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無人島でスローライフを送っていた勇者、島流しの刑にされた悪役令嬢に見つかり下僕になる

作者: 桜草 野和

「あなた、勇者でしょ」


 清流で水浴びをしていた俺に向かって、伯爵令嬢のリターナ様が言った。しばらく動けなくなるほど、リターナ様は美しかった。


 俺は物心ついたときからケンカがやたらと強く、12歳のときに試しに谷底で見つけた剣でドラゴンと戦ってみたら、あっさり倒してしまった。

 この強さは、“普通の人間ではない”と自覚していた。


 それにこのルックス。清流にうつる端整な顔立ち。この肉体美。どこからどう見ても俺はイケメンだった。


 15歳のときに、勇者が魔王に返討ちにあったと聞いて、俺が次の勇者になったに違いないと思った。


 俺は勇者であることを隠すことにした。


 だって、完璧な人間が、順風満帆にハッピーエンドになる物語なんて読んだことがない。たいていは、何かしら痛い目にあうようになっている。


 無双でイケメンの完璧すぎる俺は、きっと魔王に負ける筋書きになっているはずだ。


 俺は勇者であることを誰にも気づかれないように無人島で暮らすことにした。



 それから3年間が経ち、18歳に成長し、さらに強くイケメンになっていた俺の前に、突如リターナ様が現れた。


 話を聞くと、結婚するはずだった竜騎士団長子息のハリスに婚約破棄された上に、この無人島に島流しされたそうだった。

 リターナ様からハリスを奪った悪女ユラに仕組まれたらしい。


 リターナ様は見れば見るほど、その美しさに驚かされる。

 やはり、完璧な人間には、辛い仕打ちが待っているものなのだ。


 俺はこの島で、目立たないように暮らそうとあらためて思った。


 ところが、


「勇者だということを、ばらされたくなかったら、私の下僕になりなさい。名前はなんていうの?」


とリターナ様に脅された。


「お、俺はイーグ。勇者などではありませんよ」


 とにかく否定しようとした。


「あなたの剣、聖剣でしょ。それ、勇者しか扱えない剣よ」


 まさか、谷底に突き刺さっていた剣が、聖剣だったとは……。


 俺は勇者であることを認めるしかなかった。つまり、リターナ様の下僕になるということだ。


 もちろん、口封じのためにリターナ様を抹殺するという選択肢もあっただろう。だが、女を斬ることなど俺にはできなかった。それはやはり、俺が勇者であることも関係しているに違いない。


「こんなことになった場合のために、今晩この私を迎えに来る者を雇っていたけれど、あなたがいればそれまで待つ必要はないわね。さっさとこの島から出るわよ」


 俺はイカダを作らされ、3年間暮らした無人島から出て行くことになってしまった。



 イカダでリターナ様の故郷である『アルゴード』を目指していると、海賊の艦隊に出くわした。


 名のある海賊なのだろうが、俺の敵ではなかった。


 幹部と船長を、流れ星が消えるスピードより速く倒した。


「あなたたちも、今から私の下僕になりなさい! 逆らったらイーグに殺させるわよ!」


 リターナ様にそう脅され、1,000人を超える海賊たちが手下となった。


「フフフッ。私に相応しいお宝だわ」


 さらに海賊団の母艦には、大量の金銀財宝が積まれていた。



 海賊を手下に引き連れ、再び『アルゴード』を目指していると、今度は海軍に遭遇した。


 どうやらこの海賊どもを追いかけてきたようで、300隻は優に超える大艦隊だった。兵士の数は5,000人はいるだろう。


「アハハハッ。イーグ、チャンスよ。あの海軍も手下にするわよ。さっさとボスを倒してきなさい!」


「でも、相手は海軍ですよ。海賊ならまだしも、海軍を攻撃するのは……」


「お黙りなさい! 相手が悪人なのか善人なのか、そんなことは関係ないわ。問題は私の味方になるか、敵になるかということだけよ。私の言うことが聞けないのなら、海軍にあなたが勇者であることをばらしてやるわよ」


 俺に選択の余地はなかった。




 勇者と海賊と海軍を手下にしたリターナ様は、『アルゴード』を一晩で攻め落とした。


 そして、婚約を破棄した竜騎士団長子息のハリスと、悪女ユラを幽閉した。


 さらには島流しの刑にした国王を、自らの手で処刑された。



 『アルゴード』の女王となられたリターナ様は、海賊から奪った金銀財宝をばら撒いて、世界各国から傭兵を集めた。




 5年後ーー


 リターナ様は、世界統一を成し遂げ、女覇王となられた。


「イーグ、私と結婚しなさい」


「嫌です」


 リターナ様と結婚なんて、幸せすぎる。俺はただでさえ完璧な勇者なのに、これ以上良いことがあったら、後でどんな仕打ちが待っているのか考えただけでもゾッとする。


「安心しなさい。イーグは本当は勇者ではないの」


「なぬっ?」


「イーグには内緒にしていたけど、1年前に本物の勇者が魔王を倒したのよ。イーグは人に会いたがらないから、簡単に隠すことができたわ」


「えっ、でも、勇者しか使えない聖剣はここに」


「ああ、それはただの谷底に突き刺さっていた剣よ。イーグを下僕にするために嘘ついたの」


 そうか、俺は勇者ではないのか。よかった。


「でもね、イーグ。無人島で出会ったとき、私があなたを勇者だと思ったのは本当なの。直感的にそう思ったの。私としたことが見当違いだったのだけどね」


 ううっ、リターナ様をがっかりさせてしまった。


「だけどこうして一緒に世界を支配してわかったわ。私がどうしてイーグを勇者だと思ったのか」


 リターナ様は俺に抱きつくと、


「イーグが私の運命の人だったからよ」


と言ってキスをした。


 勇者ではないとしても、俺はこんなに幸せになって大丈夫なのかーー⁉︎


「イーグ、一生、私の言うことを聞いてね」


「はい、リターナ様。お誓い申し上げます」


 幸せすぎて心配だが、俺はリターナ様と結婚することにした。


「それではイーグ、さっそくだけど、アルゴードで反乱が起きているみたいなの。さっさと鎮圧してきてくれる。まったく、ちょっと税率上げたくらいで騒がれていい迷惑だわ」


 リターナ様を困らせるとは不届き者たちめ。


 俺は直ちに、世界の真裏にあるアルゴードに向かうことにした。


 遠方まで行くので、しばらくリターナ様に寂しい思いをさせてしまう。


 なんてかわいそうなリターナ様。


 美しすぎるあまり度々、リターナ様には辛い出来事が起こるが、どうして強くてイケメンで完璧な俺には何も辛い出来事が起こらないのか謎だ。


 まぁ、謎のままでいいのだが。


 リターナ様と出会って、俺は世界一幸せだ‼︎

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