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仕掛け魔法で悪戯を 5

引き続き、魔法で悪戯編です(^^)




~仕掛け魔法で悪戯を 5~




悪戯のための全ての工程を終えたら結構な時間が経っていた。

時計を見たわけじゃないから正確な時間は分からないけれど、己の体内時計がそろそろおやつの時間だと脳内に伝えてくる。

そう、嬉し楽しい3時のおやつですよ~、っと。

意外と幼女の身体は燃費が悪いらしく、今の私は軽い空腹を覚えている。

お昼にお腹に入れたごはんは既にエネルギーとして消費しきってしまったらしい。

まぁ結構な回数の魔法も使ったわけだしね!


そんなこんなで、空腹を満たすためのおやつタイムを取るべく、お母さまと一緒に再びサロンへと向かっております。

お茶請けのお菓子が何なのか、ちょっと楽しみだったりする。

午前中のお茶の時間はお菓子は食べなかったからね。


目の前を優雅に歩いていくお母さまの背を追いかけるようにトットコトットコ歩いていく私……の後ろをビヨヨンビヨヨンと跳ねながらついてくるミック。

更にその後ろにはミヨンミヨンと跳ねながらついてくるミッちゃんと、同じくピンピン跳ねながらついてくるサッシー、という奇妙な縦一列の並びで、まるで電車ごっこをしているかのよう。

もちろんそんな意図は誰にもありません。

たまたまですよ、たまたま。


ちなみにミッちゃんとサッシーだけど、今までずっと私たちと一緒にいた。

絵を剥がす、隠す、カードに細工……といった作業をしている私たちの邪魔をしないように、隅の方に寄ってずっとおとなしくしていたらしい。

あまりにも静かだったから全く気づかなかったよ。

魔法をかけて生まれてきた時はあんなにうるさかったのにね?

おかげで移動開始するまでその存在をすっかり忘れてしまっていたよ。

いや、わりと本気で忘れてた。

それだけ静かすぎたのだ、彼女(?)らは。


だけど、邪魔をしないようにおとなしくしていたという点においてはすばらしくいい子たちだと思った。

作業中にうるさくされていたら、こんなに早く全ての工程を終えることはできなかっただろうから。


「うふふっ。お茶請けにはフルーツたっぷりのタルトを用意してもらっているわ」

「フルーツタルト!」

「ええ。フルーツ以外にもショコラやクリームチーズのタルトもあるから、好きなものを存分に味わってね?」

「たのしみです!」

「午前中はお菓子を口にしていなかったものね?」


お腹がいっぱいだったんだって。

でも今はいい具合にお腹が空いてきているから、甘いおやつはペロッと食べられるぞ!

それに、タルトなんて……最高じゃん!

たっぷりのフルーツで飾られたタルトは表面がキラキラツヤツヤしていて、まるで宝石みたいな芸術品なのだ。

目で見て、味でも楽しめるなんて最高以外の何者でもないと思う。

う~……想像するだけで口の中が甘酸っぱくなってきた。

早く食べたい!


既に頭の中がおやつでいっぱいになっている今の私の顔は『ふにゃふにゃ』と気の抜け切っただらしない表情になっていることだろう。

思いっきり顔に出ている私を見てお母さまがクスクスと笑う。


「楽しみで待ちきれないといった感じね、レーン?」

「はい! はやくたべたいです!」

「うふふっ、わたくしもよ。一仕事終えた後の甘いお菓子は至福の味がすることでしょうね?」

「とってもさいこうだとおもいます!」


達成感の相乗効果ですね!

