魔力過多の弊害、その名は『魔力熱』
閲覧、ブクマ、評価といつもありがとうございます(о´∀`о)
本日付けでこのお話のスピンオフとなる『私たちはかつて願った理想世界に生きている』という連載を開始いたしました。
シリーズ作品の中に組み込んでおりますので、興味のある方はこちらもどうぞよろしくお願いします♪
この特殊な回復魔法が生まれたそもそもの切っ掛けは、ノーヴァ公爵家の令嬢リリーメイがその身には抱えきれないほどの膨大な魔力を持って生まれてきたから
それが、ノーヴァ公爵さまの語った話の始まりだった……─────
~魔力過多の弊害、その名は『魔力熱』~
ノーヴァ公爵家は、代々優秀な魔術師を輩出する家系。
険しい山脈で隔たれた国境地帯を含めた、ドラグニア王国北部の大半に当たる広大な領地を治めている……らしい。
『らしい』というのは、まだ私がきちんとした教育を開始していないからだ。
実際にこの知識はゲームの設定にちらっと出てきたものだったりする。
どこまで合っているかは分からないけれど、ノーヴァ公爵家は別名『北のノーヴァ』とも呼ばれているらしいので、もしかしたらその辺りはゲームの設定まんまなのかもしれない。
とりあえずその部分は横に置いといて。
ノーヴァ公爵家には息子が一人と娘が一人いる。
乙女ゲーム『恋メモ』に登場していた二人、攻略対象キャラであるルーファスと、ライバル令嬢であるリリーメイだ。
前に少しだけロイアス兄さまに聞いたのは、二人とも生まれつき魔力量がとてつもなく多いということ。
それと、今の年齢にして既にルーファスは多くの属性の魔法を操る天才的な魔術師であるということだ。
どちらかというと、話したことはノーヴァ公爵家の血を引く者はとにかく魔力量が多いみたいだよって内容に偏っていたような気がする。
ちょうどその時は私の魔力の回復速度が異常すぎて、そのことについて図式つきの説明を受けた流れでノーヴァ公爵家の二人の話が出たんだったかな?
その中で抱えている魔力量に対して、器となる身体が耐えきれないケースがあるという流れになって。
熱が出やすくなるって聞いたんだった。
魔力が少ない私にとっては、たくさんの魔力を持っていることは羨ましい限りだけれど。
でも、多い人は多い人で弊害があったりするんだな、大変だなって感じたのは身体に不調を来すという話を聞いたその時だ。
ぼんやりとそんなことを思い出していると、頭上から静かな声が降り注ぐ。
「ノーヴァ公爵家の血を引くものは、例に洩れず多大な魔力を内包した状態で生まれてくることが多い。先代や私もそうだが、ルーファスもまた例外なく強大な魔力を有している。だが……娘リリーメイは……ノーヴァ家が興ってからの歴史上、誕生時に於いては類を見ないほどの膨大な魔力を内包して生まれてきた。それも母体にまで影響を及ぼすほどの……」
「では、ルーファス君の時とは違って、産前産後のロザリア夫人の状態が思わしくなかったのは……」
「リリーメイの魔力をその身で直接受けていた影響だ」
「……そうだったのか。顔色も悪く、辛そうな状態であったにも関わらずロザリア夫人は気丈に笑っていたんだな……逆に見ているこちらの方が苦しくなってしまったほどだよ……」
「当時は随分と心配をかけてしまって申し訳なかった。ロザリア共々、心より感謝している」
────……魔力って、自分だけに影響するものじゃないんだ……
頭上で繰り広げられる当時のリリちゃんの誕生話を聞きながらぼんやりとそんなことを思う。
「あまり気軽に訊いてはいけない繊細な部分だからずっと気になっていたのだけれど、その後の影響は大丈夫だったのかい?」
「それはもう問題ない。半年もしないうちに魔力の影響は治まったようだ。逆に娘の強大な魔力に長く触れていたことがいい方向に作用して、身体の調子が随分と良くなったと言っていた」
「へぇ……それは思いがけない副産物だったね」
「そうだな。ある意味リリーメイの魔力に守られていた部分も大きかったと言っていた。そのお陰とも言うべきか、ルディアスが生まれた時は上二人の時と比べて遥かに楽だったようだ」
