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死ぬ気になれば何でもできる、という話?

[壁]_・)チラッ


……お久しぶりです。

ものっっそい更新が停滞している中、閲覧いただいたり、ブクマいただいたり、評価をいただいたりと、いくら感謝してもし足りないほど感謝しております。

いつもありがとうございます(*・ω・)*_ _))ペコリン





~死ぬ気になれば何でもできる、という話?~




「自分の目で妖精を見るにはどのくらいの魔力が要るんだろう……?」


妖精が姿を消した後、無意識にぽつりと零した言葉がそれだった。

完全な独り言であったはずの私のその呟き。

それをお父さまもノーヴァ公爵さまもしっかりと拾っていて、意外なことを聞いたと言わんばかりの表情で顔を見合わせている。


「……そう言われてみれば。一体どのくらいの魔力量が必要になるんだろうね?」

「意識するまでもなく姿を見ている身としては、そんなことは考えたことすらなかったな……」

「君の言うように私も同じだったからなぁ……」

「………………………………」



────えぇい、黙らっしゃい!

────この魔力チートどもめ!!



……と声を大にして言いたい。

言えないけど。


こんなことを口に出したら最期、お父さまはともかくとして、ノーヴァ公爵さまに対する不敬罪で私の明日はきっとない。

でもホント、魔力量がスッカスカな自分にとってはグサリとくる一言でもあったんだ。



────いいなぁ……



()()を持たない身からすると、羨ましくて仕方がない。

所謂ないものねだりっていうやつだってことは分かっているんだけどね。


あの場にいなかった兄さまだって、きっと何もしなくても最初から妖精の姿は見えているはずだ。

生まれつきかどうかは分からないけれど、兄さまの魔力量はとにかく多い。

たぶん兄さまもお父さまと同じで、そういうことを意識することなく、それが当たり前のものとして自分の視界に入っていたんだろうなって思う。


初級の魔法を行使するのさえ困難なくらいに魔力総量がない私にとっては、妖精の力を借りずにその姿を見られるようになるなんて夢のまた夢のような話なんだろう。

前世の感覚で言えば、心霊体験してみたいのに霊感がないから全く体験できないよ、的な感じだな。

心霊体験したっていう話とか、撮った写真が心霊写真になったとかいう話を聞く度に、


『うあ~、私もそういう経験してみたいよ!!』


……って、羨んでたっけ。


だから。

今回の件もそれに似た感じ。


妖精の姿が靄キラの光に見えたことで、それが心霊現象特有のオーブだと思い込んだのがその証拠だ。

それが怖いか怖くないかだけの違いであって、不思議な現象に遭遇したという事実に変わりはない。

ただ、私には見えなかった、という事実だけが共通している。


だから見える人が羨ましい。

イコール、妖精が見えるだけの魔力を有していて羨ましい、となるわけだ。


「…………はぁ」


溜息も出るってもんだよ。


「無理やり追い込んで魔力が底上げされるんだったら本当によかったのに……」


……と、さっきお父さまが私を試すためにやって兄さまに激怒されたあのことを思い出す。


お父さまは教えていないはずの治癒魔法を行使できたことをめちゃくちゃ親バカ全開で褒めちぎってくれたけど、あんなのはただ単に術式丸暗記という名の予習をしてそれを行きあたりばったりで実践しただけにすぎない。

