ドラグニア王国のお金の価値を知りましょう!
いつも閲覧、ブクマ、評価とありがとうございます(о´∀`о)
「さあ、更新するぞ!」という日に限ってなぜかパソコンの調子が悪くなるという……(ーー;)
呪われてでもいるんですかねぇ???(笑)
~ドラグニア王国のお金の価値を知りましょう!~
……気分はドン底の絶望状態でも相変わらずごはんはおいしいです。
フローレン・エマ・オンディール、もうすぐ5歳。
ただいま心の中で盛大に涙の雨を降らせながら、それを慰めるようにおいしいごはんを只管にお腹の中に収めていっております。
早い話が『食わなきゃやってらんねぇぜ』状態なのです。
つまりはヤケ食いですね。
うぅ~……ホントに泣いてもいいのなら泣きたい。
今日の魔法の練習は一切禁止だなんて酷いよお母さま。
私が魔法大好きだって知ってるはずなのに、にっこり笑顔で『ダ・メ・よ?』だなんて、それ何ていう死刑宣告。
今日のお昼のメニューである甘さ控えめパンケーキをリスみたいに頬がパンパンに膨らむまで詰め込みながら据わった目をしている私は、傍から見たら酷い顔をしていることだろう。
完全に拗ねて、行儀もマナーもへったくれもない私の食事の様子を見ているエルナはただただ側に控えたまま苦笑するばかりだ。
「……ずいぶんとお疲れのようですね、フローレンお嬢様」
午前中のあれやこれやを誰かから聞いたのであろうエルナが労ってくれるも気分は晴れない。
それだけ今の私には言い渡された『魔法練習禁止令』が堪えているのだ。
「……違う。疲れるのは別にいいの。お母さまや皆から着せ替え人形にされることはもう諦めた……」
「あらまあ……」
「そんなことより、魔法の練習するのはダメだって言われたことのほうがキツいよ……」
そう言うと同時にテーブルの上に突っ伏した私をエルナが咎めることはしなかった。
咎めるどころか、そんな私に同情して寄り添ってくれたくらいだ。
「フローレンお嬢様は魔法が大好きですからね。さすがに禁止を言い渡されるのはキツかったことでしょう」
「そうなの!! 分かってくれる!? 瀕死の一撃を負わされた気分なんだよ!!」
ガバリと勢いよく顔を上げた私を見てまたまたエルナは苦笑する。
「ええ。お嬢様のご様子を見ていたらよ~く分かりますわ。先ほどからお食事のマナーが全くなっておりませんものね? それだけ奥様から魔法の禁止を言い渡されたことが堪えていらっしゃるのでしょう?」
「うぅ……ゴメンなさい……」
「ふふっ。今日のことは見なかったことにいたしますわ。とても集中できる状態ではなさそうですから」
本当だったらビシバシと厳しく指摘して叱るのが当たり前のところだ。
なのにエルナは見逃してくれている。
それだけ今の私の状態が『見てられないくらいに酷い』のだろう。
……うん、自分でも分かってる。
「ただ……奥様のお気持ちを考えると、お嬢様に魔法の練習を禁じられるのも無理はないかと」
「……そうだね」
昨日の池ボチャ事件が原因なのは分かってる。
それでもちょっとくらいは……っていう気持ちがあったから余計にダメージを受けちゃっただけの話で。
「災難でしたわね」
「…………うん」
「”風の”がとても気まぐれな性格をしているのは知っておりましたが、まさか自ら人間に接触して何らかの行動を起こすなんて思いもしませんでしたわ。普段は人の目に触れないように、影からチラチラと様子を覗っていることが殆どですのに。珍しいこともあるものですね……」
「え……?」
────影から、チラチラ……?
