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レオくんとエマ 1(土の曜日)

閲覧、ブクマ、評価とありがとうございます(*・ω・)*_ _))ペコリン


今度はレオくんと一緒に町めぐり(?)します!(о´∀`о)




~レオくんとエマ 1(土の曜日)~




「レオくん、お腹すいてない?」

「えっ?」


道すがらそう訊ねたところ、返った反応は戸惑いの声と赤くなった顔。

返事を聞くまでもなく『お腹すいてるんだな』と分かったけれど、それ以上突っ込むことはしない。


「おやつ食べよっか?」


ニコニコ笑顔でレオくんを引っ張っていった先は、マイヤちゃん曰く『ズブズブに沼る魅力』のプチジャムクレフのお店。

ワタクシめ、エマは本日二度目の訪問でございます。


「あのね、これすっごくおいしかったの」

「そうなんだ……え~っと、プチジャムクレフ……?」


物珍しそうな顔でお店の商品を眺めるレオくんはプチジャムクレフに興味を持ってくれたようだ。


「甘いの好き?」

「うん!」


満面の笑みで返してくれたレオくんはすっかり元気だ。

落ち込んだ姿ばかりを見ていたからか、こうして笑ってくれているところを見ると安心する。


「じゃあコレ食べよう! いっぱいあるから迷ってるとなかなか決められなくなっちゃうよ」


そんな私もまた、二回目であるにもかかわらずどれにするか迷っている。

あれだけお腹いっぱいだったのはどこへやら。

しっかりと別腹にも空きスペースができた今は、諦めたチョコバナナもペロッといけちゃう気がする。


「他にも食べたいものがあるならウチで迷うのは危険だよ、坊や?」

「えっ?」


真剣な顔で陳列されたクレフの群れに見入っていたレオくんにお店のお兄さんが声をかける。


「そうだよね、お嬢ちゃん?」

「うん!」


お店のお兄さんは私のことをしっかりと覚えててくれたみたいだ。

まぁあれだけマイヤちゃんとはしゃぎながらクレフに夢中になっていたんだ。

それはそれはインパクトがあったことだろう。


「お嬢ちゃんは今度は何にする?」

「ん~……そうだなぁ……」


どれもこれも魅力的すぎて悩むわ。

しかしここで悩むと待っているのはプチジャムクレフへの『ズブズブ沼』だ。


さっきはマイヤちゃんが選んだのと合わせて4種類の味を堪能したんだよね。

でもこの後チョコバナナを食べる(もう決定事項です)ことを考えると1個だけにしておくのが無難かも。


甘い系か、さっぱり系か、珍しい野菜ベースのジャムなんてのもある。

王道でいくか、珍しいものにチャレンジするか本当に迷う。



────わー、ヤバい!!

────ホントにズブズブいきそうだわ!!



そんなことをぐるぐる考えていたら、髪の毛をくいくいと引っ張られた。


「ん?」


こんなことをするのは”風の”妖精(いたずらっこ)しかいない。

今度こそ学習したのか、強くではなく控えめな引っ張りかただ。


どうしたのかと思って視線を上へと向けると、ちょうど身を乗り出した“風の”がある一つのクレフを指し示した。


「バラのジャム……?」


思わず呟いたその一言に、お店のお兄さんが反応を返してくれた。


「そう。バラの花びらを煮詰めたジャムを使ったものだよ。バラ以外の花のものもあるから興味があるなら色々試してみてね!」

「今日だけじゃ無理だよ!」

「あははっ。確かにお嬢ちゃんの小さな身体じゃ花のジャムだけでも全部試すのは無理があるだろうね」

「むぅ~……分かってて言ってるでしょ! お兄さん意地悪だって言われない?」

「うん、言われる」

「イイ性格~!」

「あははっ。お褒めに預かりまして」



────褒めてねぇ~わ!!



……なんてことは思っていても言わない。

これはお兄さんなりの商売における一種のコミュニケーションなのだ。

なんだかんだで親しみやすいこのキャラはとにかく人目を惹く。

接客には最大の武器は活かさなきゃもったいないというものだ。


「でも最初に目に付いたのはバラのジャムだからそれ試すよ」


まぁ目を付けたのは“風の”なんだけど。


「オッケー。バラのジャムだね? 何色のジャムにする? 花弁の色によって少しずつ味を変えてあるんだけど」

「ナヌ!?」



────またまた惑わせよってからに~~~!!



