在りし日の思い出
「おかえりなさーい!」
「うん…」
「ご飯できてるよ、今日はあなたの好きなハンバーグにしたんだけど、ケチャップがなくて、そのままでもいいかな?」
「別に食べられればなんだっていいよ」
今日も疲れた。俺は31歳しがないサラリーマンだ。やりたいことや趣味をする時間も仕事に吸い取られていく。結婚して7年、子供はいない、かつて笑い合っていた食卓も今となっては四葉(妻)が和気あいあいと話すだけで、それに適当に相槌を返すばかり、なんでこうなってしまったんだか…昔はなんでも楽しかった。やりたいことがあって、熱心に勉強して、それこそ一日が24時間では足りないんじゃないかと思うぐらい、輝いてた過去の自分を思い出す。どこで何を間違えたのか。
「い…おーい…ねぇ、ちょっと聞いてる?」
「あ?聞いてるよ。何?」
「なんで、あなたはいつもそんな素っ気ないの、私といる時間が嫌いなの?いつも私が話しかけても適当でさ!ほんとにいい加減にして!ごちそうさま!茶碗あとで洗っときますから、早く食べて」そういう言うと四葉はお風呂に入っていった
「なんだ?あいついきなり怒って」まぁ、そんなどうでもいいことは考えるのはやめた。
いつも通りの日々がすぎ、ある日のこと、妻が食材の買い出しに出かけた。
数時間後、遅すぎる、あいつ何やってんだ。どこで油売ってんだ。こっちはお腹空いてるのに。
電話をかけてもかからないし、何やってんだ。スーパーまでは1kmもないのに、徒歩といってもこんなに遅くはないだろう、俺は疲れもあってからかイライラしていた。
電話が掛かってきた。俺は目を疑った。警察から掛かってきたからだ。「もしもし、佐藤さんのお電話で間違い無いでしょうか?」
「はい、そうですが、どうしたんですか?」「あのとりあえず、大至急病院に来てください。そこでお話ししますので」「あーはい、わかりました。今向かいます」 あーめんどくさい、今日は厄日か?重い体を起こし、身支度して病院に向かった。
「すいません、佐藤さんですか?」「はい、そうですけど、なんですか?」「病室201に向かってください。そこで話します」「あーはいわかりました」
え?え…
「コンビニ近くで事故にあってしまって、頭部を酷く損傷していて、意識不明です。」誰かがそんなこと言っているが、そんな事は耳から抜けていく。なんか、フラフラしてきた。「あれ、佐 さん! さん!だい ぶで か?しっ してくだ…」 「って、あれここどこだ?そんなことより、さっきまでどこにいたっけ?」そんなことを言っていると奥から羽の生えた綺麗な人がやってきた。「あなたは現実を避けたいがゆえにここに迷い込んでしまいました。あなたはとても後悔しているはずです。なにか、お心当たりありますか?」
「後悔?その前にあなたは誰?」「失敬、質問するからには名乗るのが筋だというもの、けどすいません、生憎名乗れないことになっています。」?なんで名乗れないんだろ。まぁどうでもいいか「俺は佐藤 健二です。すいません、あなたが言っている後悔がよく分からないんですが、少し記憶が曖昧でさっきまでどこにいたのかも思い出せないのです。」その綺麗な人はその言葉を聞いて、少し悩んだ後、綺麗な水晶玉をみて「なるほど。。」って言った後に信じられないことを言い出した。「佐藤さん。落ち着いて、聞いてくださいね。あなたの奥さんはコンビニ前で事故に合い、死んでしまいます。今は意識不明だと思われますが、数分後に亡くなってしまいます。」ん。あっ!!!!「えっあえっすいませんが、それはなんかの冗談でしょう。笑えませんよ。はははは」綺麗な人は目は嘘をついてない目だった。「え、え、あすいません少し整理する時間下さい。」「はい分かりました。好きなだけここにいていいですよ。」俺はなんてダメなやつなんだ。後悔。後悔…俺はいつから四葉に心から向かい会えてなかったんだ。忙しい。疲れてる。そう言って、ただ四葉にはご飯や家事をしてもらってるのに、俺は俺は…ダメだ。目から涙が出てくる。俺なんかが泣いちゃダメなのに。今までなんでこんな人生とか考えてたバカが、お前が代わりに死ねばよかったのに…ふざけんな、ちくしょう... あいつとの付き合いは長くて、倦怠期ではないけど、言葉をあまり交わさなくなっていた。いや違うな。俺から話さなくなったんだ。バカか!気づけよ俺!!俺は四葉との思い出があまり多くないことに気づいた。