それって……
「エルナ!」
「はい?」
「もしかしてエルナ、妖精の姿が見えているの!?」
「ええ、視えておりますよ。基本的に妖精たちはあまり人前に姿を見せることがありませんので、たまたま居合わせた時に運が良ければ視界に入れることがある……という程度ですね」
見える以前に遭遇率の問題なのか。
「でも! いたらちゃんと見えているんだよね?」
「はい。オンディール公爵家にお世話になるようになってからは、”水の”をよく見かけるようになりましたね。それでも妖精たちは基本的に姿を現すことが少ないですから、見かける機会自体がそう多くないのが現実ではありますけれど」
妖精が姿を現してくれさえすれば、エルナにはその姿が見えている。
……となると。
昨日からずっと気になっていたことが確かめられる。
「ねえ、エルナ。エルナの魔力はどのくらいあるの?」
「私の魔力量ですか?」
「うん」
「そうですね……正確な数値となるとハッキリとは分かりませんが、上級寄りの中級程度……といったところでしょうか? こう見えても、一応中級の水魔法と初級の氷魔法を扱えますので」
「すごい! 氷魔法って水魔法の上位属性なんでしょ?」
「はい」
「それって、上位属性を使えるようになるための条件とかあったりするの?」
「……どうでしょうか? 私の場合は水属性を扱っているうちにいつの間にか扱えるようになっていましたので、どういった条件の下で使えるようになるのかまでは分かりません。その辺りは王立魔法学院に入られてから専門的に学べるようになるかと。学院には魔法科という専門学部がございますので」
「そっか……」
……ん?
エルナ今、学院に入ってから学べるって言ったよね……?
「あれ? エルナって今歳いくつだっけ?」
「? この春に16になりましたが。それがどうかいたしましたか、お嬢様?」
「……どうって。エルナの実家は確か伯爵家だって言ってたよね?」
「はい」
「じゃあ、エルナは今、学院に通ってないといけないんじゃないの? 確か王立魔法学院って、その年に16歳になる貴族家の子息子女は全員学院に入らなきゃいけないはずだよね?」
「基本的にはそうですね。ただ……絶対に学院に入学しなければならないわけでもないんですよ。通例では学院に通うことは貴族家の子息子女の義務とされていますが、例外的に入学しない者も少数ではありますが存在していることも確かです」
「それならエルナは……」
「その数少ない例外にあたりますね」
「……どうして?」
純粋に疑問に思って問いかけたその答えは、ちょっとだけ困ったような表情とそれに引き摺られるようについてきた苦笑だった。
理由は、聞けなかった。
エルナが何も言ってくれなかったから。
言いたくないのか。
それとも言えないのか。
浮かべた表情と苦笑からは何も読み取れなかった。
ただ分かったことは、これ以上は訊いちゃいけないんだろうな……という、直感的な何かだった。
だから、これ以上その話題を続けるのはやめて、違う話題を振ることにした。
実はもう一つ気になることがあったのだ。
それはあの怒濤の午前中のこと。
お母さまを筆頭とした使用人ズの女性陣たちによる『エプロンデザイン合戦』のメンバーの中にエルナの姿が見えなかったのだ。
こういったことには嬉々として参加するはずのエルナがいなかったという事実が不思議でしょうがなかった。
それはエルナだけでなく、メリダも同様だ。
私の専属であるはずの二人がおらず、他の女性陣が押し寄せるとか疑問に思わないほうがおかしいと思わない?