「出産というものはかなり大きなリスクを伴うからね。無事に生まれてきてくれて本当に良かったよ。リリーメイ嬢の時のことがあってか、フレイヤさんが随分と心配していたから」
「逆に申し訳なかったくらいだ。見舞いや祝いの品がたくさん届いて返礼に苦労した」
「あれでも足りないくらいだと言っていたよ」
「ご婦人の感覚はイマイチよく分からないな」
「考え方が別次元だと思うことにしたよ。たぶん男には一生かかっても理解できない」
……なんか世間話になっちゃってるよ。
まぁお子さんが生まれたよ、って話はとってもおめでたい話題だからね。
延々と続いてもおかしくはないけどさ。
ここで私はゲームとの相違点を見つけたわけだ。
ノーヴァ公爵さまが言っていた『ルディアス』という名のノーヴァ公爵家の三人目の子。
名前の響きからしてたぶん男の子だと思うんだけど、ゲームには名前すら出てこなかった。
あともう一人のカーティスという人物もそうだ。
攻略対象キャラを始めとした主要登場人物の家族や親族なら、詳しい説明がなくても名前くらいさらっと出されていてもおかしくはないはず。
細かいところまで網羅した攻略本とか出てたら確実に触れられているような割とオーソドックスな設定だと私は思うんだけど。
宮中伯の子息である攻略対象キャラの兄弟、ウォーレンとレオニールのもう一人の家族であるオルフェンス伯爵家の深窓の令嬢がそうだ。
名前こそ出てこなかったものの、幼少の砌より病弱で~……という設定で、弟のレオニールともう一人、宰相子息のユージィンのルートに於いて攻略に関わってくるくらいの重要人物だったのに。
それらから考えると、ゲーム上の設定としてはノーヴァ公爵家の『カーティス』という人物と『ルディアス』という人物は、最初から存在していなかったものと結論づけられる。
つまり、この世界は『ゲームの舞台そのものであるドラグニア王国』なのではなく、それに近い『ゲームのモデルとなった現実世界のドラグニア王国』という風に考えてもいいだろう。
その流れでいけば、このまま何もしなくても、私は悪役令嬢なんて役どころにならずに済むかもしれない。
油断はできないけれども。
……と、そんなことをつらつら考えている間にも、お父さまとノーヴァ公爵さまとの間で交わされる世間話は終わらない。
我が子の話になると長いんだよね、子を持つ親ってどこの世界でもそうなんだろうか。
とりあえず、このままだと世間話だけして日が暮れて一日が終わりそうなので、敢えて空気を読まずに話をぶった切ります。
特殊回復魔法が生まれた経緯はどうなった。
その話を聞かせてくれるんじゃなかったんですかね~?
……と、いうわけで
「あの~……魔法が生まれたお話はどこ行っちゃったんですか?」
割り込みじゃ!!
「……あ」
「子どもの話となるとつい……」
一応控えめにしておいた私の突っ込みに、ノーヴァ公爵さまもお父さまもバツの悪そうな顔で同時に私を見た。
「それで……ノーヴァ公爵さまのお嬢さま……リリーメイさま、ですよね? 無意識で魔法を放ったっていうのは一体どういうことなんですか……?」
遠慮がちに聞こえるように切り出したのは、決して好奇心で訊いちゃいけない内容だと察しがついているからだ。
いくら魔力が原因でも、身体の不調に関することは非常にデリケートな問題だ。
踏み込んじゃいけない部分までズカズカと入り込んでしまわないよう、境目の部分をきちんと見極めなければならない。
じっとノーヴァ公爵さまを見上げていると、苦笑しながら『すまない』と言って優しく頭を撫でられた。
「思いきり話を脱線させてしまったな」
「……いえ。お父さまも似たようなものですし」
「否定はしないけど。酷いな、レーン」
「また脱線するからその話は後だ、ロンベルト」
今度は脱線させまいとお父さまの言葉を止めにかかり、ノーヴァ公爵さまは本題の方へと触れてくれた。
「フローレン嬢は『魔力熱』という言葉を聞いたことはないか?」
「まりょくねつ……? ですか?」
「そう。魔力熱だ」
まりょくねつ……魔力ねつ……魔力、熱……
────!
