『イブ』のワードで誕生日を思い出す
閲覧、ブクマ、評価といつもありがとうございます。
少しずつ数字が増えていってるのに気づいた瞬間「わぁぁ! ありがとうございます!」という気持ちで続きを書く力に変えさせてもらってます♪
見てくださっている皆さんのおかげです。これからもお付き合いいただけたら嬉しいです!
※追記※
前話に続きまして『月』の表記の読みにルビ振りの修正をしております。
~『イブ』のワードで誕生日を思い出す~
お母さまによる地獄の『ママ呼び』から解放されて数分。
ぐったりしていた私はやっとのことで精神力がちょっぴり回復しました。
ご満悦のお母さまは、ニコニコ笑顔で暦表に指を滑らせ、来週末の催しを参加する日にチェックを入れて予定を書き込んでいる模様。
その様子をじっと見つめていると、触れるだけでは淡い赤色の光が灯るだけだったものが、そこに予定として『何か』を記した瞬間にピッカピッカと点滅する金色に近い黄色の光へと変化した。
思わずガバッと身を起こし、食い入るように暦表を見つめるとお母さまが楽しげにくすくす笑い出した。
「驚いた、レーン?」
「はい。急にピカピカ光ったので驚きました」
「この暦表はね、指先で触れることで魔力感知をして触れた部分の光を変えるの。今回は催しの予定を微弱な魔力を通すことで書き込んだのよ」
「それじゃ、予定が入ったから黄色に光っているんですね」
「ええ。お出掛けの予定は黄色ね。それから……」
すいっと指先を滑らせて、お母さまは表示を二月分先へと進めた。
水竜の月、10の日、前世で言う6月10日のマスに、淡い水色の光が点滅している。
この日は確か……
「兄さまの誕生日!」
「ええ、そうよ。この日はロイアスのお誕生日ね。ロイアスだけじゃなく、家族全員のお誕生日にはこうして淡い水色の光を灯しているの。だから……」
再びお母さまの指がすいっと滑り、暦表を更に次の月の一覧へと進めていく。
「レーンのお誕生日もホラ。ロイアスと同じで淡い水色の光を灯してあるでしょう?」
示されたそこは、嵐竜の月、6の日。
つまりは、7月6日。
『……七夕・イブ』
────え……?
『お前、何が欲しい?』
────今のって……
アイツの、声……?
────でも……
────なんで、今……?
『なんで? じゃ、ねぇだろ。オマエ、自分の誕生日忘れたとかふざけたこと抜かすなよ?』
────たんじょう、び……?
七夕・イブ。
七夕は、7月7日。
イブはその前日。
つまり、7月6日。
フローレンの、誕生日。
ううん、違う。
あの時。
あの日。
アイツが言っていた誕生日は。
フローレンじゃなくて、前世の、私の方のだ……
だから……
「たなばた、イブ……」
無意識のうちに、そう零していた。
「レーン?」
「えっ?」
「今何か言った?」
どうやらお母さまには聞こえていなかったようだ。
「ううん、何でもないです」
「そう?」
「はい」
一瞬思い出した前世の何気ないワンシーンは、あっという間に霧散していった。
でも。
それだけで十分収穫はあった。
知らなかったよ。
フローレンと私が同じ7月6日生まれだったなんて。
ううん、違う。
知らなかったんじゃなくて、ただ思い出せずにずっと忘れていただけなのかも。
だって。
あんなに好きで夢中になったゲームだ。
登場人物のプロフィールだって、細かいところまで網羅していたと自負している。
当然のことながら、それぞれのキャラの誕生日だってしっかりと把握しているのだ。
確かに、あのゲームのフローレンの誕生日は7月6日の設定だった。
ただ、この世界のように、嵐竜の月、6の日、なんていう表記ではなかったけれど。
────もしかして、私がフローレンに転生したのって、誕生日が同じだったから……?
「まさか、ね……」
またも声にして呟いてしまったけれど、これもお母さまには聞こえていなかったみたいだ。
「そうだわ、レーン」
「はい?」
「あれからずっと聞けずにいたのだけれど、ロイアスへのお誕生日プレゼントはどうしたい?」
若干眉を下げ、困ったような表情で問いかけられたそれに、私は思わず『あ……ッ!』と小さな声を上げてしまっていた。
そうだよ。
ロイアス兄さまの誕生日のプレゼントとして用意するはずだった油彩画は、もうどうにもできないんだった。
もう一度一から描き直すにしても、あれだけの大きさとなるともうどうにもならない。
特注で買い入れた、私の背丈の倍近くもあるカンヴァスだったからなぁ。
同じものを再度注文するにしても、それがいつ届くかなんて分からないし。
仮に届いたところで、兄さまの誕生日までに絵を完成させられるという保証はない。
100%無理だと言い切ってもいいだろう。
いくら前世の記憶が戻って、油彩画を描く技術面が格段に上がっていたとしても、だ。
下地から慎重に塗り重ねていかなければならないという複雑な工程を考えると、水彩画に比べて圧倒的に完成までにかかる時間が長すぎるのだ。
小さめのカンヴァスに描いてギリギリ間に合うかどうかのラインかもしれないのに、大きなものとなるとどう考えても無理がある。
あれ?