確かにお兄さんの言う通り、赤をはじめピンクや白、黄色、オレンジ……などなどバラのジャムだけで結構な数がある。

くっそう……早くもズブズブ沼の罠へと手招きされてる気分だわ。


そんな風に悩みかけたところで“風の”にクイッと袖口を引っ張られた。


「!」


いや、正確には袖口を()()()引っ張られ、一つのものを指差す形になったのだ。


「あははっ。やっぱ赤が王道だよね~」


そう。

引っ張られて指差すことになったのはい赤バラのジャムのクレフだった。


「これ1個でいいの?」

「うん。さっきも食べたし。レオくんはどうする?」

「え、っと……」

「いっぱいあるから迷うでしょ?」

「……うん」


軽く眉間に皺を寄せながらショーケースの中を見つめるレオくんの顔は真剣だ。


「お兄さんのオススメは何?」


レオくんが選ぶ参考になればとお兄さんに訊いてみた。


「えぇ~……売る側としては全部! ってしか言いようがないんだけどなぁ」

「参考にならない! 気持ちは分かるけども!」

「あははっ。お嬢ちゃんノってくれるねぇ。ちょっと気分良かったから1個分お兄さんがサービスしてあげよう」

「本当!? やったぁ! レオくん、1個サービスだって! 好きなの2個選べるよ!!」

「えっ?」


最初から1個だけを選ぶつもりでいたのだろうレオくんの顔は驚きでいっぱいだ。


「迷っているなら、最初は定番のいちごをオススメするよ。あとはそうだなぁ……甘いので攻めていくならりんごや桃。甘酸っぱいのがいいならブルーベリーやカシス、木いちごあたりがいいだろうね」

「……だって、レオくん」

「じゃあ、いちごとブルーベリーにする」

「まいど。それじゃ1個はサービスだから、2個分の16シェルね」

「はーい」


言われて黄銅貨と青銅貨と大青銅貨をそれぞれ1枚ずつ支払う。

それを見たレオくんが慌てて『あっ! ぼくもお金……』と、例の使()()()()お金を出そうとした。

……ので先手を打っておく。


「レオくん、ここでは金貨はダメだってば」

「……あ」

「そうだねぇ~、王都のお店だったら金貨(それ)出してもらっても全然構わないんだけど、さすがに催し用の出店じゃキビシイかなぁ~」


レオくんにはこそっと小声で伝えたつもりだったんだけど、お店のお兄さんにはしっかりと聞こえていたみたいだ。


「王都でもこのお店やってるの?」

「ん~……クレフのお店というよりはジャムの専門店かな。そのジャムを使ったクレフを、店とは別のカフェでメニューの一つとして出してるんだよ」


お兄さん曰く、普段は王都のジャム専門店にいて、お兄さんはなんとそこのオーナーさんらしい。

見た感じ20歳そこそこの若さなのにすごいな。

ちなみこのプチジャムクレフのお店は催しのためだけの限定のお店なのだとか。

だから、同じ系列として出しているカフェでもこのミニサイズのクレフは扱っていないらしく、そちらでは普通のサイズのクレフをカフェメニューとして提供しているとのこと。


なるほどなぁ……

催しの期間限定でしかこのミニサイズのクレフを楽しめないのであれば、散財してでも纏めて買おうとする人が多いのも納得だ。

更には気軽に買えてしまうこのお手頃価格。

好きな人は絶対に見逃せないであろう絶好の機会なわけだからね。


ちなみにそのジャム専門店の名称は『リーフ・ドゥ・エル』というらしく、その名称の一部である『リーフ』はオーナーであるお兄さんの名前なんだそうだ。



────葉っぱのジャム屋さん……



……と思ったのはココだけの話だ。




さて。

サービス品を含めた3個分のプチジャムクレフをゲットした私たちは、一度噴水広場に戻ることにした。


『機会があったら王都のお店にも遊びに来てね!』


……と、手を振って笑っていたお兄さんの視線が若干レオくん寄りだったことから、レオくんが大貴族家のお坊ちゃん(いいトコのボンボン)であることはしっかりとバレているのだろう。

