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『終わりよければ全てよし!』なのです!

閲覧、ブクマ、評価といつもありがとうございます。


やっとのことで悪戯に決着がつきました。長いです(^^ゞ




~『終わりよければ全てよし!』なのです!~




予想外の箱に戸惑いつつも、そこに私の絵があると分かったお父さまは、箱を開けるべく手を伸ばしかける。

けれど、直前でお母さまからストップがかかった。


「待って、ロンベルト」

「フレイヤさん?」

「ここで箱を開けるには少し狭いと思うの」

「そうかな?」


不思議そうに問いかけるお父さまだけど、お母さまの言う通り確かにこの場所は狭い。

何せ開けるのは()()()箱ではない、宝箱に擬態しているミミックという、兄さま曰く未知の生命体だ。

ミックたちには、お父さまが箱を開けることで思いっきり驚かせるようにお願いしているため、ソファーとテーブルの間という狭い空間で箱を開けられてはちょっと不都合があるのだ。

別にミックたちが暴れるとかそんな心配はしてないけど、驚かせた反動でミックたちがその場で飛んだり跳ねたり動き回ったり、はたまた驚かされた側のお父さまが反射的に後退ったりした場合のことを考えると、ちょっと危険な気がしたのだ。

テーブルやソファーにぶつかって倒れたり怪我をしたりなどあってはならない。

これは万が一のことを考えての配慮、というわけだ。


けれど、ミミックの存在がここにあることを全く知る由もないお父さまには、普通に『狭いから』という理由は通じないと思う。

だからそれらしい理由を更にくっつけて、ここよりも少し開けたスペースへと移動してもらわなければならない。


「この場所では出した絵を置くところがないわ。お茶をいただいているこのテーブルにそのまま絵を並べるわけにもいかないでしょう?」

「う~ん……。言われてみれば、確かにお茶の最中でもあるこのテーブルの上に絵を置くわけにはいかないね」


お母さまの言葉に納得して頷いたお父さま。

そのタイミングで、ヴェーダがワゴン式の小さなサイドテーブルをソファーの後ろ側の空いたスペースへと移動させてくれた。


「よろしければこちらをお使いくださいませ、旦那様」


ヴェーダがお父さまに勧めたサイドテーブルは、お茶の際に使う予備のポットだとか水差しだとかを一時的に置いておくために使うもので、結構作りが頑丈だ。

束ねたことでそこそこの厚みになった絵を置くにはちょうどいい置き場だと言える。


「ああ、すまないね、ヴェーダ。どうもありがとう」

「いいえ」


お父さまにお礼を言われたヴェーダは丁寧に一礼してから、再び隅の方へと控えた。

ヴェーダが下がったことを確認すると、お父さまは宝箱(ミック)を抱えてソファーの後ろ側へと移動する。

ちょうど座っていた位置の真後ろだったため、兄さまはソファーの上に後ろ向きで膝立ちになり、背もたれ部分に置いた手に顎を乗せるというちょっと行儀の悪い姿勢を取っていた。

そんなことヴェーダやガルドの前でやったら『はしたない』って言われるぞ~……なんて思いつつも、二人から注意をされる様子もないので、ここはお目溢しってやつで見逃してもらえたのだろうと思い気にしないことにした。


私はというと、当然お父さまの後をててて~……っとついていきますよ?

ミックがお父さまを驚かせた後、絵を出してもらうようにお願いしなきゃいけないからね。


お母さまはその場でゆったりとカフェオレを飲んでいる様子。

ソファーから立ち上がる気配はありません。

マイペースに見物を決め込んだようです。


そんな感じで妻子に見守られながら、お父さまが箱の蓋に手をかけ、一気にそれを押し開いた……瞬間!

仕掛けていた最後の(トラップ)が作動した。



《ヌバァアアアアアアアッ!!》

《ヌバァァァァァ!!》

「ぅわぁぁッ!?」

「───ッ!?」


ミックの雄叫びに続き、ミッちゃんもまた独特な雄叫びを上げながら、その場から飛び出すように『ぐい~ん!』と身を乗り出してきた。

ほぼ同時に上がった雄叫びと、体当たり寸前までに身を乗り出してきたミック&ミッちゃんを見たことで、お父さまが一瞬ビクッと身体を震わせながら驚きの声を上げた。

そのお父さまの反応につられるように兄さまも驚いたのはちょっと予想外だった。


だけど……



────あれ?

────一つ、足りなくないか……?

────サッシーの声が全くしないんだけど?



どうした、どうした、笑い袋!?


お母さまのアイデアで、ミックか~ら~の~、ミッちゃんか~ら~の~、サッシー、という三連トラップにしたはずなんだけど、最後のサッシーがなぜか不発だ。

何か問題でも発生したのか。


ととと……っと、ミックたちへと近寄り、ミッちゃんの中にいるはずのサッシーの姿を探す。



────あれ……?



