属性相反による弊害―『無』属性の強み
~属性相反による弊害―『無』属性の強み~
────さあ、兄さま
────その法術陣とやらの詳しい説明を求む!!
今の私の気持ちとしては大体そんな感じ。
気合を込めて兄さまをじっと見つめる私の目は、まさしく捕食者のそれと変わりない状態だろう。
決してギラギラと光らせているわけではないけれど、『逃さない』という気持ちで見つめているから、たぶんそれに近いものであると思うんだ。
ギロギロ?
ジロジロ?
う~ん……なんか違うな。
こういう時どういう表現をするのかイマイチよく分かんないけど、とりあえず『絶対に逃がさん!』という気持ちがこれでもかってくらいに目に込められているとでも思ってほしい。
「にいさま!」
『先手必勝!』とばかりに、キッと兄さまの目を射抜くように見る。
そんな私の勢いに押されたのか、一瞬だけ兄さまが驚いたような顔を見せた。
まぁ幼女とはいえ、結構キツい顔立ちしてるもんな、フローレンは。
思いっきり睨まれたと思われてもしょうがないか。
……うん、しょうがないな、こればっかりは。
生まれてくる時に顔を選べるわけじゃないからな。
「ほうじゅつじんとかいうの、くわしくおしえてください!」
「えっ? 法術陣を?」
「そうです! あれはあやしいです! にいさまのまりょくのまわりをぐるぐるまわってかこいこんで、おまけにぶきみにひかってました! ぜったいにあやしいし、おかしいです!」
「怪しいって言われても……あれが自分の持つ属性外の属性魔法を発動させるための正規手段なんだけど……」
「あやしいったらあやしいんですッ!!!」
「………………」
今にも『がおー!』と吠えんばかりに噛みつく私を見て兄さまがたじろいだのが分かりました。
それだけ私の押しが強かったということでしょう。
今は兄さまを黙らせることができただけでも上等です。
あんなものを魔法発動のための正規手段だと言い切った限り、兄さまが自分の魔力の性質の変化に全く気付いていないだろうこと(あくまでも私の推測です)が今の遣り取りでハッキリしました。
確かに兄さまが言うように『正規手段』と呼ぶからには、それが世間一般に知れ渡っている魔法としての正しい使い方なのでしょう。
でも兄さまは忘れています。
『一般』があれば『例外』があるということも。
私の魔力が『異質』で『特殊』だと言った兄さま自身もまた、こと『属性魔法を行使する』ことに関しては『異質』で『特殊』な部類に当てはまるということを、可能性として考えていないのです。
「にいさまは、どうしてぞくせいまほうをつかうのにほうじゅつじんをつかうんですか」
「どうして、って……」
「そもそも、ぞくせいまほうをつかうってどういうてじゅんなんですか! ふういんまじゅつとやりかたがすこしちがったとしても、あんなふうにまりょくがいたくかんじるっておかしいですよね! ふういんまじゅつではああはならないですよね!」
「……レーン?」
────……あ、めっちゃ訝しげな顔で見られてる
────さすがに怪しまれたか……?
幼女の舌っ足らずな口調ではあるけど、普段通りの丁寧さを心掛けたそれとはあまりにもかけ離れた私の物言いは、前世の私が強く押し出されている感が否めない。
だけど……いくら怪しまれようが今はこれでいい。
この勢いのまま強く押し切って、黙らせる間を与えずに、属性魔法発動の手順から法術陣に関することまで、何から何まで全部兄さまに吐かせてやる。
「にいさま、いってることおかしいですよ」
「おかしい? それはどういう意味かな?」
「そのままのいみです。にいさまはたったいま、ほうじゅつじんをつかうのは、せいきしゅだんだといいました」
「そうだよ。そのやり方が一般的に使われる方法だからね」
「じゃあそれはふつうってことですか」
「そうだよ。一般的に使われる方法だから、それが普通のやり方になる」
ほら、おかしい。
言ってることが矛盾してるよ、兄さま。
正規手段が普通だと言ったのはたった今。
だけどね、兄さま。
それよりももう少し前、兄さまは私になんて言ってた?
────『普通に火属性魔法を使えるだけの力はない』って、確かに言ってたよね?
普通に使えないなら、正規手段を用いたところでそれはムダなんじゃないの?
