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その春夏秋冬の御伽噺は永遠の時を往く  作者: RED490
第一章 春の行方
2/3

閑話

Wプロローグだと感じが悪いので閑話という形を取らせてくださいお願いします。なんでもしますから。(なんでもするとは言ってない)

物語の構成を理解してないって?自覚あります。

申し訳ございません。

でも前置きはこれで終わりですから!!!

少し、ほんの少しだけ、遠い記憶。

その記憶の一部を、そっと手繰り寄せる。

最も濃厚に最も鮮明に焼きついた、あの記憶の一欠片を。


*****************


「っ!? な、なんの音・・・?」

地面が揺れたと錯覚してしまうほどの大きな音が響いたのは家の外から。

どこから聞こえてきたのか。

その正体を知るために少年は妹の手を引き、家の外に出た。

今は仕事で留守にしているため両親は不在だった。

子ども2人で音のした方向へ駆け足で向かう。

悲鳴が聞こえ、音がしたであろう場所に近付くに連れて行き交う人々が視界に映る。

何かがおかしかった。日が落ちかけている時間帯にも関わらず、視線の先は異常なまでに明るく、赤い光が揺らめいていた。

自宅から少し離れた集落。

左右に立ち並ぶ木造の民家を抜けたその少し先には、秋に染まる赤や黄の色づく林が見える、はずだった。

しかしその光景は少年の想像を遥かに上回るもので目に映る光景に少年は呆然と立ち尽くす。

知っているいつもの風景は、もはやそこにはない。

林は燃え上がり、その炎はまるで生き物のように這い回り民家を焼き払う。

炎の熱を乗せて吹く風が焦がすように肌を撫でていく。

その熱風から逃れるように少し距離を取り、周囲の様子を伺う。

炎から逃げる人、取り残された人。

そしてもう少し奥。林の手前まで目を向けると、助けを求めようと手を伸ばしたまま倒れ伏す人。倒れた人のその背中には決まって大きな切り傷が残されていた。その光景はまるで血の海に沈んでいるようだ。

容赦なく燃え盛る炎は瞬く間に燃え広がる。炎に包まれた民家が次々と倒壊していき、視線を遮るものが無くなっていく。

そしてとうとう視線の先に見える民家が倒壊した。

もう少年と少女の視線を遮るものはない。

激しく燃える倒れた民家の陽炎のその向こう側。

少年は心臓が握り潰されたと錯覚するほど、そして呼吸を忘れるほどの衝撃を受けた。

隣で妹が息を飲むのが分かった。

この地獄絵図を作り出したのは何者なのか。

少年の手を握る妹の手に少し力が入り、震えが伝わってくる。

揺らめく陽炎のせいで見間違えたのか。

いや、そうあってほしかっただろう。

一体どういう状況なのか、少年の思考は置いてきぼりになっていた。

それでも分からざるを得ない事実がそこに在ったのだ。

「母さん・・・?」

口をついて出たその一言に、小さく発したその言葉に。

怯えた瞳で妹は少年を見上げる。

「ねえ、お兄ちゃん。

やっぱり、あれ、お母さん・・・?

