手のかかる王子と便利屋扱いのオレ(ルーファス視点)
閲覧、ブクマ、評価といつもありがとうございます(о´∀`о)
今回は別視点でのお話で、口の悪いルーファスを中心に王城内で色々あります。
本当に口が悪いですので苦手な方は申し訳ない(^^;;
それと毎度の如く長いです、ご容赦ください(*- -)(*_ _)ペコリ
~手のかかる王子と便利屋扱いのオレ~
友人宛てに『動くな』と伝達を飛ばしてから数分もしないうちに辿り着いた王宮のある一画。
そこは有事の際、真っ先に動ける機動力を持つという理由から、竜騎士団の団員が竜から直に王城内に立ち入れる───若しくは城内からすぐに出ていける───ようにと、外界との隔たり(つまりは壁)を完全に取り払った状態で維持されている竜騎士専用の乗降の場ともされている大広間。
本来あるべきはずの壁がないため、そこから一歩踏み出せば空中に投げ出されてしまうというある意味で非常に危険な場所ではあるのだが、竜乗りに対してはそのような心配などまず無用の長物である。
『危険な場所』というのは、あくまでも竜乗り以外の者に対しての周知事項であり共通認識事項。
つまりこの大広間は、ドラグニア王城に勤める竜騎士を中心とした竜乗りを除いた全ての者に対して『危険』『立ち入るな』と周知されている一種の最悪危険地帯に指定されている場というわけだ。
そのため、通常この場には竜乗り以外の者が足を踏み入れることはない。
あくまでも『通常は』だ。
だから、普段であればこの広間に降り立ったところで人の出迎えなどあるはずはないのだが……
「ルーファス、待っていました!」
「……ウォル」
この友人ウォル───ウォーレンは、自身の弟レオニールの不在とその現状が気掛かりで落ち着いていられなかったらしく、一刻も早く状況を確認したいとこの場でオレを待ち構えていたらしい。
ここまでオレを乗せて飛んでくれた竜───ヴァイアランの背から飛び降り、上質な大理石の床に足を付けたのとほぼ同時にウォーレンがオレの肩に掴み掛かる勢いで状況説明を求めてきた。
「それで、ルーファス! 弟は……レオは今、どうしているんですか!」
「落ち着け、ウォル。オルフェンス家の管轄領地内の町だ、何も問題はない。一通り見たところ警備面に穴があるわけでもなし、差し迫った危険があるわけでもないんだ」
「ですが……」
安全に関しては何も問題はない。
それを告げ、未だ肩を掴み続ける手を離そうとしたところで、オレの視界の端に見慣れた色がチラついた。
本来であればこんな場所に足を踏み入れることなど有り得ない、いや、あってはならない人物が、人の目を盗むようにコソコソと通りすがりながら外へ出ていこうとしていたのだ。
「…………ちょっと待て、ウォル。ほんの一瞬でいい」
「ルーファス?」
サッとウォーレンの手を解放させ、オレはその人物をすぐさま捕獲しにかかった。
音も気配もなくその人物の背後に詰め寄り、一瞬のうちにその首根っこを捕まえる。
「待て、コラ」
「ぐぇッ!?」
そう、文字通り一瞬だ。
「こんな場所からどこに行く気だったんだ? なあ、ランドール王子?」
「げっ!! ルーファスッ!!!」
オレの姿を視認した第二王子───ランドール王子が盛大に王子らしからぬ反応を見せた。
『げっ!!』とはなんだ『げっ!!』とは。
仮にも王子が口にしていい言葉じゃないぞ。
口の悪いオレも人のことを言える筋合いではないが。
「は……? ランドール殿下!? なぜこのような場所にいるのですか!?」
「どうせいつものように教育係から逃げて抜け出そうとしたんだろ。竜の乗降の場でもあるこの場所は乗り手以外の出入りはほとんどないに等しいからな」
「……なるほど。人目を盗んで行動するにはうってつけの場でもあるわけですね」
「そうでもないけどな。ここから先は切り離しで壁を取っ払っただけの断崖絶壁も同然の場所だ。誤って足を踏み外しでもしたら即地上に真っ逆さまな危険地でもある。そんな場所で何かをやろうとする猛者が普通にいると思うか?」
「……いませんね」
「けどこのランドール王子はそれを逆手に取って、誰もが怖がって寄り付かないこの場所に潜んでやり過ごそうとしたわけだ」
「……………………」
「それとも本気で飛び降りる気でここから抜け出すつもりでいたのか?」
「…………そのつもりだった」
「だったら一度現実見とけ」
「ぅわッ!?」
首根っこを掴んだまま、切り離された断崖絶壁───もとい、壁なしの王宮の通路から外へとその身を突き出してやった。
ここでオレが手を離せばコイツは下の地面まで真っ逆さまだ。
ちなみに今いるこの場所は、王城のほぼ最上階に近い位置でかなりの高さがある。
下の地面までの距離はかなり遠いが落ちるのは一瞬だ。
「もう一回訊くぜ? 本気でここから飛び降りて抜け出すつもりでいたのか、ランディ?」
「…………いや。無理だ」
さすがにここまでされるとは想像もしていなかったのだろう。
答えた声に僅かな震えが混じっていた。
覗き込んだその顔色は若干青褪めているようにも見える。
「……ったく。勉強が嫌で教育係から逃げたい気持ちは分かるが、それで危険なことに足突っ込んでいたら元も子もないだろうが」
「ゴメン……」
「王子が簡単に謝るな」
「うぅ……」
とりあえず、ランドール王子の逃亡は阻止した。
なんだかんだで数を熟すと大体のコイツの行動パターンというものは読めてくる。
今回のはさすがにオレも想定外だったけど。
「ああ、そうだ。今度からここには乗り手がいない時に来たりするなよ? 万が一、竜のみで主が不在状態だったら襲われても文句は言えねぇからな?」
「……分かった」
基本的に人に慣れているとはいえ、竜の性質も様々だ。
中には己が主だと認めた者にしか心を開かない個体だっている。
もしそんな個体に当たってしまったら、さっき言ったように警戒されて襲われてしまってもおかしくはないのだ。
……とはいえ、この国の王子相手にそんなことになろうものなら、乗り手は間違いなく罰せられるだろうがな。
いわゆる監督責任不行き届きっていうやつだ。
ああ、そうそう。
オレが乗ってきたヴァイアランは、オレが降りるとほぼ同時に飛び去った後だからもうここにはいない。
また乗る必要が出てきた時には専用の笛で呼べば済むため、それまで自由に空を飛ばせている。
今頃どっかの空の彼方上空を悠々と飛んでいるんじゃないだろうか。
一つ溜息をつき、首根っこを掴む形で捕まえていたランドール王子を片腕で抱え直す。
「まぁいい。反省してるならこの話はここで終わりだ」
続けた言葉にも溜息が混じったのは許してほしい。
実は今回のような『王子脱走からの捕獲』という遣り取りは一回二回程度のことではない。
幾度となく似たようなことを繰り返し、その都度オレはランドール王子に説教を重ねてきた。
説教した回数などとうに忘れた。
いちいち覚えていないほどオレとランドール王子のこの遣り取りは日常茶飯事で、当たり前のように頻繁に繰り返されているというわけだ。
「次も今回と同じことやったらあの尖塔の先に数時間は吊るすからな?」
……と、この場よりも更に高い場所にある尖塔を指差す。
足場もほとんどない、有事の際の物見櫓にでも使うような狭いスペースの独立した場所だ。
危険度は今いるこの場よりも遥かに上。
好き好んであの場に行く者はまずいないと言ってもいい。
「あんな狭くて高い場所なんて嫌だッ!!!」
さっきよりも顔色が悪くなった。
己の状況をちゃんと理解してくれたようで何よりだ。
さて、と。
これ以上はコイツに時間を割くわけにもいかない。
あくまでもオレはウォーレンにレオニールのことを説明しに来ただけだからな。
……とはいえ。
「一応ランディにも関係しているのか……」
「?」
「ウォル。これから状況説明してもいいが、お前のほうはいいのか?」
「いい、と言いますと?」
「やるべきこと放って来たんじゃないだろうなって確認する意味で訊いてんのだけど? お前、オレが二回目の伝達飛ばすまで何やってた?」
「何って……第一王子殿下の学習に付き添っておりましたが……?」
「ちゃんとセディに理由説明してからここに来たんだろうな?」
「…………あ」
説明なしかよ!