「せいきしゅだんでつかうのがふつうなら、にいさまはひのまほうはつかえませんよね?」
「レーン、何を言って……」
「だってにいさまいったじゃないですか。ふつうにひぞくせいまほうをつかえるだけのちからはじぶんにはないって」
「!!」
兄さまの目をじっと見つめながらそう言い切ると、漸く私の言おうとしていたことに気が付いたのか、兄さまの顔が驚愕の色に染まりました。
「ふつうにつかえないのに、ふつうのやりかたをもちいてもつかえないですよね?」
「…………確かに、理屈で言うならその通りだね」
「なのににいさまはそれをやろうとした。それは、いままでそのやりかたでいちどでもせいこうしたことがあったから?」
「そうだね。レーンの言う通り、そのやり方で成功させたことは何度もあるよ」
普通のやり方を用いて、成功させたと兄さまは言うけれど。
成功させた時点でそれはもう普通じゃない。
私が真っ先に思ったのは、普通に成功させたんじゃなく、法術陣を使うことで、無理やり成功させるように魔力の性質を捻じ曲げた、だ。
────だけど……
決定打がない。
あの法術陣が怪しいのは確かだけど、属性魔法を行使するにあたって『アレ』がどういう役目を果たしているのかがまだ不明だ。
そいつの働き次第によって、私の考えは肯定されるし、否定もされる。
「にいさま。もういっかいやってみせてください」
「え……?」
「どうやってぞくせいまほうをつかうのか、ひとつひとつ、てじゅんをみせてください」
「けどね、レーン。さっきレーンが感じたように、また僕の魔力でレーンが痛みを感じてしまうようなら、それはやるべきじゃない。今はまだ大丈夫でも、それを繰り返すことで危険が及ぶかもしれないし、何よりも……」
「にいさまだってきけんですよ!!!」
「レーン……!」
やっぱり言ったな。
言うとは思ってたけど。
ほぼ90%の確率で言うって想像はついてたけど。
それを自分自身の身に置き換えて考えることをしないなんて、一体兄さまはどこまで自分に対して無頓着なんだ。
────……もう~~~、あったま来た!
私だけが危険なんじゃないってこと、兄さまも自分自身の身を以て思い知ればいいんだ。
「にいさまがやってみせてくれないなら、わたしがやる。だから、そのてじゅんをおしえてください」
「待って、レーン!」
「まほうは、イメージとセンスだってにいさまいいましたよね? だったら、イメージだけでもじゅうぶんやれます、わたし! なにをどうそうぞうしながらまりょくをだせばいいんですか、にいさま!」
もうね、軽くプッツンしてた。
ほとんど喧嘩腰。
大好きな兄さま相手にひどい言い草だと思うし、ある意味これは封印させるつもりでいた癇癪だとも言えるかもしれない。
だけど、兄さまが大好きだからこそこうしたとも言える。
「無理だよ。レーンにはできない」
「やってみなくちゃわかんないじゃないですか! ふういんまじゅつだってつかえたんだから!!」
魔法に関しては何の知識も持たないズブの素人で、しかも初心者。
そんな私が、一度見せてもらって説明を受けただけのぶっつけ本番で成功させたんだから、今回のだって説明してもらえたらできるかもしれないじゃん。
それに、発動までは至ってないけど、その直前までの流れはしっかり見てたんだし。
「属性魔法と封印魔術は手順が全く違う! 属性魔法は封印魔術のように、イメージが先行して発動させるタイプの魔法じゃないんだ!」
「じゃあ、イメージじゃなくてまりょくがさきなんですね」
「レーン!」
兄さまが私を止めようといろいろ言ってくるのを敢えて無視した行動に移る。
取り返しのつかないところまで行ってしまえば兄さまも観念するだろうという、かなり汚い手段であることは十分理解してる。
でも。
こうでもしないと兄さまはきっと分かってくれない。
意識を集中させて、体内を巡る魔力を両の掌へと流し込むように集めていく。
今日初めて触れたばかりの魔力だけど、あれだけ『練習だ』『応用だ』と繰り返し使い続けていたんだ、さすがにもう慣れた。
少し意識を傾けるだけで、魔力は思う通りに私の掌に流れて集まってきてくれた。
