家族だから心配性は当たり前、ってことなんです?
────もしかしてこれは、通常運転ってやつなんだろうか……
当たり前のようにお父さまにお説教をするヴェーダと。
そんなヴェーダのお小言を素直に聞いて受け入れているお父さまとを見ていると。
普通にただの日常の一コマにしか思えなくなってしまった。
ホント、お父さまは昔から何をやっていたんだろう?
気になって気になってしょうがないよ……─────
~家族だから心配性は当たり前、ってことなんです?~
平気そうとはいえ、未だ万全ではないお父さまの体調を気遣ってか、ヴェーダのお説教は思ったよりも短く済んだらしい。
『くれぐれも無理をするな』ということと、私に『余計なことを吹き込まない』ということを、これでもかとばかりに釘刺しをされたお父さまはやっぱり苦笑を浮かべたままだ。
────ちっとも堪えてなさそう……
今のお父さまを見て浮かんだ感想はそれだ。
たぶん、ヴェーダからのお説教に慣れすぎて、そんなに堪えていないんじゃないかな。
まぁ子どもの頃と大人である今とでは、受け止め方が変わるからかもしれないけど。
とりあえず、お父さま。
反省はしよう?
ちっとも大丈夫じゃないくせに『平気』だなんて言ったのはよくないと思うんだ、うん。
私だってず~っと疑ったままでいたくらいだからな。
確かに一公爵家当主の身としては、そういう風に振る舞う必要性というものは多岐に渡ってあるんだとは思う。
でもさ、家ではそういうのなくたっていいと思うわけ。
家族の前でくらいは、ちょっとだけでも弱い部分を見せたっていいんじゃないかな、って。
心配してこそ家族だし、そうやって助け合って支え合って過ごしていくことって、家族の絆を深めるためにも大事なことだと私は思うよ?
……ゲームだと公爵家お取り潰しで一家離散とか、そういう悲惨な結末を迎えるエンディングもあったからな。
テンプレ悪役令嬢の、これまたテンプレなクソミソな悪事の後始末として巻き込まれてな!
もちろん私はそんな未来なんて望んでないし、テンプレ悪役令嬢になるつもりも全くない。
もっと言うなら、仲良し家族のままで大人になりたいんだ。
そのためにも、家族間の会話や触れ合いといったものを大事にしたい。
こんな風に心配し合うのなんて初歩の初歩だ。
「おとうさま」
「ん? どうしたんだい、レーン?」
思わずペタリと触ったお父さまの頬は若干熱を持っているように感じられた。
体温の高い子どもの手でそう感じたくらいだから、たぶん熱があるんじゃないかなって思う。
なのにこれでも『平気だ』なんて言うんだから、お父さまはホントにウスラトンカチだ。
しっかりしている人のハズなのに、どうしてこうも両極端なんだろ。
もしかしてお父さまって、頭に『残念な』という言葉がつく人たちの括りに分類されているんじゃなかろうか。
そう疑ってもしょうがないよね。
昔からの奇人変人みたいだし。
……っていうのは私が勝手に思ってることだけどさ。
強ち間違いじゃないと思えるのは気のせいだろうか。
「おとうさま、ほっぺたあついです」
「!」
「これでへいきだっていうのはダメだとおもいます」
「……そうだね。よくないね」
「しんぱいさせたくないからうそをついたのはわかりますけど、それでもうそはダメだとおもいます」
「そうだね。悪意はなくても、嘘であることが分かれば周りは余計に心配するだろうからね」
「みんなしんぱいしてますよ?」
「しているね」
「わるいことしたっておもってますか?」
「思っているよ。ヴェーダからも叱られたばかりだしね」
「はんせいしてますか?」
「してる。深く、ね」
「じゃあ『ごめんなさい』してください」
「えっ?」
「わるいことしたら、ちゃんと『ごめんなさい』しなきゃダメなんですよ?」
むぅ……っと頬を膨らませながらそう言うと、お父さまは困ったような表情で苦笑した。
それとは対照的に、ヴェーダがおかしそうに笑う。
「ふふふっ。さすがの旦那様もお嬢様にこう言われてしまってはお手上げですわね」
「……ああ、全くだよ」
「わたくしが言うよりも、お嬢様の言葉の方が旦那様には強く響くようでございますので、あとはお嬢様にお任せすることにいたしましょう。どうぞたっぷりお嬢様に叱られてくださいまし」
クスクス笑いながらそう言ったヴェーダの言葉に、お父さまの表情が分かりやすいまでのバツの悪そうなものに変わった。
「参ったな。今日一番の重くキツい一言をもらった気分だ」
「旦那様はお嬢様が関わるといつもそうでございますからね」
およ?
