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仕掛け魔法で悪戯を 3

今回はミミックとのあれやこれや……を中心に色々と突っ込みどころが多い回となっております(^^ゞ




~仕掛け魔法で悪戯を 3~




あ~……テステス、テステス……

ただいまマイクの~……じゃなくって、魔法のテスト中~。


うん、色々と試行錯誤してますよ、っと。


今私は、昼食後に一度自室に引っ込んで、兄さまの部屋に仕掛ける魔法の悪戯の内容を詰めに詰めているところ真っ最中なのです。

どんな仕掛けにするかはおおよそ決まっているんだけど、それの落ちてくるタイミングやら位置やら、あと落ちた後の衝撃やら何やらで微調整をしているといった感じかな?

何せぶっつけ本番でぶちかますには色々と不安材料がありすぎまして。


どうやら私の想像力、この仕掛魔法と非常に相性がいいことが分かりまして。

あまりにも鮮明すぎるイメージを作り上げてしまうと、トンデモ威力の地雷みたいな仕掛けが生まれてしまいそうだと危惧されたのです。

というのも、どういう風にしようかというお母さまとの打ち合わせの中で話を進めていくうちに、その可能性もあるという結論に達しました。

なのでお母さま曰く『複雑ではなく、単純で、一度限りの発動で消えてしまうもの』を仕掛けなさい、とのこと。

私も思い当たる節があったので、それには素直に頷きました。



────あれだわ~……静電気バッチバチをイメージした最初の封印魔術……



思っていた以上のものになっていて兄さまを驚かせたのは確かで。

今回の悪戯は痛い目を見てもらうつもりでいるけど、決して怪我をさせたいわけではないからかなり気をつけてイメージを作らなきゃいけないのだ。


そのための、テスト。

まずは自分を実験台に仕掛け魔法を発動させる。

自分で受けた分が大丈夫ならば兄さまも大丈夫なので、私がここまでなら耐えられるわ~……というギリギリのラインを見極めての威力調整になる。

まぁ兄さまは私のギリギリのラインの数段上は耐えてくれそうだけど、さすがに更なる微調整を重ねるとなると時間がなさすぎるので今回はパス。



────……っと、その前にこっちも仕掛けておかなきゃ



忘れないうちにと、クローゼットから宝箱風おもちゃ箱を引きずり出す。

念のため、中身の確認をしておこうと蓋を開けてみたら積み木が入ってた。

この中に没収したお父さまの絵を隠すつもりなので、中の積み木は全て取り出す。


おもちゃ箱の中身が空っぽになったところで蓋を閉じ、そっと手を当てながら頭の中に描いたイメージを魔力に乗せて箱へと注ぎ込む。

今度こそ、正真正銘のミミックの召喚だ。

できれば昨日と同じ子が出てきてくれたらいいな、とも思う。

そしたら、昨日痛い目に遭わせちゃったことを謝れるし、もしそのことでいじけてたりしたら一生懸命慰めようと思ってる。

そこは私の描くイメージ次第なのかな。

やってみなきゃ分かんないけど。


色々と考えつつ完成したイメージが魔法となって宝箱風おもちゃ箱に変化をもたらす。

銀色のキラキラ粒子を纏った赤い色の魔力がおもちゃ箱に吸い込まれていったと同時に、私は軽く『コンコン』と蓋部分をノックしてみた。

気分的には『入ってますか~?』だ。

すると僅かにカタカタと箱全体が揺れた気がした。


「あけますよ~」


バコンと遠慮なく蓋を開けると案の定……


《ヌバァアアアアアアアッ!!》


という特有の雄叫びらしき声とともに、びろ~んと伸びてくる長い舌。

それから口部分にあたる縁にはビッシリとギザギザの刃が揃っていて、その奥にはギロリと怪しく光るツリ目が一対。



────うん、やっぱりミミックはこうだよね!



その完成度に満足しつつ、私は箱の奥に向かって声をかけた。


「やっほ~」

《!?》


驚かせたはずなのに驚かなかった私の様子に、ミミックが若干怯んだ気がしたけど気にしない。

軽い調子で話しかけたら逆にビックリされてしまった。

うん、ゴメンね?


