規格外なルーファスと(たぶん)普通である俺(ランドール視点)
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まだしばらくは別視点でのお話が続きます(^^ゞ
……というわけで、今回は第二王子視点です!!
~規格外なルーファスと(たぶん)普通である俺~
ルーファスの竜に乗せられてやってきたクララットへの道中はあっという間だった。
定められた順路を進む馬車とは違い、障害物が何一つない大空を翔ける竜のその機動力は圧巻の一言に尽きる。
一度目はそんな余裕はなかったけれど、二度目ともなると周りの景色を楽しむくらいには心のゆとりが生まれる。
とは言っても、その景色を楽しめるのも文字通り一瞬。
その一瞬の中で目にした光景は、生まれて初めて見たと言ってもいいほど幻想的なものだった。
無数のランタンが灯された仄明るい町が、暗闇の中にひっそりと咲いている光り輝く花を思わせ、それを上空から見下ろすというのはなかなかに経験できることではないと思う。
こうしてルーファスに竜に乗せてもらえることがなければ知ることのなかったものだ。
「すっげぇ!」
幻想的な町の灯りをもっとよく見ようと身を乗り出したところでルーファスに首根っこを掴まれた。
「落ちるぞ」
「だって! 町の灯り! めちゃくちゃキレイですげぇ!!」
興奮した気持ちを抑えきれずに出た言葉は我ながら単純だったと思う。
それに気づいたルーファスが苦笑したのが分かった。
「お前さっきから『すげぇ!』しか言ってねぇぞ」
「だって! すげぇもんはすげぇ!」
「……あとその言葉遣いな。まぁオレも人のこと言えねぇけど」
「アレだな? 自分のこと棚に上げてどうのってやつ」
「……そうだな。自覚はしてるが、一度身についたものはそう簡単に直せるもんでもねぇし。まぁそのあたりはうるさく言うつもりはねぇから安心しろ。今はお忍びだしな」
そう言って、ルーファスが俺の頭を軽くポンと叩いた。
「ただ……」
「?」
「町中ではそのほうが自然でいいと思うぜ? 公の場での王子の言葉遣いとしてはどうかと思うけどな」
「ルーファスだって人のこと言えないくせに」
「オレだって一応ちゃんと使い分けてるよ。その時、その場、その状況と、必要に応じてな。面倒臭いが、やらないほうがもっと面倒なことになるから仕方なくではあるけどな。お前にもそのうち分かる時がくるだろうよ」
「……イヤだ。めんどくさい。王子やめたい」
「無茶言ってんじゃねぇよ、バァカ!」
分かっているからこその返しだ。
『やめられるものならとっくにやめている』
ルーファスの今の言葉にはそんな意味が込められていることくらい分かっているから。
「……ルーファスも大変なんだな」
ぽつりとそんな言葉が落ちたのは、ルーファスの立場が本当に大変なものであることを知っているからこそ、だ。
実のところ、ルーファスは次期ノーヴァ公爵という立場であると同時に、隣国ブランフルールの王位継承権第三位を持つ立場でもあるのだ。
公然の秘密とされている事実ではあるけど、ノーヴァ公爵の奥方がブランフルールの第一王女である時点で全然秘密になっていないというこの矛盾。
そこら辺の考え方が割と緩いんだよな。
まぁそれだけこの国が平和でもあるという証拠なんだけど。
────やめたいけどやめられない、か……
分かっているからこその、悪態。
無駄な足掻きくらいやってもいいじゃないか、的な文句。
ルーファス自身も同じような立場だから俺の言い分を分かってくれている。
でもって、表面上諌めつつも俺の悪態を聞いて、それを完全否定することなく正面から受け止めてくれているのだ。
そして俺は、そんなルーファスにこれでもかというくらい甘えに甘えて寄りかかっているのが現状だ。
依存している……と言われたらそうかもしれない。
『面倒臭ぇな……』
『……ああもう、鬱陶しい』
嫌そうな顔を隠しもせずにそういった類の言葉を連ねつつも、なんだかんだで『しょうがない』と苦笑しては俺のことを構ってくれるルーファス。
そんな風に俺のことを分かってくれているルーファスから離れられるわけがないのだ。
初対面の時こそ『恐ろしい』と思わせるような空気を纏っていたルーファスも、何度も接してその為人を知っていくうちに、単純に『面倒見が良すぎるだけのただのお人好し』だということに気がついた。
だから、父上から俺たちの面倒を見るように頼まれたことも、最終的には断らずに引き受けてくれたのだと思う。
「……そろそろ降下する。舌噛むなよ?」
「うん」
そう言われたと同時に、グッと身体に負荷がかかった。
息が詰まりそうになるこの感覚、嫌いじゃない。
自然の風の中に身を預けているからこそ触れることができる感覚だからだ。
風の心地よさと身体を締め付けるような圧迫感とにギュッと目を閉じたのと同時に、竜が地上へと舞い降りた。
次に目を開けた時には、風は止んで、身体にかかる負荷も消えていた。
町から少し離れたこの場所は、明かりが届いていないせいかかなり暗い。