今度こそお父さま、反省するっぽい?
そんな風に思いながら、お父さまとヴェーダの顔を交互に見つめていると、ヴェーダからこう言われた。
「フローレンお嬢様、しっかりと旦那様を叱ってあげてくださいましね?」
「ふぇっ!?」
私がそんな大役を任されちゃってもいいのか?
驚きから変な声を上げてしまったけど、それに対するヴェーダからの突っ込みは入らなかった。
相変わらずおかしそうに笑ったままだ。
「旦那様がこの世で一番怖いことは、大事な家族から嫌われてしまうことでございますから。特にお嬢様に対する溺愛ぶりは誰もが知る周知の事実ですので、お嬢様からきつく釘を刺していただくことが旦那様にとっての一番の薬になること間違いなしです」
「…………くぎ」
「ええ。釘でございますよ、お嬢様」
ふむふむ。
チクリとぶすりとやっちゃっていいってことだね。
っていうか、その前に。
溺愛されてる、みたいなことをヴェーダは言ってたな。
嫌われるのが怖いって。
私も同じだ。
嫌われるのは、怖い。
大事な家族だからこそ、尚のこと怖い。
「おとうさま」
「ん?」
「わたしも、こわいです」
「レーン?」
「きらわれるのは、こわい……」
「!」
「こわくて、きっと、いたい……」
「レーン……」
じっとお父さまの目を見つめながら言った言葉は、お父さまに、というよりは自分に言い聞かせたといった方が正しいのかもしれない。
そんな私の言葉を驚いて受け止めたお父さまだったけれど、ヴェーダには違ったようだった。
「フローレンお嬢様。大丈夫でございますよ。そう、お話ししましたよね?」
「……うん」
「大丈夫ですから。ね?」
諭すように言われてもう一度頷く。
「ヴェーダ、今のは一体どういう意味だい?」
お父さまだけ訳が分からないといった感じで戸惑っている。
「現時点ではお嬢様とわたくしとの間の秘密になりますが、気になるようでございましたら、直接お嬢様からお聞きになってくださいませ。きっとお話しくださるはずですから。そうでございましょう? フローレンお嬢様?」
「うん」
「……だそうですよ、旦那様」
「…………ふむ」
思い当たることでもあったのか、お父さまの表情がふいに真剣味を帯びた。
「ただし、深く触れてほしくない部分に関しては口を噤んでしまわれるかもしれませんので、その時はあまりお嬢様に追求なさるようなことはしないであげてくださいましね?」
続けて出たその言葉は、私の心情を思ってのものだったようで、思わずヴェーダの顔を見つめると優しく微笑み返してくれた。
「まぁ色々あったようだし、レーンが話せる範囲であるなら聞かせてもらうことにしようか」
「はい。そうしてくださいまし。それではわたくしはこれで失礼いたします。何かございましたら遠慮なくお呼びください。直ちにわたくしかカイエンがまいりますので」
「ああ、分かった。ありがとう、ヴェーダ。それから……いろいろと悪かったね」
「ふふふっ。旦那様のこれは昔からですので慣れておりますよ。ですがお嬢様の手前、くれぐれもご無理はなさいませんよう」
「肝に銘じておくよ。私もレーンに嫌われたくはないからね。レーンが言うには、嫌われるのは怖くて痛いものらしいから。さすがにそんな痛みは欲しくはないからね」
そう言って苦笑したお父さまを見てヴェーダも苦笑した。
よほどおかしかったのか、しばらく二人して苦笑し合っていた。
そんな二人を私は尚もじ~っと見つめる。
私は嫌われることは怖いと思うし、痛いとも思う。
お父さまもそれは嫌だと思ってくれてるみたいだ。
こりゃあれだな。
仮に私が『お父さま嫌い!』なんて言おうものなら、その一言だけで物の見事に撃沈するだろうな。
うっかり口走ったりしないように気を付けよう。
何気ない言葉も、それを受け止める人によっては立派な凶器になるわけだからね。
ヴェーダだってそう言ってたし。
……うん。
言葉には気を付けよう。
内心で私がそう決心を固めている間に、お父さまとヴェーダの話も区切りがついたようだ。
「ふふっ、本当に仕方のない旦那様ですね。それでは今度こそ失礼いたします」
苦笑こそ完全に収まりきれていなかったけど、これ以上ここに留まるわけにはいかないと思ったのか、ヴェーダが一歩下がって、それから綺麗に腰を折ってお辞儀をした。
『今度こそ』といった言葉の通りに、本来の仕事に戻るのだろう。
今からの仕事となるとお母さまのところかな?