ちょっと待って?
油彩画を兄さまの誕生日プレゼントにするっていうあれ、お母さまに話してたっけな、私?
兄さま本人に知られないように徹底的に秘密にしていたことは確かだけど、お母さまにそのことを直接話した記憶はない。
もしかしてメリダとエルナから報告がいっていたのかな。
壊されてしまったこと含めて全部。
思い出すようにしながら『う~ん……』と唸り声を上げていた私を見たお母さまの苦笑が濃くなった。
その表情で答えは出たようなもんだ。
話したか話さなかったとかそういう問題じゃない。
知っているか知っていないか、なのだ。
そしてお母さまは知っている……ということ。
だからこうして確認してきたのだろう。
「……油彩画は、もう無理です」
「ええ……そうよね。初めて挑戦した絵だったものね」
「…………はい」
前世の記憶が戻る前のフローレンは、だ。
でも今の私は、油彩画は初めてではない。
思い出した記憶とともに、身体の感覚までしっかりと戻っている。
どのように描けばうまくいくかという方法も同じく鮮明に残っている。
とにかく絵に関する知識だけは、膨大に頭の中に詰まっているのだ。
「レーンはどうしたい? やっぱりロイアスへのプレゼントは自分で描いた絵がいいのかしら?」
ちょっと前までの自分だったら、膨れっ面になって拗ねながらも頷いていただろう。
我ながら頑固だったから、一度こうだと決めたらそれをやり遂げないと気が済まない性格だったのだ。
でも前世の記憶が戻った今の自分はそこまで頑なではない……ハズ。
無理があると分かったらすぐさま切り替えるという柔軟さは持ち合わせているつもりだ。
「絵にしたいな、という気持ちは変わらないです。でも、間に合わないって分かっていてまた絵にするのは、違う気がするんです。でも……」
「レーンは自分の手で作ったものをロイアスにあげたいのよね?」
「……はい」
そう。
絵にこだわったのは、兄さまに対するたくさんの思いを込めた手作りの品を渡したかったからに他ならない。
手作りと一口で言っても、その品は様々で多岐に渡る。
その中で絵にしようと思ったのは、私にとって身近で手を付けやすかったものがそれだったから。
更に絵の中で油彩画にすると決めたのも、初めて挑戦したものを最初に見てほしいと思った相手が兄さまだったからだ。
幼い子どもの拙い絵だ。
有名な画家や芸術家が手掛けたものと比較したら遥かに見劣りするだろうことは分かっている。
それでも。
自分の好きなものにたくさんの思いを込めて兄さまに贈りたいと願う気持ちは、私にだけしかあげられないのだと、そう信じていたから尚のこと絵にこだわったのだ。
「ねえ、レーン」
「はい」
「自分の手で作りたいと思うものは、絵でないといけないかしら?」
「……いけないとは、思いません。ただ、自分が得意なことのほうが失敗も少なくて済むかなって……」
「なるほどね」
頑なに『絵じゃないとダメ』という答えが返るとでも予想していたのだろうか。
意外だと言わんばかりの苦笑を浮かべたお母さまを見て、私は緩く首を傾げる。
「確かに大切な人に贈るものだから失敗は避けたいわよね。でもね、レーン。少しくらいの失敗も有りだとは思わない?」
「えっ?」
「例えば……形が歪だったり、線が歪んでいたりとか。職人ではまず有り得ないような品よね? だけど、素人が手作りをするとなるとどうしても完璧だと言えるものを作り上げるのは難しいと思うの。だってあなたはその道の専門ではない、一人の女の子なのですもの。何も完璧なものを作らなければならないなんて決まりはないわ。逆に、少しくらい失敗していたほうが相手には喜ばれるのではなくって?」
「失敗したほうが、喜ばれるんですか?」
「ええ。だって普段は明らかに不慣れでしょうに、それでも一生懸命自分の手で作ってくれているのよ? それも自分のことを思ってのものなのよ? たくさんの気持ちを込められているというのに、それを嬉しく思わない人なんて果たしているのかしら? わたくしだったら、きっと天にも舞い上がるほどの気持ちで浮かれてしまうことでしょうね」
「お父さまからそうしてもらえたら、ですか?」
「ええ。分かっているじゃないの、レーン」
くすくす笑いながらお母さまは『身内だと特別よね』と口にする。