相変わらず何にも染まっていない、透明度の高い白色の『素の魔力』だけど、無属性の魔力ということを理由に魔法が使えないとは限らない。
逆に私は、この無属性の魔力の方が属性魔法を使いやすいのではないかと考えている。
少なくとも、完全な水属性に染まった兄さまの魔力より使い勝手がいいかもしれない、とも。
それは兄さまが火属性魔法を使おうとしていた一連の流れを見て気付いたことだ。
その一連の流れのうち、魔力の色が変化していった様子を見たことである種の確信を得たと言ってもいい。
水の属性を持つ淡い水色の兄さまの魔力が、火や炎を思わせる赤とオレンジが入り交じったような色にじわじわと変化していく様を私はずっと見ていた。
それは一気にその色へと染め上げていくものとは違い、元あった色を潰すようにジリジリと追いつめ、押しやり、そこから更に喰らい尽くすように侵食していく……そんな変化のしかただった。
半ば無理やりに近い形だったためか、魔力は決して新しい色にキレイには染まりきらず、ところどころで逃げ惑うように見え隠れしていた淡い水色があった。
それから、半々に混じり合ったと思われる、紫になりかけた色や、赤とオレンジに若干負けて土色になりかけた何とも言えない奇妙な色も、淡い水色の上にぶちまけた歪な斑点のように散らばっていた。
それを見たことで思い当たったのが、色と色の関係性だ。
例えば、青い布に赤い染料をぶちまけて、青色を赤く染めようとしたところで染まった色は純粋な赤には決してならない。
それじゃあ青い布ではなく、白い布にぶちまけたとしたらどうだろう?
白い布に赤い染料をぶちまけて染めた色は、他の何の色も混じっていない純粋な赤になる。
兄さまの水属性の魔力が火属性に染まりきれなかったのは、その関係性と似たものがあるからだろうと、私はアタリをつけた。
その理屈でいくなら、何の属性も持たない私の魔力は何にだって染まるはずだ。
白という色が、他のどんな色にも染まるように。
つまりは、無属性とは邪魔するもの───不純物がない、ということになる。
例えどの属性であったとしても、それらの性質も色も全て含めてするりと受け入れてしまえるだけの状態にあると言っても過言ではないと思う。
邪魔するものがないから、キレイに相手の全てに染まる。
火にも、水にも。
もっと言うなら、いいものだけでなく、悪いものにだってきっとキレイに染まる。
「まりょく……だしましたよ、にいさま……」
魔力を掌に発動させたことで、視界がかなりクリアになった今、空気中に漂う様々な成分の粒子の一つ一つがくっきりと目に入る。
そこには先ほどの名残とも言うか、消えきれなかった魔力の残骸のようなものも含まれている。
兄さまの水属性に完全に染まりきれなかった、出来損ないの、火属性とも呼べない不完全な魔力もどき。
細かい粒子状に散ってはいるけれど、その色は確かに、淡い水色を喰らい尽くそうとして失敗した中途半端な色合いのそれだ。
「こうして、まりょくをだして、これをねりあげる、でしたっけ……?」
魔力発動の影響を受けて強く光る目をまっすぐと兄さまに向ける。
そのまま射抜くように顔を見上げると、兄さまは私の視線から僅かに逃げるように目を伏せた状態で緩く首を振った。
「もういい。やめるんだ、レーン……」
「よくないです。わたし、やめませんよ? きけんだっていうりゆうはききあきました」
「違う、そうじゃない」
「じゃあ、やめろというりゆうはなんですか」
自身の魔力を練り上げるところまではもう成功した。
見様見真似でやったけど、意外とうまくできたもんだと自分でも思う。
イメージとセンスに左右されるという封印魔術の基礎を大元にして『魔力を練り上げる』という工程を、なんとなく『こんな感じだろうか?』と想像しながらやったのが功を奏したのかもしれない。
たぶん……この『イメージする』という一手段は、封印魔術以外の魔法にも応用が利きそうな気がする。
現に今、応用してやったことが成功に繋がったわけだし。
「……この後の手順である術式の構築に関する知識がレーンにはないから、これ以上続けるのは無理なんだ」
「じゅつしきのこうちくとはどうすればいいんですか」