成功したのがまず奇跡みたいなもんだ。


ただやれるだけのことをやって、それがいい方向への結果に繋がっただけの話だ。

確かに(精神的に)追い込まれはしたけど、その負荷が切っ掛けで何らかの能力が底上げされるなんてことは全くなかった。

私には火事場の馬鹿力的なものは全く起こりませんでしたよ。

……哀しきかな。


そんなことを考えながら再び盛大な溜息をついた時だった。

ノーヴァ公爵さまがこう言ったのは。


「無理やり追い込んだ……? 一体何をしたんだ、ロンベルト?」


怪訝な表情を隠しもせずにお父さまへそう問いかけるノーヴァ公爵さま。

問われたお父さまは『……ああ』と、何てこともないようにあっさりとその問いかけの答えを返した。


「私がかつて君たちにやってもらったことをしただけの話だよ。私がそうだったから、私の子であるレーンにも同じような結果が齎されたら……と、そう思ってね」

「……本当にやったのか?」

「もちろん、だいぶ加減はしているよ?」

「……そういう意味ではなく」

「うん?」


根本的な食い違いがあるとでも言いたげなノーヴァ公爵さまの顔を見て、それから再びお父さまの顔を見る。

心底不思議そうな顔をしているお父さまの表情から察するに、お父さまにはノーヴァ公爵さまの考えていることが通じていないようだ。


……尤も。


ノーヴァ公爵さまが何を考えてその言葉を発したのか私にも全く理解できないのだけれど。


「あの時の()()はある種の荒療治だと前置きをしてのものだったはずだが?」

「荒療治……?」

「そうだ。やり方としては邪道だと言い置いて尚、君がそのやり方を望んだのではなかったか」


溜息混じりにそう言ったノーヴァ公爵さまの言葉を聞いたことで、お父さまは何かに思い当たったかのように『……あ』と呟きを零す。


「思い出したか」

「……そうだった。……うん、確かにそうだったね。本来であれば、最終的な手段として用いるべきやり方だとも言っていたね」

「……全く。程度がどうであれ危険なやり方であることは君が己の身を以て経験したことで十分過ぎるほどに理解していただろうに。まさかそれを自身の子を相手に試すなどとは予想外にも程があるぞ」

「いや……もう、本当に返す言葉もない」


『それ以前に、子ども相手にやることじゃないよね?』……って私は言いたい。

ノーヴァ公爵さまだってしっかり『危険』だって言ってるし。

なんて言うか、まぁ……


「……兄さまも激怒するわけだよ」


気がつけば、思わずといった体でボソッと心の声が漏れてしまった。


「レーン!?」


私の独り言はしっかりとお父さまに聞こえていたようだ。

そうなると当然……


「激怒? ロイアス君が? それはまたやりすぎたようだな、ロンベルト」


ノーヴァ公爵さまにも聞こえるわな。

そしてサラッとすごいことを言われている。

要するに兄さまは、あれが相当に危険なことだと分かっていたからこそ激怒したのだ。


「運が悪ければ生命にも関わる大惨事になりかねないほどの邪法だとあの時『これでもか』と言い含めておいただろう? 下手したら己の子を自らの手にかけていたかもしれないのだぞ?」

「加減はしていたよ!? それもかなり!」

「……………………だから。そういう問題ではないと」


なんだろう?

両者間でのこの危険度の認識の違いは。


ノーヴァ公爵さまはかなり重く考えているのに対し、お父さまはどこか軽い。

過去に自分がされて平気だったから子どもの私たちでも大丈夫だろうと安易に考えてでもいたのだろうか。

手加減だってしているし……って?


「生半可な魔力量と技巧では精々受け止めるだけで早々に限界を迎えるのが関の山だ。あの頃の君でさえギリギリ耐えられた程だったというのに」


……そういえば。

お父さまから風属性の防護障壁を見せてもらったあの時。

兄さまは正面から受け止めることはせずに、咄嗟の判断で避けてたな。

それでも完全には避けきれなくて掠って怪我を負ったんだっけ。

確かにあの時『加減はする』とは言っていたけれど、あれがどの程度の加減をされていたのかは私には全く分からない。

もしかしたら、兄さまにさえも程度の区別はできていなかったのかも。

それ故の激怒だった可能性もある。



────う~ん…………



お父さま、結構な無茶をさせてくれちゃってますね、兄さま相手に。

いくら兄さまが優秀だからといっても、さすがに命を危険に晒すようなことを試すのはいただけない。


……あ、違った。

試されたのは私の方だっけ?


どっちにしろ、子ども相手に試すことじゃないよね。

大事なことだからもう一度と言わず何度でも言うよ。



子ども相手に、危ないこと試す、イクナイ!!



「……()()をやってまともに対抗し得るのはノーヴァ(うち)のカーティスとルーファスくらいだろう。それでもやろうとしたら嫌な顔の一つや二つは見せる。特にカーティスからは手痛い反撃をもらうこと必至だ。余程のことがなければ試そうなどとは思わないが」

「カーティス君もルーファス君も優秀すぎるからなぁ。それにしても手痛い反撃とは穏やかじゃないね。とてもそんな風には見えないのだけれど? 決して攻撃的な性格ではなかっただろう、カーティス君は?」

「それは時と場合による」


んん?