黒い色味の竜の身体は、すっかりと辺りの闇に溶け込んでしまっている。
「なんでわざわざ離れたところで降りるんだ?」
「目立たないようにするため」
そう言われて『ああ』と納得する。
確かに町中で竜は目立つだろうな。
うまく暗闇に溶け込む黒色でもこの姿ならなぁ……と思いながら竜を見上げたのとほぼ同時だった。
ルーファスにポンと頭を撫でられたのは。
「ヴァイアランもそうだが、この場合目立って困るのはオレたちのほうだな。もっと言うならお前だよ」
「えっ? 俺?」
「目立ちたいのか、王子? ん?」
「そんなわけない!」
「だろう? だからちょっとした準備のためにわざわざ離れた場所に降りたんだよ」
そう言って、ルーファスは竜をこの場から飛び立たせた。
あっという間に見えなくなったその速さに呆然と立ち尽くしている俺を他所に、ルーファスは身に纏っていたローブをさっさと脱いでバッグの中に収納していた。
どう見てもローブが入るような大きさのものじゃない。
『魔法のアイテムだろうな』というのはそれだけで察しがつく。
それから左腕にはめていた魔道師の階級を示す三連バングルもさっさと外していた。
これもまた無造作にポイッとバッグの中に突っ込まれる。
────……雑だな
『大切に扱わなくていいんだろうか』
そんなことを思いながらじっとルーファスを見ていると、今度はバッグの中から何かを取り出した。
────あれは帽子と……バンダナ?
────変装用?
準備というのはコレのことかと納得していたら再びポンと頭を撫でる感触が。
その瞬間、全身をふわっと包み込むように優しく満ちていく魔力の気配がした。
「ルーファス?」
「念のために髪色を変えておいた。オレと同じ色な?」
そう言われて見上げたルーファスの髪色は、見慣れた淡いアイボリー色ではなく薄い色合いの茶色。
ルーファスと同じ色ということは、俺の金髪も薄い茶髪に変わっているはずだ。
「目の色だけは変えることができないが、それ以外はどうとでもできるからな。髪色を変えるだけでもだいぶ違って見えるだろ?」
確かに。
顔立ちも鮮やかな緋色の目も確かにルーファスのものなのに、髪が薄い茶髪になっただけでまるで別人だ。
思わず大きく何度も頷いて同意を示すと、苦笑しながらポスンと頭に何かを被せられた。
中途半端だったせいかズルっと滑り落ちてきたそれを慌てて支える。
「帽子?」
「そ。念には念をってやつだな。視界が若干悪くなるだろうが被っておけ。正体を勘繰られそうになったらツバ部分を深めにして被れ。目元が隠れるから」
「うん、分かった」
帽子が落ちないよう軽く押さえつけながら顔を上げると、ちょうどルーファスが頭にバンダナを巻いているところだった。
ルーファスの緋色の目よりも暗い色合いである臙脂のそれは思っていた以上によく似合っている。
普段とはまるで違うルーファスの姿にしばらくの間呆然と見入ってしまったほどだ。
しかもちっとも不自然じゃない。
完全に貴族子息としての雰囲気を消してしまっているのだ。
『纏う空気までガラリと変えてしまえるとかハンパじゃないな、コイツ』
……なんてことを思ってしまった俺はきっと間違ってないと思う。
うん。
「それじゃ、行くか。セイン」
「! うん、セラ!」
そうだった。
お忍びだから、町中ではミドルネームを使わなきゃいけないんだった。
呼ばれた名前に一瞬だけ驚いたものの、すぐさまルーファスのミドルネームを呼ぶことで返すことができたのはよかったと思う。
それだけボロを出す可能性が低いからだ。
「人が多いからはぐれんなよ?」
「分かってる」
「心配なら手ぇ繋ぐか?」
「ガキ扱いすんな」
「十分ガキだよ、バァカ」
「ムッ!」
確かにルーファスから見た俺はそうかもしれないけど。
でも、いつまでも手を引かれなきゃ何もできないような無能だとは思われたくはない。
「……手じゃなくて、こっち」
だから、せめてもの反抗だ。
「ハイハイ。できるだけ離すなよ?」
「……うん」
軽く着崩した状態のシャツの裾を握ることで、決してルーファスとははぐれないという意思表示をしてみせた。
そんな俺を見て、ルーファスは苦笑混じりに俺の頭を軽く撫でる。
それがルーファスなりの『了承』の意を示す仕草だと気づいたのは一体いつ頃だったのか。
そのくらい、俺たち兄弟とルーファスとの付き合いはそれなりの長さがある、ということだ。
たぶん、初めて顔を合わせてから軽く2年近くは経っているはずだ。
あの頃はこんな風に自分がルーファスに懐くようになるなんて思いもしなかった。
それはきっと兄上も同じだったに違いない。
初対面で対峙したルーファスは、それだけ近寄りがたく。
同時に、俺たち兄弟にとって鮮烈な印象を強く脳裏に焼きつけるほどの圧倒的な存在感を放っていたのだから。
……そう。
それこそ、ルーファスが駆るあの竜、ヴァイアランと変わらないほどのものを……─────
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