柔らかな笑みを向けてくれるお母さまに満面の笑みを返しながら頷く。

いつの間にか、縦に並んでいたはずの私とお母さまの位置は横並びへと変わっていた。

気づかないうちにお母さまが一度足を止めて、私が隣に並ぶのを待っていてくれたらしい。


「もう一つあるわ」

「?」

「愛する可愛い娘と一緒に食べるから、更においしくなるのよ?」

「!」


笑顔だけでなく、そこにウインクまでプラスされて、思わず軽く目を見開いてお母さまを見つめてしまった。

けれど、すぐに驚きは嬉しい気持ちへと変わって、見開いていた目はゆるゆると細くなり、表情も再び満面の笑みを湛えたそれとなる。


「はい! おかあさまといっしょなら、おいしいものはもっともっとおいしくなります!」


笑みを浮かべながら元気いっぱいにそう答えると、お母さまが優しく微笑んで私の手を取った。


「そんな風に嬉しそうな顔をされるとわたくしの方も待ちきれなくなってしまうわね。そう離れているわけでもないのに、サロンが随分と遠く感じられてしまうわ」


物理的な距離に変化はないのに、気持ち一つでこんなにも心理的な距離が変わるなんて不思議だ。

でも、待ちきれないのは私も同じ。

気がつけばお母さまを追い越して『早く早く』と急かすようにグイグイと手を引っ張っていた。


「まあ、うふふ。そんなに引っ張らなくてもサロンは逃げていかなくてよ? もちろん用意してあるお茶もお菓子もね?」


クスクス笑いながらも、お母さまは私の急ぎ足に付き合ってくれる。

後ろからついてくるミックたちの跳ねるスピードもちょっとだけ上がってるような気がする。

それだけ私が急いでいるということなのだろう。

単に食い意地張ってるから急ぎたいだけ、というのが大きな理由なんだろうけどさ。

大好きな甘いものが関わっているんだからそこはしょうがない。

我慢できないお年頃なんです。

だって、ホラ……今のワタクシ、幼女ですし?

好きなものを目の前にお預けなんてフツーに耐えられませんってば!


……とまぁ、そんな感じで、お母さまと『うふふ』『あはは』とじゃれ合いながら手繋ぎでサロンに向かっていると、ちょうど兄さまが部屋に入ろうとしていたところに遭遇した。

先に私たちに気づいたのは兄さまの後ろに控えていたガルド。

パッと目が合ったと同時に苦笑されて軽く扉を指差されたのを見たことで『ああ、これから仕掛けた魔法トラップの餌食になるんだな』と察する私。

思わずニッコリと笑顔を返した。

そんな私とガルドの無言の遣り取りを見ていたお母さまが一瞬だけ不思議そうな顔をして首を傾げていたけれど、兄さまがドアノブに手をかけた瞬間すぐに察してくれて、これまた『ふふっ』と微かな笑みを浮かべて私たち同様に兄さまの様子を見守る。

不思議なことに、私たちの存在はまだ兄さまに気づかれてはいないようだ。


なんというご都合主義的な展開!

『こんなに近くにいたら普通は気づくもんでしょ!?』っていう突っ込みはナシの方向でお願いします!

だって一番そう突っ込みたいのは私なんだもん!


とりあえず、一連の流れをガン見していたらさすがに気づかれてしまうと思うので、あくまでも通りすがりを装いつつ様子を窺うことにした。

それが自然な形だからだ。

声に出して打ち合わせたわけでもないのに、私とお母さまの考えは完全一致。

無言で頷き合うと同時に何事もなかったかのように手を繋いで歩みを止めないままサロンへとGOだ。

ここでまたもお母さまと目を合わせて見つめ合い、ニッコリと笑顔。

視線で分かり合えるなんて、なんてすばらしい以心伝心!


そのまましれ~っと、扉を開いた兄さまの側を通り過ぎようとしたその時だった。

時間差で落ちてくるように仕掛けていた魔法トラップが作動したのは。


「ぅぐ……ッ!?」


勢いよく落ちてきた()()は、見事なまでに兄さまの脳天を直撃して、派手な金属音を響かせた。

そして更に()()は廊下へと落ち、またも『ガランガラン』『グヮングヮン』といった感じの耳障りな音を響かせながら暫くの間転がり、やがて『ふ……っ』と消え去った。


その一連の流れを、私とお母さまは目の前で目撃する形となった。

なんて神がかり的にすばらしいタイミング!


