叱られる覚悟で、隠しごとを告白します!
~叱られる覚悟で、隠しごとを告白します!~
今の私の心境を一言で表すとしたら『魂抜けそう』が一番しっくりくる気がする。
お母さま、ヴェーダ、メリダという三強からのお説教フルコースを頂戴するんだよ?
絶っっっ対に終わった後は真っ白になること間違いなしだ。
でも、後悔はしてないよ!
たとえ何時間もお説教を食らったとしても、フローレンのために頑張ったんだと思えば全然平気だ!
……たぶん。
騒ぎが起きて、収まって、またざわめいて……というのを何度繰り返したかは分からないけど、ここにお母さまがやってきたことで、また場が騒然となりかけている。
厨房以外は全て機能していないというお母さまの言葉を聞いたことで、食堂で給仕を担当する者たちは慌ててお母さまに頭を下げてからそれぞれの持ち場へと急ぎ戻っていった。
その様子を見送ってから、お母さまはこちら側へと向き直る。
最初は私や、私を抱っこした状態のロイアス兄さまを見ているのかと思ったけど、それは違った。
「何をしているの、レミア。あなたも給仕の担当でしょう? 他の皆さんはもう食堂に向かったわ。あなたも早くお行きなさいな」
「え……? だって私は、ロイアス様の専属の……」
「違うでしょう? そもそもあなたはロイアスの専属などではないわ。仮の期間を定め、その間の仕事ぶりや適正を確かめてから、改めて専属にするかしないかの決定を下すという話だったでしょう? その話も既に、諸々の報告を受けた上で責任者と協議をし、不適正だという結果を以て、ロイアスの専属には付けないということで決定しています。あなたの担うべき仕事の一部が給仕へと変更になったということがその何よりの証拠。昨日の朝の時点で、ヴェーダを通してそう通達していたはずだけれど、一体何を聞いていたの?」
穏やかなのんびり口調という、いつものトーンで話しているように聞こえるお母さまの言葉。
だけど、どこか抑揚が乏しい感じがするのはどうしてなんだろうか。
そう思ってお母さまの顔を見た瞬間、気付いた。
────お母さま、笑ってない……
いや、口元はちゃんと笑みの形を象ってる。
だけど……目が全く笑っていない。
そのせいで、穏やかでありながら全体的に冷ややかな感じがするんだ。
兄さまの時も背筋から震え上がるような寒気がしたけど、お母さまはまた別の意味での寒気がする。
これは……何だろう?
じわじわと冷たい空気に侵食されていくような気分だ。
一気に凍りついてしまいそうな兄さまの怒りの感情とは違う。
お母さまのは、知らず知らずのうちに感覚を麻痺させられて、徐々に身体の動きを奪われていくような、そんな冷たさを感じるような気がする。
────間違いない
────お母さまも怒っているんだ……
表情も口調も穏やかだから、一見怒っているようには見えない。
だからこその怖さがある。
「三度めは言いませんよ。早くお行きなさい。そして速やかに与えられた仕事に戻るように。わたくしからは以上です」
有無を言わさぬ『圧』のようなものを纏いながら言い放たれたお母さまの言葉には当然ながら逆らえないだろう。
それでも何か言いたげな悔しそうな表情で、レミアは渋々といった体でお母さまの命令に従い、食堂へと向かった。
去り際にキツく私を睨みつけることを忘れないあたり、相変わらずだなと思ったのはここだけの話。
それにしても。
雇い主を前にして頭を下げることもせずに場を辞するとか有り得ないな。
確か兄さまが、アイツのこと『カナッツ子爵家からの行儀見習いで入った』とか言ってたけど、行儀見習いに来るってことは曲がりなりにも貴族令嬢なわけだよね?
公爵家で何を学んだか、というのはこの際置いておくとして『コイツは普通に子爵家で何をしてたんだ?』っていう話。
明らかに家格が上の者に対する礼儀というものがなっていないというのは誰の目から見ても明らかだ。
貴族の令嬢としての義務というか……ちゃんとした淑女教育を受けていないのだろうかと疑うレベルの振る舞いだと思う。
それに……十六、十七くらいの歳なら、貴族の令嬢は学園に通ってるはずなんだけどな。
乙女ゲーム『恋メモ』の学園システムでは確かそうなっていたと思う。
参考までに、とゲーム内で簡単にサラッと触れられていた学園の制度では、入学に際して学力試験を一としたいくつかの適性試験があるとかいう内容だったから、何らかの試験に引っかかって落とされた可能性が大なのかもしれない。
まぁ私が見た限りでは、学力バツ、礼儀バツ、対人コミュニケーションもバツ、ってな感じかな。
こんな生徒いたら間違いなく学園側では頭を抱えるだろうね。
主に後ろ二つな?
