仕掛け魔法で悪戯を 4
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~仕掛け魔法で悪戯を 4~
兄さまの部屋の扉に魔法を仕掛けるのは一瞬のうちに終了した。
何度も何度もテストを繰り返したことが幸いし、イメージがより鮮明にくっきりと完成したのも理由の一つだけれど、それ以上にイメージと魔力の融合がスムーズになり、扉に触れると同時にフッとイメージと融合した魔力が私の手を離れていったのだ。
それと、とある理由から、魔法を仕掛ける位置をドアノブではなく扉上部の隅の方へと変更した。
さすがに私一人では扉の上部には脚立を使っても届かないので、そこはガルドが手伝ってくれた。
例の如く抱っこですけどね!
さて。
そのとある理由なんだけど、封印魔術に準ずる魔法───応用の仕掛け魔法も含む───は、呪法が完成した後に『対象から全く魔力の気配を感じない』という、ちょっと厄介な分類に入るものとされているにも関わらず、実はそれほど万能でもないらしい。
どんなに魔力の気配がないと言っても、それは一般的には感知できない者が大半なだけであって、魔法を専門に扱う魔術師を始め、魔法に精通した者にとっては見抜くことも可能なのだとか。
実際にどういう形で見抜くかというと、その対象に触れるか、もしくは触れる直前で魔力の微弱な流れとなる波動を感じ取るのだそうだ。
すごい人だと魔力を感じるまでもなく見ただけで分かる人もいるのだとか。
そのすごい人の一人が王宮魔術師団団長であり、ここドラグニア王国の魔術師の頂点に立つノーヴァ公爵様だ。
────……うん、聞くまでもなかった!
────超弩級のチートであるルーファスのパパさんが、同じく超弩級のチートじゃないわけがないもんね!
……とまぁ、そういったすごい人もいるんだよ~……ということで、念には念を入れて魔法を仕掛ける位置を変えたと、こういうわけだ。
え?
誰情報かって?
手伝ってくれたガルドさん本人ですが?
ガルドが言うには、兄さまはヘンなところで妙な知識があったり、年齢にしては突出した才能を見せたりする部分がチラホラ見受けられるので、念のために用心しておいた方がよさそうだっていう結論に落ち着いたわけ。
私としても、悪戯が不発になるのは嫌だからね。
兄さまが扉を開ける前に仕掛け魔法を見抜かれて、昨日のように強制解除されたりでもしたら堪ったもんじゃない。
悪戯は成功させてこその悪戯なのだ。
そんなわけで、兄さまの手が届かない扉の上部の隅っこの方、そしてお母さまが言っていたように、発動は一回限り、それから一部分だけの狭い範囲で魔法を仕掛けた。
扉が数センチ開いたところで魔法が作動、か~ら~の~、時間差でとあるブツが落ちてくるという流れだ。
サクッと魔法を仕掛け終えたところで、今度はお父さまの部屋へと向かう。
ガルドはこれから兄さまのところに行って、端の方に控えることになると言ってた。
今の時間、兄さまは領地に関する座学の真っ最中らしい。
将来的に領地経営に携わることになるため、幼い頃から流通やら特産品やら土壌や治水、その他諸々といった領地のことをしっかりと学ぶ必要があるからだ。
そこにはオンディール家と共に重ねてきた歴史にも触れることがあるようで、歴史の部分には私もちょっと興味がある。
早く本格的な勉強を開始できるようになればいいなと思う私は、実は勉強は嫌いではないのだ。
新しいものを知って理解していくことは楽しいからね。