なんで、お父さんを・・・」

少年は妹の言葉に、何も返すことが出来なかった。

少年自身、信じたくなかった。目に映るこの状況を認めたくなかった。

父が使っていた赤い柄の刀〝杠葉〟を握る女性。

血涙を流しながら、薄く微笑んでいるようだ。それでも目だけは笑っていない虚ろな瞳。

そしてその〝杠葉〟に刺し貫かれたまま、力なく項垂れている男性。

2人が見間違うはずなどなかった。

あれは兄妹の両親なのだから。

少年も妹もそれ以上口を開くことはなく、ただ静かに呆然とそれを見つめていることしか出来なかった。

状況を再認識した瞬間、体が恐怖に支配されてしまったからだ。

声?出ない。逃げる?体が動かない。

遮蔽物など一切ない、直線上に母だったものの姿。

当然、相手も少年たちに気づく。

此方に気付いた母から表情が抜け落ちる。

先ほどまでの喧騒が嘘のようで。あたりは燃え盛る炎の弾ける音と離れた場所で民家が崩れる音が響く。

しかしそんな雑音は少年たちの耳には入ってこない。

この緊迫した状況はもはや静寂に支配されているといっても過言ではない。

周りにいた人は逃げたか殺されたか。

この場には2人しか残っていないのだから。

母は父から〝杠葉〟を勢いよく引き抜いた。

瞬間、夥しい量の血液が宙を舞い、母の顔や身体に飛び散る。

血に塗れた〝杠葉〟を軽く一閃させ、刀身の血液を振り払うと、ゆっくりと歩み寄ってきた。

ふらふらとした足取り、焦点の合っていない瞳にはやはり光はなかった。

彼我の距離はゆっくりと、しかし確実に縮まっていく。

近付くにつれて、小さく呟くような声が聞こえてきた。

「コ・・・ロス、コロ・・・ス、コロス、コロス。ドウシテ妾ガ・・・ナゼ・・・ジャ・・・」

少年は腰が抜け、その場にへたり込んだ。

足が震えて立てないのだ。逃げたくても体が動かない。

妹は少年にしがみ付き、小刻みに震えている。

妹を連れて逃げなければ、と頭では考える事ができても、やはり体が言う事を聞かないとどうすることもできなかった。

もたもたしている間にも刻一刻と距離は縮まっていく。

距離が消え去るのに時間はかからなかった。

血にまみれた剣先と、土で汚れた母の裸足の足元だけが、少年の視界に映る。

恐る恐る見上げる。

そこには母の面影はなかった。

優しい母の眼差しは消え失せ、光を宿さない、死んだ瞳で2人を見下ろす。

艶めいて綺麗だった母の髪は乱れ、顔に掛かっている。

血液が滴る〝杠葉〟があたりの光を反射し、怪しく、不気味に光り輝く。

情けも容赦も考える余地すらないと感じさせる虚ろで冷ややかな視線に、少年は認めざるを得なかった。もはや希望などない。

ここで殺される。そう少年は半ば諦めていた。

今、目の前で〝杠葉〟を振り上げているこの人はもう、あの優しくて温かくて、いい匂いのする大好きな母親ではないのだ、と。

「母さん、どうして・・・」

少年の頰に一筋の涙が伝った。

刀が振り下ろされる瞬間、固く目を瞑り、顔を逸らした。

しかし、


ガキィン。


「・・・?」

覚悟していた、痛みも衝撃もない。届いたのは金属同士が激突するような甲高い音だけ。

勢いよく振り下ろされた刃が少年に届くことはなかった。

そして優しく頭を撫でられる感覚と。

「無事か、ガキども」

よく知っている声だった。

少年と妹は静かに声の主を見上げた。

「おじさん・・・」

安堵。

助かった安心感。と同時に突き付けられていた状況を再認識。その現実に涙が止まらなかった。

「さっさと逃げろ、ガキども。

ここはワシに任せろ」

「ゔんっ!!!

お願い、母ざんを、たずげでッ!!!!」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔。

助けがきた。諦めていた少年の心に小さな希望の光が一筋。安堵に涙が止まらなかった。

腰の抜けた妹を背中に担ぎ、駆け出す。

声にならない声で一縷の望みを込めて、母を助けてほしいと、少年は願った。

だが希望とは別。心の隙間で微かに火が灯る感情があった。

少年に自覚はない。ただふと感じたこと。

父を殺したのは母ではない。

そう母を、父を奪ったのは・・・

(——バケモノめ・・・)