出会ったのは本当に突然のことだった。
今でこそほんの少しだけ改善したと言えるが、あの頃の俺と兄上は、教育係から『手が掛かりすぎる』と泣き言を言わせてしまうほどのやんちゃぶりを発揮していた。
その当時のやんちゃがすぎる俺と兄上を大人しくさせるという名目のもとに父上から呼ばれたのがノーヴァ公爵家の嫡男であるルーファスだったのだ。
表向きには王子たちの話し相手。
その実は、俺や兄上がこれ以上教育係を困らせることのないよう目を光らせる『監視役』だった。
当時の父上がどういう意図を持ってルーファスを呼んだのかは分からない。
自他ともに認める『超』がつくほどの『面倒くさがり』であるルーファスが、よくもまぁその当時の父上の要請に応じたものだと思う。
そのあたりはノーヴァ公爵であるルーヴェンス卿が間に入っているだろうから、最終的には嫌々ながらも連れてこられたのでは……というのが濃厚ではあるが。
そんな経緯があって登城したルーファスだが、初めてその姿……というか、父上と会話しているところを見た時は度肝を抜かれた。
俺だけじゃなく、兄上も同様に。
父上から『お前たち二人に会わせたい者がいる』と呼ばれたのは、公の場で顔合わせを行う謁見の間ではなく、王宮の居住区画に設けられた応接室のほうだった。
あくまでも私的な顔合わせという体で呼ばれたそこで俺と兄上が目にしたのは、嫌そうな顔を隠しもせずにジト目で父上を睨めつけるルーファスの姿だった。
しかも……だ。
腕を組み。
足を組み。
更には腰掛けたソファに踏ん反り返る、という姿勢で睥睨するかの如く父上を見ていたのだ。
一国の国王相手にこれだけでも有り得ないというのに───やった時点で不敬罪が確定の上、斬首刑は確実だろう───なんとルーファスは、そのままの態度を崩すことなく父上に向けてこう言い放ったのだ。
「面倒くさい」
……と、ただ一言バッサリと。
「………………」
「………………」
兄上と揃って絶句した。
有り得ないことが更に重なったからだ。
そして、それ以上に信じられないことは続いた。
父上の返した反応に、だ。
「そこを何とか頼むよ~、ルーファスくん」
「嫌だ。面倒くさい」
まるで親戚の子どもを宥める気の弱そうなおじさんも同然の父上の態度を気にするでもなく、また似たような返事を返すルーファス。
あまりにも気安すぎる二人の遣り取りに、俺も兄上も『幻でも見ているのだろうか?』と互いに顔を見合わせてしまったくらいだ。
────何なんだ、父上のあの困ったような苦笑いは……?
────まるで久しぶりに会った親戚の子どもに、いきなり無理なお願いをしているような感じだぞ?
まぁ実際、本当に親類ではあったのだが。
それぞれの先代───つまりはじいさん同士───が従兄弟関係にあったらしい。
つまり、父上とノーヴァ公爵とは再従兄弟関係にあり、今現在のこの遣り取りは、権力者と臣下という立場で命令を下しているのではなく、気安い親類関係として個人的に父上がルーファスに頼みごとをしている真っ只中だったというわけだ。
もちろんそんなことなど何も知らなかった俺と兄上は気が気ではなかった。
次にルーファスがどういう態度でどういう物言いをするのか戦々恐々としていたからだ。
この時、呼ばれた応接室には父上とルーファス以外にも母上とノーヴァ公爵夫妻が同席していた。
一部に禍々しい空気が流れる中、母上とノーヴァ公爵夫人が、まるで別世界にでもいるかのように和やかに談笑している。
二人にはあの空気の異常さなどまるで関係ないらしい。
そしてノーヴァ公爵───ルーヴェンス卿は、自身の息子が一国の主に対して失礼千万を働いている真っ最中だというのに素知らぬ顔で平然とお茶を飲んでいた。
完全に傍観の姿勢だった。
実のところ、ノーヴァ公爵夫妻を間近で見るのはこの時が初めてだった。
作りものめいた白皙の美貌を持つしなやかな美丈夫で、一部からは『リアル魔王』と称され恐れられている王宮魔術師団の団長。
それがノーヴァ公爵家当主、ルーヴェンス・テラ・ノーヴァ。
その奥方であるロザリア夫人は『青い薔薇』と称される美しい女性で、隣国ブランフルールの第一王女。
更には、ここドラグニア王国の社交界の二大華の一人として名高い淑女の鑑でもある。
余談だが、二大華のもう一人は外交大臣を務めるオンディール公爵の奥方であるフレイヤ夫人だという話だ。
ちなみに俺も兄上もフレイヤ夫人と会ったことはない。
……とまぁ、このように美しい二人を両親に持つルーファスもまた恵まれた美しい容姿を持っていたわけだ。
そんなルーファスだから、ほんの僅かな表情の変化だけで強く人の目を惹きつける。
意図せずとも自然と見てしまうのだ。
そして、何も知らない俺たち兄弟からしてみれば、ルーファスが一国の主に対して失礼千万を働いているという恐ろしい状況が今も尚続いているわけで。
何も見なかったことにしたいと思うのは当然の心境だと言えるだろう。
────おい、何やってんだ!