「ミック、つぎいくよ~!」
《ヌン!》
ガルドと別れ、次に向かうのはお父さまの部屋だ。
私が兄さまの部屋の扉に魔法を仕掛けている間に、お母さまがお父さまの部屋へと向かって先に貼った絵を剥がして回収する手筈になっている。
結構な枚数だから、まだまだ作業の真っ最中だと思う。
合流したら手分けして作業に当たるのだ。
「たぶんミックにはたくさんかくしてもらうことになるとおもうから、がんばってのんじゃってね? わたしもがんばってえをかいしゅうするから!」
《ヌッ!》
気合を入れた私につられるように、ミックもまた気合いの入った返事をしてくれた。
そんな遣り取りをしながらも、足はトットコトットコとお父さまの部屋へと向かっている。
目的地はもうすぐそこだ。
「おかあさま!」
「あら、レーン。ロイアスへの悪戯は仕掛け終わったの?」
「はい!」
楽しそうに絵を剥がしては回収するという作業をしていたお母さまに声をかけると、にこやかな反応が返ってきた。
普通だったら、こういった一種の片付けとも言える作業は使用人の誰彼にしてもらうのが常なんだけれど、お母さまは嬉々として自らその作業を行っている。
……と言うより、使用人の一人どころかヴェーダさえもいなくて、今ここで作業をしているのはお母さまだけだ。
「分かってはいたけれど、思った以上の数が貼ってあるものね」
作業を始めてからそこそこの時間が経っているが、回収し終えたのは半分ほどといったところらしい。
「これを全て撤去して、一面ただの壁面になっているところを見たあの人の反応はどんな感じでしょうね」
クスクス笑いながらそう言ったお母さまに、私も笑いながら頷く。
何せ私の絵を見ることが元気の源だと言っていたお父さまだ。
その元気の源がごっそりなくなったと知ったら、どんな反応を見せてくれるのか気になるってもんでしょ。
でも……確かにお母さまが言うように、想像以上に絵の枚数が多い。
こんなに描いてお父さまにあげていたのか……と思うと、自分でもビックリだ。
実際に絵をあげたのは、前世の記憶が目覚める前のレーンなんだけどね。
「じぶんでいうのもなんですけど、え、いっぱいですね」
「そうね。その一枚一枚に、レーンの想いがたくさん込められているのですもの。旦那さまがこうして目に見えるところに飾っておきたいという気持ちはよく分かるわ」
「おかあさま」
「でも……これから全部隠してしまうのだけれどね!」
すっごくイイ笑顔で楽しそうに言い放つお母さまを見て『あ、コレまだ怒ってるわ……』と思ったけれど、とばっちりが怖いので黙っておく。
薮蛇はゴメンです。
「ぜんぶあつめたら、ずかんくらいになりそうですか?」
下の方の絵を剥がしながら訊ねてみると、お母さまは少しだけ考えてからこう言った。
「ここにある分だけなら少し厚めの図鑑くらいになるでしょうね。ただ……」
「ただ?」
「あの人の部屋にもまだあるとしたら、その限りではないということよ」
…………あるわ、部屋の中にも。
こんな風に貼って飾ってあるのではなくて、私のスケッチブックごと専用棚の中にしまってあるのが数冊ほど。
それら全部を隠すとしたら結構な量だ。
たぶんだけど、厚めの図鑑二つ分ほどの量になりそうな予感。
「ミック」
《ヌ?》
「おおきなずかん、にさつぶんくらいになりそうだけどへいき?」
《ヌッ!》
うん、頼もしい。
まるで『余裕だぜ!』って言われてる気分。
さすがは正統派ミミックだね!