知らない名前が出てきたぞ?


ルーファスはいいとして、カーティスって誰?

ゲームの中ではそんな名前の人は出てこなかったはず。

『うちの』ってことはノーヴァ家の誰かってことだよね?

でも嫡男はルーファスのはずだから下の弟とか?

けどルーファスに弟がいるなんて設定はなかった。

ノーヴァ家はルーファスとリリーメイの兄妹二人だけで紹介されてたから、ある意味カーティスなる人物はイレギュラーな存在になる。

いやいや、この世界をゲーム世界を基準にして考えちゃダメだ。

ここは今私が生きている『現実の世界』であって、決して『誰かの手によって作られたゲームの世界』などではないのだから。


……とかなんとかぐっちゃぐちゃ考えていたら。


「君はそう言うけど、あの頃はそもそも相手が悪かったからね!? 君と陛下の二人がかりで、しかも全力でやられたんだよ!? それと比べること自体がまず前提としておかしくないかな!?」


えっ、陛下!?



────……もっとすごい人が出てきちゃったよ!!



何の話?

っていうか何がどうなって話がそこまで飛躍しちゃったの!?


さっきの続きだよね?

それで合ってるよね??

間違いないよね???


お父さまたちが言う『あの頃』が一体いつ頃のことを指しているのか分からないけど、陛下が出てきた時点で相当なことをやっていたらしいということは分かった。

どれほどとんでもないことをしたのかは全く想像できないけれども。


ヤバい!!

聞きたい!!


その気持ちがそわぁ……と態度に現れたのか、それに気づいたノーヴァ公爵さまがそれはそれはイイ笑顔で『聞きたい?』と問いかけてきた。



────イエス、マイロード!!



……と、うっかり口走りそうになったのを慌てて飲み込み、大げさなまでにぶんぶんと縦に大きく首を振りつつ頷く。

お父さまはといえば、そんな私とノーヴァ公爵さまの様子にげんなりとした表情を隠しもしない。

よっぽど嫌な思い出なのだろうか。


でも聞くことはやめないよ?

同じことをされかけた身としては、聞く権利くらいあってもいいと思うんだ。


思いっきり嫌がるお父さまを華麗にスルーしたノーヴァ公爵さまは、その当時のことを事細かく教えてくれた。

今でこそ『若気の至り』だとか『無謀』だとか『怖いもの知らず』だとかいう言葉で片付けられるような事実だけれど、あの頃は真剣に考えて至った行動だということを前置きされて最初に伝えられたことは一つだけ。


『水属性を得られるためだったら何だってやる』


というお父さまの強い望みがあったからこその行動だったとのこと。


「その言葉を聞いた時は無謀にも程があると思ったのだけれどね」

「……自分でも十分承知だったよ。それでもあの時は真剣だったんだ」

「分かっているよ。だからこそ、私も陛下も君の望みに応えられるよう協力を惜しまなかったんじゃないか」


結論から言うと、ダメだった。

どれだけ水属性が欲しいと望んだところで、お父さまには手にすることが叶わなかった。

なぜなら……


「お父さまは、純粋な風属性だから……?」

「その通りだよ、レーン」


もっと言うなら、お父さまだけではなく、イングリッド侯爵家の子───正確にはイングリッド侯爵家当主の血を引く子───は()()()風属性持ちしか生まれてこないということだ。

他の属性が入り込む隙間などこれっぽっちもないくらいに100%風属性なのだという。

お嫁入りしてきた侯爵夫人が別属性を持っていたとしても、子にその他属性が継がれることは一切ない。

一つの例外もなく。


だから。

本来であれば、時期イングリッド侯爵家当主となるべく生まれてきたお父さまは、純粋な風属性しか持たないのだ。


けれど今のお父さまはイングリッド侯爵家の当主ではなく、オンディール公爵家の当主だ。

お父さまが何としてでも水属性を得たかった理由がそこにある。


継ぐべきだったはずのイングリッド侯爵家を出てオンディール公爵家に婿入りすることになったその理由は、本来のオンディール公爵家当主となるはずだった伯父さま───お母さまの兄にあたる人───が亡くなったことにある。

その理由は私たち子どもの間では話題に上がることはないから、当時の経緯は全く分からない。

ただ、肖像画が大切に手入れされながら飾られているから伯父さまの顔は知っている。

お母さまとよく似た顔立ちのとても優しそうな人だ。


生きていたら、今頃幾つくらいだったんだろう?