本当だったらお母さまの側に控えているのが当たり前なのに、予定外のことをさせてしまって悪いことしちゃったな。
たぶん謝ってもヴェーダは気にしない。
これも仕事だと言ってくれる。
だからここは……『ありがとう』だ。
「ヴェーダ、ありがとう。ここまでつれてきてくれて」
「いいえ。お嬢様がお望みとあらば、いつでもお供いたしますよ。それでは失礼いたします」
最後にもう一度綺麗なお辞儀をして、ヴェーダはこの場から去っていった。
その背中に向かって手を振りながら、私はヴェーダが見えなくなるまでずっと去っていった方を見つめていた。
そしてお父さまも同じように、去っていくヴェーダの背中を見つめていたようだ。
「おとうさま」
「うん?」
「おとうさまはいまでもヴェーダにいっぱいしかられているんですか?」
「う~ん……」
「?」
「そうだね。叱られていると言えばそうなるだろうね。敢えて叱られていると言った方が正しいのかもしれないけれど」
「……? わざとしかられているってことなんですか?」
えぇ~……?
お父さまって人に叱られたいっていう性癖持ちなの?
今の言い方だと、わざと叱られるように仕向けているようにしか聞こえないよ。
なんでそうする意味があるのかちっとも分からない。
あからさまに眉を寄せた私を見て、お父さまは小さく笑いながらこう言った。
「ヴェーダには内緒だよ?」
その言葉が、私の疑問に答え、且つそれを肯定したのだと分かった。
「どうして、わざとしかられようとするんですか?」
必要もないのに、わざわざ叱られるような原因を作ってまで。
そこまでして叱られようとする意味が分からない。
「本当の自分を見失わないためだよ」
「ほんとうの、じぶん……?」
「そう、本当の自分。一番自然体で自分らしくいられた、遠い昔の自分をね」
含んだようにそう言われて、疑問はますます大きくなっていく。
そんな言い方をされてしまったら、今私の目の前で優しくそれを語ってくれているお父さまが、本当のお父さまじゃないと言われてるみたいだ。
全然知らない人だと言われてるみたいだ。
「そんな顔をしなくても大丈夫だよ、レーン。本当の自分と言っても、それは父さまの一部分という意味であって、全部がそうだというわけではないからね?」
そんな顔ってどんな顔だ。
さっきも似たようなことを誰かから言われたぞ……と、思いつつも、続いたお父さまの言葉にまた引っ掛かりを覚える。
「おとうさまの、いちぶぶん……?」
また意味不明ワードだよ。
「そうだよ。父さまだけに限らず、人は色々な面を持っているものだからね。今レーンがこうして見ている父さまだって、父さまの一部分でしかない。家族に見せる顔、当主として見せる顔、一人だけの時間で気を緩めている時の顔。挙げていけばキリがないくらい、人は『色々な一面』を持っているものなんだよ。レーンだってそうだろう?」
そう言われて『なるほど……』と頷く。
お父さまだけに限らず、私だってそうだ。
それに、兄さまやお母さまだって。
特にさっきの兄さまの怒りの部分を垣間見た時なんて、身体の奥底から震え上がるくらいの恐ろしさを感じた。
まさか兄さまがこんな風になるなんて……と思ったこと自体が、今まで知らなかった兄さまの『一面』に触れた瞬間だったのだ。
「いつの間にかまた笑えるようになったね」
「!」
「おかえり、レーン」
「おとうさま……」
「強く頭を打ったんだってね? 一部の記憶が飛んだらしいと聞いたけれど、今はもうそうでもないのかな? 痛みはどうだい?」
そう優しく言われて、抱かれた腕に力を込められて引き寄せられたと思った瞬間にはもう、私とお父さまの頬と頬が触れ合っていた。
「!!」
────あうぅぅぅ……!!!
