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人見知りする竜(ドラゴン)との戯れ(ランドール視点)

更新お休みの間にも閲覧いただきありがとうございました(*・ω・)*_ _))ペコリン


見直しと手直しとルビ振りで時間を取られて遅くなってしまいましたが続きを投下です!

今回もまた王子ランディ視点になります!






「ところで腕に抱いているのはルワァーズですか、リリィ?」

「はい」


気になっていた水色の塊を指摘したギルの言葉にリリーメイ嬢が頷く。


「もしやルーファス兄さんからの頼まれ事というのはルワァーズを連れてくることだったのですか?」

「ええ。許可は取っておくから、と」

「一体何のために……?」

「すぐに分かると思いますわ」


そんな二人の会話を他所に、ヒューがリリーメイ嬢へと近づき腕の中の水色の塊───ルワァーズという名らしい───を軽く突く。


「寝てる? 起きてる?」


突かれながらのその言葉に、水色がもぞもぞと身動ぎをしているのが目に入った。


「ああ、起きてるね。ルワァーズ、僕だよ。ヒューバート」

《!》


ヒューの言葉を聞いて、リリーメイ嬢の腕の中の水色がようやく顔を出した。


「───ッ!」


それは息を飲むくらいにキレイな(ドラゴン)だった。

それもまだ幼い子どもの(ドラゴン)

全身が淡い水色で、ヒレの部分は少し濃いめの青色をしている。

光に反射してキラキラと煌めく鱗がとてもキレイで思わず見惚れてしまった。

そして目は大きく、上質なサファイアを埋め込んだかのようだ。


例えるならば、まるで『生きている宝石』。


クリスタルやブルーダイヤモンドといった淡い青や水色の宝石を(ドラゴン)に変化させたらこうなった……みたいな、そんな感じだ。


《キュウゥ~……?》



────今、鳴いた!?



……ヤバい、かわいすぎる!



「あははっ! ルワァーズ、さっきまで寝てたの?」

《キュウ~……》

「そっかそっかぁ~。寝てたのに起こされちゃったんだね、リリィに」

《……キュ》

「人聞きの悪いことを仰らないでくださいませ、ヒュー。ルワァーズもそこで肯定するなんて酷いですわ」

《キュキュ!》


軽く頬を膨らませるリリーメイ嬢に、ルワァーズと呼ばれたチビ(ドラゴン)が取り繕うようにスリスリと身体を擦り寄せた。

それを見てヒューもまた『ゴメンゴメン、冗談だって!』と、さっきのような軽い謝罪の言葉を口にする。


「正確には起こされたのではなく、起きたのでしょう? リリィが側に来てくれたから。違いますか、ルワァーズ?」

《キュウッ♪》


続いたギルの言葉を受け止め、嬉しそうに首を上下させる姿にこれが正解だったということが存分に伝わってきた。

どうやらこのチビ(ドラゴン)は随分と人に慣れているらしい。

現にリリーメイ嬢の腕の中におとなしく抱かれたままで、そこから逃げ出す素振りなど一切見せない。

キョロキョロと忙しなく首を動かし、ギルとヒュー、それからリリーメイ嬢の顔を見ては『キュウ、キュウ』とかわいらしい声で鳴き続けている。


その様子を目にしていると、なぜか不思議と心の奥がほっこりしてきて『癒されるなぁ……』と感じていることに気がついた。


「そっか……」


思わずぽつりと零していた。

俺は今、目の前のこの光景に癒されているのか。


そう確信したと同時に、もう一度『ルワァーズ』と呼ばれているチビ(ドラゴン)を見遣った。


「!」

《!?》


バッチリ目が合った。

あまりにもタイミングが良すぎたそれに驚いたのは、俺だけじゃなくこのチビ(ドラゴン)も同じだった。


しかも……


《キュ…………》


俺と目が合ったその瞬間、このチビ(ドラゴン)はビクッと大きく身体を震わせたかと思うとぷるぷる震え出した。

同時に大きな青い目からみるみるうちに『ぶわわ……!』と涙を溢れさせる始末。

ただでさえ今にも泣きそうなくらいに目がうるうるしてるな……と思っていたのに。

それが今や本当に泣いているという始末。


「……え、待って!?」


もしかして、コレ……



────俺が泣かせたことになるのか……!?













