めまぐるしい一日の終わり
いつも見てくださってありがとうございます(*・ω・)*_ _))ペコリン
久しぶりにおチビさんたち登場してます('-'*)
~めまぐるしい一日の終わり~
馬車の中で延々と王子さま話を繰り広げ、ようやく邸へと辿り着いたその時刻は21時を少し過ぎた頃だった。
静まり返った敷地内を進み、エントランスホールに足を踏み入れた私たちを迎えてくれたのは家令のカイエンと私の専属侍女であるエルナ、それからロイアス兄さまの専属侍女、リーシェとマリエラの四人だけだった。
どうやら帰りが遅くなることを予想して、他の使用人ズの皆さんには早めに休んでもらうようお母さまから連絡が行っていたらしい。
「おかえりなさいませ、奥様。それからフローレンお嬢様」
「「「おかえりなさいませ」」」
カイエンに続いて、侍女の三人もまた同じタイミングで出迎えの言葉を口にして一礼する。
そんな四人の姿を見て、お母さまがゆったりとした歩調で足を踏み出した。
「ただいま帰りました。それから留守を預かってくれてありがとう。ご苦労さまでした、カイエン。侍女の皆もありがとう」
にっこりと笑顔でカイエンを労うお母さま。
「もったいなきお言葉です」
お母さまの言葉を受けて、恐縮する皆。
けれどそんな皆を見て尚もニコニコ笑顔で『うふふ、そんなことはないわ』と更に労いの言葉を連ねるお母さま、というキリのないループが生まれそうになったところで、幼女は敢えて空気を読まずに割り込みします。
「ただいま! とっても楽しかった!」
空気を読まず、無邪気を装い元気に告げたと同時に皆がホッとしたのが分かった。
あのまま延々と雇い主筆頭であるお母さまに労われ続けるのは居た堪れなかったものと思われる。
それが分からないお母さまではないだろうに、なぜそのようなことをしたのやら……
そう思いながら見上げた先、にこやかな笑みを浮かべてごきげんそうなお母さまの顔が見えた。
「うふふっ」
……ああ。
いつもの気まぐれで発動させるおちゃめですか。
ある種の日常とも言えることなので突っ込みませんよ、ワタクシめは。
気づかれないようにこっそりと溜息をついて、部屋に戻ろうとエルナに向き直ったその時だった。
《ピッキュウゥゥ~~~~~!!!》
……という独特の鳴き声とともに、顔面に控えめな体当たりを受けたのは。
「ぶっ!?」
あまりに突然だったため、変な声が出てしまったのはご愛嬌。
「サッシー?」
ダイレクトアタックを受けた鼻の頭を擦りつつ犯人に声をかけると、甘えるように『ピキュピキュ』と小さな鳴き声を上げながら、頬にぐりぐりと小さな袋全体をめり込ませるが如く勢いで擦り寄ってきた。
……まぁ、これは……アレだ。
────寂しかったんだろうなぁ……
朝からほぼほぼ一日いなかったわけだし。
だからといって連れていくわけにもいかないし、これはしょうがなかったんだよ。
謝るのも違うだろうしなぁ。
ここで『ゴメン』なんて言ったら、逆にサッシー泣いちゃう気がする。
────とりあえずなでなでして誤魔化されてもらおう……
……と、小さな袋をなでなでしてみた。
《ピキュ!》
なんとまぁ簡単に誤魔化されてくれちゃう単純なコよ。
サッシーや、キミちょっとお手軽すぎやしないか。
そんなことを考えていたら今度は腹部に衝撃を受けた。
「う、くっ……!?」
『ドスン!』ではなく『ボスン!』くらいの感じだけど結構な衝撃だ。
「~~~今度は何~?」
一瞬だけ息が詰まって『けほっ』と咳き込みながら視線を下へと遣ると、目に入ったのはキラキラかわいい宝石箱……を模したミミックことミッちゃん。
《ヌっ♪》
ごきげんな声と同時にパタンと蓋を開いたミッちゃんはサッシーとは違って嬉しそうだ。
サッシーにしろミッちゃんにしろ、私の帰りを待っていてくれたんだなと思うと何だかとても微笑ましい。
「ふふっ」
思わず声に出して笑ってしまったその時、三度目の衝撃が私を襲った。
「!!?」
今までのものとは比にならないその衝撃に私の身体は軽々と後方へと吹っ飛んだ。
「どぅわあぁッ!?」
あまりに突然だったため、衝撃の弾みで手にしていたパンジーの鉢植えを手放してしまった。
それと、令嬢としてあるまじき声を上げたのは毎度のお約束なので突っ込まないで!
