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レーンの秘密の日記帳

いつも閲覧、ブクマ、評価とありがとうございます。


『ようやっと!』『今更かよ!』ってツッコミが入りそうですが、今回はこのお話の舞台となる乙女ゲームの主要人物のことに触れた内容になっております。

ぶっちゃけ説明回みたいなものだと思っていただければ(^^ゞ





~レーンの秘密の日記帳~




『日記を書く時に重宝しますように』


そう言って、エルナが一本のペンをくれた。

日記帳を探していた時にたまたま見つけた、元よりインクが充填されているタイプのペンだった。

前世のゲルインクの水性ボールペンに近いそのペンは、書く時にいちいちペン先にインクをつけずに済むので使いやすいだろうと思って一緒に買っておいてくれたのだそうだ。

エルナは『これなら途中で書くのが面倒になることもないでしょうし、飽きずに日記を続けることが可能でしょうから』とも言っていた。

確かにいちいちペン先にインクをつけるのは面倒だからありがたい。

つけペンでの書きものは前世のヲタ活で慣れているっちゃ慣れているけれど、やっぱり使いやすい文房具とはありがたいものなのだ。

それにこれからつけようと思っている日記は、この先の自分にとってとても大事なものになるので、たとえ面倒になったとしても途中で飽きてやめるわけにはいかない。


もしこれが普通の日記だったとしたら、間違いなく三日坊主どころか一日も経たずに飽きて放り出していただろうがな!

自慢じゃないけど、す~ぐ放り出す自信があるよ!


私はそんなに筆マメなタイプではないのだ。

好きなものにはとことんのめり込んで、いくらでも時間と労力を費やすんだけどね。

それ以外はホントに意識の外なんだわ。


だけど、これからつけていく前世日記と称した乙女ゲームの記録に関しては、それこそいくらでも時間をつぎ込んでやろうと思っている。

思い出す度にちまちまちまちま書き足して、幸せな未来を生き抜くための聖書(バイブル)にするのだ。

三日坊主になどなろうはずもない。


……というわけで。


さっそく前世日記をつけるべく日記帳の表紙を開いた。

例の如く最初の1ページめはスルーで飛ばしておく。

ヘンなこだわりがあるのか、始まりは見開きとなったページからにしたいんだよね。

自分でもどうしてか分からないけど。


さて。

まずは何から書いていこうか。

そう一瞬考えたけれど、一番最初にやることは決まっている。

書き出すべきはゲームタイトルだ。


『ときめく恋のメモワール ~花と緑と竜の国の純愛物語~』略して『恋メモ』。

平民育ちのヒロインが光の魔力に目覚め、それとほぼ同時期に生き別れの貴族の父親と再会したことでその貴族家に引き取られ、王立魔法学院に入学し、そこで出会った高貴なイケメン攻略対象者たちと恋に落ちる……というまあ王道なストーリーで展開される恋愛シミュレーションゲームだ。


「とりあえずヒロインのことからかきだしておくか。え~っと……ヒロインのデフォルトネームは……っと…………」


んん?

あれれ??


ヒロインのデフォ名、何だったっけ?

まさかのド忘れ!!


……っていうか、あのゲームのヒロイン、固定のデフォ名ないじゃんよ!!


プレイヤーが名前を変更しなければ、予め用意されているいくつかの候補の中から名前と家名とがランダムで組み合わさって決定されるんだった!

それこそ組み合わせ次第で名前は何百通りにも登る。

いきなりヒロインの名前で躓いた!!


「しゃーない。なまえはあとまわし……っていうか、おもいだすいぜんのもんだいだからパス。ん、っと……ヒロインのみためとか、がいけんのとくちょうのほうをかこう」


……と、気を取り直したはいいものの、またもそこで躓いた。


「まて……まてぇ~い!!!」


ゲーム画面にヒロインの顔、一切出てなぁ~い!!!

ヒロインのセリフはアホほどたくさん出てくるのに、顔どころか後ろ姿さえ出てきてないよ!!

唯一描かれていたのは差し出した手くらいだ。

そういやあのゲーム、自己投影や感情移入に重きを置くプレイヤーに配慮してか、ヒロインの固定の姿を匂わせないように外見的な特徴を一切出さない仕様にされていたんだったわ。

所謂『のっぺらヒロイン』っていうやつだ。


「あ、はは……っ」


書きようがないじゃん。

ヒロインの名前も分からなければ、容姿も分からない。

個人を表すものが何一つ書けないなんて、これ如何に。


生い立ちくらいしか書けないじゃんよ!


ヒロインは平民育ちで、とある貴族家当主の落し胤です。

ある日、光属性の魔力に目覚めました。

父親とも再会しました。

引き取られて魔法学院に通います。

出会った高貴な誰それと恋に落ちて結ばれます。


……って!

これ、ゲームの主旨を簡単に説明するようなしょっぼい箇条書き程度のあらすじだけで十分事足りるじゃんよ!