それはある意味、身内だからこそ手作りの品は尚のこと喜ばれるのだと言っているも同然だ。
「ロイアスなら、レーンの手作りの品物だと分かった時点で間違いなく喜んでくれるわ。笑顔で受け取ってくれるでしょうね」
なんて言葉が続けて発せられたものだから、私は思わず目を剥いてお母さまを凝視してしまった。
その私の反応こそが意外だったとでも言わんばかりの表情でお母さまは再びくすくすと笑い出す。
「この際だから、絵以外のものにも挑戦してみてもいいんじゃない?」
「絵以外のものに、ですか?」
「ええ。来週末のチャリティーの催しで、工芸品を作る体験もできるのよ? それを見てからでも遅くはないんじゃないかしら? 色々と閃きが生まれるかもしれなくってよ?」
「!」
……なるほど。
絵以外の何かにどのようなものがあるのかは分からないけど、工芸品作りを体験できるというのはちょっと興味が湧いてきた。
体験だからさすがに本格的なことはやらないだろうが、ごくごく基本的なものに触れてから関心を持ってもらおうという目的の催しだと考えたら、かなり目の付け所のいい催しものではないかと思える。
「……では。来週の催しものを見て、心惹かれそうなものがありましたら、そちらのほうをプレゼントの候補に入れたいと思います」
「きっと素敵なものを見つけられると思うわ」
「だとしたら嬉しいです」
代案は柔軟な心で受け止めます。
聞くだけでもかなり興味が湧いてきた提案だけど、実際に自分の目で見てみることでその興味がやる気に変わるかもしれない。
とにもかくにも、まずは己の目で見て確かめるべし、なのだ。
うん。
とりあえず今は悩むのはやめておこう。
町の催しに参加して、色々見てから『コレ』と思うものを見つけることから始めるんだ。
もし見つからなかったら……その時はその時で、また別に何かを考えることにする。
お母さまも相談に乗ってくれると思うし。
そんなこんなで、お母さまとの『とっても楽しいお話』は終了した。
これは催しの参加が終わるまでは誰にも内緒だ。
怪しまれるような言動をとらないよう気をつけなきゃ。
この後お母さまは『チャリティーバザーに出品する品物のことでヴェーダ他数名の使用人たちと打ち合わせがある』ということで別室に設けた会議の場へと向かっていった。
私はサッシーを連れて自室へとリターンです。
そうそう。
そのサッシーだけど、今の今までぐっすりと夢の中ですよ。
なう、ですよ。
ご機嫌に『プピキュウ~……♪』なんてヘンな寝息を立てながら、鼻ちょうちんまで膨らませてます。
前にもおんなじこと思ったけどさ?
なんで鼻ないのに鼻ちょうちん膨らませることができるんだろうね?
ホンット、つくづく謎な生きものだよこの子は!
自室に戻った私は、ふかふかクッションにサッシーを寝かせてから秘密のスケッチブックを取り出した。
例のゲームの登場人物を描いたアレだ。
さっき自分の誕生日のことを思い出したことで、簡単プロフィールの中にそれぞれの誕生日を書いていなかったことを同時に思い出したのだ。
さっそくパラリと表紙を捲る。
1ページめは飛ばしたから真っ白のまま。
次のページは思い出してから一番最初に描いた俺様殿下と、悪役令嬢前髪ありのイメージバージョンとのツーショットだ。
でも間に分断する線入り。
私のささやかな『関わらない』意思表示のつもりの線だ。
その次のページから、メインキャラのランドール王子を筆頭に、順番に一人ずつキャラ絵を描いているのだ。
とりあえず真っ先に思い出した自分の誕生日から書き加えていこうと思う。
パラパラと数枚ほど捲り、開いた悪役令嬢のページ。
ゲームのまんまの状態のおデコ出し、豪奢な縦巻きドリルロールのフローレンがいる。
あれだけ見慣れた姿なのに、今となってはもう違和感しかない。
パッと見た瞬間『誰だよコイツ?』と言いたくなる。
だって今の私は前髪を切って下ろした状態なのでおデコ全開じゃないし、髪も巻いてないから縦巻きドリルロールなんていうものとも無縁だ。
おまけに毎朝鏡に向かって笑顔の練習もしているから、ぬこ様のような『キッ!』としたツリ目であっても全くキツい感じには見えないのだ。
これは思い込みではなく、お邸にお勤めの使用人の皆さん同じように言ってくれます。
決してワタクシめ、キツい顔なんてしてないですよ?
