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反乱の徒③

俺はベッドの中でぐうう、と唸りながら気を落ち着かせようとする。ふかふかのお布団は俺の布団じゃないみたいに良いにおいだ。

「……ハァ。どーしてこうなってんだ」

年甲斐も無くキレたくは無かったが、どうにもあの態度を見ていると腹が立つ。大体が子供に対して全てを負わせようという心意気自体が最低のそれだ。俺はあいにく子供でもねぇが、この学院だって日本人が負け犬今生を見せて子供を兵器に仕立て上げる軍事施設をひとつおっ建てただけの話じゃねえか。


兵器ならよっぽど銃やミサイルの方が優秀だ。コストはかかろうがスイッチを押すのも一般人で問題ない。向こうさんは魔法学院があるからと学生を提案したんだろうが、学生じゃなくてまずは大人がやるべきものだろうが。何をトチ狂ってんだよこの世界の人間はよ。


成人の年齢が違うってことは社会構造がまるで違うってこともあるのだ。それを楽しそうに……。

大体俺に似てるからっていうか本人なんだけど、よしんば本人だとしてだよ?

魔王まで倒させておいて、正直なとこね?

問題児の押さえとかいろいろさせてこれ以上働かせるのって酷過ぎない?


「クソが。何だってんだよ、全くよぉ……」

コンコン、とノックの音がした。誰も入ってくるなと言ったはずなのに、と扉を見つめたがそういや俺ドアの鍵……閉めてねえわ~~~。あれか?学習しなさすぎか?


「は、入ってくんじゃねえ!」

「あ、開けるね!!」

山本の声?

いやもうぎくりとした。だって、この姿を知らない人間にこの姿をさらすのなんて初めてだ。心臓が嫌な律動で動き始める。冷や汗が止まらない。布団を深くかぶったまま叫ぶ。

「来るなよ!マジで!!入ってきたら、」


……入ってきたらどうしよう。

イヤ部下とかがこれをやった日にゃ問答無用で二三発殴りながら外に放り出すけど、相手は山本なわけで。特に何にも思いつかないタイミングで山本は中に入ってきた。


「は、入ってきたら……」

「もう入っちゃった」

とてとてと俺のベッドに向けて歩いてくる足音。

「……お帰り、日比野くん」

その声にほっとした自分がいる。けれど、この体が日比野識で無いことに動揺を感じている自分もいた。クソ、年の功が何の役にも立ってねえ。


「あの、日比野くん。日比野くんプールで助けてくれたときも使ってくれたよね、魔法」

否定しても肯定してもドツボなヤツじゃんこれ。

「……それが、何」

「ありがとう。私、すごく感謝してるの。だから、日比野くんになにか悲しいことがあれば、絶対守ってあげたいの」

「てめぇの手に負えるような状況じゃねぇよ」

「日比野くんの『いつも通り』は守れるよ。帰ってくる場所にはなれる」

だから大丈夫、とあたたかい手が布団の上から撫でて来る。ふと足先に風を感じた瞬間に「えいっ」とかわいらしい掛け声とともに布団がひっぺがされる。


そっちからかー。

お兄さんその発想は無かったわ。


「ちょ、ま、ま、」

「うん。……日比野君はいつもと変わらないよ。大丈夫だよぉ」

にこ、というよりはへらりとした笑みに、安心が見て取れた。俺は知らず入っていた肩の力をふっと抜いて、それからもぞもぞと座りなおす。


「……悪い。お前がいちばんびっくりしたろうに」

「そんなこと無いよ。日比野君のほうが大変だったでしょ?」

そこではっと思い出した。首輪つけたまんまじゃん、と。俺は「ちょっともたれてもいいか?」と口にした。

「はいどうぞ!」

「いや正面じゃなくて良いから」

「え?でもハグだよね?」

「――しまいにゃ襲うぞ、この鈍感娘」

「あ」


かあ、と顔を赤くして、彼女はくるんとそっぽを向いた。その背中にありがたく寄りかからせてもらう。

とはいえ首輪がメインなんだけどね。

もともとつけたことを意識させるようなものではないけども、外す時はさすがにばれる。どーおやってはずそっかなあ。ふわふわした髪をいじりながら顔を肩の上に少しだけ乗せる。