~人見知りする(ドラゴン)との戯れ~




最初と同じくリリーメイ嬢の腕の中で丸くなってしまったチビ(ドラゴン)を、俺は複雑な思いで見つめていた。

丸くなっているからこそよく分かる、ぷるぷると震えているその姿。

小さいながらもスンスンと鼻を鳴らすような声が聞こえてくるのは、このチビ(ドラゴン)が本当に泣いているからに他ならない。


「……あらあら、これは困りましたわね。一体どうしましたの、ルワァーズ?」


腕の中のチビ(ドラゴン)は、どこか必死な様子でリリーメイ嬢にしがみつくようにくっついていた。

困ったように笑うリリーメイ嬢に、身体全体をぐりぐりと押しつける形で縋りついている様がよく分かる。


「大丈夫ですわ。決して怖くなんてありませんのよ?」


幼子を宥めるように優しく背を撫で語りかけるリリーメイ嬢の声を聞いて一瞬だけチビ(ドラゴン)の身体がピクリと動いた。


「そうだよ、ルワァーズ。ルーファス兄さんが連れてきたうちのお客さんだから決して怖くなんてないんだよ?」

「ルーファス兄さんが(ドラゴン)たちに対して悪感情を抱く者を客人として招かないことはあなたもよ~く知っているでしょう、ルワァーズ?」


リリーメイ嬢に続き、ヒューとギルも宥めるように言葉を連ねる。

それを聞いてチビ(ドラゴン)が恐る恐る顔を上げた。

相変わらずぷるぷると身体を震わせながら、潤んだ目で三人の顔を交互に見上げている。


「怖くなどありませんよ、ルワァーズ」

「ルーファス兄さんのお客さんで、僕たちの友だちでもあるからね?」



────え……?



思いがけないヒューのその一言を聞いて、驚きのあまり呆然としてしまった。



────今ヒューは、なんて言った……?



俺のことを『友だち』だと。

確かに、そう、言ってなかったか……?


「ルワァーズ。ヒューのお友だちは怖いですか?」

《! キュキュッ!》


続いたリリーメイ嬢の問いかけにチビ(ドラゴン)は弾かれたようにハッとなり、それから問われた言葉を否定するように大きく首をブンブンと振った。

大きな目は相変わらずうるうるしていて、溢れた涙も乾かないままではあったけれど。


「では、ルワァーズ。お友だちにご挨拶をしましょうね?」

《キュウ!》


返事はしっかりしていたけれど、俺をじっと見つめるチビ(ドラゴン)はやっぱりぷるぷる震えたままだ。



────もしかしてこのチビ……



「人見知りなのか?」


それも極度の。


「その通りですわ、殿下」

「そうそう。ルワァーズさぁ、人間好きではあるんだけど、なかなか人に慣れないんだよね~」

「性格は非常に穏やかでおとなしく、とても繊細な一面がありますからね」


疑問はあっさりと解決した。

俺を見て泣いて震えたのは極度の人見知りが原因だったらしい。

人に全く慣れていない野良の犬猫と同類か。

威嚇されないだけマシではあるが。



────けど……人見知り、か……

────それなら俺を見て怖がるのも仕方のない話だよな……



別に怖がらせるつもりなんか全くなかったんだけど……


「ゴメンな?」


そっと手を伸ばし、謝りながら頭を撫でた。

触れた瞬間、一瞬だけビクッと身体を震わせたけれど、チビ(ドラゴン)が俺から逃げることはなかった。


「そこはランディが謝ることなんてないよ。全然悪くなんてないのに」

「……けど、コイツ怖がらせたのは事実だし」

「それでも、ですよ。簡単に謝ってはいけません。ルーファス兄さんからも散々そう言われているのではありませんか?」

「う゛……」


確かに言われてる。

『王子が簡単に謝るな』って。

でも、さっきのは王子として謝ったわけじゃないし。


純粋にこんなに小さくてかわいい(ドラゴン)を怖がらせてしまったことが心苦しかった。

だから、そのことに対する罪悪感から『ゴメン』って言葉がするりと出てきただけ。


「別にいいじゃん。どうせここで言ったことなんて全部なかったことになるんだし。ゴメンの一言や二言くらい軽い気持ちで聞き流しなよ、ギル兄さん」

「それもそうですね。余計なことを言いました」

「……ま、参考程度に聞いておくくらいでちょうどいいと思うよ? 別にギル兄さんはお小言を言っているわけでもなんでもないしね?」

「そう、なのか?」

「うん! だってお小言を言うのはルーファス兄さんの役目って決まってるから」

「……………………」


……全く否定できないのが悲しいところだな。

ていうか、普通に考えて王族相手にめちゃくちゃ説教できるのってルーファスくらいじゃないか?