「きのうわたしがよんだこかな?」

《!!》


それでも気にせず話しかけたら、今度は違う意味でビックリされた。

この反応はたぶん、私が昨日呼んだ子で間違いないだろう。


「きのうはゴメンね? いたかったでしょ?」


思いっきり舌を噛まされてしまったことを謝ると、気にするなと言わんばかりにぶるると箱全体を揺らしながらミミックが《ヌゥゥン》と奇妙な声を出した。


「だいじょうぶ? へいき?」


もう一度訊ねると、頷くみたいにバッタンと蓋を閉じながら前傾して、それからまたバコンと蓋を開けて奥に覗く顔を見せてくれた。

一度魔法を解除されたことでダメージが消えたのだろうか。

そのあたりの仕組みはよく分からないけど、ミミックが今無事で何ともないというのならそれでよしとしておこう。

大事なのは、怪我してたりとか痛いところがあったりしないか、なのだから。


「こんどはあんなふうにはさせないからあんしんしてね?」


そう言ってミミックの頭部分ともいえる蓋を撫で擦ると、ふるると緩く箱全体を揺らして喜びを表現してくれた。



────可愛いなぁ、もう……!



ミッちゃんと比べるとこの子の方がずっと大きくてよりモンスターらしいというのに、仕草というか、動作の一つ一つがいちいち可愛すぎるんだ。


そうそう。

ミッちゃんで思い出したけど、この子にも名前を付けてあげなきゃだ。

男の子っぽいか、女の子っぽいかを訊かれると、断然この子は男の子だ。

ベースが宝箱風おもちゃ箱だから、しっかりと正統派なミミックとして完成されているわけだしね。


うん、この子は男の子で決まりだ。


「……ミック」

《?》

「キミのなまえ。きょうからミックだよ」

《!》

「わたしはフローレン。よろしくね、ミック!」


そう言いながらもう一度ミックの頭を撫でると、さっきの喜びの表現の上を行く、身体全体で擦り寄ってくるという何とも愛に溢れた反応が返ってきた。


しかしここで問題発生。


ミックのベースとなった宝箱風おもちゃ箱、実は結構な大きさなのだ。

まず、私の身体では抱えられない。

クローゼットから出し入れする際も、引きずったり押したりしながらでないと動かせないくらいの大きさと重量なのだ。


そんな大きなサイズで完成したミックが、その身体全体を使って擦り寄ってくるとなると……当然のことながら、幼女の私には体当たりされたも同然の衝撃があるわけで。


結果。


ミックが身体に触れた反動で、私、べしゃっと床に突っ伏しました。

『ぶゎ!?』という情けない声とともに、床とランデブーですよ。

いや、ふかふかカーペットのおかげでダメージはなかったですけどね?


もしミックがミッちゃんやサッシーがするように跳ね上がって身体を擦り寄せるという行動に出ていたとしたら、それはさながらドロップキックを食らったも同然の威力で吹っ飛ばされていたことだろう。