気まずそうなレオくんの顔を見てますますそう思った。


だからこそ、人が多いこの出店通りを一旦離れてしまおうと、落ち着ける噴水広場に戻ることにしたのだ。

噴水の側には”水の”妖精たちがいるし、何なら私の頭の上にも”風の”妖精(いたずらっこ)がいる。

癒やされるには十分なキャスト陣ではなかろうか。


二人並んで噴水の縁に腰掛け、買ったクレフを頬張りながら私はレオくんに訊ねる。


「……ね。もしかして、さっきのリーフお兄さんのお店行ったことあるの?」

「ううん。ぼくは行ったことはない」


なんとなく気になって訊ねてみたけれど、レオくんから返ったのは否定の答え。


「でも……」

「うん」

「姉さまが好きなジャムのお店だから、時々使用人の誰かが買いに行ったりとか、お邸にお店の人を呼んだりとかしてたのは知ってる」

「そうなんだ」

「うん」


なるほどねぇ。

もしかしたらあのリーフお兄さん、レオくんの記憶にはなくてもお邸に訪ねて行った時にレオくんに会っているのかもしれない。

そうだったら、最初っからレオくんが大貴族家のお坊ちゃん(いいトコのボンボン)だってこと分かってたのかも。

レオくんが金貨を出そうとした際もギョッとした顔で驚くんじゃなくて、苦笑しながら『キビシイなぁ~』なんてサラッと流してたしね。


「レオくん、さっきのジャムのお店……え~っと『リーフ・ドゥ・エル』のこと知ってるなら、カフェのことも知ってたりした?」

「ううん。カフェのことは初めて聞いた。このクレフ? だって、初めて見たし」

「そっかぁ~……じゃあ、これ、お姉ちゃんへのお土産話にできるね!」

「えっ?」

「だってそうでしょ? このクレフは、レオくんのお姉ちゃんの好きなジャムのお店が出してるカフェのメニューなんだよ? 元気になったら一緒に食べに行きたいとか、そんな風にお話できるじゃん!」

「!」


そう言ってみたらレオくんはビックリしてた。

思いもしなかったらしい。


「これをお土産に持って帰るのもいいかもしれないね!」


ニコニコ顔でバラのジャムのクレフを頬張りながらそう言うと、レオくんは自分の手元のクレフをじっと見つめた。


「これを、姉さまのお土産に……」

「そう。いくつか選んで持って帰ってあげようよ。きっとお姉ちゃん喜んでくれるよ?」

「喜んで……」

「うん」

「そう、だったらいいな……」


相変わらず自信のないことで。

優しすぎるが故に、自分に対してイマイチ自信が持てていないのかな。

そんなことないのに。

レオくんはとってもいい子なのに。


そんな気持ちが外に漏れ出ていたのか、”風の”妖精(いたずらっこ)が私から離れ、レオくんの目の前へと降り立った。

ちょうど真正面に向かい合うようにして、じ~っとレオくんの漆黒の瞳を見つめるように覗き込む。


「え……?」


困惑した声がレオくんから漏れて、私は確信した。


「やっぱりレオくん、妖精(このコ)たちのこと見えてるよね?」

「えっ? やっぱり、って……」

「さっきもすっごく驚いてたし。声、上げそうになってたでしょ?」


お花屋さんで会ってすぐのことを話すと、レオくんは戸惑いながらも頷いてくれた。

ただ、見えてはいるけれど、実際に見るのは初めてなのだそうだ。


「実はね。レオくんが困ってたのを教えてくれたの、妖精(このコ)たちなんだ」

「えっ?」

「驚いたでしょ?」

「うん……」

「私も驚いた。ものすごくあたふたして慌ててるんだけど、何言ってるのかちっとも分かんないんだもん。でも……分かんないなりに行ってよかったって思ってる。こうやってレオくんに会えたし、困ってるトコ助けてあげられたから」


そう伝えると、レオくんは顔いっぱいに驚きの表情を浮かべて、それからはにかむように笑った。

ほんのりと目元が赤くなっていることから、ちょっとだけ恥ずかしいのかもしれない。

でも、レオくんはしっかりと私と目を合わせてこう言ってくれた。


「助けてくれてありがとう。それから……恥ずかしいところ、いっぱい見せちゃってゴメンね?」


最後の方はちょっと小声で聞きづらかったけど、私は『気にしないで』と笑って、それ以上は何も聞かないことにした。

レオくんにはレオくんの事情があった。

そのことに対して一生懸命だっただけで、何も恥ずかしいことなんかじゃない。

本当だったら、黙って家から抜け出してくるなんて許されない立場のはずのレオくんが、形振り構わず行動に出たのは病弱なお姉ちゃんのためにしてあげたいことがあったからだ。