一瞬だけ驚いて見ていたものの、お母さまはすぐに普段通りのおっとりした口調でこう言った。


「! まあぁ……いい音がしたわねぇ」



────うん、確かにいい音したわ~!



「母、上……?」


お母さまの声に反応して頭を押さえながらゆっくりと振り返った兄さまは、表情が歪んで若干涙目に見えた。

まぁタイミング的にも位置的にも最高の当たり具合だったからなぁ。

いい音がしたのがその何よりの証拠だ。

まさに仕掛けた悪戯は大成功だったと言える。

その達成感と満足感に気分が高揚した私は、お母さまの陰になって兄さまからは見えないのをいいことに、小さくガッツポーズを決めた。


控えめながらもコロコロと笑うお母さま。

隠れてガッツポーズの私。

そして軽く目を見開き、驚きの表情を隠しもしないガルド。


まぁガルドに至ってはそんな反応になっても仕方ないだろうな。

どういった内容の悪戯かは事前に話してあったけど、具体的に『何が』落ちてくるのかは言ってなかったから。

しかも、()()が兄さまの脳天に直撃したところを至近距離で見ていたわけだから無理もないよね、っていう話。


ちなみに落としたその『ブツ』とは金ダライだ。

前世(まえ)の世界のお笑い系バラエティ番組で、数々の芸人さんたちが身体を張って人々の笑いを取りにいくために利用されて大活躍していた、まさに『マストアイテム』とも言うべき素晴らしき凶器なのだ。


あれ、当たるといい音するんだよね~。

ついでにそこそこ痛そうだな~、という理由だけで選びました。


まぁ実際にそこそこの痛さだった。

何度となく自分の頭を練習台にして思ったけれど、金ダライだけあって金属製だ。

痛くないわけがない。

しかも落とすとなると、更に重力による負荷が加わる。

つまりは勢いマシマシ、痛さ倍増ってやつだ。

もちろん加減はしておいた。

()が耐えられるレベルくらいには。

それでも涙目になるくらいの威力はあったわけだけれど、なぜか兄さまも若干涙目だ。

魔法をかけた時に、あれよりも威力を上げたつもりはない。

あくまでも同レベルで仕掛けたはずだ。

だけど兄さまの反応を見るに、それなりのダメージが行ったと思われる。


何故だ?

私でもギリ耐えたものが、兄さまにも同等の威力になるとは思えない。

少なくとも幼女の私よりも身体が成長している分、兄さまの方が守りも強そうだし、痛みの耐性もあるはずなんだけど。


そう思っていたら、お母さまがクスクス笑いながらこう言った。


「さすがのロイアスも不意打ちには弱かったようね」

「母上……」


おお!

そういうことだったのか!


確かに、不意打ちに咄嗟に対応するのは難しいことが多い。

今回のように上から落ちてきたものを防ぐとなるとかなり難しいはずだ。

何せ秒速で落下の直撃コースだからだ。


おまけに私の場合は、いくら自分を実験台にしたとはいえ、予め金ダライが頭に直撃することが分かっていてその衝撃に備えているということが前提にある。

逆に兄さまは何も分かっていないし、突然それが身に降りかかってくるのだ。

無防備な頭にいきなりドカンとくるわけだ。

当然警戒などしていなければ、構えてもいない。

そりゃ痛いわけだよ。

要するに、無防備な状態で受けたダメージは、私と同様に、兄さまにもギリギリで耐えられるかそうでないかのラインだったわけだ。


「……なるほど。しっているのと、しらないのとのちがいか。なっとく」

「レーン!?」


あれこれと思い当たったことに一人納得していたその時、兄さまが私の存在に気づいた。

当然その流れで、扉に悪戯を仕掛けたのが私だったということも兄さまにバレてしまった。


……っていうか、なんで私がいることに気づかれたんだろう?