「何も言わずにセディの部屋から飛び出してきた、で、合ってるか?」
「……………………」
無言は何よりの肯定。
「……お前らどっちも似た者同士だ。兄弟揃って同じことやってんじゃねぇよ」
「何の話だ、ルーファス?」
盛大な溜息をついたオレにランドール王子が不思議そうな表情で問いかけてくる。
「誰にも何も言わずにその場の勢いだけで衝動的な行動に出るのはどうかっていう話だよ。お前にも同じことが言えるからな、ランディ?」
「……ぅぐッ!」
痛いところを突かれたとばかりに声を詰まらせるランドール王子を見て再び溜息が落ちた。
全くどいつもこいつも。
なんでオレの周りにはこう……勢いだけで突っ走る猪みたいな性質のヤツらが多いんだか。
────オレはそういった暴走者専用のストッパーじゃないはずなんだがな……
気づけばそういう役回りに収まっているとか意味分からん。
本日何度目になるか分からない溜息をつきつつ、片手にランドール王子を抱えたままオレはウォーレンに先導される形で第一王子殿下の部屋へと向かうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
重厚な扉前で立ち止まり、ウォーレンがノックの後に入室許可を取るべく声をかける。
中から『可』の返事が返ったことで部屋に立ち入ると、そこにいたのはセドリック王子と家庭教師の先生───ではなく、宰相であるシルウェスター公爵子息のユージィンとその姉であるユニファ嬢。
ちなみにこの姉弟は二人の王子殿下の従姉弟でもある。
王妃殿下がシルウェスター公爵家の出なのだ。
「あの……セドリック殿下、勉強の方は……?」
「……キミが有り得ないくらいに取り乱して飛び出していったおかげで勉強どころではなくなってしまったよ。終了予定時刻よりはかなり早いけれど今日はもうお開きだね」
「それは大変失礼いたしました」
……黙って飛び出したんじゃなく、取り乱した上に何も告げずに飛び出したのか。
────どれだけ弟の現状に憂いていたんだ、ウォル…………
呆れるくらいの友人の取り乱しっぷりを聞かされ、再び溜息が落ちた。
こうも溜息ばかりだと妹に知られたら、また『幸せが逃げていってしまいますわ、ルーファスお兄さま……』と気遣わしげな表情で言われてしまうことだろう。
────あ~……面倒くせぇ……
────さっさと終わらせて帰って、リリィとルディとギルとヒューを構い倒したい……
……などということを顔に出さないまま思う。
「セディの勉強の経過を見ていただいていたウォーレン様が突如部屋をお出になられて、先生はかなり驚かれたそうですわよ? ハッとなって追いかけようと動いたものの、あっという間にその姿を見失われてしまったようで。ちょうど通りかかってそのお話を伺ったのですけれど『こうなってしまってはセドリック殿下のお勉強を続けるには無理がありましょう』と、予定より早く切り上げることになりましたのよ。あとはわたくしたちがセディのお話し相手をお務めしますと先生に申し出て今に至るのですわ。そうですよわね、ジーン?」
「はい、姉上」
ユニファ嬢の言葉に笑顔で頷くユージィン。
よく似た面差しで互いに微笑み交わすその姿を見て、相変わらず仲のいい姉弟だと思う。
そして……
「申し訳ありません、ユニファ嬢。私の失態の後始末をさせてしまうようなことになってしまい、なんとお詫びを申し上げればいいか……」
「構いませんわ、ウォーレン様。愛する未来の旦那様のためですもの。わたくしにできることがありましたら、喜んで何でもお手伝いさせていただきますわ」
「……ありがとうございます、ユニファ嬢。何度お礼を申し上げても足りないくらいです」
「お礼の言葉は一度だけいただければ十分ですわ。それよりもウォーレン様……」
「はい」
「いい加減に『ユニファ嬢』だなんて他人行儀な呼び方はおよしになって? どうぞ『ユニファ』とお呼びくださいまし。家族や親しい間柄の皆さんは『ユニ』と愛称で呼んでくださいますのよ? いずれはウォーレン様にも『ユニ』と呼んでいただきたいと思っておりますのに……」
「うッ……!」
相変わらず婚約者であるユニファ嬢には頭の上がらないウォーレン。
ユニファ嬢の上目遣いでの懇願に生真面目なウォーレンもタジタジだ。
どうもウォーレンがユニファ嬢に振り回されている感が否めないが、婚約者同士の仲は非常に良好なようで何よりだ。
宰相家と宮中伯家の縁とあって、周りの祝福の声も多い。
このまま永きに渡って円満な関係を続けていってほしいものだ。
「それをお願いするならユニ姉上もウォーレンさまに同じことをやらなきゃ」
「ジーン?」
「ウォーレンさまに愛称で呼んでもらいたいなら、姉上もウォーレンさまを愛称で呼ばなきゃ不公平じゃない。自分だけ呼んでもらって、ウォーレンさまには呼んであげないのはずるいと思うな、ボク」
「なッ……何を言い出しますの、ジーン!?」
弟ユージィンから突如落とされた爆弾にユニファ嬢の淑女の仮面が剥がれた。
「だってずるいと思うもの。そうだよね、セディ? ランディだってそう思わない?」
「それは確かにずるいな。ユニ従姉上、私もジーンの意見に賛成だ」
「セディ!?」
「俺もジーンの言う通りだと思う。相手からそうしてもらいたいなら、まず自分からそれを相手にしてあげなきゃだ」
「ランディまで……ッ!」
王子たちの言葉に裏切られたとばかりに動揺するユニファ嬢。
普段なかなか見ることのできない、歳相応な彼女のこの姿はかなり貴重だ。
「ルーファス卿!」
「ん?」
「あなた様はどうお思いですの? やはりこの子たちの言うようなお考えでいらっしゃるの?」
どこか必死さを感じさせながら問いかけるユニファ嬢には悪いが、正直そんなことはどうだっていいと思ってしまう。
所詮は他人事だ……と言ってしまえば冷たいかもしれないが、実際にそう考えているわけじゃない。
要は当人同士の問題に他人が首を突っ込むことじゃないと思っているだけだ。
「好きにすれば? ……としか言いようがないな。当人同士のことをあれこれ口出す筋合いはないし? 強いて言うなら、この場合はウォルとユニファ嬢がどうしたいか互いによ~く話し合って決めるべきことじゃないかって思ってるけど?」
