『偉そう』なんじゃない。実際ワタクシ『偉い』んですけど?
※陰険な描写あり
もしかしたら私は、とんでもない思い違いをしていたのかもしれない。
子ども時代の悪役令嬢は『甘やかされて我儘放題で性格が悪い』だなんて一体誰が決めたことなの?
現実は全然違っているじゃないか。
少なくとも、悪役令嬢の子ども時代である今は、決してそうじゃないのだと。
断じて違うと言いきれる。
今のフローレンに、悪役令嬢となるような素地はない。
どこにでもいる、普通の小さな女の子だ。
……先入観って、厄介だな。
私もその先入観に縛られていた一人だ。
悪役令嬢は、小さな頃から悪役令嬢となる『素質』みたいなものを持っているのだと。
そう、思い込んでた。
だから。
特に深く考えることもなく、矯正だとか、躾直しだとか、そういったことを安易に思いついてそれを実行しようとしてたんだ。
全く以て『ふざけんな!』って話だよね。
その先入観こそが、尤も危険な『悪役令嬢となるような素地』になっていたかもしれないというのに。
『悪役令嬢なんて、最初からいない』
『彼女を悪役令嬢にしたのは、周りの人たち』
そう言っていたあの子の言葉が、今なら痛いほどによく分かる。
ううん、違う。
今だからこそ、痛いほどによく分かったんだ……─────
~『偉そう』なんじゃない。実際ワタクシ『偉い』んですけど?~
「おまえにしつけられるいわれはない」
睨みつけたレミアに対し、私は冷たくそう言い放った。
もう容赦はしない。
私の大事な、幼いフローレンを傷つけた代償はきっちりと払ってもらう。
やると決めたからには、私はやる。
決して生半可な気持ちでそれを決めたわけではないんだ。
「わたしのしつけは、わたしのかぞくとわたしのきょういくがかりがおこなうことだ。おまえごときのでるまくではない」
そもそもオマエのやっていることは躾という大義名分を掲げた幼児虐待だ。
「そしておまえは、じぶんのいいぶんがすべてただしく、わたしのいいぶんはすべてまちがいだといったな。そのしゅちょう、いまもかわらないか?」
冷たく、そして淡々と告げる言葉は、その……なんだ。
決して褒められた言葉遣いじゃないというやつだ。
まぁ女の子が遣うような言葉じゃないわけですよ。
もっと言うなら、ちょっと偉そうにしている男の子の口調に近い感じなわけです。
メリダが聞いていたら間違いなくお説教コースです、ありがとうございます!
そうそう。
ついでに言っておくと、メリダは私の専属侍女であり、私の教育係も兼ねてます。
メリダからのお説教コースがうんたらかんたら……というのは、つまりはそういうことだからです。
だから、私が何か間違ったことをしたり、言うことを聞かなかったりした場合に、それを叱ったり咎めたりできる立場にあるのはメリダということになる。
もちろん私に躾をできる立場にあるのもメリダだ。
決してこの不届き者であるメイドのレミアなどではない。
……とはいえ、メリダは今この場にはいないようだから、実はちょっと助かったとか思ってるのはここだけの話。
……それと。
エルナの姿もないみたい……なんだよね、不思議なことに。
まあ、だからといって、専属侍女の二人がこの場にいないからと安心するのはまだ早いのですよ。
なんとここには侍女長のヴェーダがいますからね。
当然彼女からもお説教や躾はちょうだいするわけですから?
メリダからのお説教コースは免れても、ヴェーダからのお説教コースは確定なわけですよ、とほほ……
まあムダな足掻きだろうなと思いつつ、チラリとヴェーダの表情を窺うと……
────わ~ん!
────めっちゃ渋面だよ~……!
眉間にくっそシワ寄せてる!
終わったらソッコーで『ゴメンなさい』しなきゃだ!
でも今はまだ見逃して?
言葉遣いはミソクソで酷いかもしんないけど、幼女の舌っ足らずな言い回しじゃそんなに迫力はないはずだから!
寧ろ幾分かマイルドな女の子口調じゃ、どんなにキツイことを言っても怖くないだろうから!
それじゃダメなんだってことを分かって!
だって私は、今からこの不届きなメイドに、これ以上にないほどの恐怖を与えるつもりでいるから。
そのためにも、お嬢様らしいはおろか、女の子らしからぬ、ちょっとばかり乱暴さを混じえた男の子のような口調でレミアをねじ伏せなければならないのだ。
……だから、ヴェーダの険しい顔は、今は見て見ぬふりをするに限る!