一瞬消えたように見えたそれは、単に見間違いで、ミッちゃんの長い舌の影に隠れるようにしてサッシーはいた。

……っていうか、ミッちゃんの舌を布団代わりに寝ていた。

何とも気持ちよさそうに『すぴーすぴー』と小さな寝息を立て、有り得ないことに鼻提灯まで『ぷぅぷぅ』と膨らませている。

鼻、ないはずなのに。



────鼻、ないはずなのに!!

────アンタ一体どこから鼻提灯膨らませてんだ!!



突っ込みたいとこは色々あるけど、さすがにこのままの状態でいさせるわけにもいかない。

何せサッシーが寝ている場所はミッちゃんの口の中だ。

いつまでも口の中に居座られていたんじゃ、ミッちゃんも疲れてしまうだろう。


……というわけで、サッシーを起こすことにした。


ミッちゃんがサッシーを口から出しても、サッシーは相変わらず『すぴーすぴー』と寝息を立てて眠ったままだ。

私の掌にコロンと転がされた時点で起きろよと思ったけれど、なかなかにサッシーは寝汚いようだ。

一度寝たらそう簡単には起きないよ、ってやつ。


しょうがないので強硬手段。


「コラ~! おきなさ~い!」


……と言いながら、袋のボディを『つんつくつん』と突っつく。

軽めじゃ起きそうにないから、心持ちちょっと強めに。


しかしサッシー、手触りいいな。

このままずっと突っついていたいくらいの触り心地だわ。

尚も『つんつくつんつく』やってたら袋全体がむずむずと動き出した。



────お?

────もう一押しで起きるかな?