暗にどっちの味方もしないと遠回しに言ったわけだが、ユニファ嬢はその答えに満足したようだ。
というか、ウォーレンと二人で話し合えって部分に満足したというのが正解か。
だが、そんなオレの答えに不満を零した者がいる。
ガキどもだ。
「え~!? ルーファスさまなんでぇ~?」
「ルーファスは二人の仲を後押ししたいと思わないのか?」
「面倒くさいって投げただけじゃないよな!?」
「……………………」
────第二王子、正解
こういう男女間のアレコレは総じて面倒事が多い。
一度介入するとそこからが長いぞ?
「……あのな。周りが何をどう言おうが、最終的にそれを決めるのは当事者なんだ。余計なお節介はやめとけ。馬に蹴られるから。それに今はそういう話をしている場合じゃねぇんだけど」
「はッ!? そうでした!」
呆れながら言ったところでようやくウォーレンが帰ってきた。
今までどこに意識飛ばしてたんだ、全く。
「それでルーファス! レオは今どこに!?」
「クララット」
「それは最初の伝達で伺ってます!」
カッと目を見開き、両肩を掴まれてガックンガックンと揺さぶられる。
ホント余裕ねぇな、コイツ。
とにかく家族が大事で、特に弟妹には多大なる愛情を注いでかわいがっているからこその焦りようだということは分かるがちょっとは落ち着けと思う。
最初に『何も問題ない』って言ったこと、ちゃんと聞いてたのか、コイツ?
「レオニールくんがどうかしましたの?」
先ほどまでの様子と打って変わって、再び淑女の仮面を被り直したユニファ嬢から疑問の声が上がる。
取り乱した姿を見せてしまったことでウォーレンがバツの悪そうな顔で一度咳払いをし、簡潔に『弟が黙って邸を抜け出したようなのです……』とだけ告げた。
その言葉を聞いたユニファ嬢の表情がキリッと引き締まり、一瞬にして硬質な空気を纏ったのが分かった。
「無事なんですの?」
「……それをルーファスに確認しようとしていたところだったのです」
「そうでしたか……」
互いに張り詰めた緊張感の中で見つめ合っているが、状況的には別に逼迫しているわけでも何でもないんだよな。
オレが心配しているのはレオニールのことじゃなくて、寧ろウォーレン、お前が焦って暴走しないか否かだ。
「ウォル、お前ちゃんと聞いてたか? オレ、最初に『問題ない』って言ったんだけど?」
「……いつそんなことを言いましたか?」
「王城に来て直ぐ」
「え……?」
「お前、取り乱しすぎて右から左に聞き流しただろ?」
「まさか……いえ、そんなはずは…………」
「……そんなはずがあるから今こうなってんだろうが、全く」
何度でも言おう。
取 り 乱 し す ぎ だ !
弟が心配すぎていつもの冷静さが嘘のように失われてんな。
なまじ生真面目すぎるだけによりその傾向が強いと見える。
「まず最初にレオの居場所。クララットの町中だ。供の者が誰一人付いていないことから、邸の者には何も告げずに黙って出てきたというのは確実だ。目当てはおそらく町の催し。ただ見たかっただけなのか、それとも明確な目的があったのかまでは分からないから、そこは直接本人に訊け」
そこまで言ったところで、ウォーレンが大きく息を吐き出した。
深呼吸とも言うべきか。
さっきよりは幾分か落ち着いたと見て話を続けることにする。
「オレが見たところ、レオは一人じゃなかった。同じ年頃の女の子と一緒にいたんだ」
「女の子……? 一体どこの……? レオには同じ年頃の女の子の知り合いなどはいないはず……」
「ああ、やっぱりか」
「と言いますと?」
「二人の服装の違いだな。普段通りの服装のレオと町の娘だと思われる女の子の組み合わせなんてどう見てもおかしいだろう?」
「確かに」
「今日初めて会って意気投合したってところだろうな。それよりも、オレが気になったのはレオの表情だ」
「レオの表情ですか?」
「ああ。時折塞ぐように表情が翳ることがあった。それでいて、慌てて取り繕おうとして失敗する。一緒にいた女の子に気遣わしげな顔で見られていたのが心苦しかったのか、その子のために一生懸命だったのがよく分かった。女の子に笑顔を向けられて、自然に笑えていたところからして、かなりその子に対して心を許しているんだなと感じたほどだ」
「そうでしたか……」
思うところがあるのか、ウォーレンが黙り込む。
「レオは普段からあんな感じなのか?」
「あんな感じとは?」
「塞いだり、浮上したりと、精神的な面で不安定なのかと訊いている」
「……いえ。たまに塞ぐことはありますが、あなたの言うような不安定さはないと思います」
「ならあれは一過性のものか……。それとも、初めて一人で町に出てきたことに対する不安からきたものか……」
「ルーファス?」
「いや、そのあたりはいい。帰ってからお前がケアしてやれ。それよりも」
一番の懸念事項が、レオニールが帰った後のウォーレンの対応だ。
「いきなり叱ってやるなよ? ちゃんと理由を聞いてやれ。いいな、ウォル」
「あ、はい……」
「色々思うことはあるだろうが、まずは堪えろ。レオの言い分をちゃんと聞いて、それから必要に応じて叱れ。決して頭ごなしにはやるなよ? 頑なになるだけだからな」
「……分かりました。そうできるよう善処します。できるかどうかはわかりませんが」
「最後の一言は余計だ」
「仕方がありません。理性と感情は別ですからね。冷静にレオと向き合うつもりではいますが、実際にできるかどうかはその時にならないと分かりませんから」
そう言ったウォーレンは当初と比べるとだいぶ落ち着いたようだ。
口ではできそうにないと滲ませながらも、心はだいぶ凪いできていると取れる。
この様子ならおそらく大丈夫だろう。
余計なことで時間を食ったが、今のウォーレンなら迎えに行っても問題はなさそうだ。
そう思い至った瞬間、柔らかい空気の流れが頬を撫でた。
「……来たか」
爽やかな清涼感を含んだそよ風以下の空気の流れがピタリと止まる。
頬のすぐ側、視界に収まったのは“風の”妖精。
レオニールたちの側についているのとは別の個体だ。
それと、オレが昨夜髪を引っ張られた仕返しとしてデコピン食らわせたヤツともまた別のヤツ。
慣れたように“風の”に話しかけるオレを見て、全員が目を剥いて驚いている。
「ん?」
────驚く要素がどこかにあったか?