お母さまの陰に隠れて兄さまからは見えなかったはずなのに。

もしかして私、さっき声に出してたとか?


「思いきり声に出ていてよ、レーン?」

「ふぇ!?」

「それと、顔にもね?」

「………………」


それは否定しない。

私は表情を取り繕うのが苦手だから。

お母さまの言葉に軽く目を逸らしつつ、誤魔化すようにお母さまのドレスのスカート部分を弄び始める私。

まぁこんなことで兄さまは誤魔化されてなんてくれないけどね!


「それで、レーン? 『なるほど』とか『納得』とか、一体どういうことかな? 既に消えてしまったようだけど、僕の頭に落ちてきた物体は明らかにレーンの仕業だよね?」


そりゃそうだ。

あんなもん仕掛けるのは私くらいなもんでしょ。


言葉を連ねながら、すぅ……っと目を細めて表情を消していく兄さまを見ているだけで、次に何を言おうとしているのかが手に取るように分かる。


大方『危ないことはするな』だろう。


「どうしてあんな危険なことをしたのかな?」


言い回しは若干違ったけどまぁ似たようなもんか。

言葉こそは疑問形だけど、実際には疑問ではない断定形。

この言葉で私に『認めろ』と言っているも同然のニュアンスだ。


「昨日の訳の分からない生きものといい、さっきのこれといい、どうしてレーンは次から次へととんでもないことを……」


言いながら兄さまの視線が私の目線の位置よりも下方を捉えた。

軽く細めていた目が僅かに見開かれたことで、私はハッとなり、同じく兄さまの視線の先を追った。

すぐ側にあった存在はミック。

それから、ミックの上にバランスよく乗っかっていたミッちゃん。

……の、更に上に乗っかってピンピン跳ねてるサッシーという『魔法でやってきたよ♪』な、モンスタートリオ。


そんな兄さまの視線に気づいたミックがビシッと固まった。

ちなみに固まったのはミックだけで、ミッちゃんとサッシーには変化なし。


「…………レーン」


兄さまの声が地を這うように低くなった。



────コレはマズイ!!



直感的にそう思った私は、素早くミックを己の背後へと隠し、庇うようにして兄さまと向き直った。

兄さまのこの後の行動は想像がついてる。



────絶対に、絶対にこの子たちを消させるもんか!!