絵を剥がす作業をやめないまま、ミックとの遣り取りをしていた私を見ていたお母さまが、クスクス笑いながらこう問いかけてきた。
「いつの間にか可愛い子がもう一人増えていたのね? ミッちゃんよりも随分と大きな子だけれど、その子の名は何というのかしら?」
《ヌ?》
お母さまに見つめられて、ミックが『気をつけ』をするように箱全体を伸ばすようにビシッと直立した。
すっごいバランス感覚だな。
普通だったら一瞬後に『バターン!』て倒れてもおかしくないぞ。
……と思いながらも、問いかけに答えないわけにはいかないのでお母さまにミックのことを簡単に紹介する。
「このこはミックです、おかあさま」
「まぁ、ミックというのね。わたくしはレーンの、この子のお母さんよ。よろしくね、ミック?」
《ヌッ♪》
「うふふ。可愛らしいわぁ」
ニコニコとミックに笑いかけながらも、お母さまの絵を剥がす作業の手は止まらない。
「ねえ、レーン」
「なんですか、おかあさま?」
「この子の、ミックのベースだけれど、レーンの部屋のおもちゃ箱で合っているかしら?」
「はい。いちばんピッタリだったので。たからばこふうのおもちゃばこのほうがはくりょくがあるとおもいませんか?」
「そうね。キラキラした可愛らしい宝石箱がベースのミッちゃんと比べると、宝箱風おもちゃ箱をベースにしたミックの方がずっとお化けさんという感じが強くて迫力があると思うわ」
「ミックだったらおとうさまおどろいてくれますよね?」
「ええ、きっとね」
「さっきミックにもおねがいしたんです。おもいっきりおとうさまをおどろかせてね、って」
「まぁ、それは楽しみね。うふふふふっ」
そんな会話をしながら私はお母さまと一緒に全ての絵を剥がしていった。
器用にも、ミックも剥がす作業を手伝ってくれて、お母さまに驚きとともに褒められてた。
でもその褒め言葉の中には必ず『可愛い』『可愛らしい』の言葉が含められていて、思わず笑ってしまった。
ミッちゃんと比べたら、可愛いどころか怖い見た目のミックなのに、お母さまはニコニコ笑顔で可愛い可愛いと褒めまくる。
まぁ私もミックのことは可愛いと思ってるし?
何せ生みの親でもあるし?
そういう親バカ部分を含めての可愛いという感情なんだけれど、それ抜きにしてもミックは可愛い。
どうやらお母さまも似たような感じで、生き物とはまた違う存在の彼らを愛でる気持ちが大きいらしく、可愛いという感情を包み隠さず表に出している。
────う~ん……母娘だなぁ……
なんて、私とお母さまの血の繋がりをしっかりと感じた瞬間だった。
……さて。
回収した絵をキッチリと束にしてみたら、予想した通りに分厚い図鑑二冊分ほどの厚みになりました。
結構な量だなと思いつつも、これらを今からミックの中に隠すのだと思うとワクワクが止まらない。
とりあえず、全体を小分けにしてから、一枚一枚がバラけてしまわないようにリボンで纏めて結わい、スケッチブックの束を一つと、一枚紙の絵の方を三つという内訳で四つに分けた。
さすがに図鑑並みの分厚いものを飲み込んでもらうのはミックに負担だろうしね。
飲み込むのはよくても、ホラ……その、吐き出す方が、ねえ……?
クマちゃんの時のことを思い出して、ミックに無理のないようにとの私なりの配慮だ。
「よっつになっちゃったけど、だいじょうぶそう?」
《ヌッ!》
再びビシッと直立して『任せろ!』と言わんばかりに気合いの入ったミックに、まずはスケッチブックの束を差し出す。
何度となく見てきた、長い舌がくるんとスケッチブックの束を絡め取る様子をじっと見守る。
難なくスケッチブックの束を飲み込んだミックを見て『大丈夫そう』だとホッとしつつ、次を促すように軽く飛び跳ねるミックにまた一つ、また一つと絵の束を差し出した。
全ての絵の束を飲み込んだミックは、満足そうに一度身体全体をぶるると震わせてからバコンと口を開く。
その口から覗く中には、飲み込んだ絵の存在はまるでない。
本当に飲み込んだあれやこれやは一体どこに行ったんだろう?
何度見ても謎すぎる。
微妙な表情でミックの中身をじ~っと見ていた私に気づいたのだろう。
お母さまも同じようにミックの中を覗き込む。
「まぁ! 中に入れた絵がどこにもないわ!」
うん、驚くよね。
覗いた箱の中はミックの顔がくっきりと浮かんでいるだけで、中身はすっからかんなんだもん。
飲み込んだ四つ分の絵の束はどこだよ、って疑問に思うのも当然だよね。
「不思議だわぁ~。中は一体どういう構造になっているの? ちょっとよく見せてちょうだいな!」
そう言うなりお母さまは『ガッ!』と勢いのままミックの口部分を限界ギリギリまで抉じ開けた。
《ヌァッ!?》
当然ミックは驚く。
私が取った行動と全く同じなんだけど、私以上に手の長さがある分、お母さまがやる方がずっとずっとタチが悪い。
────待って、待って、待って~~~~!!