うっわぁ~参ったわぁ~……

お手上げだわぁ~……

違う意味でヒロイン手強すぎるってばよ……


こうなったら仕方ない。

ヒロインは抜きだ。

攻略対象とライバルキャラのことを書くことにする。


まずは攻略対象キャラからだ。


最初に、俺様担当、第二王子ランドール。

この『恋メモ』におけるメインヒーロー。


次、クール担当、王太子セドリック。

言うまでもなく第二王子の兄、どちらも正妃の子で血はちゃんと繋がっている。


次、軽いチャラ男担当、公爵子息ユージィン。

このキャラは前述の王子たちの従兄弟にあたる、それプラス宰相であるシルウェスター公爵の息子。


次、堅物な苦労人ポジ、兄さまこと公爵子息ロイアス。

外交大臣を務めるオンディール公爵の息子。


次、アンニュイなミステリアス担当、第二王子の側近レオニール。

国王陛下の側近を務める宮中伯、オルフェンス伯爵の息子。


次、温厚真面目担当、王太子の側近ウォーレン。

前述したレオニールの兄だ。


最後に隠しキャラ、超弩級のチート、公爵子息ルーファス。

魔術師団団長を務めるノーヴァ公爵の息子。


以上の全部で7人。

ちなみに攻略難易度はプレイヤーにとってあんまり優しくない仕様だったりする。

っていうか、厳しめって言っていいくらいに優しくない。


このゲーム、エンディングが1キャラにつき4パターン用意されている。

王道の上級エンドであるハッピーエンド、通常エンドと俗に言われるノーマルエンド、攻略失敗を示すバッドエンド。

それから、ハッピーエンドの更に上、最上級エンドと呼ばれるスーパーハッピーエンドがある。


攻略難易度に関して言えば、普通にプレイする分で評するならばAランク~Eランクの5段階評価といったところか。

Aが一番高くて、Eが一番低い。

ただしこれは、一部のキャラ及び一定ルートのエンディングのみに使われる評価でもある。

つまりは、だ。

選んだキャラと進むルートのエンディングによって難易度評価がガラリと変わるというトンデモ仕様のゲームなのだ。


それぞれのキャラと4パターンのエンディング。

総合的な評価を出すとすれば、実に難易度レベルはSSSランク~Eランクの8段階にも及ぶ。

ハッピーエンドに進むのが困難なキャラほどランクは高く、バッドエンドになりやすい。

逆にハッピーエンドへと容易に進むことができるキャラほどランクが低く、バッドエンドになりにくい、ということだ。


その総合的な評価で見た場合、各キャラの難易度レベルはこんな感じになると思う。

あくまでも私基準だけど。


ランドール→A:B

セドリック→SS:D

ユージィン→S:C

ロイアス→B:B

レオニール→A:C

ウォーレン→B:B

ルーファス→SSS:E


……とまぁこんな感じ。

左側がスーパーハッピーエンドを攻略する際の難易度レベルで、右側がバッドエンドの難易度レベル。

見ての通り、ハッピーエンドの難易度が高いキャラほど簡単にバッドエンドを狙えるわけだ。

全エンディングをコンプリートする目的の人以外でバッドエンドを狙ってプレイする人はなかなかいないと思うけど。


特に『S』がいっぱいくっついている王太子セドリックと隠しキャラのルーファスのストーリーはとにかくプレイヤー泣かせの鬼畜仕様だ。

そう簡単にハッピーになど辿り着かせてはくれないのだ。

この二人のシナリオに限ってのみ、ライバルキャラである令嬢との『友情度』という隠れパラメータが存在する。

その『友情度』の数値こそがハッピーエンド攻略への鍵になるのだ。

しかしこの『友情度』というパラメータ、隠しだけあってその数値はゲーム画面上では一切表示されない。

このクセモノ隠れパラメータの存在こそが、この二人のルートに限りプレイヤー泣かせの最大の障壁となっていたわけだ。

故にこの二人の最上級エンド、つまるところのスーパーハッピーエンドを攻略したプレイヤーは決して多くはなく、ファンの間では『ある種の幻のエンド』と呼ばれているほどの伝説的なエンディングとなっているのだ。


私?

意地でもそのエンド見ましたけど何か?

それこそ何度も何度も周回しましたとも。

アホほどプレイしまくったのは、ある意味この厄介な二人の最上級エンドを見るためだと言っても過言ではない。

っていうか、そのためにプレイしまくったのだよ!


それこそ鬼畜仕様には泣かされたけど、その分だけやりこみ要素があって達成感もひとしおだった。

膨大な時間をプレイに費やした結果となったけど後悔はしていない。

どっぷりハマり込みましたよ。

二次創作にまで手を伸ばして精力的にヲタ活に勤しむくらいにはね。

大げさだけど、私の生き方に影響を与えてくれた素晴らしいゲームだったと言える。

それくらいに思い入れのある大好きな作品だったのだ。


……とまぁ、攻略対象のイケメンたちに関してはこのくらいでいいか。

どういうシナリオでどういう風に好感度を上げていって~……とかいうのは、実際に私が現実的に彼らを攻略するわけではないから割愛する。

っていうか、兄さま以外とは関わる気ないからゲームの攻略法なんざ一切役に立たん!