背中に担がれている妹はきちんと少年の顔を見ることは出来なかったが少しだけ見えた横顔に息を呑んだ。

涙を流し、前を見据える少年の目に宿るのは怒りと憎しみ。

幼い少女でも一目で理解出来るほど、ドス黒い感情が色濃くその表情に刻まれていた・・・。

この日、8歳の少年と4歳の少女が人生で初めて、大切な人間を失った瞬間だった。

後に兄妹の元へと帰ってきた両親は静かに目を閉じ、永遠の眠りに就いた姿だった。

もう二度と両親の声を、言葉を聞くことは叶わない。

改めて非常な現実を。現実の残酷さを知った2人の心には塞がることのない大きな穴がぽっかりと空いた。

悔しい。虚しい。悲しい。

様々な感情が入り混じる。

それでも一つ、確実に分かっていた。

どんなに願っても、両親は帰ってこないんだ、と。


*****************


そうだ。

きっかけは、原点はきっと、あの日、あの夜。

民家の屋根の上。

風にたなびく赤い羽織り。美しく色付いた紅葉の葉を思わせる紅の髪。

月明かりを反射し、怜悧に輝く紅の瞳。

青年は腰に提げる赤い柄の刀に手を掛け、同じく赤い鞘から引き抜いた。

「行くぞ、紅葉。

さっさとあれ倒すぞ」

「ほいほい〜

今回の魑魅魍魎は憑依霊だねぇ、どこの死体に憑依したんだろうね?」

青年の言葉に応じる少女。青年と同様の紅の髪。その長い紅髪は2つに結われている。そしてその瞳は右が紅。左が翡翠。宝石を思わせる美しい輝きを放つオッドアイ。

満月が夜空に浮かび、秋の風がススキを揺らす。

周囲を照らす輝く月光は微かだが、それでも尚、目標の姿を浮かび上がらせるには充分だった。

人々に襲いかかろうとするのは憑依霊に憑依された男の亡骸、ボロボロの動く死体。

いわゆるゾンビのような異形だ。

そしてその姿を捉えた青年は一陣の風と化した。

凄まじい勢いで屋根から飛び降りると瞬時に魑魅魍魎との距離を詰め、中段を横薙ぎに勢いよく刀、杠葉を振り抜いた。

「はぁっ!!」

裂帛の気合いと共に一閃。刃が空気を切り裂いた高く短い音が響く。

「うおああァァァァ」

上半身と下半身が断たれた男は腕をばたつかせ、雄叫びを上げて事切れる。

ぐだぐだと緩慢な動きを繰り返すような相手に青年は遅れなど取らない。まさに瞬殺だった。

「行くぞ。とか言われてもアタシ出る幕ないじゃん。

お兄ちゃんだけで充分だよね?」

遅れて青年の元にやって来た少女、紅葉は冗談めかして青年を非難する。

「まあ、そういうな。

もしもってことがあるだろ?」

言いながら、身体を回転させ、背後から襲い来るもう一体を再度横一閃に両断する。

「そーだね。一応アタシ居て良かったかもね。お兄ちゃん詰めが甘いしー?」

紅葉はニヤリと笑みを浮かべると、人差し指と中指の二本でつまんだ紙。

符に息を吹きかけた。

「ぴぎぃぇぇぇ!!」

響く断末魔。

それは宙を舞う人型の影のようなはっきりとしない見た目に、顔だと思われる場所には1つだけ大きな目が存在していた。

青年が宿となる肉体を破壊したことにより、肉体から逃げ出した憑依霊だ。

しかし紅葉が発動した風の術式によって切り刻まれ、一瞬で2体とも風とともに霧散した。

活躍がないどころか美味しいところだけ持っていく紅葉。

「ふはは!思い知ったかー!

紅葉ちゃんの必殺つむじ風〜。

お兄ちゃんは詰めが甘いなぁ。

さあお兄ちゃん、本体を倒したのはアタシだよ!労って!頭を撫でろっ」

「つむじ風なんて可愛げのあるもんじゃねぇよなぁ。ったく、詰めは甘くねぇだろ。詰めをお前に持っていかれただけだっつの」

ドヤ顔で頭を突き出すのは青年の妹、二条紅葉。

呆れながら紅葉の頭を撫でる青年は二条時雨。

2人は兄妹で秋ノ国、〝秋水〟の魑魅魍魎退治を行う家系の後継。

そして魑魅魍魎によって両親を失った。

あの夜、運良く生き残った兄妹。

2人はあの日誓った。

二度と癒えることはない心の傷を。

あの苦しみを味わう人が1人でも少なくなるよう戦う。両親が守った人たちを守ろう、と。

読んでいただきありがとうございます。

如何でしたでしょうか。とうとうキャラクターが登場しました。

二条にじょう 時雨しぐれ

二条にじょう 紅葉もみじ

でございます。

これからは本筋に入らせていただきます。

どうかこれからも読んでいただけることを切に願っております。

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