未知の世界にたった一人で飛び出すなんて、今の年頃の子どもが簡単にできることじゃない。

前世の記憶持ちである私でさえ、そんな行動に出れるかどうか分からないというのに。


「レオくんはすごいと思うよ」

「えっ?」

「お姉ちゃんのために、勇気を出して動くことができてるんだもん」

「そ……そう、かな……?」

「そうだよ。私だったら、レオくんみたいに動けなくて、一人でうじうじ悩むことしかできなかったかもしれないもん」


もし……もしも、だ。

レオくんのお姉ちゃんのように、ロイアス兄さまが病弱で、殆ど部屋から出られないような生活を送っていたとしたら。

私はきっと、兄さまが心配で心配で側を離れられなかったと思うんだ。

兄さまのために何かをしてあげたい、そんなことを思っても、自分が離れている間に兄さまに何かあったらという不安が真っ先に押し寄せて、結局は思うだけで動けず、何もできないままでいたんじゃないだろうか。


だから。

そんな不安に打ち勝って行動に出られるレオくんは本当にすごいと思う。


「だから。自信持って、レオくん! お姉ちゃんのために、レオくんはものすごく頑張ったんだよ!」


私の言葉に”風の”も同意するように『うんうん』と頷く。

それから、私たちを囲むようにして噴水内で戯れている”水の”妖精()たちも同じように尾びれで水をバチャバチャ叩きながら賛同してくれた。


「そ、っか……」


私の言葉と、妖精たちの同意を受けて、レオくんがしみじみと何かを噛み締めたように目を閉じる。

それは最初会った時の不安そうなものとは違い、凪いだ水面(みなも)のようにとても穏やかな表情だった。


「……うん。ありがとう、エマちゃん」


閉じていた目を開けたレオくんが真っ直ぐに私の目を見つめて言う。


「妖精たちも、ありがとう」


(ほど)けるように笑んだ表情も、やっぱり穏やかだ。

幼いのに、どことなく安らぎを感じるような。

そんな不思議な空気を纏っているようにも思える。


レオくんの言葉を聞いた妖精たちが一斉にはしゃぎだした。

『ありがとう』の言葉がよほど嬉しかったのだろう。

町の催しの喧騒の中、この噴水広場の、私たちがいるこの場所だけが切り取った別空間のように穏やかで優しい雰囲気に包まれている。

きっとここに妖精たちがいるからだろうというのは私とレオくんしか知らない事実だ。



────……不思議だね



この世界に生まれ変わったと気づいた時からそう感じてきたことは多かったけど。

でも。

妖精の存在を知ってから、そのことをより強く感じるようになった気がする。


「……”風の”。おいで」


そっと小さく呟くと、レオくんが不思議そうな顔で私を見た。


「エマちゃん?」


疑問の声も上がったけれど、”風の”はちゃんと分かっていて、レオくんとちょうど間になる私の右肩へとちょこんと座った。

これまた不思議なことに、重さは全く感じない。


「……レオくんのことを教えてくれたお礼」


食べかけではあったけれど、バラのジャムのクレフを差し出すと”風の”は目をキラキラと輝かせながらカプッと小さくクレフに齧りついた。

頬をいっぱいに膨らませてむぐむぐと咀嚼するその姿はとってもかわいい。

初めてその存在を知った時は姿が全く見えなかったけれど、あの時もこんな風にしてクッキーを食べていたのだろうかと思うと微笑ましくなる。


「妖精って……お菓子、食べるんだ……」


驚いた顔でレオくんが言う。


「食べるよ~。初めて会った時も”風の”妖精( このコ )、クッキー食べたもん。ね?」


私がそう言うと”風の”は頬を膨らませたままコクコクと頷く。

自分が目をつけたバラのジャムがよほどおいしいのか、その表情がとろけたように見えるのは私だけだろうか。


「じゃあ……こっちの噴水の中の妖精たちも同じなのかな……?」


疑問に思ったレオくんが”水の”妖精たちを見ると、押し寄せるように一斉にやってきた。


「食べる?」


私が”水の”妖精()たちの前にクレフを差し出すと、それぞれが一口ずつ齧っていった。

”風の”が一人(?)に対し、”水の”妖精()たちはたくさんいたから足りるかなという心配はあったけれど、身体の小さな妖精たちの一口は限りなく小さく、全員が一口ずつ齧ってもクレフが完全になくなることはなかった。