「エルナは午前中はどこにいたの? メリダもいなかったし……」
「クララットの町に行っておりました。メリダさんも一緒です」
「二人で町に? 何しに行ったの?」
「明日と明後日の下見と行ったところでしょうか。奥様とクララットの町の催しに参加されるのでしょう?」
「!」
そうだった。
土の曜日と日の曜日の二日間参加することに決めてたけど……もう明日に迫ってたのか。
色々ありすぎてすっかり忘れてた。
「催しは本日からの開催ですので、町の様子を見てまいりました。お嬢様が回られる際に不適切な場がないか、警備面での安全は納得いくものになっているか。そういった点を中心に一通り見て回ってきたんです」
「そうだったんだ。催しはどんな感じだった?」
「とても賑わっておりましたよ。始まって早々に町が活気づいて、クララットの催しがかなり人気のある催しであることが十分に窺えました」
「うわぁ~……明日が楽しみになってきた!」
俄然テンションが上がってきた。
思い出すのは前世でのお祭りだ。
まぁこちらでは、お祭りというよりフリマのほうが内容的には近いのかもしれないけど。
「警備の面もしっかりしているようでした。町の自警団員の方が巡回していますし、訪れた人々も安心して催しを楽しめていたようです。子どもだけで出店を回っても大丈夫なようでしたから、万が一お嬢様がはぐれて一人になったとしてもすぐに自警団員の方に保護してもらえるかと思います」
「…………そうだね」
まぁ、私のことだからお約束的にやらかすだろうし、そこに関しては『はぐれないし!』とか言えない。
まずはぐれて迷子になるまでがセットだと思ったほうがいい。
「それから……」
「?」
「明日はこれをお持ちくださいな」
「あ! かわいいクマさん!」
差し出されたものはかわいらしいクマさんのデザインのポシェットだった。
「お嬢様にはちょっとした社会勉強のためにお買いものを経験してもらうと聞いています。後ほど奥様からお財布を渡されるかと思いますので、明日はこれにお財布を入れて持って行ってくださいね?」
「ありがとう、エルナ」
いかにも幼女らしいポシェットだと思う。
(自画自賛がすぎるとは思うけど)フローレンはめっちゃかわいいから、このポシェットをかけた姿はさぞかし似合っていることだろう。
明日どんな服装で出掛けるかはまだ分からないけれど、ちょっと楽しみになってきた。
「ちなみにメリダさんは、明日と明後日にお嬢様がお召しになるワンピースを見繕ってくれていますわ」
「本当?」
「ええ。お嬢様がご希望の、エプロンを着けられる可愛らしいデザインのものを目下吟味中でいらっしゃいますから期待していてくださいね?」
「うん! 楽しみにしてる!」
「メリダさんにそのお言葉しっかりとお伝えしておきますね」
私の反応を見て満足そうにエルナは頷く。
メリダに任せていれば明日と明後日の服装は何の心配もなさそう。
なんて言ったって今私が着ているワンピースもメリダが選んでくれたものだし。
ちゃんと『私好みで動きやすい』ものを見繕ってくれることだろう。
頭の中がそんな楽しみにシフトしてきたところでだいぶ気分も浮上してきた。
食べかけだったパンケーキを先ほどとは真逆の丁寧な手つきでキレイに食べ終え、ぐだぐだに引き摺っていた昼食タイムを終了させる。
それと同時にエルナが食後のお茶を出してくれた。
「ありがとう、エルナ」
「恐縮ですわ」
困ったような表情とともに向けられた苦笑顔を見たことで『使用人に対して雇い主側がお礼を言うのはやっぱり普通じゃないのかな』ということを感じ取る。
私が『ありがとう』とお礼を言う度に、言われた皆が『申し訳ない』『畏れ多い』って言い出しそうな顔してるのが分かる。
……でも。
そこは慣れて?
何かをしてもらって『ありがとう』と言うことをやめるのは、私にはきっと無理だから。
自分勝手な考えを押し付けているみたいでこっちのほうが申し訳なく思うけれど、それでもやっぱり譲れないことはあるんだ。
私にとってのそれが『お礼を言うこと』なだけ。
最低評価のワガママお嬢様から脱却するために最も必要なことがそれだと思ったから『感謝の気持ちは素直に伝えなきゃいけないね』っていうルールを自分の中で定めただけにすぎない。
もちろん『ゴメンなさい』だって大事だよ?