ギチギチ言ってるから!
箱が!
ミックの本体が悲鳴を上げてるよ!!
《ゥヌゥゥ~~……!!》
あぁぁ~……ミックが、ミックが……
────耐えきれずにジタバタしてる……
私の時は一生懸命堪えて、暴れ出したくなるのを抑えてくれていたんだろうけど、さすがに今回は限界っぽい。
それでもミックなりに、ギリギリまで耐えてくれているんだ。
これ以上はダメ!
ミックを助けなきゃ!
「まって、まって、おかあさま! ミックがこわれちゃう!」
慌てて止めに入ったために、お母さまに対しての丁寧な言葉遣いが吹っ飛んでしまった。
けれど、それで私の慌てように気づいてくれたお母さまがハッとなってミックから手を離す。
「ああっ! つい気になって夢中になってしまっていたわ。ごめんなさいね、ミック。痛かったでしょう? 手荒なことをしてしまって本当にごめんなさいね?」
我に返ったことで、ミックに対して結構な酷いことをしてしまったと自覚したお母さま。
オロオロしながら謝られてしまって、逆にミックの方が慌てだした。
お母さまに謝られる度に、大きく身体を震わせながら『もう謝らないで』と言いたげにアタフタしている。
モンスターに謝るお母さまと、それにたじろぐ件のモンスターことミック。
何ともまぁ不思議な光景だ。
そんな奇妙な二人(?)の遣り取りを眺めながら思ったのは、やっぱり私とお母さまは似たもの母娘だな、ということ。
何の躊躇いもなくあんな大胆な行動に出られるあたり、確かな血の繋がりを感じたわけだ。
とりあえず、あとでミックの身体をしっかりとチェックしておこう。
特にミックの背中部分(?)にあたる繋ぎ目の蝶番は念入りに見ておかないと。
万が一緩んで外れちゃったりなんてことにでもなったら、身体が上と下とで『チョンパッ!!』って分断されちゃうよ!
それで動けなくなったら漏れなくバラバラ死体のできあがり~、なんてシャレにならない事態が待ち受けることこの上ない。
冗談じゃないぞ!!
ミックには五体満足元気いっぱいの状態で、これからも一緒にいてもらうんだからね!
「ミック……」
《ヌ?》
「あとでねんいりにボディチェックだよ?」
《???》
ミックは分かってないみたいだけどいいんだ。
ただ私が心配してるだけだから。
……とまぁ、ありがちなハプニングに見舞われながらも、当初の目的でもあった『お父さまの絵を隠す』作戦は一旦終了。
このあとは、怪盗からの予告状よろしく、お父さまに向けて『絵は預かった』的なメッセージを残すのだ。
ここでもお母さまはウキウキの乗り気だった。
やたらめったら凝った、オシャレな二つ折りメッセージカードを用意してきて、ニコニコ笑顔でどんな文面にするかを楽しそうに考えていたのだ。
もしかしたら、この作業が一番お母さまにとって楽しい時間だったのかもしれない。
何て言ったって、ここでもお母さまは『このメッセージにも仕掛けは作れないの?』なんてことを、期待を込めて訊いてきたのだから。
え?
できますけども?
怪獣ドルンの絵本を、立体映像ホログラムみたく絵を空に浮かび上がらせた挙げ句、更には自動音声読み上げで、開くと同時にストーリーが再生するようなシロモノに変えちゃったわけだからね。
それと比べると、メッセージカードの自動音声読み上げなんてものすごく簡単にできちゃうと思う。
ついでに、書いた文字も空に浮かべて踊らせるくらいはできるんじゃないかな?
そういうイメージが浮かんで、うまく魔力と融合してくれたら、それで魔法は完成するのだから。
────そういやドルンの絵本、兄さまが持ってっちゃったままだっけ?