周りの一同の表情を訝しげに思ったと同時に、真っ先に声を上げたのはランドール王子だった。
「ルーファス、それっ!!」
指差されているのはオレの顔……ではなく、妖精か。
明らかに普段オレを見ている時の顔つきとは違う。
「ああ、“風の”妖精?」
ランドール王子がしたように“風の”を指差すと、大きく何度も頷かれた。
同様にセドリック王子もユージィンも頷きながら興味津々といった体で“風の”をじっと見つめている。
ウォーレンとユニファ嬢はただただ驚いた表情のままだ。
「……お前ら全員、見るの初めてだっけ?」
意外だとばかりに訊ねたら、全員が頷いた。
ここにいる全員が妖精を視るだけの魔力を持っているというのに。
にもかかわらず、今まで見たことがないとは、それだけ妖精たちが人前に姿を現さなかったということだろう。
────ノーヴァではどこでもかしこでもわんさか出てくるってのに……
気まぐれな“風の”なら分かるが、他のが姿を見せないというのも不思議な話だ。
基本人間好きで、常にこちらを気にしているクセにな。
見るだけで接触まではできないってか?
ある意味、妖精たちの姿を見るのは運にも左右される部分があるらしい。
珍しいとされる存在だが、ノーヴァでは当たり前のように毎日見かけるせいか珍しいという感覚が麻痺していたのかもしれない。
「コイツは“風の”妖精。性格は気まぐれで悪戯好き。人間が大好きで興味津々なわりには、警戒心がそこそこ強い。だからいっつも影からチラチラ様子覗ってばかりで滅多に自分たちから近寄ろうとしない天邪鬼。けど一度お気に入りを見つけたらどんどん擦り寄ってく甘えん坊でもあるな」
……と、自分の知りうる限りの“風の”の情報を喋ると、全員が『ほぅ~……』と感心の声を上げて“風の”に注目していた。
そして一同から一斉に視線を浴びた“風の”は、テレテレと照れながら落ち着きなくオレの顔周りをウロチョロしている。
視界がうるさいから軽くデコピンしてやった。
「あっ、酷い!」
……などという抗議の声を上げたのは誰だったか。
いつものことなので別にオレは酷いとは思わない。
やられた“風の”も慣れたもので、どうといった変化も見せず、誰に何を言われたところで気にもしていない。
こういうヤツらなんだ“風の”妖精は。
「いいんだよ。好きにさせてたらその分調子に乗るだけだから。“風の”妖精はとにかく悪戯しかしないからな。気を惹きたいだけっていう理由で好き勝手に何でもやるぞ?」
「えぇ~……?」
今度は困惑。
まぁ気を惹くためだけに悪戯されるなんざ誰だって嫌だろうし、この反応も当たり前か。
「ただ仲良くしておいて損はないぞ? 何かあった時には色々と手助けしてくれるからな。貴重な情報源としてかなり役立ってくれる。ってわけで、何か教えにきてくれたんだろう?」
そう訊ねるとコクコクと大きく頷き、身振り手振りで一生懸命に現状を伝えてくれた。
今現在クララットの町にいるレオニールの状況を、時に要らないものも含めて事細かに、だ。
……うん。
クレフとかいうお菓子がおいしそうだったとかそういう情報は要らねぇ。
自分も食べたかったとかいうのはもっと要らねぇな。
「それで? 今は町の噴水広場で落ち着いているんだな? 二人一緒に?」
頷きながら情報を伝えてもらっているオレを見ている一同はただただ困惑するばかりだ。
身振り手振りだけでそれを理解しているオレのことが理解できないといった顔だ。
まぁ“風の”は喋れないからな。
なのに何故理解できるんだ、といったところだろう。
「帰るのはレオ一人でか? 乗合馬車を使うと? ……なるほど。時間は分かるか? 何時の馬車に乗るとか言っていたか?」
続けた質問に一つ一つ反応を示して答えを返す“風の”だったが、最後の時間の質問でバッとオレのローブの中に潜り込んだ。
「あっ、ちょっと……!」
「なんで今悪戯してんだよ!」
「……真面目(?)に質問に答えていたんじゃなかったのか?」
ガキどもから一斉に飛んだのはある意味批難とも言える声。
だがこれは決して悪戯なんかじゃない。
その証拠に“風の”はローブの内側に潜り込むと同時に、オレのシャツの胸ポケットあたりでごそごそと何かを探し回っているからだ。
「別に悪戯しているわけじゃない。いいから黙って見てろ」
言い終わると同時に“風の”が何かを引っ張りながらローブの中から飛び出してきた。
同時に聞こえた『シャラッ』という控えめな金属音に、ユージィンが『あっ!』と声を上げた。
「懐中時計だ」
そう。
ユージィンの言う通り、“風の”がオレのローブから引っ張り出してきたのは懐中時計だった。
その文字盤を、全員が見える位置で何度もテシテシと叩く。
6と12を交互に叩くその様子から、ウォーレンが『18時……?』とぽつりと零す。
そのウォーレンを見上げながら“風の”はパァッと明るい表情を浮かべ、嬉しそうにコクコクと何度も頷いた。
「まぁ! 可愛らしいですわ!」
そんな“風の”の様子にユニファ嬢が歓喜の声を上げる。
確かに女性目線で見たら“風の”妖精の姿や仕草は可愛らしく見えることだろう。
オレから見たらただただクソ生意気なチビだけども。
そう思うのもこれまで積み重ねられてきた悪戯のせいだな、ほぼほぼ全部。
「レオは、18時の乗合馬車で王都に戻ると。そう言っているのですか?」