最後に軽いデコピンをする感じで『ピシッ』と弾いてみたら、突然サッシーが大きく『ピーン!!』と跳ねた。


《ピキャアアアアアアアアッ!!!》


……っていう甲高い叫びとともに。


「うわッ!!」

「わあぁッ!? 今の声は何事!?」


突然のサッシーの叫び声に驚いたのは私……ではなく、兄さまとお父さま。

私は何となく『こんな反応があるだろうなぁ……』と構えていたから特に驚きはしなかった。

お母さまに関してはそうそう動じることはないため、平然とカフェオレを飲みつつも微かな笑みを浮かべている。


そんな私たちの反応をよそに、私に強制的に起こされてしまったサッシーはパニックに陥り『ピキャー』『ピキャー』と泣きながらそこら中をピンピン跳ね回っていた。

ミックとミッちゃんはというと、パニックになったサッシーを見てどうしていいか分からずオロオロしている。

あの状態じゃ無理もないか。

まさかパニック起こすとか思わないもんね。

ミックたちにはサッシーのあの反応は予想外だっただろう。


……とはいえ、サッシーをあんなにしちゃったのは私だ。

サッシーが錯乱状態になった責任は私にある。


おまけにサッシーが泣きながらそこいらを縦横無尽に跳ね回るものだから、その度に辺り一帯がラベンダーの香りで充満してすごいことになっているのだ。

ただえさえ甘い香りのしているサロンだ、そこに新たな香りがプラスされるのはちょ~っとよろしくない。

単独では確かにいい香りだけれど、そのいい香りも組み合わせによってはとんでもない悪臭と化すケースが大半なのだ。

混ぜたら危険、というやつですな。

何でもかんでも無闇矢鱈にミックスするもんじゃないのです。


そんなわけで、これ以上サロン内にラベンダーの香りを振り撒かれては非常~に困る。

よって可及的速やかにサッシーをとっ捕まえて香りの発生源を止める必要があるわけだ。


しかし……



────あの様子じゃ捕まえるのは骨が折れそうだな……



一箇所に留まってくれればいいものを、ピンピンピンピンあちこちを跳ね回るのだ、サッシーは。

いちいち追いかけていたんじゃキリがない。

こっちが行くんじゃなくて、あっちに来てもらう方向で捕獲するか。


となると……必要なアイテムはズバリ『お花』だ。

テーブルの上のあのドライフラワーの飾りをエサにサッシーを誘き寄せるのがマストだろう。


「ゴメンゴメン、サッシー。ほらおはなだよ~? おいしいよ~?」

《ピキャ?》


数枚のドライフラワーの花びらを手にサッシーを呼ぶと、あれだけ『ぴーぴー』泣いていたのが嘘のようにピタリと収まった。

とはいっても、つぶらな瞳はまだまだ涙目でうるうるしていたけど。

まぁ叫び声が止まっただけでもよしとしよう。


「おいで、サッシー。おはなあげるから」

《ピキュっ!》


花びらを差し出すと一直線にピーンと飛んできた。

その勢いのまま一枚の花びらをはむはむと小さな口に含み、次いで『スンスン』と小さく泣きながら私の頬にすりすりと擦り寄ってきた。

あまりにも可愛らしいその仕草に、ずぅん……と罪悪感が押し寄せる。

手っ取り早く起こすためだったとはいえ、最後のデコピンはやりすぎたかな……と、ちょっと反省。

本当に、本当に力なんて入れていない軽いものだったけど、小さなサッシーにしてみればとっても痛かったのかもしれない。

私がミックに擦り寄られた時に、体当たり同然のダメージを受けたように感じたのと同様に。


「ゴメンね、サッシー。いたかったね?」

《ピキュ》


またも頬にすりすりされて、今度は優しくそっと触れるようにして袋全体を撫でた。

最初から優しく起こしてあげてればよかった。

未だに小さく『スンスン』と泣くサッシーを撫でながら、再び反省する私。

可愛い可愛い子どもを泣かせるなんて、親失格だわ。

未熟な親でゴメンよ……


そうしてサッシーと二人───正確には一人と一匹と言うべき?───の世界に入っていたその時。

今の場にそぐわない声が、私とサッシーの世界を壊しにかかった。


「レ~ン……」

「!」

《ピッキュ?》


あまりにも情けない声で呼ばれて思わず背後を振り返り……


「!!」


絶句した。


「お、とう……さま……?」


やっとのことでそう言えたものの、目にしたお父さまの姿には驚きを隠せない。

だって、さっきの情けない声も納得の表情、しかも涙目で懇願するように私を見ていたのだ。


「レ~ン……絵が、絵がどこにもないんだよ……。ここに隠したのは確かなんだよねぇ……?」


そう言いながら、ミックの蓋部分をそっと数度撫で擦る。


「見た目はともかく、この子に害意がないことは分かっているよ? ずっとおとなしくして、父さまに絵を探させてくれているし。でも、ね……この子の中に絵が隠してあるはずなのに、どうして一枚も絵が見当たらないんだい……? それとも、隠し場所はこの子の中じゃなかったということなのかな……?」


あ~……ははっ……

やっば…………


おとうさま が なきそう だ !


お父さまの感覚としては、ミックの中にそのまま絵があるって感じだったんだろうね。

でも開けたそこにあるのは絵ではなくてミックの顔。

絶望しそうになっても無理ないか。

さすがにこれ以上絵を出し渋るのではお父さまがかわいそうなので、ミックにお願いして絵を出してもらうことにした。


「ミック」

《ヌ?》

「えをだしてくれる?」

《ヌッ!》

「ぜんぶね?」

《ヌヌッ!》

「えっ? 全部? 全部ってどういうことだい、レーン?」

「ぜんぶですよ、おとうさま。ろうかのかべにはっていたえのほかに、おとうさまのおへやにおいていたわたしのスケッチブックもぜんぶかくしちゃいましたから」

「全部って、そういう意味だったのかい……。スケッチブックまで……」


まさか部屋の棚にあるはずのスケッチブックまで没収されていたとは思わなかったのか、お父さまが乾いた笑いを漏らした。

若干顔が引き攣っているように見えるのは気のせいではないだろう。


私とお父さまがそんな会話を交わしている間に、ミックが『ヌゥゥ~……』と唸りながら身体(ボディ)でもある箱全体を震わせた。

その直後『ヌベベッ……!』という、またしても奇妙な声と言っていいのか分からない声とともに、飲み込んで隠していた絵やスケッチブックの束を立て続けに吐き出した。


「な……ッ!?」

「い゛……ッ!!」


傍から見たら『おぇぇぇぇ~……』と嘔吐したようにも見えるその取り出し方(?)に、真正面でそれを見ていたお父さまと、そのすぐ側で同じく様子を覗っていた兄さまが、これまたほぼ同時に驚愕した。

それも、普段では絶対に上げないような声を上げながら、だ。

一方で同じようにこちらの様子を覗っていたガルドとヴェーダも、驚愕のあまり目を見開いている。


驚いていないのは、ミックの吐き出しを見るのが三回目となった私と、やっぱり簡単に動じることのないお母さまだけだ。

ミックと同じミミックであるはずのミッちゃんですら、口パカ状態で固まっているのだ。


そしてもう一つ……


《ピッキャアァァァァァァァァァッ!!!》


いっちばん小さいのが、私の耳元で甲高い叫び声を上げつつ泣いた。

それはもう、さっきの比ではないくらいのボリュームで。


「ぎゃあぁぁぁぁッ!!」

「うわあぁぁぁぁッ!!」


泣き叫んだサッシーの声に驚いて、またしてもお父さまと兄さまが叫んだ。

完全なる二次被害ってやつだ。

それもミックからやられた直後にまたしても、だ。


っていうか……



────な ん で、アンタまで一緒に驚いて叫んでいるんだ、サッシーよ!!