笑顔も淑女の嗜みの一つでございます。
ちゃあんと気をつけてるんですよ。
そういう風にレッスンで教わっているしね!
……とまぁ、自分とは同一人物とは思えない悪役令嬢の絵をしげしげと見つめつつ、徐に鉛筆を取った。
それから名前のすぐ側に『嵐竜の月、6の日(7月6日)生まれ』と誕生日を書き加える。
それにしても……
「『七夕・イブ』っていうアイツの言葉で思い出すとか……」
ほんの一瞬だったとはいえ、よくもまぁあそこまで鮮明にアイツの声が頭の中に甦ったもんだ。
ちょっとだけ意地悪そうに笑ってた顔は、まるでゲームの俺様殿下みたいだった。
っていうか、外見は別として、中身はホントにランドールにそっくりだったもんな、アイツ。
そのせいか前世の私は事ある毎にアイツにこう言ってたっけ。
『アンタ生まれてくる場所、二次元と間違えたんじゃないの?』
……って。
そしたらお互い様だとばかりに反論されたっけ。
『オマエだって似たようなもんだろうが』
……って。
似た者同士だとよく言われてきたけどさ。
いつでもどこでもアイツとセット扱いされるとか意味分かんなかったわ。
でも……嫌じゃ、なかった。
それくらい、アイツには心を許してたんだなって。
「……っていうか。アンタだって人のこと言えないわ。クリスマス・イブ生まれのクセに」
私のほうがアンタよりも5ヶ月もお姉さんなんだぞ、っと。
「ホンット、どこもかしこも俺様殿下とそっくりすぎでしょ……って……」
────え……?
俺様殿下そっくり……?
どこもかしこも……?
クリスマス・イブ生まれ……?
「……そうだよ。ゲームの俺様殿下の誕生日は12月24日、クリスマス・イブだった……」
慌ててスケッチブックを捲り、ランドールのページへと戻る。
自分で描いておきながら、彼の特徴をこれでもかとばかりに捉えた勝気な表情の俺様殿下にほんの少しだけイラッと来る。
書き殴るようにして、名前の側に『闇竜の月、24の日(12月24日)生まれ』と加えたところで、もう一度ジトッと睨むように絵の中のランドールを見遣る。
金髪碧眼。
背、高い。
当然ながらイケメン。
文武両道で傲慢な俺様。
兄であるセドリックを尊敬している。
尊大ではあるけれど、懐に入れた相手には優しい。
……なんだコレ。
こうして見てみたら、俺様殿下って、まんまアイツじゃないか。
金髪碧眼というところ以外ほぼ全部。
アイツもイケメンで背は高かった。
当時身長160超えだった私より、更に頭一つ分は背が高かった。
おまけに勉強もできるし、運動もできる。
兄がいて、そのお兄さんのことをものすごく尊敬していた。
でもって従兄弟のお兄さんのことは尊敬しつつもちょっと恐れてた。
偉そうで俺様で、でも、身内とか仲のいい友人相手にはホントに優しかったし、親しみやすかった。
……何の偶然ですか、コレ。
まるでアイツをモデルに俺様殿下を作ったって言ってもおかしくないくらいに似すぎてる。
おまけに誕生日まで同じ……
────ヤバい!!!
ほぼアイツみたいだと思ったら急に俺様殿下に対して親近感が湧いてきた……!
関わらないって決めたのに!
絶対に関わるまいって思ってる筆頭人物なのに!
万が一、実物の王子と出会ったと仮定した場合、恋愛面に関してだけ不遜な態度だったり傲慢な面を見せたりするのであれば『ああ、まんまゲームと同じだな』って感想だけで済まされるかもしれないけど。
その他の私生活面も全てがそうであるとは限らない。
生活面全てにおいて、常に尊大で不遜で傲慢で俺様な態度を貫くとは考えにくい。
相手により、場合により、状況によりけりで見せる顔を使い分けるくらいはするはずだ。
アイツがそうだったように。
この世界の第二王子もまた、一人の人間として生きているわけだからそうしているのが当たり前だと考えるのが自然だ。
そして前世の私は、まんま俺様殿下と同然のアイツとそれなりに仲良くしていた。
いや、それなりにどころじゃない。
かなりの仲良しだった。
『悪友』兼『趣味仲間』として。
互いの家に訪ねていっては入り浸り、隣合わせでゲームしちゃうくらいには仲良かったんだよぉぉぉぉ!!
