悪戯は仲良し家族計画に欠かせないツールです! 1
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いつの間にかブクマいただいている数が500件に近づいてまして、たくさんの人に見ていただけているんだなぁと嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
のんびりペースの不定期更新のお話ですが、これからもお付き合いいただけたら幸いです(*・ω・)*_ _))ペコリン
~悪戯は仲良し家族計画に欠かせないツールです! 1~
自分で歩いて向かっていたはずなのに。
今ではお母さまに抱っこされながらサロンへと運ばれている幼女、フローレン4才です。
兄さまへの悪戯は概ね成功したと言えるけれど、その後がなんともぐだぐだしすぎました。
もっとこう……『スパーン!』とスッキリさっぱり終わってくれてもよかったのにね?
予想外にミックたちに目を付けられちゃったものだから、そこから色々と悶着がありすぎましたですよ。
お母さまがいてくれたお陰で、今こうして無事にミックたちと一緒にサロンに行けているんだけどね。
その兄さまも、今頃はガルドにギッチリ捕まってお説教という名の指導なうだろうから、暫くの間は私もミックたちも大丈夫だと思う。
そんな思いから、後ろをついてくるミックたちを見つめる目が自然とゆるゆると優しく緩んでいく。
お母さまに抱えられながらの移動だったおかげで、サロンへの到着はあっという間だった。
だけど出迎えてくれたヴェーダにはものすごく驚かれてしまったよ。
涙は止まったとはいえ、思いっきり泣いた後だったからね。
そんな私の顔を見たヴェーダは素早く温めたおしぼりを差し出してくれた。
何とも仕事がお早いことで。
心の中でそう感心していた私をよそに、ヴェーダからおしぼりを受け取ったお母さまが、赤くなった目元に優しくそれを当ててくれた。
じんわりと伝わっていく熱が身も心も解きほぐしていくようで、私は素直にその熱に身を委ねた。
油断したら、リラックスしすぎてお母さまの腕の中でそのままウトウトと眠ってしまいそうだ。
でも……私は眠ったりなんてしないよ!
なんてったって、待ちに待ったおやつの時間なわけだからね!
気合で眠気を吹き飛ばしたところでタイミングよくヴェーダがお茶を出してくれて、受け取ると同時に一口。
飲んだ紅茶が身体中に染み渡っていくような感じについつい気が緩んで、ついでに表情もふにゃんと緩んだ。
砂糖もミルクも入れないプレーンティーだったけれど、たまには紅茶そのものの味をじっくりと堪能するのもいいもんだ。
甘いもの好きな私がプレーンでも全然OKだと思えるくらいにこのお茶はおいしかった。
ホッとした気持ちのままコクコクと紅茶を飲み干していたら、お母さまがニコニコ笑顔で私の様子を見守っていた。
そんなお母さまの視線に気づき、コテンと首を傾げるとクスクス笑われた。
今更ながらに気づいたんだけど私はお母さまの膝の上に座らせてもらっている状態で、上からしっかりと顔を覗き込まれていたのだ。
「?」
「とてもおいしそうにお茶を飲んでいると思って」
「? とってもおいしいですよ?」
「そうね。ヴェーダが淹れてくれるお茶は絶品だものね?」
そう言ってお母さまもお茶を一口含む。
「おいしいお茶とおいしいお菓子で、更においしくいただけるわね」
目の前に広げられた様々な種類のタルトを示しながらお母さまはそう言う。
「わわっ……!」
目にしたキラキラのタルトたちに一瞬で心が奪われる。
一つ一つが小さめに作られたタルトはどれもこれもおいしそうで、甘いもの好きで食いしん坊な私からしたら全種類を制覇したいところだ。
けれど幼女の小さな身体で全ての種類のタルトをお腹に入れるというのは無理がある。
いくら小さめに作られているとは言っても、それはあくまでも大人基準での話だ。
大人だったら軽く一口、二口で食べられそうなそれらは、子どもの口ではその倍はするんじゃないかな、というくらいの大きさなのだ。
ここは慎重に、本当に食べたいものを厳選するしかない。
途中でお腹がいっぱいになって食べられなくなったら悲劇だよ。
でも……
────どれを選べばいいのか超迷う~~~!!!
