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学園無双の勝利中毒者  作者: 弁当箱
第一章 勝利中毒者と無才の枷
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第12話 抵抗基礎の講義



「マジで今朝のランニングがなかったら余裕で勝ってたんだって」


「はいはい。実質霧生の勝ちよ」


「いやそれは違う」


「それでは『抵抗基礎』の講義を始める。講師のベイルだ」


 時計の針が一時を指した頃、大講義室の教壇にスーツ姿の男が立ち、よく通る声でそう言った。

 新入生達で溢れかえる大講義室の喧騒はすぐに落ち着いて、誰もがベイルと名乗った講師に注目する。リューナに先程の愚痴を聞いてもらっていた霧生も口を閉じ、教壇の方を向いた。


「《抵抗レジスト》は魔術、武術関わらず、この学園で学ぶに当たって最も重要な技能だと言える」


 簡単な自己紹介や前置きもなく、ベイルはさっそく講義の内容に触れていく。


「そしてそれを扱う為には《魔力》、もしくは《気》の緻密なコントロールが必要になってくる。《魔力》や《気》についての説明はこの講義では省かせてもらう。現段階でそれをそれらを自分の中に感じることができない者は、《抵抗》を扱う以前の問題なので、次回の講義まで各々予習しておいてくれ。さて、この講義では《魔力》と《気》の総称として、エネルギーという言葉を使う」


 ベイルは淡々と話した。隣のリューナはペンを構え、要点を聞き逃さないよう真剣な表情をしている。


 《魔力》と《気》は呼び方が違うだけで、同じ体内エネルギーである。

 武術では《気》。魔術では《魔力》。

 近代ではどちらか片方を研鑽し、両方を扱う者は邪道とされていた為、長い歴史の中、派する者によって自ずと呼び方が分けられていた名残が、魔術も武術も満遍なく学ぶことが珍しくなくなった今も受け継がれている。


「ではさっそくだが、解説しながら《抵抗》というものを実演して見せよう」


 ベイルはそう言ってホワイトボードの粉受けの上に置かれてあるイレーザーを掌の上に乗せた。


「《抵抗》は用途として防御に使われることが多いが、イメージとしては"放出"だ。体表の一部に凝縮したエネルギーを押し出す。このように」


 彼の掌の上のイレーザーがふわりと浮ぶ。しかしそれはそう見えるだけであり、実際の所、イレーザーはしっかりと《抵抗》の上に乗っている。

 とはいえあのように《抵抗》の上に安定して物を置くのは熟達の技だ。ベイルの抵抗レジストコントロールはこの学園で講師をしているだけあるものだった。


「皆も近くにある物でやってみようか」


 《抵抗》の習得はまさに鍛錬あるのみ。

 大抵の者は魔力や気を体外に押し出すことに苦戦する。しかしこれができなくては技能者としては生きていけない。

 戦闘において初動の瞬発力は、《抵抗》による助けが必須と言っても過言ではない。


 マスターすれば日常生活に置いてもかなり役に立つ技能だ。

 《抵抗》を太腿の裏に纏えば椅子から楽に立ち上がることもできるし、高所からの着地もクッションするように調整すればなんなく行える。


 ベイルは生徒にアドバイスを授けながら大講義室を練り歩く。


 周囲で始まった抵抗の練習を、自分にもそんな時期があったなと、霧生は暖かい気持ちで眺める。

 リューナはペンを使って抵抗に試みていた。彼女の手の上のペンは、僅かに持ち上がっているが、プルプルと震えて安定しない。


「結構集中力いるわよね……これ……」


「最初はな。慣れれば使ってることを忘れてたりするようになるぞ」


 霧生はリューナのペンを摘み上げて、その指をゆっくりと離す。ペンは一瞬だけ自由落下したかと思えば宙で止まる。

 そして霧生の手の周りをくるくると縦横無尽に回転しながら公転しはじめた。霧生のノーハンドペン回しである。


「凄すぎない?」


「俺、《抵抗》はかなり極めてる」


「……霧生って頭おかしいけど普通に達人クラスなのが腹立つわ」


 霧生は得意気にサムズアップしてペンを返す。

 そんな時、大講義室の後ろの方がドッと沸いたが。


「「「アハハ」」」


 振り返ってみると、そこには抵抗で制服を膨らませ、風船のようになって周囲を笑わせる生徒がいた。その状態を維持している辺り、初心者ではないらしい。

 当然、霧生の他にも最初から抵抗を扱える者はいるようだ。


「思ってたのよ。服着てる所に抵抗を纏ったらああなるわよね。あの場合どうするの?」


「外から固めるように纏えばいい。今教わった、体内から体外にエネルギーを押し出すやり方だとあれは防げないな。だいぶ難易度高いぞ。体内との密着部分が少ないと制御も難しくなってくるし」


「ふうん……」


 部分的にしか纏えない上に大した厚みも出せない最初の内はあまり必要ないが、そのうち抵抗を鎧のように全身に纏うこともできるようになる。その時必要になる技術だ。


「あの原理でガタイを良く見せてる奴もいるんだぜ」


「あー、……今私も思いついてた」


 リューナは一瞬視線を下ろした。

 しっかりと出るところが出ている彼女には必要無さそうな裏技である。


「他には漫画みたいに筋肉で服破くやつ……あの演出も《抵抗》で実現可能だ」


「そっちの方は実用性皆無よね」


「いいや実はそうでもない。服を掴まれたりした時はそれで脱出できる」


 風船のように膨らんだ体でおどけ、周囲を沸かせる少年に霧生は再び視線を向ける。


「しかしあいつ目立ってるな……、ちょっと魅せてやるか……」


 これは実用性と言うわけではないが、服を弾き飛ばせばあの少年より目立つことができるだろう。霧生はそう思って車椅子のハンドリムに手を掛けた。


「やめて」


 何をするのか察したのか、リューナが全力で制止してきた。



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