春への訪れ
第一部、第一話です!!
これから面白くします!!!たぶん(((
よかったらお付き合いください。
コメント等お待ちしております。
陽が沈み始め、あたりが赤く染まる夕暮れの空。心地良く肌を撫でる春の風。
少女は1人。桃色の髪を風になびかせ、呆然と立ち尽くしていた。
視界に広がる光景が〝こんなもの〟でなければきっと、美しい夕暮れに感動し、微笑んでいただろう。
だがしかし。
「これは一体・・・
どういうことなんだ・・・?」
地面を赤く染め上げるのは夕日か。
否、夥しい量の血液。そこは血の海と化していた。
その血溜まりは夕暮れの茜色を反射し、否応無く視界に入り込んでくる。
血の海に沈むのは数百もの人間・・・だったもの。
もはや亡骸かどうかも判別できまい。
ただの肉塊だ。
朗らかなはずの春の風は容赦なく、むせ返るような死の香りを鼻腔へと運び込んでくる。
民家は粉々に砕け散り、一つとして家は残っておらず、あたりはもはや平地と化していた。
生き残った者はいないだろう。
「何が起こったら、こんな惨状を生み出せるッ!」
一体誰が。いいや、一体どんな化け物がこんなことをしたのか。
少女は怒りに震え、唇を噛みしめる。
吹き抜ける風に散った桜の花弁が、地面に広がる血の海に浮かぶ。
「魑魅魍魎風情がッ・・・
許さんぞ。私が守護するこの国で暴れたこと、後悔させてやるッ!」
拳を握りしめ、怒りと憎悪に満ちた瞳で日の沈む夕暮れの空を仰いだ。
***********
同刻。
少女は走っていた。ただひたすらに。
赤と黄に彩られた葉の絨毯の上をただ走る。
地面から剥き出しになった木の根に躓き、転んで擦りむいた膝小僧に血が滲む。
しかしそれでも尚、痛みを押し殺し走り続けた。
限界を越えているほどの長距離を走っている。
息は切れ、心臓が弾け飛びそうなほど脈打っていた。
それでも止まることはできない。
少女を突き動かすものは、ただ一つ。
〝死にたくない〟
生物として当然の本能。
生きたいと願う本能の赴くまま、行動していた。
それは目の前で人間が一瞬で肉の塊に変貌する様を。
まるで生きているのがバカバカしく感じられるほど一瞬で生命活動を停止させられる様を。
そんな様を見てしまったからには逃げる他なかった。〝生きる〟という〝当たり前〟だったことが根底から崩れ去ったのだ。生きたいと願わずにはいられなかった。
〝アレ〟が他の人間の命を刈り取っている隙に逃げ出し、一心不乱に走るしかなかったのだ。
他者を見捨てた罪悪感が否応なく、心を締め付ける。
追ってきてはいないが、不安と恐怖に押し潰されそうで、ただ走り続けることしか出来ない。
あとどれほど走れば、あの恐怖から解放されるのか。
胃を握り潰されるような不安感、走り続けた息苦しさが相まって、胃からせり上がってくるものを抑え切れず、立ち止まって吐き出す。
「けほっけほっ、おぇっ、ゲホッ!!」
視界が、滲む涙で歪む。
しかし、その涙を拭うとまたすぐに駆け出した。
行くあても、帰るあても場所もない。
それでも終わりのないゴールに向かって少女は走り続けた。
*************
「さて、くそ狐の依頼終了っと。
デコピン一発で消し飛ぶんじゃあ、刀取りに帰る必要なかったな」
「う、うん普通、魑魅魍魎はデコピンじゃ倒せないと思うんだけどね〜」
ま、お兄ちゃんだし、と紅葉は微笑む。
最近はこれといって手応えのある魑魅魍魎と相対していないのも相まって稲荷のパシリをこなしている感が否めない二条兄妹。
しかしながら、一般人では魑魅魍魎と戦うことは出来ず、何にせよこの二人が出張らなければならないのが現実である。
「身体能力だけで圧倒出来れば、俺ら以外でも戦えるのにな」
「〝霊力〟がないと有効打にならないからね〜。仕方ないよ」
「霊力、ねぇ・・・」
〝霊力〟それは魑魅魍魎に唯一有効な力。
この世界は6つに別れている。
そして霊力を自在に操れるのはこの世界でたったの8人。そして例外が1人。
その霊力を使用できる人間は各国に基本1人ずつ存在する。
それらを総称して人は彼らを〝守護者〟と呼ぶ。
世界と人々を守護することを天命とし、命がけで魑魅魍魎と戦う存在。
春ノ国 春景 佐倉桜花
夏ノ国 夏茜 鳴海瑠璃
秋ノ国 秋水 二条時雨
冬ノ国 冬空 冬音初雪
昼ノ国 昼光 光井日奈
夜ノ国 永夜 久遠月影
紅葉のように代表格の守護者じゃなくても霊力を行使して魑魅魍魎と戦える人間を含めて合計9人なのだ。
広大な国に各1人しか存在しない希少な存在である彼らは日々時雨のように魑魅魍魎と戦っている。
その事実は一同承知の上。
時雨はため息を吐き肩を落とす。
「めんどくさ」
「ちょちょちょ、お兄ちゃんそれ言っちゃダメ」
当然なりたくてなったのではない。
遅かれ早かれ待ち受けていた運命故の本音だ。
「とりあえず任務も終わったし、帰るか。
家も近いし、散歩がてら歩いて帰るぞ」
「あ〜い」
時雨は気怠そうに歩みを進めた。
時雨の屋敷は林を少し奥に進んだところにある。
あたりは紅葉する樹木が生い茂っており、庭の落ち葉の掃除が少し面倒なのが難点だが、景色は一級品だった。
あたりに他の民家はなく、集落の外れにある。
なんせ全ての人類が崇める守護者の屋敷なのだから。
歩みを進める二人が屋敷に着くくらいの時、その場所に少女は倒れていた。
「ねぇ、お兄ちゃん、あの子」
「あぁ、魑魅魍魎じゃなさそうだな」
視界の先で倒れる少女の姿。
距離がある段階で時雨と紅葉の2人は様子を伺う。
銀杏の木に寄りかかるようにして倒れ伏す少女が魑魅魍魎でないことを確認した2人は徐々に距離を詰め・・・
「・・・!?