わざとじゃないよ?
ホントだよ??
「……へんじがないな。おまえのいいぶんはすべてただしく、わたしのいいぶんはすべてがまちがい。それがおまえのしゅちょうかときいている」
少し離れた場所にいるヴェーダの視線がチクチク刺さる気がするけど、それは無理やり気のせいだと思うことにした。
今は周りを気にしている余裕はない。
全力で目の前のこの不届き者を叩き潰さなければいけないからだ。
「私は間違ってませんよ? お嬢様の言うことはいつだって自分勝手で我儘な主張ばかり。それのどこが正しいと? だからお嬢様の言い分は全てが間違い。正しいのはいつだって私の方です」
勝ち誇った顔で、人を見下し笑うのは相変わらずだな。
……しかし。
コイツは今、自分自身で自分の首を絞めたことに気が付かなかったのだろうか。
「……そうか。ならばげんちはとったぞ。おまえのいいぶんはすべてがただしく、わたしのいいぶんがすべてまちがいだというな?」
もう言い逃れはさせない。
私の言葉を全否定したことによる罪、オマエ一人で被ってもらおうか。
「ほかのみながみとめた、しごとをしていないりゆうはノーヴァこうしゃくさまにもこうしゃくさまのドラゴンにもないというわたしのことば。おまえはそれをまちがいだとつよくしゅちょうした。つまりは、だ。おまえだけは、じぶんがしごとをしていないりゆうをノーヴァこうしゃくさまとこうしゃくさまのドラゴンにあるといったもどうぜんだ。おのれがしごとをほうきしたのは、ノーヴァこうしゃくさまとこうしゃくさまのドラゴンのせきにんだとしゅちょうしたわけだ」
「……なっ……!?」
レミアを睨みつけたまま、口元に笑みの形を刻みながら吐き捨てるように言ってやったことで、この愚か者のメイドの顔色が分かりやすく変化した。
私の言葉を聞いたことで、ようやく自分自身が不利な状況にあったことに気が付いたようだ。
けど……
今更気付いたところで何もかもが遅いんだよ。
『言質は取った』と最初に言い置いたのはそのためだ。
「しっているか? ノーヴァこうしゃくけがあずかるきたのりょうちでは、ドラゴンがどんなふうにひとびとのあいだでたいせつにおもわれているのかを」
「……っ!」
「きたのりょうちだけは、いまもなお、せかいそうせいのじだいからかわらず、ひととドラゴンはたがいにたがいをひつようとし、おもいあい、たすけあい、きょうそんするというふかいかんけいをたもっている。いわば、きたのりょうちのものたちにとってのドラゴンはきょうどうたいであり、かぞく。それいぜんに、ドラゴンとはこのドラグニアおうこくをしゅごするとされるとうといそんざいでもある。そんなかみにもひとしいそんざいを、おまえはじぶんのめでみることなくきょうふのたいしょうだときめつけ、おとしめ、さんざんにひなんしつづけていたな。じぶんたちのかぞくもどうぜんであるドラゴンがそのようなあつかいをうけたとしって、きたのりょうちのものがだまっているとおもうか?」
「………………」
「さぞくつじょくだろうな。だいじなかぞくをおとしめられ、そのようなぶじょくをされたとなれば」
……まだだ。
まだ足りない。
この程度では、まだ済まさない。
「まったくわかっていないようだから、わたしがバカでもわかるようにわかりやすくおしえてやろう。わたしのことばをすべてまちがいだとひていして、じぶんのいいぶんをただしいとしゅちょうしたじてんでおまえのつみはかくていした。おまえがこうしゃくさまのドラゴンにたいしてはいたぼうげんのかずかず、けっしてみのがせるものではない。おまえのしゅちょうしたことばはノーヴァこうしゃくけ、ならびにノースレイヴへんきょうはくけ、りょうけにたいするさいだいきゅうのふけいだとこころえよ!!」
北の領地出身であるノーヴァ並びにノースレイヴの両家の人たちと竜は、いわば運命共同体だ。
共に在ることが当たり前であり、離れること自体が有り得ないと言っても過言ではない。
その関係性は、どちらが欠けても成り立たないものだ。
その片割れである竜を、悉く貶め、批難したのだこの不届き者は。