ああ、魔力熱!
どうだっけ?
聞いたことあるような、ないような……?
それっぽいことは、さっき自分でも考えてた『魔力が多すぎると熱が出やすくなる』っていうロイアス兄さまが教えてくれたあのことだと思うんだけど。
その時に『魔力熱』って言葉を兄さまが言っていたかどうかまでは覚えてない。
首を傾げたり、怪訝な顔をしている私を見て『知らなくても問題はない』とノーヴァ公爵さまは言う。
「身近で起こりうることがなければまず聞くことのない言葉だ」
「オンディール公爵家ではまず無縁のものだからね」
ノーヴァ公爵さまに続いてお父さまも言う。
「魔力の多さに身体が追いついていないと熱が出やすくなるって話は聞きましたけど」
「そう。その状態に陥ることを一般的に『魔力熱』に侵されたと言う。一般的とは言っても、あまり多く見られる症状ではない。そのため『魔力熱』のことを知る者も自然と限られてくるのだが……」
そこまで言ってノーヴァ公爵さまはじっと私の目を見つめた。
「その話は一体誰から? ロンベルトからではなさそうだが……」
「ロイ兄さま……いえ、ロイアス兄さまから教えてもらいました。お父さまにもお母さまにも内緒でこっそり魔法を教えてもらった時に、私の魔力が他の人のものと比べるとちょっと異質だ……って話になって。そこから、魔力の回復の仕組みとか色々説明してもらって。確かその時に、ノーヴァ公爵家のご子息は生まれ持った魔力が多いとか既に多属性の魔法を使い熟していて優秀だとかいう話になって。その時に、魔力が多すぎると身体の負担になって大変だ……って感じで、魔力と熱のことを少しだけ聞きました」
「……なるほど」
あの時兄さまと話したことで、思い出せる範囲のことをノーヴァ公爵さまに伝えると、納得してくれたように頷いた。
それから『相変わらずロイアス君は優秀だな』とお父さまに伝えることも忘れない。
自慢の息子への賛辞にお父さまも嬉しそうだ。
「身近な症例ではないにも関わらず、大凡のことを知り得ているその知識はさすがだと言える。だが……正確には、魔力が多すぎるから身体の負担になる、というわけではないんだ」
その言葉を皮切りにノーヴァ公爵さまから『魔力熱』の詳しい説明が始まった。
一つ、生まれてきた際に内包している魔力量が、本人の許容量を遥かに超えていること
一つ、魔力を回復する際に取り込む空気中の魔素の量が人よりも多すぎること
一つ、体内の魔力を自身の力でうまく循環させることができないこと
一つ、自身の意志で魔法を行使できる年齢に達しておらず、身体の負担となっている魔力を体外へ出すことが叶わないこと
大まかにはこの四つの項目のいずれかに当て嵌まると魔力熱の症状が起こりやすいのだとノーヴァ公爵さまは言う。
そしてリリちゃんはこの四つの項目全てに当て嵌まっていたのだとか。
後半二つに関しては、完全にダメだというわけではなく、ある程度であれば自身の体内で魔力を循環させることができるし、魔法の行使に関しては魔術師団の団長であるノーヴァ公爵さまが側について直接指導を行い、2歳になる頃には簡単な魔法を使わせていたとのこと。
それでも魔力熱の症状に苦しむのはほぼ日常的なものだというのだから、その苦しさは想像以上に辛いものなのだろう。
とにかく、追い出しても追い出しても追いつかない。
そして、出せば出すだけ、空気中の魔素を取り込み回復を図ろうとする。
それも自身の意志とは全く関係なしに。
出しても減らないのに、更に回復しようと取り込んでしまうため、体内は常に魔力の飽和状態。