────あとで返してもらわなきゃだ……
そんなことを思いつつ、ニコニコ笑顔で返事を待っているお母さまにメッセージカードへ仕掛けができることを伝える。
するとお母さまはパッと満面の笑みを浮かべ、更にノリノリになってメッセージの文面を考え始めた。
曰く、物語の悪女みたく高笑いをしながら『大事なものは預かった!』という風にしたいらしい。
お母さまが高笑いというのは正直全く想像できないけれど、本人がやりたいと言うなら、納得するまで自由にやってもらうのが一番だと思う。
そうして、カードにメッセージを書き終えたお母さまがワクワクしながら私にそれを差し出してきた。
カードに魔法をかけてということなのだろう。
だけど私は、せっかくならば……と、カードに魔法をかけるのはお母さまがやってみてはどうだろうかと提案してみた。
するとお母さまはキョトンとした表情で目を丸くしたまま私を見つめ、頬に手を当てつつ軽く首を傾げた。
「わたくしにもできるかしら?」
「できるとおもいます。このメッセージを、おとうさまにちょくせつつたえるイメージでまほうをかけたらせいこうするはずです」
もしかしたら、お母さまが魔法をかけることで、メッセージを読み上げる声がお母さまのものになるかもしれないと思ったのだ。
どこの誰だか分からない声が読み上げるより、家族の誰かの声であった方が、物盗りの線を疑わずに単なる悪戯なんだなと思ってもらえるだろうから。
余談だけど、昨日私が仕掛けた怪獣ドルンの絵本を読み上げた音声は、若干低めで落ち着いた感じの優しい大人の女の人の声でした!
「おかあさまのこえで『あなたのだいじなものはあずかってます!』なんていわれたら、きっとどんかんなおとうさまも、おかあさまがおこっていることにきづくはずです」
「……そうね。そうよね」
「それでもきづかなかったら、ミックが『がお~!』ですよ!」
あ、違った。
『がお~!』じゃなくて『ヌバァァァ!』だったわ。
まぁどっちにしろ驚かせてもらうことに変わりはないけどね!
そういや自分で言ってて気づいたけどお父さまも鈍感だったわ。
となると、兄さまのあの『超』が付くほどの鈍感さはお父さま譲りなんだな。
あっちはあっちで似たもの親子ですか。
しかしその似たもの同士の『鈍感さ』が今、わが家の女性陣に不評を買っていることに気づいてるハズは……ないんだろうなぁ。
なんてったって鈍感なわけですし?
とりあえずそこんとこは今はどうでもいいや。
今更気づいてもらえたって遅いし、何よりも、私もお母さまも悪戯をやめるつもりは微塵もないから。
そんなことを考えながら一人うんうんと頷いていると、お母さまがニコニコしながら再びカードを差し出してきた。
どうやらお母さまは、カードのメッセージを再考して書き直していたらしい。
カードに魔法をかけることで自分自身の声でメッセージが読み上げられるかもしれないという可能性が生まれ、それなら……と、よりお母さまらしくなるようなメッセージにしたかったのだそうだ。
その出来は会心のものだったようで、お母さまは尚もニコニコしながら期待を込めつつこう言った。
「これに魔法をかけるのよね?」
問われて頷き返すと、お母さまは頬に手を当てながら軽く首を傾げた。
『うまく魔法をかけられるかしら?』という疑問の言葉とともに。
「だいじょうぶです、おかあさま」
「レーンはそう言ってくれるけれど、書かれたメッセージを読み上げる魔法となると、思うようにイメージが浮かばないのよね……」
苦笑しながらそう言うお母さまに、私は至って単純なイメージを告げた。
「かいたおてがみをめのまえでよんできいてもらうことだったらイメージできますか?」
「えっ? 手紙?」
「はい、おてがみです。おてがみをよむのとおなじかんじで、このカードのメッセージをおとうさまのめのまえでよみあげるところをイメージしたらいいとおもいます」
そう告げたら、お母さまがにこやかに頷いた。
「そうね。それだったら簡単にイメージできそう。絵本の読み聞かせとも似ているわね?」
「はい! そこにかんじょうをたっぷりこめたら、もっともっとこうかてきだとおもいます!」
「うふふっ。そうね。たっぷりと感情を込めたら楽しそうね。このカードを開いた時のあの人の反応が楽しみだわ」
クスクス笑いながら、お母さまはメッセージカードに魔力を注ぎ込んでいた。
一言二言のあの遣り取りの間で既にイメージは完成していたらしい。
するりと滑り込むように流れていくお母さまの魔力は、兄さまと同じ淡い水色のそれだった。
────やっぱり、水属性、なんだよね……?