現時点では兄さま以外の人物は会ったこともない赤の他人だし、仮に今後顔を合わせることがあったとしても積極的に親しくなろうとも思わん。

たとえゲームのシナリオに書かれていたような『それぞれの抱える事情』とかいうやつが現実にもあったと仮定した場合、それに首を突っ込むような真似をするかと訊かれたらそれは否だ。

そんな人様の事情にホイホイと首を突っ込むような親しい仲になんぞなる気はない。

これっぽっちも、ひと欠片も、微塵もない!

よって全力でお断りなのだよ!

もっと言うならば、シナリオ上で婚約者となる俺様第二王子とも無関係の赤の他人でいたいのだ。




「……ふむ。こうりゃくたいしょうにかんしてはこれくらいでいっか」


攻略する気満々の転生ヒロインじゃないから、各攻略対象キャラたちのシナリオを事細かく記しておく必要はないでしょ。

簡単なプロフィールだけは、夜にでも昨日のスケッチブックの続きのページにキャラ絵付きで書いておくか。

その部分は絵と照らし合わせのほうが分かりやすいしね。


さて。

次はライバルキャラか。


一人は言うまでもなく、悪役令嬢フローレン。

つまりは私。


オンディール公爵家の令嬢。

攻略対象キャラの一人、ロイアスの妹で、俺様第二王子殿下の婚約者でもある。


関わってくるのは婚約者の第二王子ランドールと兄ロイアスのシナリオ。

典型的な嫉妬からヒロインを執拗に虐げる役割を担う。

一貴族家の娘とは言え、平民育ちのヒロインを下賤者と見下し、そんなヒロインが自分の婚約者と兄に近づくことがとにかく許せない。

光属性の魔力に目覚めたことも大きな理由の一つ。

魔法に関してはへっぽこなフローレンは、見下しているヒロインが珍しい属性とされる光の魔力に目覚め、魔法の才能があることを妬んでいるのだ。

自分よりも下のはずの相手が、魔法に関しては自身よりも上であり、更には婚約者や兄がヒロインを気にかけているため、余計にその嫉妬の感情を拗らせ、しまいには排除しようと動くのだ。


しかし、そこは全年齢版のゲーム。

あからさまな犯罪描写となるようなことは全くしない。

ありがちな、罵声を浴びせて罵っただの、足をかけて転ばせただの、手にしていた扇子を投げつけただのといった、ちょっと幼稚な喧嘩みたいな感じの動き方だ。

まぁ幼稚ではあるけれど、取り巻きを使ってそうさせたといった事実は全くなく、常にヒロインと一対一で堂々とやりあっていたため、ベタもベタな教科書やノートを破いただの、筆記用具を盗んだだの、衣服を汚損させただのといった、所謂陰湿な虐めのような嫌がらせは一切行わなかった。

とりあえず、行き過ぎた部分は階段からの突き落とし未遂くらい、だろうか。

それも階段の半分よりも下のところから踊り場へと向けて軽くドンと押す程度の『そんくらいじゃ人は落ちないでしょーよ』くらいの力加減だ。

だって普通に考えたら、重い荷物を持つ機会など殆どないに等しい貴族のお嬢様にそんな力あるわけないって話。


……ふむ。

ここまで書いてみて思ったけど、フローレンそこまで酷いことはやってないな。

確かに手出し足出しはよくないことだけど、あの程度じゃ負ってもせいぜいかすり傷程度じゃなかろうか。

破滅させられるような内容とは到底言えないものだと私は思う。

前世の倫理観で言えば、お説教されて『ちゃんと反省しろ』と言い含められて終わる程度の()()()みたいなもんじゃないか。

要は小学生レベルの喧嘩と大して変わんないよ、ってやつ。

それも一対複数ではなく、一対一でやりあってんだよ?


なのに、だ。

いざヒロインがハッピーエンド以上のルートへと進んだ場合、フローレン一人に対し、他の攻略対象キャラが複数でよってたかってフローレンを断罪し、破滅に追い込むという『お前らがやってることのほうがよっぽど虐めだろうよ!』という図が完成する。


いや、ないわ~……

ないわ~……


虐められてんのフローレンのほうじゃん。

たかが小学生レベルの喧嘩ごときで、家を追い出されて生きるのも困窮する境遇に追いやられるとか何その無理ゲー。

あ、ゲームだったわ。


そりゃフローレンに同情の声が上がるのも納得だよ。

『悪役なのに陰湿じゃない』部分を筆頭に、人として共感できる内面部分をチラチラと垣間見ることができるよう丁寧に作り込まれたキャラクターだと言われ、ファンの間ではそれなりに高い人気を誇っていたのだ。

確かに私もフローレン嫌いじゃなかったし。

ていうか好きのほうに寄ってたし。

まぁ前世の記憶が戻った直後は『悪役令嬢なんて嫌だ!!』なんてテンパって悲観的に思ったものだけど、今こうして書き起こしてみて冷静に考えてみたら、フローレンに生まれ変わったのも別に悪くなかったんじゃ……って思えるのだ。

大嫌いなキャラだったらそりゃ今でも絶望していたかもしれないけど、少なくとも今は絶望する要素すらない。

寧ろ家族が好きすぎて恵まれているほうじゃね?