────己の息子を止めろよ、魔王!!
……などという心の叫びは、当たり前だがルーヴェンス卿に届くことはなく。
俺と兄上は図ったように同じタイミングで目配せをし合い、何もかも見なかったことにしようと部屋から抜け出すことを決めたのだ。
見つからないように気配を消しつつ、こっそりと。
……もちろんそんなことは叶わなかったわけだが。
こういう時に限って運悪く見つかってしまうのはお約束というやつなのだろうか。
「おお。セドリック、ランドール。二人ともちょうどいいところに来たな」
足を一歩後ろに引いたところで父上とバッチリ目が合ってしまったのだ。
「げッ……!?」
「……最悪だ」
思わずそんな言葉が漏れてしまうのも致し方ないと思う。
本当に厄介なこの場から抜け出したくてしょうがなかったのだから。
「ルーファスくん。この二人がさっき話した僕の息子たちだよ。もう本当にやんちゃがすぎて教育係の手を悉く焼かせていてねぇ……」
……と、世間話のように父上はルーファスに話を振った。
ちょうどその時だったと思う。
ふいにルーファスの視線が俺たちのほうへと向いたのは。
その瞬間、全身が竦み上がった。
『怒られる!!』
なぜかそう感じてしまった。
一種の恐怖めいた何かが脳裏を過ぎったとでも言えばいいのか。
本能がそう察したというか、直感的に『怒られる』という感覚がパッと頭の中に浮かんできたのだ。
ただルーファスはこちらを向いただけ。
特に何の感情も乗せていない目でこちらを一瞥しただけだ。
それなのに。
なぜか『ルーファスに怒られる』と感じてしまったのだ、俺も、兄上も。
このあとすぐに、ルーファスからの小言が飛んでくるものだと身構えてしまうくらいには顕著だった。
何の感情も込められていない緋色の目がじっと俺たちを見つめている。
その直後、軽く目を伏せながら溜息をつかれ、それに対してもまたビクッと身体が大きく跳ねてしまった。
「───ッ!!」
「───!?」
これは……アレだ。
ある種の条件反射的な。
ルーファスの挙動一つ一つが怖い、というわけではないけれど、このあと確実に『怒られる』ことが分かっているからこそ身体が逃げようと反応を示す。
頭が理解するよりも先に、身体のほうが理解してしまっているのだ。
それはまるで、俺たちにとってルーファスという存在が『絶対的に敵わないもの』として最初から身体に叩き込まれているにも等しい強者だと、警鐘を鳴らしているも同然だった。
視線一つ。
溜息一つ。
俺と兄上を屈服させるにはたったそれだけで十分だったのだ。
例えルーファス自身に全くその気がなかったとしても、この時完全に俺たちとルーファスとの間の力関係がハッキリしてしまった。
ルーファスに逆らってはいけない。
怒らせてはいけない。
何一つ会話を交わすことなく、俺と兄上はそう悟ってしまった。
魔王の息子もまた魔王。
……なんてことは決して口に出すことはせず、ただ互いに視線を合わせることで意思の疎通を図り、決してルーファスを怒らせることはしないよう決意した。
まぁ……その決意も、数日経つか経たないかの僅かな間で脆くも崩れ去ってしまうわけだけど。
これが俺と兄上の、ルーファスとの初対面でのことだ。
あのあと、父上が何をどう言って頷かせたのか分からないけど、あれだけ『面倒臭い』と言っていたルーファスを俺たちの『話し相手』兼『お守り役』として登城することを確約させていた。
たぶんだけど、断ることのほうが面倒だと感じさせるくらいにしつこく頼み込んだのかもしれない。
温厚で優しい穏健派の国王として評判の父上は、ああ見えてニコニコしながらも押しが強い。
それでもって『命令』ではなく『お願い』や『頼み事』と称して持ち掛けてくる際は、実に相手の良心をブスブス突き刺すように、下手下手に、それも申し訳なさそうに苦笑しながら相手が『是』とするまで延々とその話を続けるのだ。
これを面倒だと思わない人がいるのなら是非とも会ってみたいもんだ。
残念ながらそんな相手は今まで誰一人現れたことはないが。
そんな感じでしつこくしつこく繰り返して、うんざりしたルーファスが堪りかねて折れたんじゃないかと俺は踏んでいる。
真相は分からないけど。
だってルーファスにそのことを訊こうとしたらものすごく嫌そうな顔されるし。
あれから数えてもうすぐ2年。
短いようでいて、かなり濃密な関係を築けてきたんじゃないだろうか。
俺だけじゃなく兄上も。
ウォーレンも言っていたけど、とにかく規格外なのだ、ルーファスという人物は。
何に於いても優秀で生まれつきの天才肌だという話はよく聞くこと。
神童だと持て囃されているのをよく聞くし、そんな周りの声に対して逆に鬱陶しげな顔で『興味ねぇ』と吐き捨てるルーファスのセリフも同じくらいよく聞く。
ルーファスのもっとすごいところは、この歳にして既に王宮魔術師団に所属していて、更にはこの歳では異例の特級魔道師の資格を有していること。
