は報酬に5000ゴルク貰った。

通常の依頼金額より多かったが、ほんの気持ちだという。


ロッタが手を降って見送ってくれた夕暮れの帰り道、遠くの空に虹色に輝く竜が飛んでいるのを見た。

見た者に幸福をもたらすと言われる幻の竜だ。


今日僕は数日分の仕事を一日で終わらせる事が出来た。

こんな晴々とした日は久し振りだった。

今日の僕は絶好調だ。』



―つづく―


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