お母さまから取り皿用にとシンプルでオシャレなプレートと銀のフォークを渡され、それらをキュッと力を込めて持ちながらタルトたちと睨めっこ。
まぁ勝負にはなりませんけどね?
あっさりと私の負けですよ。
だって見てるだけで顔がふにゃふにゃと笑っちゃうんだもん。
スイーツが持つ『魅力』という名の攻撃力は無限大だね。
どう抗おうとも抗えません。
目にした瞬間に陥落して白旗上げるんですよ。
「ずいぶんと迷っているようね、レーン?」
「だっておかあさま……」
「魅力的なものばかりで選べないのね?」
「……はい」
クスクス笑いながら今の心境を言い当てられ、思わず顔がへにょんと情けない表情を作る。
さっきから大好きなものを前に百面相を繰り広げてばっかだ。
「そうね、迷うのも仕方がないかもしれないわね。どのタルトもシェフたちが腕によりをかけて作った逸品ばかりだもの」
そう言ってお母さまは『わたくしのおすすめはこれとこれね』と、二つのタルトを私の取り皿へとサーブしてくれた。
それは艶やかに煌めく赤が眩しいいちごのタルトと、シンプルな見た目ながらも甘酸っぱく優しい薫りのリンゴのタルトだった。
「迷った時はこの二つを選んでおけば間違いないわよ?」
自分の取り皿にもタルトをサーブしながらお母さまは私にそうアドバイスしてくれる。
お母さまの取り皿には、私にサーブしてくれたものとは別のタルトが載っていた。
てっきり同じものを選んだと思っていたのに意外だ。
「それでも選べない場合は、一緒にいる誰かと色々な種類のものを分け合うこと……かしら?」
「! おかあさま……!」
私が目移りして悩んでいたことを知って、お母さまは『シェアする』ことを更に提案してくれたのだ。
ちなみに今ここに『一緒にいる誰か』とはお母さまだ。
つまりお母さまは『わたくしと一緒に分け合いましょう』と言ってくれているわけだ。
それが分かって、感激のあまりに目がうるうるし始める。
せっかく収まった涙が戻ってくるその前に、お母さまが茶目っ気たっぷりに『えいっ♪』と楽しそうな声を上げつつ、私の口の中に一口大に切り取ったタルトを載せたフォークを入れてきた。
反射的に『パックン』とそれを食べる私。
ゆっくりと味わいながら咀嚼していくうちに段々と口の中に広がっていくのは瑞々しい酸味と甘味のハーモニーだ。
思わず『ふにゃん』と顔が緩んでニマニマとだらしない笑みを浮かべてしまう。
────このどこか懐かしいような酸味と甘味……
「マスカットだ!」
口の中のタルトを完全に飲み込むと同時に、ほぼ叫ぶような形でそう言っていた。
これは完全に無意識です。
っていうか、心の中で叫んだつもりでした、私的には。
だけどしっかりと興奮気味に声に出して叫ぶように言い放っていたので、サロン中に私の歓喜した声がワッと響いた形となってしまった。
いかんいかん。
はしたないですよ、ワタクシめ。
そう思って口を噤もうと慌てて両手でバッと口を覆ったわけだけれど、思っていたようなお咎めはなかった。
逆に『微笑ましい』と言わんばかりに見つめられ、更にはお母さまからクスクスと笑われてしまう始末。
一応お子チャマだからセーフ、ということなのかな?
でも次からは気をつけよう。
さっきお母さまも言ってたもんね。
私のことを『小さな淑女』だって。
だからその名に恥じない振る舞いをしなくちゃ、せっかくのお母さまからの言葉が台無しだ。
今からでも挽回するぞ!
