マイヤちゃんと町めぐり
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サブタイ通りの町めぐりです♪
女の子の大半は甘いものが大好きですよね~ぇ(*´∀`*)
~マイヤちゃんと町めぐり~
来た時と同じようにマイヤちゃんに手を引かれながら、私たちはラバッツ準男爵のお屋敷へと戻っていた。
行きと明らかに違うのは、マイヤちゃんの顔が僅かに悲しそうな表情だったこと。
たぶんマイヤちゃんの中では、私を含めた四人で町の催しを楽しみたいという計画があったのだろう。
ケヴィンくんとのあの件がなければ叶っていたかもしれないちょっぴり先の未来があっけなく潰れてしまい、多少やるせない気持ちにもなっているんだと思う。
そうして、もう何度目になるか分からない謝罪の言葉がまたマイヤちゃんの口から零れ落ちるのだ。
「…………ゴメンね、エマちゃん」
弱々しい表情に八の字眉という、活発なマイヤちゃんには到底似つかわしくないその姿に、私が申し訳ない気持ちを強く抱いてしまったのももう何度目だろうか。
「気にしてないよ?」
『ゴメンね』の言葉を伝えられる度にそう返してきたけれど、マイヤちゃんの気持ちの部分では何度謝罪を繰り返しても足りないんだと思う。
人に気を遣いすぎる優しい性格なんだろうなというのがよく分かる言動なんだけれど、いつもそんなんじゃ、知らないうちにいっぱいいっぱいになって壊れちゃうんじゃないだろうか。
逆に心配になってくるよ。
「あのね、マイヤちゃん」
「うん」
「たぶんなんだけど、ね?」
「? うん」
「私がいてもいなくても、ケヴィンくんはあんな感じだったんじゃないかなぁ? だって、お兄さんであるジェフリーくんにもすっごく当たりがキツかったから」
「! ……それは」
否定しようとして一瞬だけ言葉に詰まったマイヤちゃんだったけれど、結局は否定できずに小さく頷いた。
「……そうだね。エマちゃんの言う通り、私たち三人だけでもケヴィンのあの態度は変わらない」
まぁそうだろうな。
マイヤちゃんが好きなケヴィンくんからしたら、ジェフリーくんが一緒にいるのは気に入らないだろうし。
そしてジェフリーくんを構うマイヤちゃんのことも気に入らないという、ね。
面倒くさい厄介な性格のケヴィンくんは、小学校の低学年くらいの年齢であるマイヤちゃんたちには扱いが少々難しいんじゃないかなぁ。
もう少し年が離れていたら、もっと軽くあしらってケヴィンくんのあの悪態を抑えるのも簡単だったんだろうけど。
「同じ年のエマちゃんが一緒だったらケヴィンも仲良くできるんじゃないかって、ちょっとだけ期待してたんだけどな……」
「あははっ! 思いっきり嫌われちゃったもんね~。睨みながら『余所者!!』って怒鳴られてさ~。まぁ、確かに余所者であることに違いはないんだけどね~」
「ホントにゴメンね。まさかケヴィンが力任せに手を叩くとか、そこまでやるとは思わなくって……。怪我、してない……?」
「平気だよ?」
「……でも、赤くなってる」
言われてみれば、確かに赤みが残ってるな。
ほんの少しだけではあるけど。
でもこの程度なら時間の経過とともに消えてくでしょ。
お父さまやロイアス兄さまが見たら思いっきり心配して慌てるだろうけど、幸いなことに二人は月の曜日までは邸にはいない。
オンディール公爵領にある港町の一つで新たに魔導帆船が完成し、その進水式に呼ばれているためだ。
実にいいタイミングで二人とも留守にしてくれたもんだと思ったけれどなんてことはない。
これにはお母さまが一枚噛んでいるのだ。
実は新型の魔導帆船の完成と進水式の日程に関しては前々から決まっていたのだけれど、当主であるお父さまが絶賛激務中のスケジュールの真っ只中にあったために、当初は式典の出席自体を見送る方向でいたらしい。
けれどその後、例の魔導事故が起きたことでお父さまが魔力中毒に陥り、強制的に『療養という名目の休暇』を長~く取らされたことで仕事のスケジュールは白紙状態に。
更にはロイアス兄さまの魔法の学習のために派遣された教師の適性に問題があると発覚したことから、兄さまの勉強スケジュールにも不都合が生じることとなった。
ちょうどその頃と合わせて、私もお母さまと一緒にこのクララットの催しに参加することが決まったため、お母さまとしては確実に何かを言ってくるであろう二人、曰く『うるさい男ども』を領地の公務へと押し遣ることで、この週末の間だけ邸から追い出したというわけだ。
領地までは馬車で半日ほどの道のりなので、昨日の朝早くから二人は邸を出発している。
当然ながら、昨日の私の社会勉強と称した『お店屋さんごっこ』のことも二人は知らない。
お金のお勉強のことも、お母さまが関わった使用人ズの皆さんに箝口令を布いたから、二人が帰ってきたところで漏れる心配はないのですよ、わはははは。
以上のことから、私が町娘と称してクララットの催しに参加したところで何の問題もないし、常識の範囲内であれば何をやってもうるさく言われる心配は全くないのである。
────いや~……自由って感じ?