本当に底があるのかと疑わしくなるレベルの量の魔力を今の私とそう変わらない小さな身体に抱え込んでいるのだという。
────これ以上入らないのに、魔力が入ってこようとする苦しさは分かる……
その部分だけは自分でも経験して、そして兄さまに助けてもらった。
あの時感じた熱さは、今でも忘れられない。
熱くて、苦しくて、そして……とても、痛かった。
一時的だったとはいえ、あれは二度と経験したくない痛みだと思った。
けれど。
リリちゃんはそれを日常的に経験してきているんだ。
おそらく、生まれてきてからずっと。
ノーヴァ公爵さまの話を聞きながら、気持ちは段々と『リリちゃん大丈夫かな……』という心配へと傾いていく。
そして、考えに連動するかのように痛ましい表情でもしていたのだろう。
私のその表情に気づいたノーヴァ公爵さまが、私の頭を撫でてくれて、それから『まだ会ったことのない娘への心配をありがとう』と微かに笑みを浮かべてお礼を言ってくれた。
「それにしても……魔力を出しても出しても追いつかないというのは聞いたことがないね……。まるで出せば出すほど、身体の奥底から魔力が湧き出ているかのように思えるよ」
「おそらくその考え方で合っていると思う。リリーメイの魔力は、使えば使うほどに総量が増していっているように思う」
「それって、全部を使い切っているわけでもないのにどんどん増えていってるってことですよね?」
まさに今私が実行している魔力総量の底上げ方法を否定するかのようなリリちゃんの状態に、頭の中は疑問だらけだ。
ある意味、少なすぎるのに驚異の回復力の速さを見せる私の魔力よりも、ちょっと使うだけでガンガン底上げされていくリリちゃんの魔力のほうがもっともっと異質なものに思えてきた。
それが常に身体の中で飽和状態になっていて熱を出すことになるなんて、身体の中に爆弾を抱えているようなものじゃないか。
前に兄さまとそのことを話した時にも思ったことだけれど、今のリリちゃんはまさに『魔力という名の大きな爆弾』を抱えていると言ってもおかしくはないと思う。
「通常では、魔力をほぼ空にするまで使い切ってから回復をしない限り魔力総量が増えることはない。おそらく娘の場合は、生まれてきた時に内包していた以上のものを持っていた可能性が高い」
「……となると、生まれた時点で確認された魔力総量はその一部分だったということかい?」
「そうとしか考えられない。生まれてから暫くの間は、私が側について常に魔力を吸収し続けなければならなかったほどだ」
「生まれながらにして魔力総量が底上げされ続けた……といったところかな。前例は聞かないけれど。ちなみにルーファス君の時は?」
「ルーファスはルーファスで相当な魔力を内包していたが、リリーメイの時のように身体が許容できないということはなかったな。おそらくは生まれた時点でルーファスの身体は魔力の器として既に完成していたが、リリーメイはそうではなかった可能性が高い。だからこそ、生まれて暫くの間、器の完成を急がせるかのように魔力総量が伸び続けていたように思う」
「想像を絶する話だね……魔術師の家系ともなると、魔力が全くの別次元のものにしか聞こえてこないよ」
「一部からは化け物扱いをされているくらいだ。別次元と言われても仕方のない話だな」
……やめてくれ。
────リアル魔王を想像しちゃったこと思い出すじゃん……
ジョークなの?
自虐的ネタなの??
その割にはノーヴァ公爵さま真顔に近い表情だよね???
────全くもって笑えなーーーーーーーーい!!!