フォークを持ったままグッと拳を握り締めた私を、お母さまがニコニコ笑顔で見つめてくる。
「おいしかったでしょう、レーン?」
「はい!」
「思わず大きな声を上げてしまうほどおいしかったということね」
問うようにそう言われて私はコクコクと頷く。
するとお母さまは分かっているとばかりに『うふふ』とご機嫌に笑った。
「どれもこれも絶品だから、余すことなく口にするのも一つの手よ? けれど……レーンがこれら全部を一人で食すには一つ一つが些か大きすぎるのが難点なのよね。だから……少しずつわたくしと分け合っていただきましょうね?」
続いた言葉にもコクコクと強く頷く。
言葉が出せないのは口の中にタルトが入っているからだ。
先にお母さまがサーブしてくれたいちごのタルトをじっくりと堪能している最中なのである。
おおよそ半分を食べたところで残りの半分をお母さまへと差し出し、分け合いっこするのだ。
「ありがとう、レーン。いちごのタルトのお味はどう?」
「とってもおいしかったです!」
「ふふっ。選んで間違いなかったでしょう?」
「はい!」
そうやって一つのタルトを半分ずつに分け合いながら、私はお母さまと一緒に色々な種類のタルトを堪能していった。
だけど、きっちりと注意もされた。
この分け合いっこは身内だからできることであって、余所では決してやってはいけないということ。
あくまでも気心の知れた仲同士の者が私的な場でやることが大半であり、公の場でこれをやろうものなら、周りから確実に批難されまくるという、とんでもないマナー違反で非常識な行為だからだ。
つまりは、許されるのは家族とものすごく親しい友人同士に限られる、ということ。
ちなみに友人に関して言えば同性同士ね?
男女間でやってしまったら、これまた違う方向でとんでもない噂が飛び交うこと必至だ。
そういうわけで、こういうことは仲のいい女の子のお友だち同士でやりましょうね~、という結論に落ち着く。
女の子に限定して言っているのは、男の子はあんまりこういうことやらなそうだから。
仮にやったとしても、男の子の場合は女の子の時ほど非常識だとか言われないっていうから世の中不公平だよね。
まぁ男の子に関して言えば、食事のマナーは多少ダイナミックであってもそう咎められることはないかららしいんだけど。
もちろん上品であることに越したことはないけど、しっかりと気持ちのいい食べっぷりを見せることもまた好意的に捉えられるという何とも不思議な風潮がこの国にはあるようだ。
そのあたりはこの国の建国の時代からの風潮が今もなお色濃く受け継がれているから……ということらしいんだけど、歴史のお勉強を開始していない私にはまだまだ分からない話だ。
あ、そうそう。
ちなみにオンディール公爵家の男性陣はどちらも前者の『上品に食べる人たち』の方に分類されます。
っていうか、あの二人がダイナミックに食事を取っているところなんて全く想像できない。
似合わなすぎるよ。
……とまぁ、こんな感じで分け合いっこに関する決まりごとやらなんやらをしっかりと聞かされつつ、お母さまと一緒においしいタルトたちを満喫してから実に30分ほどが経過した頃だろうか。
「お寛ぎのところ失礼いたします。奥様、フローレンお嬢様」
……という言葉とともに家令のカイエンがサロンを訪れたのは。
いつもは冷静にどっしりと構えている壮年のカイエンだけど、今はちょっとだけ、表情に困ったものが浮かんでいるように見える。
らしくない家令の様子に『何かあったのだろうか』という疑問が浮かぶのは当然のことだ。
「あら、カイエン。どうかして?」
「はい、奥様。たった今先触れが入りまして、旦那様がお戻りになるとのことです」
「まぁ。では旦那様のお出迎えのための準備が必要ね。それで? お戻りはいつ頃になると仰っていたのかしら?」
「それが、先触れを出されたのは旦那様ではなくノーヴァ公爵様で」
「? あら。一体どういうことかしら?」
「これを告げるのは非常に心苦しいのですが。ノーヴァ公爵様からの一種の苦言とでも言いますか……体調がまだ万全でないにも関わらず無理に出仕された旦那様を見咎めたそうで。『これから強制的に連れ帰るのでゆっくりと休ませてほしい』とのことでした」
「あらあら、まぁまぁ。昨夜に引き続きまたもノーヴァ公爵様のお手を煩わせるだなんて仕方のない人ねぇ」
さっきまでの悪戯提案前の『おこ仕様』なお母さまは一体どこへやら。
カイエンの話を聞いている今のお母さまは、ほんのちょっぴり困ったような、それでいて心配そうな表情で頬に手を当てながら首を傾けている。
だけどまぁ、お母さまの『仕方のない人』という言葉には大いに同意する。
前世の時でもよくあったもんね。
風邪ひいたり何なりで明らかに具合悪いってのに無理して学校に来てさ?