それほどに幼女の身体は軽いし、薄っぺらい。

紙のように、とは言わないけどね。


むくりと起き上がると、ミックがオロオロしながら私の顔を覗き込んできた。

これ、ミックの背後から見たら、私を頭から喰らっているように見えるだろうね。

まぁ部屋には私しかいないから誰もこれを見ることはないんだけれども。


「うぅ~……ミックはミッちゃんとちがってからだがおおきいんだから、くっつくときはかげんしてね?」


次も似たようなことがあったら困るので、お願いする形で窘めるとミックはちゃんと分かってくれた。

うん、イイコ、イイコ。

聞き分けのいい子は大好きだよ、私。


さて、と。

先にミックを呼んだのには理由がある。


情けない話、魔力不足で呼べなくなったら困るからである。

驚異の回復力の速さを誇る私でも、絶対量が足りなければどうしようもないのだ。

足りない魔力量を補うために体力をごっそり持っていかれるという流れになってしまうのは昨日分かったこと。

まぁ、私の雀の涙ほどの魔力じゃそれも仕方がないんだけどさ。


悪戯を仕掛けるのにばかり魔力を使って、お父さまを驚かせるための仕掛けを作れなかったら当初の目的が果たせなくなっちゃうからね。

言うなれば、兄さまへの悪戯はついでであって───でも、自分の中ではメインのつもりだった───本当に仕掛けるべき大本命ターゲットはお父さまなのですよ。

だからミックには全力でお父さまを驚かせてもらいたい。


「きょうはね、ミック」

《?》

「おとうさまをおもいっきりおどろかせてほしいんだ」


そう言うと、ミックは不思議そうに身体を傾けた。

私から見てちょうど右側方向に、まるで首を傾げるかのように身体全体を傾けたミックに私はこう続ける。


「ミックはもとがおもちゃばこでしょ?」

《ヌン!》


訊ねたことに、一度バッタンと蓋を閉じて返事するみたいに前傾姿勢になるミック。

それから再びバコンと蓋が開いて特徴的な顔が覗く。


「わたしがおとうさまにあげたえをね? ぜんぶぼっしゅうしてミックのなかにかくすの」

《ヌンヌン!》

「でね? それをさがして、おとうさまがミックのふたをあけたら『バァァァァッ!!』っておどろかせてほしいの!」

《!!》

「えがはいっているとおもってあけたはこに、じつはおばけがかくれていたんだよ~……ってなったら、きっとビックリしてくれるよね?」


……兄さまには効果なかったけども。

でも、お父さまは兄さまと違って効果があると私は思っている。

しっかりした大人であっても、あのお父さまだ。

昨日だけで色々分かった残念具合から察するに、なかなかの反応を見せてくれるんじゃなかろうかと私は踏んでいる。


「だからね! おもちゃばこのなかにえをかくして、それからまほうをかけて、おもちゃばこにミミックのしかけ、を……と、おもっ、て…………って、あ……あれ? あれれっ?」

《?》

「まって! ちょっとまって!」

《??》

「あわわわわわわわ!? わたし、ひょっとしてじゅんばんまちがった!? これ、しっぱいしちゃったかも!!!」

《!?》


あうぅぅ~……私のバカ、大バカ!!

魔力切れを危惧しすぎて早まったかもしれない!

先に仕掛けを施したんじゃ、中に絵を隠せるわけないじゃんよ!?