────のびのびと羽根を伸ばしてめいっぱい催しを満喫してやんよ!
……とまぁ、こんな感じでオンディールの家族に関しては何の心配もいらないんだけど、マイヤちゃんとしてはそうはいかないのかもしれない。
一応、身分を隠しての催し参加ではあるけれど、最初に公爵家の娘として挨拶をした以上、マイヤちゃんから見た私はどんなに気安い態度で接したところで『対オンディールのお嬢さま』ということになる。
私に対するケヴィンくんの態度に怒ったのも、手を叩かれた時に顔が青褪めていたのもそのせいだ。
この後マイヤちゃんの口から、私がケヴィンくんにされたことを町長さんであるラバッツ準男爵に話されでもしたらかなり面倒なことになりそうだ。
たぶん公爵家のお嬢様に対して不敬がどうの~……まではいかないだろうけど、私に対して手を上げたことは確実にケヴィンくんの両親の知るところになると思われる。
そうなると親は叱るよね?
初対面の女の子に対して有り得ない態度を取っただけでなく、更には手を上げたときたら、さすがに親として息子に注意しないわけにはいかないだろう。
『家が商会を営んでいる』というジェフリーくんの言葉から察するに、それは想像に難くない。
いくらケヴィンくんが跡取りではないといっても、商家の息子が誰に対してもそういう態度で接しているという事実は『家』として見過ごせる問題ではないはずだ。
仮に、今まで叱られないことが当たり前だったというケヴィンくんが、今回のことを切っ掛けにご両親から酷く叱られたとしよう。
そこで反省して心を入れ替えてくれたらそれで解決するんだろうけど、あの相当な捻くれ具合のケヴィンくんのことだ、反省するどころか拗れる方向にしか向かわないような気がしないでもない。
そうなったら、ますます他人に対しての当たりが強くなるんじゃなかろうか……というのが今の私の見解だ。
その場合、真っ先に被害を被るのは、尤も身近な存在であるジェフリーくんであり、その次にマイヤちゃんだろうな……ということが容易に想像できる。
────私としては、叩かれたくらい全然大したことはないんだけど……
────でもなぁ……手が赤いままなせいで嫌な方向に拗れちゃうのはちょっとなぁ…………
────ただえさえ、マイヤちゃんもジェフリーくんも落ち込んでたのに、更に気落ちさせちゃうのは個人的に嫌すぎる…………
……いいや、治しちゃえ!!
そうして最初から何事もなかったかのようにしてしまえば二人がこれ以上嫌な思いをすることもなくなる!
“治癒術・水属式”
頭の中に浮かべた式を口に出して唱えたことで、水色の柔らかい光が私の両の手を包み込む。
治癒の魔法に触れたことで、手の赤みはあっという間に引いていった。
その様子を至近距離で見ていたマイヤちゃんが、驚愕で目を見開き私の顔を凝視している。
「エマちゃん、今のって……!」
「しぃ~……。ナイショだよ?」
口パクで『魔法……?』と問われ、私は笑いながら頷く。
手の赤みくらいだったら私のへっぽこ魔力でも十分治せる。
そう思ってやったことだけど、マイヤちゃんをかなり驚かせてしまって逆に悪いことをしちゃったかもしれない。
だけどマイヤちゃんは、最初こそ驚いたものの、笑って『すごいね』と言ってくれた。
へっぽこ魔力のしょぼい効果の魔法なのに、そんな風に驚いて褒めてくれるなんて、マイヤちゃんってホントにいい子すぎると思う。
「私もそろそろ習わなきゃいけないんだけど、自分にできるかどうか自信がなくって……。今年の社交シーズンでうちが男爵の位を受けるのと同じくらいの時期で色々と家庭教師に来てもらうっていうことを父さんが言ってたんだけど……考えるだけで気が重くなる。貴族って、勉強することがたくさんあって大変なんだなって……」
「私でもできてるんだから、大丈夫だよ」
「エマちゃんと私じゃ元々の土台が違うでしょ~?」
「えぇ~? 生まれた時はみんな同じ赤ちゃんなんですぅ~」
「そうかもしれないけど~?」
「ジンルイ、ミナ、ビョウドウ! コレ、シンリ!」
「あははっ、何それ!」
そうやってふざけあっているうちにマイヤちゃんに笑顔が戻ってホッとした。
噴水広場に来た時と同じように互いの手を繋いだままお屋敷の方へと駆けていきながら、段々と賑わいを増していく町の様子を伺う。
