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学園無双の勝利中毒者  作者: 弁当箱
第一章 勝利中毒者と無才の枷
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第17話 学長の提案に乗る



「道場破りに許可証ってなんだよ。そんなの聞いたことあるか?」


 塔剣山から追い返され、あえなく寮への帰路へと着いた霧生はぶつくさと文句を垂れる。

 格闘銃の師範曰く、学長の許可証がなければ道場破りは認められていないようだ。


「塔の独占対策じゃないの。もう場所なんてどこでもいいから教えてくんない? 私受けようと思ってた講義すっぽかしてまでアンタに付いて来てるのよ」


 不満そうにするリューナ。そんな彼女を見て霧生は笑う。


「それもランクの高い講義だからだろ? そう焦らなくてもい。全部……とは流石に言えないが、大抵の事なら俺が教えられるから」


 学園端末で確認できる講義の一覧を見たところ、特殊な技能を除いたほとんどのものが霧生は習得済みであった。

 そんな霧生に師事すれば、リューナの憂いは無用である。


「本当に?」


 リューナは霧生に訝しげな瞳を向ける。ニースとの決闘、転移と霧生の実力の一部を見た彼女でも、そう言われて信じる程には至らないのだろう。


「本当本当」


 二、三度強く頷いてリューナの信用を得ようとする。そうするとリューナはより不可解な面持ちでこちらを見つめてくる。


「どちらにせよ暇だからってだけで私のためにそこまでする義理はないわよね。

 転移とか高ランクの講義の内容を教えようと思ったら年単位の話になってくるし。実際の所、何か目的があるんでしょ?」


 ギクリとする霧生。先程からやや探ってきている節はあったが、リューナは直球で尋ねてきた。

 霧生がリューナを指導するのは、友人である彼女が講義をまともに受けられなくて困っているから、という理由が第一であるが下心もある。


 こういう時、変にはぐらかすのもよくない。経験上それを知っている霧生はその下心を包み隠さず話す決意をする。

 そして躊躇いがちに口を開いた。


「……俺が教えたら、リューナはすぐに強くなるだろうな」


「自信満々ね」


「それでそのうちリューナは目まぐるしい成長と、自分の才能に過信するようになってこう考え始める。『そろそろ私、霧生にも勝てるんじゃない?』って」


「……うん」


 霧生は天を仰ぎ、フーと息を吐く。


「実は俺、その時のリューナを完膚なきまでに粉砕してぇんだ……」


「あー、はい」


 要するに調子に乗ったリューナを倒したい。霧生は将来的な勝利を空想しているのだ。

 リューナは既に興味を失ったかのように少し前を歩き始めていた。


「でもそれは目的って言う程じゃないぞ。そうなったらいいなってだけで」


 目的はリューナに技能を教える、という点からズレてはいけない。

 後ろからそれを付け足すと、リューナは肩を竦めながら振り返る。


「どうでもいいけど結局、どこで教えてくれるのよ」


「急かすねぇ」


 リューナの向上意欲は何に由来するものなのだろうか。霧生はふと疑問に思う。


「私は上を目指してる。何年も下でくすぶって、周囲を陥れるような人にはなりたくないし、そういう考えを少しでも持ちたくない。だから少しの時間も無駄にはしたくないの」


 なるほど。嫌がらせしてきた生徒を戒めとして、逆に自らのモチベーションとしようという寸法らしい。霧生は感心する。

 だがそれだけではないのだろう。そんな中、どんな理由であれ成長に焦るのは誰もが通る道だ。


「OK。じゃあ急いで学長に許可証もらって来るから」


「道場破りは諦めきれない訳ね……」


「そりゃそうだろ」


 再び歩み始め、しばらくして寮まで到着すると、リューナは言った。


「あ、そうだ。聞き忘れてたんだけど、もう一人連れてきていい? 今朝言ってたレイラって子」


「そいつにも技能を教えろってことか?」


「お願いしていい? 嫌なら……」


「無問題。じゃあ後でまた連絡する」


 軽く手を上げ、霧生は先に寮へと戻っていく。



ーーー



 位置不詳の学長室への立入は学園側の人間を介さなければならない。入学初日に呼び出され、それを知っていた霧生は寮の従業員に頼み、学長室へとやって来ていた。


「他流試合の許可証が欲しい?」


 プレジデントデスクを挟んで立つ霧生に、手元の書類を慣れた手付きで整理しながら学長は尋ねた。


「ええ」


 霧生が頷くと、隻眼の学長は困ったようにふうと息をつく。今の彼には初日に会った時ほどの威圧感はなく、霧生を一生徒として見ているように思える。


「君が平場で暴れるのは構わない。むしろ大歓迎なんだが、清い研鑽の場を荒らされるのは困るね」


 学長の尤もな発言に霧生は内心苦笑いする。荒らしてやろうなどという考えは毛頭もないのだが、ただの欲から道場破りをすれば、それは結果的に荒らしていることになるのかもしれない。

 ただ、今の霧生にはリューナのためという大義名分がある。


「ああいや、違うんです。人に教えるのに良い場所を探してて、あの塔がそれに適してるなと」


 少しとぼけてそう答える。学長は目を丸くして、こちらを向いた。


「何? 教える……? "御杖"である、君がか?」


「はい」


 首肯。

 手元の書類を整理し終えた学長が荘厳な眼差しを向けてくる。


「誰に? 個人か?」


「個人です」


「それはつまり、弟子をとったということかね?」


「いいや、そういう訳ではないですね」


 学長の食いつき具合に霧生は笑ってしまいそうになる。しかしさもありなん。

 霧生の一族、"御杖"が他人に技能を教えるなど、本来ならあってはならないことだ。一族が一族のためだけに研鑽し、千年をゆうに超える歴史の中で突き詰めた技能が独自のものではなくなる。

 霧生の祖父を知る学長なら、その行動の異常さが分かることだろう。

 とはいえそれは一族との縁を切った霧生であるからこそ出来ることなのである。


「待て待て。それは勿体無い。そういうことならぜひ講義を開いてくれ。良い場所も手配する」


「講義を? 一生徒である俺がですか?」


「講師を兼任している生徒は他にもいる。ここはそういう所だ」


 霧生は考える。悪くない話だが、個人的に教える約束をしていたリューナとっては条件落ちになる。

 否、良い場所を手配して貰えるなら、講義とは別で指導すればいいのだ。これは学園生活を彩る別の案件として捉えられる。


「いいですよ。なぜか暇なので」


 Gランクにされた嫌味を込めつつ霧生は快諾した。Gランクという境遇を駄目にしてしまったのは自分なのでこれはただの手のひら返しである。


「それは有り難い。それで講義内容だが、どんなことを教えるつもりだった」


 霧生の嫌味には触れず、学長は尋ねた。

 最初に教えるつもりだったのはリューナの要望通り『転移』であるが、それだと既存の講義と被ってしまう上に面白みに欠ける。

 リューナには別で転移を教えてやれば良いのだから、別の内容にしよう。


 ふと誂え向きな講義内容が思い浮かんだ霧生は、学長にそれを告げた。


「勝利学」


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