なのになんで記憶が戻った時、あんなにも悪い方向に考えが向かっていったんだろうか?

悪役令嬢ってだけで将来はとんでもない悪女への道まっしぐらと決めつけて、今のうちに矯正だのなんだのと決意したアレは一体何だったのか。

色々と思い込みとその他諸々がごっちゃになってた気がしないでもない。

一体私は、フローレンと何を勘違いしていたんだろうか?

昨日ヴェーダからの話を聞くことがなかったら、今でも私は『将来悪女確定!』『ダメ、絶対!』『くそガキ、矯正だ!!』っていう気持ちでいたと思う。

ホント、どういうこっちゃ?


とりあえず私のことはいいや。

この先の身の振り方をきちんと考えて生きていけばいいと思うから。


それよか、ヒロインだよ。

前世の記憶の限りでは、ヒロインのがファンの間では圧倒的に不人気だった覚えがある。

これを言ったら全ての乙女ゲームを否定することになるかもしんないけど、そもそも婚約者がいる相手に粉かけんなよっていう話だよね。


それと攻略対象キャラども、お前らもだ!

お前ら婚約者がいるくせしてフラフラフラフラぽっと出てきた女に惑わされてんじゃねーわ!!

婚約者がいないキャラに関しても、もっと女を見る目を養えと言いたい。

ちょっと健気な部分を見せられただけでコロッと恋に落ちてんじゃねーわ!!

それ、計算しての『健気な私!』っていう一面かもしれねーだろ!!


……とまぁ、大いに突っ込みたくなる部分の多いゲームでもあったわけだ。

特にヒロインの内面部分に関してが、だけど。

一言で言えば『天然悪質』ってとこ?

わざとじゃないからタチが悪いってよく言うでしょ?

このゲームのヒロインはまさにそれ。


とあるキャラのシナリオでその天然悪質な部分がすんごく浮き彫りになる会話イベントがあるんだけど、それを見たことで一気にヒロインのファンが激減した。

意識してそれをしていたとしたら『うわ、こいつマジでムカつく……』くらいの感想で済んだかもしれないけど、それが計算でも何でもなく自然とするりとその言葉を言ったんだとしたら『マジでタチ悪いわ、コイツ……』ってなるわけで。

それが、このヒロインが『天然悪質』と言われた理由。

一部ファンは『ヒロイン』ならぬ『ヒドイン』と揶揄してたっけ。


もういいや、ぶっちゃけよう。

その『とあるキャラ』とは二人いる。

俺様王子の側近レオニールと、宰相子息のユージィンだ。

実はこの二人のシナリオ、名前も姿も描写されていないけど、攻略の鍵となる共通の重要人物がいる。

ある意味ライバル的な感じとも取れるけど、その人物が直接ヒロインの前に立ちはだかることはない。

なぜならその人物、シナリオの中では生死が定かではないからだ。

オルフェンス伯爵家の二番目の子、レオニールの姉であるその人物は、ユージィンの初恋の相手でもある。

ただし幼少の(みぎり)より、身体が弱く病気がちで、殆ど邸の外に出たことがないという絵に描いたような深窓の令嬢なのだ。

そしてゲームのシナリオの時間軸では、生きて療養中なのか、それとも儚くなってしまったのかをはっきりさせていない。

当然のことながらお家事情でもあるので、オルフェンス伯爵令嬢の事情は明るみにはなっていない。


ただ、レオニールには姉がいる(もしくはいた)、ユージィンには初恋の相手がいて(もしくはいたけれど)今でもその相手のことを一途に想っている、という前提が二人のシナリオの中に組み込まれているのだ。

そのシナリオの中で、ヒロインは無神経にもその人物のことを蔑ろにしているも同然の発言をする。


『いつまでもその人に囚われたままでいるなんてかわいそう』

『あなたがそんな風に追い詰められるなんて、きっとその人はそんなこと望んでない』

『その人もきっと、あなたが幸せになることを心から願っているはずだわ』


……とまぁ、こんな感じのセリフをですね?

つらつらつらつらと言うわけですよ?


まるでその人物が、恰も死んでいるものと決めつけて言っているように聞こえなくないですか?