だからといって、せっかく呼んだこの子(ミック)を魔法解除という形で消したくはない。

っていうか、それ以前に私の異常な早さの魔力回復の前では魔法解除なんてできるわけがない。


「しくった……わたしのおバカ……ちょっとかんがえたらわかるだろうに、かんぜんにしくった……」


自分のあまりにものお粗末さ加減に落ち込んでいると、肩をちょいちょいと突かれた。


「?」


『何だ?』と思って振り返った先にはミック。

器用なことに、ミックは私に気付いてもらうべく己の長い舌で私の肩をトントンと叩いたっぽい。


「どしたの、ミック? いまレーンはおのれのしっぱいにおちこんでいるさいちゅうなんですが……」


言ってて情けなくなってきた。

でも失敗したのは事実だ、潔く認めなければいけない。

考えてはまた落ち込む……という悪循環を繰り返す私の思考を遮るように、ミックが長い舌で私が脇に退けておいた積み木をツンツンと突いた。

それから己を示すように、その舌をくるんと巻いて箱の中に引っ込めるという動作を見せた。


「?」


どういう意味だろうと首を傾げると、ミックはもう一度同じ動作を繰り返す。

その動きに『もしかして……』というある可能性が浮かぶ。


「もしかしてミック、かくせるの?」


その私の問いかけに答えるように、ミックはバッタンと蓋を閉じながら前傾姿勢になった。

身体を左右に揺らすのではなく前に傾けたということは、いわゆる肯定。

つまりは『できる』ということだ。


「ミックえらい!」


思わずガバッと抱きつくと、驚いたのか一瞬だけミックは身体をぶるっと震わせた。


「ためしてもいい?」


さっきミックが示していた積み木を一つ手に取りそう訊ねると、大きく口を開いて『いつでも来い』と言わんばかりに待ちの姿勢に入ってくれた。


「じゃあ、かくしてみてくれる?」


伸びた舌に積み木を載せると、さっきの仕草のように舌を使って器用に積み木をくるんと巻き取り、それを引っ込めると同時にバッタンと蓋を閉じた。

それがまるで一瞬で積み木を飲み込んだようにも見えて、思わず私はぽつりとこう零していた。


「まるのみ…………」


その呟きに反応したミックがバコンと蓋を開けて顔を覗かせる。

さっき飲み込んだ積み木はどこにもない。

隠してあると言われなければ分からないくらいに積み木の影はないのだ。


「もういっこかくせる?」


更にもう一つ積み木を差し出すと、同じように舌で巻き取って飲み込んで(?)いくミック。

再び口を開けた時に覗き込んで見たけど、やっぱり積み木は見当たらなかった。

相当ハイレベルな隠し技を披露してくれているようだ。


「それじゃあね、ミック」

「?」

「かくしたつみき、だせる?」


これが一番の問題だ。

相手に返すことを前提に隠すのに、その対象が無事でなければ何の意味もないのだ。


積み木を取り出せるか訊くと、ミックは『任せろ』と言わんばかりに箱全体を後ろへと反らせた。

まるで得意気に胸を張るかのような仕草だ。


一度バッタンと蓋を閉じて、軽くぶるっと身体を震わせたかと思ったら、すぐさまバコンと蓋を開け続けざまに『ペペッ』と積み木を吐き出す。

その様子を私はただただ唖然として見ていた。


「え……」


『隠して』『取り出す』の流れがまさかの『ゴックン!』『ペッ!!』だった。


そりゃミミックだから手はないし、隠すとしたらその長い舌を使うのも納得だよ?

だけど『隠すイコール飲み込む』で『取り出すイコール吐き出す』とは思わないじゃん?


だから、驚いたのと同時にものすごくおかしかった。


「ふふっ……」

《?》

「あははははははっ! ミックさいこう! 『ゴックン!』って! 『ペッ!』って! まさかそうくるとはおもわなかった! あははははははっ! おもしろすぎるよ、ミック~!!」


あまりにもおかしくって、カーペットの上で笑い転げた。


はしたないレベル100を優にオーバーしているだろうけど私は気にしない!

だって誰も見てないもん。

見られていなければいくらはしたなく笑おうがセーフなのだ!


涙目になって床をバシバシ叩きつつ、時折呼吸困難になって『ヒィヒィ』言いながら尚も笑った。

うぅ~、これは腹筋が鍛えられるぜ!


そんなこんなで結構な時間笑い転げていた私をいたたまれない様子でじ~っと覗っていたミックには申し訳ないけど、とても面白かった。

ぜひともこれをお父さまの目の前でやってもらいたい。

隠すところは無理でも『ペッ!』と吐き出して取り出すところだけでもお願いしたい。


「あ~……わらった、わらった。おもしろかった。ありがとね、ミック」

《ヌゥ?》


特に笑わせようと思ってやったわけではないミックにとっては反応に困る『ありがとう』だったかもしれない。

だけど私にとっては貴重な笑いの時間を提供してもらったも同然だから、この『ありがとう』の気持ちは本物なのである。


「そうだ、ミック」

《ヌ?》

「かくすのもとりだすのもできるってわかったけど、おおきさはどのくらいまでならへいき? えをかくすとなると、スケッチブックくらいのサイズになるけど」


積み木は立体だし、大きさもそこまで大したことはない。

けれど、絵となると勝手は違ってくる。

ヤツらの一枚一枚は平面長方形の厚みのないぺらっぺらな紙だ。

けれど数集まって束になった場合、結構な厚みになると考えられる。

ヘタすれば、上質なハードカバーの図鑑のようなサイズと厚さの長方体が完成するかもしれないのだ。

それを飲み込むとなると、さっきの積み木みたいに簡単にはいかないだろう。

実際どの程度の大きさまでなら大丈夫なのかを予め知っておいた方がよさそうだ。


「ちょっとスケッチブックとってくるね?」


あまり参考にならないかもしれないけれど、おおよその見本くらいにはなるだろうと思い、スケッチブックを収納してある棚の方へ向かおうとしたらミックも後ろからついてきた。