竜へと向けられた悪意は、そっくりそのまま、共に在る者へと向けられたも同義。
つまりは。
このメイドは、竜を貶め、批難することで、同時にこの邸に訪れていたノーヴァ公爵様をも貶め、批難したのだ。
「おまえごときのみで、とうていあがなえるものではない!」
今度は私がコイツを見下す番だ。
「それだけのじゅうざいをおまえはおかしたというわけだ。だれにもおそわらなかったのか? おのれのはつげんにはせきにんをもてと。もしそうであるなら、いろいろないみであわれだな」
人として終えている。
だが、そんなことはどうだっていい。
コイツが人として終えているのは元々分かっていたことだ。
本人が自覚しているかいないかで言えば当然後者だろう。
それに気付けただけでも大きな進歩になるんだろうけど、そもそも気付く頭があるかどうかも微妙だな、コイツに限って言うのであれば。
「ほかにもいいたいことはやまのようにあるが、おまえが『いってりかいするようなあたま』をもたないことはこれまでのげんどうでじゅうぶんすぎるくらいにみせてもらっているからな。いうだけムダだ」
そこまで言って、私は溜息をつきつつ、侍女長ヴェーダの方へと視線を向けた。
ヴェーダもまた私の方を見ていたようで、視線を向けたと同時にバッチリ目が合う形となった。
「ヴェーダ」
「はい、フローレンお嬢様」
「このいっけん、あずけても?」
「もちろんでございます」
叱責はできても、使用人の雇用に関してのあれこれは私の知るところではない。
よって、与える罰やその後の処遇諸々は侍女長のヴェーダや家令のカイエンといった使用人の責任者や、この家の女主人であるお母さまが決めることなのだ。
「ほんらいであれば、ちょくせつわたしがおのれのてでおまえにばつをあたえたいところだが、それはわたしのりょうぶんではない。のちにさたをいいわたされるだろう。それまで、せいぜいそのごのみのふりかたでもかんがえておくんだな」
暗にクビを匂わせてやった。
まぁ実際に貴族の邸に仕える身の分際で、雇い主の娘に対して虐待を行っていたという事実だけでも十分すぎるほどの重罪だ。
そこへ更に、他家の領主に対する侮辱や批難といった不敬が加わるのだ。
生半可な罰で済まされるはずがない。
「たかが子どもが偉そうに……ッ!」
ギリッと歯を強く噛み合わせたような音とともに吐き出された言葉には、やはり私に対する憎悪の感情が満ちていた。
最初の頃と比べると顔色は悪いものの、それでも私への敵意や悪意は隠すことはしないらしい。
「あんたにそこまでの権限はないのなら、それは子どもの戯言で済まされて終わりよ! 子どもごときに人一人の人生など決められるものですかッ!」
……あ~、うん。
分かってたことだけど、やっぱ頭悪すぎるわ、コイツ。
この一件はヴェーダに預けるって私言ったじゃんね?
そこ聞いてなかったんかな?
何がなんでもコイツは私一人が標的で、やり合うのも私とだけで、そこに他の誰かが当然のように介入してくることを考えもしなかったんだろうか。
そして一つ訂正させてもらおうか。
『偉そう』じゃない。
『偉い』んだ、私は。
家格で言えば、公爵家は貴族階級で王家に次ぐ権力を有する。
その四大公爵家の一つ、オンディール公爵家の娘というだけで、私自身もそれなりの力を持っている。
その権力自体はご先祖さまが代々築いていったもので、今も尚、それを受け継いだお父さまが確固たるものにしていっている最中にある。
だから、それは家そのものの権力であり、間違っても私個人の権力ではないということだ。
だがそれは、あくまでも家の外での話。
逆に家の中で言えば、私は当主の娘なわけだから、必然的に家族以外の者に対して使える権力を持っていることになる。
だから『偉そう』ではなく『偉い』のだ、私は。
もちろん、私以上にロイアス兄さまの方が偉いし、ぶっちゃけて言うなら、私はオンディール公爵家では一番の下っ端なわけだけども?
それでもコイツにあれこれ言われたり、どうこうされたりするような、綿毛みたいにすかすかの軽~い存在では決してないのだよ!!