肖像画の伯父さまとお母さまは少し歳が離れているっぽく見えるから10歳くらいは上なのかな?

訊こうにも訊けないから、あくまでも私の想像でしかないけれど。


「……前当主であるお義父上(ちちうえ)は『何も気にすることはない』『無理を強いているのはこちらなのだから』と言ってくれたのだけれどね」


ぽつりと零れたお父さまのその言葉には、どうしようもないくらいの哀しみと葛藤が滲んでいるようにも感じられて、私は思わずハッとなり、お父さまの顔をじっと見つめた。


「それでもやはり負い目というものはあるんだよ。水属性を持たないのにオンディールの当主の座につくことを強く求められたその事実に」


言われたことで改めて気づく。

オンディール公爵家は創始の代から水の属性を脈々と受け継ぐことで『水のオンディール』の名を冠しているということを。

その名が示す通り、歴代のオンディール家の当主は皆水属性の魔力持ちだった。

けれどお父さまは水属性を持たない当主。

そのことが今でも負い目になっているという。


「風属性の魔力に満たされた身で水属性を得たいと望むなど、愚かの極みであることは分かっていたんだよ。そう分かっていても『どうしても』と望んでしまったんだ、その当時は……」


そう語ったお父さまの目の中に切なげな揺らぎを見たことで気づいてしまった。

無謀だと分かっていながら尚、お父さまが得られないはずの水属性魔力を強く望んだその理由が。


それはきっと、お母さまのため……


伯父さまが亡くなって。

イングリッド侯爵を継ぐ身であったはずが、時期オンディール公爵を継ぐことを当代当主───私たちのお祖父さまだ───から強く望まれ。

風属性しか持たない身でオンディール公爵を継ぐことに酷く葛藤し。

不可能だと分かっていながらも、必死で水属性を得ようと足掻かずにはいられなかったお父さま。


方向性は全く違うけれど。

しっかりとオンディール(バカ)一族の特性に染まっているなんて、ホント、信じられない……


「……バカですよ、お父さま」


だから。

こんな呟きが涙と一緒に零れ落ちたとしても、全然不自然じゃなかった。


「そうだね。我ながらバカだったと思うよ。だからこそ、今となっては『若気の至り』だとか『無謀』だとか『怖いもの知らず』だとかいう言葉で済ませてしまえる過去だけれど。あの頃は本当に真剣で、本気だったんだ……」


苦笑しながら伸びてきたお父さまの手を私は素直に受け入れた。


「お母さまのために死ぬ気になって無茶するなんて。お父さまはホントにバカです」


だけど。

……だからこそ。


お父さまは他の誰よりもオンディール公爵に相応しいと言われているのだろう。

オンディールの血がその身に流れているわけではないけれど。

その心は、間違いなくオンディールが受け継ぐ気質そのものだと言ってもいい。

それはまるで、最初からオンディールの当主となるべく生まれてきたと言ってもおかしくはないくらいに。


「…………お父さまはバカです。誰が何と言おうと大バカです」


泣き笑いの状態で何度も『バカだ』『大バカ』だと文句を連ねる私に、お父さまは何も言わなかった。

ただ言われるがままに私からの暴言を受け止めながら、困ったような表情で苦笑を浮かべ、ただただ私の頭を優しく撫で続けてくれている。


「……全く。君は本当に仕方のないやつだな、ロンベルト。当時のフレイヤ夫人と同じことを自分の娘からも言われているじゃないか」

「…………うん。全くその通りだね。あの頃もフレイヤさんから何度も何度も『バカだ』と詰られたなぁ。今のレーンと同じように、ボロボロ涙を零しながら泣き笑いの顔で『どうしようもない仕方のない人』だと繰り返し言われたっけ……」