「レーン!?」
「なにをどういうふうにかくの? きごう? え? それとももじ? それをくうに? じめんに? あたまのなかに? まほうをはつどうさせるためのなにかを、どこかにえがくんですよね? それでしょ、じゅつしきのこうちくっていうのは?」
「レーン、一体何を考えて……?」
「それで、にいさまがほうじゅつじんとよんでいたあやしげなあれは、さいごのしあげにかくものですよね? へんかさせたまりょくのしつをこていするための、いっしゅのふういんみたいなものですよね? あれでじぶんのぞくせいじゃないまりょくをにがさないようにしてたんですよね?」
「レーン……な、んで……そこまで……」
『分かったんだ?』という言葉が続くことは簡単に予想できた。
『なんで?』と言われても、分かったものは分かっちゃったんだ。
や……、この場合は分かったんじゃなくて、なんとなくそう思った、というか、そう感じただけ。
これも勘だ。
今までのことを見てきて、『あれがこうなったら、こんな風になるんじゃないだろうか?』的な、仮定に仮定を繋げて導いた一種の可能性というやつにすぎない。
だけど、自分でも魔力を発動させてそれを練り上げていくうちに気付いてしまった。
可能性が、可能性ではないかもしれないということに。
事実かもしれないということに。
魔力を発動させたままの状態でいると、なぜか普段見る以上にものが視える。
当たり前のように見えるもの、逆に目には見えないもの、その全てを引っ括めたありとあらゆるものが『魔力発動』を条件に視えるようになる。
だから気付けた。
練り上げた自分の魔力が『解放』を求めて今にも掌から『離れていきたそうにしている』その気配に。
属性を持たない魔力だから、まだおとなしい方だとは思う。
だけど、兄さまの魔力で考えてみた場合はどうだろう?
火属性魔法を行使するためには、まず魔力を水属性とは相反する火の属性へと染めなければならない。
その時点で水属性が火属性を拒絶、軽く暴走した可能性もある。
火や炎の色に染まるのを嫌がるように逃げ惑う淡い水色を目にしていたから。
魔力が完全な火の属性に染まらなければ、火属性魔法は行使できない。
もっと言うなら、少しでも火属性が水属性に負けてしまえばこれまた失敗。
だから、そうさせないための措置が必要になる。
片方の属性を抑え込み、もう片方の属性を増幅させつつ固定するためのあるものが。
そのあるものが、法術陣。
水属性の魔力を抑え込み、それを火属性の魔力に染め上げつつ増幅させ、水属性に負けないようにその場に留めつつ更なる強化を図るための、一種の増幅装置兼ストッパー。
それが、私が導き出した『法術陣の役割』だ。
当たっているか。
間違っているのか。
その答えは兄さまに訊かなければ分からない。
だけど、当たっているという確信が少なからず私にはあった。
それは……痛み。
兄さまの魔力発動の一連の流れを見ている中でずっと感じていた、あの肌を刺すような痛みだ。
あの最中で、きっと兄さまの魔力は暴れていた。
火に染まりたくない水と、水に掻き消されないように必死だった火。
法術陣という文字列が編み上げた強靭な檻の中に閉じ込められ、互いが互いに打ち消されてしまわないように自属性を守ろうとしていただけ。
そしてきっと、逃れられるものなら逃げたかった。
僅かな隙間から。
編み上げられた文字列の微かな綻びから。
ほんの少しの抜け道があるのなら、そこから逃げ出すことで自属性を守れるのだと信じて、法術陣という名の檻の中で暴れていたんだ。
まるで、囚われの憐れな小動物みたいだ。
怯えてたんだね……
閉じ込められた檻の中で、自分がいつ消えてしまうか分からない恐怖と戦っていたんだね……
普段は目に見えない存在だけど。
意識して発動させないと確認できない存在だけど。
皆ちゃんと、自属性という意志を持って生きているんだね……
「……にいさま、きづいてましたか?」
「えっ?」
「にいさまのまりょくがおびえていたこと、きづいてましたか?」
「僕の魔力が、怯えていた……?」
私の言葉に驚いた顔で問い返したという時点で答えは聞いたも同じ。