私たちオンディール公爵家の一族が『水のオンディール』と呼ばれる由縁は、強い水属性の魔力を持って生まれることにある。
それはお母さまもそうで、兄さまもまた同じだ。
私はまだ何の属性も持たないまっさら無属性状態だけれど、いずれは私も徐々に水属性に染まって水属性持ちへと変わっていくのだろうか。
お母さまの手から流れ出る魔力をぼんやりと見つめながらそんなことを思っている間に、お母さまがメッセージカードに魔法をかけ終えたようだった。
満足そうにニコニコ笑顔で私にカードを差し出してくる。
どうやらうまく完成しているかどうかを試してほしいみたいだ。
『うふふ』と笑いながら『開いてみて』と促されて、私はそっとカードを開く。
その瞬間、淡い水色の魔力がカードから溢れ出し、次いでお母さまが書いたというメッセージがお母さま本人の声で読み上げられた。
『おかえりなさい、ロンベルト。見ての通り、あなたの大切な【愛娘からの絵】は全て預かっていてよ? 絵を取り戻したければ全力で探してちょうだいな? けれど、簡単に取り戻せるとは思わないことね? 絵は【分かりやすいけれど、とっても分かりにくい】場所に隠してあるわ。ヒントは、そうね……【箱の中】といったところかしら? それ以上は秘密よ。あなたの実力で探し当ててご覧なさいな? もう一度言うけれど、簡単に取り戻せるとは思わないでちょうだいね? ふふふっ……見つけた時のあなたの反応がとっても楽しみよ。意地悪だなんて思わないでね? だって意地悪なのはあなただって同じですもの。だからほんの少しくらい仕返しをしたって許されると思うの。それじゃ、ロンベルト。健闘を祈るわ。頑張って大切な絵を取り戻してちょうだいね? ふふっ……うふふっ……あはははっ……お~ほほほほほっ!!』
「………………」
「どうかしら、レーン? 我ながらすばらしい出来だと思うのだけれど、あの人は驚いてくれるかしら?」
「……あ~、はい……たぶん…………?」
……何だコレ。
突っ込みどころ満載すぎてどこから突っ込んでいいのか分かんない。
内容こそは、確かに『お父さまの大事なものは預かった!』的なものになってるよ?
なってはいるんだけど、さ……もうね、ぶっちゃけコレ、素直になれない意地っ張りさんの、せいいっぱいのラブレターも同然なんだわ。
お母さまの声で再生されたこのメッセージには
『構ってくれないあなたが悪いの』
『だからこんな意地悪をしちゃうのよ』
『少しくらいこっちの気持ちを分かってくれたっていいじゃない、バカ!』
……っていう感じの、お母さまの本音がいっぱいいっぱい込められているわけ。
それが分かっちゃうわけ。
そのくらい、このメッセージにはお母さまのお父さまに対する『好き』の感情がいっぱい、い~っぱい込められているんだ。
大人になっても、人の親になっても、どれだけの時間を重ねても。
家族愛という名の愛情とはまた別に、お母さまはずっとお父さまに恋をしているということがありありと分かって、胸の奥がホッコリと温かくなった。
「本当はね? もっとツンケンとして、何割か増しで悪女感を出してみたかったのよ? でもそうしたらあの人がかわいそうかしら……なんて思えてきてしまって……。ねえ、レーン? レーンはどう思う? もっと悪女感を出した方がよかったのかしら?」
「いまのままでじゅうぶんだとおもいますよ?」
口では『ツンケンしたい』とか『悪女感を出したい』とか言ってるけど分かってる。
ホントはそんなことしたくないんだよね、お母さま。
それに、私だってお母さまにツンケンしたメッセージを残してほしくはない。
そうじゃなければ、この『素直になれない意地っ張りさんの、せいいっぱいのラブレター』に込められた本音が台無しじゃないか。
「おとうさま、きっとおどろきますよ」
「そう思う?」
「はい!」
……なんて肯定したはいいけれど、ちょっとだけ不安は残る。
果たしてあの鈍感なお父さまに、この不器用で遠回しなお母さまの本音が正確に伝わるのだろうかという不安が。
だから私は、お父さまがお母さまの本音に気づかないという事態を回避できるよう、このメッセージカードに更に細工をすることにした。
「レーンから大丈夫だというお墨付きをもらえたなら安心ね。あとはこのカードの置き場所をどこにするかだけれど……」
「ココにはっておきましょう!」
部屋に置くなんてことはやめよう、絶対に!