でも言われる側としては『ゴメンなさい』よりも『ありがとう』のほうが胸が温かくなるんじゃないかなって。
私はそんな風に思ってる。
だって私自身がそうだから。
だから、いつか皆にもそんな風に思ってもらえたらいいなって思うんだよね。
「ねえ、エルナ」
「はい、お嬢様」
「私ね、今日のお昼から魔法の練習をするって予定を立ててたんだよね。ホントは午前中もだったんだけど。お母さまからダメって言われたから、なくなったその予定は何で埋めるべきだと思う? やっぱりいつも通りのお絵描きかな? お母さまからのマナーのお勉強は元々予定には入ってなかったし」
そう。
お母さまから魔法の練習禁止令が出たことで私の今日の午後のスケジュールはスッカスカになってしまったのだ。
「そのことですが。実は奥様から特別な学習をする旨を伺っております」
「特別な学習って?」
「明日の催し参加に備えて必要な学習だと聞いております」
「……何だろう?」
「きっとお楽しみいただけると思いますよ。魔法のことでがっかりさせてしまった分、楽しく学んでほしいと仰られていましたので」
「エルナがそう言うってことは、どんなお勉強なのかお母さまから聞いてるってことだよね?」
「はい」
「何を勉強するの?」
「それは見てのお楽しみですわ」
柔らかくも意味深なエルナの笑みから察するに、これ以上訊いたところでムダだろう。
勿体つけて秘密にするということは、それなりに私が楽しんで学べるという絶対的な自信があるからだと窺える。
お母さまが自信満々でそう断言したんだろうな。
「さあ。午後の学習の準備をいたしましょう」
「着替えないよ?」
「ええ。本日のお嬢様のお召し物は全てお嬢様の希望に沿っているものだとメリダさんから伺っていますので、着替えられたくないのでしたらそれに従うまでですわ。とりあえず、エプロンはつけましょうね?」
「えっ? もうできてるの?」
「できあがっておりますよ。お針子メイドがかなり張り切っていましたので、あっという間に一着縫い上げたのだとか。よほどお嬢様につけていただきたかったのでしょうね」
────……どんだけ気合い入れてくれちゃったんだろう?
けど、さっそく身につけられるというのは嬉しい。
メイドさんたち、どうもありがとう!
……それから。
歯磨きをして、午後のお勉強の準備にメリダができあがったばかりのエプロンをつけてくれた。
真っ白な布地に、避けられなかったフリフリのたっぷりフリルと結びの大きなリボンのやつ。
ピンクじゃないにしても『羞恥心に殺されそう……』という思いで戦々恐々と姿見の自分を覗き込み。
直後、ホッとした。
────よかった……まだ見れるほうだ…………
かわいらしいフローレンの容姿に感謝だ。
似合っていることに救われたよ。
「よくお似合いですよ、フローレンお嬢様」
「……うん。似合うもので本当によかった」
「ふふっ。皆お嬢様に似合うものしか作りませんよ。似合わないわけがありません」
「…………フリフリのフリルとリボンがいっぱいのピンクのでも?」
「もちろんです。お嬢様はピンク色を敬遠しがちのようですが、ピンク色のお召し物もよくお似合いになりますよ?」
「……そうかなぁ?」
「信じ難いようですね。一度ピンク色のお召し物を着られた姿をご自身の目で見ていただけたら納得できるかと思いますよ?」
あ~……百聞は一見に如かず、ってやつか。
「でもねぇ…………」
「それでは試しに晩餐の時のお召し物をピンク色のワンピースにしてみましょうか?」
「えぇ~!?」
「大丈夫ですわ。本当にお似合いになられますから」
ニコニコ笑顔でそう言うメリダだけれど。
でもやっぱり『自分がピンクだなんて……』という気持ちは強い。
成人した記憶持ちの私にとってピンクは鬼門であり羞恥心の象徴でもあるのだ。
「騙されたと思って……ね?」
「うぅ……ホントに大丈夫?」
「もちろんですわ。誓ってお嬢様に嘘など申し上げません」
「…………じゃあ、試してみる」
「はい」
「でも!! 鏡見て『有り得ない!!』って思ったらすぐに今着てるコレに戻すからね!?」
「はい、かしこまりました」
苦笑しながら言われたことで、きっと『しょうがない子だなこの子は』なんて思われてるんだろうなと思った。
自分でも思うから無理もないと思うけど。
とりあえず、夕食前のお着替えでヒラふわピンクのドレスワンピースをお試しで着ることは決定だ。
……似合うかどうかは別として。
そんなこんなで準備を終えた私は、メリダに連れられ『特別な学習』とやらを受けるべく、お母さまの待つ部屋へと向かったのだった。
「今日のお勉強は明日のクララットでの催しに必要な『お金』のことよ、レーン」
「おかね……ですか……?」
「そう。お金よ」
ニッコリと笑顔で告げると同時に、お母さまがテーブルの上に複数種類の金属貨幣を並べた。
突然目に入ったキラキラしい輝きに思わずキュッと目を細めてしまったのはある種の条件反射だ。
────いきなり現物を出すのやめてほしい……
そもそも子どもの前に出すものではないと突っ込むべきだろうか。
いや、この場合は突っ込むこと自体がアウト?