「こわかった、って……ないてます」
そう、今も。
完全には消えきれなかった魔力の残骸のようなものが、不安定にふらふらと揺れて震えながら、私の掌から溢れ出す魔力に寄り添おうとしている。
その姿はまるで、行き先を見失って震えながら泣く迷子。
やっとのことで『大丈夫』だと思われる場所を見つけて、ホッとして。
心から安心できるものに必死に取り縋ろうとする、とても小さくて、とても弱い生きものそのものだ。
火の属性になり損ねた魔力の残骸が。
水の属性を失いかけた魔力の欠片が。
私の『無』属性の魔力に触れることで在るべき色へと染まり。
徐々に本来の属性の姿を取り戻していく。
「むりやりは、ダメです、にいさま」
『無』属性に触れて『火』を得た魔力が、更に細かい粒子となって空気中に溶けていくのが視える。
『無』属性に触れて『水』を取り戻した魔力が、ゆっくりと兄さまの方へ戻ろうと動き出すのが視える。
「めにみえなくても。こえがきこえなくても。このこたちはいきています。むりやりおさえつけるのはダメです」
だから、法術陣なんてものはいらないのだと。
それを用いなければ使えない魔法なんて使わなければいいのだと。
それを兄さまに知ってほしくて、私はこう続けた。
「にいさまにもみえますよね? このこたちがなにをもとめてうごいているのか、ちゃんとみえてますよね?」
そう問いかけると、兄さまは目を伏せながらゆっくりと頷く。
顔を上げると同時に開かれた目には、強く輝く琥珀色の光が宿っていた。
「……視えているよ、ちゃんと。それでも。あの手段が、僕が水属性魔法以外の属性魔法を使うための正しい手順だと信じて。……見て、見ぬふりをしていたんだ……」
そう言った兄さまの顔には、今にも泣き出してしまうんじゃないかと思えるほどに苦しそうな表情が浮かんでいた。
『見て見ぬふりをしてきた』と兄さまは言った。
それは自分の魔力があんな風に傷ついてきたことだけじゃなく、そうしてきたことで傷ついてきた兄さま自身の心のことも含まれているんだと私は思った。
「……ゴメン」
ぽつりと零れたその一言が重く心に突き刺さる。
「ゴメン……」
二度目の言葉が零れたのと同時に、兄さまのすぐ側を漂っていた水属性の魔力がゆっくりと兄さまの中へと還っていくのが視えた。
それはまるで、『ゴメンね』の言葉を受け取った兄さまの魔力が『もういいよ』と赦してくれているようにも見えて。
なぜか胸の奥の方がギュッと掴まれるように苦しくなった。
「にいさま、こんどこそおしえてください。ほうじゅつじんのこと、わかってることぜんぶ」
「……分かった、話すよ。もうこれ以上、見て見ぬふりを続けるのは限界だから……」
うん。
分かってるよ、兄さま。
だって、泣きそうなほどに苦しい顔してるもん。
見て見ぬふりをして苦しかったのは、ずっと気にしてた証拠だと思うよ。
本当に平気だったら見て見ぬふりをしたところで何とも思わなかったはずだし、自分の魔力がどうなろうときっとどうでもよかったはずだから。
「だいじょうぶです、にいさま。いまここにいるこのこたちは、わたしのまりょくでたすけてあげられます」
私の無属性の魔力に触れれば、ここにいる魔力たちは助かる。
無に染まることで本来の属性を取り戻し、在るべき場所に還ることができる。
「だから、にいさま。こんご、いまのこのこたちみたいなめにあうこがふえてしまわないように、ぜんぶ……ぜんぶ、はなしてください」
無属性の魔力を纏った手を兄さまへと伸ばし、懇願するようにそう告げると、兄さまは私の手を取り、それからゆっくりと頷いてくれた。
相変わらず、泣きそうなほどに苦しい顔だ。
それでも泣かないのは、兄としての自分を必死に保とうとしているからだろうか。
そんな兄さまを心配するように、魔力の欠片たちが一つ、また一つと私たちの手の周りに集まってくる。
────魔力たちも皆、兄さまを心配してるんだな……
そう思ったと同時に、また胸の奥がギュッと苦しくなった。
今苦しいのは兄さまのはずなのに。
まるで自分でもその痛みや苦しみを感じているようで、なぜだか、私の方が先に泣き出してしまいそうになった……─────