「あのそろそろ整理ができましたか?」気づくとかなりの時間がたっていた。ここには時計がないので何時間かは分からないが。「え、まぁはい。あ!あなたは神様みたいなものでしょうか?神様ならなんか策とかないんですか?妻…いえ四葉が助かる未来のためならなんだってします。死んでも構いません。地獄以上の体験も構いません。何でもします。」そういうと綺麗な人は困った顔をした。「すいません、私はそういう力は持ち合わせていないのです。けど、その言葉が聞けて嬉しいです。」その綺麗な人はニヘラと笑った。俺は言葉を失った。もう永遠にあえないんだ。いちばん身近で大切な人を失ってしまった。もうほんとになにかが消えてしまったような気がした。「1日だけ、時間をあげます。」そんな声が聞こえたような気がした。
「 ですよ。お なさい! 遅 す ! さっさと起きれ!!」「うるさいなぁー!朝からってえ!え!」「何が人の顔みて、え!よ、ご飯できてるから早く食べなさい。」あれ、生きてる?どっちが夢?えもう分からない。でも嬉しすぎる。「あの?コホン、ちょっと身体触っていい?」「なによ?今日は気持ち悪いわね。いつもは死んだ目をして、何も言わずに来るのに。え!ってなんであんた泣いてんのよ!」俺は泣きながら四葉に抱きついた。「よかった!死んだかと思った。」「はははぁ、抱きつかれるのは嬉しんだけど、勝手に殺すな!!」言葉は物騒だが、少し喜んでいるからまぁよしとしよう。「そういえば今日の朝ごはんは?」「ん?今日?今日は時間ないからパンとソーセージと卵焼きなんだけど、ごめんね。少なくて」「ん、いや全然いいよ、むしろ嬉しい。ありがとう!」「え?何、あんたどうしたの?今日変だよ。泣いてたし。」「なな泣いてないし、それよりいつもどんな感じなのさ、逆に聞くけど」「え?いつも?いつもはほんとにずっと怒ってるかわかんないけど、何も言わないし、最低限の会話しかしてこなかったわよ。私しか話してないし」そう言われて、俺はハッとする。俺はそんなふうに見えていたのか、気づけなかった。ふと時計の目をやった。「あっ!やべぇ!遅刻する!」「ほら!だから言ったでしょ!さっさと行きなさい。あ、歯は磨きなさいよ」「めんどくさいからいい、歯は会社で磨く。いってきまーす!」「あ、こら!不潔なヤツめ、あってか、お弁当忘れてる!おーい!!弁当!!」「あっ、やべ、忘れてたサンキュー!」なんだか、今日はとてもいい日だ。空が今までより綺麗に見えるのは気のせいじゃないだろう!
はぁー疲れた。今何時だ?わぁ、8時15分か。そろそろ帰るか。 「今帰ったぞ、ただいまぁ!え?ってあれ電気付けてないじゃないか、どこにいるんだ?隠れんぼじゃないぞ?」俺は家のあちこちを調べたが、妻はいなかった。俺はかつてないほどの悪寒を感じた。 って今何時だ?9時30分?あれなんか見覚えあるぞ。すると電話がなった。相手を見てゾッとした。「もしもし、この番号は佐藤さんで間違いないでしょうか?」「あれ?もしもしー?佐藤さん?」俺は必死に震える声を押さえ、「あーすいません、間違いないですよ。どうしたんですか?」「あー、すいませんが病室201号室に大至急来てください。そこでお話します。」幸い、病院はとても近いので、俺は大至急急いだ。とても嫌な予感がした。
病院内 「佐藤です!201号室はどこですか?」「え?あ佐藤さんですか?こちらです。」俺は震える足を抑えるので精一杯だった。「こちらです。」え。え。あれは夢じゃなかったのか?俺は四葉の手を震えながら泣き崩れた。なんだか眠くなって目を閉じた。
またあの綺麗な人を見た。 「すいません、これぐらいしか私にできることはなかったんです。」 「えっ、あーはい。すいませんが、またこの力を使ってもらってもいいですか。お願いします。何でもします。」すると、その綺麗な人は複雑な顔をしながらも、「わかりました。それであなたが納得するならば。」「ありがとうございます!!!」
「おき い!遅 ますよ! ご できてるよ!
