魔法式―『無』から『水』へ
~魔法式―『無』から『水』へ~
今度こそロイアス兄さまは、属性魔法に関することを全て話してくれました。
魔法の教師から教わったという、属性魔法を行使する際の『正規手段』と言われている一つ一つの手法。
それから、魔法を発動に至らせるために必要となる法術陣のことを。
手順を一つ一つ踏んでいく度に、自身の魔力の性質を無理やり捻じ曲げ苦しめていたという事実を重く受け止めた兄さまは、この説明をする間中ずっと魔法の実演をすることはありませんでした。
今までだったら『お手本』という名目で見せてくれていたのですが、さすがに今回のことは兄さま自身も相当に堪えたようです。
私が散々脅しに脅して兄さまを追い詰めたせいでもありますが。
────思いっきり声を張り上げて黙らせたほどだしね……
喧嘩腰で兄さまを責め立て、じわじわと心理的に追い詰めるといった、傍から見てかなりやりすぎな行動を取ってしまったことはちゃんと自覚しています。
そのことに対する反省はしていますが、後悔はしていません。
寧ろこれでよかったとも思ってます。
こうすることで兄さま自身が苦しむことがなくなるのであれば、いくらでも悪役にでもなりましょうよ。
兄さまの説明に耳を傾けながらそんなことを思います。
この世に完全な悪役はいらないけれど、状況に応じて敢えて悪役を演じることは必要だよね~って。
二人して草の上に座り込み、額を突き合わせるようにして向かい合っている私たちは、傍から見ればかなり異様な姿に見えていることでしょう。
普通に考えたら、公爵家の子息令嬢が敷布もなしに、直に草の上に座り込むなんてことは有り得ないですからね。
この状態の私たちをメリダが目にしたら確実に二人揃ってお説教コースです。
それだけ有り得ないことなのです。
前世日本人、それも庶民の私の感覚ではこれは普通なんですけどね。
芝生の上をゴロゴロ~って転がるの、気持ちいいじゃないですか。
……っと。
思考が変な方向へとずれていく。
今はロイアス兄さまの話に集中しなければ。
「手順はさっき説明した通り、まず最初に魔力を発動させる。それから精度を上げるために魔力を練り上げる、これが二つめ。魔力を練り上げると、今度は魔力が解放を求めて揺らぎを見せ始めるから、そこで三つめの手順である術式の構築に取り掛かることになるんだ」
……ふむふむ。
最初にさらっと聞いた簡単な説明に詳細が加わったという感じだな。
直接やって見せない分、どんな感じになるかを言葉で付け足して説明してくれてるってわけか。
「術式というのは特殊言語による文字列や記号列を組み合わせて作られた『式』の総称なんだ。それぞれの魔法に一つずつ定められていて、同じ型の『式』は一切存在しない。大別すると『属性魔法』に使われる『式』は『魔法式』、封印魔術を一とした高度な『魔術』と呼ばれるものに使われる『式』が『法術式』と呼ばれるんだけど……」
「……けど?」
「一般的にはそのまま纏めて『術式』と呼ばれることが大半で、しかもそれで通用するものだから、あまり区別する意味がないというのが現状かな」
……なんじゃそりゃ。
魔法種ごとに大別してるならそこはちゃんと使い分けようよ!
まさか面倒くさいとかいう理由からじゃないよね?
違いを聞いたからには、私はちゃんと区別するよ!
こういう基礎的な部分はとっても大事だしね!
後々になって、応用だ、高位だ、とかいったものが出てきた時にすっごく苦労するのは目に見えてるんだからッ!
「今説明しているのは属性魔法だから、必要となる『式』は『魔法式』。属性、それから魔法の級によって描く『魔法式』の内容が変わる」
「まほうのクラス、ですか?」
「そう。威力レベルと言えば分かりやすいかな? 大まかには最下級、下級、中級、上級、最上級、特級……という感じで区別されていくんだ。術者によっては特級の更に上の威力のものを放つことができる人もいるけど、今回はそこは省略するよ」
「わかりました」
属性ごと、それから威力ごとに一つずつ『式』が割り振られているのか。
ぶっちゃけ、すっげぇ面倒くさい!
これらを覚えなきゃ魔法が使えないってことだもんね。
暗記力のないおバカさんにはかなり難問じゃないですか?