『向こうの通りは工芸品を扱っているお店が多いよ』とか『食べものや飲みものは一つ向こうの通り』だとか『向こうの広場は雑貨が中心かな』といった感じで、側を通りすがる度にマイヤちゃんが教えてくれる。
「後で一緒に回ろうね!」
「うんッ!」
「その前にお家のお手伝いがあるんだけど」
「私もお手伝いするよ! 刺繍のハンカチとかレース編みのコースターとかを並べるんだって」
「そうなんだ。リマさんのところで扱う品は毎年オシャレかわいいものが多いから見るのが楽しみ!」
うん。
私も見るの楽しみ。
実はどんな品なのか、私もまだ見てないんだよね。
お母さまから『当日まで秘密よ』なんて言われちゃったからさ。
そうしてマイヤちゃんのお家に着いて、一旦お別れして。
私たちはそれぞれのお家での催しの手伝いへと向かった。
午前10時きっかりに始まってお昼の鐘が鳴るまでの2時間ほどを慣れないなりに来てくれたお客さんと向かい合って過ごした。
ちなみに、店先に並べた商品の中に、私が欲しいと思って作ってもらうようにお願いしていたアームカバーなるものがちゃっかり混ざっていた。
町の奥さま方にアームカバーは大変好評だったようで、午前中であっという間に売り切れになりました。
これは昨日に引き続きの売れ行きで、お母さまも、お店のヘルプとして来ていたヴェーダとメリダも予想していなかったのだとか。
……とりあえず。
『売るくらい作れてたなら私のも作ってよぉ~!』と涙目でメリダに詰め寄ったのはここだけの話である。
この時の私はとにかくメリダに泣きつくことに必死で、そんな私の様子を微笑ましい顔でお母さまとヴェーダが見ていたことにも全く気づいてなかったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……さて。
大騒ぎした午前のお手伝い時間を終えたところで、笑顔のマイヤちゃんがお迎えにきてくれた。
お手伝いのお駄賃としてそこそこのおこづかいをもらえてご機嫌なのだと言う。
そんな私も、午前中のお手伝いで銅貨2枚分の2フォルを新たにおこづかいとしてもらったわけですが。
幼女の持ち金としては有り得ない金額に、更に上乗せされるという信じられない事態に。
5歳にも満たない幼女が日本円にして5500円相当をお財布に入れて持ち歩いてるってどうよ?
『有り得ない』以外に言いようがないでしょ?
でも現実はそうなっちゃってるからどうしようもない。
とりあえず、お金があるからといって無駄に使うようなことはしません。
何も分からない子どもだからと不必要にぼったくるような不届き者がいないとも言い切れないしね!
……さて、と。
まずはお昼ごはんです。
催しの間は出店での買い食いが醍醐味だという話なので、そちらを存分に楽しもうということになりました。
でも行く前にちょっとだけお腹に入れておきなさいということで、マイヤちゃんのお母さんお手製のサンドイッチをごちそうになりました。
素材の味が活かされているフレッシュなサンドイッチはおいしかったです。
互いに二つずつ食べ終わったところで出発します。
「マイヤちゃんはお母さん似だね」
「でしょ? よく言われる~」
「でも中身はお父さん似だと思う」
「それもよく言われる~」
ご機嫌に笑うマイヤちゃんは嬉しそうだ。
「父さんと母さんのいいところをもらったって思ってるからね、私!」
うんうん。
穏やかな人柄のお父さんと、勝ち気そうな美人さんであるお母さんのいいとこ取りをしたのがマイヤちゃんだってよ~く分かるわ。
「エマちゃんだってリマさんとよく似てるでしょ?」
「でも私、ママと違ってツリ目なんだよ? キツく見えるでしょ?」
「それくらい全然いいじゃない。ツリ気味の大きな目なんて、仔猫みたいですっごくかわいいと思うよ?」
「そ、そうかな……?」
「もっちろん! 私だってツリ目だしね~」
ストレートな褒め言葉にテレテレです、私。
将来美人さん確定であるマイヤちゃんに褒められるなんてすっごく嬉しい。
身内贔屓がない褒め言葉って、思いっきり心にズドンと響くじゃないか。
「それじゃ……オススメを食い倒しに行くぞ~!」
「おぉ~!!」
仮にも貴族の令嬢が言う言葉ではないけど、今の私たちはただの町娘二人だ。
それに誰も聞いてないからセーフ、セーフ。
互いに手を繋ぎ合って、食べものメインの出店が並ぶ路地へとまっしぐらなのです!