器用にも箱全体をバネのように使ってビヨンビヨン跳ねながら。


けれど私たちが棚の前に辿り着くことはなかった。

なぜならベッド付近に差し掛かったあたりでミックが私を引き止めたからだ。

例の如く、長い舌を器用に使って私の肩をちょいちょいと突く形で私の注意を引く。


「どしたの、ミック?」

《ヌッ!》


引き止められたことを疑問に思い振り返ると、ミックが私のベッドの方をくるりと向いた。

正確には、ベッドのヘッドボード上の『あるもの』をじっと見ている。

あまり物を置かずにスッキリとしているスペースの一画に『我こそは!』と言わんばかりに鎮座しているのはクマのぬいぐるみ。

たまに眠れない時とかに抱き込んでモフモフしている、とっても手触りと肌触りが最高なラブリーなクマちゃんだ。

そしてそのクマちゃんだが、抱き枕代わりに使うくらいにはそこそこ大きい。

今の私の身長よりも少しばかり小さいかな、程度の大きさなのだ。

ミックと比較すると、当然クマちゃんの方が大きいわけだ。

そのクマちゃんをミックはじっと見ている。

まるで『これも飲めるぜ!』とでも言いたげなオーラを漂わせながら。


「……もしかしてミック、このクマちゃんをのみこめるかためそうとおもってる?」


まさかと思って訊ねたらその『まさか』だった!

バッタンと蓋を閉じながら前傾して頷くような仕草を目にするのはもう何度目だろう。

私の言葉を肯定し、今度はこの大きなクマちゃんを試すのだとミックはやる気満々だ。


けれど……


「いやいやいや! さすがにムリがあるでしょ! どうみたってこのクマちゃん、ミックのくちよりおおきいよ? そんなおおきいもののみこもうとしたらたいへんだって! あご(?)がはずれたらどうするの!? くち(?)だってさけちゃうかもしれないよ!?」


どう見ても物理的に不可能でしょ、コレ!

おまけに無理やり口をこじ開けて飲み込もうものなら、ミックの本体でもある宝箱風おもちゃ箱が壊れてしまう可能性大だ。

それで本体が壊れてミックが消えちゃったりしたらどうする。

嫌だ。

そんな風になるなんて絶対に嫌だ。


最悪な可能性が頭を過り、これは断固阻止せねばという私の決意をよそに、ミックはびろ~んと長い舌を伸ばしてクマちゃんを巻き取った。



────いやいやいや、舌伸びすぎでしょ、ミック!?

────己はカメレオンの親戚か何かか!?



ていうかその前に!

私は『試していい』とは一言も言ってない!

断じて言ってないぞ!



────独断でやるんじゃねぇ、ミック!!!

────万が一何かあったら困るんだぞ、私もミック(あんた)も!!!



ぎゃーすかと脳内でミックに対する罵倒を繰り広げる私の思いなど知る由もないミックは、巻き取って引き寄せたクマちゃんをバックンと飲み込んだ。


「……え」


そう、飲み込んだ。

どう見ても、口部分である箱の縁周りよりも大きいはずのクマちゃんを、飲み込んだんですよ、ミックは。

それも徐々に飲み込んでいったわけではなく、一息での丸飲み。

見ていた私、またも唖然……


そんな私とは反対に、ミックは平然としてバコンと蓋を開けた。

クマちゃんの姿はどこにもない。

あれだけの大きさなんだから手足の一本くらいちらりと見えてもおかしくはないはずなんだけど、ホントに影も形もない。

消えた、って言ってもおかしくはないくらいにミックの口から覗く中は何もないのだ。


「クマちゃん、ない……」

《ヌフン♪》


呆然と呟く私と、得意気に陽気な声を出すミック。


「え、なにコレ? どうなってんの?」


尚もじ~っとミックの中を覗くも、やはりそこには何もない。

ミックのこの身体の一体どこに飲み込んだクマちゃんは収納されているのか。


おかしいよね?

自分より大きいものを飲み込んで収納するとか有り得ないよね?


だから私がこんな行動に出るのは当然だった。


「ちょっとよくみせて、ミック!」


そう言うと同時に、私はミックの蓋を限界までぐぐぐ~っと抉じ開けるように両手を上下に突っ張った。

突然の暴挙に驚いたミックがジタバタと箱全体を震わせて暴れようとするも、私が縁部分に手をかけていることに気づき必死にそれを堪えていた。

ついでに、私の手に鋭い刃が刺さらないように、縁部分の刃をサッと引っ込めたようだった。

そんなこともできるのか、便利だな……なんて思いつつも、私はミックの中の構造がどうなっているか気になって気になって仕方なくて、半ば上半身を乗り出すようにしながら箱の奥へと向かって更に前のめりになる。


今の私、ミックに半分食べられてるような状態に見えると思うよ?