おまけに生活の中で使うような言語とは別の特殊言語ときたもんだ。
しかもその特殊言語による文字列と記号列の組み合わせとか、難易度が上がる上がる。
その特殊言語がどういうものなのか実際に見てみないことには分からないけど、想像するだけで頭が痛くなりそう。
お腹空きすぎて頭がクラクラするから尚更だ。
まぁ、今の今まで空腹のことなんかすっかり忘れてたけどさ!
「ちなみに僕の場合だけど……」
ここで兄さまが思いっきり顔を顰めた。
「火属性魔法を行使するためには、火属性の『魔法式』を描く必要がある。それも……自分の水属性に打ち消されない級の『魔法式』でなければいけない」
「それって、どのくらいのいりょくのものなんですか?」
「………………」
「にいさま?」
「……100の力を消すには同じ100の力がいる。それを更に上回るとなると…………」
「うわまわるとなると……?」
「……ゴメン。とにかく強いレベルのものが要求されると思って?」
────あ~……
額に手を当て、盛大な溜息をつきながら項垂れた兄さまを見れば察しもつくというもの。
────こりゃ相当ハイレベルな威力の『式』を要求されてるな……
強い水属性を打ち消すには、同じくらいに強い火属性が必要なわけであって。
そこから更に上書きという形で火属性になるには、水属性以上に強く完全な力で水属性を飲み込んでしまわなければいけない。
つまりは……なんだ。
仮にロイアス兄さまの水属性の魔力を最上級のものとしよう。
それくらいの力は余裕であるだろうし、実際はもっと上かもしれないけどあくまでもここでは『仮』だ。
『最上級(仮)』ね、コレ大事!
……で。
この最上級の水属性を打ち消すのに必要な最低限が、同レベルの最上級の火属性なわけでしょ?
それを更に上書きするとなると、最上級以上の威力レベルが要求されるって仕組み。
や、この場合は同等レベルの最上級は含んじゃいけないから、最上級を超える特級以上でなければいけない。
要するに、水属性(最上級)<火属性(特級以上)という力関係にならなければ、兄さまが火属性魔法を使うための『前提条件』が成立しないわけだ。
でもさ、普通に考えてもみてよ。
水属性に特化した兄さまが、それよりも強い火属性を使うなんて無謀すぎると思わない?
なのに、だよ?
これを一度ならず何度も成功させたことがあるっていうんだから、兄さまは今までに一体どんだけ無茶なことをしてきたんだ、って話だ。
たぶん兄さまは、私がそんな風に思っていることをなんとな~く気付いてるはず。
あれだけ私に『危険だから』『無理だから』と言っておきながら、その実自分も同じことしてるって今更ながらに自覚したようだし?
あんな風に『察してくれ……』と言わんばかりの遠回しな言い方をしたのも、そのことを考えていたからかもしれないな。
明らかに『危険レベル』だと思われる言葉を聞いた瞬間に、私が『がおー』と吠えんばかりに噛みついてくることでも想像したんだろう。
さっきそうしたみたいにね。
まぁ、一度ならず二度でも三度でも四度でも私はやりますけどね。
いくらでも吠えて噛みついて食ってかかってやろうではありませんか。
それだけ兄さまがやってたことは危険だってことだ。
私が頭の中で弾き出した考えで十分すぎるほどにその無謀さは現れている。
有り得ないの言葉をあと何十回、何百回と口にすればいいのか。
そのくらい、私の中では有り得ないことなんだけど。
っていうかさ。
どう考えてもこれ、兄さまに魔法を教えていた先生の方に問題があるぞ。
つか、寧ろ問題だらけだろ。
大体さ、水属性の魔力持ちの生徒に、相反属性である火属性魔法を教えることって有り得るの?
普通に考えたら、そんなことしないよね?
それこそ兄さまが言ってたように、複数属性を使えるっていうルーファス相手にそうするっていうならまだ話は分かるよ?
まぁ、ルーファスが今の時点で使える属性がどれとどれとどれなのかは全然分かんないけどさ。
とにかく、最初から複数の属性の魔法が使えるっていう前提条件がなければ、相反属性の魔法を教えるっていうのはとっても危険だと思うわけ。
……なのに、だ。
水属性しか持たないロイアス兄さまに、相反属性である火属性の特級以上のレベルを当たり前のように要求して、尚且つそれをさせ続けるとはけしからん。
全く以てけしからん。
兄さまの身体をなんだと思ってるんだ。
いくら優秀な使い手とはいえ、兄さまはまだ子どもだぞ。
ぶすくれて思いっきり頬を膨らませた私を見たことで、私の内から滲み出る怒りを兄さまも感じたのだろう。
何とも言えない複雑な表情で、でも困ったように、私を宥めようと頭を撫でてくれた。
本来だったら、単純な私はここでコロッと機嫌を直すところだけどそうはいくかい!