父上にさえハッキリと『めんどくさい』とか言ってしまえるくらいだからな。


ぼ~っとそんなことを考えていたら、手の甲にひんやりとしたものが触れた。


「ん?」


反射的に見下ろすと、チビ(ドラゴン)───もといルワァーズが俺の手の甲に鼻先をくっつけてじ~っと俺を見上げているのが目に入った。


《キュ!》

「?」


相変わらず大きな目をうるうるさせながら俺を見上げるその様子に、何か言いたいのだろうかと思い当たる。

……が、俺には(ドラゴン)が何を言おうとしているのか全く汲み取ってやることができない。

そういうわけで首を傾げることでしか反応を返せない俺に、リリーメイ嬢が助け舟を出してくれた。


「泣いてしまったことを謝りたいようですわ」

「へ?」

「ルワァーズは、殿下の顔を見た瞬間に泣いてしまったことに対して申し訳なかったと言っておりますの」

《キュキュゥ~……》


リリーメイ嬢にそう言われ、ルワァーズがしょんぼりと項垂れた。

大きな青い目が、先ほどよりももっともっとうるうるしているように見えてきた。


気のせいか?

いや、気のせいじゃないな。


ここで俺が何の反応も返さなかったら、またコイツ泣きそうな気がする。

っていうか、確実に泣くだろうな!

繊細すぎるにも程があるだろ!


「さぁ、ルワァーズ」


そう言ってリリーメイ嬢がルワァーズを俺の方へと向けさせた。

まるで俺のところへ行けとでも言っているかのように。


《キュウ……》


小さな鳴き声を上げながらルワァーズがじっとリリーメイ嬢を見上げる。

そして、リリーメイ嬢もまた同じようにルワァーズをじっと見つめている。

赤と青という色の違いはあれど、潤んだ大きな目で互いに見つめ合うその姿を見てこう思った。


「……なんか、そっくりだな」

「えっ?」

《キュウ?》

「! あ、いや! その……え、っと……なんていうか……」


思ったことをつい口に出してしまったことに焦ってしまい、どう言い訳をしていいか分からなくなってしまった。

そんな俺を見て、ヒューが笑いながらフォロー(と言っていいか分からないが)に入った。


「確かにそっくりだよね、リリィとルワァーズ。うるうるした大きい目でかわいいとことかさ」


ヒューにそう言われて、改めて彼女たちを見る。



────……確かに



うるうると潤んだ目は大きくて、どちらもかわいい。


「───ッ!!」


言われた言葉の意味を頭がきちんと理解した瞬間、顔が熱を持って一気に熱くなった。

同時に自分が()()()()()()()『そっくりだ』と口にしたことを自覚してしまったのだ。

さすがに軽率すぎるだろう。

今日会ったばかりの相手に対して、かわいいという感情を持ってそのようなことを遠回しに言ってしまうなんて。


おまけにリリーメイ嬢は兄上の『唯一』である相手。

万が一このことを兄上に知られたら殺される。


いくらここでのことがなかったことにされるとはいっても、当事者間にはその事実はしっかりと残るわけで。

表向きはなかったことになっても、本当の意味では完全になかったことにはならないのだ。



────と……とりあえず、この先の己の発言には気をつけよう

────どんな一言が自分を追い込むか分かったもんじゃないからな……



そう考えるとキュッと肝が冷えた気がして、思わず大きく首を振りマイナス方向の考えを追い払った。

そんな俺を不思議そうに見ていたルワァーズが、また俺の手に鼻先をくっつけてきた。

今度はそれだけじゃなく、恐る恐る様子を見ながらではあったが徐々に頭ごと擦りつけるように俺との距離を縮めてきたのだ。


「!」


その事実に驚きルワァーズ見下ろすと、またもタイミングよく目が合った。


《!!》


同時にまたもビクッと身体を震わせて後退し、縮められたはずの距離が一気に遠退いた。

それも、縮んだ距離以上に遠退く距離のほうが長いという『二歩進んで三歩下がる』みたいな状態だ。



────……ま、そうだよな……



そもそもが、怖がられていることが前提になっているもんな。

極度の人見知りならやりすぎなくらいに警戒されていても仕方のない話だ。


けど……



────この、近づいた距離以上に遠退かれるってのは地味にショックだな…………



思わずへにょっと眉を下げてしまったのは決してわざとではない。

そんな俺の様子と、相変わらずぷるぷるして縮こまるルワァーズを見てギルが盛大な溜息をついた。


「…………全く」


そう言うなり、突然ギルがリリーメイ嬢の腕の中からルワァーズを掴み上げた。

それも逃げないように翼の根元を鷲掴む形で。


《!?》

「往生際が悪いですよ、ルワァーズ。自分を好きになって慣れてほしいと思うのなら自分からどんどん行きなさいといつも言っているでしょう? もう成竜(おとな)になったんですから、いつまでもずっと受け身のままでいるわけにはいかないことくらいちゃんと分かっているのでしょう?」