……よし、スルーしよ。
「魔力熱って、身体の中に魔力が残っているとずっと続くものなんですか?」
「単純に考えるとそうだが、正確には身体の中を循環できずに魔力が体内に留まった状態のことを言う」
「出ていく隙を与える間もなく魔力が入り込んでしまうわけだから、確かに体内を循環するというのは無理がありそうだね」
「それじゃあ、入ってきた魔力は、ずっと身体の中に入ったまま……?」
そう訊ねると、返った答えは真剣な表情での頷き一つ。
それだけで深刻なんだと分かりすぎるくらいの反応だった。
「体内を巡らない魔力はそのまま淀みとなって悪影響を及ぼすからね。もしかして、魔力熱の大元の原因となっているのは……」
「そうだ。淀みによる魔力純度の劣化、それに伴う体内との反撥によって、発熱という形の症状を引き起こす」
「…………それって。熱以外の影響はないんですか? 例えば、息をするのも難しかったり、肌が荒れたりとか、吐いちゃったりとかは……?」
「名称が『魔力熱』ということもあり、起きる症状の大半は高熱だ。だが、極々稀に発熱せずに呼吸困難や皮膚の疾患が現れるというケースもある」
うわぁ……何となく嫌な予感がして訊いてみたはいいものの、ほぼアレルギーと言ってもおかしくないじゃん。
稀なケースとは言っても、重症度によっては命に関わるからね、アレルギーは。
そんなのと付き合っていかなきゃいけない魔力過多の人って、相当生きにくい体質なんじゃなかろうか。
魔力が多いというのもある意味では考えものだな。
「……発熱以外はあまり聞かない症例だね」
「殆ど例を見ない症例だからな。そこは個人差もあるのだろう。魔力量に個人差があるように現れる症状もまた様々だ。だがやはり、その名が示す通り、現れる症状の殆どが発熱で、しかも高熱だ。他の症状は発熱に比べると遥かに軽く、治まるのも早い」
「ではリリーメイ嬢の『魔力熱』はかなり重症度の高いものに分類されるというわけだね?」
「その通りだ。早い段階で魔力を放出する方法を覚えさせるため、2歳になると同時に魔法の使用を解禁したわけだが……年々増え続ける魔力総量に対して行使する魔法レベルのほうが追いつかず、なかなか『魔力熱』の症状が緩和されることがない」
「魔力の全力開放は? 魔力保有量が多い者が、体内に魔力の淀みを作らないよう訓練の一環として定期的に身体の中から魔力を追い出して新たに取り込むことをしているだろう? それはやっていないのかい?」
「さすがにあれだけの量を全力で開放するとなると王都内では無理だな。それをやれる場所となると、ノーヴァが管轄する領地内でも極一部の限定された領域のみになる。リリーメイの体調面を考えるとそれはさすがに厳しい。領地の本邸に戻るくらいであればいいが、そこから魔法修練の場となっているところへの移動となるとあの体調では到底耐えられまいよ」
「話を聞けば聞くほど、どのくらいの魔力を内包しているのか分からなくなってくるね。それ程までにリリーメイ嬢の生まれ持った魔力総量は計り知れないものだと思えてくるよ」
「……いや。それでも魔力総量はルーファスとは比べものにならないくらい少ないほうだと言える。既に魔力の器としての身体が完成しているルーファスとは違い、リリーメイの身体は魔力の器としてはまだまだ未完成だ。その部分が大きいせいだろうと私は考えている」
そしてそんなことをケロっと言っちゃうノーヴァ公爵さまの持ってる魔力総量も相当なもんなんだろうね。
チート一家はどこまでいってもチートってことですか。
さっきお父さまが言ってた『別次元』という単語に大いに同意するよ。
ホントに別次元すぎる。
私のへっぽこ魔力がミジンコ以下のちっぽけどころか、存在しているかどうかさえ目視できないような何かに思えてくる。
「だが、それはあくまでも一年ほど前までの話だ。ルーファスの助力もそうだが、偶然だったとはいえ多量の魔力放出を行ったことで『魔力の大量消費』と『身体のダメージの回復』の両方の効果を併せ持つ魔法を確立させることになったのだから」
「そういえば、苦し紛れに放ったって言ってましたね」
それも、無意識下のうちに、とも。