あ~……でも、コイツの場合は学園側からオコトワリされたっていう線も濃厚かも。
貴族相手とは言っても、子爵家の家格は中流より下になるし、学園側が強く出ても特に痛手はないってところだろうか。
……まあいいや。
ゲーム全般に関しては、夜に一人になってから存分に考えることにする。
秘密メモ用の日記帳もまだ調達できてない状態だし、ヘタに今ある物に書き散らすわけにはいかないからな。
そんな風に一人いろいろと考えている間、お母さまはテキパキと残った使用人たちに対しての指示出しを行っていた。
例の騒ぎで仕事をしなかった間、厨房を除く邸全体が機能しなくなってしまった影響で、この後の生活の時間に大幅なズレが生じてしまったせいだ。
この時のお母さまはいつものニコニコ笑顔だったけど、その笑顔で『いらない時間外勤務になってしまったわね~。うふふ』なんて言うんだよ?
遠回しな一種のお叱りだって皆分かってるから、出るわ出るわ、謝罪の数々。
特に家令のカイエンと侍女長のヴェーダはそれが顕著だったわ。
使用人たちの最高責任者だからね。
それも致し方なし……ってところかな。
邸全体の機能が停止してたんじゃ、その後の影響も大きく残るわけだしさ。
私が分かっているだけで、たぶん2時間は邸の機能は停止してたはずだ。
後に魔法事故らしいと知ることになった、大きく邸が揺れたあの時からだと仮定したら2時間どころの話ではなくなってくる。
使用人の皆が、普段何時までお仕事してるのかまでは分からないけど、そこに穴埋め分としての時間がプラスされるとなると、本日の終業時間は日付が変わった頃になってもおかしくないよね。
────ご愁傷さまだ……
そう思って、ふ~っと溜息をついたのとほぼ同時だった。
お母さまがこんな一言を零したのは。
「……それにしても、ここまで収拾がつかなくなるなんて一体どういうことかしらね? 『わたくしは旦那さまに付きっきりになるけれど、皆さんは普段と変わらず務めを果たしてくださいね?』と言い置いていたはずなのに」
────なんですと!?
お母さまからの指示、ちゃんと出てたんじゃん!
にもかかわらず、あの大騒ぎになってたっていうの!?
思わず『バッ!』と顔を上げて、この場に残っている使用人たち一人一人を窺う。
その誰もが一様に気まずそうな顔を見せている。
「へぇ……」
反射的に出たその言葉は、私じゃなくて兄さまのものだった。
「指示系統が上手くいっていなかったわけではなかったんだ?」
「……ふつうにしごとしてて、っていわれたのにみんなでおおさわぎしてたの?」
今や、私も兄さまも、呆れを込めたシラ~っとした視線で使用人たちを見ていた。
『申し訳ございません!!』
その場の全員の言葉が重なり、皆が同じタイミングで勢いよく頭を下げたのが分かった。
そりゃそうだろう。
お母さまからの指示がきちんと出ていたにもかかわらず、それがきちんと機能することのないまま、雇い主の子息子女により叱責されての今に至るのだから。
「うぅ~……」
「レーン?」
「……おなか、すいてたのに~! ごはん、はやくたべたかったのに~!」
私の今の心境は『腹ヘリ幼女に無茶なことさせやがって……!』だ。
ホントに、ホントにお腹すいて限界だったんだ!
今やお腹の虫は遠慮することなく『キュルキュル』鳴き続けている。
ついでに空腹が限界通り越したせいで再び涙目だ。
「……ああ、そうだったね。あれからどのくらいの時間が経ったんだっけ?」
既に限界を訴えた身体は、そのまま『きゅぅ~……』と、兄さまに力なく凭れかかってますなう。
そんな私を宥めるように頭を撫でてくれている兄さまは、今絶対に苦笑を浮かべているに違いない。
「そうね。レーンは昨日の晩餐以来、まともな食事をしていなかったものね」
そう言って近づいてきたお母さまもまた、苦笑混じりで私の空腹事情に深く同意してくれた。
────うぅ~……お母さまも兄さまもありがとう……
────この空腹の辛さを分かってもらえて私はとっても嬉しいですッ!