……って!
お花がヤバいんですけど!?
────このままじゃ鉢植えが落ちて割れちゃうよ……!
普通だったら鉢植えよりも自分の身体のほうを心配しろよ……って話だけど、今の私には自分の身体よりもパンジーの鉢植えのが大事だ。
「お嬢様っ!」
後方へと吹っ飛んだ私の身体を受け止めてくれたのは少し後ろに控えていたメリダ。
それから手放したことで前方へと飛んでいった鉢植えをナイスキャッチしてくれたのはエルナだった。
結果。
鉢植えも私の身体も無事。
「ありがとう、メリダ。エルナもありがとう」
ホッとして力が抜けたせいか、情けない声になってしまったのは許してほしい。
そんな私の心情をよく理解してくれている二人は苦笑しながら言う。
「ご無事で何よりです」
「お嬢様もお花も」
……なんて感じで悪戯っぽく笑うくらいに余裕なのはエルナのほう。
まぁ最後の一撃の犯人が分かっているからなんだろうけど。
……さて。
私は私で言うことがある。
最後の一撃をかましてくれちゃった犯人にな。
「ミ~ックぅ~~~~~???」
《ヌッ?》
「前にも言ったよね~ぇ? ミックは箱が大きいんだから私にくっつく時は加減してって」
《ヌ?》
…………オイ。
忘れてんよ。
前に私の部屋であったことを覚えてないのか。
本人はただ単にじゃれているつもりで擦り寄ってきたんだろうけど、ミックのサイズと勢いじゃ受け止める私には体当たりにも等しい負荷がかかってるんだってこと。
それと!
幼女の身体は軽くて薄っぺらいんだからね!
紙のように、とは言わないけれど!
……って、前にも似たようなこと言ったっけ?
まぁ、いいや。
とにかく、幼女の身体にはミックからの衝撃は少々……いや、かなり堪えるから擦り寄るならそっと優しくお願いしたいもんです。
忘れちゃったなら忘れちゃったでいいから、今回のはちゃんと覚えててもらえればそれでいい。
……といったことを滾々と言い聞かせて終わりです。
あんまりお説教はしたくないし。
だってミックたち全員が飛びついてくるくらいに寂しがらせていたってことになるわけだからね。
私にも原因があるからきつく叱ることはしませんことよ?
……あ、そうそう。
「皆にお土産あるからね~?」
《ヌッ?》
《ヌヌっ??》
《ピッキュ~~!!》
「それはお部屋に戻ってからあげる~」
にこにこ笑いながら歩き出すと、ミックたちは一定の間隔を保ちながらついてきた。
お土産とは、リーフお兄さんのお店のプチジャムクレフだ。
実はレオくんのお土産として買った時に、ちゃっかり自分の分も購入していたのだ。
『コレだよ~』と、中から一つ取り出してミックたちに見せると一斉に目をキラキラ輝かせてクレフに魅入っている。
そうでしょう、そうでしょう。
とっても興味を惹かれるお菓子でしょう?
ミックたちの反応に大満足して『うん、うん』と頷いていると、メリダから不思議そうな声で問いかけられた。
「あら? お嬢様もお土産にそのお菓子を購入されていたのですね?」
「ふぇ?」
────私もとな?