「最初のオススメはココ!」
「おぉ! ミルクボウル……?」
「そ! この町ではお馴染みの柔らかい焼き菓子なんだよ? おばさん、真ん中サイズの一つくださいな!」
「あら、マイヤちゃんいらっしゃい。もうお家のお手伝いは終わったの?」
「うん! これからエマちゃんに催しの案内をして回るんだ! あっ、エマちゃんはね、リマさんのところのお嬢さんなの」
「まぁまぁ、リマさんのところの! 可愛らしいお嬢さんねぇ」
「エマです。初めまして」
「初めまして、エマちゃん。楽しい催しだから、いっぱい満喫していってちょうだいな」
「はい!」
「まずはおばさんのところのミルクボウルから満喫してくからね?」
「一番手だなんて光栄ね。嬉しいからサービスしちゃうわ」
「わぁ……ありがとうございます!」
「ありがとう、おばさん!」
真ん中サイズのものを頼んだはずが、大きいサイズにサービスしてもらいました。
お値段もお手頃の15シェル(150円相当)でした。
サービスだから、これは真ん中サイズのお値段。
大きいサイズの正規のお値段は20シェル(200円相当)でござ~い!
一口大のこのミルクボウルは、口に入れるとふんわりとした食感で、数回ほど噛むと溶けるようになくなった。
味はミルク風味で、甘さもほんのり控えめ。
いくらでも入りそうな優しい味わいのお菓子だ。
前世の鈴カステラみたいな感じなんだけど、それよりももっともっと控えめな甘さかな。
食べやすいこともあって、マイヤちゃんと二人であっという間に完食しちゃいました。
ここはマイヤちゃんがお金を払ってくれたので、次のお店では私がお財布を出そうと思います!
────出させて……くれるかなぁ……?
続く二軒目のお店。
またまたスイーツ系であります。
見た目はミニクレープっぽいんだけど、中身は生クリームやホイップクリームではなく、チョコとかフルーツとかもなし。
入っているものはシンプルにフルーツのジャムだけ。
それも果肉が大きくゴロゴロ残っている状態に煮詰められたジャムだ。
こ、これは……
────お~い~し~そ~う~!!
そしてジャムの種類がとにかく多いこと、多いこと。
これは迷うね!
どれもこれも試してみたくなるくらいに豊富なんだもん。
サイズがミニサイズなのも納得だ。
『数で攻め落としてやるぜぇ!』というやつですな?
その見え透いた戦略、まんまと引っ掛かってやりましょうとも!
「マイヤちゃん、マイヤちゃんっ!!」
「でしょ、でしょ~!? 迷うでしょ~!?」
目をキラッキラ輝かせながらマイヤちゃんの手を取ってブンブン振る私に、得意げな顔で満面の笑みを見せてくれるマイヤちゃん。
言われるがままにコクコク頷くとマイヤちゃんは笑顔をキープしたまま恐ろしいことをサラリと言った。
「どれを食べようか悩むのがこのプチジャムクレフの魅力なんだけど……悩めば悩むほどズブズブと沼に沈むようにハマるのもまた魅力……」
「つまり……?」
「プチジャムクレフだけでお財布スッカラカンにする人が結構な数いるってこと」
早い話が、全制覇したいがためにここで所持金の全てを放出する人がそれなりにいるとのことだ。
1個1個の値段は8シェルという優しい値段だけれど、数十種類ものジャムを使っているこれらを全部買うとなると相当な金額になる。
一種類につき1個ずつ買うとも限らないしね。
────それにしても、プチジャムクレフかぁ……
クレープの変化形的な名称だな。
見た目はまんまちっちゃいクレープなんだけども。
……さて。
どの味のクレフを堪能させてもらおうか。
いっぱいありすぎて迷うわぁ。
「迷いすぎるとクレフの誘惑に負けて罠にかかっちゃうからね?」
「うぅ……っ!」
「直感でササッと決めちゃうのがいいんだよ」
「そ……そうだね」
優柔不断は不利というわけだね。
即決力、大事!