さっさとおきれー!」あーもううるさいな!「うるさいぞ!朝から!わかったって!」大丈夫だ!記憶はしっかりある。ちゃんと愛する人も目の前にいる。俺は無言でほっぺたにキスをした。「えっ。あなあなあなあなたどどどうしたの?いきなり」 「ごめん、とても愛おしく感じて、嫌だった?」 そういうと四葉は耳まで赤くした。「別に嫌じゃないけど、いきなりでびっくりした。あなた熱でもあるんじゃない?」俺は腕を回しながら「そんなことない、絶好調さ!四葉の顔でも見てたら元気出てきたよ!」「よよ四葉って、今日のあなたおかしいよ、どこか変、なんか変なものでも食べた?」失礼なやつだなと思ったけど、嬉しそうだったから良しとしよう。「ごめん、仕事なんだけど、今日休むよ、どこか行きたいとこある?有給使うから」ほんとは有給なんて無いんだけどね。「やっぱどこか変!まぁいっか!じゃあ遊園地行きたいなぁー!」遊園地って可愛いな。「了解よ!じゃあ今から行くか?準備しなさい。」
遊園地内、楽しい時間はあっという間に過ぎ、あたりは暗くなっていた。人も空いていて、貸切状態だった。「って、けんじ君、健ちゃん聞いてる?」あれ、今、四葉のやつ、俺のこと名前で呼ばなかったか?「えっ、あー聞いてるよ。」「本当かな?ちょっとちゃんとこっち見て、けんちゃん。」やばい、今顔絶対キモいことになってる。「あ!今パレードやってるよ、行こう!」俺は半ば強引に手を引いて、連れて行った。「あ、ずるい、顔見たいのに」四葉のやろう、腕に胸当ててきて、やばい色んな意味でやばい!!
心臓に悪い時間を終えて、遊園地から帰宅途中。時刻は8時15分になっていた。「あっ、けんちゃん、買いたいものがあるから、近くまで行ってくるから待っててね。」「うん、あーわかったよ!気をつけてね。」そう言って走っていってしまった。30分後、あれ遅いな。そこまで遠くなかった気が…ってバカ!やばい、気づくと俺は走り出していた。人だかりができており、悲鳴を出す声も聞こえた。ますます、嫌な予感が膨れ上がってきた。「四葉!四葉!四葉!」「そこどいてください!邪魔です!」人混みをかけ分けて、中心にある人物を見た。頭部がありえないほど凹んでる。やば。い 吐き そう
「えっちょっ!」 「こ 人 大 夫?」
またあそこに来ていた。「すいません、またお願いします。」その綺麗な人はなんだか、やつれているような感じがした。「あー、はい、わかりました。納得行くまでいいですよ。」
「起き さい! 遅 するわよ! 飯 きてるよ!さっさと起きれー!」俺はこの声を聞いて安心して涙が出た。泣き続けた。「え?あなた大丈夫?耳聞こえなくなっちゃった?ごめんね。」「ううん、なんかすごく安心した。すごく怖かった。ごめんねごめんね。ほんとにごめんね。」そういうと本当に困った顔をして。俺の頭を撫でてくれた。「大丈夫?今日は会社休みなよ。連絡しとくから、今日一日看病してあげるから…」「いや、別に体調はすごくいいんだけど、もうしばらくこのままでいいかな?すごい落ち着く。」そういうと四葉はニヘラと笑って「全然いいわよ、あなたが落ち着くのなら、ずっとしてあげる。」 「ありがとう!愛してる。」「え、え、えちょどうしよ。え、あなたどうしたの?え、ほんとに大丈夫?」そう言うと、四葉は面白いぐらい慌てだした。「ぶっ!あははは!」「何笑ってんのさ!失礼ね。」腹が痛いほど笑ったのはひさしぶりだ。「ぜーはぁはぁはぁー、ごめんごめん、ちょっとおねぇさんキャラからの落ち度がすごくて」「そうかい!いいですよーだ!私は所詮お姉さんになれるほど包容力ないですよーだ!」「そんなことないよ、君は世界で一番魅力的だよ。それより返事は?まだ聞いてないんだけど。」そういうともっと四葉は顔を赤らめて、「返事は、じゃあはいで。これ以上は恥ずかしいから勘弁して。」
それから四葉とは家でテレビを見たり、ゲームしたり、映画見たりとゆっくり過ごした。空も暗くなり始めて、今の時刻はえーと、7時5分か。
「なぁ、四葉、今日はずっと家にいてくれないか?」
「けんちゃんがそういうならわかったよー」俺は不安を隠すために四葉を抱いた。