その本人は『ぜぇはぁ』って苦しそうにしてんのに、周りには『大丈夫』『平気』だなんて言っちゃうの。
見てるこっちは全ッ然大丈夫じゃないっつうの、っていう話だよね?
でもって最終的には先生やクラスメイトに『お前もう帰って休んどけや!』って家に強制送還されるってパターン。
それと全く同じじゃね?
今回のお父さまとノーヴァ公爵様との状況ってさ。
昨日の様子からお父さまは体調不良でも無理するタイプだし、ノーヴァ公爵様はそんなお父さまのお目付け役兼世話焼き役っていう感じがする。
でもって『強制的に連れ帰る』って言っちゃうあたり、有無を言わさず実力行使に出るタイプと見た。
お母さまとカイエンの会話にしれっと耳を傾けつつ、お茶を飲んで一息つく私。
普段だったらお出迎えはお母さまとカイエン、それからヴェーダと手隙の使用人の何人かで十分なんだろうけど、お父さまのことが心配だし、私も一緒にお出迎えさせてもらおうかなぁ。
言葉で『大丈夫』『平気』って言われても、やっぱり直接本人の顔を見て本当に大丈夫かどうかを確認しないと安心できないんだよね。
相手が『無理しちゃう系強がりタイプ』のお父さまなら尚更だ。
うん、そうしよう。
……と、考えを纏めたところでお母さまが立ち上がった。
「ふゎ!?」
当然のことながら、お母さまの膝の上に座っていた私はそのまま抱き上げられる形となる。
飲みかけの紅茶のカップを手にしたまま。
突然のことだったから、反射的に変な声を上げてしまったことは許してほしい。
せめて一言声をかけてから立ち上がってほしかった。
……なんて、そんなのんびりしていられる状態じゃなかったからかもしれないけど。
ゆっくりとソファーに下ろされた私は、そのまましゃがみ込んで目線を合わせたお母さまにこう言われた。
「ああ、ごめんなさいね、レーン? これから旦那様のお出迎えのための準備に入るから、レーンはそのままここでゆっくり寛いでいてちょうだい」
「わたしもおとうさまのおでむかえいきます」
「いいえ。レーンにはここにいてもらいたいの」
「どうしてですか? わたしもおとうさまのおでむかえしたいです。ほんとうにおとうさまがだいじょうぶなのか、じぶんのめでみてみないとあんしんできません。ダメですか、おかあさま?」
「ダメではないの、レーン。一緒に行きたいと言ってくれるレーンの気持ちはよく分かるわ」
「じゃあ、どうしてわたしはここでおるすばんなんですか?」
「レーンが一緒だと、ミックたちもレーンについてきてしまうでしょう?」
「? はい。たぶん」
今はソファーの前でおとなしくしているミックたちを見遣る。
静かだから寝てるのかな?
ミックもミッちゃんも蓋閉まってるし、サッシーもミッちゃんの上にペタンと伏すようにしていて顔が見えない。
ここで私が移動したら、さながら親鳥を追いかける雛鳥のように私の後ろをついてくることだろう。
「そうなると、旦那様に絵の隠し場所が簡単に分かってしまうかもしれないわ」
「! あ……ッ」
言われてみればその通りだ。
お母さまのメッセージカードには絵の隠し場所のヒントとして『箱の中』というワードがあった。
確かに隠し場所そのものでもある宝箱風おもちゃ箱のミックを連れていたら、探すまでもなくすぐに隠し場所を当てられてしまうかもしれない。
ミックを見た時点でお父さまを驚かせることはできるかもしれないけど、それだとせっかくの悪戯も楽しみが半減してしまうってもんだ。
探して、探して、探して、探しまくって。
そしてようやく探し当てたところで、隠し場所の箱がお化けさんで、更には目的のものはお化けさんの口の中、という焦らすに焦らす行程があるからこそ驚きはより一層大きくなる、という段階を踏んだのだ。
その一連の流れはできれば崩したくはない、とも思う。
「だからね? レーンにはミックたちと一緒にここにいてもらいたいの。わたくしは帰ってきた旦那様をここに誘導するのが役目。レーンはここで旦那様を驚かす役目。ね? 役割分担は大事でしょう?」
確かに。
お母さまの言うことにも一理ある。