────アンタは驚かせるほうでしょーが!

────決して驚かされる側ではないのだよ!!



思いっきり耳元で叫ばれたので、若干『キーン……!』と耳鳴りがする。

それでも、反射的に耳を塞がなかったのは私なりの優しさだ。


「もぉ~……なんでサッシーまでおどろくかなぁ……」


思いっきり素の喋り方になってしまったのは許してほしい。

私も予想外の伏兵でやられたもんだから、令嬢らしくしなきゃという気持ちが吹っ飛んでいっちゃった。

そんなこんなで、ある意味、無傷(ノーダメージ)なのはお母さまだけという状況になった中、微かな『ふっ……』という溜息にも似た笑い声が漏れた。



────え……?



……と思ったその瞬間、お母さまが声を上げて盛大に笑い出した。


「うふふっ……あっはははは……っ!」

「おかあ、さま……?」


先ほどの溜息にも似た笑い声の主はお母さまだったらしい。

一度笑い出したことで箍が外れたのか、尚も声を上げて笑い続けるお母さま。

その目にはじんわりと涙まで滲んでいる。


「フレイヤ、さん……?」

「え……あの、母上……?」


声を上げて涙目になりながらも笑い続けるというお母さまの珍しい姿に、別の意味で驚かされているお父さまと兄さま。

当然のことながらガルドもヴェーダもお母さまの様子にただただ驚愕して固まっているだけだ。

引き金となったミックはもちろん、ミッちゃんも未だ口パカ状態で固まっている。

私もお母さまの様子に驚かされた一人ではあるけれど、一番のチビッコが耳元で『スンスン』泣いているから、こっちを宥めるのにせいいっぱいでお母さまのほうにまでは意識が向けられない。


いや、お母さまが笑う気持ちは分かるけども。

私もミックの()()見て大笑いしたけれども。

それでもお母さまがこうまで大笑いするのはさすがに想像もしてなかったよ。


今この場にいる大半が呆然と見守る中、しばらくの間声を上げながら笑い続けていたお母さまだったけれど、やがてそれも落ち着いてきたのか、徐々に笑い声は収まっていき、笑い疲れした様子で軽く肩を上下させつつ小さな深呼吸を繰り返していた。

最後に目元に手を当て、滲んだ涙を拭うとスッキリとした笑顔を向けてこう言った。


「ああ、面白かった。こんな風に声を上げて思い切り笑ったのはいつ以来かしら。たくさん笑ってスッキリしたわ。たまにはこうやって大笑いすることも大事ね。悪戯も捨てたものじゃないわ。見ていて本当に楽しかったもの」


『ふふっ』と再び笑みが零れたのは思い出し笑いでもしたからだろうか。

お母さま本人が言っていたように、思い切り笑ったおかげで今朝から続いていたもやもやしていた気持ちはキレイさっぱりとなくなったようだ。

悪戯がストレス解消になって何よりである。


「それに、新たな発見にもなったわ」

「新たな発見とは?」


ようやっと復活したお父さまがお母さまの言葉に疑問を返す。


「魔法の様々な可能性よ。必要に応じてだとか、生活を便利にするためだとか。それ以外にも使い道はあったのねと納得させられたのよ。使い方次第で、こんなにも人を和ませたり楽しませたりすることができるだなんて、今まで考えたこともなかったわ」


そう言ってニコニコ笑いながらお父さまを見つめるお母さま。

それを聞いてお父さまも納得したように頷いた。

実際にやられた側であるお父さまだけど、あんな風に大笑いするお母さまを見てそれを実感したのだろう。


『魔法で人を楽しませる』


そんな発想は今までなかったと態度で示しているも同然だ。


「ねえ、レーン?」

「なんですか、おかあさま?」

「ロイアスも」

「はい、母上」

「昨日あなたたちが言っていた、大事な話とはこのことね? 家族全員で話す必要があったのは、話の内容が魔法に関することだったから」


まさに言われた通りだったので素直に頷いた。

兄さまも同様に。


「叱られる……なんて言っていたけれど、こんな風に楽しませてもらった後でそれをするなんてわたくしにはできそうにないわ。……だって本当に楽しかったのですもの」

「母上……」

「別に、危険なことをやったわけでもないのだし。だから……」


その場に『パチン』と軽く手を叩いた音が響く。


「お咎めはなしよ、二人とも。こんなに楽しませてもらった後でお説教なんて有り得ないわ。ロンベルトもそれでいいでしょう?」

「……フレイヤさんがそう言うなら私も反対する理由はないね。フレイヤさんが楽しんでいたのは事実なわけだし、実際に楽しんでいたところを見ているからね」


お母さまの言葉に簡単に頷いちゃったお父さま。

心底子どもたちに甘い両親ズだな。


本当はやっちゃいけないことなのに。

別に危なくなかったし、楽しかったから『い~よ~♪』で終わらせちゃうんだから軽いよな、って思ってしまう。

まぁ叱られること前提でいたから、お説教がなくなるのはラッキーだ。

それどころか好感触で終わってるし?