確認するように訊ねるウォーレンに、再び“風の”がコクコクと頷く。
「18時ならあと30分近くあるけど?」
「これから弟を迎えに行くのか、ウォーレン?」
「そうは言うけどセディ。30分やそこらじゃとてもじゃないけどクララットまでは間に合わないよ。行っても入れ違いになっちゃうって」
「そうなのか?」
「セディはクララット行ったことないでしょ?」
「……ない」
……というセドリック王子とユージィンの会話を、ランドール王子は真剣な表情で聞いている。
「クララットはそんなに王都から遠い場所なのか、ジーン?」
「遠くはないよ。少し離れてはいるけど、一応王都の隣の町ってことになってるし。そうですよね、ウォーレンさま?」
「え? ああ、はい。王都の中心街からでも馬車で軽く30分はかかります」
「王都と一言で言っても広いですものね? 王都の端から端まで、馬車で軽く2時間近くはかかりますわよ?」
「そんなにもかかるものなのか、ユニ従姉上?」
「間違なくそのくらいはかかりますわ。前にウォーレン様とのお出掛けで王都の端から端まで巡りましたもの。その節はとっても楽しかったですわ。ねぇ、ウォーレン様?」
「へ~ぇ?」
「ほ~ぉ?」
「仲良しだよねぇ、ユニ姉上とウォーレンさまって?」
「な……ッ! ユニファ嬢、殿下がたの前で何ということを仰るのですか……!」
「事実を口にしただけですわよ?」
「そうかもしれませんが……何もこんな子どもたちの前で言うことでは……」
ここぞとばかりに惚気けるユニファ嬢に対して過剰反応を見せるウォーレン。
言っておくが、オレもお前もユニファ嬢も、ガキどもより少し年上なだけで子どもであることに変わりはないからな?
……って言っても今はムダだろうな。
ユニファ嬢の手にかかれば、生真面目が服着て歩いているようなコイツも形無しだ。
ま、惚れた弱味っていうやつで頭が上がらないんだろうよ。
「あ~とりあえずその話は後で当人同士で好きなだけやってくれ。今話し合うべきことはレオとどう合流するか、だろう?」
「……そうでした!」
今日のウォーレンは色々とどこかおかしいな。
いつもの冷静さが欠片も存在しねぇ。
「けどさ。迎えに行くには時間が足りないんだろ?」
「王城からクララットに行くとしたらどのくらいの時間がかかるんだ?」
「軽く見積もって1時間くらいでしょうか? 急ぎ馬車を走らせれば10分くらいは短縮できると思いますけれど……」
セドリック王子の疑問にユニファ嬢が答えたところで、ウォーレンが今にも『有り得ない』とでも言い出しそうな顔でオレを凝視した。
「ルーファス、あなた……」
「ん?」
「つい先ほどまでクララットの町中にいたのでしたよね?」
「そうだな」
「私に『動くな』という二度目の伝達を寄越してから10分もしないうちに王城に着いてません?」
「そうだな」
正確には5分もかかってねぇけど。
「はぁぁ~!?」
「え!? 待って! 馬車で急いでも50分くらいなんでしょ!? ルーファスさま、どうやってクララットからたったの10分で王城まで来たの!?」
いや、竜に乗ってきたし。
つかお前、オレがヴァイアランから降りてきたの見てるだろうが。
「ウォーレンお前なぁ……」
「な、何です……?」
「いつものキレ者のお前はどこ行った? まるで何も見えてねぇぞ? レオのことを知らせてから普段の冷静さぶっ飛んでんじゃねぇか。いっそのこと知らせなかったほうがよかったか?」
「なッ!? い、いいわけがないでしょう!?」
「……だよな? だから知らせた。けど肝心なお前がこの状態じゃうまくいくものもうまくいくはずがねぇだろうが。もう一度言うぜ、ウォル? 落ち着け。それでオレと合流したさっきのことをよ~く思い出せ」
ウォーレンの肩に手を置き、じっとその漆黒の目を見つめる。
いつものコイツらしくなく、焦燥で揺れるそれが落ち着くまでただただじっと。
「なぁ、ウォル。オレはさっきどこからこの王城内に立ち入った?」
「どこからって……竜乗り専用の乗降の場とされる…………あ、っ…………!」
「お前も見たよな? オレの竜、ヴァイアランの姿を」
「は、い……確かに、黒鉄色の竜からあなたが降りてきたところを、己の目で、確かに、見ました……」
そう言いながら、気まずそうに目線をあちこちに彷徨わせるウォーレンを見て、ようやく普段通りに戻りつつあるなと安心する。
あとはこの状態でずっと落ち着いてくれればと願いながら掴んでいた肩から手を離した。
「……さて。ようやっと通常時のお前が戻ってきたところで質問だ、ウォル。18時にクララットの中央噴水広場を発車する乗合馬車が、王都内のオルフェンス邸にほど近い停留場に着くまでに要する時間はどのくらいだと想定する?」
ウォーレンの漆黒の瞳を見据え質問を重ねたところ、今まで交わっていた互いの視線が解けた。
それはウォーレンがオレから視線を外し、深い思考の底へと沈んだ証拠。
組んだ腕の片方の手を顎に当て、視線を横へとずらしながら鋭く何かを睨むように見据えるその様は、考え事をしているウォーレンが普段よく見せている姿だ。
「クララットを18時発の馬車……各停留場に一定の時間、乗客の乗り降りのために留まる上に、進行速度は比較的緩やか……王都内の停留場は全部で32箇所……巡回路は最終目的地によって幾つか分かれるが、どの巡回路であっても確実に停留する場でオルフェンス邸にほど近い停留場となると、出発地から7番目……1区間を平均して約5分ほどを目安に運行していることを考えると、到着予定時刻は早くて18時35分前後といったところか……」