たぶんだけど、フローレンはお金の存在を知らない可能性が非常に高い。
だからこその『お金のお勉強』だと思うし。
とりあえず、取るべき反応は……
「え、っと……お母さま、これは…………?」
困惑する(フリ)である。
我ながら滑稽だ。
「レーン。お買いものをするにはね、お金が必要なの」
────うん、知ってる!!
そりゃ常識だわ!
……と、言いたいところだけど、たぶん今の私がそれを知っていることは『非常識』だと思われるから黙っとく。
普通に考えたら、貴族のお家の幼い幼いお嬢様が買いものの仕方なんぞ知っているわけがないからだ。
自分で買うという概念すらないだろう。
欲しいものがあったら、お邸に商人を呼んで持ち寄られた品の中から選ぶ。
支払いはいつの間にやら親が───というより、金銭管理を任されている使用人の誰かが払っているだろうから、お金そのものを目にしたことがないという人が大半なんじゃないかな。
幼いうちはみんなそうだと思う。
たぶんこれが普通……のはず。
中身が私だから知っていることであって、本来は知る由もないこと。
その前提で話を聞かないと、ボロを出して変な風に怪しまれてしまう。
あくまでも私は何にも知らない子ども……そう、子どもなんですよ。
「まず覚えてもらいたいのは『硬貨』とされるこの6種類、それぞれ大小1枚ずつの金属貨幣ね」
そう言って、お母さまがテーブルの上の硬貨をそれぞれの種別ごとに並び替えていく。
「まずは青銅貨と大青銅貨」
小さな硬貨を一番左に置き、その隣にまたもう1枚を置く。
次に色味の違う別の硬貨を更に2枚並べた。
「そしてこれが黄銅貨と大黄銅貨。この4枚の貨幣の単位は『シェル』よ」
「シェル……」
────……なんか貝殻っぽい
……と思ったことは秘密にしておこう。
「青銅貨1枚は1シェル。大青銅貨は1枚で5シェルよ。そして黄銅貨は1枚が10シェルで、大黄銅貨1枚は50シェルになるの。ここまではいいかしら?」
「はい」
なるほどなるほど?
前世でいうところの1円と5円、10円と50円てところかな?
「100シェルでこの銅貨1枚になるの。単位は『フォル』」
「ほへ!?」
別単位がも1個出てきた!?
ってことはさっきの貝殻───もとい『シェル』は補助通貨になるわけ?
え~っと、え~っと……アメリカの通貨であるドルとその補助通貨であるセントみたいなものでいいのかな?
ちょっとこの世界の通貨ややこしいぞ!?