多少強弱の差はあるみたいだけど、全属性の魔力持ちで、魔法だけに限らずその分野に関する研究にも余念がない。
……要するに、単なる『魔法バカ』ってわけだ。
最近では『法具』と呼ばれる、聖具や魔具といった魔道具の開発や作成にも力を入れているらしい。
興味のあるものはとことん突き詰めていく性格らしく、寝食よりもそっちを優先させることがほとんどで、ほぼ毎回のようにルーヴェンス卿に強制終了させられるというのがパターンなんだとか。
周りは誰もがルーファスのことを完璧人間であるかのように言う。
表面上だけでしか知らなければ確かにそうだろう。
俺もこういう形でルーファスに関わることがなければそう思い続けていたに違いない。
けど……世の中に完璧人間なんてまず存在するはずがないのだ。
誰からも完璧人間扱いされるそのルーファスこそが、笑えるくらいに欠陥だらけの残念要素をこれでもかってくらいに抱えてんのだから皮肉な話だ。
その残念要素の一つがさっきも挙げた魔法バカなところ。
次に非常に面倒臭がりな気分屋であること。
更には怖いもの知らずで誰に対しても強気な態度を崩さないところ。
一歩間違えば死ぬぞというくらいに危ういそれは、ある意味で一番ヤバい部分だと言える。
……それと。
最も厄介なのが、家族至上主義で弟妹をとにかく溺愛していることだ。
その溺愛の対象は年下の幼馴染みも含まれていて、その弟妹や幼馴染みたちを害する相手に対しては決して容赦しないという残酷冷徹な一面を持ち合わせている。
仮にも最強(いや、最凶の間違いか?)一族とされるノーヴァやその分家であるノースレイヴに対して手を出すようなマヌケな輩はいないと思いたいが、ルーファスの場合は可能性の段階で相手を敵認定した上に即排除にかかろうとするのだから手に負えない。
それほどにルーファスにとって弟妹たちの存在は最重要で至高であり、かつ地雷源でもあるというわけだ。
中でも、妹に関してだけは特にヤバい。
話を聞こうとするだけで逆鱗に触れる。
『超』がつくほどのドシスコンだと気づいたのは割と早い段階でだ。
そんな感じで、ちっとも完璧人間ではないエセ完璧人間なルーファスの為人を知るのに然程時間はかからなかった。
一度やると決めたらルーファスはとことんまでやり尽くす。
そんな中途半端を許さないルーファスをいかに怒らせないよう過ごすかが俺と兄上の目下最大の目標だ。
……まぁ、達成できた試しはほとんどないんだけど。
顔を合わせる度にほぼ毎回怒らせているというのが現状で、今現在もなおその傾向に変化の兆しは見られない。
それだけ俺たち兄弟がルーファスを刺激しまくっている証拠だ。
迂闊すぎるにも程があると分かっていながらも、ちっともそれが改善できていないのだから不思議で仕方がない。
別に怒られたくてやってるわけじゃないんだけどなぁ……
断じて言っておく。
決してマゾの気はないからな、俺も兄上も。
……なのに。
またもやってしまった。
兄上が今までの中で最大級の地雷を踏んでルーファスを大激怒させたのだ。
それがついこの間のこと。
決して触れてはいけない逆鱗───ルーファスが溺愛する妹のこと───に触れてしまったのだ。
毎回同じことが言えるけど、決してわざとやっているわけではない。
だけど、あの時はホント生きた心地がしなかった。
関係ないはずの俺まで一緒に殺られるような、そんな気さえしたくらいにはヤバかった。
大体兄上も兄上だ。
なぜ、一度も会ったことがないはずのルーファスの妹を嫁に迎えるだなんてことが言えてしまうのか。
これには言った張本人である兄上でさえもが自分の発言に驚いていたくらいだから、完全に無意識でのものだったのだろう。
……その後のことは察してくれ。
怒りの感情が原因で振れ幅が大きくなってしまったルーファスの魔力が膨れに膨れ上がり、本来であれば壊れることなど有り得ないくらい頑丈な防衛結界構築用の魔導鉱石を破壊してしまったのだ。
それも、どこよりも強固な結界を必要とする魔術師団専用の演習場の最高の強度を誇るそれを、だ。
暴発するかのごとく放たれたその膨大な魔力は、結界を破壊し吹き飛ばすだけに留まらなかった。
多方面に渡って様々な影響はあったらしいが、物的被害としては王城の一階部分に当たる全ての窓ガラスが粉々に砕け散っただけで済んだらしい。
被害がそれだけで済んだのはある意味奇跡だったとしか言いようがない。
……しかしながら、あの時のルーファスの恐ろしさたるや尋常ではなかった。
本当の怒りの感情というやつは静かに発せられるものなんだと初めて知ったほどだ。
今となっては、あんな状態になるまでルーファスを怒らせておきながら『よくもまぁ許してもらえたもんだ』と不思議にすら思う。
改めて、ルーファスに対して妹の話題は要注意だと再認識した出来事でもあった。