ちょうど私の口での一口分が最後の一欠として残ったくらいだ。

それをパクンと口に放り込む。

妖精たちとのシェアは初めてだけど、やっぱり分け合って食べるのはおいしさが増す気がする。


「ごちそうさまでした!」


パチンと手を合わせてそう言うと、妖精たちも一斉に私の真似をして手を合わせる。

その姿がものすごくかわいくて、思わず絵に描いて残しておきたくなった。


くっそう、前世のカメラやスマホが恋しいぞ!

一瞬にしてパシャっとその瞬間を切り取って収めたいぃぃぃ!!


「『ごちそうさま』? って?」

「おいしくいただきました、ありがとうございました、っていう意味の、お食事のあとの挨拶みたいなものだよ!」


おぉっと、しまった。

この世界では『いただきます』『ごちそうさまでした』の習慣はないんでした。

とりあえず、本来の意味ではあるけど、分かりやすく納得できるように伝えると、レオくんは笑顔で『いい言葉だね』と言ってくれた。


「それって作ってくれた人に対しての感謝の言葉なんだよね?」

「そうだね」


料理を作ってくれた人と、食材を育ててくれた人。

それから……食べる側である私たちにその生命を捧げることになった動物や魚たち全ての命に対しての。


「今度からぼくもそれ言おうかな」

「えっ?」

「ぼくの家の、シェフたちに。毎日毎日、おいしい食事をありがとうって」


……驚いた。

こんなにすんなり前世での言葉を受け入れてくれるなんて。


「うん。伝えたらきっと喜んでくれると思うよ」

「本当? だったらこれから毎日言うよ。え、っと……食べ終わったあとに『ごちそうさま』? って言うんだよね?」

「そう。食べ終わったら『ごちそうさまでした』。食べる前には『いただきます』だよ」

「『いただきます』と『ごちそうさまでした』だね。……うん、覚えた!」


何度も小さく『いただきます』『ごちそうさまでした』を繰り返した後、レオくんは笑った。

とても自然な笑顔だった。


それからレオくんは私がやったように、クレフを食べ終えた後に両手を合わせ、静かに『ごちそうさまでした』と口にした。

その表情はとっても穏やかで。

そして、とても満足そうで。

改めて私は『ごちそうさまでした』の言葉はいい言葉だな、という気持ちを噛み締めたのだった。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「それじゃレオくん、次行こう!」


立ち上がり、レオくんの手を引く。

時刻はそろそろ16時半になろうとする頃。

帰りの馬車の時間まではまだまだある。


「どこに行くの?」

「工芸品の体験が気になってて」

「工芸品の体験?」

「そう」

「何するところなんだろう……?」

「気になるでしょ?」

「……なる」

「だから行ってみようと思って。レオくん付き合ってくれる?」

「もちろん。それに、帰りの馬車の時間まで付き合ってもらってるのはぼくのほうだから」


ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をされたから、そんな顔しないでって意味を込めて私は笑顔を向けた。