────至近距離でイケメンお父さまとほっぺた触れ合いなうとかテラヤバス……!!!
瞬間湯沸かし器みたく、一瞬で頭が沸騰してしまうんじゃなかろうか。
そう思えるくらいにお父さまのイケメン具合の破壊力は凄まじいのだ。
……とは言っても?
お父さまは、ちょっと『残念』具合がある(と思われる)イケメンにカテゴライズされている(私が勝手にカテゴライズした)から辛うじて意識飛んだりはしてないけれど、これが残念要素の欠片もないただのイケメンだったら今頃私撃沈してたよ。
今こうしてるのが、ゲームでのロイアスだったら間違いなく意識どっか逝ってました。
私の中でのロイアスは最推しで神です。
あ、ゲーム内の、あくまでも二次元に存在してる相手だからこう言ってるだけで、実際に今目の前で見ている現実の兄さま相手に『最推し』『神』『尊い』とか決して言わないからね!?
言ったらただの電波だよ。
速攻でお医者さま呼ばれちゃうよ。
────私、頭ノオカシイ子、違ウ……
あくまでも普通の子。
いや、前世の記憶が蘇って転生したって分かった時点で普通じゃないけども。
でも、周りからみた私は、オンディール公爵家の当主の娘で、まだ幼い子ども。
普通の幼女だ。
「レーン?」
「!」
ハッ!?
いかん、お父さまのテライケメン具合に、意識が半分どっかに逝ってた。
思いっきり心配させてるじゃんよ!
「やっぱりまだ頭が痛むのかな」
オウ、ノ~……そうじゃないのですよ、お父さま。
まぁフツーに考えたらそっちの心配されて当然だよね。
昨日の今日だしさ。
でも!
頭の痛みはすっかり良くなって全快しているのだよ!
だってロイアス兄さまが治癒魔法で治してくれたからね!
……正味三回ほど。
しょうがないよ。
だって私には頭を打つ呪いがかかっているんだもん。
……たぶん。
「もういたくないです。だからぜんぜんへいきです、おとうさま」
「本当に? 気を失うほど強く打ったと聞いたのだけれどね?」
「ほんとうのほんとうにへいきです! ロイにいさまがなおしてくれました!」
「ロイアスが?」
「はい! ……こう……ふわっ、ぽわっ……ってかんじで」
一番最初に治してくれた時の状況を思い出しながら、ここをこんな風に触れていたんだということを伝えようとしたら、なぜか擬音ばっかになった。
あれ?
おかしいな?
私ってこんなにボキャ貧だったっけ?
ギブミー語彙力!!
とりあえず擬音だらけの言い方じゃ、お父さまには確実に伝わらないので、ハッキリとこう告げることにした。
「にいさまのまほう、すごいです!」
言いたかったのはこれだしな。
っていうか、最初から兄さまが治癒魔法で治してくれたって言った方がよかったかもしれない。
今頃気付くなよ、って話だけど。
「ロイアスの治癒魔法か。それならレーンがもう平気だって言うのも納得だね。治癒魔法に関しては、ロイアスはとても優秀だから、レーンが全快していることは間違いなさそうだ」
「いたいの、すう~ってきえていきました!」
「うん。そうだろうね。それと痛みが消えていく時に温かく感じなかったかな?」
「ポカポカしました!」
「それが治癒魔法の特徴だよ。いずれレーンも魔法を使うようになるだろうから、経験したその感覚はしっかりと覚えておこうね?」
「!」
ここは『ハ~イ!』って返事をするところなんだろうけど、ゴメンナサイ。
いずれどころか、もう既に今日やっちまってるよ、私。
それも兄さまに無理を言って、あれもこれもと、とにかくいろいろと手を出した。
これ、後で兄さまと揃って白状したら、叱られるよりも前に仰天させそうだ。
「レーン?」
返事をしなかった私を疑問に思ったのか、お父さまからじっと見つめられた。
とりあえず黙り決め込んでいるのは不自然なので、コクンと一つ頷いておいた。
言葉にしたら余計なことまでポロッと零しそうだしな。
あと、話を魔法のことから逸らしておこう。
何が切っ掛けでうっかり喋っちゃうか分からないし。
さっきみたいに、話の流れで魔法のことに触れてしまわないとも限らないからね。
あくまでも不自然にならないように、さりげなく、さりげなく、話を魔法のことから遠ざけていこう。
「……あたま」
「ん?」
「あたまうって、いっぱいしんぱいかけてしまいました」
「心配するのは当たり前だよ。皆レーンのことが好きで、とても大事に思っているわけだからね」
「……おとうさまも、おしごとでおるすにしていたのにいっぱいしんぱいかけてしまいました」
「そうだね。側にいない状態でそれを聞いたから、もしかしたら邸にいた他の誰よりも、父さまが一番レーンを心配していたかもしれないね」