お父さまの顔に浮かんだ苦笑が更に濃くなる。


「それで、あんな命を懸けるような無茶はもう二度としないって約束させられたんだった。それと同時に、もう二度とあんな風にフレイヤさんを泣かせないと己に誓って……」


噛み締めるようにしみじみとそう呟くお父さまの顔をじっと見つめる。

その顔を見ていると、後悔はしていないけれど当時の己の行動を責めているように思えた。


「でもお父さま」

「ん?」

「反省はしたけど、後悔はしてないんですよね?」


思わずそう訊ねたら。

お父さまは一瞬だけ驚いた顔をして。

そして、柔らかく笑みを浮かべた。


「……そうだね。浅はかな行動だったとは思うけれど、それが全くの無駄に終わったわけではないから後悔はしていないよ」


そう言ったお父さまの顔をじっと見つめながら首を傾げる。

一体どのような結果があっての言葉なのだろうかと。


「ロンベルト本人はあまり納得はしていないが劇的な変化があったのは確かだからな」


続いたノーヴァ公爵さまの言葉を聞いて、今度はそちらへと顔を向ける。

お父さまの口からよりも、ノーヴァ公爵さまからの方があっさりとその答えを聞けそうだ。


「あれは偶然の産物とでも言っていいのか微妙な線ではあるが……」


顎に軽く手を当てつつノーヴァ公爵さまは言う。


「君と陛下との二人がかりで水属性魔法を全力で浴びせられた影響なのか、水属性魔法に対する耐性がついたんだったかな……」

「あれは耐性どころの話ではないだろう? 水属性()()に関して言えばほぼ無効化しているも同然じゃないか」

「……え」



────水属性を無効化、ですと……?



思わず目を剥いてお父さまを凝視する。

それに返った反応は苦笑。



────そういえば……



兄さまから攻撃パターンである方の水属性の防護障壁を浴びせられたあの時。

突然だったこともあって激しく咳込みはしてたけど、それが治まったあとのお父さまはこっちがビックリするほどケロッとしてたような……?


あれは単に魔法攻撃に対する耐性が強いからだと思っていたんだけど、実際はそうじゃなかったのか。

水属性魔法をほぼほぼ無効化できるというなら、あれだけ隙間なくびっちりと水に埋められたところで何のダメージも負わなかったという結果になるのも納得だ。


うわぁ~……

まさかの水属性魔法防御チートってやつですかぁ~……


偶然の産物にしては相当なものを手にしてますよ、お父さま。

水属性()()に限るとはいえ、無敵の防御を誇るだなんて超絶羨ましすぎる!


「それだけじゃないだろう。元々多かった魔力総量がかなり底上げされた上に、風属性の上位である嵐属性の適性をも得られたのではなかったか」

「? ……あ~…………言われてみれば。確かにそうだった、かも……? 嵐属性魔法とか普通に使う機会なんてほぼほぼないに等しいから今の今まですっかり忘れていたよ。魔力の底上げも元々の量を考えると特に気にもしていなかったし」



────うわ~……うわぁ……



なんという羨ましすぎる能力の底上げ!

しかも本人、ほぼ気にしてないとかどんだけですか。


無茶した結果の副産物もらいすぎでしょ。

これが命懸けた結果というやつですか?


人間死ぬ気になれば何でもできるとは言うけど、ここまでの結果が出るとか俄には信じらんない。

やっぱそれなりにリスクを負ったからこそのリターンの大きさなんだろうか。

大きなものを懸けたからこそ、その見返りも大きかった、ってか?



────まぁ、でも……



それを考えると少しどころかかなり納得できるかもしれない。

お父さまが大きな結果を得られたのに対し、私が何にも得られなかったというその事実が。


……だってあの時。

私はお父さまのように、何も懸けたりなんてしていなかった。

何の覚悟もなかった。

突然の不意打ちだったから、それが当然だと言われればそうかもしれない。


……それに。

私はお父さまの時とは違って、魔法の集中砲火を浴びたわけじゃない。

ただ、向かっていった先にあった風の障壁に弾かれただけ。

それも兄さまに庇われて守られながら、だ。

全くの無傷で無事だったのはロイアス兄さまが守ってくれたからに他ならない。


仮にそれが『突然の危険に咄嗟に対処できた』と解釈されたとしても、私自身が一人で対処したわけでもなければ、自力で解決したわけでもない。

それで『頑張りました!』『試練を乗り越えました!』なんて言われたら『はぁ? 何言ってんの、バッカじゃないの??』って当然なる、私的には。

100パー断言できる。


兄さまがレベルアップするならまだしも、何もせずにただ守られていただけの私がレベルアップするとか有り得ないから!