更にはバッと両手を横に広げてバリケードを張る。

幼女の短い手では心許ないけれど、それでもやるのとやらないのとでは雲泥の差がある。

ほんの少しでも兄さまとミックとの間にある距離を広げて、両者間が近づくのに必要な時間を引き伸ばすのだ。

それでもコンマ数秒ほどの微々たるものだけど。


「このこたちは、けさせません」

「もうやっちゃダメだと昨日あれだけ言っておいたはずだよね?」


確かにそうだ。

『もうやらないように』と言われた。

兄さまの()()()()に凄まれて、本当は危険でも何でもなかったのに『危険なもの』だとほぼ強制的に認めさせられる形でダメ出しを食らっちゃったんだ。

そしていつの間にか魔法解除を施されてミックは消されてしまった。


でも。

今度こそはそんなことはさせない。

やっちゃダメと言われたことをまたやったことに対しては、私も約束を破ったということで責められたって構わない。

けれど、ミックたちが危険だということに関しては徹底的に反論する。

だってこの子たちは、何も危ないことなんてやってないもん。

ただ楽しそうに声を上げて、跳ねて、甘えて、擦り寄って……って感じで、私たちを和ませてくれている、ただそれだけ。

危ないことなんて何一つしてない。

逆にそれをやったのは私とお母さまの方だ。


ミックたちを庇い、兄さまに立ちはだかる形で挑むように見上げる。

一歩でもここを動けば、ミックもミッちゃんもサッシーもいなくなってしまう。

雀の涙ほどしかない私のしょぼい魔力で行使した魔法から生まれてきた可愛い子たちだ。

親である私が守らなくて、誰がこの子たちを守ると言うんだ。


「そこを退くんだ、レーン」

「どきません。このこたちは、ぜったいにぜったいにけさせません!」

「危険だと言っただろう!」

「あぶなくなんて、ありません! このこたちはみんないいこです! あぶないことなんてしません!」


お母さまがすぐ側にいるにも関わらず、私と兄さまはミックたちを理由に言い合いを始めた。

兄妹喧嘩というにはちょっと弱いけれど、もう一歩踏み込んでヒートアップしたら確実に喧嘩に発展するだろう。


「……そう。ならまた強制的に解除するしかないね」

「!!!」


言われた言葉に思わずグッと唇を噛み締める。

強制的に魔法解除の呪法を展開されてしまえば、私には止める手立てはない。

下手したら目の前でミックたちを失ってしまうかもしれないという恐怖に、全身からざぁ……っと血の気が引いていく。

一瞬だけめまいがして、身体がふらついたのは決して気のせいではない。



────逃げて……!



……って言って、本当に逃がしてあげられたらどんなによかったことだろう。

だけど、私から離れたら最後、確実に魔法解除の呪法がミックたちに襲いかかる。

今こうして私を挟んでいる状態であっても、そうされる可能性の方が高いのだ。


逃がしてあげたいのに、逃がしてあげられない。

守りたいのに、私の力では兄さまを止められない。



────どうしたら……

────どうしたら、ミックたちを守ることができるの……?



どうしようもできない状況に挫けそうになったその時だった。


「魔法の強制解除は認めないわ、ロイアス」


……という冷淡としたお母さまの言葉が、場の空気を裂くように張り詰めたこの状況を変化させたのは。


「誰の許可を得て、レーンの魔法を解除しようとしているの?」

「母上?」

「そもそも、仕掛けの魔法を見たいと言ったのはわたくしよ。実際にやって見せてとお願いしたのもわたくし。レーンはただ、そんなわたくしの()()()を叶えてくれただけ。それの何がいけないと言うの?」

「ですが……ここにいるこれらは、そもそもがこの世界に存在するような生きものではありません。危険すぎます!」

「危険? どこが?」

「えっ?」

「この子たちは何も危険なところなんてないわよ? 人懐っこくて可愛いお化けさんたちじゃないの。ねぇ、レーン?」


お母さまに振られて私は全力で頷く。


そうだそうだ!

ミックたちは人懐っこくて可愛いモンスター、私の可愛い可愛い子どもたちだ!


「それにレーンだって危険なことはしていないわよ? さっきの扉に仕掛けた悪戯も、単に酷いことをしたあなたに対する仕返しであって、あなたを害することが目的だったわけではないのだもの」


不敵に笑んで淡々とそう告げるお母さまの言葉に、兄さまが黙り込む。

それでも表情は納得できないと言わんばかりの険しさだ。


「傷ついた乙女心の代償に、ちょ~っとばかりあなたにも痛い目見てもらったってバチは当たらないわよね、っていうレベルの悪戯だもの」

「は? あれのどこが『ちょっと』ですか!? かなりの衝撃を受けたんですけれど!?」

「大げさねぇ。少し涙目になったくらいのダメージじゃないの」


……や、本当だったら涙目にすらならずに『いってぇな、コノヤロウ!』くらいのダメージだったはずなんですけどね。

そこはアレです。

不意打ちに対応できるかできないかの違いってやつですな。


「レーンもそのつもりで仕掛けたのでしょう?」

「はい! じぶんでもたえられるいたみにしかしてません!」


またもお母さまにそう振られて、今度はビシッとまっすぐ手を上げながら返事をする。

すると兄さまが先ほどとは打って変わって、ギョッとした表情で私を凝視した。


「え? レーン? 自分でも耐えられる痛みって、どういうこと?」 

「どういうこともなにも。ほんばんでまほうをかけるまえにおのれのあたまでじっけんしてました。どのくらいのダメージかな~……って」


そう。

人に仕掛ける前に、まずは己を実験台に納得いくまで試すのがセオリーってもんでしょ。


ええ、試しましたよ?