だけど思い出してほしい。

シナリオの中では、その人物の生死は定かではないということを。

つまりは生きているかもしれないし、亡くなっているかもしれないわけだ。

前者ならばとんでもなく失礼だし、後者であれば死者に対して何たる言い様だと憤ってもおかしくはない。


確かにシナリオに沿っていくならば、それぞれのキャラの抱える事情を解決する方向で好意を得ていくために必要なことかもしれないけど、あまりにも無神経すぎるヒロインのこのセリフに、ファンの間でヒロインに対する不信感が一気に募ったのだ。

もちろん製作者サイドの落ち度、という可能性もあるかもしれないけど、もしこれが間違いではなくこんな性格のヒロインとして設定されてのセリフだったとしたら『そりゃあヒロイン、嫌われて当然だわな……』となってしまうのも無理はないと思うんだ。


ちなみにこのゲーム、私の親友のあの子に勧めてプレイしてもらったんだけどさ。

案の定あの子、ヒロインのあのセリフにかなり気を悪くしちゃったわ。

確かその時プレイしていたのはユージィンのシナリオだったはず。


『……もう無理。どう考えてもその初恋の相手の人がかわいそうなことになる結末しか見えてこない』


そう言ってプレイすることを投げ出してしまったのだ。

しかもその子のプレイ回数はとっても少なくて、ユージィンのシナリオでようやく四人目に入ったところだったと聞いていた。

ちなみに、セドリックとルーファスの『幻のエンド』とも言われているスーパーハッピーエンドを見た数少ない一人がその子だったりする。

更にはどちらのキャラも一発でスーパーハッピーエンドを迎えてのクリアだっていうから驚きだ。

実質クリアしたのはたったの三回、そのうちの二回が難易度レベルがツートップのキャラのスーパーハッピーエンドだというのだから驚くなというのは無理な話。

何たる強運だよ、って思ったね。

私はそれを見るためにどれだけ周回したか分かんないってのにさ。

ホント、すごいよねって思う。


……っと。

話がとんでもない方向にずれてしまったわ。


つまり何が言いたいかと言うと、このヒロインにしてあの悪役令嬢なわけだから、プレイヤーのファンの中に悪役令嬢フローレンを蜥蜴のごとく嫌うような人はあまりいなかった、ということ。

もっと言うならば、そのゲームのシナリオ内で詳細に挙げられることのなかった所謂モブの中のモブ的な魔法学院内の学友たちは、フローレンに対してどういう印象を抱いていたんだろうか、ということだ。

あまり批判的な印象でなければいいな、と思いたいのが本音。

けれど、これはあくまでもゲームの中に限っての話。

今の現実世界とは全然違う可能性も無きにしもあらずなわけだから、あまり期待はできそうもない。


そしてヒロインに関しても同じようなことが言える。

もし今のこの現実世界にヒロインがいたとして、その中身がゲームのものと全く同じだったらと思うとちょっと嫌な気分になる。

天然にしろわざとにしろ、簡単に人を不快にさせるようなことをポンポン言っちゃうような人とは正直あまり関わりたくないと思ってしまう。

ストレスの原因になり得るものからは、できるだけ遠ざかっておきたいのが人の性。

厄介ごとはまっぴらごめんなのです。


あ~……あんま考えすぎると頭痛くなりそう。


とりあえず、悪役令嬢フローレンのことはこのくらいでいいか。

それとついででチロっと書いたヒロインの一部分に関しても。


しかしまぁ、あれだけ書くことがなかったはずのヒロインのこんな部分、よく思い出したな、私。

それも悪役令嬢(フローレン)のこと書いてる最中でだよ?

特に引っかかる部分があったわけでもないのに不思議なもんだ。

何が切っ掛けでちょいちょい思い出すか分かったもんじゃないな。

あんだけアホほど周回プレイを繰り返したというのに『のっぺらヒロイン』だけあって、他のキャラほど強烈な印象が残ってないっていうのがヒロインが『のっぺらヒロイン』たる所以だっていう分かりやすい例じゃないか。

だからこそ、イラッとする『負』の部分が余計に目立ってしまうわけだ。



────……うん、ムカつく!



思い返せば思い返すほどプチッとムカついてきた。

ゲームの設定だから、別にヒロインというキャラクター自体が悪いわけじゃないと分かってはいるけど、でも天然悪質な(ああいう)性格での悪気のない(ああいった)発言(アレ)ってのは、やっぱ、ねぇ……?

個人差もあるだろうけど、おとなしめに言ってみてもムカつくもんはムカつくんだ。

私が悪役令嬢(フローレン)だからそんな風に感じるだけかもしれないけど、それを差し引いたとしてもああいう女子は好きにはなれない。

アレは女子に嫌われる女子の典型だよ、きっと。

正直言って仲良くなれる気がしない。


ヒロインと悪役令嬢は相容れない。

こういう時ばっかゲームの設定を引き合いに出すなって話だけど、個人的にああいう性質の人間は苦手なのだ。


……って!

ま~たヒロインのほうに戻ってんよ!

これじゃちっとも先に進まないじゃないか!!


次だ、次!

もう一人のライバルのこと。

私にとっては、何よりもこっちのライバル令嬢さまのほうが大事なんだ!


なぜかって?