どういうことだろうかと首を傾げると、メリダも同じお菓子をお土産として購入していたらしい。
それも、お邸に勤める皆へ私からのお土産、という形で。
「フローレンお嬢様がこのプチジャムクレフを随分と気に入ったようだというお話をマイヤお嬢様から伺いまして。おそらくお嬢様はお土産にはこちらをお選びになるだろうと密かに購入しておりました」
「そうだったの!? だったらお金! 私がその分を払わなきゃ私からのお土産とは言えないよ?」
焦ってそう言ったところで後ろから『くすくす』と小さな笑い声が。
お母さまだ。
「大丈夫よ。レーンのお手伝いのお駄賃の一部がそのお土産代に回っているから」
「え……?」
「お店が終わった後にレーンの気に入ったものを聞いて一緒に買いに行こうと思っていたのだけれど、先にマイヤちゃんからお話が聞けてその手間が省けたのよ」
「そう、だったんですね……」
「ええ。そうだったのよ」
『うふふ』と笑いながら何でもないことのないように言うお母さまだけど、突っ込みたいところが一つ。
催し用のおこづかいもそうだけど、お手伝いのお駄賃が幼女には似つかわしくないくらいの金額だってこと。
なんかもう、ホントこの国の一般階級市民の子どもの所持金の基準が分からないよ。
気にしたら負けってやつですか、これ。
「レーンがお邸の皆にお土産を買うと言い出すことは分かっていたもの。だからそのお土産代を考慮して色々とお手伝いをしてもらったのよ。『労働』というものはなかなかに大変だったでしょう?」
や~……あれくらいは別にどうということはない。
お客さま相手ににこにこ笑顔と愛想を振りまくのは前世のアルバイトでもやってましたからねぇ。
しかも幼女である今は何をやっても笑って許される上に『可愛いわねぇ~』とお客さま(主に年嵩の奥さま方)に大人気だったのだ。
笑顔一つで売上に貢献できるのならいくらでもこの『エマちゃんスマイル』を大放出して差し上げますことよ?
まぁ、実際に売れ行きは好調でした。
アームカバー、マジで奥さま方に大人気であっという間に売り切れ御礼になったしね。
「今日の分のお土産代は今日のお手伝いのお駄賃から出ているから、改めて今レーンが出す必要はないのよ? 明日の分のお土産代も、明日のお手伝いのお駄賃から出すことになっているし。だから……」
『明日もい~っぱい、可愛らしい笑顔でお客様のお相手をしてね♪』
なんてニッコニコの笑顔で言われて頷かないわけにはいきませんて。
もちろん全力でお手伝いさせていただきますとも。
「それじゃ、今日のところはゆっくり休んでまた明日ね?」
「はい、お母さま」
ヴェーダを伴って部屋へと向かうお母さまにペコリと頭を下げてお見送り。
角を曲がって見えなくなったところで私もお部屋へと戻ります。
ミックたちはもちろん、専属侍女のエルナとメリダも一緒。
それから……
「リーシェとマリエラも一緒に来て。実は二人にお願いがあるの」
「私たちに、ですか? エルナやメリダさんにではなく?」
そう問いかけてきたのはマリエラ。
確かエルナより一つ年上だったかな?
リーシェはマリエラの先輩侍女でメリダと同じ年だったはず。
「そう。二人じゃなきゃダメなの」
「フローレンお嬢様の専属であるメリダやエルナでは無理なお願い、ということでしょうか?」
「うん。だって兄さまのお部屋に入れてもらいたいから」
ニッコニコの笑顔でそう宣言したら二人が固まった。
一瞬だけ。
「え……?」
「はい……?」
そして二人揃って『何か聞き間違えたのだろうか?』という顔をしている。
全然聞き間違えたりなんてしてないよ~。
幻聴でも空耳でもないからね!
「ロイアス坊ちゃまのお部屋に、ですか?」
「うん!」
「あの……差し支えなければ、一体どのような……?」
「ちょっと探しもの……っていうか、持ちものチェックをしたいだけなんだよね。詳しくはお部屋で話すから二人も一緒に来てくれる?」
「かしこまりました」
「それではお部屋で詳しいお話をお聞かせください」
「うん!」
そんな感じで二人に同行を願って、五人と三匹(?)で一路私のお部屋へ。
そういえば初めてミックたちを見たリーシェとマリエラはだいぶミックたちに怯えていたみたいだったけど、今ではそうでもないみたい。
慣れたのかな?
私の周りで跳ねながらついてくるミックたちを見てもビクついたりしていないようだし。
怖がらずに普通に接してくれているようで何よりだ。
「とは言いましても、もう遅い時間ですし、やるべきことはちゃっちゃと終わらせないといけませんね!」
……ん?