何度も何度も、脳天に金ダライを食らいながらね?


あまりにも同じ箇所に食らい続けて、本気で毛根の心配をしだす直前にまでなりましたよ。

そんなことをしみじみと考えていると、お母さまにそっと頭を撫でられた。


「自分の頭で落ちてくるものの威力を測るだなんて……身体を張ってまで頑張ったのね、レーン」

「やりすぎてかみのけがうすくなるしんぱいもしました」

「まぁぁ~! それは大変! 今夜の入浴の際には、洗髪時に念入りに頭皮のマッサージをしてもらいましょう! こんなに幼いうちから髪の毛の心配をしなくてはいけないなんて、決してあってはならないことよ! 髪は女の命とも言うもの! 念入りに、念入りにお手入れをしましょう! メリダとエルナにもそう伝えておくから安心してちょうだいな、レーン!」

「あ、はい……」


齢、僅か4才にして、親に毛根の心配をされる幼女……


ないわ……

ないわ~……


話題が明後日の方向にずれてしまって遠い目になりかけた私をよそに、いつの間にやらお母さまがロイアス兄さまに詰め寄っていた。


「聞いての通りよ、ロイアス。レーンは危険なことはしていない。自分の身体を張ってまで試した悪戯よ? レーンが耐えられたものをあなたが耐えられないなんてことはないわよね? 確かに痛みはあったかもしれないけれど、どこにも怪我なんてしていないでしょう?」


立て続けに問われて、兄さまは頷く。

お母さまの言うように、痛みがあっただけで怪我はどこにもないのだ。

たんこぶさえもできてないんだよ?

頑丈だよね?

まぁ、私も金ダライ直撃に関して言えば、たんこぶはできなかったんだけどね。


「よって、今回レーンが行使した魔法に関しては全て、危険があったとは認めません。いいこと、ロイアス?」

「……はい」

「それと、この可愛いお化けさんたちを強制的に消すことも許さないわ」

「分かりました」

「まぁ、無理やりやろうとしても、わたくしがそれを打ち消してしまうつもりですけどね」


そう言ってお母さまが軽く合わせた手を口元へと運ぶ。

薄っすらと浮かぶ笑みを見たことで、兄さまが『……うっ!』と、言葉に詰まったのが分かる。


「このお化けさんたちを強制的に消そうとしたり。はたまた危害を加えようとしたり……ということがあったら、わたくしの魔法が容赦なくあなたの魔法を打ち消すわ」

「それは……」

無効化(キャンセラー)よ。身を以て知ったばかりでしょう? ねぇ、ロイアス?」

「……はい」


私には『何のこっちゃ?』という感じだったけれど、兄さまにはお母さまが言ったことに対して身に覚えがあるようで、ぎこちないながらも頷いていた。

『キャンセラー』とか聞こえたから、文字通り『何かをキャンセル』させるような魔法なんだろう。

名前を聞くだけで便利そうだな、と思ってしまう。


この世界には一体どれだけの種類の魔法が溢れているのか分からないけれど、色々な用途、用法によって様々な種類の魔法が複雑多岐に渡って存在しているのだろう。

私が今知っているのは、たぶんほんの一握り。

考えれば考えるほどスケールの大きさを実感する。


「もしあなたがこの子たちに何らかの魔法をかけようしたら、それが打ち消されてしまうから覚えておいてね、ロイアス?」

「はい……」

「それと。身内(かぞく)だからといって、女性に対してぞんざいな扱いをするのはいただけないわ。どんなに幼くてもレーンはこのオンディール公爵家の令嬢、小さな淑女(リトル・ミス)よ? ちゃんと一人の淑女として尊重してあげて」