だから素直に頷いた。
「わたくしが旦那様をここに誘導したら、レーンは思いっきり旦那様を驚かせてあげてね?」
「わかりました。そういうことならわたしはここにのこります」
「ありがとう、レーン。お願いね?」
そう言ってニッコリ笑ったお母さまは、そのままカイエン、ヴェーダの二人と一緒にサロンを出ていくと思ったんだけれど。
なぜかミックたちを起こし始めた。
突然触れられて『どうかしたの?』と言わんばかりに、ふるふると身体を震わせながら動き出すミックたち。
私も同じく『どうかしたの?』という気持ちでお母さまを見上げる。
「もう少し、驚かすためのタネを仕掛けてみようかと思って」
「はい?」
言うなりお母さまはサッシーを掌に載せた。
お母さまに触れられたことでサッシーが小さくも甲高い声で『キャッハハハハッ♪』と笑い出した。
でもって笑い声とともに、仄かなラベンダーの香りが辺りにふわっと振り撒かれる。
……ああ、黙ってればあんなに静かなのに。
控えめな小さな声のはずなのに、なんでアンタが笑うとこんなにもけたたましく感じるの、サッシー。
そういう風に生み出した私が言うなって話だけど、ホントに謎だらけだよこの子たちの生態ってやつは。
お母さまが何をするつもりなのか分からず、じっと様子を覗っていると、今度はミッちゃんへと向き直った。
口を開けたミッちゃんとサッシーを交互に見つめながら、ミッちゃんにこう語りかける。
「ねぇ、ミッちゃん」
《ヌヌっ?》
「あなたの中にサッシーを隠すことはできるかしら?」
《ヌヌっ♪》
まぁ大きさ的にも大丈夫だとは思うけど。
ミッちゃんもそのあたりは余裕なのか、ミックがしたように『えっへん』と胸を張るように器用に箱全体でビシッと直立した。
アンタもミック同様すんごいバランス感覚だな。
繰り返すようだけど、キミたちの生態は一体どうなってんだ。
ホント謎だらけすぎるわ、この子たち。
「じゃあ、サッシー。ミッちゃんの中に隠れてちょうだいな」
《キャハっ♪》
言われるままにミッちゃんの中に入るサッシー。
「ミッちゃんはミックのように飲み込んだりしないでね? あくまでも口の中にサッシーを入れたままにしておいて」
《ヌヌっ♪》
「口を閉じてもらえる?」
《ヌヌン♪》
ミッちゃんもまた言われる通りにパッタンと蓋を閉じた。
「大丈夫そうね。じゃあ次は、ミッちゃんがミックの中に隠れる番」
《ヌヌっ?》
パコンと蓋を開くと同時に不思議そうな声を上げるミッちゃん。
同様にミックも『ヌ?』と箱全体を傾けながら似たような声を上げた。
「ミックも同じようにしてミッちゃんを口の中に隠してくれるかしら? 絵のように飲み込まないようにしてね?」
そう言われて、ミックが大きく口を開く。
その中にミッちゃんがミヨンと跳ねながら飛び込んでいく。
そしてミッちゃんの中にはサッシー。
つまりは、ミックの中にミッちゃんがいて、更にその中にサッシーがいるという三段構えの状態になっている。
え~っと……コレってさ……
────ま……マトリョーシカ……?
本家本元とは大幅にかけ離れてるけど、一番近いものに例えるとそれしか浮かばない。
「ミックを開けても絵が入っているどころかミッちゃんが真っ先に目に入って。そのミッちゃんの中にもサッシーがいる。絵にはすぐに辿り着けないということよ。うふふふふっ」
わぁーなんつー嫌がらせ~。
さすがにそこまでしたらお父さま泣くんじゃね?
やっと絵の隠し場所を探し当てたと思ったら、マトリョーシカもどきの仕掛けという罠にかけられるんだよ?
さすがの私もそこまでは考えてなかったわ。
お母さま、まだやっぱり、ちょっぴり『おこ状態』ですね?
そうですね?
まだ帰らぬ、この場にはいないお父さまに心の中で合掌した。
悪戯を提案したのも、その大半を仕掛けたのも私だけど。
トドメを刺しに行くのはどうやらお母さまのようです。
でもゴメンなさい。
こんな風に楽しそうにミックたちに隠れるよう指示しているお母さまは止められそうにないです。
だって私……言い出しっぺだも~ん!
