後藤田くみに御任せ
私は、後藤田くみ。
今は。
⚪十九歳のピッチピチ(死語)な女の子よ。
私が住んでるここは、埼⚪県の片田舎の東灘町。
片田舎って云っても、ちゃんと、東灘町駅は在るのよ。
駅ビルは無いけど。
そして東灘町駅はターミナル駅なの。
2路線しか乗り入れて無いけど。
私は、その東灘町の外れに或る【後藤田酒造】で働いているの。
後藤田酒造は、所謂【造り酒屋】とか【酒蔵】っていう処よ。
そう、実は私、後藤田くみは、後藤田酒造の看板娘なの。
私は、後藤田酒造に住んでるのよ。
看板娘の朝は、御店の前の掃き掃除から始めないとね。
「おはようさん……あらぁ、珍しい。若い人が……いんやぁ?若いかぁ?」
通りすがりの婆ぁちゃんが言ったわ。
「はざぁあすっ」
明るく挨拶よ。
「何だぁ、アンちゃんかいな」
手をヒラヒラさせながら、婆ぁちゃんは行ってしまったわ。
何か、人違いをされちゃったみたい。
で、なければ、片田舎の情報網、侮りがたしと云う処よ。
「アンちゃ……クミちゃん。ちゃんと【クミ】名義の名札を付けててよ」
女社長の藤田杏子さんが言ったわ。
「おぉい」
そう言えば、女社長の名前は杏子……そうか、あの婆ぁちゃんに、私は、この初老女社長の若いときと混同されたのね。
だから【アンちゃん】だったんだわ。
別に片田舎の情報網が侮りがたかったわけじゃないのね。
「それから、クミちゃんはちゃんと会社の制服を着てよ。うちの制服は長ズボンなのよ。エプロンを着けるからって、スカートや短パン姿ではダメよ……!クミちゃん髪の毛切ったのぉぉお!!」
女社長が吠えたわ。
最後に。
「はいぃぃ、イメチェンすよ」
にっこり笑ってアピールよ。
「そ、そう……なの。ア……アンちゃんには、きょ、今日は事務所を手伝ってもらおうかしら。うん、今日はアンちゃんは事務所と倉庫をお願いするわ。うん、それが良いわ」
何か、慌てたみたいに、藤田社長が言ったわ。
この女社長は、若い頃、酒場小町と呼ばれる程の美人さんだったんですって(本人談)。