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春夏秋冬〜恋愛短編集〜

作者: howari

それぞれの季節で起こる恋愛模様。

「春」


この季節に薄桃色の花は咲き乱れる。


キミの事をずっと好きだ。


この想いが届くことはもうない。



キミが桜を見たいと言った。目一杯見たいと言った。だから閉ざされた場所から連れ出してあげた。


「わぁ...キレイ!」


舞った桜がキミの長い髪を飾る。桜よりもキミの方がキレイだ。

キミの髪に手を伸ばしたい。

でも...そんな勇気はない。


この時、桜と同じ様に儚く散ることを知っていたら...

僕は手を伸ばせたのだろうか?


次に会えた時には、木の匂いのする箱の中で...桜ではないたくさんの花畑にキミは寝ていた。

とても幸せそうに。  



またこの季節が来る。

ようやく僕はその花に手を振る。


「好きだったよ...さようなら。」







「夏」


友達カップルが花火大会に行くと言っていたので、私達も一緒に行く事になった。

その時間に来てみると...彼しか居ない。


...2人にはめられたっ!


彼の浴衣姿、いつものブレザー姿とは違って胸がドキドキする。普段以上にカッコよく見える。


「お前と2人か...。」

「文句ある?」


彼女の浴衣姿...髪を一つにまとめやがって...いつも以上に可愛い。


「何か買う?」

「みたらし団子買いたい。」

「じゃあ、私はりんご飴。」


団子とりんご飴を買い、人から少し離れた所から見る事に。


花火を待つ様に...川も私達も静かだ。


2人の脈拍だけは騒がしい。 



ドーン!


空に大きな花が舞い上がる。


「キレイ!」


「キレイだな。」 


ふいに触れ合った手と手が

ゆっくりと繋がれる...。


ドーン!


2人の顔がゆっくりと近付き...

花火を背景に2つの影が重なる。


花火が映ったからか...2人の顔が赤く染まる...。


「...りんごの味だ。」


「...バカっ!」


ドーン!と花火はまた上がるが...


もう2人には見えていない...。






「秋」


「芸術の秋」

「スポーツの秋」

「食欲の秋」

—————とか言うが、


僕にとって、この季節は

「読書の秋」だ。


図書室の窓から、オレンジ色の木の葉達が舞い落ちる。地上には足場の踏み場もないぐらいの...

オレンジのグラデーションのじゅうたん。


そんな景色を眺めながら、ゆっくりまったりと本を読むのが好きだった。


中庭に1本だけあるイチョウの木は、黄金に輝いて見える。

その木の根本に彼女はいつも寝ていた。

読みかけの本で顔を隠して。


彼女はすぐ居なくなってしまったが...

僕の心が紅葉するのに時間は掛からなかった。


「おいっまた寝てるのか?」

「んーまた寝ちゃってた。」


彼女も僕も本が好きだった。


好きな本の話や、

好きな作家の話や、

あとは、たわいも無い話。


彼女の優しい笑顔が好きだった。


黄金のじゅうたんが...彼女をより輝かせていた。


借りた小説を返したくなかった。それを返したら...僕の恋が終わってしまいそうで。


でも返さなきゃいけなくなった。

彼女が転校をするのだ。


僕の心だけがこの景色に取り残された様だ。


最後の日に小説を返した。

「好きだ」

と綴ったしおりを挟んで...。



また「読書の秋」が来た。


窓からその風景を眺め、ある1本の木の根本に目をやっても...彼女は居ない。


黄金色のじゅうたんは、相変わらず

輝いている。


僕はパタンと本を閉じ、木の葉を蹴散らしながら帰る。


校門の外にもオレンジのグラデーションが広がっている。


その風景の中に懐かしい顔を見つける。

僕の心はまた紅葉する。


「やっと、会えた。」


彼女はいつしか僕に貸した小説を返す。


「私も好き」

と書かれた1枚のしおりが挟んであった。


2人の顔は紅葉していく...。


この季節に色々な物が実るように、

僕の恋も実った。







「冬」


静かに目を閉じると...

雪がしんしんと振る音と

愛しい足音が聞こえてくる。


私の胸の高鳴りと同じ様に、大きくなって近付いて来る。


「お待たせ!」


白い息を吐きながら彼は言う。


この瞬間が私は好きだった。



「今日はどこへ行く?」

「そうだなぁ...。」


電車に乗り込み、手を繋ぎ...寄り添って座る。

彼の熱で私の冷えた手が溶かされていく...。


私には行き先なんて何処でも良かった。

彼と一緒なら何処でも良かったのだ。


何度こうやって寄り添って、手を繋いだだろう?

過ぎ行く景色をどれだけ眺めただろう?


...でも同じ駅、同じ電車に乗っても...

彼はもう居ない。

あのセリフも足音すら聞こえない...。


私はずっと彼を待っている。

私に会う途中で命が尽きても...

ずっと待っている。



...でももう疲れてしまった。

雪はその事を知らない。


最後の電車に乗り、いつもの席へと座る。

彼と見た景色もだいぶ変わってしまった。

2人の思い出が行ったり来たり...するだけ。


あの雪を溶かす様なぬくもりも忘れた。


カバンの中から粒状のモノを取り出す。

彼のもとへと行ける切符。


やっとこの、深く長い悲しみから解放される...。

彼に会える...今度は私が言うからね。

「お待たせ!」と。


切符を飲もうとした時、窓からキラキラ輝いて見える雪が見えた。


彼の言葉を思い出す。


「あっ雪だ!」

「今年初めてだね。」


「雪がキラキラ輝いている様に見える。」

「キレイ!」


「雪子もキレイだよ。この雪の様にいつも笑って輝いていて欲しい。」  


...いつも...笑って欲しい?


『ごめんね、雪子。僕をもう待たなくていいよ。生きて笑って欲しい。』

...そう耳元で聞こえた気がした。


笑顔で泣きながら...私は呟いた。


「生きよう。」




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