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嚆矢濫觴

「ちっ、ンだよ。これっぽっちしか持ってねえとかマジないわ」

ぎゃははは、という三下じみた笑い声が上から降りかかってくる。羽交い絞めにされていたところから放り出され、頭の上に空っぽの財布を投げつけられる。

「次はもうちょっと多く入れとけよ。じゃねえと今度はその貧相なタマ潰すかんな?」


――下種が。

後ろ姿に軽く舌打ちをする。屑共が金取ってったせいで俺が十五歳になってもお使いできねぇやべぇやつになっちまっただろうが。

日比野 識、十五歳。背は高いものの色白もやし、目つきが悪い。あと髪型が微妙。体力はほぼない。ちなみに私服だと十中八九おっさんに見える。

今ちょうどゲーセンの横を通りかかったらばっちり捕まって金をせびられ、いや違うなカツアゲされた。恫喝に脅迫、それから暴行。テンプレだ。


ただ、まあ、そいつを被害届も出さずに放置してる俺も俺なんだが。

ぺろりと唇についた切り傷を舐めると、血の味がした。くわんくわんとめまいがする。


まあ聞いてくれ。俺はこいつらに対して何か弱みを握られてるとかそういうことは一切無い。加えて言えばこの場面をすでに録画録音してあるし、いざとなれば警察に突き出すことができる。で、何でそいつをやんないかって言えば、めんどくせぇな、と思うから。


だってそうだろ?こいつらの相手する時間は確かにもったいないが、この名門校に入学の内定してるクラスメイトその他から人気の高い優等生諸君をだ、この根暗と呼び声の高い地味なやつが入学取り消しさせたらどうなるか。


まずは同じ中学出身のやつからハブられて、高校生活で教師からは腫れ物扱いされるだろう。何でも言ってきて良いんだぞ、と言ってくる割には遠巻きにされそう。

漫画やアニメでよく見る気風の良い女教師とかいねぇから。

それより何事も無かったことにしていただけませんかねぇ、と詰め寄るハゲ親父の群れのほうが確率高い。


俺はいまどき男子高校生が使うにはそぐわないマジックテープの財布を手にとって、ゆらりと立ち上がった。やっべ軽いわ。笑える。

ちなみにその後母親からはしこたま怒られるかと思ったら、諦めたように溜息だけ吐かれた。どうでもよかった。


部屋に戻り、自分の好みのデスメタルを聞いていたら隣の部屋からドン、と壁を叩かれた。壁の向こうには妹様のご本尊がいらっしゃるのだ。なんだか知らんが配信をしてて、それなりに人気があるみたいだ。しぶしぶイヤホンをして聞く。音割れがしなくてクリアになりすぎてあまり好きじゃない。


ちなみに妹様は俺の財布を勝手に開けて小遣いを強奪していくので、最近は貰った直後に別の空間にしまいこんである。俺を殺せば取れるぞよかったな。


「……あいつ、あんなんで彼氏とかできんのかよ」

これ、クラスメイトのかわいい女の子とかもこうなんだぜ?やっぱ三次は大惨事だろ。二次女子を見習えよ。キャッキャウフフの真の姿があそこにあるから。


あの優等生組が離れた地域に出ることは織り込み済みで、たぶんそうなれば俺に手出しはすまい。同じようなことを続けるなら新天地で勝手にポシャってろ屑共が。

「ま、いいや。寝よ」

人生二周目にもなると正義感とかそういう純粋な心持より、面倒ごとを避けたいとかそういう気持ちになるんだから、人間ってのはつくづく嫌になる。


――そう。俺は何を隠そう人生二周目、しかも異世界からの転生者だ。

中二病とかではなく、真面目に。


前世はいわゆる「普段は毒舌家の癖に最終決戦の手前のボスを単身引き受け、相打ちに何とか持ち込んで同情票をかっさらった」やつだった。ちなみに魔導師であった。

生まれたとき驚いたのが、あまりに妙な格好と清潔感。そして母親の顔のうすべったさ。黒い髪。黒い目。ゴムのにおいや消毒液のにおいの気持ち悪さ。


すさまじい目まぐるしさがあり、情報がぐるんぐるんと入れ替わり立ち代り入れられる。俺は発狂しそうだったが、内気という設定を貫くことで必要最低限以外の情報をシャットダウンした。それから見事にライダーにハマり(レンジャーは美的感覚から許せなかった)、アニメにハマり、漫画にハマり、デスメタルやハードロックを好んで聴きつつ前世同様のなよなよの体を見事ゲットしたわけだ。


そして何より混乱したのは、この世界は魔法を使うことができるということだった。

俺の世界では魔法は世界中に散らばる魔素を体内魔力と反応させて起こすものである。魔法言語ってのもあって、そっちはオートでその現象を起こすことができるんだが、俺は前者のほうが比較的雑に使えるから好きだ。最近は魔法言語のほうが主流だが、まあそっちもまあまあいける。


んでもって両方使えた。


百歩譲って魔法が使えるのはいいとして、俺の世界で使えた魔法言語が使えるのは明らかにおかしい。鍵が違うのに銀行の金庫の扉が開いちゃったくらいの衝撃だった。

とりあえず魔法言語がマスターキーってのはありえないから、鍵がむちゃくちゃゆるかったんだろうと言うことにしておいた。だって俺の理解を超えてるし、俺は実際理論より使えりゃ良いやと思う派なんで。


とにかくだ。

俺は何でかわからんがファンタジー世界出身の、あと半月くらいで高校生になるひとりでお使いもできない十五歳。彼女はあまり欲しくない。

ひとまずできてしまったので投稿。しばらくは一日一本。

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