『シェル』も単純に1円とかの価値じゃなさそうな気がしてきた。
もっと高そうに思えてきたよ。
「あとはさっきと似たようなものね。銅貨1枚が1フォル。大銅貨1枚で5フォル。銀貨と大銀貨はそれぞれ10フォルと50フォル。金貨と大金貨は100フォルと500フォルで、白金貨と大白金貨は1000フォルと5000フォルになるの。それ以上の金額は硬貨ではなくて紙幣になるのだけれど、普段使いする機会は少ないから今日は持ち出していないわ」
「そうなんですね」
「ええ。とりあえず硬貨だけ説明したけれど、特に難しいこともないでしょう?」
「え~と……」
────うん、分からん!!
────仕組みは分かったけど、その通貨単位の価値が全く分からん!!
どうしても頭の中では日本円との違いを考えてしまう。
缶ジュース1本いくらとか、リンゴ1個いくらとかそういった基準が知りたい。
まぁこの世界には缶ジュースなんてものはないだろうけど。
「分かりにくかったかしら?」
────うん!!!
……なんて言えないわな。
とりあえず誤魔化そう。
「え~っと……」
「そうよね。お金の話だけを聞いてもピンとこないかもしれないわよね」
私の困った表情を見てお母さまが苦笑する。
「レーンは聡い子だからすぐに理解してもらえるかと思ったけれど、それじゃダメよね。これだけで察してね、なんていうのはこちら側の身勝手に他ならないもの」
「お母さま……」
「もう一度、分かりやすいように説明するわ。私たちが町に出てお買いものをしていると仮定して……ね?」
「お買いもの……」
「ええ、そうよ。明日と明後日のための予習にもなるから、ここでしっかりとお勉強しておきましょうね?」
「はい!」
笑顔で告げられた言葉に頷いたところでお母さまがヴェーダを呼んだ。
「ヴェーダ。厨房に行って野菜や果物を適当に見繕って借りてきてちょうだい。できればでいいけれど、多めの種類で複数個ずつあると理想的ね。市場価格の単価はバラバラのものがいいわ」
「畏まりました。それでは料理長に相談の上で用意して参ります」
「お願いね?」
一礼して退出したヴェーダを見送ると、お母さまが大きい単位の硬貨を指差した。
「この金貨と白金貨は外に持ち出して使う機会はほぼないの。使うとしたら邸に商人を呼んで高額な買いものをした時くらいね」
そう言われてみれば、時々来てるな恰幅のいいいかにも商人ですって感じのおじさんが。
あの時に金貨やら白金貨で支払いしてるのか。
「ちなみに今レーンが髪に結んでいるリボンは金貨1枚……100フォルよ」
「…………え~と…………」
────それって高いの?
────普通なの?
日本円に換算したらおいくらくらい?
基準が分かんないからどう反応したらいいのか分かんないよ。
「着ているワンピースの仕立て代が大金貨1枚の500フォルね」
うん、やっぱり全然分かんない。
この世界のお金の価値が分からない限り、私は金銭感覚が全くない世間知らずのままだ。
そのためのお金の勉強なんだろうけど、ちゃんと理解できるか不安になってきた。
表面上では困惑顔の私だけど内心は冷や汗ダラダラだ。
僅かに胃がキリキリしてきたような気もする。
────イヤだ、コレ何のプレッシャー!?
そんな感じでお母さまから大きな単位の硬貨のことを説明される度に、頭の中は大混乱を起こしてピヨピヨしてた。
ヤバい、そろそろ頭から煙が出そう……ってくらいに脳内がキャパオーバーになりかけた頃、ヴェーダを筆頭に手隙の使用人ズの皆さんが様々な種類の野菜と果物を運んできた。
それを見て、お母さまが立ち上がる。
「さあ、レーン。お勉強をはじめるわよ」
お金のお勉強という名の社会勉強の内容は、一言でぶっちゃけるなら『おままごと』だった。
いや『おままごと』よりは『お店屋さんごっこ』かな。
私がお客さん役で、使用人ズの皆さんはお店のスタッフさん。
商品は複数種類の野菜と果物です。
設定的には『お母さんから言われて、八百屋さんへ初めてのおつかいをする幼女』ってとこですか。
……しかし。
お母さまはもちろんのこと、使用人ズの皆さんまで本当に楽しそうにしてくれちゃってますねぇ。
ワクワクうずうずしている様子がものすごく伝わってくるんですよ。
全力で遊んでくれそうな気配がビンビンです。
だったらワタクシめも全力で遊んでもらおうではないですか。
そして、その遊びの中で私にお金の価値の何たるかを存分に教えてもらいましょうよ!