誰も見てないけどね~。


今度はそんなどうでもいいことを思いつつ、ミックの箱の中身を観察。

私の胸から上の部分を突っ込んだ状態でいるのに、やっぱり中には何もない。

この身体のどこにクマちゃんは飲み込まれていったんだ?

完璧な隠蔽ともいえる素晴らしい隠し技だとは思うけれど、謎だけが残るこの不思議現象。


何コレ?

ミックの中身、不思議すぎるんですけど?

口の中が異次元空間とか亜空間とかにでも繋がってんの?

だから中身空っぽなの?

意味分かんないんですけど?



────ホント、どうなってんだ、コイツ……?



箱から身体を出すことをしないまま首を傾げたせいか、私の髪の毛の毛先が内部の敏感な箇所をコショコショとくすぐったようになったらしい。

それに耐えきれなくなったのか、ミックがムズムズと身体を震わせ始めた。

……その直後。


《ヌシッ!!》


なんていう奇妙なくしゃみ音を発したと同時に、私の身体はミックの箱の中からコロンと投げ出される形となった。

そのまま後方へと、背中から転がるように倒れる。

もちろん毛足の長いふかふかカーペットのおかげでダメージはゼロだ。


盛大なくしゃみとともにミックの口から吐き出される形となった私はまたも唖然。

反対にミックは、私を床に転がしてしまったことで焦ってオロオロしだした。


「……ぶはッ!」


そんな状況がものすごくおかしくなって、またも私は笑い出した。

さっきの比じゃないくらいに笑い転げ、ついでにベッドの上に身を投げ出し、尚も笑いながら手足をジタバタさせ、更にはゴロンゴロンと何度もベッド上を往復して転がりながら、腹筋が引き攣るまで笑い続けた。

はしたないレベルは100どころか200を超えていると言ってもいい。

でも誰も見てないからいいんだ。

箸が転んでもおかしいお年頃……というにはまだまだ早すぎるけど、とにかく笑いたいから笑うのだよ、今の私は。


そしてミックはというと、私が笑い通している間中ずっとオロオロしっぱなしだった。

放置プレイかましてゴメンよ、ミック。

でも笑いは止められない。

笑える時に笑うべきなのだ。

ストレス解消にもなるし、健康のためにも笑うことは大事。

笑いとは全ての病気に対する万能薬である、とまでは言わないけど、笑うことで少しでも元気になれるのであれば万々歳じゃないか。


レーン は よく わらう こ に なります!







……数分後。


「ふぅ~……わらった、わらった」


笑いすぎてボロボロ零れた涙を指で拭いつつ、私はとうとういじけてしまったミックをなだめるべく、頭部分となる箱の蓋をずっとナデナデしていた。

さすがに笑いすぎたかと思うも、こればっかりはしょうがない。

不思議構造で私を笑かしてくれたミックも悪いと思う。

……や、そんな不思議構造で生み出した私が悪いのか?


っていうか、そんな複雑なイメージはしていないから、実際のこれは『ミミック』という存在が元々持っている特性なのかもしれない。

そもそもがこの世界に存在する生き物(?)ではないだろうし、何よりも魔法で呼んだ子なわけだから、そのあたりの謎を解明するのはちょっとどころかかなり難しいのではなかろうか。

……うん。


「ゴメンね、ミック」

《………………ヌゥ》

「ミックがあまりにもふしぎすぎて、おもしろくて。それでついつい、いっぱいわらっちゃったの。けっしてミックをバカにしたわけじゃないんだよ? ホントだよ?」


そう謝りながらずっと頭をナデナデしていると、ミックが覗うように私の顔をじっと見てきた。

さすがにミッちゃんやサッシーみたいにお目目ウルウル……なんてことはしないけど───男の子だもんね!───ちょっぴり落ち込んで見えるその目を見つめ返していると、さすがにあんなに笑うことはなかったかなという反省の気持ちが湧き出てくる。