「く、くすぐったいよ……」

「あ、わり」

「よう日比野!元気か?へこんでるって先生が――失礼しました」


谷内がいきなり入ってきて、そして出て行った。山本がボケッとしているすきにかちりと外して抜き取った。その瞬間もう一度扉がバーンと開く。

「って誰だよお前!?山本もなにされてんの!?いきなり知らない人とラブシーン演じないでくれる!?」

「いや俺だよ俺。俺の部屋にいるんだから俺に決まってるだろ」

「え?俺さん、ですか?そんな人はちょっと……」

「このタイミングでボケぶっこんで来るのはちょっとどうかと思うが?」

「……いや正直信じられんな。お前がなんか美少年になってることが納得いかない……背は勝ってるけど勝った気がしないというか……」

「谷内、こっち来い」

「え?」

「ほら、ここ、ベッドに座れ」

「お、おう?」


滑らかに引き倒してヒールホールドの体勢に入った。綺麗に決まった状態だとほぼ抵抗が出来ない状態である。

「い、いっててええええええええ!?ちょ、何がスイッチだてめえ!!」

「谷内ふぜいに身長勝ってるとかほざかれたことかな!!」

「いーじゃんふだんでかかったんだからよ!!」

そこで放流すると、足をさすりながら俺のことを恨めしげな目で少しみてきた。

「山本との時間をちょっと邪魔されたからって……嫉妬深い男」

「ワンモア?」

「いえいえいえけっこうですなまいきなことをいいました日比野様!」


そこです、と手が上げられた。

「あ、あたしもかけてほしいなって!」

「は?」

「だ、だから!今のプロレス技、かけて欲しいな!なんか谷内君ばっかり日比野君と仲良くなっててずるい!」

いや、かけてくれって言われてもなあ。

「その格好ですんの?」

「……あ」


スカートで俺の居室に来ていた彼女であるが、今しがたそれを思い出したらしい。俺はだめだこりゃ、と息を吐いてそれからその頭をぐしぐしと乱暴になでた。

「良いか山本。俺が山本に技を気兼ねなくかける時があるとしたら、山本が俺の友達じゃなくなったときだよ」

「俺は友達じゃねえってことか!?」

「うっせーな、男友達と女友達で差があるのは当然だろ。俺はお願いされなくても谷内にはかけるが山本にはかけねーよ。もちろんゆきねにもだ」

「あら、それは嬉しいですね。私にそこまで思ってくれているなんて」


にっこりと笑った少女が戸口の場所に立っている。彼女はさらりと肩口ほどの髪をなびかせながら、中に入ってきた。

「久しぶりですね。随分とかわいらしくなりましたが悪態は変わらないようで?」

「……ゆきねかよ。誰かと思った」

「誰かさんが子供のように駄々をこねていると聞いたものですから」

「ああこねたよ、こねた!悪かったな!」

「いや、悪くはありませんけど……。あの、もしよろしければその駄々、私達も付き合いますよ?」

「は?」


俺が首を傾げていると、彼女は「いえね」と首を少し傾げて指をあごにちょっと当てる。

「正直今の状況はなかなか複雑です。あなたがここまでされて私達が黙っているって言うのはどうにも、という感じなんですよ」

「……お、お前もしかして怒ってる?」

「何がですか?」

にこにこした笑顔の下に何があるのか俺にもちょっと読めないわあ。


「向こうで何があったのか、詳しく聞かせてもらいましょうか」

「……よし。了解した。俺も気合を入れて話す。耳ィふさぐんじゃねえぞ?」


脚色満点でな!!





「――以上が概要だ」

「……拷問等禁止条約、は……ギリギリ該当しませんね。世界線自体が異なりますから、迂闊にどうこうと言うことは言えません。ですがあきらかに人道にもとる行為だと言えましょうね。どうしてくれようかあの××どもが……」

「おいゆきねこぼれてるぞ色々」

「あら、私としたことが。大変申し訳ありません」

「まあ、俺としちゃ要求したいことは『元の体に戻せ』ということくらいだが――」

「それだけで?それだけで許せるというんですか?」

「許すとかそういうんじゃねえよ。あの世界とこっちの世界で争いを起こしたところで、無益だってだけの話だ。俺達はまず目的を決めなきゃならん。例えば俺達がむやみやたらと公表をしたところで何になる?」


ゆきねがうつむく。彼女が考えたとおり、この場所で公表をしたとしても間違いなくただただ戦争の引き金になるだけだ。

「まず第一に俺の姿を元に戻す。そして第二、ヴォスティフの家の取り潰し、あるいは国王の蟄居を要求する。今回の事態はあいつら二家のせいだ。そしてこちらの世界では正直なところ貴族だの、国王だのということで守ってくれるとは考えにくい。今回の件はマステリエとヴォスティフの家が引き起こしたこと、ということはあいつら自身に責をとって貰う。第三、魔王に対する対策を練ってもらう。正直第二は結構どうでもいいが第一第二が――」

「ちょおおおおおっとまてい!!ま、魔王てなんだよ!話がぶっ飛びすぎだろさすがによ!?」

「いやまあ、それを決めるのは女神がこちらを『どうするか』決めたらだ。魔法を生み出したのは女神。そしてその魔法は女神の下管理されている。こちらに来た者達が問題なく魔法を使えているなら、それが仮に人に向けられたとき――どうなるかは試したか?」