でもって互いの趣味にこれでもか、ってほど付き合わせてもいた。
私は絵、アイツは考古学関連全般、特に宝物関連の分野にめっちゃ興味持ってた。
どのくらいナントカ古代展とかっていうのに付き合わされて博物館に足を運んだっけ。
まぁ同じくらい私も美術館に付き合わせたけども。
もしこの世界の俺様殿下があの頃のアイツみたいな感じだったら。
普通に仲良くできてしまう自信がある。
これはヤバい。
仲良くできる自信があるからって普通に仲良くなってしまったら最期『破滅フラグよ、こんにちは♪』じゃないですか、ヤダー!!
どんなに仲良くして友情積み重ねたとしても断罪されて追放ですよ、追放。
お友だちに裏切られて排除されるって辛すぎる。
人間不信に陥るわ!!
「……うん。やっぱ関わるべきじゃないわ。俺様殿下とは徹底的に関わらない方向で行こう。『仲良くしてれば破滅回避できるかも!』とかいうご都合主義的な展開は期待しないに限る」
己の身は可愛い。
命大事に、だよ。
某RPGゲームのバトル作戦じゃないけれども。
……なんか誕生日思い出しただけでドッと疲れた。
「他の人物の誕生日も書いておかなきゃ……」
最初の俺様殿下のページに戻っちゃったから、順番に行くか。
「え~っと……王太子セドリックの誕生日は、っと……」
神竜の月、30の日(10月30日)生まれ。
「次。宰相子息、チャラ男担当のユージィンは……」
幻竜の月、3の日(11月3日)生まれ。
「次。兄さまだ。堅物な苦労人ポジ、公爵子息ロイアスは……」
水竜の月、10の日(6月10日)生まれ。
「次。ミステリアス担当、俺様殿下の側近レオニール……」
煌竜の月、5の日(5月5日)生まれ。
「次。レオニールの兄、王太子の側近ウォーレンは……」
魔竜の月、15の日(9月15日)生まれ。
「それから……超弩級のチート、公爵子息ルーファスは……」
天竜の月、29の日(4月29日)生まれ。
「あと、ライバル令嬢のリリちゃんは……」
聖竜の月、14の日(3月14日)生まれ。
「……っと。こんな感じかな」
当然のことながら、ヒロインはのっぺらなので誕生日は不明。
これもプレイヤーが好きに決められるんだわ。
設定しなかったらランダムで適当に誕生日が決定される。
しかしこうして見てみるとアレだわ。
大半が日本の祝日───旧祝日含む───だったり、イベント日だったりと分かりやすい日になってんだけど。
このゲームの制作チーム、絶対に考えるの面倒になってテキトーな日付をキャラの誕生日として割り振ったな。
そうとしか考えられん。
祝日やらイベント日やらと関係ないのって、王太子とロイアス兄さまくらいじゃないか。
あとは私も……か?
それも微妙なところの七夕・イブって何ですか。
なんで分かりやすく7月7日の七夕にしないのか。
ハズレ引いたみたいでモヤっとするなぁ、もう!
まぁそんなこと言っても生まれてくる日を選べるわけじゃないからどうにもならないんだけどね。
しかしうまい具合に前世と同じ誕生日で生まれてきたもんだな、私も。
偶然にしちゃできすぎというか、私がフローレンとして転生したのに、この『誕生日の一致』が関係しているのだろうか?
……分からん。
とりあえず考えても分からないことは、考えるだけ無駄だと分かっているので例の如く考えることは放棄するのです。
「……あ」
そういや王太子も微妙っちゃ微妙だわ。
10月30日って言えばハロウィン・イブじゃん。
この世界では31日は存在しないし、ハロウィンに準じたようなイベントはなさそうだな。
……残念だ。
パタンと秘密のスケッチブックを閉じて、定位置へとしまい込む。
そうしてチラリと時計を見遣るとそろそろお昼ごはんの時間に差し掛かろうとしていた。
わりと時間を食ったかと思っていたけどそうでもなかったようだ。
でも若干お腹は空いてきた。
軽くでいいから何か食べたいなあ~と思っていたところでエルナが呼びにきた。
どうやら昼食を食堂か部屋のどちらでするかを訊きにきたようだ。
私は迷わず『食堂で!』と即答する。
なぜなら、お父さまと一緒に食事ができるかもしれないからだ。
もしかしたら部屋で食事をしているかもしれないけれど、そこは半々の確率といったところ。
大体の場合、お父さまが部屋で食事をする時というのは仕事をしながらの合間にとる、ということが殆どだったりする。
けれど、今現在のお父さまは休暇中の身。
部屋で仕事をしているということは考えにくい。
仮にやっていたとしても、優秀な側仕えに有無を言わさず取り上げられて、寛ぐように仕向けられていることだろう。
だから、部屋で昼食をとっているという確率はもう少し低いかもしれない。
そういうわけで、私は食事のために食堂へと向かった。
今度は一人ではなくエルナと一緒に。
何せエルナは私の食育担当で給仕も兼ねてくれていますからね。
好き嫌いの大半は克服できている私だけど、それでもやっぱりエルナについていてもらえると安心するのだ。
今度は偏食を防ぐ、という意味で。
子どもだから仕方ないかもしれないけど、どうしても好きなものばっかりに食が傾いてしまうんだよね。
誘惑に負けやすい私は、エルナに側についてもらって食べるものの割合が偏ってしまわないようセーブしてもらっているのだ。
食事はバランス良くしないとね!