「……ごめんなさい」
「ん? どうして『ごめんなさい』なのかな?」
「いっぱいしんぱいかけて、おしごとのじゃまして……」
邸にいる他の誰よりもお父さまが一番心配していたというのはきっと本当だ。
直接自分の目で確かめることが叶わず、時々入ってきたであろう連絡や報告からでしか私の状態を知ることができなかっただろうから。
無事だと分かっても、ちゃんと会って顔を合わせるまでは納得できない。
そんな風に思っていたのかもしれない。
だから、ごめんなさいなのだ。
大事な仕事の最中に、私のことを気にする状況を作り出してしまったことへの。
「心配をかけるのは何も悪いことではないだろう? 寧ろ、家族だから心配をするのは当たり前のことだからね? レーンがごめんなさいを言う必要はどこにもないんだよ?」
「じゃあ……」
「?」
「ありがとう?」
コテンと首を傾げながらそう問いかけると、お父さまが笑いながら頷いてくれた。
「その方が父さまとしては嬉しいかな。父さまだけでなく、邸にいる誰もが皆そう思っていることだろうね。だからこれからは『ごめんなさい』じゃなくて……」
「ありがとう?」
「そう。『ありがとう』を言うようにしようね?」
お父さまにそう言われて大きく頷く。
確かに『ごめんなさい』を言われるより『ありがとう』を言われる方がずっと嬉しい。
それに、心配をかけることは悪いことではないとも言ってくれた。
つまりそれは、イコール迷惑ではない、ということでもある。
家族の特権というやつなんだろうか。
だから私もお父さまにこう言うのだ。
私は家族だからどんなに心配かけてもいいよ、って。
辛かったり苦しかったりするのを隠さなくてもいいよ、って。
「じゃあ。おとうさまも、がまんしないでわたしたちかぞくにいっぱいしんぱいされてください」
「!」
「あたりまえ、なんでしょ?」
そう言って、再びコテンと首を傾けると、お父さまの顔が分かりやすく困った表情になった。
「これは参ったね。私が言った言葉をそっくりそのまま返されてしまうとは……」
「わたしたちかぞくはよくて、おとうさまだけがダメっていうのはよくないです。かぞくなんだから、みんないっしょじゃないといやです」
「そうだね。皆一緒でないと寂しいね」
「だからおとうさまも、あんしんしてわたしたちかぞくにいっぱいしんぱいされてください」
お父さまに抱っこされたままの状態にも関わらず、私は『えっへん』と得意気に胸を張ってふんぞり返ってみた。
こんな偉そうにしてる私を見て、お父さまがちょっとだけでもおかしそうに笑ってくれたらいいなと思って。
さっき私がロイアス兄さまにやった時みたいにね。
そんな私の思惑を感じ取ってくれたのかどうかは分からないけど、お父さまが苦笑とは少し違う笑みを浮かべているのに気が付いた。
「本当に、レーンには頭が上がらないね」
「はんせいしてますか、おとうさま?」
「してるよ。これ以上レーンに叱られるのは父さまも辛いからね」
笑ってくれたと思ったら、またすぐに苦笑になっちゃった。
こういうとこ、ロイアス兄さまとそっくりだ。
この場合は、兄さまがお父さまに似たって言うのが正しいんだけどね。
「おとうさま」
「ん?」
「おしょくじできないってほんとうですか? おかあさまがそういってました」
「そうだね。さすがにこの状態で物を口にするのは辛いからね。レーンだって、気分が悪い時は何も食べたくないと思うこともあるだろう?」
そう言われてコクンと頷く。
確かに吐き気がするほど気分が悪い時とか何も食べたくはない。
下手すれば、水を飲むこと自体が辛い時だってあるからな。
「とりあえず、この症状が抜けきるまでは食べない方が身体もラクだと思ってね」
「……おみずはのめますか?」
「少量ならね?」
それを聞いて少し安心した。
お父さまが今感じている気持ち悪さがどの程度のものかは分からないけど、何度も嘔吐するくらいの重症で水分補給もままならないとなってしまったら、脱水症状に陥って衰弱してしまうかもしれないもんね。
お水が飲めるくらいの元気はあるってことだから、そこはよかったと思う。
それでもごはんをちゃんと食べれるに越したことはないんだけど。
「まりょくちゅうどく、つらいですか?」
「辛いよ。意図せぬ状態で、体内に一気に大量の魔力が流れ込んでくるのだからね。それが体内でぐるぐる暴れ回っているから手に負えない。時間と共におとなしくなってくれるのを待つしかないんだよ」
「ほぇ~……」
……ということは、お父さまの体内は魔力が飽和状態になっているってことなのか。
つまりは、魔力過多。
抱えられる限界のものを抱え込んでる感じ?