いい方向で片がつこうとしているみたい。


だけど。

それに納得しない人もこの場にはいるわけで。

言わずもがな、ロイアス兄さまだ。

頭が固くて融通が利かない兄さまは、昨日の時点で叱られることを前提にしていたためか、碌に話もしないままあっさりと許され───……っていうか、受け入れられ?───たことが納得できないようだった。


「……確かに、二人の言う通りなのかもしれませんが、それでも、やってはいけないことを僕たちがやったのは事実ですし……」



────ホンットに頭カッチカチだな、兄さまは……



お父さまもお母さまも『いい』って言ってるんだからそれでいいじゃん。

寧ろ『お説教回避できてラッキー!』って喜ぶところでしょ、そこは。

そんなに叱られたいのか兄さまは。


ドMか!

ドMなのか!?

その心理、私にはちょ~っと……いや、か~な~り、理解できません……ッ!!


「それに……今回は危険ではなかったかもしれないけれど、昨日は……」


……あ~。

ここで暴露しちゃう?

しちゃうのね、ロイアス兄さま。


しゃーない。

兄さまがそのつもりなら暴露しちゃおうじゃありませんか。

それで叱られるかそうでないかはお父さまとお母さまの判断に委ねることになるけどね。


「わたしのまえがみぼそっともえちゃいましたもんね」

「……そう。そうなんだよ……って、レーン!?」


うん、ぶっちゃけましたよ?

昨日のやつで(私的には)二番目に危険だと思われたことを『ど~ん!』とね!


「前髪が、燃えた……?」

「今、前髪が燃えたって言ったのかい、レーン……?」

「はい、いいました」


未だ『スンスン』泣きながら頬にスリスリしてくるサッシーを撫でつつ、何でもないようにそうケロッと返事をする私。

確かに昨日のあの時は『やっべ! 前髪燃えたわ、めっちゃ焦げ臭ッ!』とか思ったけど、今は『そういやそんなこともあったね?』くらいの感覚でしかない。

だってもう既に私の中では終わったことなのだ。

暴露したのは単なる事後報告みたいなもんだ。

それにたぶんだけど、これ言っても全然大丈夫だと思う。

きっと怒られたりなんてしないよ。

なんとなく……なんとな~くそんな感じがするんだよねぇ。

お父さまもお母さまも───特にお母さまのほうがだけど───『今無事でいるならそれでいいんじゃない?』って思ってそうだし、実際そんな風に言いそうなんだもん。


「燃えたってことは火で……ってことなのよね?」

「はい」


火だなんて生ぬるいけどね。

炎ですよ、炎。

それも真っ白で、かなりの高温帯に位置する白炎ですた。


「もしかして、それも魔法なのかい?」

「はい」

「レーンが使ったの?」

「はい。わたしがつかいました!」

「……となると。これも教えたのは、ロイアス……ってことになるのかしら?」


『まさかねぇ……』と、そこについては半信半疑といった感じで、軽く頬に手を当てながら呟くお母さま。

まぁ普通に考えたらそうなるわな。

いきなり攻撃系統に属する魔法を教えるわけがないだろうと考えるのが当たり前だ。


まぁお母さまの言うその『まさかねぇ……』は正解なんだけどね。

あの炎の魔法だけに関して言えば、あれは兄さまが自主的に教えてくれたわけではないからだ。

私がほぼ無理やりに聞き出した……というか吐かせたのだ。

『教えてくれないのなら、私だって危険なことをやってやる』といった感じの脅しをかけてまで。


「つかいかたはおしえてもらってません」

「えっ?」

「どういうことかしら、レーン?」

「しくみ? みたいなものはむりやりききました。ほうじゅつじん、とか。あとまほうしき、でしたっけ?」


解釈次第では『やっぱ教えてんじゃねーか!』ってことにもなりかねないので、あくまでも私が主体で、無理やり兄さまに説明させたのだというニュアンスに聞こえるように慎重に言葉を選ぶ。


「法術陣と魔法式、ね……」

「それをロイアスから聞くに至ったのはどうしてだい?」

「わたしが『ひ』や『ほのお』のまほうをみてみたいっていったんです。『みず』のまほうをみせてもらったあとだったから『ひ』や『ほのお』のまほうもロイにいさまはつかえるんだっておもいこんでいて。どうしてもみたかったから、にいさまにおねがいしてつかってもらったんです」