偏った食事なんてしてたらとんでもない身体に育っちゃうよ!
おデブとか、おデブどか、おデブとかね!!
「……おや? レーンと昼食の時間が重なるなんてかなり久しぶりだね」
「はい、お父さま!」
「部屋で食事をしているんじゃなかったのかい?」
「お父さまとご一緒できるかもしれないと思って、食堂でとることにしたんです」
食堂についたら、お父さま発見ですよ。
私から話しかける前に、お父さまの方から声をかけてくれました。
そのまま向かい側の席を勧められて、笑顔で頷き着席。
お父さまと一緒にお食事するぞ計画は順調です。
席につくと同時に、エルナが手際よく昼食を運んで並べてくれて、準備が整ったところでいつものように手を合わせて『いただきます』をする私。
そんな私をお父さまは笑顔で見守ってくれている、という状態。
久しぶりだから娘の食事の様子をもっとよく見ていようと思ってくれているのかも。
用意されていた昼食はちょっと軽めで、サラダとホットサンド、それからコンソメのスープとフレッシュジュース、というメニュー。
どうしても晩餐で豪華になりがちだからか、昼は比較的控えめで軽いものが多いんだよね。
晩餐の前にお茶の時間も入ったりするし、その時にお菓子もわりと食べるので、そのことも考慮してのメニューなのかもしれない。
食事を開始して真っ先にサラダに手をつけた私を見たお父さまが、ビックリした顔でこう問いかけてきた。
「もう野菜は食べられるようになったのかい?」
「はい!」
「あれだけ野菜嫌いだったのに、随分と頑張ったんだね、レーン」
……と、それはそれは嬉しそうに私の成長を喜んでくれました。
「好き嫌いをしていたら大きくなれないので。嫌いなものも頑張って食べて、ちゃんと食べられるようにしようって決めたんです」
「うん。それはいい心構えだね」
「それとですね」
「ん?」
「嫌いだからってお残しをするのは、作ってくれた人に対してすっごく失礼なことをしてるって気づいたんですよ」
これは前世からのもったいない精神からの持論。
だけどお父さまは、私の言葉を聞いて笑顔で頷いてくれた。
「そうやって作った者のことを考えられるというのはとてもいいことだね、レーン。その気持ちが好き嫌いを直そうという思いへと繋がったのかな?」
どうだろうね?
そうとも言えるし、そうでないとも言える。
さすがに前世からの持論ですとは言えないので、そこはニッコ~と笑顔を返しておいた。
お父さまもまたハッキリとした答えを求めていなかったのか、言葉を返さなかった私に何も言うことはなかった。
そんな感じで他愛ない話をしながら食事を終えたところで、私はお父さまにこう切り出した。
もちろん当初の目的を果たすため、だ。
「お父さま」
「何だい、レーン?」
「今日この後ですけど、何か予定は入っていますか?」
「特に何も入っていないよ。仕事をしようにも取り上げられてしまうからね。本を読むにも飽きてしまったし、そろそろ退屈に殺されてしまいそうだよ」
「……ということはおヒマです?」
「有り体に言うとそうなるね」
「だったらお父さま! この後のお父さまのおヒマな時間を私にください!」
「うん、もちろん。レーンが欲しいと言うのならいくらであげるよ? またお絵描きに付き合えばいいのかな?」
「今日はお絵描きじゃないです」
「お絵描きじゃない? 一体何なんだろう……?」
「実はですね……」
……とちょっともったいぶってみせたら、お父さまが苦笑しながら首を傾げた。
本気で私が何を言い出すのか予想できないみたいだ。
「魔法のこと、教えてほしいんです」
「魔法を、かい?」
「はい! え、っと……魔力中毒の影響は……」
「そっちはもう何も心配はいらないよ。既に影響は抜け切っているしね。念には念を……ということで、身体を休めることを目的とした休みなんだけれど、実際のところは溜まりに溜まった休暇をいい加減に消化しろということらしいね」
「……………………」
今までどんだけ休んでなかったんだよワーカホリックめ!