「木苺とオレンジくださ~い」
「う……あ~……、私は……桃とアプリコット! お願いしますッ!」
木苺とオレンジを頼んだのはマイヤちゃん。
私は桃とアプリコットだ。
他にも色々気になるものだらけだったけど時間をかけるのは危険だ。
また次の機会があればその時に試せばいい。
「お互いに違うもの選んだことだし、半分こずつしよっか? そしたら四種類の味を楽しめるよ?」
「うんっ!」
シェア大歓迎です!!
こういうのって、ホント楽しい。
きっとおいしいものがもっとおいしく感じる特別な時間になるね。
さっきミルクボウルを買ってもらったのでここの支払いは私が……と思ったんだけれど、マイヤちゃんに止められてしまった。
どうやらここでの支払いもマイヤちゃんが持つ気でいたらしい。
だけど買ってもらってばかりなのも心苦しいので、私の分をマイヤちゃんが、マイヤちゃんの分を私が支払うことで落ち着いた。
互いが互いに買ってあげるというのが一番平和的に収まるという結論があっさりと出たからだ。
ちなみにマイヤちゃんの所持金は、お手伝いでもらったお駄賃とおこづかいを合わせて10フォルだそう。
日本円にして1万円相当……もうすぐ8歳だという女の子が持つにはやっぱりおかしすぎる額だと思う。
前世を基準に考えたら、お年玉でだってその額もらってるかどうか怪しいよ?
この世界の子どものおこづかい事情ってどうなってんだろうね?
ホンット、謎だらけで混乱しちゃうわぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おいしかった!」
「でしょ~! もっと食べたくならない?」
「なるっ!」
「でもこれ以上プチジャムクレフの魅力に取り憑かれちゃったら他のものが楽しめないから追加はナシにしておこうね?」
「……うん」
早くも別の味に目移りしかけた私の様子にいち早く気づいたマイヤちゃんに手を引かれて、クレフのお店から離れることに。
いや~、スイーツの誘惑ってどうしてあんなにも抗いがたいんだろうね?
離れてもチラチラ振り返っちゃうくらいに、お預けが辛く感じる。
でも今はそれ以上に……
「喉が渇いてきたから何か飲みに行こっか?」
「うんっ!」
まさに何か飲みたいと思ってたところだったのですんなり頷く。
次もまたマイヤちゃんのオススメの何かなんだろう。
ハズレがないから大いに期待できる。
「こっちだよ」
そうして再び手を引かれ、連れて行かれた先は果実水を売っているお店だった。
これまた種類が多くて迷う。
とりあえず、甘いものを食べたあとだからさっぱりしたのがいいかなと思ってレモンを選んだ。
マイヤちゃんはりんごを選んだみたいだ。
ここでもまたお互いのものを買うという形で支払いを済ませ、少し離れた場所に設置してあるベンチに腰かけながら休憩することにした。
それにしても……
「賑やかだなぁ……」
「すごい人でしょ?」
「……うん」
人混みに疲れたとか、別にそんなことはないけど、改めて人の流れを目にすることで圧倒されてしまう。
クララットはそこまで規模が大きな町ではないけれど、王都に隣接しているだけあって色々な面で豊かだ。
人もそう。
物資もそう。
何よりも活気があって、町の人たちの表情はとても明るい。
訪れた人たちもまた同じ。
これだけ人の流れがあるのに、争いだとか諍いとかは全くなく、治安そのものがすごくいいと言える。
『平和だなぁ……』というのは、こういう日々の営みがしっかりとしているこの町があってこそなのではと思えてくるほどだ。
レモン水をちまちま飲みつつ、人の流れを見つめる。
隣に座るマイヤちゃんも同じように活気ある町の様子を眺めていた。
「……催しって、すごいね」
「ん?」
「町そのものが生きているみたいに見えてくる」
「そうだよ? クララットの町に住む人たち皆で、クララットという町を成長させていってるの」
なるほど。
だから、町が生きていると思えるのか。
不思議な感じなのに、どこかそれが当たり前のように思えてくるからまた不思議だ。
「私はね、エマちゃん。このクララットの町が大好き。生まれてきたこの町を誇りに思ってる。だから……クララットの町長の娘として、もっともっとこの町を成長させたいって思ってる」
