母は強し
さて、転生と言っても様々な転生がある。
例えば令嬢、悪役令嬢、皇子、庶民、忌み子、美少女、美少年、チート、ポンコツ……。ハーレムなんてほとんどの男の憧れだが、まあ、世の中そう上手くできてはいない。
では、俺はどうなのかと聞かれると……
「なんて事だ!? 王族の第九皇子にして魔力なしとは!」
「やはり、九とは不吉な数字なのだな…」
「国民には、第九皇子は出産過程で死んだと伝えろ」
「では、皇子は…」
「殺せ」
完全に無き者にする方向である。
俺はごく一般の男子高校生だったが、自転車事故にて死亡。それについて一言「みなさん、一時停止と左右確認は大事にしましょう」。そして、目が覚めると白い天井。病院かな? と思ったら、病院は病院でも、産婦人科だった。そして、先程の会話である。
…あっさりまとまったな、俺の前世。
なんて現実逃避をしてみたが、俺の今の状況は生後五分にして生死の瀬戸際をさ迷っている。五体満足なのに! 超健康体なのに! あと、お腹空いた!
そんな「えーえー、ぴゃーぴゃー」としか言えない俺の元へ救世主が現れた。
「やめて! 私の子よ!」
ぼやぼやした視界の中、黒髪の声からして女性が叫ぶ。ああ、この人は母さんだ。と、本能的に理解した。
「殺させない…国の都合? 王家の恥? そんなの、この子を死なせる理由にはならないわ!」
「王妃よ。お主も解っているだろう? この国の仕来りだ」
「ええ。もちろん。けれど、させないわ!」
「いくら王妃といえど、その言葉は国法違反であり、極刑だぞ」
「私の極刑ごときでこの子が助かるならば安いものよ」
「王妃は、産後の疲れで気が狂っているようだ…」
「狂っているのは、どちらかしらね? この国はおかしいわ」
「警告はした。一度の違法に目を瞑った。逃げ道も作った。だが、あなたは国法に背いた」
「私を殺す?」
「これは極刑です。あなたは、実に素晴らしい人だった」
俺の腕に痛みが走った。急に強い力で体が持ち上げられたのだ。
「王妃!!」
びちゃびちゃと、垂れた血の上を裸足で駆ける音がする。恐い。母さんが死んでしまう気がする。いや、きっと今は脳内麻薬で痛みなんかなくて、麻薬が切れたとたんに死んでしまう方があり得る。
「ごめんね、すぐに安全なところに着くからね」
そう言って、母さんが足を止めたのは一日以上経過した後だった_
数年後。俺は『ティル』という名前で、すくすくと成長中である。今は平和に母さんと
「ティルー、バナリーの葉を採ってきてちょうだい」
「わかったよ母さん」
奇跡的に一命を取り留めた母さんと、
「イヒ…」
二人暮らしを…
「イヒヒヒヒ…」
二人暮らしを…
「イヒヒヒヒ…さぁ、ティル! 新しい薬ですよぉぉぉぉ!」
「二人暮らしをしたかった!」
ヤブ医者と、三人暮らしをしている。
こそっと作者が失礼します。
バナリーとは、
食物繊維たっぷりの黄色いお野菜です。
見た目は芒の葉、食感は古いアスパラガス、味は落花生。
「食べにくいけど、美味しい」
と、まずまずの評価のようです。
お付き合いして下さり、ありがとうございます!
精進します。