たぶんだけど、リリちゃんの身体は、自分自身の身体を苦しめる全てのものから開放されたかったんじゃないかなと思う。
その手っ取り早い方法が、体内に留まり続ける淀んだ魔力を全部追い出すこと。
頭で考えるよりも先に身体が動いたんじゃないかって思えてならない。
無意識下というのは、つまりはそういうこと。
脳を伝達せずに、反射的に身体が動いた。
体内に留まる魔力を追い出すという行動を、頭が判断するより先に身体のほうが理解したとでも言うべきか。
そして、それと同時にダメージを受け続けた身体が『癒やされたい』と願ったとする。
それが『先に追い出した全ての魔力』を『身体の悪い部分を修復するための魔法』へと偶然にも変化させた。
結果、全魔力を消費して身体のあらゆる不調を回復させる魔法として完成した……というところだろうか。
それとも。
リリちゃん自身が、そういうイメージを頭の中に描いたのだろうか。
私が頭の中で思い描いたイメージから魔法を生み出したように、リリちゃんもまた、体内に留まり続ける淀んだ魔力から開放されることや、ダメージを受け続けた身体を癒すことを思い描いて、そんな魔法があればいいのに……と願った結果、魔法が完成した、とか?
有り得なくはないと思う。
お父さまにダメ出しされたとはいえ、強くイメージを描くことで魔法が行使可能であることは既に実証済みだ。
ダメ出しされた理由は身体に負担がかかるから、ということだったけれど。
それじゃあ、リリちゃんの場合は……?
「あれがイメージから来るものだというなら……負担を取り除いて、身体は逆にラクになっている……?」
「明確な意思のもとにリリーメイがそうしたというのなら、確かにそういうことになるのかもしれないな」
「うぇっ!?」
考えに没頭しすぎてて、いつの間にか零していた独り言に反応があったことに驚き動転してしまった。
もしかして私、考えてたこと全部口に出しちゃってた?
それだったらヤバいよ、脳内と思ってたから思いっきり『リリちゃん、リリちゃん』って言ってた!
しかもリリちゃんのお父さまの膝の上で!!
「色々と考えてくれていたようだが、おそらくはフローレン嬢が言うような『こうであったらいい』という願望のようなものが娘の頭の中にはあったのだろう。その願望とは娘にとっての理想であり、叶えたい願いでもあったはずだ。当然『そうなったら……』という想像もしたことだろう。それに魔力が応えたのかもしれないな。それらが合わさって、あの特殊な回復魔法は生まれたと言ってもいいかもしれない。正直なところ、あの魔法に関しては謎が多すぎて何が正解なのか未だ分かっていないのが現状だ」
ほっ……どうやら声にまでは出していなかった模様。
ただし、例の如く顔には思いっきり出してたようだけれども。
そこはまぁ私なのでしょうがないっちゃしょうがないか。
……それよりも。
この特殊な回復魔法、謎が多すぎるってことだけれど、元よりノーヴァ公爵家だけが管理していて門外不出だというのなら、別に謎は謎のままにしておいてもいいんじゃないかって思う。
私という例外ができたにしても、まず魔法を構築する術式自体が一般的な魔法のそれと違うのだから、式そのものを見せない限り説明のしようがないわけで。
つまり、口頭では絶対に人に教えられない。
イコール情報流出の危険性はないよ、ってこと。
何よりも大事なのは、偶然だったとはいえ、完成したこの魔法が今のリリちゃんを守るために必要なんだということ。
これが全てだと思うんだ。
だから……
「謎だらけのままでもいいんじゃないですか?」
……という言葉が躊躇いなく出てきた。
「フローレン嬢?」
「レーン?」
私の言葉に返る反応が、心底『疑問だ』と言っているような表情になるのも無理はないと思う。
それも、魔法に関するあらゆる分野を管轄している魔術師団のトップに向けて言う言葉ではないという意味では。
魔法は日々研究されて、より良い効果や有効的な使い道を模索するために試行錯誤を繰り返しながら確実な術式を以て確立されていくもの。
未知の効果のそれが現れれば、徹底的に調べ上げるのが魔法研究者たちの仕事であり、また、情熱でもある。
さっきの私の言葉はそれを『やるな』と言っているようなものなのだ。