私がこのゲームの中で一番のお気に入りがそのライバル令嬢の彼女だからですよ。

このキャラがいたからこそ、このゲームにどハマりし、尚且つ二次創作にまで手を出して、精力的にせっせとヲタ活に励んでいたのだ。

ビジュアルから性格から本っっっっ当に『ドンピシャリ!』な、私の理想の女の子像そのものな、もっと言うなら『こっちがヒロインって言われたほうが納得!』という、それはそれは可愛らしい女の子だったのだ。


しかもこの子、王太子セドリックの婚約者。

めっちゃお似合い。

ゲームの中では語られることはなかったけど、絶対にセドリックのほうがこの子に心底惚れ込んで婚約に漕ぎつけたに違いないと私は思っている。

常に一歩後ろに控え、殿方を立てるのが当たり前だった彼女のほうから婚約者になりたいと願っただなんて、とてもじゃないけど考えられない。

おまけにゲーム内のセドリックは、クール担当でこそあれ、懐に入れた相手にはそれこそ色んな表情を見せるようになるのだ。

その中でチラチラ垣間見えた『お前、ドSの本性隠してね?』な部分からして、真っ先に彼女のことを己の内に入れてしまったであろうことは想像に易い。

作中のじれじれした両片想い状態(念のために言っておくがヒロイン相手ではない)も、なんとなく納得できる仕様の絶妙なバランス加減だったのだ。


互いに好きだけどどうもうまくいかない焦れったい関係。

控えめな彼女に対し、少し強引であってもより近づきたいと願う王太子。

けれどそれをして彼女を泣かせることは本意ではない。

故に悩む。

……という、ループ。


そんな関係の二人の間に(シナリオとして)ヒロインが入ってきて、そんでもって(プレイヤーの選択肢によって)引っ掻き回され、最終的なエンディングで二人の婚約が解消されるか継続されるかが分かれる。

つまり、ハッピーエンド以上で婚約解消、ノーマルエンド以下では婚約は継続となる。


まぁなんと言いますか。

ヒロイン視点となるプレイヤーが選んで進めたエンディングがハッピーエンドってことは、互いに通じてはいないとはいえ両想い状態の二人の仲をヒロインが引き裂いたことになるわけで。

俗に言う略奪愛的なエンディングが、王太子セドリックのシナリオのハッピーエンド以上のルートとなっていたわけだ。


そしてここでもやっぱりライバル令嬢の彼女はファンの間で圧倒的人気を誇っておりまして。

この王太子セドリックのシナリオを進めていくのに、プレイヤーの皆さんは相当なジレンマに悩まされたそうだ。

かくいう私もその一人だ。


ここで思い出してほしい。

王太子のシナリオには、ライバル令嬢となる彼女との間に『友情度』という隠れパラメータが存在していることを。

シナリオを進めていく上でこの『友情度』を上げていくには、ライバル令嬢の彼女と仲良くすることが必須となる。

ところどころで発生する会話イベントの中で、適切な会話の選択肢を選ぶことによって『友情度』を上昇させ、ライバル令嬢といいお友だち関係を築いていかなければならないのだ。


しかし、ハッピーエンド以上のエンディングともなると、略奪愛ですよ、略奪愛。

お友だちから『婚約者奪っちゃいました、キャハ♪』的な、なんともまぁ『仲良しなお友だちに対してやることじゃねぇだろ!』という最低最悪な裏切り行為の上で成り立つ、ある種の胸クソ悪い終わり方なんですよ。

その胸クソ悪いエンディングを見るために、シナリオ中で彼女との仲を良好にするための会話選択肢を選んで、選んで、選び続けて……最後には裏切りの一択で彼女の愛する婚約者を奪う、という選択肢でトドメを刺さなければならないのだ。


キツいでしょ?

このライバル令嬢の大ファンには、かなりキツい選択なのですよ。

そして先に挙げたように、王太子セドリックの攻略難易度はスーパーハッピーエンドでランクSS。

つまりはそう簡単には見られないエンド。

それを見るために、何度も何度も同じことを繰り返す。

最上級エンドという目的達成のため、彼女との仲を良好にするべく動き、最終的に裏切るという行為を何度も何度も何度も何度も繰り返し行わなければならないのだ。


可愛いライバル令嬢のあの子が好きなのに、ハッピーエンド以上でクリアするためにはシナリオの中で何度も彼女を泣かせなければいけない。

そのジレンマに悩まされたプレイヤーは一体どのくらい存在していたのだろうか。


更には、この隠れパラメータの『友情度』が存在していた、もう一つのシナリオ、隠れキャラのルーファスでも同じことが言える。

ルーファスのシナリオではさすがにそういった裏切り云々の行為はないにしろ、天然悪質なヒロインの無神経発言により、妹がじわじわと傷つけられていることを感じ取ったルーファスからの容赦ないスルーによって全く相手にされないまま、バッドエンド一直線というもんのすごい鬼畜仕様になっている。

そのため上級エンド以上を狙う場合、一回でも間違った選択をした時点で上級エンドへの道は断たれ、また最初からやり直さなければならなくなるという、さすがランクSSSと納得の難攻不落のキャラなのだ。


スーパーハッピーエンドを見るために、膨大なる回数の周回プレイを余儀なくされるシナリオが二人分。

その中で延々とライバル令嬢の彼女と向き合っていれば、どれだけ彼女が健気で可愛い女の子なのか、嫌でも思い知らされるわけですよ。

だって、いい子すぎるんだもん、彼女。

泣かせたくないわ~って思うわ。

だから王太子セドリックのシナリオの時なんて、ものすごい罪悪感に苛まれんの。

どんだけその子が好きすぎるんだよ、私。

……って、このゲームのファンの大半がライバル令嬢の彼女が好きだって人たちばかりだった。

ネット上のファン交流サイトの掲示板とかでもだいぶ盛り上がっていたしね。


そういや彼女の簡単なプロフ挙げてなかったわ。

延々と、延々と彼女に纏わる周りのあれこれを語るばかりで、最初にやんなきゃいけないことをすっ飛ばしてしまっていたよ。

失敗失敗。


そんじゃ、気を取り直してライバル令嬢で素敵キャラである女の子のプロフを挙げたいと思います!