《キュ……キュウ~~~……》



────え……



「おと、な……?」


まさか。

嘘だろう?

こんなチビなのに?


やってはいけないと分かっていつつも、指差しながら訊ねてしまう。



────このチビ(ドラゴン)成竜(おとな)だって……?

────一体何の冗談だ?



「ええ。正確には成竜(おとな)になったばかりの若い個体ですが」

「え~っと……成竜(おとな)なのにこんなチビなのはそういう種類だから、なのか?」

「ううん。(ドラゴン)は自分の意思で自分の身体を幼竜化(小さく)することができるんだよ。今のルワァーズのこの姿はそれ」

「こんなかわいいチビなのに成竜(おとな)なのか、お前……」


思わずぽつりと呟いたらじっと見つめられた。

相変わらずうるうるしている大きな青い目はかわいい以外の表現が見つからない。


「ほら、ルワァーズ。ランディと仲良くなりたいと思うのなら怖がらずに勇気を出して自分から行く!」

《!? キュウッ……》


翼の根元部分を引っ掴んだままの状態で『ずずいっ!』と目の前にルワァーズを突き出されてしまった。

そのまま受け取れという意味なんだろうけど、突き出されたルワァーズはぷるぷる震えてめっちゃ涙目だ。

見ているだけでかわいそうになる。


っていうか、ギル。

丁寧な言葉遣いで柔らかい物腰のクセに……



────鬼畜すぎんだろ……



そう思って軽く頬を引き攣らせていたら


「うわぁ~ギル兄さんってば鬼畜ぅ~……」


……と、ヒューが俺の心情をそっくりそのままぶっちゃけてくれた。


「でもギル兄さんの言ってることも一理あるんだよね。ずっと人慣れしないままでいるなんて、ルワァーズのためにならないからね」

「……じゃあ、俺で慣れてくれるか?」


できればこれ以上は泣かせたくないが、ダメならダメでその時だな。


「ランディ。そこは『慣れてくれるか?』ではなく『慣れろ!』と言ってほしいところですね」



────言えないから!?



マジで鬼畜すぎるぞ、ギル!

全くもって容赦がないな!!


っていうか、また泣いてるからルワァーズ。

うるうるしすぎて目が溶けそうになってんぞ……


「と、とりあえず。怖くないから。な?」


……と、不器用なりに声をかけて腕の下から捕まえる形で抱き上げてみた。

俺の手がルワァーズを捕まえたのと同時にギルの手が離れたことで、落ちないようしっかりとルワァーズを抱え込む。

途端に腕の中で丸まってぷるぷる震え出した。

やっぱり……と思うと同時に、さっきリリーメイ嬢に抱かれていた時もこうだったなと思うと、これがルワァーズの常の状態なのかもしれない。


「しばらくしたら落ち着くから気にしなくていいよ」


……とは、ヒュー。


「他の()と比べると、ルワァーズは慣れるのが極端に遅いだけですから。時間が経てば大丈夫ですわ。何も問題はありません」


続いてリリーメイ嬢もそう言う。


「ルワァーズ。あなたはやればできる子なんですから、会う人会う人全てを怖がる必要はないんですよ? とにかく人とたくさんくっついて慣れなさい。あなたには人と触れ合う時間が他の()と比べると少しばかり多く必要なだけです。いい機会ですから、今日はもうこのままずっとランディとくっついていなさい。そして今日のことを切っ掛けに極度の人見知りを克服するつもりで人と向き合いなさい。いいですね、ルワァーズ」


最後にギルから説教じみたことを言われてルワァーズがゆるゆると顔を上げた。

しばらくの間、その青い目でじっとギルを見つめていたが、その視線は徐々に俺のほうへと向いてきた。


うるうるした状態はやっぱり変わらないが、さっきと違って目が合ってもビクッと身体を震わせることはなかった。

ちょっとだけ慣れてくれたと思ってもいいのだろうか。


「…………」

《…………》


互いに見つめ合うこと数秒。

妙な沈黙が生まれたと思ったその時、リリーメイ嬢から控えめな笑い声が零れた。


「ふふっ。もう大丈夫そうですわね」


そう言うなり、リリーメイ嬢がルワァーズの顔を覗き込み、それから今度は俺の顔を見上げる形で表情を窺ってきた。


「わたくし、これからお茶の準備をいたしますの。このまま殿下にルワァーズをお願いしてもよろしいでしょうか?」


えっ?


