後藤田くみと1本の電話
「じゃ、電話対応の見本を見せてあげるわ。シュミレーションだけど」
連れてこられた事務所で女社長が言ったわ。
タイミング良く着信音が響いたわ。
「え!?まだ営業時間前なのに……実務を見せてあげるわ……はい。おはようございます。御電話ありがとうございます。後藤田酒造、お客様係りの藤田でございます」
女社長ったら、営業時間前とか言いながら出たわ。
声が20才は若返ってるわ。
流石、若作りのプロね。
伊達に20年も若作りをしてないわね。
『あのぅ、1週間以上前に頼んだ通販が来ないんですけど』
受話器から漏れ聴こえるのは、おばちゃん風の声よ。
「それは、御迷惑をおかけしました。ご注文は御電話か郵便、または当社ホームページからのどちらからでしょうか?」
デヴァイスを開いて、入力欄を見ながらだから、これがマニュアル対応という事ね。
『え?物販サイトの××からですけど?』
××?
そんな通販サイト有ったかしら?
モバイル末端で検索よ。
「!?……誠に申し上げ難いのですが、当社、××さまとの御取り引きが御座いませんが?」
女社長の声が、オクターブ高く成ったわ。
『えぇえ!料金先払いなら送料無料って、表示されてるのよ!そう言われたから先払いしちゃったのに!?返金してくれるんでしょうね!!』
受話器から大音声で、まごう事なきおばさんの声が轟いたわ。
でも、表示を視たのならば、言われた事には成らないわよね。