「マイヤちゃん……」
「エマちゃんにも、クララットの町を好きになってほしい。この催しを切っ掛けに、クララットのいいところをたくさん知って、もっともっとクララットを好きになってもらいたいの」
真っ直ぐに見つめてくるマイヤちゃんの瞳がキラキラ輝いている。
まだ幼いけれど、マイヤちゃんも立派な為政者の一人なんだなって感じた。
町長の娘として負うべき責を、この年にして既にマイヤちゃんは知っていて、更にはちゃんとそれを理解しているのだと思う。
だからこそのこの言葉なのだろう。
「……私は」
「うん」
「この町が、好き。今日初めて来た町だけど。こうやってマイヤちゃんに催しのことを教えてもらって、あっという間にこの町が大好きになった。だから……また、この催しを楽しみたいって。いっぱい、いっぱい楽しみたいって、そう思ってる」
今日だけじゃなく、明日も催しには参加するけれど、今言った言葉は今日明日という近日を指してのものじゃない。
来年、再来年、更には次の年……というように、先が続く限り関わっていたいという意味だ。
「……また、来たいな。ママがやっているように、今度は私も催しに関わることをしてみたい」
「やろうよ! エマちゃんが嫌じゃなければ! お家のお手伝いだけじゃない他の何かを……子どもの私たちでもできる何かを一緒にやろうよ」
「……うん!」
現実的には難しい話なんだとは思う。
だけど、大事なのは『何かをやろう』と思うその気持ちなんじゃないかな。
だから私は『できたらいいな』という思いを込めてマイヤちゃんに頷く。
「じゃあ……もっともっとエマちゃんにクララットのいいところを知ってもらうために、いっぱい連れ回しちゃうよ?」
先に立ち上がったマイヤちゃんに手を引かれて私も立ち上がる。
「オススメのお店はまだまだこんなものじゃないんだからねッ!」
勝気に笑うマイヤちゃんに頷き、私はおとなしく連れ回されることを選んだ。
今日のマイヤちゃんはホスト側で私はゲスト。
そんな立ち位置でクララットの町をプレゼンしてもらうのだ。
その後もマイヤちゃんに連れられるままに様々なお店をめぐった。
町の端から端までを一通り見て回ったのだけれど、じっくり見るのではなく通りすがりながらさらっと見ては次へ行く……という感じだったため、思っていたよりも時間はかからなかった。
ただ、見て回った大半のお店が食べもの関連だったことはご愛嬌。
食指が動いたら即購入でその場でおいしくいただきましたとも。
まぁ子どもだしそんなものだよね。
花より団子と言うにはちょっと違うけど、幼いうちは何よりも食欲が勝る傾向にあるんだと思う。
────しかし、まぁ……母親の目ってすごいもんだわ……
こうなることを見越してマイヤちゃんのお母さんは出店を回る前に私たちに軽食を摘ませたのかもしれない。
何せ、出店を回り出してからの私たちはものの見事に甘いものしか口にしていないのだ。
軽食のサンドイッチがなかったら、私たちの昼食は全部おやつで賄われていたこと確実だね!
さすがにこんな年齢ではそんなお腹の満たし方はアウトだ。
サンドイッチがお野菜たっぷりのヘルシーフレッシュなもので本当によかったよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はふぅ~…………お腹いっぱい」
「うん。めいっぱい食べたもんね~……」
最初に行った噴水広場で再び休憩なう。
今日のメインは食べ歩きです。
いくらお腹がいっぱいになったといっても、まだまだ食べていないものはたくさんあるのだ。
だけど……これ以上は無理!
甘いものは別腹とは言うけどそれにも限度ってものがあるのですよ。
「うぅ~……チョコバナナは食べたかった」
「ね! 入るんだったら食べたかったよ、私も」
そう。
なんとチョコバナナなるものを発見したのだ。
それだけじゃなく、前世でのお祭りの露店を彷彿とさせるりんご飴やふわふわ綿飴までも発見してしまった。
あまりの懐かしさに食べたい気持ちがみるみるうちに上がっていったんだけど、残念ながら満腹になってしまったお腹はこれ以上食べることを受け付けてくれませんでした。
ちくせう!!