ライバル令嬢リリーメイ。

ノーヴァ公爵家の令嬢で、隠しキャラ、ルーファスの妹。


性格は至って穏やか。

おっとりしていて、まるでふわふわの砂糖菓子のような女の子。


見た目も『ちっちゃい』『可愛い』更には『スタイルいい!』といった、世の女の子の欲しいものを全部詰め込んだような理想的な女の子らしい女の子だ。

そして、お花の妖精みたいにどこか儚げでもある。

動物で例えるなら赤い目をした小さな白ウサギ。

アイボリー色の髪と、ルビーを彷彿とさせる緋色の双眸、そして小柄な体躯、おっとりおとなしい性格。

それらの特徴をまるっとまとめて、多くのファンからは『ウサギみたい』だという感想が飛び交ったのだ。


いやぁ~……泣かせたくないよねぇ?

寂しい思いなんてもっとさせたくないよねぇ?


だってウサギって寂しいと死んじゃうって言うじゃん?

『もしかしたらこの子も、ウサギのように寂しい思いをして死んじゃったりしちゃうのかもしれない』なんて。

セドリックの上級エンド以上のエンディングを見たファンの間で、エンディング後の彼女がどうなってしまうのかという論争が度々起こり、それから考えられる結末に絶望して悲嘆の嵐が巻き起こったほどに、彼女に対する同情の声は大きかった。


故に。



────ヒロイン、嫌われるよねぇ……



どういうわけかこのゲーム。

ファンからは悪役令嬢やライバル令嬢の方が好かれていて、ヒロインに厳しい評価が集まるちょっと風変わりなゲームだったように思う。

今になってポッと思い出したけど、世にも珍しいヒロインが不人気の乙女ゲームだったわ。

それがある意味『型破り』だとネット上で話題になり、普段は乙女ゲームに手をつけない層にも興味を持たれ、更にファンを増やし、二次創作を始めとした同人活動が頻繁に行われるほどの人気作品となった。


なんだろう?

常識が型を破ると、その物珍しさから注目されて、それで一気に人気に火がつくとかいう法則でもあるのかねぇ?


確かに珍しいと注目はしてしまうんだろうけど。

その人気が維持されるには、やっぱりそれ以外にも熱を持続させるための何かが必要になってくるんじゃないかなって私は思う。

まぁその『何か』が一体何なのかはさっぱり検討もつかないんだけど。


ただ、個人的に思ったのはアレだ。


『好きなキャラの幸せな姿が見たい』


この気持ちがあって、私は二次創作に手をつけた。

大好きなリリちゃんと婚約者である王太子。

寄り添って幸せそうに笑う二人がとにかく見たかった。

だから、そんな姿をいっぱい描いて、そして。

同じように思ってくれているであろうファン仲間に、そんな二人を見てもらいたかった。


そしたら、同士が増えた。

喜んでくれた。

もっともっといっぱい描こうと思った。


その繰り返しで、気がつけば同人界隈で『恋メモ』の王太子セドリックとその婚約者のリリーメイとのカップリング創作が一番人気になっていた。

ファンが増えると、その分作り手も増える。

絵描きさんや字書きさん。

イメージグッズを作る人もいたな。

とにかく、様々な作品が同人界隈で生み出されていった。

色んな人の色んな王太子とリリちゃんのハッピーな作品に触れられて幸せだった。


……っと、しまった。


つい前世(まえ)のクセでリリーメイをリリちゃんって言っちゃってたわ。

大好きな子だったから、親しみを込めて彼女を『リリちゃん』って呼んでいたんだよな、前世(まえ)の私は。

その呼び方はファンの間でも広く深く浸透しているもので、ファンサイトの交流掲示板とか同人界隈では、リリーメイは当たり前のように『リリちゃん』の愛称で親しまれていた。