そんなこんなで『お店屋さんごっこ』を、実に2時間ほどの時間をかけて全力で遊び倒してもらった結果抱いた感想は……
────めっっっっっっっちゃ楽しいぃぃぃぃぃぃ!!!
この一言に尽きます。
お母さまも使用人ズの皆さんも、お店の人に成りきること成りきること。
だったら私も全力でお客さんに成りきらなきゃじゃない?
そしたら段々とものの値段というものが頭の中に叩き込まれていくんですよ。
まずは野菜。
トマトは1個あたり10シェル。
キャベツとレタスは1個あたり20シェル。
玉ねぎは1個あたり5シェル。
じゃがいもは1個あたり4シェル。
籠一盛りあたりだと掛けること個数分よりもちょっと安くなる……というリアルお店感をバリバリに出してくれるというカンペキ徹底ぶり。
ちなみに複数で一つ売り扱いとなるアスパラガスは一束で30シェル。
私の天敵だったピーマンは籠一盛り5個分で10シェルだった。
果物のほうはりんご1個あたり15シェル。
桃1個あたり20シェル。
バナナは一房15シェル。
いちごは籠一盛りで45シェル。
ぶどうは二房セットで50シェル。
さくらんぼはちょっとお高めで籠一盛り1フォル。
……とまぁ、大体こんな感じかな?
果物に関して季節感がバラバラなのはこの世界仕様だからか?
そのあたりは特に突っ込んだりはしないよ?
食べたい時においしいものが食べられるっていいことじゃないですか。
寧ろ大歓迎だ。
これらを単品から複数個、時には複数種類のものと様々なパターンで組み合わせて計算、お支払い、という流れでお金の使いかたというものをみっちり教えてもらいました。
疑似体験ではあるけれど、お買いものはやっぱり楽しい。
もっと言うなら、お店の人に成りきってる使用人ズの皆さんが面白かった。
町の雰囲気を再現しようとしてくれてたのかも。
こうして『ごっこ』遊びをして分かったのは、この値段設定が日本でのものと似通っているな、ということ。
あと1個あたりの値段からして、1シェルが日本円での10円相当であることに気がついた。
ほら、トマトって1個100円くらいで買えちゃうじゃない?
だから大雑把すぎるけどこのくらいかな~……って。
そしたら、更にとんでもないことに気づいてしまった。
それは私が今身につけているワンピースとリボンのことだ。
確かお母さまは『リボンが金貨1枚の100フォル』『ワンピースが大金貨1枚の500フォル』だと言っていた。
1シェルが日本円の10円相当。
100シェルで1フォルとなると、10円掛けることの100倍で1000円、銅貨1枚分だ。
銀貨(10フォル)はこれの10倍で、更にその10倍が金貨1枚分(100フォル)の金額。
つまりは1000円の100倍で10万円。
大金貨(500フォル)は50万円。
────つまりは……なんですか??
────今のワタクシめ、10万円のリボンを髪に結わえ、50万円のワンピース着ているってことですか??
……めっちゃ身震いしたんですけど!?
金持ちパネェ!!!
その後は、お店屋さんごっこで使った果物でフルーツティーを淹れてもらって皆で楽しくお茶をした。
ここでもお茶請けで出された焼き菓子を前にして、1枚あたりいくら~というのを笑いながらやった。
ちなみに上流階級御用達である高級洋菓子店の逸品であるこのクッキー、1枚あたりなんと5フォル。
つまりは5000円!!!