向かう視線の先は彼方。
そして小声の早口で吐き出される言葉の羅列は、ウォーレンが頭の中で弾き出したほぼ正解にも等しい、この後の結果とも言えるべき解だ。
「で? 王城からオルフェンス邸にほど近い停留場までの所要時間は?」
「おおよそ40分。私が出仕する際の時間とほぼ変わりませんね」
「移動時間だけで言うなら、だろう?」
「……ええ。今からそこへ向かってレオを待つにも間に合いません。確実に入れ違いになります」
オレの指摘にウォーレンの表情が険しくなる。
そんなウォーレンの変化を、ガキどもが不思議そうな顔で見上げている。
「なんでだ? すぐにでもここを出れば18時35分の馬車の到着には間に合うだろう? あと1時間近くも時間はあるんだから」
……とは、ランドール王子。
「すぐには出られないからだよ、ランディ。何事に於いても準備は必要だろう?」
「兄上?」
「馬車で王城を発つには、まず馬車の手配が必要だろう? 馭者に馬、それと安全のために、念入りに車体の整備点検もやらなくてはいけない。その手配から始めなければならない今の現状では、1時間という時間はあまりにも短すぎるんだよ」
諭すようなセドリック王子の言葉を聞いて、ランドール王子は驚きの表情でその事実を受け止めた。
「そんなに……?」
「事前準備だけでそれなりに多くの人が動くからね」
「行きたいと言えば、すぐに出してもらえるものだと思ってた。今までがずっとそうだったから……」
「それは控えの者がそうするように手を回して手配を行っていたからだよ」
そう言ったセドリック王子の視線がウォーレンへと向かった。
セドリック王子の場合、控えの者とは側近であるウォーレンのことを指している。
「何事も手順を踏んで円滑に流れるように人が動いてくれていることを忘れちゃいけない。それが当たり前だと思うのはただの傲慢だよ。覚えておいてね、ランディ?」
「……うん」
さすがは兄といったところか。
一つしか変わらないというのに、しっかりと弟の前に立って己の背中を見せている。
それが弟の為になるようにと、自身の言動で示している。
「オルフェンス家の馬車は何時頃に到着予定ですの?」
「18時15分頃を目安に迎えとして家の者には手配してもらっています。ですのでオルフェンス家の馬車を待っている余裕はありません」
「シルウェスター家の馬車は帰しちゃったもんね? 今日は父上と一緒に帰るからって」
「……ええ。このような緊急事態が起きてしまうだなんて全くの予想外ですわ。普段通りに待機してもらっていたらすぐにでも発つことが可能でしたのに……」
現状に憂いて溜息を零すユニファ嬢をウォーレンが申し訳なさそうに宥めている。
その傍らで、ユージィンはどうにもならない現状を理解してか、二人の間に挟まれる形でそれぞれの衣服の袖をギュッと握っていた。
顔にこそ出ていないが、握り締めている手の震えからその心情は推して知るべしといったところだろう。
────……別に、そこまで悲観的になるような状況でもないんだけどな
圧倒的な時間不足は、あくまでも移動手段を馬車だけに限定した場合の話だ。
仮に馬車を出すのではなく、馬で単騎駆けていけば時間は半分以下に抑えられる。
この場合の問題は、ウォーレンが馬に騎乗してレオニールを迎えにいけるかどうかだ。
更にそこからオルフェンス邸に帰るまで、レオニールを一緒に乗せていけるかという問題も加わるが。
「最初から時間がかかることが分かり切っている馬車は却下だ。その上で訊くがウォル。お前、単独騎乗は可能か?」
「もちろんです」
「では、帰りにレオを一緒に乗せて帰ることは可能か?」
「……それは難しいですね。レオはまだ馬に乗ったことがありませんから」
「なるほど? なら馬で迎えに行く案も却下だな」
不慣れな騎乗はかえって危険だ。
まぁこれも最初から想定内のことではあるし、ダメだったからと気に病む必要はない。
「そうなると選択肢は最後の一つしかないが、これも無理となるとどうしようもないぞ? ウォル、お前オレのヴァイアランに乗って行く気はあるか?」
「!!!」
訊ねた瞬間、ウォーレンが目を見開き絶句した。
オレの竜に乗るなど欠片も考えていなかったんだろう。
「うわぁ、いいなぁウォーレン!! 俺も竜に乗りたい!! ウォーレンの弟一緒に迎えに行きたいっ!! ルーファス俺も一緒に連れてって!!」
「何言ってんだ、ランディ! バカも休み休み言え!」
「ちょっとだけでいいから!! 竜に乗りたい!!」
ガシッとオレの腰に腕を回してしがみついたランドール王子の力は見かけによらずなかなかに強い。
話しながら引き剥がそうにも離れる様子は一向になし。
こりゃこっちが折れるまで離す気がないな。
「いいじゃないか、ルーファス。連れていってやれば。ついでにクララットの催し? それも少しだけでいいからランディに体験させてやってほしい」
「兄上!」
「その代わり、お土産はしっかり買ってきてもらうよ? 私が自分の目で見て回れない分をランディに見てきてもらうわけだからね? 私とジーンとユニ従姉上の三人分ね?」
────オイ!
────勝手に決めんな、セディ!
────でもって勝手に話を進めるな!