兄上も、あれ以来できるだけ迂闊なことを口にしないよう気をつけているらしいが、いつまた無意識にぽろっと零してしまうかと思うと気が気ではないらしい。
だから純粋に疑問に思ったわけだ。
なぜルーファスを怒らせると分かっていながら、兄上はあんなことを言ったのか。
それを兄上に訊いてみると『自分でもなぜああ言ったのか分からない』と難しい顔をして首を捻っていた。
ただ……気づいた時にはもう声に出していたのだという。
その時、根底にあったものは激しい喉の渇きにも似た、心の奥底から『欲しい』と願う気持ちだったように思うと兄上は言っていた。
『私だけの唯一』
『誰にも渡したりはしない』
そんな強い渇望から出た言葉だったのかもしれないと、その時のことを思い出しながら真剣な顔で言っていたのは記憶に新しい。
────俺にはよく分からない感情だな……
この時は本当にそう思っていた。
所詮は他人事だったのだと思う。
けれど、このすぐあとに。
俺自身もまた、その感情を嫌というほど思い知らされることになる。
そんなこと、欠片さえも想像していなかったのに。
まさかこんなにも早く、それを思い知ることになるなんて。
この時は本当に、微塵も思いもしなかったのだ……─────
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うわっ!」
本当に人が多い……そう実感したのは町に入ってすぐのこと。
人気のない町外れから、いきなり喧騒の真っ只中に叩き込まれた身としては圧倒されてしまうのも無理はないかもしれない。
ルーファスのシャツの裾をこれでもかと力を込めて握り締める。
この人混みではぐれたらシャレにならない。
なんとしてでもルーファスを捕まえておく必要がある。
「さすがに夜の人出は半端ない多さだな。やっぱりランタン目当ての観光客が大半だろうな」
「ランタン? さっき言ってたやつか?」
「ああ。向こうの通りな?」
言われて指し示された先は、今いる場所よりも一際明るい灯りの群れで彩られている。
「既に店仕舞いしたあとだから、向こうはランタンしか見るものがないぞ?」
「じゃあそっちはあとで」
「そうか。やってるのは食いもん関係の店だけだが、お前何か気になるところはあるか?」
「……食べてもいいなら。あっち」
「分かった。行くぞ」
返事と同時にシャツを掴んでいた手を離されて、そのまま手を繋ぐことになった。
この人混みではシャツを掴んでいるだけでは心許ないらしい。
今度こそは『ガキ扱いするな』とは言えなかった。
はぐれることに対する心配が大きいのはきっと俺のほうだからだ。
「そうだ、セイン」
「!」
いきなりミドルネームのほうで呼ばれてビクッとした。
慣れない呼ばれ方だと、一瞬自分のことを指しているのか分からないからだ。
「……くくっ」
俺の反応がおかしかったのかルーファスが控えめに笑う。
それから『何度でも呼んでやるから慣れろ』と続けた。
そうだ、慣れないと。
「俺はセイン、俺はセイン、俺はセイン……」
と暗示をかけるように繰り返していると更に笑われた。
『バカみたいだぞ』と。
「いいんだ。これだけ人が多いんだ。誰も俺の独り言なんて気にしないはず」
「ま、そりゃそうだ」
再び笑いながら、ルーファスが空いたほうの手を軽くスッと動かした。
そこに僅かに感じる空気の振動。
『あ……』と思ったと同時に目に入ってきたのは、さっき王城で見た風の妖精だった。
ルーファスが呼んだのだとすぐに分かった。
呼ばれてそわそわしている妖精にルーファスが小声で話しかける。
「お前が気にしてたお菓子の店ってのはどれだ?」
訊ねられた妖精は目をキラキラさせてある方向を指差した。
その方向へ誘導しようとしているらしい。
「あっちにあるのか?」
思わず零れた疑問に、妖精は大きくコクコクと頷くことで肯定を示した。
そして俺が被っている帽子のツバ部分にサッと腰を下ろして伸び伸びとしている。
「…………今、俺の頭の上に妖精が乗っかってるんだよな?」
「ああ、ムカつくくらいにゴロゴロしてるぞ?」
「全然重さ感じないんだけど」
「妖精らに体重はないからな。空気みたいなもんだと思っとけ」
「空気……」
「そう、空気」
「小人の姿した空気……」
思わずぼそっと呟いたら、ツボに入ったのかルーファスが『ぶはッ!』と吹き出した。
「お前、なんつぅ想像力だよ。こっちも想像して思わず納得しちまったじゃねぇか」
「……や、なんかそんな風にパッと頭に浮かんで」
「そういう想像力って結構大事なんだよな。だから、どんどん色んなものを見て、考えて、それにより磨きをかけろ。後々ラクになるぞ?」
「ラクにって……何がラクになるんだ?」
俺が首を傾げたのと同時に、ルーファスが身を屈めて俺の耳元でコソッとこう告げた。
『魔法の行使』
「!!」
思わずビックリしてルーファスの顔を凝視してしまった。
魔法?