なんかエルナの今の言葉、ほんのりと不穏な響きが混じっていなかったか……?
「確かに。人の手が多ければ多いほど事を早めに終えることができますね」
メリダまで!?
「最優先はお嬢様の寝支度ですから、それを短時間で終わらせるためにもここは一つ協力していただく必要がありますね」
「ええ、ええ。メリダさんの仰る通り。そういうわけですから、リーシェさん、マリエラ。お嬢様の寝支度……いえ、入浴だけでも構いませんからお二方の手をお借りしても?」
「もちろんです、エルナ」
「フローレンお嬢様のためならいくらだってこの身を差し出しますわっ!」
リーシェはいいとして、マリエラ……
こないだからそうだけど、私に対する反応が他の人と違ってちょっと特殊だよ。
いくらでも手を貸す、って言うなら分かるけど、この身を差し出すってちょっとおかしくないか?
思わず残念なものを見るような目でじと~……とマリエラを見つめると、隣を歩いているリーシェが軽く頭を押さえながら目を閉じ緩く首を振って私にこう言ってきた。
「諦めてください、フローレンお嬢様。マリエラはお嬢様を愛でることに全身全霊を捧げておりますので、お嬢様のためとあらば何だっていたしますわ。この過剰反応に関しましては……もう、慣れてくださいとしか言いようが……」
えぇ~……そんなになの?
「そんなマリエラなのに、どうしてフローレンお嬢様付きではなくロイアス坊ちゃま付きなのか理解に苦しむわ」
「ああ、それは仕事にならないからでしょうね。マリエラをフローレンお嬢様付きにしたら、お嬢様の側にいる限り、愛でることが最優先になって肝心の仕事の手が緩んでしまうのが目に見えていますから」
「なるほど」
尤もなエルナの疑問にキッパリと答えたリーシェの言葉にものすごく納得してしまった。
確かに側にいて延々と愛でられていたら、逆に心配になってくるよね。
『仕事大丈夫なの!?』って感じで。
確かに愛でてかわいがってもらえることは嬉しいけど、お仕事にならないんじゃ本末転倒だもんね。
「ね、ね、エルナ! 今夜のお嬢様の髪のお手入れ、私にやらせてくれない?」
「……それは私じゃなくてメリダさんのお役目だから私に言われても困るんだけど……」
「メリダさんっ!」
「……マリエラはこう申しておりますが如何いたしましょうか、お嬢様?」
マリエラの懇願はエルナからメリダへ。
そして最終的にメリダから私へとバトンタッチされる。
期待を込めて見つめてくるキラキラした目を見たら『イヤ』なんて言えないよね。
言ったら鬼じゃん、私。
……というわけで。
「じゃあ今夜はマリエラにお願いしようかなぁ~……」
……ってなっちゃうよね!
当然の流れだよね!
ちゃんと空気読んだよ、私!
誰か褒めてよプリーーーズ!!
「お任せください、フローレンお嬢様っ! とびっきり愛らしくして差し上げますからね!」
いや……気合入れてもらってるとこ悪いけど、かわいくしてもらったところであとは寝るだけだからね?
……とまぁ、こんな感じで一人テンションMAX状態のマリエラと、そんなマリエラを見て苦笑したり呆れたりする他三人の侍女さんズ。
ミックたちは普段と変わらないごきげんな様子でぴょこぴょこピンピン跳ねてついてきてます。
さあ、お部屋に到着しましたよ!
お風呂タイムだーーーーーーーー!!
「ふぃ~~~、さっぱりしたぁ~~~」
マッハでお風呂タイム終了です。
普段の人手が倍になったことで、お風呂の時間があっという間に終わったのであります。
四人がかりで洗われ、磨かれ、手入れされ~……ってされている間に歯磨きしてたら、気づかないうちに寝支度終わってました。
そして宣言通りにマリエラから髪の毛を愛らしくセットされましたよ!
それもピンクのリボンを結われちまったい!
ちくせう!!
でもせっかくセットしてもらったものを解くわけにはいかないので、ここはおとなしく有り難~く受け入れるのであります。
ワタクシめ、超イイコ!