「まぁ、素敵! 町の催しのお土産だなんて楽しみですわ。ルーファス卿、是非ともランディをクララットの催しに連れていってあげてくださいまし!」
更にユニファ嬢参戦。
「催しがどんな感じだったか感想も聞かせてほしいな。面白そうなものがあったらどんどん教えてよ。ボクも来年の催しにお忍びで参加するから」
「あら、いいですわね。では来年はわたくしと一緒にお忍びで催しに参加しましょうか、ジーン」
「はい、姉上!」
そしてユージィンまで賛同してきた。
ウォーレンを除外して、4対1かよ。
多数決による数の暴力ってやつには抵抗するだけ時間も労力も無駄。
ってなわけで、ここはおとなしく折れたほうが懸命だ。
「……分かったよ。その代わり長時間は無理だからな? 遅くても20時までには王城に戻す。それが連れていく条件だ。いいな、ランディ?」
「やった! 厳しくて口うるさいけど、なんだかんだでお願い聞いてくれるルーファス大好きだ!」
「はいはい。ちっとも褒めてねぇ褒め言葉をありがとうよ」
「ちゃんと本心から言ってるのに!!」
「はいはい。分かったから王城から出る準備しとけ。言っておくが町でその服装じゃ目立つぞ。もっとシンプルな、町の住民に紛れても違和感なく馴染むような服に着替えろ」
「……あ、そっか」
今の己の服装を改めて上から下まで見たランドール王子は、身につけた上等な衣服が町では不自然だということにすぐに気づいたようだ。
「シンプルな服ってどこまでシンプルにすればいいんだろ?」
「ちょっと裕福な商家の子ども、くらいの感覚でいいぞ。参考になるかどうかは分からねぇが、今のオレはこんな感じだな」
……と、ローブの下の衣服を見せたところでランドール王子が『分かった!』と大きく頷いた。
「こんな感じの服なら持ってる! 着替えてくる!」
『待ってて!』と言うなり自室へと走り去っていくランドール王子を、ユニファ嬢が『うふふ』と含み笑いを浮かべながら見送った……かと思いきや。
「面白そうですので準備を手伝ってまいりますわ」
と、便乗する気満々の笑顔を浮かべつつ、ゆったりとした歩みでランドール王子の部屋へと向かっていく。
「側仕えに任せればいいだけの話なのに。わざわざユニ従姉上が手伝う意味があるのか?」
「手伝うというより、姉上はただランディの髪の毛を弄りたいだけだと思うよ?」
「髪を弄る?」
「ちょっと結んだりとか、飾り紐やリボンを付けたりしたいんじゃない? ボクもたま~にそれで遊ばれるもん」
「…………あ~」
完全に着せ替え人形扱いか。
年上が相手だけにいくら王子と言えどもそこは抗うのは難しいだろうな。
ある意味ご愁傷さまだ。
「ところでルーファス」
「なんだ、セディ?」
「竜に乗っていくなら、レオニールが乗合馬車に乗るよりも先にクララットに着けるはずじゃないのか?」
「まぁ、そうだな」
「なら、王都の停留場で待つよりは直接クララットの町に迎えにいったほうがウォーレンも安心するんじゃ?」
どうせ竜に乗ってウォーレンも連れていくのなら……と思っての言葉だったのだろう。
だが、そうできない理由が二つ……いや、三つある。
「クララットには竜が降りられるような開けた場所がどこにもないんだよ。オレが王城に来る際も、王都とは反対側に当たるかなり離れた町外れでヴァイアランを呼んだくらいだ。町中の近い場所で見慣れないはずの竜の姿を見たとなれば驚かないほうがおかしいだろう? 町は催しどころではなくなる。そういった懸念があるから、できるだけクララットの町にヴァイアランを近づけることはしたくない」
「……そうなのか」
「あとは、顔割れの心配だな」
「顔割れとは……ウォーレンのか?」
「そうだ。クララットはオルフェンス家の管轄している領地だ。既に領主の子息として町の住民たちに顔を知られている可能性が高い。そのあたりどうなんだ、ウォル? 領主の子息としてクララットの町に視察目的で顔を出したことは?」
「年に数回ほど出してますね」
「……というわけで、ウォルが町中に入る案はこれで却下だな」
「確かに……」
「あと最後の一つだが、仮にウォルが領主の子息として顔割れしていなかったと仮定して、今のこの服装で町中に入っていったとしたら……」
「……目立つ」
「そうだな。完全に王城へ出仕するに相応しい服装なわけだからな。逆の言い方をすれば……」
「町中に出るには相応しくない服装」
「そういうわけだ。以上の三つの理由から、直接クララットに乗り入れることはしないと判断した」
ここまで説明したことでセドリック王子は納得したと数度頷く。
すると今度はユージィンからも疑問の声が上がった。
「クララットがダメな理由は分かりましたけど、王都内で竜の乗り降りをしても大丈夫なんですか? 王都内ではそれなりに竜の存在は知れていますけど、それでも驚く人はいると思うんです」
「まぁ、人目を気にするという意味では慎重に降ろすしかないだろうな。場所に関しては特に問題はない。有事の際に竜騎士団の機動力を損ねないために、王都の主要な通路は幅広く取ってある。必要以上に馬車の停留場が広すぎると思ったことはないか?」
「あ、それは思いました。小さな公園くらいは造れるんじゃ……? って思えるほどに広々としてますし」
「そう。その場所に竜を降ろせるようにと配慮してあるんだ」
「へぇ……初めて知りました。ルーファスさまは色々と物知りなんですね」
「……あのな。今でこそ魔道師の家系とされてはいるが、ノーヴァは元々、竜騎士団の始祖でもあるんだぞ?」
「え……そう、なんですか……?」
「ま、そのあたりはこれから先しっかりと歴史を勉強しろ、宰相子息」
「……あ、はい」
ポンポンと頭を撫でてやると、申し訳なさそうな顔で質問された。
「じゃあ、今の竜騎士団の団長を多く排出されているノースレイヴの家系はどこから……?」
「元はノーヴァの分家。今から500年以上前に、ノーヴァの当主の弟が興したのが切っ掛けだな。そこからノーヴァが魔道師、ノースレイヴが竜騎士としての道を確立させて今に至る。先祖を遡ると元々は同じ一族だ。今では完全に血の繋がりはないが、一族の在り方としては常に両隣で背中合わせの一蓮托生だ。双方がそれぞれの片翼を担っているような関係性だな」
……と、気づけばノーヴァの家系に限られた歴史の授業をやっているような感じで色々説明するに至っていた。
隣ではウォーレンが腕を組みつつ、頷いている。
二人の勉強している姿勢に感銘を受けてでもいるのか。
っていうか、オレは家庭教師でも何でもないんだがな。
訊かれたから答えた……というつもりでいたはずが、オレは一体何をやっているんだか。
「まぁ、今は勉強の話はいいや。それよりもウォル。お前覚悟決めておけよ? この後レオの迎えに出るのに竜に乗せるからな?」
「う゛ッ……! 避けられる事態ではありませんからね……。ええ、ええ……潔く肚を括りますとも……」
「別に死なねぇから」
……と、ランドール王子が準備を行っている間に、オレはウォーレンを竜の乗降の場である大広間に引き摺っていき、呼んでおいた竜───ヴァイアランと引き合わせた。
一度オレが降りた際に見ているはずなんだが、やはり気が動転していたからかあまり鮮明には覚えていなかったらしい。
ヴァイアランのあまりの大きさに顔を引き攣らせていたが、弟のためにもさっさと慣れてくれ。
とりあえず、触れ。
触ってればそのうち慣れるから。
鬼の所業だと言われようが時間には限りがある。
もうすぐ18時15分になるぞ。
あと10分かそこらで有無を言わさず飛ぶからな?
などと所々で脅しをかけつつ、ウォーレンをヴァイアランに慣れさせた。
オレがウォーレンにヴァイアランを嗾けたとも言うが。
ランドール王子?