とは言っても、悪戯の真犯人は私なわけだし、事が終わったあとに責められたらそこは素直に謝ろう。
悪気があってやったわけじゃないしね。
「ふふっ。仕込みはこれでバッチリね。あなたたちは旦那様が来るまでお化けさんだと悟られないようにおとなしくしていてちょうだいね?」
《ヌッ!》
《ヌヌっ♪》
《キャハッ♪》
三者三様の独特な返事をしてから、ミックたちは魔法をかける前の状態と変わらない姿でここに待機することとなった。
今は私の足元あたりに、宝箱風おもちゃ箱に擬態したミックだけが鎮座している状態。
でも中身にはこれまた宝石箱に擬態したミッちゃんと、更にその中にサシェに擬態したサッシーがいて、触ったらそれぞれが本性を現す、という風になったらしい。
一体いつの間にそんな打ち合わせをしたのやら。
お母さまもしっかりミックたちとコミュニケーション取れてんじゃん。
「それじゃ、レーン。旦那様がここに来るまでゆっくり寛いでいてね?」
「はい」
「それと一人きりだと淋しいでしょうから、すぐにロイアスにここへ来るように伝えておくわ」
「え……」
……別にいいのに。
あんな悪戯食らった後じゃ兄さまも私と顔合わせるの気まずいんじゃないかな。
そう思って兄さまは呼ばなくてもいいとお母さまに言おうと思ったけれどそれは叶わなかった。
「そろそろ準備に向かわなくちゃ。カイエン、旦那様のお戻りはいつ頃になって?」
「ノーヴァ公爵様が文字通り『飛んで連れ帰る』と申しておりましたので、数分もしないうちに戻られるかと思われます」
「まぁ! そんなにすぐなの? 準備も何もあったものじゃないじゃない。こうしてはいられないわ。時間はないけれど、最低限できる限りのことはしなければ。行くわよ、カイエン、ヴェーダ!」
「「畏まりました、奥様」」
「それから、誰か人を遣ってロイアスをサロンへ呼ぶよう手配して。もちろんガルドも一緒にここに呼ぶように」
そうテキパキと指示を飛ばしながら、お母さまはカイエンとヴェーダを伴って慌ただしくサロンから出ていった。
なんだかんだと忙しそうに見えながらも、遠ざかっていくお母さまの背中は『ウキウキ』と嬉しそうな感情が溢れ出ているようにも見えて。
思わず『ふうっ』と息をつくように笑ってしまった。
「……おかあさま、ホントおとうさまラブでしかたない、ってかんじだわ」
誰もいなくなったサロンでぽそりと呟いた言葉を拾ったのは、今私の足元にいるミックたちだけで。
呟きに気づいたミックたちが思わずといった感じでそれぞれ『ヌッ?』『ヌヌっ?』『キャハ?』と不思議そうな声を上げつつ顔を覗かせてくる。
そんなミックたちに笑いかけながら、私は思ったことをそのまま言葉に乗せた。
「ん~ん、なんでもないよ。ただ……だれかを『すき』だっておもうきもちはとってもすてきだよね、ってこと! ミックたちもそうおもわない?」
《ヌンヌン!》
《ヌヌン♪》
《キャッハハハハッ♪》
私の言葉に賛同するように、はしゃぎながら声を上げるミックたちを見て私も笑った。
お父さまが帰ってくるまであともう少し。
ロイアス兄さまがここに来るまでも、もう少し。
……さて。
お母さまが一匙手を加えたお父さまへのこの悪戯。
どんな風に収束して、どのような結果を残すのだろう。
万全じゃないお父さまには申しわけないけど、この後のことがちょっぴり楽しみだったりする。
できることならば、目の前でお父さまとお母さまの仲良しぶり……もとい、ラブラブっぷりが見られたらいいな……というのが私の本音なんだけれど。
実際にどうなるかは少し後でのお楽しみ、っていうやつだ。
最近は昼夜の寒暖差だけでなく、日毎の寒暖差もあって自分を含め体調を崩しがちな方がたくさんいらっしゃいます。
新型コロナウイルスの影響もまだまだ計り知れないですし、皆さんもこのお話のパパンのように無理せず身体を労っていただけたらと思います。
……切実にマスクが欲しいです。・゜・(ノД`)・゜・。