「あ、そういえば……あの、私以前先生に向けられたことがあります。問題なく私に対してかかりました」


なるほどな、と俺はうなずいた。


「あ、じゃあやばいかも」

「え?」

「……間違いなく魔王がこの世界に生まれる。ああ、規模はンな大きくなることはないだろう。だが十中八九間違いなく、だな」

「え?」


全員が俺の顔を見る。

「あ、やべ。これ、言っちゃだめなヤツだった?」

「いやいやいやいやいやいやちょっと待て!!じゃあお前の姿は戻るのがいいとして!!俺達がどうのより、正直!!魔王に対しての対応策とか向こうさんから聞いたほうがいいんじゃねえか!?っていうか何でお前は知ってんだよ!!」

「あー、まあ、山本には言ったつか、ばれたんだけどさ」

ちらり、と山本を見るとこくりと小さくうなずかれた。


「俺魔法使えるんだよね」


全員が俺を見て絶句している間に軽く防音の魔術を張る。ついでに鍵も施錠と。さすがに三度目はやらかしたくない。


「はあああああああああああああああああ!?」

「はいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

「実は転生者だったりする。向こうの世界からの」

「はあああああああああああああああああ!?」

ゆきねは叫ぶ気力が続かなかったようで呆然としていたが、「あんた……知ってたの……」と山本を見た。

「うん、一応ね。プールで溺れかけたときにヴィオレッタちゃんと妙に険悪だったでしょ?」

「あれかよ!!」


「よーしじゃあ話戻すぞ」

「何事も無かったかのようにしれっと言いやがって!妙にオッサンくさかったのはそのせいかよ!」

「オッサン言うな。で、だけどこっちには魔法はぜんっぜん普及しなさそうだから、正直安心して良いと思うぞ。魔王は魔法の『頻度』それから『深度』に依存して強さを変じる。つまりが魔法と科学が融合してパラダイムシフトでも起こらん限りは、全く心配がねえってことさ。まー……」

「……おい、なんだよ。急に黙ってどうした?」


俺が魔王とかち合ったのは偶然でもなんでもない。

試練として妥当だと判断されたからだ。

俺の実力を魔王が反映するとしたら――。


「わ、わりぃみんな」

「は?」

「魔王、強いかもしんない」

俺がポツリと漏らした言葉に襟首を引っつかんで谷内が怒鳴りつけてくる。

「……はぁ!?そりゃどーゆうことだよ!今の話だとお前、ンな強くなさそうだって……」

「それはあくまで俺がこの世界にいなかったら、の話だ。まず間違いなく俺はこの世界の戦力としてカウントされてる。今のままじゃ」

「お前強いのかよ」

「そりゃもちろん。まあでも魔王はたぶん俺一人なら首を飛ばせるだろうな」

「あぁ?どういうこっちゃ」

「谷内、お前ネトゲやるだろ?ワールドボス、ってわかるか?全プレイヤー百人くらいが全力でかかっていってなおHP削れないくらいのやつ」

「あ、ああ。まあそれくらいは……っておい、まさか、魔王がその『ワールドボス』だってのか?」

「で、俺はベテラン、お前らはワールドボス挑戦権を得たひよっこなわけだな」

「そこの解説はいらねぇよ。え、てかマジ?いきなりハード飛び越えてルナティックなの?」

「それはマジ」


そんなもんなんだよなあ、魔王ってのは。第一が『世界に対する試練』が名目であるからして、本来は三人で行かせるべき案件ではねぇんだよな、それをあのクソ国王が……。

おっと思考がそれた。


「とにかく俺は転生したけど、前世に未練もクソも残してねえんだ。というかむしろ、俺が帰ったほうがヤバイ」

「え?それ、前世はどんな人だったんですか?」

「殴らねえと言うことを聞かない獣の群れの調教師で上司からは無茶振りの嵐だった。その無茶振りが生死の狭間をさまようレベルだったパワハラでなーあっはっは死因もそれだよまったく。……マジで前世ろくなことがなかったな俺……」

「げ、元気出せって……」

「あ、そうだ。それよりさ、私クッキーやいてたの!食べる?」

山本の手によってぱかりと開けられたタッパーの中からは、もそり、もそり、と音がした。特にキッチンペーパーなども入れるわけがなく、クッキー、なんだよな?そんな想いが全員の顔に表れるが、俺は笑顔でその一つを手にとった。

「山本、まずは作り手が一番に食べるべきだろ。焼きたても美味しそうだが、ほれ、あーん」

「あーん?」


もそり、もそり、と山本が噛み締める。そして同時に倒れこんだ。不思議なことに持った感触がねんどみたいな感覚で遊べる砂のような、そんな感触で俺の背筋がもわっとする。

「な、なんというか、流れるような手際ですね……あれをどうやって手に取ったんですか?」

「なんかもそってした……」

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