私は怒っているんだ!
己の教え子たる兄さまに危険なことをやらせ続けた魔法の教師相手にな!!
これは断固抗議せねばなるまい。
お父さまからもお母さまからも、超特大な雷を落とされる覚悟で、兄さまの魔法の勉強についての危険性を訴えねば。
そのためには、私がこうして魔法に関わったことを全部暴露する必要がある。
兄さまと私だけの秘密だから、誰にも内緒だなんて言ってる場合じゃない。
黙っていれば、それだけ兄さまが危険なんだ。
「……おおきなちから、っていうのはわかりました。それで、その『まほうしき』をどうするんですか」
ぶすくれながらも、説明の続きを兄さまに求めます。
兄さまが私の表情を酷く気にしているのは分かりますが、私の顔のことは気にしなくていいのです。
どっか隅っこの方にでも除けといてもらっていいのです。
「求める属性、それから求める級の『魔法式』を描くんだ」
「どこに?」
「慣れていれば頭の中。そうでない場合は直接地面や空中に描くことになる」
「……さっきわたしがいったこと、ぜんぶあたってたんですね」
「そうだね。ただ、頭の中で描く場合と違って、地面や空中に『式』を描く場合は、それだけ魔力の消費が多くなるんだ」
「『まほうしき』をかくのにもまりょくがいるから、ですか?」
「そうだよ。頭の中に描く場合はイメージで済むから魔力は必要ない。逆に、地面や空中に描く場合は魔力を使って『式』を実体化させる。余計に魔力を消費するという欠点があるけど、実体化して直接目に見える分、失敗しにくくなるという利点もある」
「ほぇ~……」
「『式』の構築は、この三つの中から自分に合ったやり方を選ぶんだ」
「……にいさまのやりかたはあたまのなかでイメージですよね?」
「うん」
「イメージするの、にがてっていってたのに」
「術式に関しては別だよ。元からあるものを覚えていくのは得意なんだ。それを思い浮かべることは造作でもないからね」
暗記に強いタイプか、兄さまは。
っていうか、映像よりも活字ってとこ?
絵には弱いけど、文字には強いって感じなのかな。
まぁいいや。
続きを聞こう。
「えっと、それで『まほうしき』をかいたあとはどうするんですか?」
「『式』を描くことで、練り上げた魔力が、描いた『式』の属性へと変換される。その変換された魔力を固定するために仕上げとなる『法術陣』を描く。これが……四つめの手順だ」
「……しょあくのこんげん」
「レーン……」
半分呆れたような苦笑顔で言われても、諸悪の根源なのは事実だ。
どれだけのレベルを要求されたか分からないけど、三つめの手順の『魔法式』の構築よりも、この『法術陣』が兄さまを苦しめたんだから。
「レーンも見た通り、魔力を固定させるための法術陣は空中に描く必要がある。それも、魔力を覆う範囲でね。法術陣が僕の魔力を囲い込んでいたのはそのためだよ」
「やっぱり、おさえつけるためのものなんですよね」
「うん」
「むりやり、なんですよね」
「……うん」
「やっぱり、かわいそうだ……」
「……そうだね。すごく、反省してる。あんなに苦しめていたなんて」
ぎゅっと固く握り締めた拳が震えていた。
まるで兄さまが、全身で『後悔している』と訴えてるみたい。
「きっと、僕の魔力は暴走していたんだろうね。法術陣という檻の中で、必死に……」
もし。
もしあの時、私が兄さまを止めずにいたらどうなってたんだろう。
火属性の魔法は成功していたんだろうか。
それとも失敗していたんだろうか。
どっちにしても、兄さまが苦しむことは変わらない。
兄さまの魔力が、怯えて泣いたことも変わらない。
だから。
あれでよかったんだ。
「にいさま」
「ん?」
「いつつめのてじゅんはなんですか?」
「ああ、あの後の手順か。それはもうないよ」
「ない?」
「魔力が法術陣で固定されることで属性魔法が完成し、放たれるからね。手順は全部で四つだ。魔力の発動、魔力の練成、術式の構築、法術陣の生成で終わり」
「わかりました」