俺は今、リリーメイ嬢からよろしくされたのか?

このチビ竜(ルワァーズ)のことを。


言われて見下ろす。

また目が合った。


うるうるした目でじっと見上げてくるルワァーズ(コイツ)を見て断るわけがないだろう。



────よろしく……されてやろうじゃないか!



「分かった」

「ありがとうございます。それではお任せいたしますわね?」

「うん。任された」


変な受け答えになってしまったが、任されたことに対しては全力で応えるぞ、俺は。


「あははっ! 『任された』って。固いよ、ランディ!」

「う、うるさいなッ!」


咄嗟に出てきたんだ、ほっといてくれ。


むくれて顔を顰める俺と笑うヒュー。

そんな俺たちを見て微笑ましそうに笑うギルとリリーメイ嬢。

それから腕の中にはきょとんとした表情で俺たちの顔を交互に見渡すチビ(ドラゴン)という、何とも奇妙な空間ができあがってしまった。


「それではギルお兄さま、わたくしはお茶の準備をしにまいりますわ。使われるのはノースレイヴ家(そちら)のサロンでよろしいのでしょうか?」

「ええ。ノースレイヴ家(こちら)のほうにお願いします、リリィ。最初からそのつもりでマルセルとともに動いていますので。手間のかかることを押しつけて非常に申し訳ないのですが」

「とんでもございませんわ、ギルお兄さま。それでは行ってまいります」

「行ってらっしゃい、リリィ」


キレイなお辞儀をしてこの場から去っていったリリーメイ嬢を見送る。

急ぎ足なのに、その歩みの進め方は実に優雅だ。

一切の無駄がない。

それだけ礼儀作法を正しく身につけ、完全に自分のものにしてしまっている証拠なのだろう。



────面倒だとか思わず、俺もリリーメイ嬢を見習わないとな……



その後姿が見えなくなるまでぼんやりと見ていると、横からヒューが俺の顔を覗き込んできた。


「どしたの?」

「……や。リリーメイ嬢の所作がキレイだなって思って見てただけだ」

「あ~……リリィのアレはロザリアさま仕込みだからねぇ」

「なるほど。納得した」


ブランフルールの王女直々の仕込みなら完璧なのも頷ける。

普通に王族でも通用する立ち居振る舞いだってわけだ。


「……さて。お茶の準備はリリィに任せて、オレたちはサロンへと向かいましょうか。どうぞこちらに」


促され、先導して歩くギルについて邸の奥へと向かう。

しばらく歩いてからふと気づいた。

周りがあまりにも静かなことに。


「あれ?」

「どうしました?」

「やけに静かだと思ったら妖精(チビ)たちがどこにもいない」


俺のその言葉に反応するように、いつの間にかまた丸まっていたルワァーズがもぞもぞと身動ぎしてからにゅっと首を伸ばしてきた。


「うわ!?」


位置的な問題で下顎に頭突きを食らいそうになり、思わず声を上げて仰け反ってしまう。

そんな俺に気づいてか、申し訳なさそうにじっと見つめられてしまった。

うるうるした大きな目で。


分かってる。

悪気がないってことくらい、ちゃんと。



────だから、目をうるうるさせながらじっと見てくるのはヤメロ!!

────まるで俺が泣かせてる(そうさせてる)みたいじゃないか!



どうも俺はルワァーズ(コイツ)のうるうる目に弱いみたいだ。

たぶんだけど、リリーメイ嬢の目にも同じように感じるかもしれない。


別にホントに泣いてるわけじゃなくても、こう……何というか。

潤んだ目を見てしまうと『う゛……』とたじろいでしまうんだよな。

何もしてないのに悪いことをした気分になるともいう。


「はぁ~……」

《?》

「……ホント罪なヤツだよ、オマエってヤツは……」

《??》


俺の心情を全く理解していないだろうルワァーズの、きょとりとした表情と首を傾げる仕草も罪だと思う。

どこまでかわいいを突き抜けりゃ気が済むんだ。

ルワァーズ(コイツ)はかわいさで俺を殺しにきてるんじゃないだろうか。

俺がめちゃくちゃ(ドラゴン)好きなのをいいことに。


《キュウ??》

「! ああもう、また!」

《キュ!? キュウゥ!?》


これ以上の追撃はやめてくれ!!