嘘はついていない……ハズ。

水魔法は生活魔法だったけれど、実際に見せてもらったし自分の手で触った……っていうか、それで顔洗いましたとも。

火や炎の魔法に関しては私から言い出したわけではなかったけれど、兄さまにそれを行使してもらったことは事実だ。

一部分を歪曲してはいるけれど、だからといってそれが完全な偽りなわけでもない。


真実ではないけれど、事実。

偽証してはいるけれど、全てが偽りというわけではない。

ところどころが本当で、ところどころが作り話。

だけど全部、私たちが実際に昨日やったことだ。


こんな風に少しだけ捻じ曲げて伝えている理由はたった一つしかない。

()()()()()()()()()()()()事実から、できるだけ両親ズを遠ざけるために必要なことだからだ。


「でもヘンなんですよ。ふういんまじゅつはイメージでできたのに、ひやほのおのまほうはイメージじゃないんですよ? なんかめんどうそうなことやってました」

「ちょっと、レーン。それ以上は……」


言わせるべきじゃないと考えてでもいるのか、兄さまが私の言葉を遮ろうとしてきた。

でも止められたからといって、話すことをやめるわけにはいかない。

私が魔法のことを両親ズに話して一緒に叱られようと兄さまに言ったのは、まさに今から話すことが本題だったからだ。


「面倒そうなこと……」

「法術陣や魔法式がそうだと言いたいんだね、レーン?」


軽く眉を寄せたお母さま。

そして確認するように問いかけてくるお父さま。

問われた言葉に頷き、私は続ける。


「だって、つよいイメージでまほうができあがるなら、そんなことしなくたってひとかほのおってでますよね? っていうかでましたよ? 『ボッ!!』って」

「頭の中で火をイメージして魔法として使ったのね?」

「はい!」


火じゃなくて炎、な?


「では前髪が燃えたというのは、レーンが自分でイメージして発動させた魔法の火が髪の毛に触れたから、ということでいいのかな?」

「はい。ビックリしました。いきなりめのまえに『ボッ!!』ってでてきたので」

「まぁぁ! それじゃ本当に顔の近くに魔法の火が出たってことじゃないの。レーン、怪我は? 魔法の火で火傷なんてしていない?」

「だいじょうぶです。かおはぶじです。まえがみだけぼそっとおちちゃいましたけど……」

「まぁ……」

「こげくさかったです……」

「それは仕方のないことね。焼けてしまったからこその臭いだもの。けれど……ようやく合点がいったわ」

「?」

「ちょうど昼食後に、レーンの部屋の掃除を担当していたメイドから不可解な報告を受けていたのよね。先端が焼け焦げた状態の髪の毛がゴミ箱に捨てられていたって……」

「!!」

「それに昨日の段階で、既にレーンは前髪を切ってしまっていた後だったでしょう? ロイアスに切ってもらったって言っていたけれど、燃えてしまったから切らざるを得なかったのよね? 今の話を聞かせてもらったことで、ようやくゴミ箱に捨てられていたレーンの髪の毛の謎も解けたわ。なんとなく、魔法かしら……とは思っていたのだけれど、そこまでの確証はなかったのよね」


うわぁ~お!

切った髪の毛の証拠隠滅のことすっかり忘れてたわ。


っていうか、お母さま!

なんとなくとか言いながらも疑ってたんか~い!

確証はなかったとか言ってるけど、実際のところはほぼ確信してて、最終確認する一歩手前でいたんじゃないの?

ほぼ完璧に『バレて~ら!』ってやつじゃないですか。

そこまで感づいていたんなら、容赦なく問いただしてくれたってよかったんじゃないです??


色々と思うことはあったけれど、文句を言える立場ではないので反論は一切できない。

なんか分かっていてコロコロ転がされてる感が否めないんだけど。

普通にお説教されるよりもこっちのが複雑だわ。


「本当だったら、私たちの知らないところで一体何をやっているんだとキツく咎めるべきなんだろうけれど……」

「怪我もないようだし、特に言うことは何もないわよね、ロンベルト?」

「そうだね、フレイヤさん。ただ、一歩間違えば危険だったことに変わりはないから……次からは、絶対に子どもたちだけではやらないように。いいね? ロイアスもレーンも」

「えっ……? あ、はい……分かり、ました…………?」

「はーい! わかりました! もうやりません!」


炎の魔法はな!