そういえば、さっき私も似たような状態になりかけたな。
私の場合は身体が魔力の受け入れを拒絶して、外で魔力が暴走する可能性があったところを兄さまが助けてくれたけど。
お父さまの場合は、私とは違って、限界以上の魔力を体内に入れた状態になっていて、それが体内で暴走を引き起こしているってことになる。
一歩間違えば、私も似たような状態になっていたかもしれない。
そして、大人のお父さまがこんなにも辛そうにしているほどの症状だ。
間違いなく、この幼い小さな身体に耐えられるはずがない。
それだけ、魔力の影響は恐ろしいんだ。
そう思った瞬間、身体の奥からゾワっとした怖気が湧き上がった。
同時に、お父さまのシャツの肩口を無意識にギュッと握り締めていた。
「まりょく、こわい……」
思わずといった体でポロッと零れた言葉は間違いなく本音。
ただすごくて便利なだけじゃない。
その反面、恐ろしい一面だって秘めている。
それを自分の目でも確かめたはずじゃないか。
自分の体内に有る無しに関わらず、暴れ出したらとても恐ろしいもの。
改めてそう認識させられた気がする。
「使いかたを誤ることがなければ怖いものでもないんだよ?」
震えた私にお父さまはそう言う。
けれど。
既に私は、誤った使いかたというものを知ってしまった。
それをお父さまに告げることは、今はまだできないけれど。
────それだけ兄さまの魔力は、とても攻撃的で怖かったんだ……
思い出すと同時に、また、あのビリビリと肌を刺すような感覚が蘇った気がした。
それだけじゃない。
あの灼けつくような息苦しさまでもが再現されている気がする。
「!!?」
違う、そうじゃない!
今まさに、そんな感覚が襲ってきているんだ。
そう思ったのと同時に、反射的にバッと背後を振り返っていた。
軽く目を見開き、瞳孔が開いたその状態で来た方向を睨みつけるようにじっと見遣る。
────まさか……また兄さまの魔力が……?
────でも、なんで?
────こんな風になる理由がどこにあるっていうの……?
ばくばくと強く脈打つ鼓動と連動するように呼吸が乱れる。
息苦しいと感じるのはやっぱり気のせいなんかじゃない。
思わずギュッと胸元を掴んだその時、優しくポンと頭を撫でられた。
ハッと顔を上げると、目の前には優しく微笑むお父さま。
「部屋に入ろうか」
「おとうさま……」
私の異変(特に瞳孔開いたとことか)に気付いていないはずはないのに、それらには一切触れることなく、お父さまは部屋に入ろうと促してくれている。
今私が痛いほどに感じているこの魔力の存在だって、気付いていないとは思えない。
────なんで、お父さま……?
本当に気付いていないのか。
それとも、気付いていて、敢えて何でもないとばかりにいつも通りでいるのか。
私には全く分からない。
微笑んだその表情からは何一つ読み取ることができないのだ。
当然のことながら、私から魔力がどうとか言えるはずもない。
「そうしよう。ね、レーン?」
やっぱり微笑んだままそう言われて、私は言われるがままに頷くしかなかった。
「長い時間の立ち話は、今の父さまの身体には堪えるからね」
そんなことを言って、お父さまは私を抱っこしたまま足早に部屋へと入っていった。
本当に、するりと流れるように。
それがあまりにもスムーズすぎたためか、私は一切気付くことができなかった。
部屋の扉が閉められたのとほぼ同じタイミングで、刺すように痛いあの魔力が、一瞬にして掻き消されたというその事実に……─────