そうなんだよ。
それだけ幼女の身体にとって空腹は辛いことなんだよ。
空腹の辛さプラス二人の優しさに、気付けばガチ泣きに入ってました私。
本っっ当に涙腺コントロールがままなりません!
声こそ出していないものの、ぐすぐすと鼻を鳴らしながら泣く私を見たお母さまが、例の如くのんびりおっとりした口調で『あらあら……』と言いながら苦笑したのが分かります。
「さすがにこれ以上待つのはレーンには辛いわねぇ」
その言葉とともに優しく頭を撫でられたことで、私は反射的にお母さまを見上げました。
「はい、レーン。あ~ん」
「? あ~ん?」
言われるままに口を開いたのと同時に口の中へと押し込まれたのは、丸くて甘くて固いもの。
それが優しい甘さのはちみつのキャンディだと分かった瞬間、途端に涙は引っ込んで、代わりにふにゃんとした緩みきった笑みが浮かんだのが自分でもよく分かった。
甘いお菓子をもらった瞬間にこれだよ!
ホント単純だな、私!
「あま~い! おいし~!」
「うふふ。ノーヴァ公爵様から頂いた、はちみつ入りのハーブキャンディよ」
「ノーヴァこうしゃくさまから、ですか?」
「ええ。突然の訪問で迷惑をかけたお詫びに、子どもたちにと頂いたのよ」
「ほわぁ~……うれしいです! とってもおいしい~」
「うふふ。あとでノーヴァ公爵様にキャンディのお礼のお手紙を書きましょうね?」
「はい、かきます!」
「それと、お食事まではもう少し時間がかかりそうだから、今はこれで我慢してちょうだいね、レーン?」
「はい!」
「ちゃんとお返事できて偉いわ。いい子ね、レーン」
そして更に頭ナデナデ。
どろっどろに甘やかされてる。
だから私も遠慮なく甘えるよ!
子どもの特権だもんね!
「それはそうとレーン。その前髪はどうしたの?」
「!」
「サロンでお茶をしていた時は両サイドに分けていたはずよね? いつの間に短くしたの?」
今まで誰も突っ込まなかったけど、気付いていないはずはないよね、やっぱり。
使用人という立場上、指摘せずに今まで黙っていたというだけの話だ。
けれどお母さまはそうはいかない。
親だから、子どものちょっとした変化を見逃すわけがないのだ。
「え、っと……」
チラリとロイアス兄さまを見上げる。
ここで全部暴露していいものかどうかの確認の意を込めてのアイコンタクトだ。
できればこうなるに至った経緯はお父さまとお母さま、二人揃った状態で話をしたいというのが私の考えだ。
そしてそれは兄さまも同じだったらしく、若干困ったような表情で苦笑を返されてしまった。
まだ暴露すべきじゃないってことですね!
おっけーです!
「えっと、ですね……いろいろあって? ん……? いろいろやって……かなぁ?」
「うん、どっちもだね」
「そう! いろいろあったんです! それで、いろいろやって……まえがみきってもらいました」
うん、支離滅裂!
めっちゃ意味不明!
自分でも『何言ってんだ?』状態になったよ。
内容はしょりすぎだって?