「楽しもうね!」

「……うん!」


行き交う人の間を抜けるように出店が並ぶ通りへと向かう。

工芸品エリアへと行く前に、ちょっとだけリーフお兄さんのクレフのお店に寄ることにした。

レオくんが行きたいと言ったからだ。


短い間に再び顔を出した私たちを見て、リーフお兄さんが『おや?』という顔を見せた。


「あれ? さっきのお嬢ちゃんと坊やじゃないか。どうかしたの?」

「え、っと。クレフがとってもおいしかったから。そのお礼が言いたくて」

「おいしくいただきました、ありがとうございました、って伝えたいってレオくんが」

「あははっ。店側としては食べてもらうために出してるんだから、お礼なんていいのに」

「でも、おいしいって言われるのは嬉しいでしょ?」

「まぁ、そうだね。色々考えて出してよかったなって思うよ」


私たちの言葉を聞いてリーフお兄さんは嬉しそうに笑う。


「だからちゃんと言葉にしようと思って」

「じゃあレオくん、『せーの』でいくよ……せーの!」


「「『ごちそうさまでした』! とってもおいしかったです!」」

「!!」


レオくんと二人揃って笑顔で『ごちそうさまでした』と言ったら、予想通りに驚かれた。

まぁそうだよね。

聞き慣れない言葉だろうし。

でも、あとに続けた『おいしかった』の言葉でリーフお兄さんは喜んでくれた。


「ありがとう。うちの商品を選んでくれて」


驚いたのも少しの間で、すぐにへらっと人好きのする笑みを見せてくれるお兄さん。

やっぱり『おいしい』の一言は食べものを扱うお店の人にとっては特別な魔法のような一言なのだろう。


「あの!」

「うん? 何かな、坊や?」

「その、このクレフ、とってもおいしかったから、お土産に持って帰りたくて。だから、その……お兄さんのオススメを教えて下さい!」


ちょっと恥ずかしそうだったけれど、最後まで言い切ったレオくんにリーフお兄さんが驚いて目を瞬く。

けれどすぐに人好きのする笑みを浮かべながらこう言った。


「あははっ。さっきも言ったけど、店側としては全部がオススメなんだよね~」

「だからそれじゃ参考にならないってば、お兄さん!」

「だよねぇ、お嬢ちゃん」

「じゃあ女の子向けで、よく売れてるものは?」

「ああ、それだったら……」


……と、お兄さんが教えてくれたたのは、定番のいちごを始め、りんご、もも、ブルーベリー、さくらんぼの全部で5種類。

これらが女の子には人気があるらしい。


「じゃあその5種類をお土産にしよ、レオくん!」

「うん」


ということで、お土産用として新たに購入。

ここでも気前のいいリーフお兄さんはサービスしてくれて、それぞれを2個ずつの詰め合わせにしてなんとワンコインの50シェルにしてくれたのだ。

1個8シェルだから、本当だったら全部で80シェル。

30シェルもの値引きになるんだから、サービスしすぎなんじゃなかろうか。


売上っていうか、利益分として大丈夫か?

マイナスになってない?


そう思った私だったけれど。


『いいよ~、その代わり、王都に来た時にはぜひうちのお店でいっぱいジャム買っていってね~!』


なぁんて言うものだから、リーフお兄さんはちゃっかりしていると思う。

嫌いじゃないよ、その性格。

いや、寧ろ好きだ。

ノリがよくて大いに結構。


ってなわけで、王都でお買いものする機会があったら是非ともリーフお兄さんのジャム専門店『リーフ・ドゥ・エル』に立ち寄らせてもらいますとも。

まぁその時は()()()()()じゃなくて、オンディール公爵家のお嬢様としてリーフお兄さんと会うことになるのだろう。

その際のリーフお兄さんがどんな反応を見せてくれるかちょっと楽しみだ。


「他にもどこか見て回るならクレフ預かっておこうか?」

「あっ、じゃあお願いします!」


ここでも預かってくれるという好意に甘えて、お願いすることにした。

工芸品の体験に行くのに荷物があると邪魔になるからね。


え?

スケッチブックは邪魔にならないのか、って?

これは最早私の一部とも言えるものだからちっとも邪魔にはなりませんことよ?


普通に小脇に抱えてちょこまかしておりますとも!

行く先々で描きたいものに出会ったらすぐさま色鉛筆を走らせることができるようにスタンバイしてますからね!