……と、言いたいところだけど、務めてる立場が立場だけに休めるような状態でもなかったんだろうな。
今回の纏まったお休みだって、ノーヴァ公爵さまが動いたことで強引にもぎ取ったようなもんだし。
お父さまが言うには、久々の休暇だということで家族サービスに全振りするつもりでいても、結局は邸中の皆に心配をかけてしまっているわけだから、どんなに本人が『元気だ』『大丈夫だ』と言ったところで休まされるのがオチなんだとか。
だから、私が突撃をかけて強引にお絵描きに付き合わせているあの時間は、お父さまにとっては退屈を紛らわせるための貴重な時間になっていたらしい。
そういうことなら、今度から遠慮なく突撃かけて構ってもらうことにしよう。
まぁ、淑女教育という名のレッスンが入っていない空き時間に限られてしまうけれども。
「とりあえず、身体は何ともないと言っても、休暇の表向きの理由が魔力中毒の後遺症による療養となっているからね。さすがにこの状態で、魔法を実践で教えたとなると問題だろうから、教本を使っての説明が中心になると思うよ?」
「十分です! 中身空っぽの状態で魔法を使うのは危ないっていうことがよ~く分かりましたし!」
加減が分からんという意味でな!
「そうだね。いくら思い描いたイメージで魔法を完成させられても、基礎が入っていない状態ではかなり危険だ。程度の判断がつけられないだろうし、下手をしたら力技で強威力のものを簡単に放ちかねない。まずは魔法の概念というものを知識として知っておくことから始めたほうがいいね」
「はい! 知りたいです!」
「あと二ヶ月もすれば本格的な勉強を開始できるけれど、レーンはやっぱり早い方がいいかい?」
「お父さまとお母さまが許してくれるのであれば、早く魔法のお勉強を始めたいです!」
「……そうか。やる気があって何よりだ。それじゃ、少ししてから簡単な基礎内容を中心に教えていくことにしようか。場所はレーンの部屋でいいかな? それとも父さまの部屋にするかい?」
「お父さまのお部屋に行きます! 私のお部屋だとたぶんサッシーがうるさいので」
今はぐーすかぴーすか寝てるけどそのうち起きて笑い出すよ。
あの子は空気読まずに寝るし、起きるし、笑うからな。
かわいい見た目をしていても、中身はやっぱり笑い袋なのだ。
「サッシーって……元はフレイヤさんのサシェだったよね、確か」
「はい! 宝石箱をミッちゃんにした時に、サシェも何かに変わるのかってお母さまが興味を持ったみたいで」
「はははっ、フレイヤさんらしいね」
「?」
「フレイヤさんは昔から珍しいものには目がないんだよ。もちろん可愛らしいものも大好きだったからね。最早その対象が魔法とはいえ、モンスターにまで向けられるようになるとは思っていなかったけれどね」
懐かしそうに笑いながらお父さまは続ける。
「おっとりおとなしい見かけとは正反対で物怖じしない性格だからね。黙って後ろで護られているような人ではなかったんだよ、フレイヤさんは」
「!」
────マジか!?
あんなに『おっとり』『のんびり』『お淑やか』で、見るからに深窓のご令嬢然としたお母さまが?
物怖じしない性格で?
黙っておとなしく護られているような人ではなかったと?
────俄には信じられないんですけど!?
もしかしてお母さまって、典型的な見た目サギってやつですか???
確かに動じない性格ではあると思ったけども。
昔からあんな感じだったってこと??
────何ちゅう胆力だ……
まさに見かけによらずの大物。
それでもまだ信じられないわ。
まさかとは思うけど、普通に魔物とかと対峙して堂々と戦ったりなんて……
「学院時代の実践戦闘訓練の時は、嬉々としてモンスターの群れに突撃していったくらいだからね。それも率先して」
してたーーーーーーーー!!!
「ま、魔物……率先して、突撃て……」
あわあわと言葉を紡ぐと、お父さまが『気持ちは分かる』と言わんばかりに苦笑交じりに頷いた。
たぶんだけど、お父さまもお母さまの意外な一面が信じられなかった一人なんだろう。
「今でこそ、社交界の華と称される洗練された大人の女性だけれどね。子どもの頃はそれはそれはお転婆さんだったよ、フレイヤさんは。だからかな。色々な意味で目が離せなかった。離したくなかった。彼女に夢中になるのに然程時間はかからなかったよ。あっという間に囚われてしまっていたんだ」
「もしかして、お父さまとお母さまって……」
「俗に言う『幼馴染み』という関係だったよ。その関係から抜け出して、恋人同士の関係になるのもあっという間だった」
それから。
互いに恋の感情が芽生えたことで婚約して。
そして。
結婚に至って、今は家族として幸せに生きている。
柔らかい笑みを浮かべながらお父さまはそう語った。
幼女相手に相当な惚気ですな。
お母さまもお母さまだけど、お父さまも負けてないよ。
どっちもお互いにベタ惚れでメロメロのラブラブじゃん。
仲のよろしいことで。
非常によいことだと思います。
「レーンはね」
「はい?」
「幼い頃のフレイヤさんにそっくりだよ」
「見た目がですか?」
「外見もそうだけど、中身もそうだね。お転婆なところもそうだし、突然突拍子もないことを始めたり、とにかく目が離せないところがよく似ていると思うよ。物怖じしないところも、自分の考えをハッキリと言うところも。あとは……モンスターを可愛がるところもそうだね」
いやいや。
それじゃ今私がやってること、まんま昔のお母さまがやってたと言ってるも同然じゃん。
さすがにモンスターを可愛がるはないんじゃないかな?