「お嬢様。水分補給をして一息入れましょうか」
「うん!」
お風呂上がりにハーブティーを入れてもらったところでお土産のプチジャムクレフの登場です。
私はもう食べないから、これは全部侍女の皆さんとミックたちのもの。
「わたくしは先にクララットでいただいておりますから皆さんでどうぞ」
……とメリダが遠慮したので、三人と三匹(?)で分けっこすることに。
ちなみにサッシー専用にお花のジャムを包んだものを購入していたのでサッシーにはそれ。
他の皆にはそれぞれ好きなものを選んでもらってちょっとしたティータイムを満喫してもらった。
小さめサイズであっさりと食べられるプチジャムクレフはここでも大好評だった。
気に入ってもらえて何よりである。
これを選んだ甲斐があったというものだ。
我ながら大満足であります。
ちなみにサッシーは中身のジャムだけしか食べてくれなかったので、外側を包んでいた皮はミックのお腹(?)の中に消えました。
なんとなくだけど、サッシーはお花の部分がないと食べないのかもしれないな……と思った。
前にもクッキーを吐き出したしね。
……さて。
ティータイムが終わったところで、無人のロイアス兄さまのお部屋に突撃して持ちものチェックをするのですよ。
「リーシェ、マリエラ。兄さまの部屋に行くから協力して!」
「そういえば先ほどお願いがあると言っていましたね」
「持ちものチェックでしたっけ?」
「そう。直接見て確かめたいからお部屋に入れてほしいんだ。鍵、あるんだよね?」
「ええ。お留守の間も掃除に入りますので、部屋の鍵は預かっております」
「よかった! じゃあ、一緒にチェックしてほしい」
「かしこまりました」
「ちなみに何をお探しでしょう?」
「ペーパーウエイトだよ!」
「「ペーパーウエイト?」」
口で言ってもピンとこなかったようなので、あれば現物を見てもらったほうがいいな……と、今現在ロイアス兄さまのお部屋にやってまいりました。
まぁ、お留守だけあってきっちりとお片付けされていますね!
机上もスッキリじゃないですか。
ペンスタンドとそれに鎮座する羽根ペン。
その傍らにはインクの瓶。
そっと手に取って軽く振って見ると、中のインクは真っ黒ではなく、黒みがかった濃紺色だ。
「……ふむ」
思わず出た声に、リーシェとマリエラが同時に首を傾げ『どうされました?』と問いかけてくる。
「兄さまは黒よりも、黒に近い色合いの濃い青系の色が好きなのかなぁ~と」
「確かにロイアス坊ちゃまは青系の色を好まれていますね」
「衣服に関しては濃色が多いですが、小物のほとんどは淡色で揃えていらっしゃるようです」
「なるほど~」
ということは、置き物としても映えるペーパーウエイトの色は淡色のほうが良さげだな。
一人納得していると、二人からまた問いかけられた。
「ところでフローレンお嬢様。先ほど言っておられたペーパーウエイトなるものは一体どういうものなのでしょう?」
「ん~と……それっぽいのないのかな? 書きものをしている時に紙がズレたり、風で飛ばされたりしないように押さえておくものなんだけど……」
「ああ。文鎮でございますね」
「へっ?」
「紙を押さえる重石のことでございましょう?」
「う、うん……」
「その重石のことを文鎮というのですわ」
えぇ~……?
なんで、そこ、和名っぽく呼ばれてるの……?