「あまりにもすごくて、そうぞうもしないことをミックがやってくれるからおもしろかったの」

《!》

「つぎはなにをしてくれるんだろう? って。そうおもうとね? もっともっとおもしろくなっちゃうの。そうおもわせてくれるミックはね、ホントにすごいとおもうよ?」

《ヌゥ~♪》


心からの褒め言葉が伝わったのか、ミックが機嫌を直してゆらゆらと身体を揺らした。

それと同時に、喜びと嬉しさを私に伝えようと擦り寄ってきた。

……のはいいんだけれど。


「ぶゎ!?」


またも体当たりクラスの衝撃を受けて、私は頭から床にランデブーです。

ふかふかカーペットのおかげでダメージは……以下略。


「……ミック」

《!!》

「……かげんしてくれ、たのむから」


幼女の身体は軽くて薄っぺらい。

紙のようだ、とは言わないけれど。

大事なことだからもう一回言っとく。




……とまぁ、そんなコントみたいなアホなことを繰り返し、飲み込んだクマちゃんも吐き出してもらった。

うん、まぁ、吐き出した……よね、うん。

積み木とは違って、巨大サイズとも言えるクマちゃんを出すのにはミックも苦労したようで。

結構ツラそうでした、はい。

行きはよいよい~……ってやつですかね。


とりあえず、ミックが大きいサイズのものでも隠せて取り出せることが判明したので、お父さまの絵を隠すことに対する心配はなくなった。

あとは安心して兄さまの部屋の扉に仕掛ける魔法の微調整ができるってもんだ。

既に完成してるも同然だから、威力の調整のみって感じだけどね。


「よし! やるぞ~!」


気合を入れてクローゼットの扉と向き合った私は、一部分に集中してイメージと融合させた魔力を流し込む。

金色を帯びた魔力と、それを取り巻くようにキラキラと輝く銀色粒子。

一瞬で吸い込まれて完成した仕掛け魔法の効果を確認すべく、勢いよくクローゼットの扉を開く。


……と。


「い゛……ッ!!」


作動して落ちてきた仕掛けが脳天に直撃。

威力は……なかなかなんじゃないですかね?

涙目というよりは、ちょいガチ泣きに近いくらいのレベルの涙量です。



────おぉう……これはちょっと痛かった……



まぁ幼女の私がギリ耐えられたこの痛みなら、兄さまは余裕で耐えてくれるでしょ。

ってことで、仕掛け魔法テスト終了~。

これ以上やったら、同じ箇所にアレを喰らい続けて私の頭髪がハゲる。

この若さで部分ハゲとかシャレになんないからね。


既に何度となくダメージを受け続けた頭を撫で擦っていると、ミックが心配そうに見上げてきた。

さっきのアレを見てミックも痛くなったのかもしれない。

ゴメンよ。


「なれてるからへいきだよっ!」


何せ私には頭を打つ呪いがかかっているからな。

伊達に昨日から何度も何度も頭を打っていないのだよ。


それでも心配そうに私を見上げてくるミックの頭をナデナデしてから、私は準備は終わったとばかりに部屋を出るべく歩き出す。


「いくよ、ミック」

《?》

「これからがほんばん。そのあとおとうさまのおへやにもいくから、ミックもおいで」

《ヌン!》


先に歩き出す私の後ろを、ミックがビヨンビヨンと跳ねながらついてくる。

最初の目的地はすぐ近くの兄さまの部屋だ。

少し歩いたところでちょうどガルドが兄さまの部屋から出てくるのが見えた。


「ガルド!」

「フローレンお嬢様」

「まほうをしかけにきたよ」


そう言ってニコニコ笑いながらガルドを見上げると、扉をきっちりと閉めてから、いつものように屈んで膝をつき、私との目線を合わせてくれる。

屈んだことで視界に入ったミックを見て、ガルドが一瞬だけ表情を変えた。


「おや? お連れ様が一人(?)増えたようですね、お嬢様」

「ミックだよ」

《ヌ!》


ガルドにミックを紹介すると、ミックはお辞儀をするようにバッタンと蓋を閉じながら前傾姿勢を取った。

それからバコンと蓋を開けて元の状態に戻り、今度は一度だけその場でビヨンと跳ね上がる。

その一連の流れを見て、ガルドは小さく笑うと同時に、私と同じ目線の高さのまま上半身だけで丁寧にお辞儀をした。


「これはこれはご丁寧に。私はフローレンお嬢様の兄君ロイアス坊ちゃまの専属執事を務めております、ガルドと申します」

《!》


相手が人間外の『オバケさん』であっても丁寧に挨拶するんだな、ガルドは……なんて思っていたら、ミックが一瞬だけ身体をぶるっと震わせて私の背後にサッと隠れてしまった。