何も知らずにバクバク食べてた過去の自分が恐ろしい。
これからはもっとゆっくりじっくり味わって食べることにしよう。
前世元庶民、更に貧乏性でもあるワタクシめには、高級品を無遠慮にバクバク食べまくる度胸などございませんて!!
……そうして。
色んな意味で疲れまくった午後を終えて、夜ごはん前のお着替えの時間がやってきた。
メリダが言っていたように『お試し』であのピンクのヒラふわドレスワンピースを着るのだ。
やっとピンク色が着せられるというウキウキなメリダとは正反対にげんなりする私。
髪を結わえるリボンも、ワンピースのピンクに合わせて淡いパステルブルーのものへと変えられた。
そうして、嫌々な気持ちで立った姿見の前。
映っていた自分の姿はそんなに悪いものでもなかった。
なぜならフローレンは素材がいい。
あれだけ避けようとしていたピンクが似合わないハズがないのだ。
「私の言った通りでございましょう? よくお似合いでいらっしゃいますわ、フローレンお嬢様」
「う……」
「?」
「わ……悪くはないと、思うけどっ!?」
反射的にというかなんというか。
思わずツンのデレが出てしまった。
ぶっちゃけると、メリダの言う通りだった。
けれど、やっぱり私にはピンクを身に纏うというのは羞恥心が勝る。
だから、ああいう反応しか返せないのも無理はないのだ。
若干顔を赤くしつつ頬を膨らませ、姿見から目を逸らしながらもチラチラ気にしている私を見てメリダが隠すことなく笑った。
「ふふっ。ピンク色も悪くはございませんでしょう?」
「ま……まぁね。でも……」
「はい」
「メ、メリダが選んでくれたものじゃなきゃピンクは着ないんだからねッ!」
「まぁ、ふふっ。では奥様が選ばれたものはお召しにならないと?」
「う゛う゛……ッ!」
────さすがにお母さまが選んだのを突っ撥ねるというのは罪悪感が……
「……じゃあ、お母さまが選んだものの中からメリダが選んで。私が『イヤー!!』ってならないようなのを……」
「はい、かしこまりました。ではこれから少しずつ、ピンク色のお召し物を着る機会を増やしていきましょうね。せっかくの春ですもの。春らしい色合いのおしゃれを楽しまないともったいないですわ」
そんな感じでうまい具合に言いくるめられた私は、これから先ピンク色のワンピースやらドレスやらで着飾る機会が増え、その都度己の中の羞恥心と戦う日々を強いられることとなる。
その後の晩餐の席にて。
「あら、レーン。お着替えしたの? ピンク色のドレスワンピース、よく似合っているわ」
「……ありがとうございます、お母さま」
「ちゃんと着てくれて嬉しいわ。そのワンピースもリボンもそれなりにお金をかけていたから一度だけでも袖を通して使ってほしかったのよね」
「え……?」
────なんかすご~く嫌な予感が……
「ワンピースの仕立てに1000フォル、リボンは200フォル。無駄にならなくて本当によかったわ」
「ぶっ……!!?」
────待って、待って、待ってぇ~~~~!!!
1000フォルって、確か白金貨1枚だったよね?
そんでもって、200フォルは金貨2枚分……って、さっきまで着てたやつの倍の値段じゃんよ!?
ってことは今の私、100万円のワンピースを着て20万円のリボンをつけてるわけ……?
────嘘でしょ~~~~~~!!!
……有り得ない事実に目玉が飛び出るかと思いました。
やっぱり金持ちパネェです。
っていうか『金持ち怖い』のほうが正しいのかもしれない。
前世ド庶民にはお金の威力は破壊的に偉大すぎるのです……─────
ちょっと説明回っぽくなってしまいました。
今回出したお金の単位のこととか、自分で考えておきながらややこしいので後日にでも小噺集の中で設定として入れようかと思います。




