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高校入学当日朝-①

新しい制服。新しい靴。


なのになぜよれた感じがするんでしょう。

答え。

ぱっとしねぇ俺が着ているから。


「うわ、兄貴中年サラリーマンかよ」

語尾にwwwとかつきそうな勢いで妹様にプークスクスとされたが、一年後にはこいつが俺と同じ高校に来て兄妹といわれることに気づいていないな馬鹿め。学力が底辺過ぎるがお前の同級生が俺の高校に行くって言っててお前もじゃああたしもがんばるーとか言ってたの知ってるからな。クソダサい兄貴がいるという事実に苦しんで死ね。


無視していこうとすれば、足を突き出される。引っかかれとか言うんじゃねぇだろうな、とそれを冷たい目で見て迂回すると、後ろから手が伸びてきた。

「何で引っかかんないの?転べよ」

「はあ?シラネ。勝手にやってろよ」

「言ってることがわかんないんだけど?」


俺は薄ら笑いを浮かべて、それから離脱を図ります。成功。争いは同レベルの者でしか起こりえないのであれと一緒にされたくない。


トースト一枚をくわえて、玄関に走った。俺は飯食う前には口をゆすいで、食ってから歯を磨くタイプなんだが、今日は妹様がイライラしておられるので洗浄魔法で綺麗さっぱり歯垢ゼロにする。玄関でローファーをはき、数度足の甲を丁寧に曲げ伸ばしてちょっと慣らす。かってえな。

だるいし眠いし頭が痛いしついでに太陽がまぶしい。学校はせめて昼からにしたほうがいいんじゃねぇかな、マジで。


ふぁあ、とあくびをしながらトーストをかじっていると、道端によく遭遇する猫がふてぶてしく座っていた。おっさん座りのデブ猫であるが、やけに愛嬌と言うか、そういうものがあって強制的に腹を撫でろといわんばかりである態度の数々。

「ぶにゃにやぁ」

俺がその腰辺りをぽんぽんと二、三度軽く叩いてやると、ぶにゃ、と声が返ってきた。足りなさそうだったのでもう少し撫でくり回してやったら余は満足じゃとでも言いたげにごろんと横になった。俺の嫌いな太陽様はこいつにとっては熱源としかなりえないらしい。


どうでもいいけどふてぶてしさとでぶでぶしさって語感が似てて間違えやすいよな。ホントどうでもいいけど。


歩いていく途中には河川敷があり、エロ本スポットと化している。山積みにされて橋の下に置いてあるそれを、拾ってきて中学に持ってきたアホがいた。嫌悪をあらわにする女子と、男の担任ゆえのデリカシーのなさの対決がすさまじかった。


その道を通学路として使うことに感慨を抱きつつも、ふと気づけばもう高校の姿が見えていた。坂の上にあるわけでもなく、いわゆる普通の高校、公立の間広高等学校。そんでもってクソボロ旧校舎エアコンなしには一年と二年、そして新校舎エアコンありには三年が。


つまりあれだ。先輩後輩カップルを受験の間引きはがす教師の作戦と。しかも一年と二年には涼を与えずに夏はへばれとそういうことか。しんどいな。

入り口近くにはでっかい紙がばばんと貼り出してあって、そこにはクラス分けが書いてあった。俺は一年三組。三という数字は嫌いだ。元の世界じゃ不吉だったしあんまりろくな思い出がない。四天王のうち三番目に強いと自称するやつにはさんざコケにされたし。


良かったのは俺の教室が一階ってことだけど。歩かなくて済む。


がらりとドアを開けて教室に入ると、視線がぐっさぐさと突き刺さってくる。いやお前たちおんなじ一年だろ。珍しそうな顔をすんなよ、とか思ってたらポンポン、と肩を叩かれた。

「あのぅ、先輩ですよね?ええと、教室を間違えてますよ」

「……俺、今年入学なんですけど」

「うわっすみません、いや、すまん!えー、えっと……俺は谷内(やち) 翔太(しょうた)っていいます、じゃないや、いうんだ。うっわー……マジか。いや、なんか、制服が新しく見えねえっつうか、やけにくたびれてみえるっつうか」


イケメン……ではねぇな。あれだ。クラスに一人はいるお調子者だ。んでもって大人しめの女子にすっげえ嫌われるか好かれるタイプだ。知ってる。俺二次元で見たことあるもんこういうやつ。