洋風な世界なんだからわざわざ和名っぽく『文鎮』なんて呼ばずに『ペーパーウエイト』でいいじゃんよ。
なんて世界だよ、ここは。
まぁいいや。
「ちなみに兄さまはそれ持ってる?」
「私たちの知る限りでは、お使いになっているところを見た記憶はございませんね」
「おそらく坊ちゃま自身、文鎮をお持ちではないのかもしれません」
「そっか。持ってないってことが分かれば十分」
「もうよいのですか?」
「うん。目的は達成したしね。兄さまがペーパーウエイト……文鎮を持っているかいないか。それが知りたかったんだ」
「そうでございましたか」
「ちなみにですが、フローレンお嬢様」
「うん?」
「それをお知りになりたかった理由をお伺いしても?」
不思議そうにそう訊かれ、私は二人を手招きして屈んでもらった。
「あのね……」
『兄さまのお誕生日のプレゼントにしようって考えてるんだ』
そっと二人の耳元に囁いて、パッと離れる。
「ナイショだよ?」
『イシシっ』と歯を見せるように悪戯っぽく笑うと、リーシェとマリエラが二人同時に小さく『くすっ』と笑いを零した。
「はい、かしこまりました」
「ここだけの内緒のお話、ですね?」
「うん!」
そんな感じで、思っていた以上に短い時間で兄さまのお部屋探索は終了。
二人に部屋まで送ってもらって、扉の前で『また明日』と別れた。
本当だったらリーシェもマリエラも休んでもらっているはずだったんだよね。
でも、私が『お願い』と称して付き合わせてしまったから予定外の勤務が発生しちゃったわけだ。
明日お母さまにお話しして、付き合ってもらった時間分の特別手当をお給金に上乗せしてもらわなきゃ。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「お探しのものは見つかりましたか?」
「ん~……」
どう答えるべきなんだろう?
「そうだね。『モノ』としては見つからなかったけど、それに対して何をするかの『答え』は見つかったよ」
「そうでしたか」
「では、目的を見つけられた……ということですね、お嬢様?」
「うん!」
……と、ここでリーシェとマリエラにもやったように、メリダとエルナを手招きして屈んでもらう。
そして、同じように二人の耳元で例の計画を囁いてから離れ、笑って『ナイショだよ!』と告げる。
心得たように頷いたメリダとエルナは立ち上がると同時にすぐさま行動に移った。
メリダは、私が今日一日持ち歩いていたスケッチブックと色鉛筆を。
エルナは、お絵描き道具一式を収納している棚から芯の柔らかめの鉛筆を二本と、手を汚さないようにするための布をそれぞれ持ってきてくれた。
「それでは今夜の日課のスケッチは、坊ちゃまのための贈りもののデザインで決まりですね!」
「ただし! 夜更かしは厳禁ですからね!?」
手渡されると同時にエルナから釘を刺された。
「あ、はは……気をつけます」
夢中になったらやらかすからな、私。
「もう22時ですからね。本当は今すぐにでもおやすみいただきたいのですが……」
「日課を熟さない限りお嬢様はおやすみしてくれそうにありませんので」
よ~く分かってるじゃん、二人とも。
さすが私の専属侍女だわ。
でも……
「大丈夫! 大まかなデザインはもう考えてあるから!」
ササッと描いて完成させちゃうよ!
「30分以内には絶対に寝るから!」
そう宣言すると、ホッとした表情をされた。
「それではいつものように、おやすみになる際はベッド脇のスタンドの灯りを消してからお願いしますね?」
「うん!」
「それ以外の部屋の灯りは消していきますので」
「あっ、ちょっと待って!」
「お嬢様?」
「鉢植えのパンジーにお水を少しあげようと思って!」
窓際に近い位置へと置いた鉢植えへと向かい、生活魔法でほんの少量の水の球を出して軽く弾けさせた。
弾けると同時に霧状に広がった水滴が、花や葉茎、土を満遍なく均一に湿らせていく。
《ピキュ?》
その一部始終を側で見ていたサッシーが不思議そうに袋全体を傾けながら声を上げた。
「お花はね、水をあげてお世話してあげないと枯れちゃうんだよ?」
《ピキュゥ~……》
「大好きなお花、枯れちゃったら寂しいでしょ?」
《ピッキュ!》
「だからこうしてお水をあげてるんだよ?」
私とサッシーのやりとりを微笑ましいと言わんばかりの表情で見守っていたメリダとエルナだったけれど、本音である『早く寝かせたい』という気持ちが勝り、二人がかりで私をベッドへと押し込みにかかった。
「お嬢様。ほどほどに、ですよ?」
「日課スケッチを終えたら早々に寝てくださいね!」
……と、再び言い聞かされた後、部屋の灯りを落とされてしまった。
「「それではおやすみなさいませ」」
二人から同時にそう告げられ、私も反射的に『おやすみ』と返したところで素早く退室していった。
それはいいんだけれど……
「二人とも、ミックたちにプレイルームに戻るように言うの忘れてるよね……」
ミックもミッちゃんも、まだ私の近くにいるんだけれど。
サッシーに至っては私の頭の上だからね?