流れは分かった。
一つ一つ説明を聞いて分かったことは、後の方の手順になるほど面倒くさいし、属性次第では危険だってことだ。
「それじゃあ、にいさま。さいごにひとつだけおしえてください」
「ん?」
「みずぞくせいまほうの『まほうしき』をおしえてください」
「待って、レーン」
「はい?」
「もう、やめてくれるんじゃなかったのか……」
「やめるなんていってないですよ」
「レーン」
「だって、たしかめたいんです」
「確かめる? 一体何を?」
「このこたちを、すぐにたすけられるかどうか」
「!!」
そう。
兄さまと向き合っている間中、ずっと私は魔力を発動させたままでいた。
だから今でもずっと視えているんだ。
空気中を舞う様々な成分の粒子たちが。
それから発動させて練り上げた魔力もずっとそのままの状態だ。
練り上げた私の無属性の魔力に集まってくる、属性を見失った中途半端な魔力の欠片や残骸たちが一つ、また一つと在るべき姿を取り戻していく様子も、今尚ハッキリと視えている。
もちろん兄さまも魔力を発動させたままでいるから、壊れた自分の魔力がどんな状態にあるのかを、ちゃんと自分の目で視て確かめている。
私が言う『この子たち』とは、もちろん魔力。
壊れてしまった、兄さまの魔力だ。
中途半端なままじゃ、魔力たちは兄さまのところへ還れない。
ずっと中途半端なまま、ふらふらと空気中を彷徨い続けることになってしまう。
それだけはダメだ。
還るべき場所があるならば、ちゃんとそこへ還るべきだ。
いつまでもずっと、迷子のままでい続ける必要なんて……ない。
「やくそくします。あぶないことはぜったいにしません。わたしはただ……このこたちをたすけたい。にいさまのもとへかえしてあげたい」
「レーン……」
「いちばんよわくていいんです。このこたちが、じぶんをとりもどすのにじゅうぶんな、みずのぞくせいにそまるなら、それでいいんです。だから、おねがいします、にいさま。わたしに、みずぞくせいまほうの『まほうしき』をおしえてください」
魔力発動による影響で、強く光り輝く目をまっすぐと兄さまへと向ける。
決して興味本位で言っているのではないと、真剣なのだと分かってもらうために、逸らすことなく兄さまの目を見つめ続けた。
「……最下級級の、水属性魔法の『魔法式』でいいんだね」
「! にいさま!」
「……だけど、その後はどうするつもり? さすがに法術陣までは教えることはできないよ。見て覚えようにも、あれは長すぎる上に複雑な組み方をされているから」
「ほうじゅつじんは、いりません」
「えっ?」
「……だって。なにもないからにげないですもん。ほうじゅつじんでおさえなくても、わたしのなにもないまりょくはにげませんし、みずぞくせいにそまったまりょくもおとなしくしてくれるとおもうんです」
そこに留まる魔力の属性が一つだけなら、反発することなんてない。
だから、抑え込むための法術陣は必要ない。
きっと、大丈夫。
そんな思いを込めて兄さまを見つめ、もう一度『教えてほしい』と願うように、私は一つ頷いた。
「……分かった。だけど、無理はしないようにね」
「はい!」
無理?
そんなことはしないよ。
だって私、できるって信じてるから。
だからきっと大丈夫。
「手を出して。魔力を発動させてない方を」
「はい」
言われて差し出した手を兄さまに取られ、掌を上へと向けられる。
「今からレーンの掌に水属性魔法の魔法式を描くから覚えて」
「はい」
「短いからそう難しくはないと思うけど、大丈夫そう?」
「だいじょうぶです。おぼえます!」
自慢じゃないけど暗記は得意なんだ。
学生時代のテストなんて、一部の教科に限るけどほぼこれで乗り切ったからね。
教科書丸暗記は何度もやったし、歴史の年号や化学の元素記号とか化学式とかも全部暗記した。
まぁ……テスト終わってから一週間もしないうちに全部忘れたけどね。
その場限り戦法とも言う。
……って、今は前世でのテスト事情とかどうでもいいよ!