かわいすぎて悶え死ぬ!!

俺が!!


「……助けてくれ、ヒュー。ルワァーズ(コイツ)がかわいすぎて俺死にそう……」

「あはははっ! 確かにルワァーズのかわいさは殺人級かもね! かわいいって正義にもなるし罪にもなるんだね~!」

「笑いごとじゃない!!」

「あはははっ!!」


どうやらヒューに俺を助けるつもりはないらしい。


「どうせならランディもルワァーズに慣れたらどうです? 互いに利点しかないでしょう? ルワァーズは人見知り改善のために。ランディは……かわいすぎる(ドラゴン)に耐性をつけるために……とでもしておきましょうか」



────うわぁ~……



予想外な試練が俺に襲いかかっている。

……っていうか。


「慣れ……られるのか?」

《キュウ?》

「……ぅぐッ……!」

「あっはははっ! 道のりは遠いねぇ〜!」

「笑うなッ!」


当たっているだけに腹立たしい。

そして自覚してしまった。

きっと俺は『かわいい』に弱いのだと。


そういや……



────一番初めに逢った時のあの子も泣いてたんだよな……



俺が『かわいい』と『涙目』に弱いのはきっとそのせいなんだろうな……


「はぁ……会いたい…………」


ぽつりと零したその言葉を聞いていたのは、俺が抱きかかえているルワァーズだけだった。


《キュ?》

「……自由に飛べる翼があるって羨ましいな、オマエ」

《?》


俺が(ドラゴン)だったら、真っ直ぐにあの子のところに飛んでいけるのに。

……なんて。

叶うはずのないバカな願いを抱いてしまうくらいに俺は感傷的になっているらしい。


「はぁ……」


そうしてまた一つ溜息をついた時。

忘れかけていた疑問の答えをヒューが口にした。


「そうそう。さっきまで一緒だった妖精たちだけど。一足先にサロンに向かったよ」

「……へ?」

「マルセルがお菓子の用意をするのを嗅ぎ取っていっせいについていったから」

「…………マジか。ていうか、やっぱお菓子食うんだな、妖精」

「基本的には何も食べなくても生きていける種族なんだけどね。別に食べられないわけじゃないから、人間と関わるための一種の手段として用いてるって感じかな」

「あ~……そういやルーファスも嗜好品みたいなもんだとか言ってたな」

「そうそう。ちなみに(ドラゴン)もお菓子食べるからね?」

「マジで!?」

「うん」

《キュウ!》

「肉食じゃないのか!?」

「いえ、雑食ですね」

《キュッ!》

「すごいんだよ、(ドラゴン)は! 肉も野菜も草も食べるし、辺境地の魔物が出る地域(エリア)とかだと魔物(それら)も食らうし? 魔力が高い個体にもなると鉱石や魔石もバクバク食べるよ!」

「……すごいな。雑食にも程があるだろ……」

「そういうわけですから、サロンでは色々と驚くかもしれませんね。ですがここではそれが()()()()()()()だと思っていてくださいね、ランディ?」

「? ……うん」


どこか含みのある笑みを向けられ、疑問に思いつつも言われた言葉に頷いた。

驚くとはいってもそう大したことでもないだろうと思っていたのだ。

まだこの時は。




その数分後。

俺はギルから言われた言葉と、含みのある笑みに込められたその意味を、嫌というほど思い知らされることとなる……─────


















ドラゴンとの戯れは書いていてとても楽しかったです( *´艸`)

ちなみにルワァーズは水竜に分類されるアクア・ドラゴンという種で、ギルバートのドラゴンになります(*・∀・)

そして、ヒューバートにもちゃんと自分のドラゴンがいます!


ルーファスやパパンがそうであるように、基本的にノーヴァ&ノースレイヴの一族はそれぞれが専属のドラゴンを側に置いています

本編内ではなかなか触れる機会が来そうにないので、小話あたりでランディと絡めて書いてみようかな~……と考え中(^^ゞ

その前に登場人物欄も書き換えないといけないですね!


続きもまた王子ランディ視点になります!

それとルワァーズは一応、雄(男のコ)です( *´艸`)


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