普段だったらメリダもエルナも皆をプレイルームに帰してから『おやすなさい』って声かけてるはずなのに。
「ま、いっか。たまには」
一日留守にして寂しがらせちゃったんだ。
今日くらい一緒の部屋で寝てもバチは当たらないだろう。
その代わり、皆にはおとなしくしてもらう必要があるけども。
「さて、と……」
サラサラとスケッチブックに鉛筆を走らせながら、考えていたデザインを描いていく。
大まかなイメージは小さなスノードームみたいなもの。
底だけが平らでまぁるいフォルムのかわいくもオシャレにも見えるもの。
色は淡色の青系が良さそう。
濃色と混じり合った感じでもいいかも。
揺り動かすと中の青色が無造作に動く仕掛けとか作れたら楽しいだろうな。
それこそスノードームの中のパウダースノーが球体の中をキレイに舞うように。
「ヤッバ……! 想像するだけで楽しくなってきた!」
《ヌッ?》
私の呟きに反応したミックがベッドの縁に凭れかかるようにしながら顔を覗かせてきた。
微妙に情けないような顔をしているように見えたのは、私が発した『ヤバい』の言葉を悪い意味で捉えたからだろう。
「大丈夫だよ。今のはスゴいっていう意味で思わず漏れちゃった言葉だから」
《ヌ?》
「変な心配させちゃったね。ゴメン、ミック」
《ヌヌ》
ポンポンと撫でると、ふるふると箱全体を震わせて応え、そのままするすると元の位置へと落ち着いてしまった。
しっかりと蓋を閉じるのも忘れない。
私の邪魔をしないよう、ミックなりに配慮しての行動なのだろう。
その後もしばらくスケッチブックにデザインを描き続け、満足いくものができあがったところで終わりにした。
時間も22時半になろうとしている。
しっかりと約束の30分以内に終了したし、あとは寝るだけだ。
「ふゎぁ~あ……」
気が抜けてしまったのか大あくびが出た。
《ヌっ!》
「ほぇ?」
気づいた時にはミッちゃんが閉じたスケッチブックを咥えてベッドサイドへと置いてくれた。
続いて色鉛筆も。
そんなミッちゃんの真似をしたのか、サッシーも鉛筆を咥えて同じようにベッドサイドへと置いてくれた。
「ふゎぁ……ミッちゃんもサッシーもありがとねぇ……」
再びあくびが出て、眠気がじわじわと侵食してくるのが分かった。
片付けてくれたお礼を言うと、ミッちゃんもサッシーも嬉しそうに『ヌヌっ♪』『ピッキュ!』とかわいらしい声で応えてくれる。
「それじゃ、寝るね……。今日は色々ありすぎて今頃疲れてきちゃったよ。今夜はぐっすり眠れそう……ふぁ~……」
再び大あくびが出て、ベッドに沈みかけたところで灯りを消していないことを思い出す。
「……あ。灯り消さないと」
ベッドサイドのスタンドの灯りに手を伸ばし、それに触れたと同時に私の体内魔力に反応してふっ……と照明が落とされた。
「それじゃ、皆おやすみ~。おとなしく寝てね~……ふあぁ~……」
《ヌッ!》
《ヌ♪》
《ピキュ♪》
それぞれから返事が返ったことを確認してベッドに潜り込んだ。
いつもと違って、今夜はミックたち皆と同じ部屋で、互いに近い場所で眠ることになる。
それが大きな間違いであったことに気づかないまま、私はもう一つの日課となった特殊回復魔法を行使した。
”咒文……回帰恢復……”
あくび混じりで口にした魔法はしっかりと発動し、私の身体を柔らかく包み込んだ。
ごっそりと抜けていく魔力と、それによる緩やかな身体への鎮静作用で私の意識は一瞬にして深い眠りの底へと落ちていく。
翌朝起こる悲劇など、想像さえもしていなかった……─────
おチビさんたちとは、ミックとミッちゃんとサッシーの三ミミックでした!
サイズ的にミックはおチビではないですけど、他がちまサイズなのでひと括りにしておチビさん扱いにしています(^^ゞ