「じゃあ、工芸品体験に行こう!」

「うん!」


食べものメインの出店ロードから一つ向こうの通りへと進み、工芸品が並ぶエリアへと向かう私とレオくん。

さっきとはまた違う活気が漂うそこは、どこもかしこもキラキラしたものばかりに見えた。

マイヤちゃんに案内してもらった時はサラッと一通り見ただけだったけれど、こうしてじっくり見てみると、その一つ一つがものすごく輝いているのだ。


「エマちゃんが体験したいって言ってたのはどれ?」


通りを右に左にと視線を巡らせレオくんが問いかけてくる。

それに笑顔で返す私。


「えっとね、ガラス工芸品だよ」

「ガラス?」

「うん。キラキラしててキレイなんだよね~。特にね、色を散りばめたものがすっごく素敵で~……」


……と、話しているうちにその出店に着いた。

出店というよりは、工房の出張所みたいな感じだ。

体験のためのスペースが必要なため、この工芸品エリアでは一つ一つのお店が結構な大きさで構えてあるのだ。


「……ホントにキレイだ。エマちゃんが気になるのも納得した」

「でしょ? この一つ一つが手作りだっていうからスゴイよね!」

「うん」


置かれた様々なガラス製品はどれも魅力的で、これが一つ一つ人の手によって作り出されたものだと思うと『素晴らしい』以外の感想が出てこない。

この技術は宝だね。

前世でいう国宝的なアレだ。

生み出す人も宝、生み出されたものもまた宝、というやつ。


実は、兄さまのお誕生日のプレゼントにいいかもしれないと思って目を付けたのだ。

何が何でも自分の手作りにこだわっていた私にとって、このガラス工芸品の体験はもってこいであって。

それがこの催しの間でできるなんて最高だ。

しかも兄さまの不在も相まって、絶好の機会で最高のものに巡り会えたとも言える。

これを逃す手はないでしょう、そうでしょう。


「花瓶……」

「それ、キレイだよね。淡い紫と濃い紫が重なり合うような模様」

「うん。姉さまが好きそう……」

「レオくんのお姉ちゃんって、紫色が好きなの?」

「ん~……たぶん?」

「たぶんって?」

「はっきり好きって言ってたのを聞いたわけじゃないんだ。ただ、姉さまの目の色って、ぼくと同じ黒だけど、明るいところとかだと時々紫にも見えるから……」

「へぇ~……すごい。なんだか神秘的だね。見てみたらとってもキレイなんだろうな」

「うん! とってもキレイだよ!」

「もしかしたら、無意識のうちに自分の目の色と同じような色を選んでいるのかもしれないね」

「そうかもしれない。部屋に飾ってもらってる花も紫色のものが多いし……」


言われてみれば、最初にレオくんが選んでいたお花も淡い紫色のアヤメの花だった。

『好き』だという言葉にしなくても、自然と紫色に惹かれているのかもしれないな、レオくんのお姉ちゃんは。


そして、花瓶をじっと見つめたままでいるレオくんの目は、漆黒だけど時折光の加減で濃い青色へとその色合いを変える。

紫もそうだけど、この濃青色もキレイで素敵だ。


「お姉ちゃんが紫なら、レオくんは濃青色だね」

「えっ?」

「気づいてない? レオくんの目、光が当たると漆黒から濃い青色が滲み出るように見えるんだよ」

「そ、そうなの?」

「うん! 神秘的でとってもキレイ! レオくんも、レオくんのお姉ちゃんも、とっても神秘的で素敵な瞳をしてるんだね!」

「あ……う…………」

「レオくん?」

「………………ありがと」


掠れそうなくらいに小さな声で呟かれたのはお礼の言葉。


「…………嘘でも嬉しい」


そう言って、僅かに横を向きながら口元に手を当てたレオくんの顔は真っ赤で。

その姿がかわいらしく見えて、思わず小さく笑ってしまった。


「嘘なんかじゃないよ! レオくんの目はとってもキレイ! 素敵すぎて羨ましいよ! ずっと見つめていたいくらい!」

「うぅ~……ありがと、エマちゃん。ぼくも、エマちゃんのとろけるようなはちみつ色の瞳、すごくキレイだと思ってる」

「ありがと、レオくん!」


顔を赤くしたまま、私の目のことを褒めてくれたレオくんに満面の笑みを返す。

自画自賛じゃないけれど、私もこのはちみつ色した自分の目のこと、すごくキレイだと思うんだ。

そして大好き。

なぜかというと、大好きなロイアス兄さまとお揃いの色だから。

だから、この大好きな色を褒められると、大好きな兄さまのことを褒めてもらっているみたいですっごく嬉しくなるの。


『嘘でも嬉しい』とレオくんは言った。

それは私も同じなんだよ?



ガラス工芸品の出店の前で、互いに互いの瞳の色を褒め合っている私とレオくん。

そんな私たちを、通りを行く人たちが温かい目で見ていることに気づく余裕もないほどに、私はレオくんの色に夢中になり。

レオくんはレオくんで、真っ赤になりながら直接目が合わないよう私の視線から逃れようとあちこちに目線を彷徨わせるという、何とも奇妙な光景を作り出してしまったのだった。











妖精が見えているのでレオくんも結構な魔力持ちです!

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