だってしょうがないじゃん、お父さまも一緒の時に全部話すことに決めたんだから、ここではこれくらいしか言えないもん。
使用人の皆だってまだこの場に何人か残ってるんだし、さすがに『魔法であれこれやった』とか言えないよ。
「その『色々』という部分がとても気になるのだけれど、それは教えてくれないの?」
「……おとうさまもいっしょでないとおはなしできません」
「あら、どうして?」
「……とっても、だいじなことだから。だから、おとうさまとおかあさま、ふたりいっしょじゃなきゃダメです。……ちゃんとおはなしして、しかられるってきめたし……」
「叱られるようなことをロイアスと二人でしたのね?」
一瞬で笑顔が消えたお母さまを見たことで、無意識のうちに背筋がピンと伸びていた。
そんなお母さまへの反応を見せたのは兄さまも同じだったようで、私を抱えている腕に僅かに力が込められたのが分かった。
「……はい」
「その通りです、母上。僕とレーン、二人でやりました。度合いは明らかに僕の方が上ですが」
「ちがうの、おかあさま! わたしがにいさまにむりをいっておねがいしたの。だからにいさまはわるくないの!」
「いいんだ、レーン」
「でもにいさま!」
元はと言えば、魔法のことは私が言い出したことだ。
最初は秘密メモを守るためだけに封印魔術を教えてもらったはずだった。
そこから持ち前の好奇心から応用だなんだと手を伸ばし、最終的にはある種危険の域に達する属性魔法に触れることになってしまった。
成り行きで~……というには無理がありすぎる。
このままだと、年上だからという理由だけで兄さまが悪いことにされてしまう。
それだけはダメだ。
『お兄ちゃんだからあなたが悪い』なんていうのはあまりにも理不尽すぎる。
「やりたいっていったわたしがぜんぶわるいの!」
「それなら、止めなかった僕だって同じくらい悪いよね?」
「にいさまはわるくない!」
「レーンだって悪くないよ?」
互いが互いに『悪くない』と言い募るものだから埒が明かない。
そんな私たちを見ながら、お母さまがクスクスと笑い出した。
「ふふっ。お互いに庇い合うなんて、本当にあなたたちは仲良しさんね」
そう言われて、私と兄さまはほぼ同時にお母さまの顔を見上げた。
そしてこれまた同じタイミングで互いの顔を見合わせる。
「だって……」
「本当にレーンは悪くないから……」
ここでもやっぱり出てくるのは『悪いのは自分の方だ』という互いを庇い合う言葉だ。
「はいはい。二人の言う『色々』が分からない以上は、わたくしからはどちらが悪いとは言えないけれど。とりあえずこの場は『二人とも悪い』ということで預かるわよ? 実際にどちらがどうなのかはロンベルトと一緒に話を聞いてから判断することにするわ」
パンパンと軽く手を叩かれながらの言葉に私も兄さまも口を噤んだ。
確かにここで『自分が悪い論争』を繰り広げていたところで何の意味もないのだ。
どちらも譲るつもりがない以上、どんなに言葉を重ねてもそれは平行線のままなのだから。
あ、そうそう。
ここでお母さまの口から出た『ロンベルト』というのはお父さまの名前です。
普段は使用人たちの手前、お父さまのことを『旦那さま』と呼ぶことが多いお母さまだけど、家族の間ではこうして名前で呼ぶこともあるのです。
でもどちらかというと、私たち子どもの前では『お父さま』と呼ぶことの方が多いかな?
だからお母さまの口からお父さまの名前が聞けるのは、実は結構珍しいことだったりします。
ちなみにお母さまの名前は『フレイヤ』と言います。
見た目もそうだけど、名前も相まって、お母さまはまるで女神さまみたいだなっていつも思っているのは内緒の話。
「……それにしても。黙っていれば分からないでしょうに、わざわざ話して自ら叱られにいこうだなんて。あなたたちは真面目なのかバカ正直なのか……一体どちらなのかしらね」
うん、バカ正直なんだと思うよ!
だって黙っていたら、いつかきっとボロ出すし。
そうなったらややこしいだけだから、最初っからぶっちゃけて怒られちゃえって単純に思っただけ。
「まさか子どもの口から『叱られる』という言葉を聞く羽目になるなんてね……」
『ふう……』と苦笑混じりの溜息をついたお母さまを見て、兄さまが『ぐっ』と言葉を詰まらせたのが分かりました。
ほんの一瞬でしたが、身体が硬直したのが伝わったからです。
普通に隣に立っているだけでは気付かないであろう些細な変化も、こうして抱っこされてる今の状態では顕著に伝わってくるんですよね。
「最初は……」
「ん?」
「最初こそは、黙っていることも考えました」
「そうなの?」
「……はい」
「そのまま黙っていれば何も気付かれなかったはずなのに?」
言外に『どうして?』という疑問を滲ませたお母さまの言葉に、再び兄さま言葉に詰まったようでした。
けれど意を決したように深く呼吸をし、それから真っ直ぐにお母さまを見つめました。
「……ずっと隠していても、自分が苦しいだけですから」