問題の時刻の8時15分、よし、なんともないな。よかった。「はぁー!良かったぁー!!」「わぁ!っどうしたの?いきなり大声出して。」寝ぼけ顔の四葉が睨んできた。「ん?ああごめんごめん!こっちの話。」 「ふーん?あっ浮気?」そういうと四葉はよくわからない表情で聞いてきた。「バカか!俺は四葉以外興味ないし、四葉との時間しか考えられねぇよ。」真面目に答えられると思わなかったようで、四葉はすっごい照れていた。「私もだよ。」「え?なんて?」 「いやこっちの話でーす」「はは、そうかい」なんか今すっごい幸せだな。眠くなってきたな。
いつの間にか朝だ。「おーい、四葉起きろー!おーい!」珍しいな、起きてないなんて、そう言って四葉を揺すった。あれ冷たい。「おーい、寝たフリはつまんないから早く起きろー!おーい!!おーい!」不安が焦りに変わっていく。「いい加減早く起きろ!おい!早く!」手を握った、死んだように冷たかった。息を確認した。息をしていなかった。え。
またこの場所に来ていた。「あの回避したんじゃないんですか?おかしいですよね!」若干やつれたように見える綺麗な人は何も言わずただ黙っている。「なぁ、なんか言えよ!おかしいだろ!事故が原因じゃなかったのかよ!おい何とか言えよ!」「すいませんすいませんすいません…」その人は気の毒に思うぐらい悲しんでいた。責める気も無くなった。「あのもう1回お願いします。今度は必ず回避してみせます。」「もうやめましょう。満足しましたよね?もう、失ったものは戻らないんです!私に出来るのはただ1日をあげることを繰り返すだけです。あなたも分かっているんでしょう。」痛いところを突かれたけど、そんなの気にしない。「いや、もう一度だけお願いします。今度は必ず!必ず!」
211回目、もう救うのは諦めた。もう何回戻っただろうか。もう分からない。初めはこれまでを取り戻すかのように話した。色んなとこにも行った。行きたかったけれど、忙しくて行けないとこにも沢山行った。近くの外国にも行った!絶景スポットめぐりもした。心霊スポットめぐりもした。両方の実家で無理言ってご飯も一緒に食べた。何回も愛し合った。「起きろ!、ご飯できてるぞー!おきろー!遅刻するよー!さっさと起きれー!」俺は涙を拭いながら、「あー起きてるよ!おはよう」と何とか笑顔を取り繕った。「なんか、疲れている顔だね。」「え、そんなことないよ」力なく笑う「ううん、何年一緒にいると思ってるの、そういうのもすぐ気づいちゃうんだよ。」「たしかに、昨日の仕事は忙しかったからな。今日は仕事休んで、デートしに行かない?」そういうと四葉は「わかったよ」と言って笑った。こういう優しさがありがたい。これに俺は惚れたんだ。忘れかけていた。本当に今になって… 歩いてる途中、子連れの親子に会った。
「けんちゃん、私たちも子供欲しいね。」俺は精一杯返した。「うん、そうだね…」もう、不可能な2人の未来の話、泣きそうになったが、堪えた。
そして9時30分 また、妻が死んだ。
そしてまたこの場所に来ていた。綺麗な人もすっかり疲れ切っていて、「佐藤さん、もうこれが現実なんですよ。失ったものは戻らないんです。」もう、俺には考える気力も失っていた。「あの、もう一度だけ。」すると初めて綺麗な人の顔が強張った。「けんちゃん、私は今までけんちゃんが私をどう救おうか、何の話をしたか、全てここから見ていました。けんちゃんと話している私はとても幸せそうでした。すぐに死んでしまうのに…私はもう満足しました。最初はただのわがままだったんです。けんちゃんとの時間はたくさんあったのに、思い出があまり出てこないんです。だから、一日でも多くけんちゃんとの思い出をあの世に持って行きたかったんです。それで苦しめたのなら本当にごめんなさい。ごめんなさい。」
「はーやっぱり綺麗な人は君だったんだね。でも、俺にも四葉との思い出がたくさんできたよ。だから謝らないで、それとごめんね。そんなこと考えていたんだね。いつも君は笑顔でたくさん話しかけてきていたのに。辛いのは俺だけだと思ってた。それとありがとう。こんな俺に何年もついてきて。」そう言うと、綺麗な人はニヘラと笑った。
朝が来た。もうそこには起こしてくれる存在もいない。俺はこの何回かのループで撮った、嫁の色んな顔を何もない家に並べ始めた。「大丈夫だ。ちゃんと笑えてる。ありがとう四葉。」胸に手を当てると、四葉との思い出がたくさん蘇る。