「はい」

「ちょうど紳士の鑑たるガルドが付いてくれていることだし、そのあたりの在り方をしっかりとガルドに教授してもらうことをおすすめするわ」


お母さまがチラリと視線を向けた先にはガルド。

しっかりとお母さまの言葉を受け止めて、恭しく礼をしている。


「元よりそのつもりでございました、奥様。ロイアス坊ちゃまには『紳士たる者の心得』をしっかりと叩き込んで身に付けていただきますので」

「そう。あなたに任せていれば安心ね。ロイアスのこと、お願いね、ガルド?」

「畏まりました」


そう言って一礼し、ガルドがにこやかな笑顔で兄さまの襟首を掴んだ。


「そういうわけですので坊ちゃま。先程言っていた『お話』をじっくりといたしましょうか。部屋の中で、ゆっくりと……ね?」

「ちょ……ガルド!?」

「問答無用ですよ、坊ちゃま」


うん。

仕える主にするべきことではないね。


でもこれを見ているはずのお母さまが何も言わないということは、別に問題はないということなのだろう。

私も別に口を挟むつもりはないから、ガルドに引き摺られるようにして部屋に入っていく兄さまを黙って見送った。


なんか色々とぐだぐだになって終わった感じだけど、とりあえず私としてはミックたちに危害を加えられることがなくて一安心だ。


「おかあさま」

「何かしら、レーン?」

「さっきの……」

「ん?」

「さっきの、キャンセラー? とかいうまほう? ですけど……」

無効化(キャンセラー)がどうかして?」

「なんか、にいさまがミックたちにまほうをかけようとしたら、それがうちけされる、って……」

「そうね。魔法をかけられる前に、その魔法の効果を無くしてしまうための魔法だもの」

「それって『まもり』ってことですか? 『まもり』のまほう、なんですか?」

「捉えようによっては『守り』の魔法と言えなくもないわね。使い方次第でいくらでも変わるものなのよ、無効化(キャンセラー)という魔法はね?」

「まもり……。ミックたちの、まもり……」

「どうかして、レーン?」

「いつのまに、そんな『まもり』のまほうをミックたちにかけたんですか?」


それが本当に、ミックたちの『守り』となる魔法なら。

兄さまからの強制解除の呪法を受けずに済むための『守り』であるならば。

一体いつの間に、お母さまはそんな高度な魔法をミックたちに施したというのだろう。


「いいえ? まだよ」

「へっ?」

無効化(キャンセラー)の魔法はこれからかけようと思っていたところだったのよね」


呆気に取られる私をよそに、お母さまは『うふふ』と笑いながらミックとミッちゃん、それからサッシーに向けてそっと手を差し出した。

軽く触れて、一瞬のうちにミックたちの身体の一部分に魔力を注ぐ。

その直後、ふわふわとした柔らかな魔力の靄が全体を包み込み、やがて内側に全部溶けていくようにゆるゆると消えていった。



────なんか綿あめみたい……



……と思った私は、やっぱり食い意地の張った食いしん坊さんなんだろう。

いや、なんか……おやつはまだですか。

サロンはもうすぐそこですよ。


思考をおやつの方へと飛ばしていると、お母さまから『キャンセラー』の魔法を受けて守りの力を完成したミックたちが嬉しそうにその場で跳ねているのが目に入った。

身の危険がなくなって安心したんだろうなと思うと、あの喜びようも分かる気がする。

思いがけないところでお母さまに守られて、私も安心した。

お母さまがいない時に兄さまと出会さなくて本当によかったよ。

そう思うと、無意識のうちにお母さまのドレスのスカート部分をキュッと掴んでいた。


「レーン?」

「ありがとうございます、おかあさま」

「?」

「ミックと、ミッちゃんと、サッシーをまもってくれて、ありがとうございます」

「うふふ。可愛い可愛いレーンの子どもたちですものね」

「はい!」