元気よく返事をした私とは違って、ロイアス兄さまはお父さまから言われた言葉に非常に混乱したようだ。

だって叱られてもおかしくないことをやったのに『お咎めなし』って言われたんだもんね。

しかも言われたのは『二度とやるな』じゃなくて『子どもたちだけではやるな』だもん。

これって『私たちだけではダメ』だけど『誰か大人が一緒ならいいよ~!』って意味にも捉えられるもんね。

つまりは、魔法を禁止されたわけではない。

いくつかの条件がくっついてくるだろうけど、魔法を使っても構わないということなのだ。

クソ真面目で頭の固い兄さまは、魔法使用禁止を言い渡されるくらいは覚悟していたのだろう。

なのに予想外のことを言われてしまって反応に困っている。

いつもだったらハッキリと口にできるはずの返事も戸惑いがちだ。


「それにしても驚いたわね。火の魔法をイメージで生み出してしまえるだなんて、レーンの想像力には驚かされるわ」

「本当にね。まだ魔法の勉強を始めてもいないというのに、ここまでのことができてしまうなんて。もしかしたらレーンには魔法のセンスがあるのかもしれないよ?」

「ええ。これから基礎をきっちりと学んでいけば、素晴らしい使い手になれると思うのよ」

「ロイアスに続いて妹のフローレンもだなんて、我が家の子どもたちは本当に優秀で鼻が高いよ」


事実上の『魔法の無断使用、お咎めなし!』宣言をしたお父さまとお母さまは、私たちをそっちのけで親バカな会話を始めてしまった。

そういうことを子どもたちのすぐ側でやるのはよくないと思うよ?

優秀だとかセンスがあるだとか、そんな言葉を真に受けてお子さまたちが天狗になってもおかしくはないんだからね?


……まぁ私はそうならないように気をつけますけど?

……兄さまも同じだとは思いますけど?


それでも、そういった話は本人たちがいないところでやってもらいたいもんだ。


「レーン、ちょっといい?」

「なんですか、にいさま?」


親バカ話に夢中になっている両親ズに半分呆れていたその時、兄さまから軽く手を引かれて少し離れた場所へと連れていかれた。

どうやら二人だけの、内緒の話があるらしい。


「どうして父上たちにあんな話を?」

「ほぇ?」

「僕やレーンが魔法を使ったことは確かだけど、レーンが父上たちに話したことは真実じゃない」

「でもうそでもないですよ?」

「……そうだけど」


兄さまが言いたいのは『なぜ包み隠さず真実を告げなかったのか?』ということなんだと思う。

別に話すことが不可能だったわけじゃない。

ただ()()()()だったらいくらでもできただろう。

でも……それではダメなのだ。

一から十まで、全て真実の話をしていたとしたら、昨日の出来事の中で最も危険だったと言えるあのことを必然的に告げることになっていただろう。

私たちが炎の魔法を使うに至った()()()()()を。


それともう一つ。

お父さまとお母さまは、私たちの使った魔法が『火』だったと思い込んでいるけれど、実際には『炎』であったこと。

魔法を使ったことに対してのお咎めがなかったのは、お父さまたちが、私たちの使った魔法が『火』であったのだと強く思い込んでいるからに他ならない。

なぜなら『火』の魔法は『炎』の魔法と比べると格段に威力が低い。

火属性の初歩の初歩として学ぶ、ある意味『基礎魔法』とも言えるべき低威力の魔法であるからこそ、大した危険性はなかったと判断されたのだ。


「どう考えても、僕たちが叱られなかったのは、父上たちに『僕たちが炎じゃなくその下級である火の魔法を使った』と思われているから」

「ふつうにかんがえたら、わたしが『ほのお』のまほうなんてつかえるわけないですもんね」

「『炎』どころか『火』でさえ使えるなんて思わないって。だからこそ、さっきの話を聞いてあんなにレーンを称賛しているわけだろう?」


『ほら……』と指差されて見遣った先では未だ親バカ話を続けているお父さまとお母さま。

でも……


「いいんですよ。かんちがいしてもらったままで」

「嘘を真実として告げたのに?」

「ぜんぶがうそじゃないですし」

「……そうだね。捻じ曲げられた伝えかたではあったけれど、内容は八割がた事実だ」

「でしょう? おとうさまたちにはかんちがいしてもらったまま、こんかいのことはこれでおしまいにしてもいいとおもうんです」

「……多少の後ろめたさは残るけれどね」

「そこは、このさききけんなことはしないってはんせいして、それをきちんとまもっていけばいいとおもいます」

「……レーンはそれでいいの?」

「それがいいんです」


それ『で』いいのではなく、ね。


「おとうさまたちがかんちがいしているままのほうがいいんです。なにもかくさずに、ほんとうのことをぜんぶはなしたらおおごとになっちゃいますよ。こんどこそ、おせっきょうだけじゃすまないことになっちゃうとおもいません?」

「……そうかもしれないけど。でもね、レーン?」

「はい」

「このまま本当のことを黙っていること、後悔しない?」

「こうかいなんてしません。きれいにまぁるくおさまったんだから、それでいいとおもってます。『おわりよければすべてよし!』なのですよ!」

「え……? 終わり、よければ……?」

「すべてよし! です!」


一瞬、私の言ったことに対して戸惑った兄さまだったけれど、確認するように私の言った言葉を繰り返してきた。

自信なさげに問いかけるような口調だったため、途中でその言葉を引き継ぎ、それで間違いないのだと笑顔で言い切ると、兄さまはどこか微妙な表情になりながらも苦笑した。


「う~ん……」

「にいさま?」

「レーンの言いたいことは分かるし、確かにそうだなって思えるくらいに説得力のある言葉ではあるけれど……」

「……けど? なんですか?」


兄さまの顔から苦笑が消えないため、何が引っ掛かっているんだろうと思いつつ問いかける。


「そんな難しい言葉、一体どこで覚えてくるのかな、レーンは?」

「!」


さあ?