RPGで高レベルの仲間に一人だけ紛れたレベル1のメンバーが何もせずにおこぼれに与ってぽろぽろぽろぽろレベルアップさせてもらってるようなものじゃん!

何その『ラクしておいしいとこ取り』みたいなやり方!



────断 じ て 認 め ん ! !



私は努力をせずにラクしてのほほん……だなんて生き方は大ッッッッッ嫌いだ!!!


マトモな大人になるとは思えん。

まだそうと決まったわけじゃないけれど、悪役令嬢としての位置にいる(ことになるかもしれない)私がそんな生き方をするなんて自ら死亡フラグをドカドカ建設するようなものじゃないか。


よって


『ラクする、ダメ!』

『努力、大いにしなさい!』


……な、どこまでも己に厳しい生き方をするのです。

そうやって真っ当な大人を目指すのです。


これ、ワタクシめの目標。

今決めました。


ただ、これだけは言っておく。

死ぬ気になってうんちゃら~……っていうのはノーセンキューでお願いします。


この先どれだけきつかろうとも血の滲むような努力は怠らないつもりでいるけど、さすがに死ぬ気になってまでやるのは無理があるからね。

ほんの少し前にあわや溺れ死ぬかも、なんて目に遭っているわけだから。

今の私(フローレン)に生まれ変わってまだ5年にもならないというのに、そう簡単に命懸けられますかってんだ。


それでも……


「魔力の大幅底上げは羨ましい…………」


という気持ちは捨てられないのが悲しいところ。

命は懸けられないけど、魔力の大幅底上げは叶えたいだなんて、それこそ私の大嫌いな『ラクしていいとこ取り』だよ。

ジレンマもんだわ。


ダメだとは分かっていながらも、こと魔力に関してはぐらつきそう。

だからって命を懸けられるかはまた別モノ……


「う~ん……」


己の命と魔力大幅アップとがそれぞれの受け皿に載せられた天秤がガッコンガッコンと互いに上下してる映像が容易く脳内で再生される。

それだけ私にとっては悩ましい問題なわけだ。


おおよそ幼女らしくない顰めっ面でうんうん唸りつつ悩んでいたら頭上から微かな笑い声が聞こえてきた。

……と同時に覗き込まれるように顔を見つめられ『そんなに魔力の底を上げたいかい?』と問いかけられた。

問うたその人はもちろんノーヴァ公爵さまだ。

一瞬何を言われたのか理解が追いつかず、パチクリと数回瞬きを繰り返すと再度同じことを問われた。


「魔力の底を上げたいかい?」

「……上げたい、です。でも…………」

「でも?」

「……お父さまみたいに、命を懸けるのは、ちょっと…………」


悩んだところで結局選ぶのは己の命だというのは最初から分かりきっていることだ。

それでも、悩むくらいには魔力の底を大幅アップさせることを強く望んでいることも確かなのだ。


「ダメだよ、レーン!? 私の時はたまたまああいう結果になっただけで、確実に狙った効果が得られるわけではないからね?」

「まぁ偶然の産物というやつだな。狙っていた『水属性を得る』という目標は達せられなかったのがその証拠でもあるからな」


うん、だから。

リスクが高すぎるって分かってるんだから、さすがにソレはやらないよ。

仮にそのやり方で確実に効果があると約束されていたのだとしても、やるかどうかは五分五分だ。

それでホントに死んだらシャレにならないからだ。


……うん。

やっぱり地道にコツコツやってくのが堅実だと思う。

『急いては事を仕損じる』って言うでしょ?

それと『急がば回れ』とも言うしね!


「ちなみにフローレン嬢の魔力量はどのくらいなのかな?」

「ホントに僅かです」


スッカスカのスカスカですが何か?

