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学園無双の勝利中毒者  作者: 弁当箱
第一章 勝利中毒者と無才の枷
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第13話 いじめられっ子の実力を見抜く



「来い」


「え、なに? なに?」


 《抵抗》で風船のように体を膨らませ、講義で目立っていた少年が講義に混ざり混んでいた上級生らしき生徒に連れて行かれる。

 そんな光景を目の当たりにしたのは、『抵抗基礎』の講義を終え、次の講義へ急いだリューナと別れた後のことだった。


 上級生複数人にガッチリと腕をホールドされ、無理矢理講義室の外へ連れ出された少年を、一日の講義を終えた霧生は車椅子で追いかけることに決めた。

 すると背後から近づいて来ていたダネルが霧生に声を掛けてくる。


「よう、霧生」


「おう、ダネルか」


 ダネルも『抵抗基礎』の講義を受けていたことは知っていたが、挨拶はしていなかった。


「あれな。まあ薄々分かっていたが、この学園ならではの合理的なやり方だ」


 ダネルは連れて行かれた少年の方を見て言う。少年が連行された所以は上級生の雰囲気からしても容易に推測できる。芽を摘むつもりなのだろう。

 何も虐げられるのはランクの低い生徒だけではない。


 むしろこの学園ではランクの高すぎる生徒こそ狙われる傾向にあるだろう。

 才能があっても、霧生のように入学時からそれを開花させ、活かし、扱える生徒は少ない。熾烈な生存競争において、開花前の才能は叩かれるということである。より効率良くライバルを減らすために。


 《抵抗基礎》のような初歩の初歩と言った講義にも上級生が紛れ込んでいるのはそのためだ。

 少年の場合、一度目の講義からあんな風に《抵抗》を扱って目立ってしまったが故に、才能を見抜かれ標的となった。


「俺の合理的情報網によると、"才能潰し"って言う大規模なグループがあるらしいぜ」


「マジで!」


「なんでそこでテンション上がってんだよ。あいつらもきっとそうだ」


 霧生としてはそんなグループがあるならぜひ標的になりたい所存だ。しかしすでに上級生達を軽く凌ぐ力を持っている霧生が狙われることはない。思い至ると、また少し沈む。

 なんにせよ、霧生は少年を追いかけるべく車椅子を動かし始めた。


「まさか助ける気じゃないよな?」


 ダネルが尋ねてくる。


「そんなことはしない。軽く見物するだけ」


 霧生はありとあらゆる勝利を尊重する。

 後々の障害を消すために、才ある新入生を潰すのも立派な戦略だ。どれだけそれが理不尽で、見ていて不愉快であったとしても、正義感だけでそれを止めようという思いは霧生には一切ない。


「なら着いてく。面白そうだ」


 言って、ダネルは車椅子のグリップを握る。


「……いや、なんでお前車椅子なんだ?」


 ダネルが今更なツッコミを入れてくる。


 大講義室を出ると、既に少年の姿は見当たらなかった。しかし霧生は彼らの進んだ方向を指差していき、ダネルを誘導する。


「あっちだな」


「どうして分かんだよ……」


 こう言った追跡にはそれ専用の魔術を使うか、魔力の糸を付着させるなどすることが多いが、霧生の場合は常人が肉眼では見えないレベルの足跡を見ていた。

 集団で歩く場合は歩幅がほぼ同調なので判断しやすい。少年が時折歩きながら抵抗したであろう痕跡もある。


 霧生達は座学棟を出てそのまま足跡を辿る。

 少年が連れて行かれたのは中央区にある住宅街。人気のない路地裏だ。


 近くまで行くと、繰り返される殴打、撃蹴の音が聞こえてくる。

 ダネルと気取られないように覗き込んで見れば、うずくまる少年に対し、三人の上級生が殴る蹴るの滅多打ちであった。


「あの状況、うらやま……じゃなくて羨ましい」


「えげつねえな……」


 何もしていない少年に対してこの仕打ちだ。あまりに一方的な暴虐を見て、ダネルは呟く。

 霧生は特に表情を変えることなく蹲ってうめき声をあげる少年を見ていた。


 霧生達が路地裏を覗き込むのを辞めてからも、しばらくそれは続く。そしてようやく終わったのか、上級生達はケラケラと笑いながら路地裏の出口、つまり霧生達のいる方へ向かってきた。

 グリップを引いて引き返そうとしたダネルだったが、霧生はレバーを引いてブレーキを効かせた。


「ちょ、おま……!」


 急いでグリップを離し、この場から離れようとしたダネルだったが、もう遅い。


「あー、スッキリした」「また明日な」「金持って来とけよー」


 などと言いつつ上級生達は路地裏から顔を出した。当然、手前で制止する霧生達とは目が合う。


「なんだお前ら、何か用か?」


 三人のうちの一人が睨みを利かせながら一歩踏み出してきた。しかし、すぐにそんな彼を後ろからもう一人が引き止める。


「待て、こいつスタンズさんが言ってた関わるなって言う……」


「あー……」


 霧生の知名度は早くも高まりつつあるらしい。彼らはそれ以上絡んで来ることなく、そそくさと引き返していく。


「……ふう。良く分からんが霧生と友達になって良かったわ。慧眼だな、俺も」


 上級生達を見送ると、霧生は少年のいる路地裏へと入っていった。

 そこでは酷い有様の少年が壁に背中を預け俯いている。新品だった制服はボロボロになり、ぐしゃぐしゃの黒髪も埃に煤けている。持っていたノートなどはビリビリに破かれ、革の鞄も引き裂かれている。


 これは今日で終わりではない。あの手の連中は、再起不能になるまで追い込みを掛けてくる。そうしなければ意味がないからだ。


 霧生は車椅子から少年を見下ろしながら笑みを浮かべる。

 そして我慢ならず、言い放った。


「よう、俺と勝負しようぜ」


「はぁ?」


 素っ頓狂な声を上げたのはダネルだ。


「お前鬼畜か。いくらなんでも」


「ダネル、それは違う。こいつはあいつらを追い払おうと思えば追い払えたんだ」


 少年に親指を向けながら、霧生は言い返した。


「そうなのか……?」


 少年に視線を移すダネル。


「ほら、もういいだろ雑魚のフリは」


 霧生がそう促すと、少年は一つ溜息を吐き、髪を払いつつ指で梳いた。

 そしてだるそうに首を持ち上げる。

 近くで見るとかなり童顔で、年上受けしそうな見た目、というのが霧生の第一印象だ。

 多少擬態しているようだが、佇まいを見て彼が相当な使い手であることを霧生は最初から見抜いていた。


「はぁもう……、これさぁ。僕は学園生活を普通に楽しみたいだけだってのに……低レベルな連中がそれを邪魔する」


「ならやり返せば良かっただろ。お前なら軽く一ひねりできたはずだ」


「それはもっと低レベルだろ」


 沈黙。今のであまり意見が合わないタイプであることは、お互いに察したであろう。

 構わず霧生は言った。


御杖霧生みつえきりゅう。俺と勝負しよう」


「僕はハオ・ジア。勝負はしない」


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