誰が最初にそう呼んだのかは分からないけれど、いつの間にかリリーメイの愛称はリリちゃんになっていたのだ。



────懐かしいな……



思い出したその記憶に、意識することなく『ふっ……』と小さな笑みが零れる。



────そういえば……俺様殿下と悪役令嬢(フローレン)のカプ作品も人気だったな……



私もそこそこ描いた記憶がある。

本命は王太子とリリちゃんのカプだったけど。


ほのぼの、幸せ、ほんわか、甘々な本命カプに対して、俺様殿下と悪役令嬢(フローレン)のほうは、互いに素直になれない喧嘩ップル風なラブコメを中心に描いていたなぁ。

そうしたら、これも『理想的な二人だ!』って称賛してもらえて同士が増えたんだっけ。

それで『恋メモ』の王子兄弟のカプが二大双璧みたいになって、王太子カプ派と俺様殿下カプ派が生まれて、でも同人界隈でありがちな論争とかに発展することはなく、違うカプ派のファン同士、平和に仲良く同人活動に勤しんでいたなって。

今思えばこれってすごいことだったのかもしれない。


でも。

今はその世界は、二次元の世界じゃなく、私にとっての現実世界となってしまった。


私はあの頃の私ではなく、悪役令嬢(フローレン)として生きている。

ここはあのゲームの世界ではなく、ゲームの世界に限りなく似た現実世界……なんだと自分では思ってる。

二次元ではないのだから、あの頃思っていたような『こうだったらいいな』『ああだったらいいな』という理想を作り上げることはできない。


だから。

この現実世界では、私が作った理想的な『互いに素直になれない喧嘩ップル風』な俺様殿下と悪役令嬢(フローレン)には決してなれないのだ。

っていうか、関わりたいと思わないから、そうなろうという気すら起きないわ。


だけど……


できることなら、だけど……


「リリちゃんとは、おともだちになりたいなぁ……」


だって。

親同士、仲がいいんでしょ?


昨日も今日も、お父さまはノーヴァ公爵様に世話を焼かれて無理やり連れ戻されたみたいだし。

そんな風に踏み込んでいけるくらいに付き合いが長くて気安い関係なんだよね?


だったら。

親同士仲がいいっていう(よしみ)で、子ども同士も仲良くできたりしないのかな?

同じ高位貴族、この先色々なところでお付き合いというものが出てくるかもしれない。

そうなった時にすぐ側にいて助け合ったりできる仲でいられたら、それはすごく理想的で、そして、とても素敵なことだとも思えるんだ。


それ以前に。

個人的に仲良くなりたいんだ、私は。

そうなれたら、嬉しいな……って、すごく思う。


「もし、わたしがリリちゃんにあいたいっておねがいしたら。リリちゃんにあわせてもらうことができたりするのかなぁ……?」


そんな独り言を零しつつ、リリちゃんのページに『リリちゃん大好き!』と一心不乱に書きまくっていたその時だった。


「レーン? 今ちょっとだけいいかな?」


という兄さまの声と、部屋の扉をノックする音が聞こえてきたのは。


「!!?」



────ぎゃわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!



敵襲!

緊急事態発生!!


闖入者だ!

邪魔者(にいさま)襲来!!


ヤバいです!

非常にマズいです!


他の誰にも分からないよう、この日記帳は全部日本語で書いているけど、万が一これを見られてしまったら、わけの分からない暗号文を作成してると思われる!!

またどっかで頭打ったって思われる!!


っていうか!

封印魔術、かけ忘れてんよ!!

今からじゃ魔法かけても間に合わない!


隠さなきゃ!

どこに!?


焦って部屋を見渡したその瞬間、ミックの姿が目に入った。


「ミック!」

《ヌッ?》

「コレ! かくして! いますぐに!」

《ヌッ?》

「はやく! のんで! ゴックンだよ、ミック!」

《ヌッ? ヌッ!?》


私が焦ってそう捲し立てるものだから、言われる側のミックも混乱しているようだった。

だけで説明しているヒマはないのだ!

スピード!

とにかくスピードが大事なんだ!

超特急で隠さないと色々とマズいんだってば!


「レーン? 入るよ?」



────まだダメぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!



閉じた日記帳を無理やりミックに押しつけながら『とにかくコレ隠して~!』と半泣き状態でお願いしたら、ミックが慌ててコクコク頷きながら、それを一息に飲み込んでくれた。

そうしてバッタンとミックの口が閉じたと同時に、兄さまが扉を開けて部屋に入ってきた。


「ああ、よかった。返事がなかったから、寝ているのかと思ったよ」

「……オキテマシタヨ?」



────あっぶねぇ~……



なんとかギリギリで、秘密の日記帳の存在を知られずに済んだようです。


それにしても、めっちゃ心臓に悪すぎる……

軽く寿命が一年ほど縮んだ気がするわ。


え?

一年なんて大したことないって?


うるさいな。

前世で早死にした部類に入る私にとって、人によっては短いとも言える一年という時間は非常に大切なんですよ。

時は金なりという諺を知らんのか。

全く以て遺憾である、ぷんすこぷん!








ヒロインが不評の乙女ゲームがあったら面白いだろうな~って思ったことが切っ掛けで、話中のゲームの内容をこんな風にしてみました(笑)

実際に第三者視点で冷静に考えてみたら、乙女ゲームのヒロインって人様の婚約者を平気で奪い取る悪女だよなって思ったんですが、同じ考えの人って果たしてどのくらいいらっしゃるんでしょう??

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小噺集:転生先異世界での日常あれやこれや

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