「わたしはオンディールのとうしゅのむすめだ。しようにんこようにかんするけんげんはなくとも、ものもうすことはけっしてふかのうではない」
「物申したところで所詮は子どもの戯言。まともに取り合うとは到底思えないわね」
……コイツは忘れていないだろうか。
今この場に、使用人の最高責任者の立場にある家令のカイエンと侍女長のヴェーダがいることを。
そして彼らの口から、使用人たちの仕事に関する報告が全てお母さまにされることを。
今まさに目の前で起こっているこの状況さえもがお母さまへの報告対象となるというのに。
百歩譲って、私の言ったこと全てが子どもの戯言だとしようか。
大人はまともに取り合うはずがないとコイツは言うが、私とコイツの遣り取りを一部始終、それもカイエンやヴェーダの口から報告されて、お母さまがそれを取り合わないとでも本気で思っているのだろうか。
────つくづくバカにされたもんだ……
私だけに飽き足らず、その攻撃先をお母さまにまで向けるとは。
「だって、ぜ~んぶお嬢様の我儘ですものね!」
『あっはははっ!』と声を上げて笑い出したレミアを目にして、さすがに周りも黙ったままではいられないとばかりに、レミアを取り押さえるべく動き出した。
……が。
「だまれ! きさま、どこまでわがオンディールをぐろうするつもりだッ!!」
「!?」
「お嬢様っ!?」
使用人の皆さんが動くよりも、私の一喝の方が早かったわけです。
ゴメンね?
黙らせる対象は一人だけのつもりだったんだけど、他の皆も驚かせる羽目になっちゃったね。
まぁ……呼び方が『お前』から『貴様』に変わったことも驚かせた理由の一つだろう。
それと言葉遣い。
これもまた然り。
ちなみに『貴様』も『お前』も、元は高貴な身の上の相手に対して使われていた呼び方なんだけど、いつの間にやら相手を見下す呼び方に変わっていったらしいね。
これ、日本語の不思議なところ。
だけど今はそんなことはどうでもいいや。
だってここ、ドラグニア王国であって、日本ではないですし?
それに、私が声を張り上げて『貴様!』と言ったことで周りはだいぶ驚いたようだから、それだけ迫力があったということだ。
幼女の舌っ足らずな言い回しでこうだよ?
それだけ『貴様!』の威力は強かったわけだ。
『お前!』と言うよりも『貴様!』と言った方が断然迫力があるという証拠にもなったね!
これ、覚えとこ。
今後使う機会はないかもしれないけど。
……さて。
そんな私の一喝により、ざわめき始めた場が収まったわけなのですが。
まぁ、これで終わりになるはずがないよね~っていう話。
「……仕え先の当主の娘に対する数々の狼藉、他家の当主を貶める発言の数々。更には当家の女主人でもある母上に対する侮辱が加わる……か。ここまで来るといっそ清々しいほどだな。呆れを通り越して逆に笑えてくるぞ。どこまでも見下げ果てたヤツだとな」
────おぉう、兄さま~……
────背後がめっちゃ寒いです、凍りつきそうです……ッ!
はい、ここでラスボス降臨しちゃいました!
私、全く気付いてなかったけど、きっとあの凍てつくような眼差しでこの不届き者を見据えているんだろうなと思うだけで、体感温度がみるみる下がっていく!
超寒いですッ!
「貴様は確かカナッツ子爵家から行儀見習いとして我がオンディール公爵家に入ったはずだが。これまでの間に一体何を学んだ? 年端のいかない幼子に狼藉を働くことか?」
ロイアス兄さま激おこです。
明らかに、私がされたことに対して大激怒でいらっしゃいます。
私みたいに感情のままに声を張り上げることはせず、ただただ冷たく淡々と言い連ねていくこの様子がホントに恐ろしい。
怒りのゲージが見えたとしたら、ほぼMAXに近い位置までメーターが迫っているんじゃなかろうかというレベル。
「ロ、ロイアス様……」
兄さまに睨まれたことで明らかにレミアは狼狽えだした。
顔色の悪さも先ほどの比ではなくなっている。
やっぱコイツ、兄さまに対してそういう感情抱いてんだろうか。
もしそうだとしたら嫌すぎる。
何がなんでも兄さまから遠ざけなきゃ、兄さまの身が危険だ!
「貴様如きの身一つで全ての罪が贖えると思うなよ? カナッツ子爵家の一族全てにその代償を払わせたところで到底届くレベルではない。カナッツ子爵には同情を禁じ得ないな。己の娘の仕出かしたことで家は取り潰し、当然爵位は返上となるだろう。領地も王家へと返還され、残るものなど皆無だ。貴様は己の所業が一族のみならず、領民たちの生活をも奪うことに繋がるという考えにすら至らなかったのか」
あ~あ。
出てくる、出てくる、正論の数々が。
ヴェーダに続いて、兄さまからもやられるだなんて、そろそろコイツの精神擦り切れるかな。
それはそれでざまぁみろだけど。
だって幼いフローレンが受けた心の傷はこんなもんじゃなかったからね。
ついでに言うと、兄さまの口にした言葉は全て、私が切ったカードの威力を更に強固なものにしてくれたという、何とも頼もしい援護射撃だったわけだ。
ありがたや、ありがたや。
「そんな……ロイアス様……私……私、は……」
兄さまに必死に取り縋ろうとするレミアを、私は半ば冷めた目で見ていた。
気付けば、一定の距離が空いていたにも関わらず、この不届き者は兄さまに縋りたい一心でどんどんその距離を詰めてきていたのだ。
「私は、何も間違ったことはしてません。全てはロイアス様のため……。そのために、邪魔ばかりしてくるお嬢様に言うことを聞かせようと……」
この後に及んで尚も『自分は悪くない』アピールとか、コイツの脳内は一体どうなってんだろうか。
脳の代わりに、ぐずぐずに溶けかけたマシュマロでも詰まってんの?