「俺は日比野(ひびの) (しき)だ。よろしく谷内。ってことはあれか、さっきからじろじろ見られてたのは俺が明らかに上級生に見えたからか。……タイは一年の緑なのに」

納得いかねぇわぁマジで。

「そんなに老けて見えっかな」

「いや、どっちかって言うとくたびれたサラリーマンっぽい」


みんなそう思うとかやっぱ俺スーツ似合うんじゃねぇかな。そういうことにしとこう。前世は童顔で悩んだから神様が老け顔をくだすったんだよクソッタレが。

いらねぇよ。


ちなみにみんなそう思ったみたいで、谷内のそのセリフにああ、なるほどとかいう顔をしやがった。おいそこの女お前だよ。見てたかんな、しつこいぞ俺は。


「チッ、まァいいや。それよか自分の席に荷物置いてきても?そろそろ重たい」

「重たいって、まだ教科書は配布されてねぇだろ。今日の入学式後のはずだぞ」

「俺、仕様的にゲームのコントローラー以上に重たいもの長時間持てるようになってねぇんだわ」

「そんな言い訳初めて聞いた」


俺はとにかく荷物を置いて、水筒を一息にあおるとがたんと席に座り込んだ。あーだるい。一階でこれなら来年俺はどうなるのか。

「あれ?このクラス五十音後半すくねぇのな、日比野隣じゃん」

「谷内はや行だろ。や行の森へお帰り」

「どこだよそこ!」


直後、チャイムが鳴ると同時に教師と思しき人が入ってきた。人のささやき声で埋まっていた教室が一気に静かになる。

「はい、先生がこの教室に入って静かになるまで……一秒もかかりませんでした。鉄板ネタが滑りまくって大変寂しい所存ではありますが、まあ、今年一年君たちを担当する長谷川(はせがわ) 幸男(さちお)です。名前の割りに幸が薄く、学年主任の座はもぎ取れませんでした」


軽く笑いが起こって、次にずい、と前に出てきた女性が胸を張る。あんまりねぇけど。


「私は玉置(たまおき) 結子(ゆいこ)といいます。長谷川先生はかなりゆるいと評判なので、私はびしびし行きますので、そのつもりで」

なんだか背伸びが背伸びになりすぎちゃってほほえましくもウザったくもあるが、それはそれとして気合が入りすぎじゃねえかな。たぶん、馬鹿にする生徒が出てきて途中でポシャりそうだ。

ゆいゆい先生のフォローはしっかり入れとくか。


「はい、じゃあ、春休みの間にやってきたとおりに入学式を行います。名簿の順についてきてください」

男女別に並ばされ、そして横に女子がいる非常にやりづらい……お前さっきなるほど顔したやつだろ。俺ちゃんと覚えてるからな。


「それでは皆さんついてきてください」

しいんと静まり返った校舎の中を歩き、講堂へと入る。しばらくして音楽が流れ始めると、たぶん一組がぞろぞろと中に入っていく。だいぶ待った後、三組の先頭が動き始めた。赤いカーペットが遠くのほうに見える。


『日比野 識さん、山本 律さん』

俺はゆっくりと、だが隣の少女と足並みをそろえて進む。途中緊張した隣の山本がぐらりと転びかけたが、指でちょちょいと推し戻して前に進んだ。ちなみにこの程度の緊張感ならひとつ粗相をしただけでぶち殺される王の謁見の間と違って屁でもない。並んでパイプいすの列の間に立たされていると、横から声がかかった。


「あ、ありがと」

「いや、いいよ。別になんか期待してやったわけじゃねえし」

「……あ、うん」


もぞもぞと何か居心地悪そうにしているが、俺には関係ないし知ったこっちゃ無い。隣の少女はもじもじしていたが、ついぞ俺に話しかけてくることは無かった。

校長も来賓もみんな同じことを回りくどく述べ、そして入学生の宣誓をする前の段になって、隣の少女がちらりと顔をそちらに向けた。緊張しまくっている顔の女がガッチガチのまま登壇し、固い声で文章を読み始めた。


成績順でするからそういうことになるんだよ、と思いつつも、その様子を老婆心にはらはらしながら見守っていると、最後の降壇でずるりと足を滑らせて、すごいこけた。保健室一番乗りルートだな、あれは。足をくじいた。


隣の山本が息をはっと呑み、そしてうつむいてしまった。俺はその後あんまり気にせず教室に戻り、机の上に前から回ってくる教科書の山をばさばさと重ねていく。

それにしても多いし面倒くさい。これを持って帰る……重量軽減でもかけとけばいいや。魔力文字を入れた方が効率がいいから、まあ一番最後のページにも入れとけば。


この判断を後々後悔することになるのだが、俺はこの時重たい教科書をどうやって持って帰ろうかと思案するばかりだった。

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