お父さまの目に真っ先に触れるように、このカードはこの場所に置いて然るべきだ!
だってあのお父さまだよ?
絵がゴッソリなくなってることに驚いて、部屋に戻らないまま探し始める可能性は捨て切れない。
だから絵がなくなったこの壁に、これみよがしに『ババン!』と貼っておくのが効果的だって。
それに何よりも目立つし!
「おかあさま、このカードのまほうはいちどきりですか?」
「いいえ? 試しに聞いてみる必要があると思って、本番用とで二度発動するようにしていたの。だからあと一回発動したらそれで終わりよ」
「じゃあ、このままはってしまいますね?」
「あら? レーンが貼ってくれるの?」
「はい!」
そのどさくさで仕掛けを追加する気満々だからな!
「それじゃあ、レーンにお願いするとしましょうか。ただ……」
「ただ?」
「低い位置に貼ってしまうとレーンの仕業だとバレてしまうから、高い位置にしておきましょう。そうね……あの人の目線の高さがちょうどいいかもしれないわ」
「わかりました!」
そう返事をすると同時にお母さまに抱き上げられた。
「ふゎ!?」
突然だったのでヘンな声が出ちゃったよ!
そんな私を見つめてお母さまがおかしそうにクスクス笑う。
それから、視線である一点を促しながら『このあたりに貼ってちょうだいな』とカードを貼る位置の指示をくれた。
言われた通りにカードを貼りつけると同時に、私はそっとカードに魔法をかけた。
だけど、流れ出る魔力はどうしても誤魔化せない。
「あら? カードにどんな魔法をかけたの?」
淡いピンク色と赤と銀色のキラキラ粒子が交差した私の魔力を見てお母さまがそう訊ねてくる。
「このカードにこめられたおかあさまのおもいが、おとうさまにちゃんとつたわりますようにっていうおまじないです」
「まあ。おまじないをしてくれたの?」
「はい!」
嘘。
かけたのはおまじないじゃなくて仕掛け魔法。
お母さまがカードに込めた、表には出せないせいいっぱいの本音をお父さまに正確に伝えるための素敵な仕掛けだ。
驚くかな?
きっと驚くよね?
カードを開いたその瞬間に、お母さまの想いを代弁するように、赤やピンクのハートがいっぱい弾けるの。
そのハートたちに囲まれながらお母さまの声を聞いたら、きっとお母さまの本音の想いは、お父さまにしっかりと受け止めてもらえるはずだよね。
そうであることを願って、私はカードに魔法をかけて、想いが伝わるおまじないだということにした。
そんな私の嘘を信じて、お母さまは柔らかく微笑んでくれる。
────嘘ついてごめんなさい、お母さま
────……だけど
────表に出せない本気の想いだからこそ、お父さまにはちゃんと伝わってほしいんだ……
カードを貼り終えて、お母さまの腕から降ろしてもらったと同時に、私はそっと壁に手を当て、心の中で呟く。
伝われ。
お母さまの想い、お父さまの心の奧へと。
嘘をついてまで仕掛けたこのラブラブの魔法がちゃんと成功しますように。
願うことは、それだけだ。
今のところは……ね?
だいぶ長引いてますが、魔法で悪戯編は次で終わるかな……といったところです。
そろそろ登場人物一覧とSSSくらいの小話を、このお話とは別連載扱いで作ろうかなと考えてます(・∀・)