「ロイアス?」
「隠し事も嘘と同じです。誰にも気付かれないように黙っていようとすると、これから先もその隠し事を隠し続けていくために偽りを重ねることになります。それは、人だけではなく自分自身も偽ることになる……」
そう。
隠し事を隠すための偽りがそこから生まれてしまうんだ。
それはまるで、嘘を嘘で塗り重ねていくのと同じように、次から次へと生まれていっては真実から遠ざかる。
同時に……そうすることで新たに生まれてくるものもある。
それは『罪悪感』という名の苦しみだ。
偽りを重ねれば重ねるほどそれは大きくなって、自分自身の心を蝕んでいく。
一度隠してしまった以上、他の誰にもそれを告げられる勇気が持てず、その苦しみを自分一人で抱え込んで生きていかなければならなくなる。
そんな苦しみ、子どもの小さな身体でずっと抱え続けられるものじゃない。
だから私たちは選んだ。
たとえきつく叱られたとしても、正直に『あったこと、したこと』を両親に告げようと。
「わるいことをないしょにするのはいたいです、おかあさま」
「レーン?」
「……ここが。ギュッていたくなります」
そう言って押さえたのは左胸、ちょうど心臓のある部分だ。
「やったことに対しての後悔はしていません。ただ……大人の目から見たそれが、正しいことだったのかどうかは僕たちには分からない。だからこそ、黙ったままでいるのは危険だと思いました。話を聞いた上で判断して、それが間違いだったのであればそれを正してほしいというのが正直な気持ちです。逆に、今回のことがあったからこそ、今まで話せずにいたことを告げるいい機会になったとも思えました。いえ、そう気付かされたというべきか……。どちらにしても、自分だけで抱え込むには限界だと悟ったんです。それに……」
ここで兄さまが私の顔を覗き込むように見つめてきた。
近づいてきた額が、軽くコツンと私の額へと触れる。
「レーンの前髪を切ってしまった以上、隠し通せることではないというのは明確ですしね」
「まえがみのことをごまかすのにうそをつくのはいやだったんです」
ここで私も兄さまの援護に回る。
ここぞとばかりに『兄さまは悪くないよ』『全ての原因は私にあるんだよ』ということを強くアピールする。
だってホントのことだし。
前髪なんて、自分が出した魔法の白炎でぼそっと燃え落としたんだよ?
どう見ても悪いのは私のうっかり具合じゃんね?
「レーンの前髪を切ったのはロイアス?」
「あ……はい……」
「ふふっ。前から思っていたことだけれど、本当に器用ね、あなたは」
「? はあ……ありがとうございます……?」
「レーンも。前髪を下ろしているのも似合っているわね」
「こっちのほうがすきです!」
「まあ、そうだったの? でもレーンはどんな髪型でも可愛らしくて魅力的よ?」
「ありがとうございます、おかあさま!」
────どんなに似合っても、あのドリルみたいな縦巻きロールはお断りだけどな!
この場でも軽く叱られると思ったけど、それは違ったようだ。
切った前髪のことを、切ってくれた兄さまの腕ごと褒められてそこで終わった。
「さっきも言ったように、話は一度預かるわ。叱るかどうかは話の内容次第でお父さまと決めさせてもらうということでいいわね、二人とも?」
「はい。覚悟はできています」
「わたしもです!」
ビシッと背筋を伸ばした兄さまにつられ、私もシャンと姿勢を正してお母さまを見上げた。
そして返事はしっかりと。
これはとっても大事な事だから。
「詳しくは食事が終わった後ね。サロンでお茶をいただきながらゆっくりと家族水入らずでお話しましょうか」
そう言ったお母さまの表情は、いつの間にか普段通りのおっとり穏やかな笑顔に戻っていた。
「お父さまは食事ができる状態ではないから、ご一緒できるのはお茶の時間だけになってしまうけれど。魔力中毒の症状が完全に抜け切れていない状態では食事を摂るのは難しいものね……」
「え……?」
────な……なんですと!?
お父さまの状態、そんなに酷いの!?
ごはんが食べられないくらいってよっぽどじゃない!?
そんな状態でこの『ややこしい』話を聞かせてしまっても大丈夫なんだろうか。
しかもタイムリーに魔法の話だよ?
────なんか……
────いろんな意味でタイミングが悪いというか、ツイてないというか……
物事って総じてうまくはいかないものなんだなと強く感じた瞬間でした、まる。
お父さまの具合も心配だし。
私は私で数人体制でのお説教が確定してるし。
ごはんももうしばらくはお預け。
────何この精神的三重苦……
……ま、負けない!
ここまで頑張ったんだ。
今日一日、最後まで私は頑張るよ!
とりあえず、お父さまが心配だから、ちょっとだけでも様子を見に行きたい。
────今『お父さまに会いたい』って言ったら、お部屋に会いに行くことを許してもらえるかなぁ……?
そんなことを考えながら、私はそっとお母さまの様子を窺ったのだった……─────