お母さまがミックやミッちゃん、サッシーを可愛がるのは、あくまでも身近なものをベースとして魔法から生まれたモンスターだからだし。
でもお父さまの物言いだと、モンスターそのものを可愛がっていたとも取れるんだけれど?
「ウサギに似た小型のモンスターをまるでぬいぐるみのように可愛がって逆に恐れ戦かれたくらいだからね」
……は?
「いくら見た目が可愛いと言っても、仮にもモンスターだ。鋭い牙や爪を持っているし、中には頑丈な角を持った種もあるというのに。フレイヤさんはそれさえもお構いなしに突撃しては片っ端から抱き締めて愛でていたからね。倒されるという恐れからではなく、愛でられる恐れからモンスターに逃げられるのもどうかと思ったよ。傍目にはモンスターの方が気の毒に思えたほどだから」
マ ジ で す か ! ?
「……ああ、でも。それを考えたらミックたちを可愛がるのも無理ないか。魔法で生まれたモンスターだけあっておとなしく賢いし、何よりも自分たちのほうから擦り寄っていってるからね。寧ろ野生の凶暴なモンスターを相手にやられるよりはよっぽど安心できるからそっちのほうが……」
おーい、お父さま~?
一体どこに精神トリップさせちゃってんの~?
過去のお母さまのことを思い、その思い出にどっぷり浸かっているであろうお父さまを見ていると苦笑しか出てこない。
それにしてもお母さま。
全く想像できないけど、幼い頃のお母さまはかなり型破りで破天荒なお嬢様だった模様。
お父さまのこの様子から察するに、他にも色々やらかしていたと思われる。
どうりで私とお母さまがそっくりだと言われるわけだよ。
例の悪戯だって、反対するどころかノリノリで加担してくれたことを考えると、お母さまの素はたぶん私寄りだと言ってもおかしくはないだろう。
「お父さま」
「ん? 何だい、レーン?」
過去の思い出に浸っているところを容赦なくぶった斬るようにお父さまを呼ぶ私。
「もしかしてお母さまも、私みたいに魔法で無茶なことやってました?」
「……あ~」
言葉を詰まらせての苦笑。
これが答えだな。
つまりは『やってたよ~』ってこと。
どこもかしこも私はお母さまに似ているようだ。
あんなにも素敵な大人の女性のお母さまなのに、子どもの頃はそんなにお転婆だったのか。
本当に話を聞いただけじゃ信じられないよ。
でも裏を返せば、もんのすごいお転婆だったお母さまが、今はあんなにも素敵な貴婦人の鑑たる社交界の華になったということ。
つまりは、だ。
私もあんな風に素敵な大人の女性になれるという大きな希望が持てるわけだ。
お母さまのように。
そう。
お母さまのように!!
「お父さま! 私、頑張ります!!」
頑張って、お母さまのような素敵な大人の女性になります!!
「ん? そうだね。頑張って魔法の基礎から学ぶことにしようか」
違う!
そっちじゃない!
今頑張るって決心したのは、素敵な大人の女性になるってほうだから!
……や、でも魔法も頑張って勉強したいし、お父さまが言うことも間違ってはないか。
うん、間違ってない。
魔法の勉強に協力してくれるというお父さまの力を借りつつ、一人前になれるよう私は頑張りますよ!
目指すは、お母さまのような素敵でデキる大人の女性なのです!
とんでもない内容ではあったけれど、お母さまの子どもの頃のお話が聞けたことは、私にとってものすごいプラス面となったのでした!
いくらお転婆であっても、大人になることで落ち着きが出て、お淑やかで素敵な女性になれるという希望を持てたという点でね!
今回もちょっとだけ説明回っぽくなってしまいました(^^ゞ
キャラの誕生日とか、あんまり本文に関係してこない設定を考えるのが地味に好きだったりします(笑)