不思議に思わないほうがおかしい。
「私は特別に教えてもらえましたけど。その魔法を本当に必要としているのはリリーメイさまだと思いますから。それに……」
この魔法のいいところだけを絞って、誰にでも気軽に使えるようになってしまったら。
それを悪用する人が出てこないとも限らない。
例えば魔力全部を消費するという部分だけでも、後に魔力総量が底上げされるというリターンがあるのだから、今の私みたいにそれを利用しない手はないと考える人は少なくないと思う。
ただ純粋に魔力を増やしたいだけならまだしも『何のために』魔力を増やしたいのかで善し悪しは分かれてくる。
『理由』如何によっては、とんでもない武器というか……奥の手を渡すようなある種の危険な綱渡りでもあるのだ。
回復の部分だってそう。
もしこれが研究次第で自分以外の人にもかけられるようになったら?
『あらゆる不調を治せます』って、法外な治療費と引き換えに魔法を使うような、闇医者紛いの詐欺師も同然の犯罪者が出てきてもおかしくはない。
だから。
最初にノーヴァ公爵さまが言っていたように、無意味な魔法で在り続けることが一番いい形だと思うんだ。
消費魔力は自分の持っている魔力の全て。
魔法の効果範囲は自分自身のみ。
それから、魔法の行使後は意識を失い眠りに落ちる。
リターンが大きいだけに、負うリスクも十分に高い。
一見して『使いたくないな』って思わせるくらいの魔法でちょうどいいのだ。
「いいところだけしかない魔法なんて、誰もが欲しがると思います。それこそ、争いが起こってもおかしくはないくらいに」
「……そうだな。確かに研究を重ねれば、多くの者が望むような魔法として確立させることは可能だろう。国のため、世のためにも優れた回復魔法は強く望まれる傾向にある。だが……フローレン嬢が言うように、在らぬ争いが起こる可能性があることも否定できない。人は誰もが良いものを求め、我先にと挙って手に入れようと画策する。それこそ、弱者から奪い取ろうとする者が現れてもおかしくはない」
「……それが、力のない女性やまだ幼い子どもだったりしたら居た堪れないね。そういう魔法は力のない者たちこそが手にするのが理想的な形だろうに……」
あ~……なんだ。
私、余計なこと言ったかもしれない。
こんなに重い流れになるなんて思ってもなかったからさ。
ただ単に、言いたかったのは『今のままで十分すごい魔法だし、リリちゃんが魔力熱に苦しまずに済むなら、それはノーヴァ公爵家だけの魔法ってことでいいんじゃないかな』ってことだったんだよ。
「……この魔法は、リリーメイさまの魔法ですよ?」
「!」
「レーン?」
「まだ幼い、力のない子どもが手にしている魔法です。お父さまがさっき言っていた理想の形、既にできてますよね?」
そう言って、お父さまとノーヴァ公爵さまを交互に見上げる。
二人とも、軽く目を見開いて驚いてた。
それから互いに顔を見合わせて、二人似たような表情をしていたことに対して苦笑した。
「……確かにレーンの言う通りだね」
「言われるまでその事実に全く気づけなかった。子どもの着眼点というものは恐ろしく素晴らしいな」
「見る視点が大人とは違うからだろうね。あと……柔軟な発想があってこそだよ」
「……そうだな。ルーファスがこの魔法を一度見ただけでその有用性を見出し解析したのも納得がいった」
「それに協力したカーティス君もまた柔軟な考えの持ち主なんだろうね……」
「……いや。あれは単なる魔法研究馬鹿だ」
「でも優秀なのは認めているんだろう?」
「もちろんだ。カーティスに対して『魔法研究馬鹿』と言うのはある種の褒め言葉だ」
「『馬鹿』と言ってる時点で貶してないかい?」
「……褒め言葉だ。あれはそう言われるととにかく喜ぶ」
……まぁ研究者は総じて変人が多いというしね。
『魔法研究馬鹿』という言葉が褒め言葉だというのも強ち間違いじゃないだろう。
でも、一つ疑問。
ず~っと引っ掛かってたからハッキリ知っておきたい。
「あの……カーティス、という方は一体……?」
「カーティスは私の弟だ」
「結構年が離れているよね。何歳になったんだっけ?」
「18だな。この春に学院を卒業したばかりだ」
なるほどなるほど?