アレは自分から乗りたいと言い出したくらいだから、別に引き合わせるまでもないだろう。
いきなり対面したところで恐れ慄くといった心配はしていない。
寧ろ喜び勇んで首根っこに抱きつきにいくくらいは考えられる。
まぁ案の定、オレが予想していた通りに、ランドール王子はヴァイアランと対面した直後
『すげ~!!』
『かっけぇ!!』
『超感動!!』
……と、ヴァイアランの足にしがみつきながら歓声を浴びせ続け、逆にヴァイアランを困惑させたわけなのだが。
オレが思っていた以上にランドール王子は胆力があって怖いもの知らずだったらしい。
実際にオレが抱きかかえる形で背中に乗せた時もずっと感動の声を上げ続けては、鱗をペタペタ触ったり頬ずりしたりと好き放題だった。
無類の竜好きかよ、お前。
「ランディ、お前さ」
「ん?」
「そんなに竜好きなら、単なる竜乗りとしてじゃなく、竜騎士目指して研鑽積んでもいいんじゃね?」
「竜騎士? 俺が?」
「お前以外に誰がいる?」
「俺でもなれるの?」
「やる気とその気さえあればな。あとは竜との相性もあるだろうが……お前から出てるその『竜すげぇ、かっけぇ、好きだー!!』ってオーラ見てりゃ何の問題もなさそうだな」
思ったことを正直に告げたら、キラッキラした目で見上げられた。
「俺、竜騎士になるッ!!」
「おう、なれなれ。それで少数精鋭のエリートの仲間入りしろ。竜の一族が礎として築いた国を背負う一族の一員として、ドラグニアの名を誇れる自分になれ」
「なるッ!!」
ヴァイアランにしがみついたままそう宣言するランドール王子を、見送りのためにと一緒に広間に来ていたセドリック王子が羨ましそうに見上げている。
「いいなぁ、ランディ」
「? 兄上も一緒に目指せばいいじゃないか」
ん?
『いいなぁ』と言ったのは、オレがランドール王子に対して言った『竜騎士になれ』って言葉に対してか?
「セディ、お前も竜騎士になりたいのか?」
「!」
訊ねたと同時にハッと目を見開いたと思ったら、目が合った瞬間パッと逸らされた。
若干赤くなった目元から察するに、竜騎士に憧れているのは本当らしい。
「だったらお前は、ランディ以上に本気で目指してもらう必要があるな」
「えっ?」
「そうだろう? お前がリリィを本気で欲しいと願っているのならな。国だけでなく、ノーヴァとその片翼を担うノースレイヴも含め、全てを背負うくらいの覚悟でいてもらわないと困るんだよ。あれは十数世代ぶりに生を受けた女児───即ち竜の姫でもある。その竜の姫を生涯の伴侶に望むというのなら……それに相応しい力を以て一族に認めさせてみろ」
「竜の姫……相応しい力……一族に、認めさせる……?」
「ま、ランディみたく、お前にもその気とやる気があるんならいつでも言え。鍛えてやっから。陛下には『死なない程度にだったら何をやってもいい』って許可降りてっからな」
「は!? 父上が……!?」
「何だそれ!? 俺、知らないぞ!? 本当に父上がそう言ったのか、ルーファス!?」
「言った、言った。お前ら揃って手がかかる上に、教育係を困らせる常習犯でもあるから、唯一厳しくできるオレに『何とかしてくれないか』って陛下直々に頼まれたんだよ。真面目なフリした問題児なんだ……ってな。実の父親の頭を悩ませてんじゃねぇよ、全く」
「いっそのこと、ルーファス卿が二人の教育係になったらいかかがですの? 陛下もそのほうが安心なさるでしょうし」
……とは、ユニファ嬢。
「ヤだよ。今の監視係にも等しい状態だけでも面倒だってのに、これ以上面倒なことを増やして堪るか」
「え~? でも普通に教育係から注意されるより、ルーファスさまの言うことのほうが二人ともよく聞くよね?」
「ですわよね、ジーン?」
「だからこれ以上の面倒事を増やすな。陛下も陛下だろ。何もかもオレに丸投げしすぎなんだよ、あの人。便利屋扱いか。そもそもオレは便利屋なんかじゃねぇぞ」
「でも便利」
「優秀すぎますしねぇ?」
「……やめろ。やめてくれ。オレは決して便利屋なんかじゃねぇ、ただの魔法好きで研究バカな一魔道師でいいんだよ……」
『はぁ……』と溜息混じりに言ったところで横から突っ込みが入った。
「どの口がそんなことを言うんですか。色々と規格外なあなたに言われても説得力がありませんよ」
「……どういう意味だウォル?」
「あなたも大概だと言いたいんですよ。何なんですか? ノーヴァの一族は皆総じてそのような規格外な人種の集まりなのですか?」
「…………父上だけは大概だと思ってるけど?」
何せ色々な二つ名を持ち、一部では『リアル魔王』とも言われているくらいだ。
そんな父上の子だからオレもまた同じく周りから規格外だと思われていると?
「ま、別にどうでもいいけどな。父上は父上。オレはオレ」
「……そういうところですよ、ルーファス」
呆れたように言い放つウォーレンを見て、だいぶヴァイアランにも慣れたと見て取れる。
……その後。
しばらくの間、雑談混じりに騒いでいたところで丁度いい頃合いにまで時間が差し迫っていた。
時計の針がそろそろ18時半を指そうとしたところで、オレはすぐ側にいた”風の”に声をかけた。
「レオの乗ってる馬車は今どの辺りを走ってる?」
その問いに、身振り手振りで応える”風の”妖精。
ちょうど目的地の一つ前の停留場を出たところだという。
「……よし。それじゃ飛ぶぞ。しっかり捕まってろよ、二人とも」
「うん!!」
「……はい」
元気な返事と若干震えが混じったような返事を耳にしたと同時に、オレはヴァイアランに合図を送り大広間から飛び立たせた。
「いってらっしゃい!」
「気をつけて!」
「レオニールくんにもよろしくお伝えくださいな!」
翼が大きくはためく際に起こる風圧の影響を受けないよう、後方へと下がった三人からの大きな声で見送りの言葉がかかる。
それに応えるように軽く手を振った後、目的の場までヴァイアランを飛ばした。
乗せた二人は全く知らないだろうが、竜の移動速度は恐ろしく早い。
王城を飛び出してすぐ───それもあっという間に目的の場に到着したと知った時、二人は一体どんな反応を示すだろうか。
そんなことを考えた一瞬後にはもう、オレたちを乗せた竜は目的地である停留場の遥か上空へと到着していたのだった……─────
今回一斉に登場したため、ゲームでの攻略対象とされる人物は全て出し切りました。
第一王子、セドリック
第二王子、ランドール
宰相子息、ユージィン
第一王子側近、ウォーレン
以上の四人が今回新たに登場しました。
レオニールことレオくんは少し前から登場してフローレン扮した町娘ことエマと遊んでおります(´∀`*)ウフフ
ユージィンの姉として登場したユニファさんはゲームでは名前も存在も出ていないため、モブ以下という扱いになるんでしょうか?
お話の中では決してモブ扱いにはしませんが(^^;;
従姉ということもあり、王子たち二人のお姉さん的存在でもあります。