「可愛い娘の可愛い子どもたちということは、この子たちはわたくしにとって可愛い可愛い孫たちも同然ね!」


柔らかな微笑みとともにそう言われて、私は驚きのあまり目を見開いてお母さまをじっと見つめることしかできなかった。


ミックたちは私にとって可愛い子どもたち。

『ヒト』と『モンスター』という種族間で、実際には何の関係性もないけれど、勝手に『私たちは家族みたいだな』って思ってた。

独り善がりの考えだけど、自分だけはそうだって思ってた。


だけど。

お母さまも、私と同じようにミックたちを見て『可愛い』と言ってくれる。

ミックたちが私の子どもたちならば、お母さまにとっては『孫たち』も同然だなんて。

当たり前のように笑顔でそう言ってくれる。


気づけばボロっと涙が零れてた。


「あらあら、どうしたの、レーン?」


突然泣き出した私を苦笑しながら抱き締めてくれるお母さま。

そんなお母さまの背にせいいっぱい手を回し、キュッと抱きつきながら私は涙声でこう伝えた。


「うぅぅ~……だいすきです、おかあさまぁ~……いっしょう、いっしょうあいしてます~……!」

「わたくしもよ。相思相愛ね、レーン?」

「はい、だいすきです、おかあさまぁ~……」


泣きながら『大好きです』『愛してます』を繰り返す私を、お母さまは相変わらず苦笑しながら抱き締めて、それからあやすように背中を軽くポンポンと一定のリズムで叩いて落ち着かせようとしてくれた。

それでも泣き止まない私に『仕方がないわね、この子は……』と一言笑いながら呟くと、そのまま私を抱き上げて歩き出した。

行き先はもちろん、当初の目的としていたサロンだ。


「おいしいタルトとお茶を口にしたら、きっとその涙も止まることでしょうね」


くすくす笑いながらそう言われたことで、ピタッと涙が止まった。

思わずパチパチと瞬きをしながらお母さまを見つめると、やっぱり笑いながら『本当に仕方のない子』と頬にキスをされる。


「おかあさま……」

「どんなに頑固な涙も、魅力的なお菓子やお茶の前では形無しのようね」


ホントだよ。

タルトやお茶の話を出されてピタッと収まるなんて、私の涙も大概食いしん坊だな。


そんなことを思ったら、今度はおかしくなって笑ってしまった。

お母さまも私と同じように、おかしそうに笑っている。


だけど抱き上げた腕が私を下ろしてくれることはない。

そのままの状態でサロンへと連れて行かれている。


そんな私とお母さまの後ろを変わらず跳ねながらついてくるミックたちもまた、心なしか嬉しそうに笑っているように見えたのは、きっと気のせいじゃないと思いたい。


ミックも、ミッちゃんも、サッシーも。

私が思っているのと同じように『嬉しい』って思ってくれているんだって。


そう、思ってもいいよね……?














魔法による兄ロイアスへの悪戯は終了です。

まだパパンへの悪戯が残っていますが、今回で「仕掛け魔法で悪戯を」というサブタイは終了します。

次話も似たような感じのサブタイになる予定ですが(^^ゞ




※以下、ちょっと解説※


今回、話中で出てきたママンの魔法「無効化キャンセラー」ですが、実際にロイアス視点のお話の中でも行使しています。

ちなみにその時のロイアス視点では「魔法排除マジックディスペル」と言っていましたが、今回の「無効化キャンセラー」が正式なものです。

理由としては、認識の違いと熟練度の差で、現時点でのロイアスの知識と熟練度では「無効化キャンセラー」という魔法そのものの認識がなかったため「魔法排除マジックディスペル」の方だと思い込んでいた、といった感じです。

魔法としては「魔法排除マジックディスペル」と「無効化キャンセラー」どちらも存在します。

レベルは「無効化キャンセラー」の方がより上位に位置する魔法となっています。

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