どこででしょうね?

強いて言うなら『前世』かな?


なんてことは口が裂けても言えないので、返事の代わりに『ニッコ~』と笑顔を返しておいた。

たぶんさっきと同じパターンで、何かの本を見て覚えたんだろうとでも思ってくれるはず。

子どもは知らないうちに、色んなところで色んなことを覚えてくるもんです。

私も例外じゃないということで一つお願いします。


ニコニコ笑顔で察してくれたのか、それ以上兄さまが追及してくることはなかった。

自分でも説得力のある言葉だと言ってたし、追及する意味もないと思ってくれたのかもしれない。


あ、そうそう。

これだけは伝えておかなきゃだ。


「にいさま、わすれてました」

「ん?」

「わたしがほんとうのことをぜんぶいわなかったのはですね、ほのおのまほうをつかったことをいっちゃうと、どうしてそれをつかうことになったかいわなきゃいけなくなるとおもったからなんです」


コソッとそう告げると、兄さまの表情が引き締まり、真剣なものになった。


「いえるわけないですよね? わたしがおデコをけがして、いっぱいちがでたとか。それでにいさまのシャツがちぞめになっちゃったとか。しょうこいんめつで、ちまみれのシャツをもやすためにほのおのまほうをつかったとか」

「……あ~……そうだった…………そうだったよ…………」


既に兄さまの中でも、昨日あった出来事の危険度MAXのアレは『そういえばそんなこともあったね』くらいの認識になっていたようです。


「もしそれをいったら、おせっきょうよりももっともっとめんどうなことになってましたよね?」

「確実にね……」


そう言いながら、兄さまとほぼ同時にお父さまたちのほうを見遣る。

というより、見たのはお父さまのほうだ。

二人似たような、げんなりとした表情でこう続ける。


「わたしのえがなくなったってだけで、あれだけとりみだしたおとうさまですよ? わたしがいっぱいちをだすほどのけがをしたなんてしったら……」

「間違いなく発狂してるね。それでもまだマシなほうかもしれない……」

「おせっきょうよりもめんどうでしょう?」

「面倒以上に厄介だな」

「だから、わたしのおデコのけがのことは『し~!』ですよ、にいさま」

「そうだね。そのほうがいい。レーンが『それ()いい』じゃなく『それ()いい』と言った理由がよ~く分かったよ。確かにあのまま勘違いしてくれていたほうがよさそうだ」

「でしょう? だから『おわりよければすべてよし!』なのですよ!」


……と、三度目となる言葉を繰り返す。

今度こそ兄さまは躊躇うことなく頷いてくれた。


「あっ、でも」

「?」

「にいさまのまほうのおべんきょうのことは、ちゃんとおはなししたほうがいいとおもうんです。あのときのにいさまのまりょくは……すごく……すごくいたかったですから……」

「うん、分かってる。そのことはちゃんと個別に話そうと考えていたんだ。昨日身を以て思い知ったよ。どうやら僕は、魔力制御(コントロール)がうまくできていないみたいだからね。きちんと操っているつもりが、逆に魔力に振り回されているようなんだ。このままでは危険どころの話じゃなくなってしまうしね。一刻も早く対処しなければならないことに気づかされてよかったと思うよ」

「え……?」

「というわけで、これから父上にそのことを話してくるよ」

「にいさま……?」


ちょ、ちょ、ちょ~~~~い!!


今なんて?

兄さまなんつってた?


魔力に?

振り回されてるって?


いきなり何?

何がどうなってこうなった?


意味わからん!

っていうか、超特大の爆弾発言かまして、何の説明もないまま放置して行くなっての!!


私にもちゃんと分かりやすく説明を!!

プリーズ!!


その前にカムバックだ、兄さま!!


……なんて叫びは当然ロイアス兄さまには届きません!!

心の中の叫びじゃあ、ね……


……はぁ。

なんでこうなったし。


『終わりよければ全てよし』のはずが、最後にとんでもない疑問を残していきやがりましたよ。

ホンット、兄さまってしっかりしてるようでどっか抜けてるわ。


今は行くなら行くで、それでいい。

けど……あとでちゃんと説明はしてもらいますからねッ!!

あなたの妹は、納得なんてしていませんから!!!









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