たぶんだけど、ガルドがロイアス兄さまの名前を出したからだな。


「お嬢様。彼(?)は、一体……?」


ガルドには、ミックの行動が『自己紹介をしたら怯えて隠れられてしまった』ようにしか見えなかったのだろう。

戸惑うのも無理はない。


「ちがうの、ガルド。ミックはね、きのうにいさまにしたかまされて、むりやりけされちゃったから、にいさまのなまえをきいてビックリしたんだとおもう」

《ヌッ、ヌッ!》


そう説明すると、ミックも同意するように私の背後で何度も何度も蓋をバッタンバッタン開閉していた。

名前を聞くだけでこれだけの反応とは、やっぱり昨日舌を噛まされたダメージは相当だったようだ。


「そうでしたか……坊ちゃまが失礼いたしました」


いや、ガルドが謝ってもしょうがないじゃん。

それでもミックはガルドの気遣いが嬉しかったみたいだけど。


「だから、これからにいさまにするいたずらは、きのうミックにされたことへのしかえしでもあるの!」

「そうでしたか」

「ね、ひとばらいはしてくれた?」

「ええ、もちろんです」

「リーシェとマリエラも、すぐにかえってきたりはしない?」

「大丈夫ですよ。リーシェとマリエラでしたら、かなり時間を要する無理難題な用事を奥様に言い付かっていたようですから」

「むりなんだい? って? どんなようじ?」

「お嬢様用にと、世界のお化け大全なる図鑑や参考文献その他諸々を徹底的に探してくるように言われたようですね」

「オバケ、たいぜん……」

「おそらくは、こちらの彼……ミックや、先ほどお会い(?)したサッシーやミッちゃんの他にも色々とお化けをイメージして生まれる魔法をお嬢様に試していただきたいのでしょう。本来でしたら絵本のような可愛らしい絵柄のもので事足りるのでしょうが、今回は時間稼ぎを兼ねておりますので、よりリアルで恐ろしいものを集めるようにとのことらしいですよ」

「ほぇ~……」

「大人でさえ震え上がって見たがらないような類の書物を徹底的に探せとのことですので、かなりの時間を拘束されると思われます。あと、幼いお嬢様相手にそのような類の本を見せるなんて……と、戦々恐々としておりましたね、二人とも」

「あ~……ははっ……」


そんなの見せたら悲鳴あげてひっくり返って気絶するとでも思われてんだろうなぁ。

けど……スマンねぇ。

実は私、根っからのホラー好きなんですわ。

もっと言うと、ホラーだけに限らずグロもスプラッターも耐性あるし、寧ろ嬉々として見るタイプだよ。


よりリアルで恐ろしい『世界のお化け大全』なる図鑑や文献とな?

大歓迎だよ、ウェルカムオッケーだ!

前世知識のオバケさんたちに加え、この世界でのオバケさんたちのイメージが加わったら私の仕掛け魔法でオバケ召喚にも幅が広がって楽しいってもんです。

そんな用事をリーシェとマリエラに言いつけてくれたお母さまグッジョブです!

大感謝!


もしこの世界にも前世で言うハロウィーンに準ずるようなお祭り騒ぎがあったとしたら、私喜んでいっぱいオバケさんたちを召喚しちゃうぞ!

そしたら今度こそ、このオンディール公爵邸を正真正銘リアルなお化けの出る(ホーンテッド)豪邸(マンション)にできるかもしれないね!


いや~……魔法って夢が広がるわぁ~。

考えたらちょっと楽しくなってきちゃった。

今度それらしいお祭りだとか行事だとかがないか調べてみよっと!


その前に、しっかりと悪戯しておかないとね。

お父さまと兄さまと、それぞれの反応が楽しみです♪













ちょっと長引いていますが、仕掛け魔法で悪戯編はもう少し続きます。

次回で終わる……かな?

終わればいいなぁ……(´▽`*)

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