「う~ん……どうしようか? じっとしててもつまんないよね? 工芸品エリアに行って体験でもしてくる? エマちゃん何か気になるものあったみたいだし」
「ん~……それやったらちょっとくらいお腹空いてくるかな?」
「どうだろう? とりあえず今はまだ動くの辛いよね? もうちょっとだけ休憩して、落ち着いたら工芸品エリアに行こっか?」
「うん!」
しばらくの間は噴水広場に留まることが決まった。
ちょこまかと移動していた間は無理だったけど、一時的とはいえ一箇所に留まる時間ができたことで、私は『ようやっと出番が来たよ!』とばかりに小脇に挟んでいたスケッチブックを開く。
家で普段使いしているものの半分くらいのサイズの新品だ。
いつだったか、外出した時のちょっとした空き時間に使えるものが欲しいと言ったらエルナが買ってきてくれたのだ。
エプロンのポケットからもミニ色鉛筆セットを取り出し、サラサラと描き始めたのはこの町のシンボルでもある時を知らせる鐘つきの時計台だ。
短時間で夢中になりながら色鉛筆を動かす私の手元をじっと覗き込むマイヤちゃん。
『上手だね』という短い褒め言葉に笑顔を返し、再び目はスケッチブックと時計台との間を行ったり来たりする。
簡単ではあるけれど、数分ほどで時計台を描き終えた私が次に描き出したのは、出店で食べものを売っている場面だ。
こればかりは人の動きがあるので、お店の外観以外は頭の中でイメージを補っての描写となる。
ちなみに、私は目に焼き付けた光景を絵に起こすのは得意だったりする。
それは前世の頃からだ。
こうやって生まれ変わってまでこの特技が受け継がれるなんてラッキーだな、なんて思いつつサラサラとスケッチブック上に色鉛筆を走らせていく。
出店の様子も描き終えて、次に手を出したのは今私たちが寛いでいる真っ只中の場であるこの噴水広場だ。
レンガ状の四角い石を敷き詰めて造られたこの噴水、周りを取り囲むように花壇が誂えてあって、そこにはたくさんの色鮮やかなパンジーが一面に咲き誇っている。
まさに絵にするには最高の光景であり、描くにも気合が入るというものだ。
スケッチに夢中になる私を、マイヤちゃんは特に何を言うでもなく見守ってくれている。
それに甘えて、休憩の間中はスケッチに専念することにした。
マイヤちゃんには今日のお礼に描いた絵のどれかをプレゼントしようかと思っている。
幼女の趣味で描いた絵でよければ……だけどね。
そんな私の心の声が届いたのか、マイヤちゃんから『これを描いてほしいな』というリクエストをもらった。
私が日頃からよく描いているお花だった。
もちろん喜んで描いちゃうよ!
それでこれを今日案内してくれたお礼にあげちゃうのだ。
……あ。
どうせだったら、一度オンディールのお邸に帰ってキレイに仕上げたものをプレゼントとして明日渡したいかも。
うん、そうしよう。
とりあえず、今はリクエストに応えることで己の手を慣らしておくのだ、ふふふふふ。
そうして。
時々マイヤちゃんと言葉を交わしつつスケッチをしている間に、15時の鐘が鳴った。
食べすぎて苦しかったお腹もだいぶ楽になってきた頃、通りの向こうから駆けてくる人影が。
「……マイヤ!」
「ジェフ!?」
「よかった……ここにいたんだね」
やってきたのは午前中にちょっと顔を合わせたきりで別れることになってしまったジェフリーくんだった。
ケヴィンくんの姿が見えないことから一人でここにやってきたことが分かる。
「どうしたの? 何かあった? まさかまたケヴィンが……?」
────おいおい……
────マイヤちゃんの中では何かやらかすことが前提になってるぞ、ケヴィンくんや……
あの子、一体今までどのくらいのことやらかしてきたんだ?
全くの赤の他人でありながらちょっと心配になってきちゃったよ。
余計なお世話かもしんないけどさぁ。
「ケヴィンのことなら心配しないで。エマに手を上げたことに対して母さんからこっ酷く叱られただけだから」
「叱られたんだ……」
「そりゃあね。初対面の女の子に手を上げるだなんてとんでもないことだよ。リマさんのところのお嬢さんだって分かった時の母さんの顔からして、かなりキツく叱ったみたいだ」
「あ~……そう、だね……」
マイヤちゃんの反応は見なかったことにしますよ?
今のワタクシめは公爵令嬢ではござんせん。
ただの町娘……そう、ただの町娘たる5歳手前の幼女の一人なのですた。
「それで、その……大丈夫だったの、ケヴィンは……?」
心配そうなマイヤちゃんの言葉に対し、ジェフリーくんは眉を寄せたまま無言で首を振るという反応を見せる。
「ダメだね、あれは。全然反省の色が見えない」
「……ってことは」
「母さんから叱られたこと自体に反発して部屋に閉じ籠もったよ。ああなったら夜まで出てこない」
「完全にいじけちゃったわけね」
「そう。ああなったケヴィンには構うだけ無駄だから出掛けていいって兄さんから言われて。それでマイヤを探してた」
「そっか……そうだったんだね……」
「うん」
向かい合う二人を見て思う。
元々ちゃんとした約束をしていたわけじゃないけれど、二人一緒にいることが当たり前のことになっちゃってて、それが自然な形なんだろうなって。
ま、要するに朝にも思ったとおり、マイヤちゃんとジェフリーくんの間に、私の存在はお邪魔虫なわけですよ。
というわけで、お邪魔虫は空気を読んで身を弁えるのでございます。
「マイヤちゃん、マイヤちゃん」
「ん?」
クイクイとマイヤちゃんの袖を引き、ジェフリーくんと二人で催しを楽しんでもらえるように提案すると驚かれてしまった。
……なんで?