……ということは、ルーファスやリリちゃんの叔父さんにあたる人物なわけだな。
しかし10代で叔父さんとは随分と若い叔父さんだ。
「ルーファス君の兄だと言っても誰も疑わないだろうね」
「そうだな。そのこともあってか、ルーファスは頑ななまでにカーティスを『叔父』と呼ぶことをしない。逆にカーティスは『叔父』と呼んでもらいたくて仕方がないらしい。そのせいか日々くだらない攻防が繰り返されている。魔術師団の中で」
「それはまた……周りで聞いている人は反応に困るだろうね……」
「……全くだ」
それから、また話は脱線して、今度はそのカーティスさまとルーファスの話になった。
何でもルーファスはカーティスさまの影響を大きく受けたのか、カーティスさまに負けず劣らずの『魔法研究馬鹿』らしいのだ。
最初の頃は邸内の自室で魔法の研究やら魔道具開発をしていたようだけど、結構な頻度で部屋を爆発させていたらしく(一体何をやったら頻繁に爆発するのか分からないけど、詳細は怖くて訊けなかった……)さすがにこのままの状態が続いては下の子たちの精神衛生上よろしくないだろう、というノーヴァ公爵さまの判断のもと魔術師団に放り込むことになったのだとか。
環境的に存分に研究に打ち込めるとあってか、ルーファスの『魔法研究馬鹿』っぷりは日に日に磨きがかかっているとのこと。
終いには(ずっと魔法研究に携わっていたいから)次期ノーヴァ公爵を継ぐのが面倒だとまで言い出して、カーティスさまと互いに次期公爵の役目を押しつけあっているほどだという。
……うん。
そんな家庭事情、できれば知りたくなかったよ。
確かに下の子たちの精神衛生上(それと教育的にも)二人のこの遣り取りはよろしくないことだろうな。
……とはいえ。
やっぱり私が知っているゲーム設定上のルーファスとはまるで性格が違っている。
ゲームの設定ではルーファスに『魔法研究馬鹿』だなんて部分はなかった。
これはもう、乙女ゲームの世界そのものの『ドラグニア王国』ではないと思ってもいいのかな。
……いや、過信はよくない。
さっきも思ったけれど、大丈夫だと考えるのは危険だ。
違うかもしれないけれど、万が一ということもある。
ここが本物の現実世界だろうが、ゲームの世界だろうが、私のやることは変わらない。
己の未来と、家族のために頑張るのみだ。
あとはお友だちをたくさん作って楽しく過ごす。
そのために努力は怠らないぞ、っと。
……などと一人決意を新たにしているその間も。
お父さまとノーヴァ公爵さまによる脱線話は変わらず続いているのだった……─────
今年はいっぱい書くという目標を掲げておりますので「はよ続き書け!」的な意味で尻叩きなり尻蹴飛ばしなり発破をかけていただけたら尚のこと嬉しいです!
自分でも楽しんで続きを書いていけたらと思います(*゜艸゜*)