ホンット言い分が『頭おかしい人』の思考そのものって感じ。
こういうの、まともに取り合う方がバカを見るんだよね、色んな意味でさ。
更にレミアが近付き、兄さまの腕に触れようとしたその瞬間、兄さまの腕に抱かれた私の上半身がぐらりと揺らいだ。
「うあっ!?」
「ああ、ゴメンね、レーン?」
レミアから触れられそうになった瞬間、兄さまが後方へスッと身を躱した反動での揺らぎだったようだ。
────あ~、ビックリした~……
────一瞬、このメイドに引き摺り落とされそうになったのかと思ったよ……
「この……! どこまで私の邪魔をすれば……ッ!」
兄さまに躱されたことに対する八つ当たりですか。
ホント分かりやすいですね。
「僕が妹に構うことのどこが邪魔だと?」
「ちが……ロイアス様ではなく、お嬢様が……ッ! そう、お嬢様のやることなすこと全てが邪魔なんですよッ!!」
頭おかしい人の超理論展開なう。
いい加減、そろそろ鬱陶しいです。
だからオマエには、もう一度と言わず何度でも黙ってもらおうか。
「だまれ! さきほどからだれのきょかをえてはつげんしている! あにうえもわたしも、きさまのはつげんはゆるしていない! これいじょうぶざまなすがたをさらすな、みぐるしいぞ!」
ああ、舌っ足らず口調はやっぱり迫力がイマイチだ。
あと一歩というところにどうしても届かないこのもどかしさ。
そんでもって、オプション『前髪』のおかげで目ヂカラ激減中という、ちょっと哀しい現実なのですよ、とほほ……
────カムバック、私の目ヂカラ……
こういう時だからこそ、ゲームでのあのフローレンの立ち居振る舞いが欲しくて欲しくてたまらないわ。
……そこに、大人に近づいた女性と幼女という、大きな大きな壁があったとしても、だ。
そんな風に己の力の足りなさに内心ヘコみかけていた時だった。
「そうね~。そろそろ黙って、皆さんお仕事に戻りましょうか?」
……という、の~んびりとした口調での尤もな発言がこの場に割り込んできたのは。
「もう本当に困ったわ。厨房以外は全く機能していないのですもの。皆さん、そのこと気付いていらして?」
「奥様!?」
「も、ももも申し訳ございません!」
「直ちに本来のお役目に戻らせていただきますッ!」
「うふふ。お願いね?」
────ひぃぃぃぃぃ!!
────まさかの!!
────まさかの、最 終 兵 器 登場……
……っていうか、お母さまいつの間にここに来たの!?
どこからこの騒ぎのあれやこれやを聞いてた?
もっと言うなら……私のアウトな言葉遣い、全てお母さまの耳に入ってるんじゃ……?
……ヤバい。
私終了のお知らせ。
メリダとヴェーダだけでなく、更にお母さまからのお説教も確定したよ!
私一体、何時間くらいお説教に耐えたらいいの!?
とりあえず、足がすぐに逝っちゃうのは確実なんで!
正座だけは!
正座だけは、何とぞ……何とぞ勘弁してください……ッ!!
話中のフローレンのセリフ、きょうそん(共存)につきまして「きょうぞん」が正当ではないか、という誤字報告をいただきました。
こちらに関しましては、読みは「きょうそん」「きょうぞん」どちらでも可、となっており、また、本来の読みが「きょうそん」の方であったことから、あえて「きょうそん」の方で書かせていただいた次第です。
そのため、訂正はせずにこのまま「きょうそん」としておくことにしました。
もし違和感があるようでしたら脳内変換で「きょうぞん」と読んでいただければ幸いです(^^ゞ
ご指摘どうもありがとうございました。