「私だってジェフと一緒に回りたいけど……でも、そうしたらエマちゃん一人になっちゃうじゃない」
そりゃそーだ。
だってそのつもりで提案してるんだし、私。
「私は別に一人でも平気だよ? 私とそんなに変わらないくらいの年の子が一人であちこち行ってるのも珍しくないみたいだったし」
「それは、まぁ……そうだけど……」
言い淀むマイヤちゃんに更にダメ押しをする。
「それとね。私は二人とは一緒にいないほうがいいと思うんだ。あとになって揉めごとの原因になった私が一緒にいたってことをケヴィンくんに知られちゃったら、もっともっと面倒なことになりそうなんだもん。ケヴィンくん、ジェフリーくんに対してものすごく当たりが強かったし」
「……あ~。あれはいつものことだから、僕としては別にいいんだけどね」
「よくないよ? だって、ジェフリーくんだけじゃなくて、マイヤちゃんに対しても同じなんだもん。私ね、これ以上私のせいでケヴィンくんの機嫌を損ねて、二人に嫌な思いをしてほしくないんだよ」
ちょっと困ったような表情を作って切々と訴えると、案外二人はあっさりと折れてくれた。
それでも、私を一人にしてしまうことをひどく躊躇っていて、申し訳なさそうな表情が消えることはない。
────う~ん……最後の一押しいっとく……?
再びクイクイとマイヤちゃんの袖を引き、内緒話をするような仕草を見せるとマイヤちゃんが私の口元に耳が届く位置まで軽く頭を下げてくれた。
その耳元にコソッとある言葉を呟くと、瞬時にマイヤちゃんの顔がぶわわっと真っ赤に染まった。
「え……エマちゃんッ!?」
「そういうわけだから……ねっ?」
「『ねっ?』って言われても……!」
「ほら、夕方になったらママのところにちゃんと帰るし。その時にまたマイヤちゃんとも会えるでしょ?」
「そうだけど……」
「じゃあ、決まり! ジェフリーくん、マイヤちゃんと一緒にいっぱい楽しんできてね?」
「あ、うん……けど、本当にいいの、エマ?」
「いいよぉ~。私は私で気になってたガラス工芸品の体験見てくるつもりだし」
そう。
工芸品エリアで私が気になっていたのがガラス工芸品作りの体験なのだ。
あれは結構な時間がかかりそうなので、ここは別行動のほうがよさそうだと私は踏んでいる。
「そういうわけだから。二人とも行ってらっしゃ~い!」
二人の背中を同時に押すと、チラチラこちらを覗い気にしつつも二人は連れ立って歩いていった。
「……ふむ」
『デートだよ、マイヤちゃん! ジェフリーくんとのデート!』
この言葉を告げた時のマイヤちゃんの反応からして、私の取った行動は間違いじゃなかったと自信を持って言える。
余計なお節介かもしれないけど私はち~っとも後悔なんてしてないぞ、っと。
まだ『恋』が何なのかよく分かっていないような年頃の初々しい恋の始まり……超絶かわいいじゃないか。
ケヴィンくんには悪い───なんてことは微塵も思わないけど、私はマイヤちゃんとジェフリーくん、二人の仲をこっそり応援してるからね?
お見合いおばさんよろしく『いい仕事をしたぜ……』なんて自分で自分を褒めながら、私は噴水の縁へと腰掛けた。
今移動したら二人の跡を付けちゃうことになりそうだから、もうちょっとしてから工芸品エリアに行くことにしよう。
「……とりあえず、あと5分ほど絵を描いて時間を潰そうかな」
そう一人呟き、再びスケッチブックを開いたその時だった。
噴水の水が奏でる音とは明らかに違うリズムで『パシャリ!』と控えめにだけど強く水を弾いたような音がすぐ側で聴こえたのは。
「ん~……?」
────明らかに手元近くだったよねぇ……?
そんな思いで何気なく振り返った先。
私は信じられないものを見た。
それは、誰が見ても分かるほどに慌てふためいた様子の『下半身だけが人魚のような、全身淡い水色を帯びた』小人さん───もとい”水の”妖精。
そしてなぜか。
その”水の”妖精は何かを訴えかけるかのように、噴水の縁に腰掛けた私へと向けて忙しなくバチャバチャ水を弾きながらあわあわと狼狽していたのだった……─────
マイヤちゃんがとっても書きやすくて大好きです♪