ロクな防護障壁すら張れませんでしたとも。


「レーン。生活魔法の水の玉を出してごらん」

「? いいんですか? お部屋の中ですよ?」

「生活魔法だから構わないよ。何の危険もないからそこは安心していい」

「分かりました」


ノーヴァ公爵さまがそう言うなら絶対だろう。

お父さまも頷いているし。


水よ(ウォルタ)


スッと人差し指を出し、水の生活魔法を行使する。

現れたのはやっぱり小さな水の塊。

ちょっとくらいは成長してくれてもいいのに……とがっかりする気持ちはあるけれど、たった一日で変化するほどの成長が見込めるのであれば、私の魔力量がへっぽこであるはずがないのだ。


「……ふむ」


私が出した水の玉を見てノーヴァ公爵さまが軽く思案するように顎に手を当てた。


「発現は澱みなくスムーズだ。更には出した水球が揺らぐことなく一定の状態を保って安定していることを鑑みるに、魔力操作に関しての適性は優良だと言って差し支えないだろう」

「本当ですかっ?」


魔法のエキスパート中のエキスパート、それも術師の最高峰ともなるノーヴァ公爵さまからそう言われたことでちょっとだけ自信が持てた。

魔力量はへっぽこでも才能自体がないと言われたわけではないからだ。


「……そうだな。操作性は最良だとして、逆に感応性が弱いのだろうと考えられる。それさえ克服できれば身体が自然と選別した魔素を取り込もうと働くようになるし、それに応じて魔力の器自体を広げることも可能となるだろう」


……ってことは。

その感応性というのを鍛えられたら魔力総量の底上げは夢じゃない?


「とにかく数を熟すことだ。何度も何度も繰り返し魔法を行使し、その中でどのように魔力が巡っているのかを身体全体で感じることができるようになれば自然と土台はできあがる」

「魔法を使い続けることが大事……」

「その通りだ。道は長いだろうが、諦めずに継続することで可能性はいくらでも広がっていく。あとはそうだな……やる気と忍耐が試されると言ったところか」


いかにも子どもが嫌がりそうなことだよね。

やる気と忍耐と継続なんてさ。

でも、私は違うよ。

可能性があるのならいくらだって頑張れる。

そこに結果が約束されているのならば尚のことだ。


「やれます、私!」

「!」


グッと拳を握り締めながら叫ぶように宣言した私の反応が意外だったのだろうか。

ノーヴァ公爵さまが一瞬だけ驚いたような表情を見せた。

向かい側のお父さまは私がこう言うことを分かっていたのだろう、ただただ苦笑していた。


「……うん、その心意気があれば結果は自ずとついてくることだろうね。どういう形であれ、重ねてきた努力は裏切らない。存分に励むといい」

「はい!」


魔法の第一人者からのお墨付きをもらったんだ、頑張れないはずがない。

再びグッと拳を握り締めて決意を新たにする私。

そんな私を見て柔らかく笑んだノーヴァ公爵さまが優しく頭を撫でてくれて、反射的に顔がふにゃりと緩んだ。


「まだまだ幼いのに一生懸命だね。そんな立派なご令嬢に術師の先輩として一つ手助けをするとしようか」

「?」


柔らかな微笑を湛えたまま、ノーヴァ公爵さまが懐から取り出した手帳の一ページにサラサラと何かを書き始める。


「一見すると非常に無意味だが、少し見かたを変えるだけで、ある一点に於いては非常に有益となる術式を授けてあげよう」

「???」


…………はい?

無意味なのに有益って何??


わけが分からないまま首を捻る私を余所に、サラサラとまるで走り書きをするようにその『術式』とやらを書き終えたノーヴァ公爵さまが徐にページを破り取った。

笑顔で手渡されたそれを反射的に受け取る。


「………………」


書かれているのは確かに『術式』なんだろう。


……でも。

どう見てもそれは『術式』とは言い難いものだった。


なぜならそれは、私が今まで見てきた『教本に書かれている術式』とはまるで別ものの、全然違う何かを記したような初めて目にするタイプの『術式』だったのだから……─────










「それでロイ兄さま!」

「うん?」

「…………かくかくしかじか! とこういうわけなんですが。あのあと何か変わったことはありました?」

「ん~……強いて言うなら以前よりも風属性の魔力の流れが見えやすくなった……かな?」

「!!!」


やっぱり兄さまだけレベルアップしとる!!!




……なぁ~んていう遣り取りがどっかであるのだと思います(書くかどうかは別として(^^ゞ)


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