今、魔法って言ったか!?
「……マジで?」
「ああ。最初は基礎からになるが近いうちに教えてやる」
「やった!」
実は兄上だけ先にルーファスから魔法を教わっているんだよな。
俺はまだ年齢的な問題があってダメらしい。
けど、近いうちに教えてもらえることが今確定した。
これが喜ばずにいられるか?
いや、無理だ。
一気にテンション上がったぞ。
繋いでいないほうの手でグッと拳を握り締めながら喜びに浸っている間に、いつの間にか目的の店に着いたらしい。
「……ここか。プチジャムクレフ……生の洋菓子のようだな」
ルーファスの言葉を聞いて、出店のガラスケースを覗き込む。
小さめサイズのものがかなりの種類並んでいる。
薄く伸ばして焼いた生地で何かを包んでいるお菓子のようだ。
「うわ……迷う」
思わず呟いたら、お店のスタッフらしき人の良さそうな兄さんが『いらっしゃい』と声をかけてくれた。
「オススメはどれ?」
「店側としては全部としか言いようがないよね」
「全然参考にならないんだけど」
「あっはははっ! 確かにねぇ。坊やみたいなことを言ってくる子、他にもいたけど、今時の子ってなかなかに鋭いトコロ突いてくるよねぇ」
参考にしようと思って訊いてみたものの、全く参考にならない答えが返って思わず突っ込む。
店の兄さんも慣れたように笑い飛ばしている。
俺みたいに突っ込んだヤツが他にもいたのか。
まぁ性格的にレオではなさそうだな。
「迷った時は定番のものを選ぶと間違いはないよ。あぁ、ちなみに中身は全部ジャムだから。わりとあっさり食べられる当店自慢の逸品」
「へぇ~……」
商品も気になるが、お店の兄さんの人柄が気に入った。
よし、買おう。
チラリとルーファスを見上げると頷かれた。
買い食いオッケーらしい。
「じゃあ定番のいちご。あとは……りんごにしようかな」
どっちも甘そうだけど定番を攻めるならこのあたりだろう。
チラリとルーファスのほうを窺うと、妖精に指差されたものを選んでいるようだった。
「なんだ、これ? 花のジャム?」
「赤バラの花弁を煮詰めたジャムらしいな」
「花とかうまいのか?」
「さあ?」
『味が分からないのに選ぶとかチャレンジャーだな、ルーファス……』とか思いつつ見ていたら、またも店の兄さんが声をかけてきた。
「花のジャムは甘さが控えめだから紅茶によく合うんだよ」
「へぇ~」
「とりあえず食ってみれば分かるだろ」
ルーファスにポンと頭を撫でられ、そのまま三つを購入することになった。
慣れているのかルーファスはサッと支払いを済ませ、買ったうちの二つを俺に差し出した。
「兄さん、これ土産で持って帰ろうと思うんだけど日持ちする?」
「冷やしておける環境があるならまる1日は味が劣化しない状態で持つよ。若干味が落ちてもいいなら3日程度が目安かな」
「なるほど……3日か。どうする、セイン? 土産に買っていくか?」
「!」
そう訊かれて、お土産を三人分と言われていたことを思い出す。
「じゃあ……これ食べて気に入ったら、自分の分も含めて買う」
「分かった。じゃああとでまた寄るか」
「うん」
「そういうわけだからあとでまた来るよ。まだ閉店はしない……よな?」
「はははっ。人出がある間は営業中だから気にせずにおいでよ」
商魂たくましい兄さんだな。
食べもの関連の店はどこもこんな感じなのか?
王都の店じゃこの時間はもうほとんどどこも開いてないぞ?