今覚えなきゃいけないのは水属性魔法の魔法式なんだから。
いつも以上に視える目で、兄さまが私の掌にゆっくりと描いていく『魔法式』をしっかりと見つめる。
てっきり私は、指でなぞるだけのものだと思っていたけど、兄さまは丁寧に魔力を使うことで、ちゃんと私の目に見えるようにそれを描いてくれた。
今まで見たことのない、変わった文字の組み合わせ。
四つほどの文字で繋がれた短い『式』が、兄さまの魔力と同じ色でふわりと掌の上に浮き上がる。
「すぐに消えてしまうから、一度で覚えるのは難しいかもしれない」
「だいじょうぶです、おぼえました」
ちょっと変わった文字だけど、四つ程度なら大丈夫。
しっかりと頭に叩き込んだよ。
これを、頭の中でも、地面でも、空中でも、好きなところに描けばいいんだね。
ゆっくりと、今覚えたばかりの文字列───魔法式を頭の中に描いていく。
そうすることで、発動させた魔力がゆっくりと水の属性に染まっていくのが目に見えて分かった。
兄さまと同じ、淡い水色の水属性の魔力。
無から水へ、すうっと淀みなくキレイに染まっていく。
それから……思った通りに魔力はおとなしい。
だけど、練り上げた魔力だからか、解放を求めて私の手から離れたがっているのは確かだ。
────だから、ちゃんと解き放ってあげるよ……
片手だけに集められた魔力を、両手で掬うようにしながら、私はゆっくりと兄さまの方へと向き直る。
そうしたことで、辺りを彷徨っていた壊れた魔力たちが一斉に集まってきた。
元は水属性だった魔力の欠片。
無属性の魔力に触れるよりも、本来の属性の魔力に触れる方が、きっと元通りに戻る時間は短くて済む。
そう思った私の考えは、間違ってなかった。
私の手の中で、今か今かと解放を待つ水属性に染まった私の魔力と、集まってきた兄さまの魔力が一つに合わさり、段々と大きな光となっていく。
その光は、とても温かくて優しい。
どこまでも穏やかで清らかな、水属性の姿を体現したような光だ。
ふっと両手の力を抜くことで、大きくなった魔力を解放する。
魔力たちが還るべきところは、兄さまだから。
「かえすね、にいさま」
「え……?」
「このこたちがかえるところはにいさまだから。だから、かえすね?」
私がそう言ったと同時に、私の手から離れた魔力が一気に兄さまの身体へと還っていった。
淡い水色の光が兄さまの身体の中へと溶け込んでいくのが分かる。
そうして。
全ての魔力が兄さまへと還ったのを見届けてから、私は魔力の発動を止めた。
最初から、こうするつもりだった。
無属性は全てに染まるんじゃないかという可能性に気付いてから、ずっと。
ヘンテコだけど、ちゃんと役に立てたじゃん。
『異質』でも『特殊』でも、できることはちゃんとあったよ。
それが分かっただけでも、すごいって、思ってもいいのかなぁ……
そんなことを思いながら軽く息をついたその時だった。
ぎゅっと強い力でロイアス兄さまに抱き締められたのは。
「……ありがとう、レーン」
「!」
「大事なことに気付かせてくれて。僕の魔力を助けてくれて、本当にありがとう」
「にいさま……」
繰り返される兄さまの『ありがとう』の言葉を耳にしながら、抱き締めてくれる腕が震えてるのには気付かないふりをした。
もしかしたら、兄さまは泣いているのかもしれない。
そんな自分を見られたくないのかもしれない。
そう思ったからこそ、私は何も見ないし、何にも気付かないふりをするよ。
だって。
そうじゃないと、私も泣きそうになるから。
兄さまのこと、魔力も含めて助けてあげられて嬉しいって。
『ありがとう』って兄さまから言われて嬉しいって。
一緒に泣いてしまいそうだから。
だから。
今だけは、ちょっと無理して泣き虫フローレンを封印するのです。
どうせまたすぐに泣いちゃうだろうけど、今は兄さまのためにぐっと我慢しなければ。
抱き締めてくれる兄さまの背に手を伸ばし、私もぎゅっと兄さまを抱き締め返す。
身長差もあるし、幼女の小さな身体の短い手では限界があるけど。
兄さまが落ち着くまではずっとこうしてあげたいと思った。
例えそれが、ただの自己満足だったとしても……─────