怪我してる!」
紅葉が傷だらけの少女の姿を捉え駆け出す。
「だ、大丈夫!?」
少女を仰向けに寝かし、声をかける。
しかし、少女からは返事がない。
続けて少女の顔と胸に顔を近づける。
「息はあるよ、気を失ってるだけだと思う」
「家、近くてよかったな。
連れて帰るぞ」
時雨は少女を抱き上げ、屋敷へと急いだ。
*************
夢を見ていた。
真っ暗闇の中、走り続ける夢。
「はぁ、はぁ」
いつになったら走るのを辞められるのだろう。
いつまで逃げ続ければ良いのだろうか。
いっそ死んだ方が楽なのではないだろうか。
少女は涙を流す。
「助けて・・・誰か・・・・
助けて、お姉ちゃん・・・・」
世界が暗転する。
夢が覚める。
意識が浮上していく。
また、現実に・・・
*************
「・・・きて・・・」
声が聞こえる。
「お・・て・・・
必死に呼びかける声に意識が浮上する。
「起きて!」
「ふぁっ!?」
見知らぬ人間の大声の呼びかけに、少女は跳ぶように起き上がった。
「あ、目、覚めた?」
目の前にいる赤髪の少女は自分が目覚めたことを喜ぶようにふにゃっと優しそうに微笑む。
「だ、誰ですか・・・」
「ん?アタシはね紅葉だよーん」
「も、紅葉・・・さん・・・?」
場所も、何もかも知らないところ。
少女は立ち上がるとキョロキョロとあたりを見回し、最後に自分の手足に目を向ける。
包帯でぐるぐる巻だった。
「なんで、こんな包帯が・・・」
少女は言いかけて思い出した。
自分が今まで何を見て、何をしていたのかを。
瞬間、身体の芯から震え、頭が真っ白になっていく。
「う、あ、ああぁ・・・」
「ど、どうかした?」
様子が変わった少女に、紅葉は訝しげに声をかけるが、すぐに異変に気付いた。
紅葉は少女の額に人差し指を近づけ軽く一回、トンと触れる。
倒れ込むように眠った少女を再度布団に寝かせると紅葉は部屋をあとにした。
「何があったんだろ〜」
「そもそもどこから来たんだ。
帰らなくても大丈夫なのか」
居間でお茶を啜りながら二条兄妹は2人で首を捻る。
そもそもあの子は誰なのか、どこから来たのか、そしてあの突然のパニックは一体何が原因なのか。
傷だらけで倒れていたことと関係があるのか、考えても考えても謎は深まるばかりだった。
だが、何はともあれこれだけは間違いないだろうと2人の中には確信があった。
「魑魅魍魎だろうな」
「それは間違いないよね〜」
「ええ、私もそう思います」
居間に入ってきた赤髪メイド服の少女が時雨と紅葉の言葉に同意を示す。
「お、赤飯。お茶のおかわりあんがとな」
「いえ、時雨様お気になさらず。
紅葉様は白湯を一滴でよろしかったですか?」
「おっと、この扱いの差はなんだろうな〜」
「日頃の行いですかね」
たんたんと無表情に紅葉のメンタルを砕いていく赤髪の少女は赤飯。
紅葉が自身をベースに作り出した術式の集大成。
オッドアイではなくなりやや身長が低くなった紅葉。といった塩梅のビジュアルだ。
こんなものを作り出せる紅葉は何者かというのはまた別の話。
「時雨様、紅葉様が連れ帰った少女ですが、変わらず部屋で眠られているご様子でした」
「アタシの術式にかけてあるんだもん。朝までは目覚めないよ〜」
「自慢は結構です。
時雨様、今後はどのように致しましょう」
「とりあえず、事情が分かるまでしばらくうちで面倒をみようと思う」
「畏まりました。
朝食は彼女の分もご用意致します」
「あぁ、悪いな、手伝うよ」
「いえ、そんな、時雨様」
「おい、そこの赤いの妹の前でお兄ちゃんに色目使うな〜」
先刻のナイフのように突き刺さった言葉の数々。その恨みを込めた視線で赤飯を睨む紅葉。
「ふっ・・・」
赤飯は鼻で笑い、肩をすくめやれやれと首を横に振った。
「キィェエエエエエッ!!!」
紅葉は悔しそうに床をのたうち回るのだった。
ちなみに・・・
「メイド服はアタシの趣味っ!」とは紅葉の言。
この度は駄文を読んでいただけて幸いでございます。
少ない文章力で書きたいストーリーを書かせていただいております。
よろしければコメント等いただければと思います。