再びルーファスに手を引かれつつ出店から離れている最中で、手にした二つのお菓子が淡い青色に光った。
「!?」
「……ん、問題なし。食ってもいいぞ」
「今のって……」
「鑑定魔法。お前にゃ毒味が必要だろ? だからって普通に一口食ってたらお前の食う分が減るし。それはさすがに嫌だろうと思ってな」
……まぁ確かに。
小さいサイズだから、毒味と称して食べられたら残りは半分ちょっとになって物足りない。
食い意地張ってるつもりはなくてもさすがに嫌だ。
……というわけで素直に頷いたら笑われた。
どうやらルーファスは、俺の気持ちを先読みしてそうしてくれたらしい。
……それにしても。
便利だな、鑑定魔法。
魔法を教えてもらえるようになったらついでにそいつも教えてもらおう。
そうしてルーファスからオッケーサインが出て口にしたお菓子はかなりのおいしさだった。
出店の兄さんが『全部がオススメ』だと自信を持って口にしていただけはある。
これなら兄上たちに喜んでもらえるお土産になるだろう。
他にも良さそうなものがあればもちろん買うつもりだ。
初めて口にした生洋菓子に大満足した俺は、次にどこに連れて行ってもらえるのか期待でいっぱいになった。
このルーファスの慣れっぷりからして、これから行く先は全てルーファス任せにしたほうが間違いなさそうだ。
「なぁ、ルー……じゃなかった、セラ」
「うん?」
「次はどこに……」
『行くんだ?』と続けようとした言葉は途中で途切れた。
なぜなら、視界に信じられない光景が飛び込んできたからだ。
思わず口をパカっと開けたまま呆然となる。
だって仕方がないだろう?
妖精がルーファスのお菓子を横から齧って食べてんだから。
「え……?」
「ん?」
「妖精って……人間の食べものとか食うわけ?」
「基本的には何も食べなくてもいい種族ではあるな。まぁ、一種の嗜好品みたいなもんだ。大人が酒飲むようなもんだと言えば分かるか?」
「あ~……」
────別に口にしなくても死ぬわけじゃないけど、ないと寂しいっていうアレか……
妙に納得した。
要するに、妖精は何も食べずとも生きていけるが、お菓子があったら嬉しいし幸せだってことだな。
「ところでそのバラのジャムのやつうまいの?」
「食ってみるか?」
……と、残り半分を分けてくれたので食べてみた。
「!」
「どうだ?」
「さっぱりして食べやすい」
「ということは口に合ったということだな」
「これ、従姉上が好きかも……」
「じゃあそれ土産候補に入れとけ」
「入れる! っていうか、今買う! さっきの店に戻ろう、セラ!」
「……ハイハイ」
即決、即断、即実行は大事だ。
おまけに今日の俺に許されている時間は、1時間にも満たない。
王城に帰る20時までの僅かな間だけだ。
ルーファスの竜がどれだけ速くても、1時間まるまる堪能することはできない。
そうして急かすようにルーファスの手を引き、先ほどの生洋菓子の出店に戻ってお土産を大量購入。
俺のような子どもが大量買いしたのがよほど珍しかったのか、店の兄さんがおかしそうに大笑いしていた。
売上に貢献してんだから別にいいだろう。
ウケて笑うんじゃなくて、そこはお買い上げありがとうと喜ぶところだろうと突っ込みたい。
だがしかし、この兄さんのキャラは面白くて好きだ。
ちなみに買った生洋菓子は、ルーファスが水魔法と空間魔法と時間停止魔法の三つをうまく掛け合わせることで簡易的な冷蔵状態にしてくれた。
かけた魔法を解かない限りは永久的にこの状態を維持できるというからすごいと思う。
水魔法を氷魔法に変えたら冷凍状態にもできるんじゃないだろうか。
「セラ! 次! 他にも何かおいしいもの教えてくれ!」
「急かさなくてもちゃんと連れていくって。で? 次はどんなものをお望みかな、セイン坊ちゃんは?」
「坊ちゃん言うな! 肉! 肉が食いたい!」
「じゃあ今度はあっちな?」
来た時と同様に手を引かれ、食べものの出店が並ぶ通りをルーファスと歩いていく。
すれ違う多くの人並みと、それが生み出す喧騒がどこか心地いい。
俺にとっての非日常。
けれど……このクララットの町に住んでいる人たちには、例え催しの最中であっても、普段とそう変わらない当たり前の日常なんだろうなぁ……
────初めて来た町だけど
────俺、このクララット、すっごい好きかもしれない……
「あ~……帰りたくないなぁ……」
思わず呟いたその言葉は町のざわめきに掻き消され、少し前を歩くルーファスの耳には届かなかったらしい。
そのことにちょっとだけホッとした気持ちになったのはここだけの秘密。
規格外なルーファスを頻繁に怒らせて振り回している時点で十分普通ではない王子(笑)
リーフお兄さんに対するツッコミとか、ドラゴンに対して異常な好意を示す辺りフローレンと似たり寄ったりな思考で似た者同士だったり
一応王子だけどレオくんほど世間知らずではないです
これまた自由人な母親である王妃殿下がちょいちょいお外に連れ出している影響でこうなりました(^^;;